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Archive for 2014年5月

本ブログでは、雁屋哲作・花咲アキラ画「美味しんぼ」において鼻血など福島の人びとの健康状況をとりあげたことに対して閣僚や福島県知事などが批判したことについて、もともと、鼻血の有無も含めて、避難区域など除外した福島県民全体に対して十分健康診査をしていないことを述べた。

さて、5月19日に、福島の人びとの健康状況をとりあげた「美味しんぼ」の「福島の真実」編のクライマックスである第604話(『週刊ビックコミックスピリッツ』2014年6月2日号所載)の販売が開始された。そのことを伝える NHKのネット配信記事をまずみてほしい。

健康影響描写が議論「美味しんぼ」最新号
5月19日 16時36分

東京電力福島第一原子力発電所の事故による健康影響の描写が議論を呼んだ漫画「美味しんぼ」を連載する雑誌の最新号が19日に発売され、地元福島県では「不安に追い打ちをかけられた」と批判的な意見がある一方で、「原発事故の問題が風化してきているなかで発信することは大事だ」と理解を示す声も聞かれました。

「美味しんぼ」は、小学館の雑誌「週刊ビッグコミックスピリッツ」に連載されている人気漫画です。
先月28日の連載で、主人公が福島第一原子力発電所を取材したあとで鼻血を出し、実名で登場する福島県双葉町の前町長が「福島では同じ症状の人が大勢いますよ」と語る場面などが描かれ、福島県や双葉町が「風評被害を助長する」などと批判していました。
最新号では、自治体からの批判や、有識者13人の賛否両論を載せた特集記事が組まれ、最後に「編集部の見解」が掲載されています。
この中で編集部は、一連の表現について「残留放射性物質や低線量被ばくの影響について、改めて問題提起したいという思いもあった」と説明したうえで、「さまざまなご意見が、私たちの未来を見定めるための穏当な議論へつながる一助となることをせつに願います」と締めくくっています。
これについて、福島県ではさまざまな意見が聞かれました。
このうち、福島県中島村の64歳の女性は「放射線量が下がってきて、食品もいろんな検査を通して落ち着いて生活できるようになってきたのに、3年目にして不安に追い打ちをかけられた気持ちです」と話していました。
本宮市に住む30歳の女性は「全体的に原発事故の問題が風化してきているので、このように発信することは大事だと思う。福島がこれから立ち上がっていこうとしているところをほかの人にも知ってほしいし、この問題を取り上げるのは勇気のいることではないか」と理解を示していました。

前双葉町長「住民と議論尽くすべき」
漫画「美味しんぼ」に実名で登場した福島県双葉町の前の町長の井戸川克隆氏は19日、NHKの取材に応じました。
このなかで井戸川前町長は、血が付いた紙を見せながら、みずからもいま毎日のように鼻血がでるとしたうえで、「鼻血が出ることについて、風評ということばで片付けられようとしているが、福島でどのように皆が苦しんでいるか、鼻血がどれくらい出ているか、実態を調べていない人が『ない』と言っている感じがする」と話しました。
そのうえで、「『安全だ』と言う人と『危険だ』と言う人の両方の意見を聞くべきだが、そうしたプロセスが取られずに、安全だとか、安心だという宣伝ばかりが先行しており、危険だという人の意見を小さくしている。避難にあたっての放射線の基準などについて、政府は一方的に考えを押しつけるのではなく、さまざまな考えを持つ住民と議論を尽くすべきだ」と述べました。

被ばく検査の医師「国民全体が放射線の知識を」
東京電力福島第一原子力発電所の事故による健康影響の描写が議論を呼んだ漫画「美味しんぼ」について、福島県南相馬市を拠点に住民の被ばく検査を行っている東京大学医科学研究所の坪倉正治医師は、放射線の影響を正しく判断できるよう、国民全体が放射線の知識を身につけることが重要だと訴えました。
坪倉医師は被ばくと鼻血の関連性について、「現在のさまざまな放射線量の測定では、被ばくが鼻血を引き起こすような高いレベルではない。被ばくによる鼻血は血小板の減少で出血するので、鼻血が少し出るという程度ではすまない」と指摘しました。
また、福島には住めないという表現について、「汚染が起きたことは確かだが、3年以上計測してきた住民の被ばく線量では、現在、人が住んでいる地域は安全性が担保される被ばく量に収まることが分かっている」と述べました。
そのうえで、「今回の件で福島の子どもたちが将来、差別を受けるきっかけを作ってしまったことは残念だ。差別や臆測に対して行われている放射線の検査や被ばく線量などを、福島の住民1人1人が自分のことばで説明できるようになってほしい。福島県外の人たちも福島の現状を正しく理解し、放射線を安全か危険かという二元論ではなく、どういうものかを小中学校できちんと議論して理解する機会を増やすべきだ」と訴えました。

「正しい情報提供を積極的に」
メディア論に詳しい学習院大学の遠藤薫教授は「放射能を不安に思っている人に対して『根拠がない。風評だ』とだけ言っても、実はもっと怖いことが隠されていると思ってしまい、事態が悪化する。不安に対していろいろな形で答えていくのが重要で、これまでの研究でも正しい情報を積極的に提供していくことで、根拠のないデマに惑わされなくなるというのがセオリーだ。委縮して声を出しにくい状況をつくるのではなく、いろいろな情報を出して議論する場をつくっていかなければいけない」と話しています。

被ばく医療専門家「血管だけ障害考えられない」
被ばく医療が専門の放射線医学総合研究所の明石真言理事は「全身に被ばくして骨髄に障害が起きて血小板が減り鼻血が出ることはありえるが、今回の事故では住民に骨髄に障害が起きるような被ばく線量になっていない。鼻の周辺に強い放射線が当たるような場合でも周辺の粘膜や皮膚組織にも障害が出るはずで、血管だけが障害を受けるということは考えられない。鼻血の症状を訴える頻度が増えているとしたら放射線以外のことを考えるべきで、さまざまな原因があり人によって違うと思う」と話しています。
そのうえで今回の問題については「人々の間に放射線への不安が完全には消えていないことと、専門家の話を心の底から信頼できていないことが大きいと思う。『また福島でこんなことが起きているの』と福島県外の人に思わせてしまったことは大きなマイナスで、こういうときにどうすべきかみんなで考えていくべきだと思う」と話しています。

「国は疑問解決のための調査を」
「美味しんぼ」の問題について、科学技術と社会の関係を研究している大阪大学コミュニケーションデザイン・センターの平川秀幸教授は、「放射能の影響を一面的に描くことで誤った情報が広まるおそれがあり、当然配慮が必要だったと言える。しかしこの一方で、多くの人が被ばくについて心配するなか、住民の不安な思いなどがかき消され、伝えられなくなるのは大きな問題だ」と指摘しています。
そのうえで、「国などは住民が放射能の影響について何を問題とし不安に思っているかきちんと向き合い、疑問を解決するための調査などを進めていく姿勢が求められる」と話しています。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20140519/k10014553891000.html

この記事は「美味しんぼ」における福島の人びとの健康状況の描写の是非について述べているが、「美味しんぼ」漫画全体では、何をメッセージとして訴えているのかについては全くふれていない。この「描写」についても、「メッセージ」と表裏一体の関係にあるはずだが、それは全く考慮されていないのである。

私自身は、19日に、この「美味しんぼ」が掲載されている『週刊ビックコミックスピリッツ』2014年6月2日号を入手した。漫画自体をコピペしたり、あらすじを詳細に述べてネタバレすることはさけつつ、『美味しんぼ』が発したメッセージをここで紹介しておこう。

一応、簡単に設定を紹介しておくと、この「美味しんぼ」第604話は、料理批評のライバルであり親子でもある山岡士郎と海原雄山が、取材チームをひきつれて、福島県内外において、福島第一原発事故による福島の人びとへの影響を2013年4月に取材するというものである。この取材過程で、主に山岡と海原がメッセージを述べているのである。

まず、この漫画の前のほうで、前号などにとりあげた井戸川克隆前双葉町長と荒木田岳福島大学准教授について触れながら、海原と山岡は、次のような対話をしている。

海原雄山:井戸川前双葉町長と福島大学の荒木田先生は、福島には住めないとおっしゃる…。
だが、放射能に対する認識、郷土愛、経済的な問題など、千差万別の事情で福島を離れられない人も大勢いる。
今の福島に住み続けて良いのか、われわれは外部の人間だが、自分たちの意見を言わねばなるまい。
山岡士郎:自分たちの意見を言わないことには、東電と国の無責任な対応で苦しんでいる福島の人たちに嘘をつくことになる。
海原:偽善は言えない。
山岡:真実を語るしかない。

ここで、「美味しんぼ」のメッセージのテーマが明確に提起されている。それは、福島に住みつづけることの是非について、外部の人間から「自分の意見」を言うことなのだ。これを言わないことについて、山岡と海原は「福島の人たちに嘘をつくこと」であり、「偽善」というのである。そして、山岡は「真実を語るしかない」という。

そして、この漫画の後のほうで、このテーマに対する答えが述べられている。まず、山岡は「原発事故は日本という国がいかに大事なものか思い知らせてくれた。福島を守ることは日本を守ることだ」といっている。その部分を紹介しておこう。

山岡:僕の根っこが福島だという父さんの言葉についてだけど、原発の事故がこのまま収まらず、拡大したら福島県は駄目になる。
それは福島にとどまらず日本全体を破壊する。
福島の未来は日本の未来だ。これからの日本を考えるのに、まず福島が前提になる。
海原:なるほど。だから福島は日本の一部ではなく、日本が福島の一部と前に言ったのだな。
山岡:世界のどこにいようと僕の根っこは日本だ。
原発事故は日本という国がいかに大事なものか思い知らせてくれた。
福島を守ることは日本を守ることだ。であれば、僕の根っこは福島だ。
海原:うむ。私の問いに対する答えとして、それでよかろう。

私自身の個人的な感覚では「福島を守ることは日本を守ることだ」というフレーズに違和感を感じなくもない。福島第一原発事故は、単に「日本」だけの問題ではなく、「世界」全体の問題になっていると考えているからである。ただ、いずれにせよ、福島を守るということは、福島以外を守るということでもあるということは確かなことだ。その意味で、福島の外部にいる者も「福島」の運命に結び付けられているのである。それを「美味しんぼ」はこの部分で確認している。

その上で、「美味しんぼ」では、福島県に住みつづけることの是非について、このように結論づける。

山岡:父さんは、福島の問題で、偽善は言えないと言ったね。
海原:福島に住んでいる人たちの心を傷つけるから、住むことの危険性については、言葉を控えることが良識とされている。
だが、それは偽善だろう。
医者は低線量の放射能の影響に対する知見はないと言うが、知見がないと、とはわからないということだ。
私は一人の人間として、福島の人たちに、危ないところから逃げる勇気をもってほしいと言いたいのだ。
特に子供たちの行く末を考えてほしい。
福島の復興は土地の復興ではなく、人間の復興だと思うからだ。
山岡ゆう子:人間の復興…それが一番大事だわ。
飛沢周一(別人かもしれない):では、われわれにできることは。
山岡:福島を出たいという人たちに対して、全力を挙げて協力することだ。
海原:住居、仕事、医療などすべての面で、個人では不可能なことを補償するように国に働きかけることだ。
岡星良三(別人かもしれない):そう働きかけることはわれわれの義務だ。

「美味しんぼ」は、福島の人たちへは「危ないところから逃げる勇気をもってほしい」とよびかけた。他方、福島の外部にいる「われわれ」に対しては「福島を出たいという人たちに対して、全力を挙げて協力することだ」「住居、仕事、医療などすべての面で、個人では不可能なことを補償するように国に働きかけることだ」と課題を提起し、それを「われわれの義務」とした。

「美味しんぼ」は、「医者は低線量の放射能の影響に対する知見はないと言うが、知見がないと、とはわからないということだ」と指摘している。これは、全く、その通りである。「美味しんぼ」について、非科学的などという批判が浴びせられた。しかし、他方で、だれも「低線量の放射能」が健康に影響しないと言い切ることはできない。そのような調査すらやっていないのである。

その上で指摘された「福島の復興は土地の復興ではなく、人間の復興だ」とする言葉は重い。復興の目的が「人間の復興」であるならば、健康に影響に影響があることが懸念される土地に住みつづけるということは、ありえないことなのである。結局、一般的に言われている「復興」とは「土地の復興」であって「人間の復興」ではないということなのである。別に放射線のことがなくても、国や地方自治体が進めていることは、所詮「土地の復興」であり「人間の復興」ではないのである。

このメッセージは、非常に勇気のあるものだ。個々の漫画叙述についてひっかかる人も、安倍政権の閣僚や福島県知事ではなくてもいるだろう。それでも、「美味しんぼ」のこのメッセージをうけとってほしいと思う。

もちろん、福島県に住み続けなくてならない人びともたくさんいる。その人びとにとって、このメッセージは意にそぐわないこともあるだろう。このメッセージは「理想」論であり、現実には実現できないという人もいるだろう。しかし、こう考えて欲しい。「現実」を多少とも我慢できるものとしていくためにも「理想」は必要なのであると。

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さて、雁屋哲原作の漫画「美味しんぼ」で、福島県において「鼻血」症状が出ていると描写し、福島県や安倍政権の閣僚たちが批判するという状態になっている。福島県で「鼻血」症状が多発しているというのは、ある方面ではポピュラーな話であった。しかし、このことを、低線量の放射線では、鼻血がでるような典型的な「急性放射線症」は発症しないといって、やっきになって福島県などは否定しようとしている。

しかし、ここでは、別な方面から考えてみよう。福島県は、鼻血の有無も含めて福島県民の現状の健康状態を把握しているのだろうか。つまり、「福島県民は健康である」という「科学的」根拠を把握したうえで「美味しんぼ」に反論しているのだろうか。そこで、ここでは、福島県の健康調査の実情について概観していくことにしたい

福島県のサイトをみると、全県民を対象にして「県民健康調査」というものを行っている。そのうち、もっとも重視しているのは「基本調査」というものだ。これは、全県民に福島第一原発事故時点の行動を「問診票」という形で答えてもらい、そこから被ばく線量を推計するというものだ。そして、本来であれば、この基本調査の結果を前提にして、「血算」検査(赤血球数、ヘマトクリット、ヘモグロビン、血小板数、白血球数、白血球分画)を含んだ「健康診査」を実施する予定にしていた。今いわれている「鼻血」についても、この「血算」検査で決着が着いたのではないかと思われる。この「健康診査」は、避難区域住民は全員対象となっている。たぶん、避難住民以外の県民は、被ばく線量の高低が「健康診査」を受ける基準となっていたのだろう

この基本調査は、いまの時点でも25%ほどしか完了していない。そして、このやり方自体も完璧なものとはいえない。そして、現時点では、年間1mSv未満の人が66.8%、1−2mSvの人が28.6%、2−3mSvの人が4.7%いるということになっている。そして、最高値は66mSvとなっている。原発関連でない人の最高値は25mSvである。もし、除染基準1mSvを基準とするならば、確かに高線量の人は少ないものの、30%以上の人々は、基準以上の放射線に被ばくしたということになるだろう。

この中間結果について、福島県では、「県民健康管理調査「基本調査」の実施状況について」の中で、次のような判断を下している。

実効線量の推計結果に関しては、これまでと同様の傾向にあると言える。
これまでの疫学調査により100mSv以下での明らかな健康への影響は確認されていない1)ことから、4ヶ月間の外部被ばく線量推計値ではあるが、「放射線による健康影響があるとは考えにくい」と評価される。
参考文献
1)放射線の線源と影響 原子放射線の影響に関する国連科学委員会 UNSCEAR2008年報告書[日本語版]第2巻 独立行政法人放射線医学総合研究所
http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/51045.pdf

「基本調査」では年間100mSv以上の被ばく線量の県民はいなかった、ゆえに「放射線による健康影響があるとは考えにくい」としたのである。現実に健康に影響があるかどうかはお構いなしなのである。

そして、このような結論を出したことは、次のステップで行われるはずの「血算」検査を含んだ健康診査の進行計画に多大な影響をもらたした。福島県では、「これまでのモニタリング値や避難の状況、また、基本調査による推計値等から考えられる被ばく線量及び現在得られている低線量放射線の健康影響に関する知見を踏まえると、健康に影響を及ぼすリスクは、他の生活習慣と関連する健康リスクに比べ低いと予想される。」という見解を前提にして、 避難区域以外の住民に「健康診査」を実施するかいなかについて、次のような意見の対立があったとサイトの中でのべている。

3 必要と認める基準案

(第1案)
現状では科学的・論理的に詳細調査を必要と認める基準を設定することは困難ではあるが、既に実施されている詳細調査の対象者を拡大する基準線量を明示しないことは、基本調査から詳細調査へ移行するという当初の枠組みと一貫性を欠くこととなるため、これまで住民の安全を確保するために国が示した警戒区域等の線量基準、今回新たに当該区域の見直しのために示された線量基準等との整合性も鑑みた上で、基本調査での外部被ばく推計線量の結果が一定以上の者を、詳細調査が必要と認められた者とする。

(第 2 案)
現段階で得られている被ばく線量の情報からは、外部被ばく線量推計結果を特別な判断基準とした詳細調査を行う必要性は認められない。基準線量設定には科学的根拠が必要であるが、現状では明確な説明が困難である一方、国内外において生じる影響は非常に大きい。また、基準値を上回った住民の健康に対する必要以上の不安を招いたり、差別などが生じる懸念がある。更に、上記2(1)の見解との整合性もとれないことから、この低線量領域での推計線量の大小で区別して新たな対応をすることよりも、全県民対象とした定期的な検診等やがん登録の充実を図ることにより、長期間に渡ってフォローアップする枠組みを設計することが重要と考えられる。
なお、今後も続くことが予想される避難の状況、先行調査地域以外での外部被ばく線量の推計結果、他の検査や調査の結果等を総合的に判断することとし、今後の状況等の変化により必要が生じた場合には、当該状況等を考慮して改めて基準案を検討する。
第6回福島県「県民健康管理調査」検討委員会(平成24年4月26日開催)資料
http://www.pref.fukushima.jp/imu/kenkoukanri/shiryou2.pdf

第一案は、もともとの予定通り、一定の基準以上の推計線量の人たちを「血算」検査を含んだ「健康診査」の対象とするということであり、第二案は、低線量で健康に影響がないのであるから、「健康診査」を実施しないというものである。この両案の是非は判断されず「検討中」ということで先送りになったが、結局、現在まで避難区域の住民以外は実施されていないので、実質的には第二案になったということができる。ここで、避難区域以外の一般県民について、「血算」検査を含んだ「健康診査」は実施されないことになったのである。

そして、避難区域以外の県民には、「血算」検査を含まない形の「健康診査」が実施されるようになった。40歳以上は、市町村で一般的に成人病予防を目的とした「健康診査」サービスが提供されているが、福島県では、「健康診査」の対象年齢以下の19〜39歳に「健康診査」が受けられるようにしたのである。といっても、尿検査や血圧、血液生化学など、一般の「成人病」検査と同様なものでしかない。そして、前述したように、わざわざ「血算」検査を除外したのである。

他方、避難区域の住民については、「健康診査」は実施された。しかし、成人分については受診者数しか公表されていない。小児分については「まとめ」が公表されている。しかし…とりあえずあげておこう。

【まとめ】
0 歳から 15 歳までの小児について、男女とも、平成 23 年度に比較して平成 24 年度は、身長が高くなり、体重が減少する傾向がみられた。したがって、平成 24 年度は平成 23 年度に比較して、運動量が増加し食習慣が改善された可能性がある。しかし、全国に比較すると、平成 24 年度の女児において身長はほぼ同等であるが、体重がやや多い傾向があり、より一層の生活環境改善が望まれる。
平成23・24年度県民健康管理調査「小児健康診査」
http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/51062.pdf

一読すれば理解できるように、「身長」と「体重」だけしか言及されていないのである。「血算」検査をしているはずだが、それにはまったく触れていない。

このような、福島県の県民健康管理調査のあり方から、二つのことが読み取れよう。まず、第一に、福島県では、年間100mSv未満の低線量被ばくでは健康に影響がないとして、避難区域住民は別として、放射線に関連した「健康診査」自体を中止したことである。確かに、今までよりも健康診査の機会は増えただろうが、放射線量との関連はあえて切断されているのである。この結果、低線量被ばくと、現実の健康被害との関連を検討することはできなくなったのである。低線量被ばくにおける健康への影響については定説がないが、そのことを科学的に「実証」しようということは放棄されている。

第二に、「血算」検査に対する福島県の忌避感が非常に強いことが読み取れよう。避難区域外の県民には、わざわざ「血算」検査をぬいて「健康診査」を提供している。また「血算」検査をしているはずの避難区域住民の「血算」検査結果は公表されていない。ある程度の検査結果は出ていると考えられるが、何もないーというか標準的な程度の結果であれば、公表したほうが県の立場としてもよいのではないかとも思う。現実の「血算」検査結果において、見のがし得ないほどの「問題」がおきているのではないかと思うのである。

このように、そもそも、福島県は「美味しんぼ」に対して、実証的な反論が可能なデータをもっているのかとも思う。福島県は、そもそも、県民全体の健康を考える立場にたって、「健康診査」をやり直すべきであろう。現状では、福島県で「鼻血」が多発しているかいなか(つまりなんらかの血液異常があるかどうか)、そして、それが放射線の影響によるものなのかどうかということを確定的に福島県の調査結果からいうことはできない。現実の福島県民の健康状態はどういうものなのか。そもそも、「100mSv未満は健康に影響がない」というドクトリンばかりなのであり、それですべての問いを封殺しているというのが福島県の姿勢なのである。

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このブログにおいて、4月29日に安倍首相が欧州外遊に出発した際、「日本と価値観を共有する欧州との関係を強化し、日本の発信力を強化していきたい」と語ったことを紹介した。そして、そもそも、安倍政権は欧州と価値観を共有しているのかと疑念を呈しておいた。

さて、実際、安倍首相は、欧州で、「基本的な価値を共有する国々と、公正なルールの下で競争が確保される大きな経済圏」をつくり上げることを強調した。次に、6日午前(日本時間同日午後)、パリで開かれた経済協力開発機構(OECD)閣僚理事会における安倍首相の基調講演の要旨を伝える時事通信のネット配信記事をかかげておく。

【パリ時事】安倍晋三首相が経済協力開発機構(OECD)閣僚理事会で行った基調講演要旨は次の通り。
 日本は今まさにデフレから脱却しようとしている。大胆な改革を断行する「条件」は整ったとの判断の下、先月消費税率を引き上げた。経済再生、財政再建、社会保障改革の三つを同時に達成する。私は改革を恐れない。
 日本の電力市場を、2020年を目途に完全に競争的な市場へと改革する。再生医療では民間活力を生かす規制改革を実施した。政府主導で大胆な規制改革を先んじて行う国家戦略特区制度も動きだす。さらなる法人税改革を進めていく。
 私の改革リストのトップは、世界のパートナーとの経済連携協定(EPA)交渉加速だ。オーストラリアとはEPAで大筋合意した。環太平洋連携協定(TPP)も最終局面にあり、早期妥結に向けて交渉をさらに加速する。通商の自由、法の支配といった価値の下、活発な経済が復活できる。知的資本がフリーライド(ただ乗り)されてはならない。過酷な労働を強い、環境への負荷を垂れ流すことによって価格競争で優位に立つことがあってはならない。
 基本的な価値を共有する国々と、公正なルールの下で競争が確保される大きな経済圏をつくり上げていく。参加を望む国々を歓迎するが、そのためには新たな経済秩序に賛同してもらう。日・欧州連合(EU)EPAこそ一日も早く成立させるべきだ。
 ロボットによる「新たな産業革命」を起こすマスタープランを早急に作り、成長戦略に盛り込む。イノベーションを起こし続けることが経済成長をけん引する鍵だ。横並び、単線型の教育では斬新な発想は生まれない。労働制度の見直しも進め、女性が輝く社会を創り上げる。能力あふれる外国人に日本でもっと活躍してもらう。誰にでも、何度でもチャンスがある、ベンチャー精神あふれる国へと日本を変えていく。(2014/05/06-18:05)
http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2014050600298

これは、基本的に「アベノミクス」を自画自賛したものである。このなかで、安倍首相は「基本的な価値を共有する国々と、公正なルールの下で競争が確保される大きな経済圏をつくり上げていく。参加を望む国々を歓迎するが、そのためには新たな経済秩序に賛同してもらう。日・欧州連合(EU)EPAこそ一日も早く成立させるべきだ」と主張した。EPAとは経済提携協定のことである。安倍における改革のトップ項目は、世界各国で経済提携協定を結ぶことであり、環太平洋提携協定(TPP)とともに、EUとのEPAを早期に成立させ、「基本的な価値を共有する国々と、公正なルールの下で競争が確保される大きな経済圏」をつくり上げることを強調したのである。

しかし、EUは、日本と「基本的な価値を共有している」と考えているだろうか。他ならぬEPA締結交渉において、EU側は、日本で人権侵害や民主主義に反する事態が起きた場合、EPAを停止するという「人権条項」を要求し、日本側が猛反発していることがつたえられている。次の時事通信のネット配信記事をみてほしい。

EU、日本に「人権条項」要求=侵害なら経済連携協定停止

 【ブリュッセル時事】欧州連合(EU)と日本が、貿易自由化に向けた経済連携協定(EPA)と同時並行で締結交渉を行っている戦略的パートナーシップ協定(SPA)に、日本で人権侵害や民主主義に反する事態が起きた場合、EPAを停止できるとの「人権条項」を設けるようEUが主張していることが5日、分かった。日本は猛反発しており、EPAをめぐる一連の交渉で今後の大きな懸案になりそうだ。
 EU当局者によると、EUはSPAに民主主義の原則や人権、法の支配の尊重を明記し、日本が違反した場合、EUがEPAを停止できる仕組みを盛り込む方針を内部決定した。日本に対しては、EUで人権侵害が起きれば日本もEPAを停止できると説明、理解を求めている。
 経済的利益と引き換えに民主化を迫るのは、開発途上国や新興国に対するEUの基本戦略。人権条項は第三国との協定で「不可欠の要素」とされ、対日SPAも、こうしたEU外交の延長線上にある。ただ、EUは米国との自由貿易協定(FTA)交渉では、SPAのような政治協定の締結を求めていない。
 EU当局者は、日本に対して人権条項が発動される事態は考えにくいと強調するが、EUは日本で死刑が執行されるたびに「死刑は残酷で非人道的だ」と批判する声明を発表している。死刑廃止を目指すEUが日本に働き掛けを強める上で、人権条項が無言の圧力になる可能性はある。
 日本に人権条項をのませておけば、EUが将来中国とFTA交渉を行う場合、人権条項の要求を通しやすくなるとの思惑もあるようだ。 
 日本は、もともと途上国向けの政策を先進7カ国(G7)メンバーの日本に適用しようとするEUの姿勢に憤慨しており、SPAがEPAを拘束する仕組みについても、法的に疑問が残ると主張。日本は外国との貿易自由化でSPAのような協定を結んだ例が過去になく、交渉段階でEUの主張を受け入れても、内閣法制局の審査で問題になる可能性があるとの懸念もEU側に伝えている。(2014/05/05-20:18)
http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2014050500353

時事通信の解説では「経済的利益と引き換えに民主化を迫るのは、開発途上国や新興国に対するEUの基本戦略。人権条項は第三国との協定で「不可欠の要素」とされ、対日SPAも、こうしたEU外交の延長線上にある」とされている。そして、そもそも、アメリカのFTA交渉で人権条項設定をEUは求めていないのである。時事通信は、日本における死刑制度の存在を理由としてあげているが、アメリカもまた、全土ではないにせよ死刑が存続している国である。確かに、死刑制度も「人権条項」設置要求の理由の一つであろうが、それだけではない。そもそも、「人権」という「基本的価値」において、EUはアメリカとは「共有」しているが、日本とは「共有」しているとは考えていないのである。

例えば、国連人権理事会は日本についてさまざまな勧告を行っているが、近年の日本政府は無視する傾向にあることが指摘されている。IWJ Independent Web Journalの次のネット配信記事をみてほしい。

2014/04/22 国連自由権規約の日本審査を前にNGOが共同会見 「日本政府は開き直っている」

 今年7月に行われる国連の自由権規約委員会の日本審査を前に、4月22日(火)、日本の人権問題に取り組むNGOが共同で、事前の記者向けブリーフィングを行った。

 国際人権NGO「ヒューマンライツ・ナウ」事務局長の伊藤和子氏は、ここ何年かの日本政府の特徴について、「開き直って、国連の勧告を実施しなくても良いという態度を鮮明にしている」と指摘。「昨年の拷問禁止委員会では、2008年に出された自由権規約と同じようなものなのに、この勧告には拘束力がないなどと、従う義務は無いという閣議決定をしている。国連の特別報告者が来日しても、個人の見解であり従わないと明確に言っている」と話し、日本政府が人権問題についてお粗末な態度を取り続けていることを紹介した。

 自由人権協会の升味佐江子氏は、昨年12月の臨時国会で可決・成立した特定秘密保護法について、様々な問題点があると指摘する。公安情報の共有という理由で米国に情報が提供できるという条項があったり、戦前戦中の軍機保護法や治安維持法を想起させるような条項も含まれている。また、人権規約19条委員会意見「アクセス権は、市民の権利」に照らしても、特定秘密保護法は問題であると語った。

 政府の持つ情報へのアクセス権の制約についても、「必要最低限でなければいけない。その制限についても法律で決めなければいけない。政府の自由裁量に任せてはいけない」と話し、特定秘密保護法は人権規約19条違反であることを強調した。

 昨年5月21、22日に開かれた国連拷問禁止委員会の場では、日本政府を代表して出席した外務省の上田秀明人権人道大使(当時)が、「シャラップ!(だまれ!)」などと発言したことが波紋を呼んだ。今年7月に開かれる予定の自由権規約委員会は、日本政府が2008年10月以来の報告書審査を受けることになっており、特定秘密保護法やヘイトスピーチ、慰安婦問題、日本の刑事司法問題などに対する政府の見解が注目される。(IWJ・石川優)
http://iwj.co.jp/wj/open/archives/135956

これは、安倍政権が登場する以前から存在する日本政府の傾向を指摘したものだ。そして、安倍政権は、このブログで指摘したように、政権獲得以前の2012年4月に出した自由民主党の「日本国憲法改正案Q&A」増補版において、明確に「西欧の天賦人権説」を否定した。憲法における基本的人権という最も根幹に存在する「価値観」において、自民党は「欧州」とはあえて異なった見解をもっており、その自民党が組織したのが安倍政権なのである。

安倍政権としては、冷戦期、いやもっと古くの明治期における「脱亜入欧」路線にさかのぼって、「欧米」諸国と価値観を共有して一体化していることを強調し、国際的地位を確立させようしているといえる。しかし、実際には、人権において価値観を欧米諸国と共有していないのだ。それは、近年の日本政府全体の動向や、安倍政権の性格からも裏書きされている。結局のところ、EUは、経済連携協定において「人権条項」設置を要求し、日本側は「先進国」に適用するのかと憤慨しているが、これを招いたのは、日本政府総体や安倍政権の「人権」観といえよう。その意味で、安倍首相の「価値共有する経済圏」構想をはばんでいる大きな要因は、欧米の価値と共有しない人権意識をもっている日本政府・安倍政権自体の特質にあるといえよう。そして、このことは、安倍政権のもつ根源的な矛盾の現れなのである。

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東京電力は4月30日に3年ぶりに「黒字」になったと発表した。ここでは、毎日新聞のネット配信記事をあげておく。

東京電力:3年ぶり黒字 料金値上げとコスト削減で
毎日新聞 2014年04月30日 20時47分(最終更新 04月30日 20時55分)

 東京電力が30日発表した2014年3月期連結決算は、経常損益が1014億円と3年ぶりの黒字を確保した。電気料金値上げに伴う収入増やコスト削減効果が大きかった。しかし、今年1月に策定した新たな総合特別事業計画(再建計画)で前提とした柏崎刈羽原発(新潟県)の今夏の再稼働は見通せず、15年3月期の業績見通しは「未定」とした。原発の再稼働が進まなければ、火力燃料費の増大に伴う収支悪化は確実で、電気料金再値上げの検討も避けられない。

 売上高は前年同期比11.0%増の6兆6314億円。電気料金の値上げで収入が約2430億円増えたことが主な要因だ。賠償費用分として原子力損害賠償支援機構から交付された1兆6657億円を特別利益に計上し、最終(当期)損益は4386億円の大幅な黒字となった。原子力損害賠償支援機構への返済に当たる特別負担金500億円も支払った。

 14年3月期の経常黒字達成は、金融機関が東電に融資を継続する前提条件だった。東電は工事や点検の見直しなどの修繕費で1653億円、人件費の削減で1103億円など、ギリギリの経費削減を進め、3期連続の経常赤字を何とか回避した。東京都内で記者会見した広瀬直己社長は「社員全員が頑張ってきた結果だ」と述べた。

 しかし、今後の再建計画達成の見通しは厳しい。計画では、今年度中に柏崎刈羽原発で最低4基が再稼働することを前提に、毎年1500億円程度の経常黒字を確保する青写真を描く。だが、原発の安全審査では原発直下の活断層調査が長引き、地元自治体の再稼働への反対も根強い。

 一方、原発の再稼働をせずに東電の収益改善を維持するには、電気料金の再値上げ以外、抜本的な方法が見いだせないのが現状だ。すでに東電の電気料金は、過去の値上げや燃料費の高騰に伴い、震災前に比べて標準的世帯で3割以上値上がりしている。広瀬社長は「できれば値上げしないですむようコストダウンをしていく。できるところまで頑張る」と述べるにとどめ、再値上げに関する明言を避けた。【安藤大介】
http://mainichi.jp/select/news/20140501k0000m020069000c.html

この記事を読んでみると、電気料金値上げやコスト削減により経常損益は1014億円の黒字になったことがわかる。他方、それよりもはるかに大きな黒字を稼いでいるのが、原子力損害賠償支援機構から「賠償費用分」として交付された1兆6657億円である。東電はこの交付金を「特別利益」と計上して、最終損益の黒字額が4386億円にふくらんだのである。そして、そもそもこの「特別利益」は「賠償費用分」なのであり、福島第一原発事故の被害者に支払うべきもののはずなのである。最終的には被害者に支払う予定の資金を、一時的であれ東電の「利益」に計上するという「マジック」によって、ようやく「黒字」と称しているにすぎない。しかも、原子力損害賠償支援機構からの交付金は「借金」であり、返済されなくてはならないものなのである。

結局、「14年3月期の経常黒字達成は、金融機関が東電に融資を継続する前提条件」とされており、この黒字は、銀行向けのものとしかいえないのである。

さて、東電の経常損益が「黒字」を達成したということは、銀行などにとってはよいニュースなのだろう。しかし、社会に対してはどうなのだろうか。資本主義社会において、それぞれの企業が公正さを前提にして利潤を獲得することは正当な行為である。しかし、福島第一原発事故を引き起こした東電は、利潤確保が許されるのだろうか。賠償金については原子力損害賠償機構から当面融資されるが、廃炉費用はどうなのか。福島第一原発の廃炉作業については、労働者が集まらないということを聞く。結局、非正規雇用で待遇もよくなければ、集まらないのも当然であろう。また、汚染水タンクにしても、安上がりにしようとして、結局、汚染水漏れを引き起こしている。黒字が出ているならば、本来は、廃炉費用や、十分とはいえない賠償費用に充当すべきであろう。

もちろん、東電に融資している銀行や、最終的には融資していることになるはずの原子力損害賠償支援機構に返済する関係上、利潤を出す必要が経営上あるだろう。しかし、そもそもの問題は、賠償費用にせよ廃炉費用にせよ、到底東京電力では支払うことができなくなったのに、破綻処理もされずに、この会社が存続しているということなのだ。その結果、無理に黒字を出さなければ営利会社としては存立しないが、そのことは、この会社が社会的に背負っているはずの責務と相反するのである。東電は黒字が許される会社ではないのだ。

これは、たぶん、東電だけのことではない。営利会社として「黒字」経営を行うことは当然である。しかし、そのために、いわゆるコスト削減として、労働者の待遇を著しく悪化させたり、修理などを先送りしたりすることは、社会的な意味で許されなくなってきているといえよう。東電は、ある意味で、先端的に、そのことを示しているのである。

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