本ブログでは、専門外ながら、放射性ヨウ素、放射性セシウムの暫定基準の問題もとりあげてきた。
2011年10月12日、日本記者クラブでの会見で、チェルノブイリ事故への対応を行ってきたベラルーシの民間研究機関のウラジーミル・バベンコは、「日本の放射性物質に対する暫定基準は甘すぎ、全く理解できない。現実的な基準とすべきだ」と語った。それを伝えるMSN産経ニュースのネット記事を下記にあげておく。
日本の食品基準は甘すぎ ベラルーシ専門家が批判
2011.10.12 20:28 [放射能漏れ]
チェルノブイリ原発事故後の住民対策に取り組んできたベラルーシの民間の研究機関、ベルラド放射能安全研究所のウラジーミル・バベンコ副所長が12日、東京都内の日本記者クラブで記者会見した。東京電力福島第1原発事故を受け、日本政府が設定した食品や飲料水の放射性物質の基準値が甘すぎ、「まったく理解できない」と批判、早急に「現実的」な値に見直すべきだと述べた。
例えば、日本では飲料水1キログラム当たりの放射性セシウムの暫定基準値は200ベクレル。一方、ベラルーシの基準値は10ベクレルで、20倍の差があるという。
ベラルーシでは内部被ばくの影響を受けやすい子どもが摂取する食品は37ベクレルと厳しい基準値が定められているが、日本では乳製品を除く食品の暫定基準値は500ベクレルで、子どもに対する特別措置がないことも問題視。「37ベクレルでも子どもに与えるには高すぎる。ゼロに近づけるべきだ」と指摘した。(共同)
http://sankei.jp.msn.com/world/news/111012/erp11101220300003-n1.htm
たぶん、日本であると、より緩和した基準にするほうが現実的であるといわれるであろう。バベンコは、より厳しい数値こそが「現実的」というのである。
以前、本ブログで、福島県産野菜を販売するカタログハウスの試みをとりあげ、その中でウクライナの基準をとりあげた。もう一度、引用しておこう。
【ウクライナ規制値】
チェルノブイリ事故から12年過ぎた1998年1月からウクライナ保健省が実施している基準。「この基準内の食品(複数)を標準的な量で摂取していった合計が年間1ミリシーベルトを超えない」を保証する規制値です。住民の内部被ばくの拡大を反映して、何回も改定をくり返していった結果が厳しい現在の規制値になったそうです。
そして、具体的には、次のような基準であるとしている。
ウクライナ規制値 :野菜40 果物70 パン20(米も準用) 卵6 肉200 魚150 飲料水2 牛乳・乳製品100 幼児食品40(単位はBq/kg)
それでは、ベラルーシの放射性物質対策とは、どのようなものなのだろうか。そのことについて、すでにNHKが、8月4日にBS1の「ほっと@アジア」(17時台の番組で紹介している。YouTubeに本番組がアップされていたので、まず紹介しておきたい。
(http://www.youtube.com/watch?v=fMaqzvb2HWoより)
内容は、NHKが「解説アーカイブズ」として、ネット配信している(http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/450/91326.html)。まず、解説委員の石川一洋は、この番組の意図をこのように語っている。
石川)ベラルーシはチェルノブイリ後、飛来した放射能が雨によって土地に沈着して広大な土地が汚染されました。その状況は今回の事故後の原発から北西方向、そして福島県の中通り、さらには関東など各地に点在するホットスポットの状況と似ています。放射性のセシウムが主要な汚染源であるという点も似ています。
ベラルーシではもっとも汚染の酷い土地からは移住させました。しかし汚染地帯には多くの住民が住み、農業などそこでとれる作物を利用しています。
住民の健康を守るため厳格な食物の放射性物質の検査などを行っています。
汚染状況が似ていること、もう一つは住民の健康を守るためにベラルーシが取っている対策が日本の今後の指標となるからです。
私はベラルーシで子供の健康調査や食物の放射性物質の検査を続けている研究所の所長に話を聞きました。
取材を受けたベルラッド研究所アレクセイ・ネステレンコ所長は、次のように語っている。
ベルラッド研究所アレクセイ・ネステレンコ所長
「日本ではソビエトと同じように情報の隠蔽が行われている印象があります。重要なのは、まず食料を厳重に検査し管理することです。次に住民、特に子供たちの体内にどのくらい放射性物質が取り込まれたのか、検査を続けることです。そして住民に食物から放射性物質を除去する方法など放射性物質の影響を少なくする情報を教えることです」
その上で、石川一洋が以前取材した同研究所の活動も紹介しながら、ベラルーシの放射性物質対策について、この番組では、次のように指摘している。
ベラルーシは日本と比較しても、国も広範な検査を実施しています。
しかしネステレンコ所長は国だけでなく民間の研究所や食品会社や市民自身が並行して食料の中の放射性物質を検査することが重要だと指摘しています。
「国家機関は場合によっては都合の悪い情報は隠すものです。従って国の機関の検査結果に対しては住民の不信が高まります。こうした不信を取り除くためにも民間が独自に検査することは重要です。私たちは学校に検査機器をおいて実施していますが、そうしますと教育的な効果もあります。子供たちが放射性物質を詳しく知ることになるのです」。
その上で、日本の暫定基準とベラルーシの基準を比較している。(なお、吉井はアナウンサー)
吉井)日本も食品については暫定基準を定めていますよね、ベラルーシの基準はどのようなものですか。
石川)まず日本の基準です。
日本は食品については放射性物質の基準が無かったために暫定的な基準を三月に急遽定めました。今現在は問題となるのは半減期の長い放射性セシウムです。ほとんどの食品で1キログラムあたり500ベクレル、飲用水と牛乳やミルクなど乳製品は200ベクレルとされています。
しかしネステレンコ所長は基準が甘すぎると批判しています。
「日本の基準はベラルーシに比べてあまりに緩すぎて、酷いと言っても良いくらいです。
ベラルーシではたとえば3歳児までの子供用の牛乳など食物の許容限度は放射性セシウムで37ベクレルです」
日本が飲料水と乳製品については200ベクレルとしていますが、その他は一律に500ベクレルという大雑把な基準となっていますが、ベラルーシでは、食品の種類ごとに細かく基準が定められています。表をご覧ください。
3歳児までの乳幼児用の食品は1キログラムあたり37ベクレル、飲料水は10ベクレル、牛乳は100ベクレル、パンは40ベクレル、牛肉は500ベクレル、豚肉、鶏肉は200ベクレルなど食品ごとに基準値が細かく定められ、全般的に日本よりもかなり厳しめになっています。
吉井)でも日本よりも甘いものもありますね。
石川)そうです。たとえば乾燥キノコやお茶は日本よりも甘くなっています。お茶の葉にはこれだけのセシウムがあってもお茶自体にはセシウムはすべて溶け出しませんし、また乾燥キノコなども国民が食べる量は限られている、その代り、水や主食のパン、牛乳、ジャガイモなどは大変厳しい値になっています。国民の食生活の実態に合わせて細かく基準を定めているのです。
ネステレンコ所長も、日本の基準は甘すぎるといっている。ベラルーシの基準は、実際の食生活に配慮しつつ、日本よりも全体として厳しいものになっているのだ。特に、水・牛乳や、主食のパン・ジャガイモが厳しくなっていることに注目されたい。
この基準の違いを石川は、次のように解説している。
吉井)なぜ日本とベラルーシの基準値がこんなに違うのですか。
石川)ベラルーシの基準値の考え方は、内部被爆・外部被爆併せて1ミリシーベルトを超えないという基本方針からそれぞれの食品の基準が定められています。一方日本の場合も平常時は1ミリシーベルトが基準でしたが、福島第一原発の事故を受けて、現在は事故後の緊急状況であるとして暫定基準を定めるときに5ミリシーベルトまでは許容しようと食品に対する考え方を緩めたわけです。しかも5ミリシーベルトの中には放射性セシウムとストロンチウムによる被ばくのみです。ヨウ素などは別枠です。
5ミリシーベルトと1ミリシーベルトという基本方針の違いが基準値の差となって現れています。
ただ厚生労働省では、もしも暫定基準値の値の食物を食べ続けた場合に5ミリシーベルトになるという値であり、実際の内部被ばくの値ははるかに小さくなり、健康には影響は無いとしています。また現在は事故後の緊急時であり、あまり厳しい値を定めることは被災地の農業や水産業を破壊することになりかねず、安全と経済のバランスを取ることが必要だとしています。
いずれにしてもあくまで緊急時であり、平時の1ミリシーベルトに戻さなければならないでしょうし、日本の食生活に合わせたさらに細かな基準づくりというものが必要になってくるでしょう。
つまりは、日本の現行の暫定基準は、事故後の緊急時であり「安全と経済のバランスを取る」ということから、平常時の5倍の被ばく量を想定して設定しているというのである。そして、石川は、「いずれにしてもあくまで緊急時であり、平時の1ミリシーベルトに戻さなければならないでしょうし、日本の食生活に合わせたさらに細かな基準づくりというものが必要になってくるでしょう」としているのである。つまりは、その意味で日本の暫定基準は「暫定」なのである。
そして、番組の最後のほうでは、児玉龍彦の国会での発言も紹介しながら、このような言葉で結んでいる。
吉井)ベラルーシではいろんな努力をして、放射性セシウムなど放射性物質から子供たちを守ろうとしているのですね。日本でもこうしたことは可能でしょうか。
石川)食生活で言えばベラルーシと日本は異なるわけですから、日本に合わせた基準を作れば良い、主食のコメなどは厳しくするとか、日本に合わせた基準が必要でしょう。
また食品の検査についても今は一品、一品時間をかけて検査する方法ですが、日本の高度な技術を使えば、流れ作業のような形で検査するシステムが開発可能だという提言も出ています。
東大アイソトープセンター長 児玉龍彦教授
「流れ作業的に沢山やれるようにしてその中で、はねるものをどんどんイメージで、画像上でこれが高いと出たらはねていくような仕組みを、これは既存の技術ですぐできますものです。そういうものを全力を上げてやっていただきたいと思っております」
日本の高度な技術を食品管理に活かすということです。
ベラルーシは国家予算の二割がチェルノブイリ事故の対策に費やされています。
ベラルーシに比べますと日本は国家予算で100倍という大国です。
ベラルーシの国家予算の二割というのは1200億円ほどで日本の国家予算にすれば0.1パーセントほどの額です。後は国民の健康と安全を守るという政治的意思が日本政府にあるかどうかということだと思うのです。
ベラルーシなどで何が起きて、どのような対策が取られたのか、日本の今後を考える上でも、今度は我々がベラルーシなどから学ばなければなりません。
まさに、「後は国民の健康と安全を守るという政治的意思が日本政府にあるかどうかということだと思うのです。」ということなのである。
このような対応をとっているベラルーシは、どのような国なのか。ウィキペディアは、次のように伝えている。現在、ベラルーシは、ルカシェンコ大統領が強権政治を行っている国とみられているようである。
一方、2010年12月の大統領選挙では、選挙後に野党の候補者が政権により拘束されたという[5]。このため、EUとアメリカが制裁を決定する[6]など、現在のベラルーシは国際社会からの孤立を深めている。
ルカシェンコが四選を果たした直後から2011年7月現在に至るまで、ベラルーシ国内は深刻な経済危機に陥っている。そんな中、SNSなどでの呼びかけで、市民の間でルカシェンコ政権への抗議運動が発生し始めている。政権に抗議する市民たちは無言で拍手をしながら街を練り歩くと言う静かで平和的な抗議運動を行っているが、治安当局はデモ隊の徹底した弾圧を実行している
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%99%E3%83%A9%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%82%B7
つまりは、強権政治を行っているとみられているベラルーシのほうが、より国民の健康と安全を配慮した対策を施しているのである。
一方で、日本は、どうか。朝日新聞は、10月13日、次のような記事をネット配信した。
コメの放射性物質検査を進めていた福島県は12日、今年の県産米の検査を終え、すべてで放射性セシウムが国の基準値(1キロあたり500ベクレル)を下回ったと正式に発表した。これでコメを作付けしている全48市町村で出荷が可能になり、佐藤雄平知事は「安全宣言」をした。
県は8月下旬、原発事故で作付けが禁止された双葉郡などを除く48市町村で検査を開始。収穫前に汚染の傾向をつかむ予備検査と、収穫後に出荷の可否を判断する本検査の2段階で実施した。
一般米の本検査の対象となった1174地点のうち、放射性セシウムが検出されなかったのは82%にあたる964地点。100ベクレル未満が17%の203地点、100ベクレル以上は0.6%の7地点だけだった。
ただ、予備検査で1キロあたり500ベクレルを検出した二本松市の旧小浜町地区では、この日判明した本検査でも470ベクレルを検出。県はこの水田と、隣接する水田の計3枚(9アール)で収穫したコメ約400キロをすべて買い上げ、市場に流通しないようにする。
http://www.asahi.com/national/update/1013/TKY201110120767.html
さすがに、暫定基準値すれすれの米は市場に出回らないようにしたようであるが……。暫定基準を下回ったとして、福島県の佐藤雄平知事は「安全」といっている。実際、検査結果をみると不検出や極微量検出の米が多いのだが、平常時の5倍に緩和した基準をたてに「安全」といっている。これでは、政府が「安全」だと決めたから「安全」であるということになってしまう。あくまでも「緊急時の暫定」であり、今後はより基準を厳しくしていく必要があると考えられるのに、このような「安全宣言」は不穏当である。そして、それは、より厳しい基準を設定していく営為を阻害していくものといえよう。
結局、「民主主義」国家と形式的にはいわれる日本は、「強権国家」と批判されるベラルーシよりも、はるかに劣った放射性物質対策を行っているのである。そして、日本では、たぶん「緩和する」ことが「現実的」と言われるであろうが、ベラルーシでは、より厳しい基準を設定することが「現実的」なのである。「現実」について、日本とベラルーシには違った認識があるといえよう。
Read Full Post »