ウルリヒ・ベックの『危険社会』の紹介を続けようと思ったのだが、見過ごしえない問題が発生した。東日本大震災において発生したがれきを、他地域に運び処理しようとするがれきの広域処理が、多くの自治体の難色を押し切って野田首相が受け入れることを要請するようになったのだ。
この問題は、もちろん、震災当初からあった問題である。ある意味では、人道上受け入れるべきと考えられるのかもしれない。しかし、この問題の本質はそこにはない。放射性物質を無用に拡散させるということなのである。
まず、2012年3月11日、野田首相が述べたがれき処理についての方針をみてみよう。朝日新聞朝刊(3月12日付け)で確認してみよう。
がれきの広域処理 法に基づき要請へ
野田佳彦首相は11日、首相官邸で記者会見し、被災がれきの広域処理を進めるため、法律を根拠に自治体に受け入れを求める考えを明らかにした。基準や処理方法も政権が明確に示す。13日に関係閣僚による会議を立ち上げ、処理を加速させる方針だ。
▼4面=発言要旨
被災がれきの広域処理は各地で強い反発を受け、3月11日までに全体の6%程度しか進んでいない。野田首相は「国が一歩も二歩も前に出ないといけない」と強調。「がれきの種類、量を明示した上で、協力をお願いする」と述べた。
被災地以外の都道府県には、災害廃棄物処理特別措置法に基づき文書で正式に協力を要請。基準や処理方法もこの法律を根拠に定める。すでに表明している財政支援と併せ、自治体の理解を求める考えだ。
がれき処理後の焼却灰の埋め立て可能な基準は、1キロ当たり8千ベクレル以下とすることも政権が近く告示。セメントや製紙業界など民間企業に協力を求めることも表明した。
「法律に基づいた要請」、「財政支援」という硬軟とりまぜて、被災がれきを受け入れさせようということだが…問題は、8000ベクレル以下の焼却灰は通常通り埋め立てさせる、さらに、そのリサイクルも考えるということなのだ。
そして、3月13日には、このようなことが関係閣僚会議で議論された模様である。
東日本大震災で発生したがれき処理を進めるため、野田政権は13日、第1回の関係閣僚会合を開いた。野田佳彦首相は「今までの発想を超えて大胆に活用してほしい」と要請。関東大震災のがれきで横浜市に山下公園を整備したエピソードを引き、将来の津波から住民を守る防潮林の盛り土や避難のための高台の整備、道路などの材料として、被災地のがれきを再利用していく考えを示した。
細野豪志環境相は会合後、「鎮魂の気持ちとともにがれきを処理していく」と述べ、まず防潮林としてがれきを利用する準備に取りかかる方針を示した。環境省は、復興のシンボルとして三陸地方の自然公園を再編する「三陸復興国立公園」(仮称)の整備にも活用する方針だ。
このほか、セメントや製紙業など、焼却設備を持つ民間企業にも協力を求める方針を確認。経済産業省はこの日、関係する業界団体に要請文書を送った。同省によると、汚泥をセメントの原料にしたり、木くずなどを製紙業のボイラー燃料にしたりして、2月20日現在、企業が約10万トンのがれきを処理したという。
(朝日新聞3月13日ネット配信)
http://www.asahi.com/politics/update/0313/TKY201203130197.html
どうやら、ただ埋め立てるだけではないのである。被災がれきやその焼却灰は、公園や避難所さらに防災林などの整備や、さらにセメントなどにも混ぜられ、「有効利用」されることが話し合われた模様である。
さらに、本日(3月16日)、野田首相は、実際に文書によって「要請」を行った。
東日本大震災で発生したがれきの広域処理を拡大するため、政府は、東北の被災3県とすでにがれきを受け入れている東京都などを除いた45の県や政令指定都市に、野田総理大臣の名前で受け入れを正式に要請する文書を一斉に送付しました。
被災地のがれきの広域処理を巡っては、15日に静岡県島田市が正式に受け入れを表明するなど、徐々に前向きに検討する自治体が増えてきていますが、こうした自治体からは国の積極的な関わりを求める声が相次いでいます。
これを受けて、政府は特別措置法に基づいて、東北の被災3県と、すでに受け入れを始めたり、受け入れを表明していたりする東京や山形、静岡、神奈川など9つの都府県を除く35の道府県と横浜市や大阪市などを除く10の政令指定都市に、がれきの受け入れを正式に要請する文書を一斉に送付しました。
文書は、野田総理大臣名で「災害廃棄物の処理は復旧復興の大前提であることから、現地では全力を挙げて処理を進めていますが、処理能力が大幅に不足しています」としたうえで「広域処理の緊要性を踏まえ、私としても積極的な協力を要請します」と記されています。
政府はすでに受け入れを表明している自治体には、処理を要請するがれきの具体的な量や種類を記した文書を来週以降に送り、具体的な協力を求めることにしています。
(3月16日NHKネット配信)
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20120316/t10013778441000.html
一方、受け入れを拒否している自治体側はどうみているのか。ここで、徳島県の例をみておこう。徳島県のホームページに以上のようなやりとりが掲載されている。
ご意見
登録・更新日:2012-03-15
60歳 男性
タイトル:放射線が怖い? いいえ本当に怖いのは無知から来る恐怖
東北がんばれ!!それってただ言葉だけだったのか?東北の瓦礫は今だ5%しか処理されていない。東京、山形県を除く日本全国の道府県そして市民が瓦礫搬入を拒んで
いるからだ。ただ放射能が怖いと言う無知から来る身勝手な言い分で、マスコミの垂れ流した風評を真に受けて、自分から勉強もせず大きな声で醜い感情を露わにして反対している人々よ、恥を知れ!!
徳島県の市民は、自分だけ良ければいいって言う人間ばっかりなのか。声を大にして正義を叫ぶ人間はいないのか? 情け無い君たち東京を見習え。
回答
【環境整備課からの回答】
貴重なご意見ありがとうございます。せっかくの機会でございますので、徳島県としての見解を述べさせていただきます。
このたびの東日本大震災では,想定をはるかに超える大津波により膨大な量の災害廃棄物が発生しており,被災自治体だけでは処理しきれない量と考えられます。
こうしたことから,徳島県や県内のいくつかの市町村は,協力できる部分は協力したいという思いで,国に対し協力する姿勢を表明しておりました。
しかしながら,現行の法体制で想定していなかった放射能を帯びた震災がれきも発生していることから,その処理について,国においては1kgあたり8000ベクレルまでは全国において埋立処分できるといたしました。
(なお,徳島県においては,放射能を帯びた震災がれきは,国の責任で,国において処理すべきであると政策提言しております。)
放射性物質については、封じ込め、拡散させないことが原則であり、その観点から、東日本大震災前は、IAEAの国際的な基準に基づき、放射性セシウム濃度が1kgあたり100ベクレルを超える場合は、特別な管理下に置かれ、低レベル放射性廃棄物処分場に封じ込めてきました。(クリアランス制度)
ところが、国においては、東日本大震災後、当初、福島県内限定の基準として出された8,000ベクレル(従来の基準の80倍)を、その十分な説明も根拠の明示もないまま、広域処理の基準にも転用いたしました。
(したがって、現在、原子力発電所の事業所内から出た廃棄物は、100ベクレルを超えれば、低レベル放射性廃棄物処分場で厳格に管理されているのに、事業所の外では、8000ベクレルまで、東京都をはじめとする東日本では埋立処分されております。)
ひとつ、お考えいただきたいのは、この8000ベクレルという水準は国際的には低レベル放射性廃棄物として、厳格に管理されているということです。
例えばフランスやドイツでは、低レベル放射性廃棄物処分場は、国内に1カ所だけであり、しかも鉱山の跡地など、放射性セシウム等が水に溶出して外部にでないように、地下水と接触しないように、注意深く保管されています。
また、群馬県伊勢崎市の処分場では1キロ当たり1800ベクレルという国の基準より、大幅に低い焼却灰を埋め立てていたにもかかわらず、大雨により放射性セシウムが水に溶け出し、排水基準を超えたという報道がございました。
徳島県としては、県民の安心・安全を何より重視しなければならないことから、一度、生活環境上に流出すれば、大きな影響のある放射性物質を含むがれきについて、十分な検討もなく受け入れることは難しいと考えております。
もちろん、放射能に汚染されていない廃棄物など、安全性が確認された廃棄物まで受け入れないということではありません。安全な瓦礫については協力したいという思いはございます。
ただ、瓦礫を処理する施設を県は保有していないため、受け入れについては、施設を有する各市町村及び県民の理解と同意が不可欠です。
われわれとしては国に対し、上記のような事柄に対する丁寧で明確な説明を求めているところであり、県民の理解が進めば、協力できる部分は協力していきたいと考えております。
(※3/13に公表しておりました回答文に、配慮に欠ける表現がありましたので、一部訂正して掲載いたします。)
http://www.pref.tokushima.jp/governor/opinion/form/652
徳島県のいっている「クリアランス基準」とは、それ以下ならば放射性廃棄物として扱わないという基準で、セシウム137なら、1キロあたり100ベクレルということにされている。それ以上ならば、本来放射性廃棄物として扱うべきであるとしたのである。
環境省は、次のようなマニュアルを出している。「災害廃棄物の広域処理の推進について(東日本大震災により生じた災害廃棄物の広域処理の推進に係るガイドライン)」(平 成 2 3 年 8 月 1 1 日付)http://www.env.go.jp/jishin/attach/memo20120111_shori.pdf
これにしたがってみておこう。まず、100ベクレルという基準は何か。このマニュアルでは、次のように説明している。
(1)再生利用におけるクリアランスレベルの考え方
再生利用については、原子力安全委員会の示す考え方を踏まえて整理された処理方針により、「市場に流通する前にクリアランスレベルの設定に用いた基準(0.01mSv/年)以下になるよう、放射性物質の濃度が適切に管理されていれば再生利用が可能」との考え方が示されている。さらに、「クリアランスレベルを超える場合であっても、被ばく線量を 0.01m Sv/年以下に低くするための対策を講じつつ、管理された状態で利用することは可能」との考え方が示されている。
この場合のクリアランスレベルの考え方については、原子力安全委員会の報告書5に基づき、次のように整理できる。
① クリアランスレベルを算出するための線量の目安値 0.01m Sv/年は、「自然界の放射線レベルに比較して十分小さく、また、人の健康に対するリスクが無視できる」線量として定められており、この目安値に相当する放射能濃度をクリアランスレベルとしている。
② クリアランスレベルは、「放射性物質として扱う必要がないもの」として定められるものであり、我が国では、原子炉施設等の解体等に伴って大量に発生する金属、コンクリート等について定められ、放射性セシウム濃度で 100Bq/kg とされている。
③ この数値は、IAEA 安全指針 RS-G-1.7(2004 年 8 月)6の規制免除レベルの数値を採用しており、IAEA 安全指針は、対象物を特に限定しない一般的なものとして設定されているので、これを金属、コンクリート等以外の木質等に適用しても差し支えないものと考えられる。
④ 国際的整合性などの立場から、我が国のクリアランスレベルは、IAEA安全指針の規制免除レベルを採用しているものの、原子力安全委員会における検討に当たっては、原子炉の解体に伴って生じる金属及びコンクリート等について、現実的に起こりうると想定される全ての評価経路(埋設処分、再利用)を考慮した上で、詳細な評価を行っており、その結果算定されたクリアランスレベルは、セシウム 134 で 500 Bq/kg、セシウム 137 で 800 Bq/kg である。
⑤ IAEA 安全指針の規制免除レベルは、それぞれの国が規制免除レベルを決める際の参考値として示されたものであり、この値の 10 倍を超えない範囲であれば、国によって、規制対象行為や線源の特徴に応じてランスレベルを別途定めることができるという性格のものであることから、我が国で実際に採用された 100 Bq/kg という値は相当程度保守的であり、安全側の値であると言える。
⑥ クリアランスレベルは、大量に発生するものを対象としており、上記の詳細な評価においても、少なくとも 10t 程度の物量ごとに平均化された放射能濃度として算出、評価されていることから、少量の部分的な濃度により評価すべきではないことに留意が必要である。
以上の考え方を踏まえ、以下の安全性の検討においては、木質等を含む災害廃 棄 物を 再 生 利 用 し た 製 品の放 射 性 セ シ ウ ム 濃 度 のクリアランスレベルを、100Bq/kg と考えるものとする。ただし、この値は一種の「目安」であり、この値を上回る場合でも桁が同じであれば、放射線防護上の安全性について必ずしも大きく異なることはないと考えられる。7
要するに、「クリアランスレベル」とは、焼却灰などを再生した場合の基準である。このマニュアルでは、セメントなどに焼却灰をまぜて使うことを推奨している。一部でかなり高い汚染度を示した場合でも、それ以外の材料をまぜて使えば、100ベクレル以下になるということになる。「クリアランス」というのは放射性廃棄物扱いをしないということであるから、低レベル放射性廃棄物があっても、特別な処理をせず、他の物にまぜて使えばゼロになるという考え方なのであろう。
では、8000ベクレルとは何か。これは、焼却灰や下水汚泥を含む廃棄物を通常の埋め立て処分する基準なのである。
※1 8,000Bq/kg の設定の考え方
検討会において、原子力安全委員会が6月3日に定めた「東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故の影響を受けた廃棄物の処理処分等に関する安全確保の当面の考え方」に示された次の目安を満足するよう適切な処理方法を検討した結果、埋立処分の際
の目安として示された焼却灰等の濃度。
① 処理に伴って周辺住民の受ける追加被ばく線量が1mSv/年を超えないようにする。
② 処理を行う作業者が受ける追加被ばく線量についても可能な限り1mSv/年を超えないことが望ましい。比較的高い放射能濃度の物を取り扱う工程では、「電離放射線障害防止規則」(昭和 47 年労働省令第 41 号)を遵守する等により、適切に作
業者の受ける放射線の量の管理を行う。
③ 処分施設の管理期間終了以後、周辺住民の受ける追加被ばく線量が 0.01mSv/年5 以下とする。
別添3に示すシナリオ計算等に基づき、安全評価を実施し、廃棄物処理の各工程における追加被ばく線量が 1mSv/年(公衆被ばくの線量限度と同値)となる放射能濃度と、最終処分場の管理期間終了後、一般公衆の追加被ばく線量が 0.01mSv/年(人の健康に対する影響が無視できる線量)となる放射能濃度を確認したところ、表Ⅰ-1に示すように、8,000Bq/kg 以下の廃棄物については、周辺住民、作業員のいずれにとってもこれらの追加被ばく線量を満足し、安全に処理することが可能であることが確認されている。
なお、IAEA のミッションにおいても「放射性セシウム 8,000Bq/kg 以下のものについて、追加的な措置なく管理型処分場で埋立てをすることについて、既存の国際的な方法論と完全に整合性がとれている」と評価されており9、国際的にみても適切な手法であると考えられる。
なお、8000ベクレルというのは、「脱水汚泥埋立処分」の作業者が受ける放射線量が1mSv/年ということから定められている。いずれにせよ、「埋立処分」なのであって、がれき自体の再利用ではない。
焼却灰や不燃物につき8000ベクレル以下であれば、放射性廃棄物の扱いをせずに埋立処分ができるとするものなのである。なお、8000ベクレル以上は、放射性物質として扱われ、国の管理下になるというのである。
まあ、いずれにせよ、放射性廃棄物を放射性廃棄物としてではなく処理しようということなのである。最終製品が100ベクレル以下であれば、焼却灰やがれき自体(コンクリート破片など)をセメントなどにまぜて使えということがある。さらに、そういうことができないものでも、8000ベクレル以下のものは、放射性物質の扱いをせず、埋め立て処分をするということになるのである。
それでは、がれき処理で実際にはどのようになるのだろうか。本マニュアルでいくつか例がのっている。岩手県陸前高田市で104ベクレルのものを焼却した際、飛灰で3456ベクレル検出されたそうである。また宮城県女川町の133ベクレルのがれきを処理した際、飛灰で2300ベクレル、スラグ(鉄屎)に141ベクレルの検出になったそうである。飛灰は、もちろん灰の一部でしかなく、全体量からみれば少ないのであるが、それでもセシウム137が濃縮されたことには違いない。しかし、このマニュアルでは、8000ベクレル以下だから無害だというのである。
環境省では、宮城県・岩手県の無害のがれきを広域処理するとしている。
広域処理をお願いする災害廃棄物は放射性セシウム濃度が不検出又は低く※、岩手県と宮城県の沿岸部の安全性が確認されたものに限ります。可燃物の場合は、対象とする災害廃棄物の放射性セシウム濃度の目安を焼却炉の型式に応じて240ベクレル/kg以下又は480ベクレル/kg以下のものとしています。http://kouikishori.env.go.jp/faq/#anch02
しかし、放射性物質による汚染は、岩手県や宮城県のがれきですら免れてはいないのである。133ベクレル程度のものでも部分的にはかなり高い濃度の焼却灰が生成される。そして、本来は低レベル放射性廃棄物として扱うべきもの(少なくとも焼却灰は)が、放射性廃棄物として扱われていない。しかも、あろうことか、「無害な材料」とまぜて使うことが推奨されている。それを公園などに使うということーこれは、放射性廃棄物が遍在していることを「否認」するということなのである。そして、無用に放射性物質を拡散することにつながるのである。
放射性廃棄物は、放射性廃棄物として取り扱うこと。その原則をまげてはならないと思う。これは、何も東北だけのことではない。関東地方も放射性物質で汚染され、放射性セシウムを含有したごみ焼却灰や下水汚泥は一般的にみられる。そして、福島県はどうなのだろうか。除染ででた廃棄物はどのように扱われているのだろうか。
なお、ここで出した環境省のマニュアルを一読することをおすすめしておく。
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