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Archive for 2014年2月

前回のブログでは、2月14〜15日の大雪で被災した住民・ドライバーたちの間で、生存を保障しあう共同性が成立していたことを述べた。幹線国道などで大雪で立ち往生した車両のドライバーたちに、住民や自治体は食料を差し入れたり、避難所を提供した。毎日新聞によると、次のような状況が現出されたという。

大雪:渋滞の国道、助け合い…軽井沢
毎日新聞 2014年02月16日 21時13分(最終更新 02月17日 12時08分)

 長野県軽井沢町の国道18号では、30時間以上立ち往生するドライバーに、沿道の市民が温かい食事や飲み物などを差し入れた。

 同町の喫茶店「鐵音(くろがね)茶房」店主、羽山賢次郎さん(70)は、妻静さん(66)と共に、冬季閉鎖中の店を開放。羽山さんによると、15日午前1時ごろから、店の前の国道の車が動かなくなった。「みんな食べものがないだろう」と思い、15日朝から、うどんやカレー、お雑煮を無料で提供した。軽井沢に住んで約45年。食べた人が16日朝、店の前の雪かきをしてくれた。「一宿一飯の恩義と言ってくれた」と羽山さんは話す。【小田中大】
http://mainichi.jp/select/news/20140217k0000m040066000c.html

さて、政府はどのような対応していたのだろうか。もちろん、知事の要請によって自衛隊が出動し、道路除雪や物資輸送などの営為を15日頃より行っていたことは間違いない。しかし、政府の豪雪対策本部が設置されたのが2月18日になったことに象徴されているように、初動が遅れたことは否めない。そもそも、高速道路の通行止めやチェーン規制の徹底自体が遅れている。また、15日にはそれぞれの地域に駐屯している自衛隊が出動しているが、そもそも豪雪地帯ではないため、装備・人員ともに不十分であったと考えられる。通常は政府よりの報道をしている読売新聞や産經新聞も「初動の遅れ」を指摘せざるえなかったのである。

そんな中、政府・与党より、高速道路・国道などの通行が早期に回復できないのは、立ち往生している「放置車両」のためであり、災害対策基本法の改正が必要だという主張が出された。まず、2月17日の政府・与党協議会についてのFNNの報道をみてみよう。

17日に開かれた政府・与党協議会で、政府は、今回の大雪で多くの車が立ち往生するなどして放置され、自治体の除雪作業が難航しているケースがあると報告した。
これを受けて、政府と与党は、大雪などの災害時に、放置された車両の撤去を可能にする法整備が必要かどうかも含め、対応を検討することを確認した。
菅官房長官は「今回の大雪の災害においてですね、多く立ち往生している車両がありますよね。それに対して、除雪の車両が入ることができない。基本的には、災害対策基本法という法の見直しだというふうに思っています」と述べた。
与党内からは「放置車両を壊してもいいということにしないといけないのではないか」との意見も出ているが、自民党の石破幹事長は、放置車両の撤去は必要だとの認識を示しつつ、「車の所有権はどうなるのか。財産権もからみ、難しい話になる」と指摘した。
http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00263293.html

その後、菅官房長官は定例の記者会見で、車両の強制撤去が可能になるように法整備を進めることを述べた。下記のテレビ朝日の報道をみてほしい。

“立ち往生車両は強制撤去”大雪受けて法整備検討(02/17 16:56)

 今回、道路で立ち往生した車のために除雪車や緊急車両が通れなくなったケースが相次いだことを受けて、政府は、車を強制的に撤去できるように法整備を検討する方針です。

 菅官房長官:「(移動車両の)損失補償の問題もあり、今まで手が付けられずにいたが、緊急の場合にどうするかは大きな課題で、これ以上、先送りすべきではない」
 菅長官は、災害などの緊急時に道路をふさぐ車は所有者の許可がなくても破壊・撤去出来るようにし、後で所有者に損失補償が出来るよう災害対策基本法を早急に見直す方針を明らかにしました。
http://news.tv-asahi.co.jp/news_politics/articles/000021617.html

しかし、この対応は、全く当を得ないものである。阪神淡路大震災の教訓をふまえて、1995年においてすでに災害対策基本法は改正され、緊急通行車両の通行の妨害となる車両などについて警察官はその移動を命じることができ、それができない場合は、強制撤去が可能になっているのである。警察官がいない場合は、自衛隊・消防も同様の措置がとれることになっている。まずは、下記の災害対策基本法の条文をみてほしい(なお、自衛隊・消防についての条文は省略した)。

第七十六条の三  警察官は、通行禁止区域等において、車両その他の物件が緊急通行車両の通行の妨害となることにより災害応急対策の実施に著しい支障が生じるおそれがあると認めるときは、当該車両その他の物件の占有者、所有者又は管理者に対し、当該車両その他の物件を付近の道路外の場所へ移動することその他当該通行禁止区域等における緊急通行車両の円滑な通行を確保するため必要な措置をとることを命ずることができる。
2  前項の場合において、同項の規定による措置をとることを命ぜられた者が当該措置をとらないとき又はその命令の相手方が現場にいないために当該措置をとることを命ずることができないときは、警察官は、自ら当該措置をとることができる。この場合において、警察官は、当該措置をとるためやむを得ない限度において、当該措置に係る車両その他の物件を破損することができる。
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S36/S36HO223.html#1000000000005000000004000000000000000000000000000000000000000000000000000000000

この条文をどのようにみても、警官・自衛官・消防吏員による車両の強制撤去が可能であることはあきらかである。法的に車両が強制撤去できないから大雪対策が進まなかったというのは、災害対策基本法を承知していなかったとしたらファンタジーであり、承知していたとしていたら嘘もしくはデマの類である。最近、安倍政権の周辺で、どうみても事実誤認の発言が相次いでいるが、これもその一つであろう。

前回のブログで、立ち往生した車両のドライバーたちに沿線住民・自治体が温かく支援したことを述べた。立ち往生した車両から一時離れて、避難所にいったり、食事のもてなしを受けたり、食料やガソリンの買い出しをしたりすることは、ドライバーからすれば「自助」であり、沿線住民からすれば「共助」である。初動の対応は遅れたとはいえ、警官・自衛隊・消防・県や市町村の職員は、彼らの生存を保障するために除雪や物資輸送などで働いたといえる。いわばこれらの権力機関は「共同性」を保障するために必要とされたといえる。政府はそれを速やかにサポートすることが求められている。にもかかわらず、避難せざるを得なかったドライバーたちの車両を「放置車両」よばわりし、すでに法的に可能になっている車両の強制撤去が必要だとして、やみくもに私権を制限することばかりを政府・与党は提起している。そもそも、彼らにとって、高速道路・国道などの国家的大動脈の通行が「国民」個人の車両のために妨害されていると認識されていたといえるだろう。もちろん、現実には、法的規制のためなどではなく、想定外の大雪のため、初動が遅れたことに起因するのではあるが。政府・与党は、結局のところ、道路の通行止めが長引いたことを、「放置車両」のためだと責任転嫁したと考えられる。それは、いわば、立ち往生した車両をめぐるドライバーたちの「自助」、沿線住民たちの「共助」からなる共同性の世界を否定し、国家的強制を強めることに結果しているのである。

さらに、大雪対策の議論は、憲法改正問題にまで波及した。2月24日にネット配信された毎日新聞の記事をみてほしい。

安倍首相:緊急事態規定を検討 大雪被害受けて
2日前
 安倍晋三首相は24日の衆院予算委員会で、記録的大雪の被害に関連し、大規模災害に備えた緊急事態規定を盛り込むための憲法改正について「大切な課題だ。国民的議論が深まる中で、制度についてしっかりと考えていかなければならない」と述べ、検討を進める考えを示した。自民党は憲法改正草案で緊急事態宣言に基づく首相権限強化などを盛り込んでいる。日本維新の会の小沢鋭仁氏への答弁。

 首相は大雪被害対策について「災害対応は不断の見直しや改善が必要だ。さまざまな指摘に真摯(しんし)に耳を傾け、野党の指摘にも対応していきたい」と強調した。14日の降り始め以降、政府の対応が後手に回ったとの批判をやわらげる狙いもあるとみられる。

 小沢氏は大雪で孤立集落が相次いだ山梨県出身。予算委では小沢氏のほか、被害の出た地元議員が相次ぎ要望した。埼玉県出身の小宮山泰子氏(生活の党)は、体育館の屋根崩落を受けた構造基準見直しの必要性を指摘。太田昭宏国土交通相は「調査結果を踏まえ、見直しが必要かできるだけ早期に見極め検討したい」とした。【影山哲也】
http://sp.mainichi.jp/select/news/20140225k0000m010115000c.html

これは、2012年の自由民主党の日本国憲法改正草案の一節に関連している。この草案では、武力攻撃・内乱・自然災害などの緊急事態において、「緊急事態の制限」を出すことができ、その場合は、法律と同一の効力をもつ「政令」が出せるのである。その場合、「何人も、法律の定めるところにより、当該宣言に係る事態において国民の生命、身体及び財産を守るために行われる措置に関して発せられる国その他公の機関の指示に従わなければならない」となる。事後に国会の承認が必要となるが、これは、一種の「授権法」といってよいだろう。

第九章 緊急事態

(緊急事態の宣言)
第九十八条 内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる。
2 緊急事態の宣言は、法律の定めるところにより、事前又は事後に国会の承認を得なければならない。
3 内閣総理大臣は、前項の場合において不承認の議決があったとき、国会が緊急事態の宣言を解除すべき旨を議決したとき、又は事態の推移により当該宣言を継続する必要がないと認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、当該宣言を速やかに解除しなければならない。また、百日を超えて緊急事態の宣言を継続しようとするときは、百日を超えるごとに、事前に国会の承認を得なければならない。
4 第二項及び前項後段の国会の承認については、第六十条第二項の規定を準用する。この場合において、同項中「三十日以内」とあるのは、「五日以内」と読み替えるものとする。

(緊急事態の宣言の効果)
第九十九条 緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができるほか、内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行い、地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる。
2 前項の政令の制定及び処分については、法律の定めるところにより、事後に国会の承認を得なければならない。
3 緊急事態の宣言が発せられた場合には、何人も、法律の定めるところにより、当該宣言に係る事態において国民の生命、身体及び財産を守るために行われる措置に関して発せられる国その他公の機関の指示に従わなければならない。この場合においても、第十四条、第十八条、第十九条、第二十一条その他の基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない。
4 緊急事態の宣言が発せられた場合においては、法律の定めるところにより、その宣言が効力を有する期間、衆議院は解散されないものとし、両議院の議員の任期及びその選挙期日の特例を設けることができる。
http://www.geocities.jp/le_grand_concierge2/_geo_contents_/JaakuAmerika2/Jiminkenpo2012.htm#2

大雪対策が「授権法」的憲法改正への動きに結果するということが、現在の安倍政権である。今回の大雪対策の問題は、これは安倍政権ばかりではなく、豪雪地ではない自治体や駐屯自衛隊も含めての「初動」の遅れにあるのであって、別に法律や憲法の不備にあるわけではない。しかしながら、安倍政権は、自らの対応の不備をたなにあげ、人びとが「自助」「共助」のなかでとった行為へと責任転嫁し、私権の制限をはかる法律・憲法改正の必要性を主張する。別に、現行法でも車両の強制撤去はできるにもかかわらずである。そもそも、15〜16日と、公表された範囲では、ソチオリンピックで金メダルをとった羽生結弦選手に祝福の電話をかけ、さらに天ぷらを食べることしかしていないようにみえる安倍首相に「緊急事態宣言」を出す権限を与えても、どのような意味があるのか。現行法の中でも、まともな政治的判断がなされれば、より適切な対応がとれたのではないかと思うし、その点を反省することが、責任者としての安倍晋三首相の行うべきことであろう。大雪対策が憲法改正論議に発展する現在の状況は、現行法でも「国家機密」は保護されているにもかかわらず、憲法のかかげる基本的人権に抵触する可能性が高い「特定秘密保護法」が成立した状況と同様の構図をもっているのである。

*なお、災害対策基本法については、以下のサイトを参考にした。
http://matome.naver.jp/odai/2139331899701944301

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さて、また、大雪の話を続けよう。2月14〜15日の「記録的な大雪」により、東日本の広い範囲で東名高速道路他大動脈である各地の道路において多くの車両が立ち往生した。これらの車両のドライバーに対して、沿線住民が支援したことが伝えられている。まず、長野県軽井沢町の国道18号の状況を伝えている毎日新聞のネット配信記事をみてみよう。

<大雪>安否確認なく不安 陸自作業開始 軽井沢・立ち往生
毎日新聞 2月16日(日)11時28分配信

 立ち往生した車の中に多くのドライバーが閉じ込められた長野県軽井沢町の国道18号とその周辺道路では、県の災害派遣要請に基づき陸上自衛隊が出動し、復旧・救出作業にあたった。

【山梨では道路が寸断】

 国道18号を群馬県に向け大型トラックを運転していた茨城県古河市の運転手、落合哲也さん(26)は15日午前3時ごろ、軽井沢町追分の県道・浅間サンラインとの合流付近から渋滞に巻き込まれ、立ち往生。16日朝も動けない状況が続いている。周囲には少なくとも50台程度のトラックや乗用車が止まっているのが確認できたという。「雪が積もりすぎて、トラックが移動できない状況」と話す。

 軽井沢町は16日の最低気温が氷点下3・6度と冷え込んでいるが、ガソリンが残り少なくなっている車も多く、「エンジンを切って車内でしのいでいる人もいる」という。同日午前には体調を崩した人が出て、救急車も到着した。落合さんは「親子で乗用車に乗っている人もいる。このままの状況が続くのは相当厳しいのではないか」と話す。

 近隣住民からカレーなどの食料やカイロが配られたが、町など行政機関が安否確認などには来ていないという。落合さんは「住民の温かさを感じた」とする一方「警察なども一度も安否確認に来ない。情報もないし不安が広がっている」と訴えた。

 一方、陸上自衛隊第13普通科連隊(駐屯地・松本市高宮西)は16日、県知事からの災害派遣要請を受け、軽井沢町で発生した立ち往生車両の救出作業を始めた。

 同連隊によると、車両20両に隊員120人が分乗し、同日午前1時過ぎに先遣隊が駐屯地を出発。午前5時過ぎ、国道18号に接続する浅間サンラインの現場に到着した。

 現場は、大型車両2台が雪により動けなくなり道路をふさいだことから、大型トラックや乗用車など約50台が動けなくなっている。県の除雪車両を中心に出口をふさいでいる大型車両の撤去作業や、立ち往生している車両への飲料水や乾パンなどの配給などを行っている。【小田中大、高橋龍介】
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140216-00000016-mai-soci

このように、まず、近隣住民が、自主的に食料などを配ったという。そして、その後、大型車両の撤去作業や、食料・水などの配給が行われるようになったといえるのである。

そして、軽井沢町の住民は公民館を避難場所に開放し、そこに避難するドライバーたちもいた。軽井沢町の住民たちは、彼らに炊き出しをし、さらに、車に残っている住民たちに非常食を届けた。地域自体も雪のため孤立した住民がいたにもかかわらずである。他方、ドライバーたちは、単に避難のためだけではなく、ガソリンを確保するためにも一時車を離れることもあった。スポニチが18日に配信した記事は、その状況を描き出している。

立ち往生ドライバーらに炊き出し 軽井沢町公民館に60人避難
 
長野・群馬県境の国道18号が通行止めとなっている影響で、長野県軽井沢町の追分公民館には17日午前も、立ち往生した車の運転者やバスの乗客ら約60人が避難。公民館は15日から開放され、地区の住民が備蓄用の米で炊き出しをしたり、止まった車まで歩いて非常食を届けたりして、支援に当たった。

 荻原里一区長(69)は「一度にこんなに雪が降ったのは初めて。孤立している住民もおり、物凄い状況になっている」と話した。

 国道18号沿いのガソリンスタンドには立ち往生したトラックの運転手らが、ポリタンクを持って歩いて燃料を買い求めた。男性従業員(21)によると、1時間以上歩いて来た人も。立ち往生した車の運転手からの燃料配達依頼も多いが、雪で出勤できない従業員がいて手が足りず、依頼は全て断っているという。
[ 2014年2月18日 05:30 ]
http://www.sponichi.co.jp/society/news/2014/02/18/kiji/K20140218007612320.html

この避難所設置については、軽井沢町役場の関与があったようである。産經新聞が2月17日にネット配信した記事で、次のように語られている。

軽井沢町役場では15日に近くの公民館など計6カ所に避難所を開設。地元住民の協力を得て、おにぎりや豚汁などを提供した。町職員は「ここまでの大雪は初めてで、これほど大規模な避難所運営も初めて」。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/140217/dst14021720470027-n2.htm

冒頭の毎日新聞の記事では、町など行政機関は関与していないように語られている。これらの避難所は、町が運営したというよりも、地域住民が主体となって運営したのであろう。軽井沢町のサイトでは、2月20日付で「軽井沢バイパスで立ち往生している方々に対応するための避難所開設にご協力をいただきました区・日赤奉仕団等多くの皆様に、心より感謝申し上げます」と謝意が述べられている。日赤奉仕団も、たぶん、ここの地域組織なのであろう。もちろん、他の地域ではどうかはわからない。自治体が避難所運営の中心だったところもあろう。

なお、群馬県側の安中市では、安中市役所が避難所を中心的に運営していたようである。NHKが2月17日に配信した次の記事をみてほしい。

国道18号線車立往生で避難所
2月17日 20時27分

群馬県安中市の国道18号線では記録的な積雪の影響で多くの車が立ち往生し、地元の安中市は避難所を開設し、対応に当たっています。

国土交通省などによりますと、安中市と長野県軽井沢町を結ぶ国道18号線の碓氷バイパスでは、記録的な積雪の影響で、今月14日の深夜から最大でおよそ270台が車が立ち往生しました。
このため、ドライバーなどは車内で過ごすことを余儀なくされ、安中市では閉校になった中学校や公民館など市内の公共施設6か所を避難所として開設し、食料や水を提供して対応に当たっています。
このうち「旧松井田西中学校」では、16日夜から32人が避難し、市の職員などがおにぎりや卵焼きなどの食料を提供していますが、ドライバーたちは疲れた表情を浮かべて校舎で休息をとっていました。
長野県に向かっていたトラックの運転手の男性は「14日から雪で立往生しているので、商品として積んでいる野沢菜が心配です」と話していました。
現場付近は群馬県方面に向かう上り車線は正午には通行できるようになりましたが、長野県方面の下り車線は除雪が終わらず、国土交通省によりますと、17日午後5時現在で30台余りの車が残っているということです。
国土交通省では、引き続き、除雪を急ぐことにしています。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20140217/k10015312071000.html

このように、大雪で通行できなくなった道路は、関東・甲信に限られるわけではない。東北地方でも、通常あまり雪が降らない地域でも大雪となり、立ち往生した車両が続出した。次の河北新報が2月20日にネット配信した記事をみてほしい。

大雪で車立ち往生 避難の飯舘村民、仮設から命のおにぎり

ドライバーたちにおにぎりの炊き出しをした福島県飯舘村の仮設住民ら=19日午後、福島市
 大雪で多くの車が立ち往生した福島市の国道4号で16日、沿道の仮設住宅に暮らす福島県飯舘村民がおにぎりを炊き出し、飲まず食わずのドライバーたちに次々と差し入れた。持病のため運転席で意識を失いかけていた男性は19日、取材に「命を救われた思いだった」と証言。東京電力福島第1原発事故に伴う避難が続く村の人たちは「国内外から支援を受けた恩返しです」と振り返った。

 福島県三春町のトラック運転手増子徳隆さん(51)は15日、配送を終え、郡山市の会社に戻る途中だった。激しい雪で国道は渋滞。福島市松川町で全く動かなくなった。
 16日昼ごろ、糖尿病の影響で頭がぼーっとしていた。窓をノックする音で気が付くと「おにぎり食べて」と差し出された。
 国道を見下ろす高台にある飯舘村の仮設住宅の人たちだった。前日から同じ車がずらりと止まり続けているのに女性たちが気付き、炊き出しを提案。富山県高岡市の寺から仮設に届いていたコシヒカリを集会所で炊き、のりと梅干しを持ち寄って20人ほどで約300個握った。
 炊きたてが冷めないようにと発泡スチロールの箱に入れ、1メートル近い積雪の中、1人1個ずつ渡して回った。
 増子さんは「温かくて、おいしくて、一生忘れない。仮設で厳しい暮らしだろうに、こうして人助けをしてくれて頭が下がる」と感謝した。
 増子さんの話を伝え聞いた仮設住宅の婦人会長佐藤美喜子さん(62)は「震災からこれまで、数え切れないほど多くの人に助けられてきた。またあしたから頑張ろうと、私たちも励みになりました」と話している。
 飯舘村は福島第1原発から北西に約40キロ。放射線量が高い地域が多く、村民約6600人のほとんどが村の外で避難生活を続けている。

2014年02月20日木曜日
http://www.kahoku.co.jp/news/2014/02/20140220t63014.htm

この場合は、福島市の国道4号であるが、立ち往生を余儀なくされた車両のドライバーに対して、飯館村からその地に避難している人びとが支援したのである。

レベッカ・ソルニットの『災害ユートピア』では、大災害に遭遇した場合、通常は個々の生存を最優先して我勝ちのパニックになると想定されているが、そうではなく、むしろ、災害に直面した人たちが、それまでの社会関係の有無に関わりなく、お互いの生存を保障するため連帯していったことを描き出している。マスコミで報道されたことは上っ面にすぎず、実際にはさまざまな苦難や葛藤があったのだろと思うが、自治体を含めた近隣住民において、立ち往生した車両のドライバーたちを助けようとする「共同性」が立ち上がったということができる。

こういうことは、もちろん、東日本大震災を含めた過去の大災害において無数にあったに違いない。もちろん、このような共同性において、葛藤や矛盾が全くなかったとは思えない。しかし、平時の、国家や資本の管理が災害において断ち切られた時、そこにまず生じてくるのは、それまでの社会関係の有無とは関係ない人びとの共同性であり、それが彼ら自身の生存を保障していたのである。

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最早、かなり多くの人が月日はうろおぼえだろうが(私もその一人であった)、2012年12月26日は、安倍晋三衆議院議員が首相に就任した日であった。その日に開かれた就任記者会見の中で、安倍首相は次のように述べている。

国家、国民のために目前の危機を打ち破っていくという覚悟において、本日、危機突破内閣を組織いたしました。総裁や代表経験者あるいは次世代を担うリーダー候補に入閣をしていただきました。人物重視、実力重視の人事を行いました。危機突破のために十分にその力を発揮していただきたいと思います。

 この危機突破内閣の発足に当たって、全ての閣僚に対しまして、経済再生、復興、危機管理の3つに全力で取り組むよう、指示をいたしました。特に危機管理に対しましては、現在も北日本の日本海側では劇的な大雪となっており、大きな被害の発生も懸念されます。先ほど内閣危機管理監に対して、人命の保護を第一に警戒対応に万全を尽くし、今後の大雪対策に万全を期すべく、対策室の設置を指示いたしました。政権を担うことになった以上、その瞬間から、油断することなく、全力で危機管理に当たる責任があります。そのことを閣僚全員に徹底をいたしました。
http://www.kantei.go.jp/jp/96_abe/statement/2012/1226kaiken.html

安倍首相は自分の内閣を「国家、国民のために目前の危機を打ち破っていく」という意味で「危機突破内閣」と名づけた。そして、危機管理上の第一の課題として、北日本の日本海側の「劇的な大雪」への対策をあげた。安倍首相は、人命保護を第一にし、今後の大雪対策に万全を期すべく、内閣危機管理監に対策室(官邸対策室)の設置を指示し、さらに油断なく全力で危機管理にあたる責任があることを閣僚全員に指示したと述べた。この就任記者会見で具体的な政策として次にあげられているのが東日本大震災からの復興、さらにその次がデフレ脱却である。この就任会見では、内閣の第一の課題は大雪対策であったのである。

今になって回想してみると、2012〜2013年の冬は「平成25年豪雪」(Wikipedia)とよばれるほど大雪がふった。例えば青森市酸ヶ湯で歴代1位の566センチ(2013年2月26日)の積雪を観測した。とはいえ、各地域の最大積雪は2013年1〜2月に観測されており、2012年12月の段階では、まだそれほど中央のマスコミは報道していなかった。例えば、読売新聞夕刊2012年12月26日付では次のように報道しているが、みればわかる通り、非常に小さい扱いである。あまり中央のマスコミが報道していなかったことを、安倍首相は内閣の重要課題に位置づけていたのである。

 

北海道で大雪
 強い冬型の気圧配置と寒気の影響で、日本列島は26日、北日本を中心に大雪や強風に見舞われた。北海道は前夜から、ほぼ全域で暴風雪となり、幹線道路の通行止めや列車の運休などが続いた。気象庁は、この冬型の気圧配置は28日頃まで続くとしており、猛吹雪による交通機関の乱れや高波などに警戒するように呼びかけている。
 24時間の降雪量は、青森、山形、福島県で50センチ以上を記録した。

北日本の大雪に対処するために官邸対策室を設置したことにつき、多くのマスコミは関心を示していなかったようであるが、産經新聞はこのことをネット配信した(なお、現在、この記事はネットから削除されている)。そして、この記事を引用しながら、安倍晋三首相の支持者たちは、民主党政権にはみられない、素早い災害対応だと大いに評価していた(そのようなサイトは、検索すれば現在でもすぐに発見できる)。

さて、それから1年余たって、産經新聞は次のような記事をネット配信している。

記録的大雪、政府初動遅れ 除雪障害、車撤去へ法改正を検討
産経新聞 2月18日(火)7時55分配信

 菅義偉(すが・よしひで)官房長官は17日の記者会見で、大雪で道路に立ち往生した車が除雪の障害となり孤立するドライバーや集落が相次いだことを受け、災害緊急時に車両などを行政側が排除できるよう災害対策基本法改正に着手する意向を表明した。

 菅氏は「(除雪のため)車両所有者の意向確認や車両を損壊した場合の損失補償など法的根拠がない」と指摘した上で、「早急に検討する必要がある」と強調した。この方針は17日昼の政府与党協議会でも確認している。

 政府は、今回の大雪への対応について、降雪が本格化する前の14日に災害警戒会議を開き、国民に警戒を呼びかけたほか、関係省庁には除雪態勢の確保や交通障害への対応を指示。15、16両日は山梨や長野などの各県知事から要請を受け、自衛隊を災害派遣したと強調している。

 しかし、予想を上回る大雪で、死傷者数など被害状況の把握は難航した。山梨県に亀岡偉民内閣府政務官を団長とする政府調査団を派遣したのも17日になってから。片側1車線の道路などで取り残された車両が道路をふさぎ、除雪車が入れないケースも目立った。

 政府の対応が後手に回ったことは否めない。

 民主党の松原仁国対委員長は17日の記者会見で、安倍晋三首相が16日夜に支援者と天ぷら料理店で会食していたことから、「緊張感が乏しい。16日の段階で雪の中で孤立している集落や車があった。残念だ」と批判。海江田万里代表も会見で「初動が遅れたというそしりを免れない」と指摘した。

 こうした状況を受け、安倍首相は17日の衆院予算委員会で、「関係自治体と連携を密にし、関係省庁一体となって国民の生命、財産を守るため、対応に万全を期す」と強調した。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140218-00000093-san-pol

産經新聞は、安倍政権を支持する姿勢が強い。1年前、大雪対策の官邸対策室設置を報道したのも、その一環であろう。しかし、そんな産經新聞ですら「政府の対応が後手に回ったことは否めない」といわざるをえないのが、今回の安倍内閣の大雪対策なのである。

1年前、マスコミがあまり報道していなかった大雪対策につき官邸対策室をいち早く設置し、あまつさえ内閣の重要課題としたことは何だったのだろうか。そして、なぜ、「後手に回った」のだろうか。その時の安倍内閣と、今の安倍内閣、この二つは違っているのかいないのか。「政権を担うことになった以上、その瞬間から、油断することなく、全力で危機管理に当たる責任」はどこにあるのだろうか。とにかく、微妙な思いにかられるのである。

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前回のブログで、記録的な大雪に際してオリンピック情報を優先した(今もだが)NHKを批判した。しかし、このような対応はNHKだけではなかった。日本政府中枢の首相官邸も同様であったのだ。

首相官邸のサイトをあけてみよう。「新着情報 平成26年2月15日 総理の一日 安倍総理は羽生結弦選手にお祝いの電話をかけました」とある。そこをクリックすると、次の記事が出て来る。

平成26年2月15日
羽生選手へのお祝いの電話

 平成26年2月15日、安倍総理は総理大臣公邸で、ソチ・オリンピックで金メダルを獲得した羽生結弦選手へお祝いの電話をかけました。

安倍総理はお祝いの中で次のように述べました。

「羽生選手、おめでとう。昨日はたくさんの日本人がみんな、羽生選手の演技を見て胸が熱くなる想いだったと思います。
 私もワクワクしながら、ドキドキしながら見ていましたけれども、最後まで本当に冷静で諦めずに、凄いなと思いました。」
http://www.kantei.go.jp/jp/96_abe/actions/201402/15gold_hanyu.html

前のブログでも書いたが、私はこのようなオリンピックの国家主義的利用には反対である。しかし、安倍晋三首相ならば、こういうことをすることは予想できた。予想できなかったことは、少なくとも表に出た限り、15〜16日において、「それ」しかしていなかったようにみえることである。

時事新報で報道された、2月15〜16日の首相動静をみてみよう。

首相動静(2月15日)

 午前8時現在、公邸。朝の来客なし。
 午前中は来客なく、公邸で過ごす。
 午後2時25分から同26分まで、報道各社のインタビュー。「ソチ五輪男子フィギュアで、羽生結弦選手が金メダルを獲得した」に「テレビを見ていて、日の丸を背にウイニングランをするシーンは本当に感動した」。同31分から同35分まで、ソチ冬季五輪フィギュアスケート男子で金メダルを獲得した羽生結弦選手を電話で祝福。同36分、公邸発。同54分、東京・富ケ谷の私邸着。
 16日午前0時現在、私邸。来客なし。(2014/02/16-00:04)
http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2014021600002

首相動静(2月16日)

 午前10時現在、東京・富ケ谷の私邸。朝の来客なし。
 午前中は来客なく、私邸で過ごす。
 午後も来客なく、私邸で過ごす。
 午後5時31分、私邸発。
 午後5時49分、東京・赤坂の天ぷら料理店「楽亭」着。支援者らと会食。
 午後7時50分、同所発。(2014/02/16-20:01)
http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2014021600098

15・16日は土日であり、安倍晋三首相ももちろん休んでいてもかまわない。しかし、「記録的大雪」があったことについて、政府内部で協議した形跡がまるでない。特に15日は公邸と官邸にいたのであるから、首相官邸内部で協議してもよさそうだが、その様子は全くない。さすがに、電話連絡などが全くないとは思えないのだが、大雪対策についてだれかを呼び入れて特別の指示を与えてはいないのである。安倍首相がこの2日間で公的に行ったことは「羽生選手に祝福の電話をかけたこと」だけなのだ。

それでも、首相官邸のサイトには、国土交通省へのサイトのリンクがはられており、多少なりとも対策を講じているようにみせている。しかし、この国土交通省の対策も、次にみるように、かなり不備なものなのである。

平成26年2月16日
国土交通省 道路局
今般の大雪による道路における対応状況とみなさまへのお願い
1.立ち往生の状況
・14日からの大雪により、15日に東名高速では裾野インターを先頭に、約40km渋滞し、直轄国道では、5路線7区間において、約1400台の車が立ち往生しました。
2.対応
・高速道路の本線における立ち往生車両については、移動が終了しております。
・直轄国道の立ち往生が生じた区間においては、車両の乗員の安否確認は終了しています。
・雪による通行止めの各区間においては、除排雪作業を全力で進めております。
・また、立ち往生している車両の乗員のみなさまには、地元自治体と協力し、食料等の提供、ガソリン等の補給を行っております。
・なお、最新の通行止め情報は、道路交通情報センターのhttp://www.jartic.or.jp/で、ご覧になれます。
3.お願い
・高速道路および直轄国道以外の道路については、現在、各道路管理者にて状況の確認を進めております。
・万が一、立ち往生が生じている場合は、道路緊急ダイヤル「#9910」※に、御一報いただくようお願い致します。
※「#9910」とダイヤルすると、係員につながります。

クリックして1402161500.pdfにアクセス

大雪対策といっても道路だけで、それも東名高速道路と直轄国道(しかも、この道路名すらあきらかではない)のことだけなのである。現時点(2月16日)においても、東名・中央・上信越・関越・東北道の関東から他地方に通ずる高速道路の交通は途絶している。そして、1mをこえる積雪に見舞われた山梨県内では多くの道がとざされ、自衛隊が除雪作業をしている。そのようなことには全くふれていない。いわば、情報収集すら十分ではない「対策」なのである。

そして、16日の状況について、山梨日々新聞が県内の状況を中心にネット配信している。

2014年02月16日(日)

【大雪情報】あす、315の小中高校が休校
19日以降、一時雪の恐れ

 記録的な大雪に見舞われた山梨県内は16日も鉄道が始発から運転を見合わせ、高速道路で通行止めが続くなど、交通機関がまひしている。JR身延線は身延~西富士宮駅間で運転を再開した。
 甲府地方気象台は山梨県内全域に強風注意報となだれ注意報(昭和町を除く)を継続して出している。16日夜から17日にかけて冬型の気圧配置となり、山梨県内は晴れる見込み。16日夜は強風が吹き、17日は朝方冷え込み、日中はやや強い風が吹きそう。また、19日午後から20日午前にかけ、一時雪となる恐れがある。同気象台は雪崩や落雪、路面凍結などに注意を呼び掛けている。

【読者の皆様へ】本日16日付の山梨日日新聞の配達に遅れがでています。こちらで紙面の一部をPDFで17日午前零時まで公開しています。事情をご理解いただき、ご了承ください。

 
中央道、あす中の通行止め解除めざす
 中日本高速道路は、大雪で通行止めが続いている中央自動車道(富士吉田線を含む)について、「17日中をめどに通行止め解除をめざす」としている。

徒歩で帰宅中の男性が凍死か 北杜市
 北杜市須玉町下津金の路上で15日午前6時ごろ、男性が倒れているのを通行人が発見し119番した。倒れていたのは北杜市の無職男性(48)で、搬送先の病院で死亡が確認された。
 県警によると、死因は凍死とみられる。男性は、車が雪のため動かなくなったため、歩いて帰宅途中で死亡したとみている。

あす、315の小中高校が休校
 山梨県教委によると、週明けの17日、大雪の影響で県内の公立小中高校と特別支援学校計315校が休校する。睦合小(南部)が2時間、始業時間を遅らせる。栄、富河、万沢小、南部中(南部)は平常通り。

甲府~身延駅間、あすも終日運転見合わせ JR身延線
 JR東海は16日、週明けの17日も、甲府~身延駅間で終日運転を見合わせると発表した。特急も全列車を運休する。運転再開には相当の日数がかかる見込み。
 16日に運転を再開した身延~富士駅間は、本数を通常より減らす。

豪雪対応、国に要請 テレビ会議で横内知事
 政府の関係省庁災害対策会議が16日開かれ、横内正明知事はテレビ会議システムを通じ、古屋圭司防災相に対し、山梨県内で除雪が難航して交通網が遮断されている現状を報告。自衛隊の増員や豪雪対応のノウハウがある国交省職員の派遣を要請した。
 古屋防災相はソーシャルネットワークを活用して詳細な情報収集をするよう関係省庁に求めた。

陸自、郡内地域で除雪作業に入る
 県から災害派遣要請を受けた陸上自衛隊は16日、富士河口湖町などの国道138、139号の除雪作業に入った。同町の精進湖周辺で孤立しているホテル3カ所には食料、毛布をヘリで輸送している。また、大月市の国道20号で立ち往生している車列に対応する部隊は東富士五湖道路を除雪しながら、山中湖村を移動している。

2020軒で停電続く
 東京電力山梨支店によると、県内では大雪の影響で16日午後5時半現在、2020軒で停電が続いている。
 停電が続いているのは、北杜、上野原、南部、身延、早川の5市町。富士河口湖町精進の停電は午後3時20分ごろ、解消された。身延町では930軒、南部町は860軒が依然停電している。同支店は自衛隊に協力を要請し、新たな職員をヘリで現場に運び、復旧作業を急いでいる。
 早川、南部、身延町の一部では14日から2日間にわたって停電が続いている。
 
雪中の車内、CO中毒に注意を 県が呼び掛け
 山梨県防災危機管理課によると、記録的な大雪のため、県内各地で立ち往生する車が相次いでいる。同課は、できる限り外出は控えるよう呼び掛けるとともに、エンジンを掛けた車内にいる人に対し、車の排気管が雪で埋もれると一酸化炭素(CO)中毒になる恐れがあるとして、十分注意するよう呼び掛けている。
http://www.sannichi.co.jp/local/news/2014/02/16/2.html

記録的大雪に見舞われた山梨県の被災状況が多少なりとも伝えられている。そして、このような被害は、山梨県だけではなく、関東・甲信・東北の各地でみられるであろう。そんな中、ようやく16日に政府の関係省庁災害対策会議が開かれた。しかし、これは内閣府の所管であり、官邸主導ではない。また、「古屋防災相はソーシャルネットワークを活用して詳細な情報収集をするよう関係省庁に求めた」とあるように、いまだ情報収集すら緒に就いたばかりという状態のようである。

しかし、これは、一体全体、なんなのだろう。安倍首相も他の政府首脳も東京にいて、30センチ弱の積雪で、空路・鉄道・道路の交通が遮断され、屋根が落ち、けが人が出ている状況を自身でも見聞きしているはずだ。また、一般人よりも確度の高い、リアルタイムな情報を得ているはずである。その3倍の積雪ではどうなるか、想像できないはずはないと思う。それにもかかわらず、首相は「羽生選手に祝福の電話をかける」以外の公的な動きをみせない。集団的自衛権では選挙で審判を受ける自分が答弁すると主張した首相が、大雪対策については、まったく主導性をみせない。古屋防災相もソーシャルネットワークを活用して情報収集をはかれという指示をしたりしている。15日の大雪は気象庁は予想しておらず、「想定外」だったかもしれないが、被害が出た時点では少なくともなんらかの対策が必要であった。オリンピックに関心をもつことの是非はともかく、少なくとも困った人びとが出たり、出ることが予想された場合、できることを行おうとするのが、政治の責任者たちの責務である。遅きに失しているかもしれないが、今からでも、雪害で困った人びとのため万全を尽すべきだと思う。

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2月8日に続き、2月14〜15日も、関東甲信地方は記録的な大雪に襲われた。まず、朝日新聞のネット配信記事をみてほしい。

東日本の広範囲で記録的大雪 甲府で114センチ
2014年2月15日12時25分

 日本の南海上を進む発達した低気圧の影響で、東日本は14日夜から15日にかけて広範囲で記録的な大雪となった。甲府市や前橋市では積雪が観測記録を大幅に更新し、首都圏各地の交通網は混乱した。東急東横線の元住吉駅(川崎市)では電車同士の衝突事故も発生し、19人が軽傷を負った。

 甲府市では15日午前、先週の残雪分も含め114センチの積雪を記録し、1998年1月の49センチを大幅に上回り、1894年からの観測記録を更新。埼玉県秩父市は98センチ、同熊谷市62センチ、前橋市73センチといずれも観測史上1位となった。東京都心も歴代8位タイとなった8日と同じ27センチ。横浜市も28センチを記録した。

 気象庁は14日夕には東京23区の降雪量の予測を10センチとしていたが、低気圧からの暖気が予想よりも入り込まず気温が低くなり、雪の量が増えたという。

 16日午前6時までの24時間降雪量は、いずれも多い所で東北70センチ、関東北部山沿いと甲信60センチ、関東南部20センチ、関東北部の平野部10センチと予想されている。

 群馬県富岡市では同日朝、雪の重みで車庫の屋根が崩れ、男性(79)が下敷きになり死亡した。

 関東南部の平野部では同日未明に雨に変わったが、内陸や山沿いでは16日にかけて雪や強風が続く見込みで、気象庁は警戒を呼びかけている。最大風速はいずれも陸上で東北20メートル、関東18メートル、東海15メートルと予想されている。
http://www.asahi.com/articles/ASG2H1RB8G2HUTIL008.html

甲府・秩父・熊谷・前橋と、軒並み記録更新という状態で、特に甲府では、これまでの記録の2倍以上の114センチを記録した。そして、これは、単に記録というだけでなく、この記事にもあるように、この大雪によって、首都圏の交通網は大混乱に陥ったのである。

私事になるが、本日(15日)、私個人は群馬県館林市の会議に出席することを予定していた。何もなければ、東北道などを経由して自動車で行くことにしていたが、スノータイヤなどの装備がなく、前日(14日)の時点で断念し、鉄道で行くことにしていた。

しかし、東京にいても、夜が深まるにつれて積雪がましており、翌朝起きてもとんでもない深さの積雪だった。とにかく、館林まで鉄道は動いているだろうか。どのくらいの積雪だろうか。そのような情報を求めて、NHK総合テレビの7時台のニュースをみてみた。ところが、大雪情報は少しばかりで、多くは、ソチオリンピックの男子フィギュアスケートで金メダルを獲得した羽生結弦選手のことばかりであった。やや後の配信だが、こんな調子である。

金メダルの羽生「復興に役立ちたい」
2月15日 12時55分

ソチオリンピック、フィギュアスケートの男子シングルで金メダルに輝いた羽生結弦選手は、試合後の記者会見で、東日本大震災で出身地の仙台市が被災した経験に触れ、「復興に役立ちたい」という強い思いを口にしました。

羽生選手は会見で、報道陣から試合後にあまり笑顔を見せない理由を問われて、「金メダルの実感が沸かないこともありますが、震災からの復興のために自分に何ができたのか分からない。複雑な気持ちです」と答えました。
そして、震災の当時を振り返って、「スケートができなくて、本当にスケートをやめようと思いました。生活するのが精いっぱいというなかで、大勢の人に支えられてスケートを続けることができました。金メダルを取れたのは、被災した人たちや支えてくれた人たちの思いを背負ってやってきたからです」と語りました。
そのうえで今後について、羽生選手は「将来、プロになったとき、震災からの復興のために何かできればと思っています。金メダリストになれたからこそ復興のためにできることがあるはずです。これがスタートになると思います」と真剣な表情で話していました。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20140215/k10015261821000.html

後述するように、私個人は「オリンピック報道」が好きではない。ただ、それは報道のやり方がきらいなだけであって、オリンピックのそれぞれの種目でメダルを獲得すること自体、選手個人にとってかけがえないものであり、一般の「日本国民」においても、喜びを分かち合いたいと思う人が多く存在することは当然だと思う。しかし、その時の私は、何よりも、大雪とそれによる交通網への影響についての最新で詳細な情報を欲していた。とにかく、NHKニュースからの情報収集をあきらめ、民放各局のニュースをみることにした。民放ニュースも「羽生結弦の金メダル」一色であったが、それでも、NHKのニュースよりは、大雪情報を伝えていた。結局、NHKにはたよらず、民放ニュースとネットで収集した情報をもとに、館林までの交通網が混乱しているだろうと判断して出発時間を自主的におくらせた。その後、電話で連絡をとりあって、館林出張をとりやめた。

しかし、こんなことは、実は初めての経験である。地震・津波・台風などの災害時において、私は、CMがあり、視聴率に拘束されている民放各局のニュースよりも、公共放送であり、CMは入らず、視聴率に拘束されず、全国的な支局網をもつNHKのニュースのほうを、速報性・確実性という観点から評価していた。東日本大震災の時もそうであった。もちろん、その情報自体が信頼に値するかいなかは別だが。今回の場合は、逆に、NHKのニュースのほうが「役に立たない」と判断したのである。

もちろん、NHKニュースをずっと見ていた訳ではないので、いわば印象批評でしかないといえる。しかし、この大雪のニュースについてNHKが速報性においても確実性においても劣っていたことは、次の記事でもうかがえるように思う。

記録的大雪 なだれなど注意

県内は低気圧の影響で14日から雪が降り続き、甲府市では、積雪が1メートルを超えるなど記録的な大雪となっています。
気象台では、大雪の峠は越えたとして県内全域に出していた大雪警報は解除しましたが、引き続き雪崩や強風に注意するよう呼びかけています。
甲府地方気象台によりますと低気圧の影響で、県内は14日から雪が降り続き、記録的な大雪になりました。
午前11時の積雪は、▼富士河口湖町で1メートル38センチ▼甲府市で1メートル8センチなどとなっています。
甲府市では、これまでの記録の倍以上となり、120年前の明治27年に記録を取り始めてから最も多くなりました。
気象台は大雪の峠は越えたとして県内全域に出していた大雪警報を午前11時すぎに解除しました。気象台では引き続き16日までなだれに注意するよう呼びかけています。
また、これから16日昼前にかけて県内では風が強まる見込みで強風にも注意するよう呼びかけています。
02月15日 12時59分
http://www3.nhk.or.jp/lnews/kofu/1045254843.html

これは、NHK甲府地方局の地方ニュースだが、朝日新聞の先のニュースよりもやや遅い時間に配信されたにもかかわらず、甲府の積雪を1メートル8センチとしている。些細なことなのだが、速報性・確実性という点で、NHKは劣っていたといえるのである。

まさに印象でしかないが、公共放送としてのNHKは、オリンピックでの金メダル獲得を重視し、私個人を含めた関東圏の多くの人に影響を与えた大雪情報を軽視しているように思える。私個人は、交通網の混乱で館林に行けない程度のことであるが、大雪のため、屋根などが倒壊して死傷者も出ているそうである。

さて、この「公共放送」における「公共」とは何だろう。私は「公共」には三つの含意があると考えている。一つは「国家的」であり、もう一つは共同利益などの意味での「共同的」であり、最後の一つは言論などを通じた「公開性」である。NHKの籾井勝人会長が、従軍慰安婦への言及だけでなく、「政府が『右』と言っているものを、われわれが『左』と言うわけにはいかない。国際放送にはそういうニュアンスがある」となどと発言し、物議を醸しているが、これは、まさに、言論の自由などの「公開性」の原則に対し、「国家的」に傾斜した形で「公共」を再定義しようということになるだろう。他方で、今回のようなことは、大雪情報を提供するという人びとの「共同利益」を、「国威発揚」をめざすオリンピック報道によって抑圧したものとみることができる。オリンピックに携わる選手たちのひたむきさを否定はしないし、彼らの活動を伝える報道も必要だろう。しかし、現時点での日本のオリンピック報道は、スポーツを通じて行われる国家間競争の側面が強調され、その中で、「国民」のアイデンティティを再確認することが中心となっていると思われる。その意味でオリンピック報道は「国家的」なものといえる。いわば、ここでは「国家的」なものが「共同的」なものを抑圧したものといえるのである。

このようなことは「ニュースバリュー」という形で、民放各局も含めて内面化されていると考えられる。しかし、視聴率競争に縛られている民放とは別個な形で、「公益」を実現することが「公共放送」であるNHKに期待されていたことである。最初に述べたように、災害時により信頼性の高い情報を提供するというイメージがNHKにはあった。それがふみじられていくこと、これもまたNHKの「国営放送局」化の一側面としてみることができよう。

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さて、2014年2月10日、安倍晋三首相が翌11日の建国記念の日を迎えるにあたってメッセージを発表した。朝日新聞が2月10日にネット配信した記事によると、「建国記念の日に合わせて現職の首相がメッセージを出すのは初めてのこと」とされている。

まず、ここで「建国記念の日」は何なのかを確認しておこう。報道の多くもあまりふれていないのであるが、この「建国記念の日」は、本来、九州から大和に「東征」し、第一代の天皇となったとされる神武天皇が即位したことを記念する「紀元節」がもとになっている。元々、神武天皇についての記述は古事記・日本書紀の中の神話とされており、実在した人物とみなすことはできない。しかし、古代国家においては「天皇制」の起源として認識されていた。さらに、幕府を倒した明治維新は「王政復古」をスローガンとしており、「神武天皇」にかえることを国家の正当性としており、ゆえに1872年11月に神武天皇即位を記念した祭典を行うことを決めた。当初は1月29日であったが、翌年3月には「紀元節」と命名され、同年10月に「2月11日」に変更されたのである。そして、紀元節は、天皇制国家による統治の正当性の源泉として重視された。他方、このような神話に国家の正当性の源泉を置いたため、歴史教育はいわゆる「皇国史観」によって行われ、いわゆる実証的な歴史学による記述は排除されていたのである。

この紀元節は、戦後の連合国による占領の下、GHQの指令によって1948年に祝日としては廃止された。その後、幾度も「建国記念日」として復活をはかられたが、社会党などが反対して実現できなかった。1966年、安倍晋三の大叔父である佐藤榮作を首相とした佐藤内閣は、「建国記念の日 政令で定める日 建国をしのび、国を愛する心を養う。」として、建国の事象そのものを記念するように受け取られる形で祝日法の改正案を出し、国会で成立させた。しかし、佐藤内閣ですらも、自身で「2月11日」を「建国記念の日」と明言することはできず、附則で「内閣総理大臣は、改正後の第二条に規定する建国記念の日となる日を定める政令の制定の立案をしようとするときは、建国記念日審議会に諮問し、その答申を尊重してしなければならない。」とし、建国記念日審議会に諮問し、その答申で『建国記念の日」を決定することになっていた。そして、建国記念日審議会は「2月11日」にする答申を出し、1966年12月9日に佐藤内閣はその日を「建国記念の日」とする政令を出した。ここに「建国記念の日」が成立したのである。

明治政府が、自らの正当性の根拠として、第一代天皇の神武天皇の即位にあたるとされた日を祝うことは、よくも悪くも理解できることである。しかし、国民主権の戦後においては、第一代天皇の即位日を「建国」として記念することは適当とはいえないだろう。そもそも、この日にすべき学術的根拠がない。それに、国民主権を前提とすれば、より適当な日があるだろう。例えば、戦後の古代・中世史家であった石母田正は、次のようにいっている。

もしアメリカ流、ソ連流、中国流にやるとすれば、私の個人の見解では、人民に主権があるということを明確に規定した新憲法制定の日を私は、国民の、国家の誕生にするくらいの気概があってこそ、われわれは古い一ー三世紀の古代史を学ぶ勇気も出てくるのでありまして、もう一ぺん紀元節を、旗日と日曜が続いたらもう一日休ませてやるというくらいのアメを作られたからといって、もう一ぺん、雲にそびゆるなんとか、という歌をうたう根拠は、われわれ日本人にはなかろうというふうに私は考えています。(「日本国家の成立」 岩波市民講座1964年12月17日 『石母田著作集』第四巻所収)

安倍晋三の大叔父である佐藤榮作首相は、結局のところ、みずからは「2月11日」と明示せず、建国記念日審議会にまかせるやりかたで、「2月11日」を「建国記念の日」としたのである。佐藤以来の歴代首相は、保守的な者も含めて、「建国記念の日」にメッセージを出したりはしなかったが、たぶん、そのような経過もあってのことだと思われる。今回、安倍首相が「建国記念の日」についてのメッセージを出したのは、それ自体、彼の掲げる「戦後レジームからの脱却」の一環ということができる。

続いて、安倍首相のメッセージをみておこう。とりあえず、その全文をここであげておこう。

平成26年2月10日
「建国記念の日」を迎えるに当たっての安倍内閣総理大臣メッセージ

 「建国記念の日」は、「建国をしのび、国を愛する心を養う」という趣旨により、法律によって設けられた国民の祝日です。
 この祝日は、国民一人一人が、我が国の今日の繁栄の礎を営々と築き上げた古からの先人の努力に思いをはせ、さらなる国の発展を誓う、誠に意義深い日であると考え、私から国民の皆様に向けてメッセージをお届けすることといたしました。

 古来、「瑞穂の国」と呼ばれてきたように、私達日本人には、田畑をともに耕し、水を分かち合い、乏しきは補いあって、五穀豊穣を祈り、美しい田園と麗しい社会を築いてきた豊かな伝統があります。
 また、我が国は四季のある美しい自然に恵まれ、それらを生かした諸外国に誇れる素晴らしい文化を育ててきました。
 長い歴史の中で、幾たびか災害や戦争などの試練も経験しましたが、国民一人一人のたゆまぬ努力により今日の平和で豊かな国を築き上げ、普遍的自由と、民主主義と、人権を重んじる国柄を育ててきました。

 このような先人の努力に深く敬意を表すとともに、この平和と繁栄を更に発展させ、次の世代も安心して暮らせるよう引き継いでいくことは我々に課せられた責務であります。
 十年先、百年先の未来を拓く改革と、未来を担う人材の育成を進め、同時に、国際的な諸課題に対して積極的な役割を果たし、世界の平和と安定を実現していく「誇りある日本」としていくことが、先人から我々に託された使命であろうと考えます。

  「建国記念の日」を迎えるに当たり、私は、改めて、私達の愛する国、日本を、より美しい、誇りある国にしていく責任を痛感し、決意を新たにしています。
 国民の皆様におかれても、「建国記念の日」が、我が国のこれまでの歩みを振り返りつつ先人の努力に感謝し、自信と誇りを持てる未来に向けて日本の繁栄を希求する機会となることを切に希望いたします。

平成26年2月11日
内閣総理大臣 安倍 晋三
http://www.kantei.go.jp/jp/96_abe/discource/20140211message.html

今まで、神武天皇即位ー紀元節ー建国記念の日という歴史的系譜を追ってきたが、それが全く無視されていることに一驚する。ここでは、「天皇」のことは全く出ていない。ここで回顧されているのは「我が国の今日の繁栄の礎を営々と築き上げた古からの先人」であり、語感からするならば、過去の「日本人」であって、天皇を意味する(日本人の中にも「天皇」は含まれるのかもしれないが)とは思えない。

その上で、歴史としては、まず「古来、『瑞穂の国』と呼ばれてきたように、私達日本人には、田畑をともに耕し、水を分かち合い、乏しきは補いあって、五穀豊穣を祈り、美しい田園と麗しい社会を築いてきた豊かな伝統があります。また、我が国は四季のある美しい自然に恵まれ、それらを生かした諸外国に誇れる素晴らしい文化を育ててきました」と指摘している。これは、歴史というよりも「ポエム」であろう。どこの国でも、「共同性」のもとに、自然を生かしながら、社会や文化を築いてきたのであって、このことは日本の専売特許ではない。他方、これも日本だけではないが、歴史においては、内戦や階級対立・民族対立が存在しているのである。

さらに「長い歴史の中で、幾たびか災害や戦争などの試練も経験しましたが、国民一人一人のたゆまぬ努力により今日の平和で豊かな国を築き上げ、普遍的自由と、民主主義と、人権を重んじる国柄を育ててきました」という。一体全体、古代から近代までの日本の歴史の中で「普遍的自由と、民主主義と、人権」が重んじられてきたといえるのであろうか。たかだか「戦後日本」のことでしかないのである。そして、戦後以前の「戦争」は、みずからおこしたものではなく「試練」の一つでしかないのである。

最後の部分で、彼自身としては、「『建国記念の日』を迎えるに当たり、私は、改めて、私達の愛する国、日本を、より美しい、誇りある国にしていく責任を痛感し、決意を新たにしています」と述べている。その上で「国民の皆様におかれても、『建国記念の日』が、我が国のこれまでの歩みを振り返りつつ先人の努力に感謝し、自信と誇りを持てる未来に向けて日本の繁栄を希求する機会となることを切に希望いたします」と主張している。「先人の努力への感謝」と「未来の日本の繁栄への希求」という論理は、この短い文章の中で何度も表出されている。

本ブログで、以前、フランスの歴史家ピエール・ノラが、フランスの国民国家統合を強めていた「国民史」について、「過去の遺産としての国民と未来の企図としての国民であり、言い換えれば、『ともに偉大なことを成した』という意識と『これからも偉大なことを成そう』とする意識」(ノラ「コメモラシオンの時代」 『記憶の場』Ⅲ、2003年、原著1992年)が結び付けられていたと指摘していることを紹介した。この安倍首相の「建国記念の日」メッセージの意図は、まさにそうであり、彼自身は、19〜20世紀の帝国主義的戦争につながっていった国民国家の復活をめざしていると考えられる。しかし、このメッセージは、「建国記念の日」のルーツすら無視した、ほとんど「現在」の延長線上でしか把握されない「歴史」認識に基づいているのである。

*なお、Wikipediaの「建国記念の日」と「紀元節」の項目を参照した。

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さて、福島第一原発の現状はどうなっているのか。最近は断片的な情報ばかりで、全体を見通すことが難しくなっている。今回は、現時点(2014年2月10日時点)における福島第一原発1号機、2号機、3号機からの冷却水漏れについての情報をまとめておこう。

福島第一原発において、周知のように炉心溶融がおきた1・2・3号機には冷却水が注入されている。しかし、冷却水を注入しても、原子炉格納容器内の水位は上がっておらず、格納容器が損傷して、冷却水が漏れだしていることが指摘されていた。この冷却水は、直接損傷した核燃料に接触しており、高濃度汚染水になっている。しかし、どこから漏れているのは今まで不明だった。

まず、1号機からみてみよう。すでに、2013年11月13日、1号機の格納容器下部から冷却水が漏れ出していることが発見されている。産經新聞の次のネット配信記事をみてほしい。

格納容器下部で汚染水漏洩 事故後初、1号機で2カ所
2013.11.13 23:50 [公害・汚染]

 東京電力は13日、原子炉が損傷した福島第1原発1号機格納容器下部の2カ所で汚染水の漏洩(ろうえい)を確認したと発表した。原発事故で溶け落ちた燃料(デブリ)冷却のため注水が続く1~3号機の格納容器下部から水漏れが実際に確認されたのは初めて。漏洩箇所は特定できなかったが、汚染水対策を進める上で重要な調査結果になるとして、さらに詳しく調べる方針だ。

 調査は格納容器下部の圧力抑制室を収める「トーラス室」と呼ばれる設備に汚染水がたまっている状況を確認するために実施。放射線量が高く人が近づけないため遠隔操作のできるカメラ付きのボートを使った。

 その結果、格納容器下部の外側からトーラス室に通じる細い配管1本が破断して水が漏れていたのを確認。配管の接続部分は塩化ビニール製で、事故当時の熱で溶けた可能性があるという。

 東電によると、破断した配管からは水道の蛇口をひねったような勢いの水が出ているという。東電は原子炉に注水して汚染された冷却水が格納容器の亀裂などから漏れ、配管から流れ出ている可能性もあるとみている。さらに、圧力抑制室の外側でも上部から水が流れ落ちているのを確認したが、漏洩箇所の特定はできなかった。

 調査した場所では毎時約0・9~約1・8シーベルトの極めて高い放射線量が測定されている。この日の調査は、トーラス室の約半分で行われた。残る半分の調査は14日に行われる予定。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/131113/dst13111323540013-n1.htm

そして、2014年1月30日、テレビ朝日は次の記事をネット配信している。

冷却水の8割が漏えいか…福島第一原発1号機の汚染水(01/30 22:41)

 福島第一原発の原子炉1号機からの汚染水漏れについて、新たな事実が判明した。「1号機の圧力抑制室付近から、1時間あたり最大で3.4トンの汚染水が漏れていたと推計される」と、30日に東京電力が明らかにした。1号機には溶けた燃料を冷やすために、1時間あたり4.4トン注水している。その水は燃料に触れて、放射性物質を含んだ高濃度の汚染水となり、注水量の約8割が圧力抑制室付近から漏れているとみられるのだ。また、東電は「他の場所からも漏れていることも分かった」とし、引き続き調査する。
http://news.tv-asahi.co.jp/news_society/articles/000020591.html

圧力抑制室というのは、格納容器下部に付属している部分である。東京電力の電気・電力辞典では次のように説明している。元来、冷却水を保有している場所なのである。そこから、その付近で、最大で、注水分の8割にもあたる毎時3.4トンの冷却水が漏出しているということなのである。後述する読売新聞のネット配信記事によれば、これは11月にみつかった漏水個所からということのようである。さらに、他の場所からも漏水しているということである。

圧力抑制室(S/C)
(あつりょくよくせいしつ)
沸騰水型炉(BWR)だけにある装置で、常時約4,000m3(福島第二2~4号機の場合)の冷却水を保有しており、万一、圧力容器内の冷却水が何らかの事故で減少し、蒸気圧が高くなった場合、この蒸気をベント管等により圧力抑制室に導いて冷却し、圧力容器内の圧力を低下させる設備。また、非常用炉心冷却系(ECCS)の水源としても使用する。
http://www.tepco.co.jp/life/elect-dict/file/a_023-j.html

次に、2号機である。ここでも圧力抑制室に穴が開いており、そこから水漏れしているということである。

福島第一2号機の圧力抑制室に穴…水漏れ

 東京電力は30日、福島第一原子力発電所2号機の圧力抑制室の下部に穴が開いており、外側の「トーラス室」に水が漏れているとの見方を明らかにした。

 両室の水位差を超音波で測定した結果から、穴は合計で8~10平方センチと推計した。

 また、1号機で昨年11月に見つかった水漏れ箇所については、その漏水量が1時間当たり0・89~3・35トンに上るとの推定値を発表した。格納容器本体と圧力抑制室をつなぐ「ベント管」付近の2か所で、ロボットが撮った流れ落ちる水の映像から推定した。

 3号機でも今月、原子炉建屋の1階で水漏れが初めて確認されている。ただ、これらの箇所で推定された漏水量は注水量より少ないため、東電は「3基ともまだ他に漏水箇所がある」とみている。

(2014年1月31日10時50分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20140131-OYT1T00241.htm

さて、次は3号機である。2014年1月18日に、「主蒸気隔離弁室」という部屋の近くから建屋地下につながる排水口にかけて冷却水の流れが発見された。「主蒸気管」というのは、原子炉からタービンに蒸気を導く管である。1〜2号機のように圧力抑制室付近ではなく、どちらかといえば上部の配管といえるだろう。しかし、これも毎時1.5トンの流出にすぎず、注入した冷却水毎時5.5トンの他の部分は、他から漏水しているとされている。次の共同通信が1月27日に出した記事をみてほしい。

福島第1原発の現状】 配管貫通部から漏えいか 第1原発3号機の注水

 東京電力福島第1原発3号機の原子炉建屋1階の床面で、汚染水の流れが見つかった。溶けた核燃料を冷却するため原子炉に注入した水が、格納容器の配管貫通部から漏れている可能性が高い。格納容器を水で満たして溶融燃料を取り出す工程を描く東電は、水漏れ箇所の特定と補修を急ぐが、現場の放射線量が高く容易ではない。
 水の流れが見つかったのは、格納容器内部への配管が通る「主蒸気隔離弁室」と呼ばれる部屋の近く。建屋地下につながる排水口に約30センチの幅で流れ込む様子が、遠隔操作のロボットで18日に確認された。
 放射性セシウムが1リットル当たり240万ベクレル、ストロンチウムなどベータ線を出す放射性物質が2400万ベクレルと高濃度で検出され、燃料冷却後の水とみられている。
 主蒸気隔離弁室の配管貫通部は、事故後の格納容器圧力の異常上昇や水素爆発の影響で破損した可能性がある。東電は格納容器内の水位や配管の位置から水漏れ箇所の一つとみる。
 ただ、漏えい箇所を特定して漏れを止めるのは簡単ではない。現場周辺は毎時30ミリシーベルトと非常に高線量で、作業員が直接調べることは難しい。上の階から、室内にカメラをつり下げる調査方法を検討しているが「まだアイデア段階」(東電担当者)で、具体的な調査時期のめども立っていない。
 漏えい箇所はほかにもある。3号機の原子炉への注水量は毎時5・5トンだが、今回見つかった水漏れの流量は毎時1・5トンと推計され、残る4トン分は別の場所から漏れている計算だ。
 東電は1、2号機でも、原子炉建屋地下にある圧力抑制室の周囲に遠隔操作ロボットを入れ、水漏れの状況や水位の把握を進めているが、漏えい箇所の特定には至っていない。
(共同通信)
2014/01/27 17:38
http://www.47news.jp/47topics/e/249752.php

東電が、1〜3号機の各機に毎時どれほどの冷却水を注入し、どれほど回収しているのか、今の所、よくわからない。しかし、かなりの冷却水が格納容器外部に漏水しているには違いない。そして、原子炉建屋に入ってくる地下水とまざりあうことになる。そして、結局、原子炉外に高濃度汚染水が流出していく。結局、高濃度汚染水の源は原子炉各部から漏水した冷却水なのであり、陸側から流入してくる地下水ではないといえる。今、陸側の地下水を汲み上げて汚染水を少なくしようとしているが、これは、全くの対処措置にすぎない。

現状の東電の計画では、格納容器を水で満たして溶融燃料を取り出すことにしているが、そもそも水漏れを放置しておくならば、単に環境汚染が継続するだけでなく、それ自身が絵に描いた餅となる。そうとはいっても、それぞれの格納容器内部は放射線量が高く、現状では人が入ることはできず、調査すら難しく、補修などはより困難である。

そこで、最近は、空気で冷却する「空冷」方式にしようという動きがあるようだ。しかし、日本では類例のない「空冷」方式を開発するということは、かなり大変であろう。福島第一原発事故だけでもなく、高速増殖炉「もんじゅ」にせよ、六ヶ所村の核燃料再処理工場にせよ、また多核種除去装置ALPSにせよ、理論上設計し製造することは可能だが、恒常的・安定的に稼働しないものが多く存在するように思われる。といって、格納容器の修理を行うにおいても、ロボット技術その他、現在には存在しない科学技術を想定しなくてはならない。廃炉40年というが、それ自体が予測できない「未来」にかかっているのである。

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最近、福島第一原発について、前ほど報道されなくなっている。しかし、それだからといって、福島第一原発の状況が好転しているわけではない。むしろ、関心が薄まっている中で、とんでもないことがおきている。

その一つが、この事件だ。東電は、これまで、福島第一原発の護岸近くの観測用井戸から、ストロンチウム90を含むすべてのベータ線を発生する放射性物質の濃度を最大1リットルあたり90万ベクレルと説明してきた。しかし、実際はストロンチウム90だけで最大500万ベクレルであったと、2月6日に発表した。そして、予想では、ベータ線を出す全ての放射性物質濃度は、1000万ベクレルになる可能性が出てきたのである。現状では、ストロンチウム90だけでも、法定基準の16万倍以上なのである。次の河北新報のネット配信記事をみてほしい。

福島第1・放射性物質濃度 東電、測定ミス公表せず

 東京電力は6日、福島第1原発の護岸近くの観測用井戸の地下水から採取したベータ線を出す放射性物質(全ベータ)の濃度測定に誤りがあったと発表した。
 東電によると、全ベータの一部にすぎない放射性ストロンチウム90の検出濃度が全ベータの濃度を上回る矛盾した状態が遅くとも昨年10月から続いていた。同社はストロンチウム90の測定は分析中で、全ベータの最大濃度は1リットル当たり90万ベクレルと説明してきた。ところが、ストロンチウム90の測定がほぼ正確で全ベータの測定が誤りだったことが判明。東電が6日に公表したストロンチウム90(昨年7月採取)の最大濃度は500万ベクレル(法定基準30ベクレル)で、全ベータの推定濃度は「1000万ベクレル程度に跳ね上がる可能性がある」(同社)という。
 東電は昨年10月、全ベータの測定法のミスを認識し、測定法を変更。その後4カ月間、測定ミスを公表しなかった。東電福島広報部は「(測定ミス隠しは)意図的でなかったが、誤解を招きかねないことに思いが至らなかったと反省している」と話した。

2014年02月07日金曜日
http://www.kahoku.co.jp/news/2014/02/20140207t63020.htm

この測定ミスの原因について、TBSは次のような記事を2月8日にネット配信している。

東京電力の説明によりますと、放射線の計測器は、1リットルあたり数十万ベクレルなどの高い濃度の水の場合、測定しきれずに実際よりも低い数値を出すことがあります。これを避けるため、濃度が高い場合は水で薄めて測定し、数値を補正する方法が採られます。

 東京電力は、去年10月に、濃度が高い場合は水で薄める手順を社内で定めましたが、それ以前は、大量のデータを速く処理する必要があったため、水で薄める手順を省いていたということです。
http://headlines.yahoo.co.jp/videonews/jnn?a=20140208-00000014-jnn-soci

簡単にいえば、放射性物質濃度があまりに高い場合は、放射線計測器ではかれない場合があるので、水で薄めて計るべきであったが、「大量のデータを速く処理する必要があった」ので、それを省略していたということなのである。

これは、単なるミスではない。朝日新聞のネット配信記事(2月6日)によると「ストロンチウムの値がベータ線を出す放射性物質全体の値より高く出て矛盾が生じたため、東電は昨年6~11月に採取した海水や地下水など約140件分の値を公表せず、計測もやめていた」とある。すでに計測時から矛盾は出ており、TBSの報道のように、すでに10月には、水で薄める必要性があることは東電内部でも了解されていた。となれば、本来、それまでの計測結果についても疑わなくてならない。しかし、東電は、再計測しないまま、これまで放置したのである。「(測定ミス隠しは)意図的でなかったが、誤解を招きかねないことに思いが至らなかった」と東電は述べているが、これが「意図的でない」なら、なんなのだろうか。結局、低い濃度が出たので、あえて「寝た子は起こさない」つもりで放置したのであろう。

そして、2014年1月9日に、読売新聞は次のような記事をネット配信し、ストロンチウム90の測定方法が誤っている可能性を指摘した。しかし、それでも、東電は「測定結果に誤りがある可能性があり、公表できない」と述べ、「旧装置と異なる分析結果になった原因を詳しく解明してから、新たな装置による結果を公表したい」としたが、その時以降も自主的に公表する姿勢をみせなかったのである。

東電、ストロンチウム濃度公表せず…測定誤り?

 東京電力は8日、福島第一原子力発電所の港湾や井戸で海水や地下水を採取して調べている放射性ストロンチウムの濃度について、「測定結果に誤りがある可能性があり、公表できない」と発表した。

 海水などは定期的に採取して汚染状況を監視することになっており、放射性セシウムなどは毎週、濃度を分析して公表している。しかし、汚染水に含まれる主要な放射性物質の一つであるストロンチウムは、毎月分析することになっているが、昨年6月に採取した海水などの分析結果を最後に、半年近くも公表していなかった。

 東電によると、昨年夏まで使っていた装置の分析結果にばらつきがあり、信頼性に乏しかった。同9月に新たな装置を導入し、信頼性が向上したが、「旧装置と異なる分析結果になった原因を詳しく解明してから、新たな装置による結果を公表したい」と説明している。

(2014年1月9日07時29分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20140108-OYT1T01055.htm

東電のあまりの隠蔽体質については、監督機関の原子力規制委員会がクレームをつけた。1月24日に開かれた原子力規制委員会の作業部会では、次のような声があがっていた。福島民報が1月24日にネット配信した記事をみてほしい。ここで、すでに、原子力規制委員会の更田豊志委員は、「汚染水に含まれる放射性物質の検査結果に疑義があったのに東電の調査報告が遅過ぎる」として「今後の姿勢や改革が実行できるかに関わる。きちんと分析して経緯を報告してほしい」とし、「解釈しづらい分析結果であっても公表すべきだ」と指摘していたのである。

タービン建屋も汚染源か 第一原発の汚染水拡散 規制委指摘
 原子力規制委員会は24日、東京電力福島第一原発の汚染水対策を検討する作業部会を開いた。福島第一原発の東側護岸の地下に汚染水が広がっている問題で、1号機タービン建屋地下にたまった高濃度汚染水が漏れている可能性を指摘する意見が相次いだ。
 担当の更田豊志委員は作業部会に提出された資料から「(汚染水は)タービン建屋に起源がありそうだ。もともと水をためるものではないから、ある程度疑うのは自然だ」と指摘した。
 また更田委員は、汚染水に含まれる放射性物質の検査結果に疑義があったのに東電の調査報告が遅過ぎるとして「今後の姿勢や改革が実行できるかに関わる。きちんと分析して経緯を報告してほしい」と注文を付けた。
 汚染水からはストロンチウム90を含むベータ線を出す放射性物質が検出されているが、東電が昨年6月以降に採取した試料の測定でストロンチウムの濃度がベータ線を出す放射性物質全体の濃度を上回る結果が相次いだ。
 東電によると、同7月には社内で測定方法に問題があるのではないかと意見が出たが、相次ぐ汚染水問題への対応で原因調査が遅れ、現在も解明できていない。規制委への状況報告も今月にずれ込んだ。
 更田委員は「解釈しづらい分析結果であっても公表すべきだ」と指摘。会合に同席した東電の姉川尚史常務執行役は「マネジメントが徹底できておらず申し訳ない」と陳謝した。

( 2014/01/25 10:11 カテゴリー:主要 )
http://www.minpo.jp/news/detail/2014012513502

結局、以前あった原発事故隠しと同じなのである。さすがに、監督機関の原子力規制委員会まで籠絡できる状態ではないが、不都合な情報は隠蔽し、調査もせず、少しでも時間稼ぎをして、やり過ごそうとしたのである。これが「意図的でない」のなら、東電の運営能力自体を疑うべきであろう。

そして、これは、福島第一原発の護岸そばの観測用井戸だけの問題ではなくなってきた。タンクから漏洩していた汚染水も、ベータ線を出す放射性物質の濃度を過小評価していた可能性が浮上してきたのである。次の時事新報のネット配信記事をみてほしい。

300トン漏えいでも過小評価か=汚染水濃度、実態より低く―東電
時事通信 2月7日(金)18時13分配信

 東京電力福島第1原発で放射能汚染水の濃度が過小評価されていた問題で、東電は7日、昨年8月に判明したタンクから約300トンの汚染水が漏えいしたケースでも、濃度が実態より低い値で公表された疑いがあることを明らかにした。
 原子力規制委員会は東電が公表した濃度などを基に、国際原子力事故評価尺度(INES)で8段階のうち重い方から5番目の「レベル3」(重大な異常事象)と暫定評価したが、根拠が揺らぎかねない事態だ。
 事務局の原子力規制庁は「公表された濃度が実態よりも大幅に低かった場合は評価の見直しにつながり得る」と述べ、再引き上げの可能性に言及。一方、「評価の信頼性に関わるので慎重に対応しなければならない。東電の計測方法は以前から信ぴょう性が低く、最終的な評価結果が固まるには時間がかかる」との見通しを示した。
 東電によると、昨年10月まで同原発で用いられたストロンチウム90などのベータ線を出す放射性物質の濃度の測定方法は、1リットル当たり数十万ベクレルを超す汚染水では計測対象となる放射線が多いため正確に把握できず、実態よりも低い値が出る傾向にあった。 
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140207-00000139-jij-soci

これは、重大な問題である。記事にある通り、汚染水の濃度が過小評価されている場合、環境に流失した放射性物質の総量は大きくなるはずで、事故尺度を引き上げ、さらに、それに見合った対策が講じられなくてはならない。前年、安倍晋三は、「福島第一原発は完全にコントロールしている」と述べたが、いまや原子炉や放射性物質をコントロールしているどころか、これらの対処にあたるべき東電という機構のコントロールもできないでいるのだ。

そして、この記事で、原子力規制庁は「東電の計測方法は以前から信ぴょう性が低く」と他人事のように指摘している。放射性物質測定という、いわばルーティンワークですら、東電はまともにこなすことができない。原発再稼働に向けての安全審査などに時間・人員を費やすのではなく、福島第一原発の管理こそ、東電にまかせず、最優先にとりくむべきことなのである。

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安倍政権は、現在、高校における日本史必修化を提唱している。例えば、次の読売新聞のネット報道をみてほしい。

安倍首相、高校の日本史必修化に前向き

 安倍首相の施政方針演説など政府4演説に対する各党代表質問が29日午前、参院本会議でも始まった。

 首相は、高校での日本史の必修化について、「日本人としてのアイデンティティー(自己認識)、歴史、文化に対する教養などを備え、グローバルに活躍できる人材を育成する観点から検討を進める」と述べ、前向きに対応する考えを表明した。

 教育委員会制度の見直しについては、「責任の所在があいまいな現行制度を抜本的に改革していく」と述べ、教育行政に関する首長の権限強化を図る考えを示した。首相直属の教育再生実行会議は昨年、首長が任命する教育長を地方教育行政の責任者と位置づける提言をまとめており、首相は「提言を踏まえ、与党の意見をいただきながら改革していく」と述べた。

 民主党の神本美恵子副代表、自民党の溝手顕正参院議員会長の質問に答えた。

 靖国神社の参拝については、神本氏が政教分離原則に反する可能性があると指摘したのに対し、首相は「私人の立場で行った。供花代を公費から支出しておらず、指摘はあたらない」と反論した。

(2014年1月29日 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/news/20140129-OYT8T00696.htm

安倍政権の他の教育への介入と相違して、日本史必修化について、歴史学関係者は微妙な対応を示すかもしれない。一般に日本の歴史学関係者というと、どうしても日本史専攻が多い。プリミティブに考えると、日本史教育の拡充自体については肯定的に受け止める人もいるかもしれない。そしてまた、一般の人も、安倍政権に対する評価とは別に、やはりよいことのように思うかもしれない。

しかし、「日本史」ー「国民の歴史」とは何だろうか。フランスの歴史家ピエール・ノラは、フランスの「国民の歴史」について、このように言っている。

 

無意識のうちに理解される意味において、歴史は、本質的に国民を表現していたし、国民もまた本質的に歴史を通じて表現されていた。このような歴史は、学校という回路を通して、時とともに、われわれの集合的記憶の枠組みや鋳型となっていた。国民の教師として形成された科学的歴史それ自体は、この集合的記憶の伝統に修正を加え、その質を向上させることに本来の意義があった。だが、科学的歴史がどんなに『批判的』であろうとしても、この伝統を深化させるばかりであった。科学的歴史の究極の目的は、まさしく系譜による身元確認にあった。こうした意味において、歴史と記憶は一体を成していた。歴史とは、実証された記憶だったのである。(ノラ「コメモラシオンの時代」 『記憶の場』Ⅲ、2003年、原著1992年)

この「国民の歴史」がもたらすものは何だろうか。ノラは、さらに、このように言っている。

エルネスト・ルナンが定義したような国民の持つ効力がいま再発見されているが、ルナン流の国民は、二つの要素を結び付けることに基づいて定義されたのであって、国民史に代わる国民的記憶の勃興は、この二つの要素が決定的に分離したことをうかがわせる。その二つの要素とは、過去の遺産としての国民と未来の企図としての国民であり、言い換えれば、「ともに偉大なことを成した」という意識と「これからも偉大なことを成そう」とする意識、あるいは、死者に対する崇拝と日々の人民投票([国民の存在は、日々の人民投票である]は、ルナンの用いた隠喩)である。英雄的過去の崇拝と犠牲に同意する精神に基づくルナンの主意主義的国民観は、普仏戦争における国民の敗戦と屈辱の深淵から立ち現れ、対独復讐、植民地の獲得、強力な国家の建設へと突き進んでいった。超国家的な連帯や国家内の地域的な連帯の時代である今日、緊急の課題は、国民の抱きたがる自己像を永続化することではなく、国民に関係し、国民に義務を負わせるさまざまな決定に国民自身が現実に参画することである。こうした時代には、すでに存在せぬものの存在を前提とするような不当な論理でもって、あの主意主義的国民をよみがらせてはならない。(ノラ「コメモラシオンの時代」 『記憶の場』Ⅲ、2003年、原著1992年)

つまりは、19世紀から20世紀にかけて、帝国主義的戦争遂行の前提となった国民国家の形成と「国民の歴史」は不可分なものであったとノラは述べているのである。ノラは、たくみに「ともに偉大なことを成した」という意識が「これからも偉大なことを成そう」とする意識に結び付けられていることを示している。靖国参拝などは非常に分かりやすい例だが、そもそも「国民の歴史」自体がそのようなものであったのである。

これは、フランスだけではない。日本近現代史家の鹿野政直氏は、次のように指摘している。

日本史学は、皇国史観から戦後史学へ大きな転換をしたとの自意識をもってきたが、その転換にもかかわらず貫通する史学としての制度性の確信が、検討の対象となりつつあるともいうことができる。そこにメスを入れない限り、これまで過去認識を統整し支配してきた歴史学は、ありうべき過去認識にとって最大の障壁になるのでは?との危機感、いやむしろ恐怖感が、わたくしたちのなかに蔽いようもなくひろがってきている。(『化生する歴史学』、1998年)

安倍政権の提唱する「日本史」重視に、いかなる形で対処するのか。これは、批判するだけではすまない問題である。ノラは、単一の「国民史」ではなく、フランスの過去についての多様な(たぶん多元的な)「国民的記憶」が勃興していることを強調している。しかし、それは、EC(現在はEU)諸国への同調による「強大国から並の大国へ移行したのだとの認識が決定的に内面化」(ノラ)されたことが前提となっているだろう。「超国家的な連帯や国家内の地域的な連帯の時代である今日、緊急の課題は、国民の抱きたがる自己像を永続化することではなく、国民に関係し、国民に義務を負わせるさまざまな決定に国民自身が現実に参画することである」というノラの課題は、私たちの課題でもあるが、それを克服することは、より困難な問題なのである。

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