本日、2011年11月30日は、福島県にとって歴史的な日となったといえる。この日、佐藤雄平福島県知事が、今後策定する復興計画において、福島第一原発だけでなく福島第二原発を含めた県内全原発廃炉を求めることを明記することにしたと発表したのだ。
今のところ、もっとも詳しく報道しているのがNHKである。19時のニュースで報道し、さらに、次のような記事をネット配信している。
“すべての原発 廃炉を求める”
11月30日 18時27分
福島県の佐藤知事は、年内の策定を目指す県の「復興計画」で「東京電力と国に対して、県内のすべての原発を廃炉にすることを求める」とする文言を盛り込む考えを明らかにしました。原発立地県の知事が廃炉を求める考えを明言するのは初めてです。
これは、30日、福島県の佐藤知事が記者会見して明らかにしました。この中で、佐藤知事は原発との将来の関わり方について「雇用など原発が地域経済に及ぼす影響や自治体の財政に対する影響など、さまざまな観点から議論を重ねてきた」と述べました。そのうえで「若者や子どもたちが安心して暮らせる福島県の復興のために、原発がない福島県を目指し、『東京電力と国に対して、県内のすべての原発を廃炉にすることを求める』と復興計画に明記することにした」と述べました。東京電力は、県内の10基の原発のうち、重大な事故が起きた第一原発の1号機から4号機についてはすでに廃炉を決めていますが、それ以外の第二原発などをどうするかは「地元と相談する」としていました。原発事故のあと原発立地県の知事が廃炉を求める考えを明言するのは初めてです。一方、原発に代わる新たな雇用の創出について、佐藤知事は「全力で取り組んでいく覚悟だ」と述べ、今後、具体化を目指す考えを示しました。福島県は、来月1日に復興計画の案を正式に決定し、県民から意見を募ったうえで年内の計画策定を目指すことにしています。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20111130/t10014312881000.html
このNHKニュースが伝えているように、福島県のような原発立地県で県知事が全原発廃炉を求めるのははじめてのことである。もちろん、福島県知事が表明するのもはじめてである。その意味で、このことは、歴史的なことなのだ。
ただ、意外に時間がかかったともいえる。実は、福島県議会の各派は、すでに6月時点で原発廃炉を方針とすることを決めていた。6月24日、福島民報は、次のような記事をネット配信している。
県議会も「脱原発」 復興ビジョン報告書に反映へ
県議会の自民、民主両党は23日、それぞれ議員会を開き、今後は原子力発電を推進しない立場を明確にすることを申し合わせた。公明、共産、社民も同様の立場で、復興ビジョンの策定に向け来月、県に提出される県議会の報告書に「脱原発」の考えが盛り込まれる見通しになった。
自民の会議では、原発を再生可能エネルギーに転換することや、関連産業の育成を県に求めることで一致した。民主は脱原発の方針を盛り込んだ今年の運動方針を、7月16日に開く定期大会に提案することで全員が了承した。公明県議団は、脱原発の方針で所属議員の意見がまとまっており、エネルギー政策の転換を求める。3党はこれまで、原発推進の立場だった。
原発事故以前から脱原発を打ち出していた社民は、自然エネルギーの利用拡大を訴える。県内の原発の廃炉を求めてきた共産県議団は、脱原発を復興ビジョンに明記するよう要望する。
県議会の東日本大震災復旧復興対策特別委員会は4日、理事会を開く。原発問題を含めた各会派の意見を集約し、県の復興ビジョン策定に向けた中間報告書案を作る。6日の特別委員会で決定し、同日中に県に提言する。
県議会が「脱原発」の方向にまとまる見通しになったことで、県の復興ビジョンには原子力に依存しない地域社会づくりの考えが盛り込まれることは、ほぼ確実だ。
野崎洋一県企画調整部長は「県民を代表する県議会の意思が脱原発の方向となれば、非常に重い」と語った。今後は、原発との「共生」を前提とする総合計画とビジョンの整合性をいかに図るかが課題となる。
http://www.minpo.jp/view.php?pageId=4147&blockId=9859193&newsMode=article
(2011/06/24 09:03)
例えば、6月27日の福島県議会で、自由民主党の斎藤健治議員は、次のように問いかけている。
次に、復興ビジョンについてお尋ねします。
県議会も東日本大震災の復旧・復興に向けて特別委員会を設置し、議長、副議長を除く全員が委員となって会議を進めています。我々の任期があるうちが特別委員会の任期ですが、はっきりできないのが菅現政権の特徴で、先行きの見えない中でのこととなっています。
さて、知事の諮問委員会の復興ビジョン検討委員会の基本理念が示され、脱原発で、再生可能エネルギーで復興ビジョンを作成すると方針を発表されました。自民党議員会でも、全議員が委員となっている原子力対策本部会議で話し合い、今まで40年以上原子力発電の安全神話を信じて推進一本で来ましたが、深く反省し、平成23年6月23日をもって原子力発電は今後一切推進をしないと決定しました。1日も早く原子力発電所の事故収束を願うものです。
そこで、知事の諮問委員会の方針の中にある脱原発は理解できますが、現在ある総合計画との乖離はどうするのかお尋ねします。
また、市町村が自主的・主体的に復興に取り組めるよう、復興ビジョンには市町村の財源や権限について盛り込むべきと思いますが、県の考えをお尋ねいたします。
http://www.pref.fukushima.jp/gikai/fu_5/02/data/201106/iken/01.html
そして、佐藤知事は、次のように答えている。
次に、脱原発の考え方と総合計画との関係についてであります。
東京電力福島第一原子力発電所の事故は、いまだに収束の兆しが見えない中、極めて厳しい状況が続いております。また、多くの県民がふるさとを離れて、県内はもとより、全国各地でつらい避難生活を強いられているだけでなく、発電所から遠く離れた地域においても、県民は日々放射線の不安にさいなまれ、子供たちも安心して学校に通うことができないなど、原子力発電の安全神話は根底から覆されたと思っております。
更に、全町・全村避難に追い込まれた町村は、十分な行政機能を維持することも困難な状況になっているほか、農林水産業、製造業、観光を初めあらゆる分野で想像だにできない危機に直面しており、長い時間を費やして築き上げてきたふるさと福島が大きく傷つけられたことは断腸の思いであります。
このような中、私は多くの県民が原子力への依存から脱却すべきという意見をお持ちであるものと考えております。私自身も、福島県としては、原子力に依存しない社会を目指すべきであるとの思いを強く持つに至っております。
今後、復興ビジョン検討委員会から出される提言や県議会からの御意見を踏まえるとともに、市町村、県民の皆さんからの御意見等を伺いながら、原子力発電に依存せず、産業の振興や雇用の確保、地域づくりなどをいかに進めるか十分に検討した上で復興ビジョンを決定いたします。
復興ビジョンには、このような考え方を盛り込む際には、総合計画との関係を調整する必要が生ずることから、復興ビジョンを踏まえて策定する復興計画にあわせて総合計画を見直し、県議会の議決を経て改定してまいりたいと考えております。
http://www.pref.fukushima.jp/gikai/fu_5/02/data/201106/iken/01.html
しかし、水面下では、かなり全原発廃炉を県議会全体の方針として打ち出すことには問題があったようである。6月の福島県議会に共産党系の新日本婦人の会が県内全原発廃炉を求める請願を提出したが、6月定例会では継続審議となり、9月定例会で審議されたが、10月19日の福島県議会の企画環境委員会では不採択と議決された。しかし、この請願は県議会本会議にかけられ、ようやく10月20日に採択されたのである。しかも、採決には、双葉郡選出議員1名を含む5名が退席したというのである。県知事や県議会各派の公式的な原発廃炉方針とは裏腹に、それに抗する勢力がまだいたのだ。まず、福島民友が、10月20日にネット配信した記事をみておこう。
「全原発廃炉」請願採択へ 県議会、委員会と異なる決着
県議会は20日の9月定例県議会最終本会議で、東京電力福島第1、第2の全原発10基の廃炉を求める請願を採択する見通しとなった。19日の企画環境委員会は請願を不採択としたが、継続審査が打ち切られたため本会議で議決が行われる。原発事故を受け、県が県政の基本理念に掲げた「脱原発」を見据えて廃炉を容認する議員の賛成多数で採択する公算が大きい。廃炉の是非をめぐり委員会と本会議で判断が分かれる異例の決着となりそうだ。
請願は、原発事故に伴う放射能漏れで県民生活に多大な不安と影響を及ぼしたとして県内の全原発の廃炉を求めている。共産党系の新日本婦人の会県本部が6月県議会に提出したが、継続審査となっていた。
(2011年10月20日 福島民友ニュース)
http://www.minyu-net.com/news/news/1020/news1.html
続いて、10月20日に福島民報がネット配信した記事をみておこう。
全原発「廃炉」の請願採択 福島県議会、立地道県で初
東京電力福島第1原発事故を受け、福島県議会は20日の本会議で、県内にある第1、第2原発計10基全ての廃炉を求める請願を賛成多数で採択した。採択を受け、佐藤雄平知事は「(採択の意義は)本当に重い。第1、第2原発の再稼働はあり得ない」と述べた。原発を抱える13道県の議会の中で、廃炉を求める請願が採択されたのは初めて。放射性物質による汚染に苦しむ地元議会の意思表示だけに、政府の政策決定などに影響を与えそうだ。
採決では、出席した県議53人のうち、両原発を抱える双葉郡選出の1人を含む5人が採決直前に退席、残る48人が賛成。
(2011/10/20 21:19)
http://www.minpo.jp/view.php?pageId=21096&blockId=9899466&newsMode=article
朝日新聞が10月21日に配信した記事では、もっとよく背後事情がわかる。自民などは、「県内には様々な意見があり、さらに議論を続ける必要がある」としてこの請願を継続審議にしたのだ。そして、福島県議会の企画環境委員会で、請願採択を不採択にしたのも、自民党・公明党の反対のためであった。しかし、本会議では自民党なども請願採択に賛成し、退席した5名の議員以外は全議員が賛成したというのである。
福島県議会、廃炉求める請願採択 福島第一・第二の全炉
福島県議会は20日、定例の本会議で、東京電力福島第一、第二原発の原子炉計10基すべての廃炉を求める請願を採択した。議会多数派の自民のほか、民主と社民からなる会派は脱原発の立場を打ち出していたが、約1カ月後に迫った県議選を前に廃炉の立場を明確にすべきだと判断した。これを受け、佐藤雄平知事は廃炉への判断を迫られる。
請願は、共産党系の団体「新日本婦人の会福島県本部」が6月に提出。当初は「県内には様々な意見があり、さらに議論を続ける必要がある」などとして、自民などは継続審査とする方針だった。
19日の企画環境委員会の採決では、民主、社民、共産の議員が採択に賛成。不採択とした自民、公明の議員と同数になり、委員長判断で不採択を決めた。
しかし自民会派の20日の会合で、県民感情を背景に「廃炉方針を示すのは今しかない」といった意見が相次ぎ、賛成を決定。本会議では採決前に退席した5人を除く全議員が賛成した。
請願採択後、佐藤知事は「私は第一、第二原発の再稼働はあり得ないと言ってきた。今日の議決を重く、真剣に受け止めたい」と述べたが、廃炉については明言を避けた。一方で、今後の県の原子力政策作りに、議決が一定の重みを持つとの考えを示した。
この、福島県議会における県内全原発廃炉請願の採択も、原発立地県としては初めてのことである。もちろん、福島県にとってもはじめてのことである。佐藤雄平知事が、本日県内全原発の廃炉を求めるとした発表の直接の前提となったといえるのだ。福島民報は、11月10日に次のような記事をネット配信している。
県復興計画の原発廃炉で意見交換 部長会議
県は9日、県庁で原子力関係部長会議を開き、策定中の県復興計画に盛り込む県内の原発の廃炉の考え方について具体的な検討に入った。原発に代わる雇用の創出、立地自治体の意見反映、廃炉に向けた具体的な手続きへの理解などの取り組むべき課題を整理し、今後数回の会議を通して課題の解決策や具体的方向性を決めることを確認した。
佐藤雄平知事と松本友作、内堀雅雄の両副知事、関係部長が出席。佐藤知事は「復興計画に盛り込む原発の在り方をしっかり議論しなくてはいけない」とあいさつした。原発で働いていた作業員の雇用を創出する再生可能エネルギー産業などの在り方、立地自治体の首長や住民の意見の反映などが課題として挙がった。
今後、関係部局が復興計画に盛り込む対応策などを決めた後、会議で検討を深める。県復興計画のパブリックコメントを行う12月上旬までに一定の方向性を決める方針。(2011/11/10 10:10)
http://www.minpo.jp/view.php?pageId=4107&blockId=9905757&newsMode=article
現在、まだ福島県議会9月定例会の会議録は公開されていないので、なぜ、福島県議会において県内全原発廃炉請願に異論が出たのかは、朝日新聞の記事くらいしかわからない。しかし、ある意味では、全く妥当としかいえない福島県の原発廃炉請願に自民党・公明党などから異論が出ていたこと、そしてそのために、原発廃炉請願採択が遅らされ、一時は不採択の可能性すらあったことを忘れないでおかねばならない。このような対抗に打ち克って、福島県は県内全原発廃炉を求めることになったのだ。その意味でも、このことは歴史的であり、関係資料が公開されれば、すぐにこの経過を検討しなくてはならないと考える。