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Archive for 2013年7月

汚染水問題などの福島第一原発事故における異常事態の発生とそれに対する東京電力の対応は、海外の「原子力ムラ」の代表者たちといえる人びとからの批判を招いた。東京電力は昨年から「原子力改革監視委員会」という組織を設置し、デール・クライン委員長(米原子力規制委員会元委員長)、バーバラ・ジャッジ副委員長(英原子力公社名誉会長)、櫻井正史(名古屋高裁元検事長・国会事故調元委員)、大前研一、下川邉和彦(東電会長)を委員とした。クラインとジャッジは、経歴からみるかぎり、いわゆる海外の「原子力ムラ」の代表といえる人物である。この委員会の第四回会合が7月26日にあり、その後、記者会見が開かれた。この記者会見の席上、クラインとジャッジは、汚染水問題に対する東電の対応を批判した。現在のところ、日本語メディアでは、この二人の批判はきわめて小さくしか報道されていない。ロイターもかなりくわしく二人の批判を伝えたが、その記事は後に書き換えられ、批判している部分は切り縮められてしまった。その中で、この二人の批判を日本語でもっとも詳細に伝えているのがAFP(フランス通信社)である。その報道をまずみておこう。

【7月29日 AFP】東京電力(TEPCO)が国内外の専門家で構成する第三者委員会「原子力改革監視委員会」の4回目会合が26日に開かれ、福島第1原子力発電所からの放射性汚染水の放出問題について出席者からは透明性の欠如を指摘する声や、「東電は自分たちのやっていることが分かっていないのではないか」など厳しい批判が相次いだ。

 かねて疑われていた福島第1原発から海への汚染水流出について、東電は前週になって初めて認めた。外国人2人、日本人4人の専門家からなる原子力改革監視委員会のデール・クライン(Dale Klein)委員長(米原子力規制委員会元委員長)は「安全側に立った意思決定の姿勢に欠けている。国民に十分な情報を提供していない」「東電は自分たちのやっていることが分かっていないのではないか。計画がなく、全力を尽くして環境と人々を守ろうとしていないと映る」などと批判した。

 東電ではこれまで、発がんリスクのある放射性物質の濃度が、採取した地下水中で上昇していると報告していたが、汚染水の流出は原発の敷地内にとどまっていると主張していた。しかし、その主張に規制当局が疑念を募らせる中、ここに来て検出結果の公表が遅れたことを認めた。同じ会見で東電の広瀬直己(Naomi Hirose)社長は、ここ数か月の間に汚染水流出の可能性を警告する機会が少なくとも4回はあったと述べ、「3.11の教訓を学んで対応できていない」として謝罪した。また自らが1か月間、10%の減給処分を受けることを発表した。

 クライン委員長は会見の冒頭、汚染水流出に関する東電の対応に「不満を表明したい。汚染水問題がこれまでの福島(第1原発)の事故処理と改革の進歩を後退させると危惧(きぐ)している」と述べた。また東電による情報隠しではないかとの報道陣の質問に対してはこれを否定し、処理計画は適切だが、それを公表するまでに時間がかかりすぎたとし、「問題が発覚した段階ですぐに分かっていること、分からないことを発表する必要がある」と忠告した。

 バーバラ・ジャッジ(Barbara Judge)副委員長(英原子力公社名誉会長)も、東電の情報公開性の欠如に「本当にがっかりした」と述べ、「(原発の)廃炉作業は複雑で難しいプロセスであるため、今後も問題が生じることは必至だろうが、次に問題が起きたときには今回の誤りから学んで人々にいち早く、状況とそれを改善する東電の計画を知らせてもらいたい」と語った。

 ジャッジ氏はまた、東電の企業風土に問題があるとし「多くの企業同様、閉鎖的で効率性を優先する文化があり…議論する準備ができたと思えるまでは、自分たちだけで問題解決を図ろうとする」と指摘し、「効率よりも安全を優先する文化」を歓迎すると述べた。(c)AFP/Harumi OZAWA
http://www.afpbb.com/article/disaster-accidents-crime/accidents/2958809/11090490

なお、クラインとジャッジが東電を批判した記者会見については、IWJがネットで動画を配信している。この動画自体も編集されており、また通訳で表現が変えられてしまっているところもあるかもしれないが、今のところ、この動画が、彼らの批判を肉声で伝えている。ここであげておこう。

とりあえず、クラインとジャッジの批判部分のみおこしてみた。すべてではなく、また通訳の問題もあって、正確とはいえないかもしれないが、ここであげておく。

クライン委員長:…この地下水の漏洩や汚染水の海洋への流出の対処がうまくできていかなかったこと、このタイミングがまさにこの委員会と重なったことについて、私たちは大変残念に思うと同時にいらだちを覚えます。多くの方が鋭意現場で努力をされているなかで、このような広報上の対応のまずさというものが努力をないがしろにしていると思います。特に、私どもが関心をもちましたのは、何を把握されたのか、また、いつそれを把握されたのか、また、この対応のためにどのような対策をとろうとされているのか、ということです(中略)
少し、改革委員会としては以下の提案をさせていただきます。福島第一の汚染水の漏洩問題に関する解決にあらゆる手段をつくすということを迅速に行うのが一点目です。
また、2番目としては、福島第一の汚染水の取扱について、包括的な計画をつくり、その場しのぎでなく、根本的な解決につなげるということです。
また、リスクコミュニケーションならびに情報の公表につきましても、まだ多くの作業を残していると思います。
と、同時に、また、緊急時対応の演習・訓練についても今後とも練習する必要があることはあきらかです。
(中略)
ジャッジ副委員長:昨日、日本に参りましたが、その際、私は大変落胆し意気消沈したということを、クロフツ室長をご紹介する前に申し上げます。原子力発電事業者として東電が再生の道をたどりつつあることを個人的にも私は日本の内外の方々にいろいろとこれまでもお話して参りました。また汚染水の流失につきましては、あまりにも手間取ったということ、遅きに失してしまったという広報の対応というものが、大きく事態の進捗でプラス面があるなかで、事態をないがしろにしかねないと考えています。
また、社長の話がありましたけれども、これからも汚染水の問題、ならびにネズミの侵入による電力の供給の停止がおこりましたけれども、今後、このようなことも引き続きおこると予想されます。これらの事態がさけられないのは廃炉が長い作業であるからです。事態を収拾し、また安定させるために、難しいことと承知していながら、邁進している現場の方々がおられます。しかし、東電としましても手抜かりなく広報にも今後努力をし、事象が起ったらすぐ伝達し知らしめるということが必要になってきます。今後、東電が先に進むにあたって必要な信頼を得るためにも、とりもどすためにも。このような即応体制を広報に対応してもらいたいと思います。

クラインとジャッジがともに指摘しているのは、まず、汚染水問題に対する東電の広報のまずさである。東電は汚染水の海洋への漏洩をなかなか認めず、参院選後の7月22日にようやく認めた。この汚染水問題の発表の遅れを明示的に批判し、現場での対応をないがしろにしかねないとしているのである。

クラインは「何を把握されたのか、また、いつそれを把握されたのか、また、この対応のためにどのような対策をとろうとされているのか」と問いかけた。前二者は主に広報にあたるといえるが、最後については、汚染水問題についての今後の対応計画はあるのかということである。ジャッジも、汚染水問題だけでなく、ネズミの侵入による停電も引き合いにだして、「今後、このようなことも引き続きおこると予想されます。これらの事態がさけられないのは廃炉が長い作業であるからです」といっている。これはもちろん広報の問題でもあるが、より根本的には「廃炉作業全体に対する計画はあるか」ということになる。通訳の問題もあり、実際にはより過激に言っているのかもしれないが、これを読む限り、東電の廃炉作業全体を婉曲的な形で批判したといえるのである。

そして、クラインは、「福島第一の汚染水の漏洩問題に関する解決にあらゆる手段をつくすということを迅速に行うのが一点目です。また、2番目としては、福島第一の汚染水の取扱について、包括的な計画をつくり、その場しのぎでなく、根本的な解決につなげるということです。また、リスクコミュニケーションならびに情報の公表につきましても、まだ多くの作業を残していると思います。と、同時に、また、緊急時対応の演習・訓練についても今後とも練習する必要があることはあきらかです」と提言している。このことを提言であげるということは、反面で、これらのことが不備だということになる。まず、汚染水問題について東電はあらゆる解決手段をつくしておらず、根本的な解決につなげる包括的計画もなく、その場しのぎの対応をしていることになる。そして、リスクコミュニケーションおよび情報公開については、明示的に問題があるということになる。そして、最後の項目は意味深長である。つまり、東電は緊急時の対応の準備ができていないということになるのである。逆にいえば、今回の汚染水問題は、緊急時対応すべき問題であったにもかかわらず、東電はしなかったということになる。それほど、問題は切迫していたということを、クラインは婉曲な形で示したといえよう。

そして、これらの提言は、東電に対する原子力改革監視委員会の答申の中にとりいれられた。東電のホームページに掲載された。福島第一原発事故問題以外にも言及しているが、ここで、全文をあげておこう。

取締役会長 下河邉 和彦 殿
原子力改革監視委員会

原子力安全改革プランの進捗に関する監視結果について
~原子力改革監視委員会から東京電力取締役会への答申~

 当委員会は、本日開催された第4回原子力改革監視委員会において、東京電力原子力改革特別タスクフォースから「福島原子力事故の総括および原子力安全改革プラン(以下「改革プラン」という。)」の進捗状況について報告を受け、以下のとおり改革プランの状況を確認した。

原子力安全に関する経営層向けの研修や原子力発電所幹部の安全意識を抜本的に向上させるための取組みなどを開始している。
全社員に福島第一事故の教訓および改革の必要性を徹底的に理解させ、改革を将来にわたり継続・深化させるため、まずは原子力部門の社員を対象とし、改革プランを題材としたグループ討議を開始している。
取締役会直轄の「原子力安全監視室」を5月に設置。ジョン・クロフツ氏(元イギリス原子力公社 安全・保証担当役員)が室長に着任し、室員のパフォーマンスを最大限に発揮させるためのチームビルディングを行うとともに、執行側の各種会議体に出席し、原子力安全を最優先とした議論がなされているかを監視するなどの活動を開始している。
安全文化の浸透状況等を客観的に把握するため、IAEA(国際原子力機関)、INPO(米国原子力発電運転協会)、WANO(世界原子力発電事業者協会)等の第三者機関による外部評価を計画している。
「ソーシャル・コミュニケーション室」を4月に設置し、社会の捉え方に沿った情報公開やリスクコミュニケーターによる対話活動に取り組んでいる。
柏崎刈羽原子力発電所(以下「柏崎刈羽」という。)においては、福島第一原子力発電所(以下「福島第一」という。)事故の教訓を踏まえた設備面の対策(津波対策、冷却・除熱機能の確保、フィルターベント設備の設置等)が着実に進められている。また、緊急時対応能力を抜本的に向上させるため、防災訓練を繰り返し行う中で、問題点を洗い出し、継続的な改善に取り組んでいる。

 福島第一で進められている廃炉作業は、過去に例を見ないものであり、事故・トラブルが発生するなど様々な困難に直面している。そうした中、東京電力は社長を本部長とする「福島第一信頼度向上緊急対策本部」を設置し、安定状態の維持・強化のための対策を迅速に実行するように努めている。

 しかし、最近の汚染水漏えい問題への対応、およびこの四半期に発生した事故・トラブルの反省を踏まえると、改革プランの実施を加速し、実効性を上げるための一層の努力を行う必要があると言わざるを得ない。こうした観点から、以下の取組みを行うことを提言する。

福島第一の汚染水漏えい問題の解決に必要な対策を迅速に行うこと。
福島第一の汚染水の取り扱いについて、その場しのぎではなく、根本的な解決につながる包括的な計画を立地地域や国と連係しつつ策定すること。
上記汚染水漏えい問題への対応を含む改革を加速し、実効性を上げるため、必要な組織の見直し、人的リソースの投入等を迅速かつ機動的に行うこと。
事故・トラブル発生時のリスクコミュニケーションについては、社内の情報流通・共有を根本的に改善させるとともに、リスクコニュニケーター、ソーシャル・コミュニケーション室を機能させ、迅速かつ適切な情報公開に努めること。一般の方々にリスクについて説明する際は、事例を示すなど、分かり易くすること。
リスク/ソーシャル・コミュニケーションについて、先進的な他社事例を参考にするとともに、社外専門家の知見を適宜活用すること。
福島第一の廃炉作業の円滑な推進にあたっては、技術力のたゆまぬ向上に努めるとともに、立地地域や国と連係・対話しつつ、全体的なリスクの最小化を図ること。
これまで柏崎刈羽において実施した防災訓練で明らかとなった問題点を踏まえ、今後は経営層の意思決定事項や対外対応時の本店の役割分担を明確化させた上で、外部(官邸・規制庁・自治体・警察・自衛隊等)との共同訓練の実施に向けた取組みを具体化すること。
東京電力は、引き続き改革の項目ごとに目標管理しつつ、進捗・実施状況を適宜、当委員会に報告すること。

 当委員会は、今後も東京電力の改革プランの取組状況を定期的にチェックし、その結果を公表することとしたい。

以 上
http://www.nrmc.jp/report/detail/1229306_4971.html

後半の提言部分が、クラインの発言と対応しているといえよう。しかし、この提言のほうが、より厳しく東電の問題点を指摘しているといえる。「福島第一の廃炉作業の円滑な推進にあたっては、技術力のたゆまぬ向上に努めるとともに、立地地域や国と連係・対話しつつ、全体的なリスクの最小化を図ること」とあるが、このことからいえば、東電は技術力のたゆまぬ向上に努めておらず、全体的なリスクの最小化もはかっていないことになる。また、「これまで柏崎刈羽において実施した防災訓練で明らかとなった問題点を踏まえ、今後は経営層の意思決定事項や対外対応時の本店の役割分担を明確化させた上で、外部(官邸・規制庁・自治体・警察・自衛隊等)との共同訓練の実施に向けた取組みを具体化すること」とあるが、逆にいえば、訓練ですら経営層の意思決定も外部との連携もできていないということになる。

総じて言えば、汚染水漏洩問題を中心にして、その公表の遅れについては明示的に批判しつつ、一部で包括的な計画がなくその場しのぎの対応をしていると言及し、「提言」という形で東電の対応全体を婉曲に批判しているといえよう。なお、AFPの記事とはニュアンスが違うように見受けられるところもあるが、この動画自体が編集されており、記者とのやり取りの部分などがないので、あるいはそこで、より明示的に姿勢が表明されたのかもしれない。

ジャッジは「原子力発電事業者として東電が再生の道をたどりつつあることを個人的にも私は日本の内外の方々にいろいろとこれまでもお話して参りました」と述べており、東電の原子力発電事業者との再生を望んでいることをあきらかにしている。そして、この記者会見では柏崎刈谷原発の再稼働についても言及されている。クラインもジャッジも海外の「原子力ムラ」の代表であって、原発推進を心から望んでいる。そのために、東電の原子力改革監視委員に就任したのだ。しかし、彼らからしても、福島第一原発に対する現在の東電の対応については批判すべきものであった。つまり、福島第一原発への東電の対応は、原子力推進の立場からみても、世界水準に達していないのである。このような状態で、よく原発プラントの海外輸出をはかれると思うのである。

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さて、最近、異常事態が頻発している福島第一原発につき、東電の管理責任を問う声は少ない。それぞれの事態についての報道はあるものの、それらをトータルに把握して、東電の責任を問う報道はあまりない。そして、東電が実質的に国有化されており、東電の営為は、福島第一原発事故対策だけでなく、除染費用支払いや補償金支払いに至るまで国の責任でもあることを指摘した報道はほとんど見受けられない。

原子力規制委員会は、福島第一原発について、東電に問題点を指摘し、その結果、あきらかになったこともある。それなりに仕事はしている。しかし、7月24日、時事通信は、原子力規制委員長の最終的には基準レベルでの汚染水の海洋放出は避けられないとする発言について、次のように報道している。

低濃度水「捨てられるように」=福島第1の汚染水増加で-規制委員長
 東京電力福島第1原発で放射能汚染水が増え続けている問題に関し、原子力規制委員会の田中俊一委員長は24日の定例会見で、「(放射性物質の)濃度が十分低いものは捨てられるようにしないと、にっちもさっちも行かなくなる」と述べ、海洋放出も視野に入れる必要があるとの認識を示した。
 田中委員長は第1原発の敷地内を「水だらけ」と表現。「きちっと処理して、排水レベル(基準値)以下になったものは排出することは避けられないというのが、私の率直な気持ち」と述べた。(2013/07/24-16:23)
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201307/2013072400669

この発言は、結局のところ、現状の東電の措置を「追認」してしまっていることになろう。東電の管理能力では、そもそも基準値レベルまで放射能汚染を安定的に下げること自体に疑問符がつく。ろくに除染もせず、大量の水で稀釈するだけなのではなかろうか。

そして、東電は、現在、原子炉内に流入してくる前の、汚染されていない地下水(東電はそう称している)を、原子炉の上手でくみあげて、海洋に放出する計画を策定し、周辺漁協の合意を求めているところである。このような発言は、東電の交渉にも影響があるだろう。

つまり、原子力規制委員会も、東電程度の対策しか考えていないことになるといえる。流入・流出する地下水をおさえ、再び、原子炉の気密性を確保する、いずれにせよ、これが、せめてもの第一歩であろう。その方策を本格的に検討しないまま、場当たりなその場しのぎをして、最終的に放射能汚染を拡大することしかないというのが現状といえよう。

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福島第一原発の状況が日々悪化している。ネットや新聞などを注視していると、連日、さまざまな方面から異常事態の報告がなされている。このブログでそれらを書いても、すぐに改訂版を出さなくてならないほどだ。しかし、これらの異常事態は大々的にはあまり報道されず、さまざまな異常事態を関連づけて考察するような報道は見られない。東電が出してくる情報をただ流している(それも十分ではなく)という状況なのだ。

前回のブログで、7月18日に3号機から「湯気」が発生しているということを書いた。そのことを東電から報道機関に伝えたメールでは、ホウ酸水注入の用意ができていることも述べられている。ホウ酸水注入は原子炉の臨界を防ぐための手段である。この時点で、東電は「再臨界」も覚悟していたといえる。

報道関係各位一斉メール 2013年

福島第一原子力発電所3号機原子炉建屋5階中央部近傍(機器貯蔵プール側)で湯気らしきものの確認について(続報2)
平成25年7月18日
東京電力株式会社

 本日(7月18日)、3号機原子炉建屋5階中央部近傍(機器貯蔵プール側)より、湯気らしきものが漂っていることを確認したことについての続報です。

 現在(午後1時時点)も湯気らしきものが漂っている状況は継続しております。午後1時のプラント状況について以下のとおり確認するとともに、午後1時15分に未臨界維持を確認しております。
 
 ・原子炉注水、使用済燃料プール冷却   :安定的に継続
 ・モニタリングポスト、連続ダストモニタ :有意な変化なし
 ・圧力容器、格納容器温度        :有意な変化なし
 ・希ガスモニタ             :有意な変化なし
 ・格納容器窒素封入           :有意な変化なし

 また、3号機原子炉建屋使用済燃料プール養生上部の雰囲気線量の測定結果については、毎日作業前に実施している線量測定値と比較して大きな変動はありませんでした。

 なお、未臨界維持を確認しておりますが、念のために、ほう酸水注入については、いつでも開始できる体制を整えております。

 引き続き、状況を注視してまいります。
http://www.tepco.co.jp/cc/press/2013/1229044_5117.html

そして、7月27日の東京新聞朝刊は、3号機の湯気が、単に雨水が加熱されて蒸発されただけではなく、原子炉格納容器内部に注入された窒素がもれ、それとともに外に出た水蒸気に起因する可能性があることを報道した。次に掲げておく。

湯気 格納容器から漏出 福島第一3号機 上部損傷?注入窒素も外へ

2013年7月27日 朝刊

 東京電力福島第一原発3号機の原子炉建屋五階から発生する湯気は、雨水の蒸発だけではなく、格納容器内の水蒸気が外部に漏れたものである可能性が高いことが分かった。
 格納容器には、爆発の危険がある水素を内部から追い出すため、窒素が継続的に注入されている。東電が窒素の注入量と回収量を調べたところ、回収量の方が一時間当たり三立方メートル少ないことが分かった。
 事故発生当初、格納容器内は長時間、高温高圧にさらされ、容器上部のふた周辺部が損傷している可能性がある。
 窒素注入による勢いに押され、格納容器内にこもる水蒸気が容器外に漏れている可能性が高いという。
 格納容器内はおびただしい放射線量とみられるが、容器内から回収した気体に含まれていた水の放射性セシウム濃度は一ミリリットル当たり九〇ベクレルと意外なほど低い値だった。
 東電は当初、建屋五階からしたたり落ちた雨水が、四〇度前後の熱がある格納容器のふたに触れて、水蒸気になり、冷たい空気によって湯気が発生したと説明していた。
 格納容器内からの漏出について、東電の今泉典之原子力・立地本部長代理は「福島第一からの放射性物質の放出量を継続的に見直しているが、その量に影響していない」と、放出量は少ないとの見方を示している。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2013072702000118.html

この報道は著しくわかりにくい。雨水の蒸発による水蒸気と格納容器内部の水蒸気と、原因が両論併記されている。ただ、格納容器内部に注入された窒素が外部に漏れていることは確実である。つまり、格納容器はもはやその内部の物質を封じ込めることができなくなっているのである。そして、もし雨水もまた湯気発生の原因であるならば、格納容器自体も熱を帯びるようになっているのである。

さらに、2011年4月当時に2号機から漏れ出した1リットル当たり23億bqの汚染水が地下の配管用トンネルであるトレンチにたまっていることが27日に東電より公表された。

福島第1原発:汚染水流出 トレンチで23億ベクレル 震災直後と同水準、「漏えい源」強まる
毎日新聞 2013年07月27日 東京夕刊

 福島第1原発の敷地内から海へ放射性物質を含む地下水が流出している問題で、東京電力は27日、汚染水の漏えい源とみられる敷地海側のトレンチ(地下の配管用トンネル)にたまっている水から、1リットル当たり23億5000万ベクレルの高濃度で放射性セシウムを検出したと発表した。

 放射性セシウムの内訳は、放射性物質の量が半分になる「半減期」が約2年のセシウム134が1リットル当たり7億5000万ベクレル、約30年のセシウム137が同16億ベクレルだった。またストロンチウムなどが出す放射線の一種のベータ線測定から算出した放射性物質は、同7億5000万ベクレルだった。

 同原発2号機で原発事故直後の2011年4月に、取水口付近などで高濃度汚染水が漏れ、その際1リットル当たり36億ベクレルの放射性セシウムが検出されている。トレンチには、その際の汚染水が滞留し、海への漏えい源の疑いがあるため、東電が調査した。東電はトレンチ内の汚染水について、9月から浄化作業を始める予定としている。【野田武】
http://mainichi.jp/feature/20110311/news/20130727dde001040029000c.html

これは、最近判明した、2号機周辺の地下水が汚染され、海洋に流出しているということと関連しているかどうかはっきりしない。いずれにしても、最早2年も経過しているのに、調査すらしていなかったことになる。そして、東電は9月から浄化作業にかかるといっている。準備に時間がかかることは理解できるし、あまりに不備な状態で作業にかかると無用の被曝を招くだけだが、悠長なことである。

そして、ややさかのぼるが、7月25日には、6号機の原子炉冷却が一時停止されたことが報じられた。朝日新聞のネット配信記事をみておこう。

2013年7月25日13時13分

福島第一6号機、原子炉冷却が一時停止 電気系統が故障

 東京電力は25日、福島第一原発6号機で原子炉の冷却が電気系統のトラブルで一時停止したと発表した。約2時間後に復旧し、周辺の放射線測定値などに異常はないという。

 東電によると、25日午前10時20分ごろ、6号機の非常用ディーゼル発電機の起動試験をしていたところ、原子炉の冷却システムが停止した。復旧し冷却を再開したのは午後0時6分。原因を調べている。

 6号機の原子炉内には764体の燃料集合体が入っている。冷却の一時停止で原子炉の水温は0・5度上昇し、27・6度だった。

 使用済み核燃料プールの冷却は別システムで稼働は継続していた。

 原子力規制委員会は「冷温停止状態は維持されているので安全上問題となるものではない」としている。
http://www.asahi.com/national/update/0725/TKY201307250095.html

2号機周辺の地下水汚染とそれによる海洋汚染、3号機の「湯気発生」、2号機周辺のトレンチにおける高濃度汚染水滞留の発覚、6号機の原子炉冷却の一時停止と、さまざまな異常事態が現在の福島第一原発ではおきている。参院選を考慮して公表を遅らしたものもあることを考えても、ひどい状況である。それぞれに、東電は「影響は小さい」などととコメントしている。そのこと自体疑わざるをえない。他方で、もし、そうだとしても、これほど立て続けに異常事態が頻発していて、福島第一原発全体の管理は大丈夫かとも思う。そして、単に事故が起きないように管理しているだけではすまないはずである。廃炉作業を進めていかなくてはならないのである。東京電力の当事者能力の有無を疑わざるをえない。さらに、東電は、2012年7月31日に原子力損害賠償支援機構が50%余の株式を取得し、そのことによって実質的に国有化された。その意味で、東電の失敗は、国の責任でもある。

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福島第一原発は、日々荒廃の度を深めていっているようにみえる。本ブログでも紹介しているように、本年5月以来、福島第一原発周辺の地下水が汚染されていることが発覚し、さらにその汚染された地下水が海洋に流れ込んでいることを東電も認めざるをえなくなっている。

また、最近、報道されているのは、3号機から湯気が出ていることである。まず、7月18日に湯気が確認され、即日報道された。ここでは、毎日新聞のそれをみておこう。

福島第1原発:3号機、建屋から湯気 原因は不明
毎日新聞 2013年07月18日 東京夕刊

 東京電力は18日午前、福島第1原発3号機の原子炉建屋5階から湯気のようなものが上がっているのを確認したと発表した。原子炉の温度や周囲の放射線量などに変化はなく、東電は「原因は不明」として確認作業を続けている。

 このフロアには使用済み核燃料プールがあるが、注水は継続され安定的に冷却できているという。【八田浩輔】
http://mainichi.jp/feature/20110311/news/20130718dde041040065000c.html

そして、湯気は7月23日にも確認された。そして、この湯気周辺では、毎時最大2170mSvの放射線量が検出されたという。次にかかげる東京新聞の報道をみてほしい。

湯気発生の3号機5階 最大2170ミリシーベルト計測 福島第一

2013年7月24日 朝刊

 東京電力は二十三日、福島第一原発3号機の原子炉建屋五階で湯気が発生した場所の周辺で、最大毎時二一七〇ミリシーベルトを計測したと発表した。人が数時間もいれば確実に死亡する高い線量。3号機はこれまでも放射線量が高く、事故収束作業の足を引っ張ってきたが、あらためて汚染度のひどさが明らかになった。
 3号機原子炉建屋五階では十八と二十三の両日、格納容器の上部と機器貯蔵プール境目付近で、湯気の発生が確認された。
 東電は、クレーンで建屋上部から線量計をつるし、湯気の発生場所近くの二十五カ所で放射線量を計測。毎時一三七~二一七〇ミリシーベルトを計測した。湯気が出た直近の場所では五六二ミリシーベルトだった。
 東電は、湯気の原因を、雨水が熱を持った格納容器のふたに触れて蒸発したとみているが、原子力規制委員会が詳細な調査を指示していた。
 3号機ではこれまで、格納容器近くの床で毎時四七八〇ミリシーベルトを計測するなど現場の高線量が作業の障壁となっている。
 水素爆発による建屋上部のがれきはほぼ片付けられたが、最上階の五階に近づくほど線量が高い状態。作業員は放射線を遮る重いタングステン板入りのベストを装備して作業に当たる。それでも一人が現場で作業できる時間はわずかしかない。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2013072402000123.html

この報道によると、この線量は、人が数時間いれば確実に死に至るとしている。元々3号機では放射線量が高く、作業が進まなかったようである。3号機は、人間のコントロールが十分及ばないといえる。そして、この報道では、この湯気は、雨水が熱をもった格納容器にふれて発生していると東電はみているとしている。つまり、湯気が出るくらい、いまだ3号機の格納容器は「熱い」のだ。

そして、人の手が及ばないことを示すかのように、24日にも湯気発生が確認された。読売新聞の報道をみてみよう。

福島第一3号機で再び「湯気」発生

特集 福島原発
 東京電力は23日、福島第一原子力発電所3号機の原子炉建屋5階から一時、湯気のようなものが発生し、その場所で毎時562ミリ・シーベルトの放射線を観測したと発表した。

 周辺の24か所も計測したところ、同137~2170ミリ・シーベルトだった。原子力規制庁は、線量が高いことから、詳細な調査を行うよう東電に指示した。

 東電によると、湯気のようなものは午前9時過ぎに作業員が確認し、午後2時半頃までに消えた。18日にも発生しており、東電が原因を調べている。

(2013年7月24日00時51分 読売新聞)http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20130724-OYT1T00093.htm?from=ylist

野田内閣は2011年末に収束宣言を出したが、事態はまったく収束にはいたっていない。高い放射線量のため、原発には手をつけることができないのだ。そして、東電が推測するように、雨水が格納容器に接触して湯気が出たとするならば、①原子炉は現状において雨水がもれてくるほど密閉性が保たれていない、②原子炉は結局のところ雨ざらしになっている、③原子炉を囲んでいる格納容器はいまだ湯気が出るほど熱をもっている、ということになるだろう。

18日の「湯気発生」について、東電は「原子炉の温度や周囲の放射線量などに変化はなく」としていた。このことをまともに受け取ることはできないが、もし、そうだとするなら、それもそれで問題であろう。原子炉建屋が壊れて原子炉が外気に露出してそこに雨漏りし、その格納容器が「湯気」が出るほど熱く、人が立ち入れば数時間で確実に死に至るほどの高線量が検出されている、そういう状況は、「湯気」の有無にかかわらず、「変化」はないということになるのである。今、福島第一原発問題についての「世論」の「風化」が取り沙汰されている。その一方で、福島第一原発は、根本的な事態解消の方策が示されないまま、むしろ、時間がたつにつき、物理的な風化作用をうけ、より荒廃の度を増しているようにみえるのである。

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さて、本日は、2003年に東京都教育委員会が、「入学式、卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱に関する実施指針」を定め、都立学校の現場で国旗掲揚・国歌斉唱を強力に指導するようになった経緯をみていくことにする。

2003年10月23日の東京都教育委員会にて、「入学式、卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱の実施について」という通達案議が出された。その別紙として「入学式、卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱に関する実施指針」が規定されている。まず、この通達案全文をみておこう。

入学式、卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱の実施について

東京都教育委員会は、児童・生徒に国旗及び国歌に対して一層正しい認識をもたせ、それらを尊重する度を育てるために、学習指導要領に基づき入学式及び卒業式を適正に実施するよう各学校を指導してきた。
これにより、平成12年度卒業式から、すべての都立高等学校及び都立盲・ろう・養護学校で国旗掲揚及国歌斉唱が実施されているが、その実施態様には様々な課題がある。このため、各学校は、国旗掲揚及び国歌斉唱の実施について、より一層の改善・充実を図る必要がある。
ついては、下記により、各学校が入学式、卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱を適正に実施するよう通達する。
なお、「入学式及び卒業式における国旗掲揚及び国歌斉唱の指導について」(平成11年10月19日付11教指高第203号、平成11年10月19日付11教指心第63号)並びに「入学式及び卒業式などにおける国旗掲揚及び国歌斉唱の指導の徹底について」(平成10年11月20日付10教指高第161号)は、平成15年10月22日限り廃止する。

1 学習指導要領に基づき、入学式、卒業式等を適正に実施すること。
2 入学式、卒業式等の実施に当たっては、別紙「入学式、卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱に関する実施指針」のとおり行うものとすること。
3 国旗掲揚及び国歌斉唱の実施に当たり、教職員が本通達に基づく校長の職務命令に従わない場合は、服務上の責任を問われることを、教職員に周知すること。

別紙
入学式、卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱に関する実施指針
1 国旗の掲揚について
入学式、卒業式等における国旗の取扱いは、次のとおりとする。
(1) 国旗は、式典会場の舞台壇上正面に掲揚する。
(2) 国旗とともに都旗を併せて掲揚する。この場合、国旗にあっては舞台壇上正面に向かって左、都旗にあっては右に掲揚する。
(3) 屋外における国旗の掲揚については、掲揚塔、校門、玄関等、国旗の掲揚状況が児童・生徒、保護者その他来校者が十分認知できる場所に掲揚する。
(4) 国旗を掲揚する時間は、式典当日の児童・生徒の始業時刻から終業時刻とする。
2 国歌の斉唱について
入学式、卒業式等における国歌の取扱いは、次のとおりとする。
(1) 式次第には、「国歌斉唱」と記載する。
(2) 国歌斉唱に当たっては、式典の司会者が、「国歌斉唱」と発声し、起立を促す。
(3) 式典会場において、教職員は、会場の指定された席で国旗に向かって起立し、国歌を斉唱する。
(4) 国歌斉唱は、ピアノ伴奏等により行う。
3 会場設営等について
入学式、卒業式等における会場設営等は、次のとおりとする。
(1) 卒業式を体育館で実施する場合には、舞台壇上に演台を置き、卒業証書を授与する。
(2) 卒業式をその他の会場で行う場合には、会場の正面に演台を置き、卒業証書を授与する。
(3) 入学式、卒業式等における式典会場は、児童・生徒が正面を向いて着席するように設営する。
(4) 入学式、卒業式等における教職員の服装は、厳粛かつ清新な雰囲気の中で行われる式典にふさわしいものとする。
http://www.kyoiku.metro.tokyo.jp/kohyojoho/reiki_int/reiki_honbun/g1013587001.html

この議案をみると、国旗国歌法制定(1999年8月)に先立つ1998年にはすでに入学式・卒業式で日の丸・君が代を扱う通達が出されていたことがわかる。1999年に選出された石原慎太郎都知事の前任者青島都知事の時代である。そして、1999年にも通達が出されている。残念ながら、これらの内容については不明である。それに、これら以前から何らかの通達が出されていたかもしれない。

特徴としては、まず、学習指導要領に基づき、入学式・卒業式で国旗掲揚・国歌斉唱を行うものとしているということである。ただ、学習指導要領よりもはるかに細かく入学式・卒業式の形式まで規定している。その上で、「国旗掲揚及び国歌斉唱の実施に当たり、教職員が本通達に基づく校長の職務命令に従わない場合は、服務上の責任を問われることを、教職員に周知すること」と、この入学式・卒業式の国旗掲揚・国歌斉唱は校長の職務命令によって教職員に実施させるものであり、従わない場合は処分することを明示している。このブログで以前とりあげたように、国旗国歌法制定時の国会審議において、有馬朗人文相は、学習指導要領によって学校の入学式・卒業式で国旗掲揚・国歌斉唱を行わせるが、職務命令による実施やそれにそむいた場合の処分は最後の手段にしたいとしていた。

この通達案を教育委員会に提起する際、指導部長(近藤精一)から説明があった。その説明によると、すでに入学式・卒業式の実施指針は存在していたが、それをさらに細かく規定したということである。説明をみていると、現場では「フロア形式」にするとか、教職員がTシャツを着用するとか、いろいろと抵抗していたらしい。そのため、細かく入学式・卒業式の儀式内容を規定することになったとしているのである。

【指導部長】 それでは、入学式及び卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱の実施につきましてご報告いたします。
この間、東京都教育委員会では、児童・生徒に国旗及び国歌に対して、一層正しい認識を持たせまして、それらを尊重する態度を育てるために、学習指導要領に基づいて入学式及び卒業式を適正に実施するよう各学校を指導してきたところでございます。特に、平成11年10月には、入学式、卒業式における国旗、国歌の指導についての通達を出すなどいたしまして、各学校に対し、指導の徹底を図ってきたところでござ
います。
こうしたことによりまして、平成12年度の卒業式から、校長先生方のご努力によりまして、すべての都立学校におきまして、国旗掲揚及び国歌の斉唱が実施されたわけでございます。
しかしながら、その実施形態につきましては、様々な課題があることを、この教育委員会や、また議会、都民の方々から指摘されているところでございます。
そこで、この国旗の掲揚及び国歌の斉唱の実施につきまして、より一層改善、充実を図る必要があるため、本年7月9日に、教育庁内に都立学校等卒業式・入学式対策本部を設置いたしまして、この間、鋭意検討を進めてまいりました。
このたび、この対策本部における国旗掲揚及び国歌斉唱の適正実施についての方針を通達としてまとめましたので、ご報告をさせていただきます。
それでは、通達についてご説明いたしますが、お配りいたしております資料の枠囲いの部分をご覧いただけるでしょうか。
通達は、大きく三つに分けて示してございます。この部分については読ませていただきます。
1、学習指導要領に基づき、入学式、卒業式等を適正に実施すること。
2、入学式、卒業式等の実施に当たっては、別紙「入学式、卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱に関する実施指針」のとおり行うものとすること。
3、国旗掲揚及び国歌斉唱の実施に当たり、教職員が本通達に基づく校長の職務命令に従わない場合は、服務上の責任を問われることを、教職員に周知すること。
以上が通達の本文でございますが、別紙といたしまして、実施指針を示してございます。
その下に書いてございますが、指針は、やはり大きくは3点示しているわけでございます。
一つは、国旗の掲揚について、一つは、国歌の斉唱について、一つは、会場設営等についてでございます。
それぞれにつきまして、これまでの実施指針を大きく変更した部分等を中心にご説明させていただきます。
まず 1の国旗の掲揚についてでございますが これにつきましては 1 に 「舞台壇上」とございますが、この部分を新たに挿入してございます。これは、正面という概念を明確にするためでございます。
(2)では、都旗について示してあるわけでございますが、これまでは都旗については触れてございませんでしたので、新たに加えたものでございます。
そして2番目の国歌の斉唱についてでございますが、これは(3)の式典において教職員は、会場の指定された席で国旗に向かって起立し、国歌を斉唱することと、(4)の国歌斉唱は、ピアノ伴奏等により行うことを新たに加えてございます。
3番目の会場設営についてでございますが これにつきましては (1 )から( 4 )まですべて新たに加えたものでございます。
( 1 )から( 3 )までは会場の設営について示してこれまでもご指摘されてきているところでございますが、儀式的行事としてふさわしくないフロア形式等の卒業式が見られたということから、この3点を挙げているわけでございます。
そして(4)には、服装について新たに示してございます。これは、昨年のこの委員会でもご報告させていただきましたが、卒業式にTシャツを着て参加するという教員がいたということからも、こうしたことを加えているわけでございます。
恐れ入りますが、2枚目をご覧いただけるでしょうか。
ただいまご説明いたしました通達実施につきましては、本日付でお示した公文書をもって各都立学校長に通達をいたします。
なお、あわせて区市町村教育委員会に対しては、写しを添えて通知いたす予定でございます。
http://www.kyoiku.metro.tokyo.jp/gaiyo/gijiroku/1517teirei.pdf

一方、この通達案について、教育委員の一人から賛成演説があった。次に紹介しておきたい。

【委員長】 かつて11年に一度通達をしたわけですけれども、形態としていろいろあるということなので、そのことについて改めて通達をしたいということです。
何かご質問ございますか。
【委員】 本当に手取り足取り一々こういう通達を出さなければいかんということは本当に情けない話です。企業もそうですが、当たり前のことが、あるいは決まりがきっちりと行われなかったときに、必ず企業はつぶれるようなことがあるのです。学校もそうだと思います。学校も同様に崩壊していくと思います。こういう当たり前のことが当たり前に行われないということが一番大きな問題なのです。
この間もあるアメリカの友人と話したのですが、松井選手は何であんなにアメリカの人たちに尊敬されているかということなんです。アメリカの国旗・国歌のときに、彼が本当に真摯なまなざしで、形でもって相手方の、アメリカの国旗・国歌に対して敬意を表しているんです。その後にホームランを打ったので、みんなスタンディングオベーションになったのです。もし、あのときに松井選手が何もしないで、あるいは芝生に座ったままでいて、それでホームランを打っても、彼の名前というのは上がらなかっただろうということをその友人は言っています。本当にアメリカ人はそういうような姿勢で見ている。要するに、日本の自分の国の国歌とか国旗に関して敬意を表さない者は、このグローバル化した社会の中で尊敬されるはずがないのです。たまたまそういうような話がアメリカの友人からありましたので、紹介しました。
本当に情けない話だけれども、地域の人たち、市民の人たちにも、学校はこういう実態なんだということで協力を求めるという姿勢も大切です。私の感想として申します。
【委員長】 残念ですけれども、またこういう通達を出さなければならないということになりましたが、ひとつ市民の皆さん方にも協力していただくようにお願いする以外にはない。十分PRをお願いいたします。
【委員】 それから市区町村の教育委員会に対しても、きちっと徹底したことをやっていただきたい。そういうところをあいまいにすると、やはりそれが当たり前と思ってしまうのです。ぜひ、お願いしたいと思います。
【委員長】 今のお話のようなことを十分やっていただきたいと思います。よろしくどうぞお願いいたします。ありがとうございました。http://www.kyoiku.metro.tokyo.jp/gaiyo/gijiroku/1517teirei.pdf

教育委員長が早稲田大学総長だった清水司だったことはわかるが、委員の氏名はわからない。もしかすると、国旗国歌に熱心だった米長邦雄かもしれない。この「演説」の内容は三点からなっている。第一点は、とりあえず「決まり」を守らないと学校は崩壊していくということである。第二は、アメリカ大リーグで活躍した松井秀喜を例にして、グローバリズムの中でアメリカで日本人が活躍していくためには、国旗・国歌に敬意を示すことが必要であるいうことである。第三点は、学校をただしていくためには、地域の市民にも協力をよびかけなくてはならないということである。

そして、この通達案は東京都教育委員会によって了承され、即日、都立高等学校長、都立盲・ろう・養護学校長に通達された。この通達が、現在の東京都教育委員会の国旗国歌対策の源流となっているのである。

ここまで、2003年に東京都教育委員会が「入学式、卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱に関する実施指針」を出す経過についてみてきた。この経過の中で印象深いのは、やはり、教育委員某の「賛成演説」であろう。

日の丸・君が代は、よくも悪くも、近代日本国家によって歴史的につくられてきた国家のシンボルである。日の丸・君が代に反対するということは、国旗・国歌一般について反対することと同義ではない。天皇主権のもとに思想の自由もなく侵略に民衆が駆り出されていった日本の近代国家の記憶のゆえに、その象徴としての日の丸・君が代は反対されてきたのである。逆にいえば、日本の近代国家のあり方をトータルに肯定しようとする人びとにおいては、日の丸・君が代は当然のごとく護持されてきたといえる。

この教育委員某の賛成演説は、日の丸・君が代が歴史的にさまざまな評価を加えられてきたことを無視している。日本の近代国家をトータルに肯定するという論理すら一顧だにされない。ここでは、歴史的な経過とは無関係に、グローバリズムの下でアメリカで成功するためには、アメリカにおいて国旗・国歌に敬意が表されていることを理解しなくてはならず、そのために日本でも国旗・国歌に敬意を表することを教えなくてはならないとしているのである。言い換えれば、アメリカの国旗・国歌に敬意を表するために、日本の国旗・国歌にも敬意を払わなければならないということになる。これ自身、まるで倒錯しているといえよう。

そして、現在、日の丸や君が代の扱いをみると、伝統的な形で扱われているとはいえない。少し前は、官庁でも学校でも個人でも、祝日に日の丸は掲揚された。ゆえに祝日は「旗日」とよばれていた。現在、官庁や議会は、ほとんど常に日の丸を掲揚している。ああいう扱いは、むしろ、アメリカにおける国旗の扱いに淵源するだろう。そういった意味で、現状の国旗・国歌の扱いは「アメリカ」化なのではなかろうか。

そう考えてくると、この教育委員某の発言は、非常に意味深長である。「アメリカ」化(もちろん、ここでいう「アメリカ」とは、「大国」の典型でしかなく、民主主義国と理解されているわけではないが)するために、日の丸や君が代などの歴史的に形成された国家のシンボルを歴史的文脈とは無関係に援用しようとしていることになろう。そして、いわば、「アメリカ」化を志向すればするほど、日の丸・君が代などの過去の歴史的な国家のシンボルはより強制されるのである。

白井聡氏は『永続敗戦論』(太田出版 2013年)の中で、「敗戦を否認しているがゆえに、際限のない対米従属を続けなければならず、深い対米従属を続けている限り、敗戦を否認し続けることができる。かかる状況を私は『永続敗戦』と呼ぶ」と指摘している。この教育委員某によって表出されている論理は、この「永続敗戦」の別ヴァージョンの論理といえる。日本社会の対米従属は、日本社会の「アメリカ」化志向を生むにまでいたった。その中で、「アメリカ」化するために、日の丸・君が代を護持しなくてはならないという倒錯的な論理をうむことになった。むろん、この「アメリカ」化とは、日本側が自己の願望を映し出した鏡像にすぎない。自己がめざすべき「大国」としてのアメリカしかみていないのである。この大国化の論理こそ、戦前の日本近代国家に淵源するものなのである。

日の丸・君が代の強制は、単に戦前への復古とみるべきではない。もちろん、戦前の大国化の論理を前提としつつ、現在の大国としてのアメリカへのミメーシスという倒錯的な論理もそこには存在している。このようなことが、『NOと言える日本』(盛田昭夫と共著、1989年)を書いた石原慎太郎都知事のもとでおきていたのである。

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さて、本ブログの6月25日付記事「地下水・海水への放射能汚染が報道された福島第一原発ー東日本大震災の歴史的位置」において、次のことを指摘した。まず、5月末以来、福島第一原発周辺の地下水の放射能汚染が顕著になった。そして6月中旬以降、福島第一原発取水口付近の海水においても放射能汚染が顕著になってきていた。しかし、東電は海水汚染の原因が汚染地下水にあることを認めなかった。

そして、ようやく、東電は7月22日になってようやく海水汚染の原因が福島第一原発周辺の地下水にあることを認めた。7月21日の、参議院選挙投開票日の一日後のことである。まず、このことを伝える毎日新聞のネット記事をみてほしい。

福島第1原発:東電、汚染水の海洋流出認める 規制委に18日報告、公表4日後
毎日新聞 2013年07月23日 東京朝刊

 東京電力福島第1原発海側の観測井戸で高濃度の放射性物質が検出されている問題で、東電は22日、井戸の地下水位と海の潮位データとの関係を分析した結果「放射性汚染水を含む地下水が海へ流出している」との見解を発表した。2011年4月には2号機取水口付近などで高濃度汚染水が漏れる事故があったが、一連の収束作業で海洋流出を認めたのは初めて。東電は流出が始まったと確認できるのは「少なくとも、井戸の詳細な分析を始めた今年5月以降」と説明。流出量は「不明」としている。

 東電は「汚染は放射性物質の流出を防ぐシルトフェンス内側に限られ、沖合の影響はない」と説明するが、風評被害など周辺漁業への影響は確実。汚染源は海側トレンチ(地下に設置した配管用トンネル)とみられ、東電は同日、残る汚染水を回収する処理計画を発表した。しかし、トレンチ内部には大量の汚染水が未処理のまま残り、完了時期は未定で、今後も海洋汚染が続く恐れがある。

 東電によると、放射性物質が見つかった観測井戸の地下水を調べた結果、井戸の水位が周辺海域の潮位や降雨に従って増減することを確認。地下水と海水との「行き来」があると判断した。

東電は今年6月、井戸から1リットル当たり50万ベクレルのトリチウム(三重水素)などが検出されたと発表。その際は、2号機取水口で漏れた高濃度汚染水が地中に残った影響と説明し、海洋流出の可能性を否定していた。しかし、原子力規制委員会の島崎邦彦委員長代理は同月、「潮位変化による水の出入りを調べるべきだ」と指摘。規制委も今月10日に「海洋への汚染の拡散が疑われる」と指摘した。東電は18日、今年1月末から今月中旬までに実施した水位の結果を規制委に報告し、22日になって公表した。

 17日に港湾入り口で採取した海水を分析した結果、セシウムなどは検出限界未満だったが、微量のトリチウムが検出された。

 東電の尾野昌之原子力・立地本部長代理は記者会見で「大変申し訳ない」と釈明。公表が参院選開票日翌日になったことについては「データを説明できる状況になったのが今日(22日)だった。関係ない」と語った。【中西拓司】
http://mainichi.jp/feature/20110311/news/20130723ddm001040120000c.html

この記事を読む限り、原子力規制委員会もすでに海洋汚染の原因が汚染地下水にある可能性を指摘していた。東電は、原子力規制委員会には18日にその旨を報告していた。しかし、東電は、「データを説明できる状況になったのが今日(22日)だった。」として、22日に公表した。そして、参院選開票日の翌日に公表したことには「関係ない」と答えている。

海洋における放射能汚染の原因が福島第一原発周辺の汚染地下水にあることを22日に東電が公表したことは、近隣の漁師たちの怒りを買った。再び、毎日新聞のネット配信記事をみてみよう。

福島第1原発:汚染水海洋漏れ、地元漁民ら怒り
毎日新聞 2013年07月22日 21時56分(最終更新 07月23日 04時55分)

 「やっぱりか」「なぜ今日なのか」。東京電力福島第1原発の敷地内で出た放射性汚染水について、22日、懸念されていた海洋漏れが「あった」と認めた東電に対し、原発事故の影響で漁自粛が続く福島県の地元漁協は怒りをあらわにした。計り知れない風評被害の拡大へ不信感や危機感をのぞかせた。【中尾卓英、神保圭作、高橋秀郎】

 福島県いわき市沿岸では今年9月から、シラスなどの試験操業が原発事故後で初めて開始される予定で、この日は地元で漁協組合長らが専門家を交えて協議していた。その後飛び込んだ最悪のニュースだった。県内のある漁協関係者は「海に流れているのではないかということはうすうす感じていた」と話し、別の漁業関係者は「選挙が終わった日になぜ」と話していた。

 東電の新妻常正常務らは22日午後3時半、汚染水が海へ漏えいしている事実を説明するため、いわき市の県漁連を訪問。頭をさげる常務らに、対応した県漁連の野崎哲会長や、いわき市漁協、相馬双葉漁協の組合長は硬い表情で「風評被害につながる。ショックは大きい。とにかく早く漏えい対策を取ってほしい」と迫ったという。

 県漁連と東電は、たまり続ける汚染水対策の一環として地下水をくみ上げ海に放出する「地下水バイパス」の稼働を巡り、議論を続けている。県漁連の幹部は「(今回の汚染水漏れの)影響は大きい。組合員へも説明を続けているが、反発は避けられない」と話す。

いわき市漁協の矢吹正一組合長は「重い話だった。分かりにくい数値を並べるより、我々の生活の糧である『常磐の海』を以前の状態に戻すことが東電と国の使命」と指摘した。

 一方、昨夏に試験操業を始めた相馬双葉漁協の佐藤弘行組合長は「これまでの説明で一番厳しい内容だ。慎重に慎重を重ね、放射性物質検査で基準値(1キロあたり100ベクレル)を下回る魚を15種まで一つ一つ増やして試験操業をしてきたのに」と不満を漏らした。
http://mainichi.jp/feature/20110311/news/20130723k0000m040083000c.html

すでに報道されているように、東電は、福島第一原発に流れ込んで来る地下水をくみあげて海に流し、そのことで汚染水を減らす作業を行おうとしており、周辺漁協と合意をとろうとしていた。しかし、5月以来、福島第一原発周辺の地下水の汚染は顕著となっており、海洋にも及んでいることが明かとなった。この記事もあるように、漁師たちの反発は高まっているのである。

そして、「選挙が終わった日になぜ」という疑問が漁師たちの間でも惹起された。

毎日新聞にあるように、すでに18日には規制委員会には報告していた。すでに、その段階で、公表できる材料はあったといえる。しかし、東電も原子力規制委員会も、その時点で公表しなかったのである。

福島第一原発事故の際、SPEEDI他の値が隠蔽されて公表されず、周辺住民に不要な被曝を招いたことは記憶に新しいが、いまだに、このようなことを行っているのである。

そして、やはり、22日になって公表したのは、参院選の結果に影響が出ることを恐れたためであろう。参院選においては、現政権与党の自由民主党と公明党の有利が伝えられ、実際の選挙結果もそうなった。しかし、東電にせよ、原子力規制委員会にせよ、この参院選の結果に少しでも影響を及ぼすことをさけたため、21日以前ではなく、22日の公表になったと推測できる。

それにしても、東電や原子力規制委員会は、実際に事故をおこしている福島第一原発や、その事故によって被害を受けた当事者たち(この場合は福島県の漁師たち)のほうに向き合わず、「国」の統治者たちのほうに向いていると言わざるをえない。東電が福島第一原発事故をコントロールしているとは到底思えないのであるが、結局、そのことを認める認めないは、国の統治者たちである。実際に、東電は実質的に国有化されている。そして、独立性が強調されている原子力規制委員会も、やはり、究極的には国のほうをむいているのである。

今度の参院選で原発推進派が少しでも多くの議席を獲得し、反原発派に議席を与えないこと、反原発派を政府に入れさせないこと、このような選挙対策こそ、東電や原子力規制委員会の最大の関心事なのである。実際に福島第一原発事故をコントロールすること、周辺住民に被害(精神的なものも含めて)を与えないようにすること、そして、新たな対策に周辺住民の理解を得るというようなことは、二義的な問題にすぎないのであろう。つまり、東電や原子力規制委員会の原発事故対策の中心は選挙対策ということなるのである。

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さて、もう一度、現在の参議院選挙における自由民主党の公約の中で、原発再稼働問題がどのように扱われているかみておこう。自民党の公約では、次のように述べられている。

●原子力発電所の安全性については、原子力規制委員会の専門的判断に委ねます。
その上で、国が責任を持って、安全と判断された原発の再稼働については、地元自治体の理解が得られるよう最大限の努力をいたします。
●次世代への責任を果たすべく、高レベル放射性廃棄物の「大幅な有害期間の短縮・毒性の低減化」の研究開発を加速させます。

まず、上段では、原子力規制委員会に安全性の判断を委ねるとしながらも、安全と判断された原発の再稼働については、地元自治体を説得するなど積極的に動くとしている。このことについては、そもそも、原子力規制委員会の安全審査自体が十分なのかということがある。

他方で、例え原発の運転は安全だとしても、その結果生じる放射性廃棄物はどうするのかということがある。現在、使用済み核燃料については、再処理してプルトニウムやウランを取り出し、普通の軽水炉(プルサーマル)か高速増殖炉で再び燃料とするという核燃料サイクルが方針として打ち出されている。しかし、現在、核燃料再処理工場、高速増殖炉もんじゅなどは安定して稼働できる保障はない。プルサーマルについては、再処理して再び燃料とするコストを考えると、そのまま廃棄処理するほうが経済的ではないかといわれている。

そして、例え、再処理したとしても、そこで再利用できるのは、プルトニウムやウランだけにすぎない。その他のセシウム137(半減期約30年)、ストロンチウム90(半減期約28年)などはもちろん残る。より問題なことは、ネプツニウム237(半減期214万年)など、長期間にわたって放射線を出すものも残ってしまう。これらについては、放射線が出ないようにガラスで固めて(ガラス固化)、地中深く埋める(地層処分)ことになっている。しかし、放射性廃棄物の種類によっては、それこそ数万年以上も放射線を出し続けることになり、何かのメカニズムで再び地上に出て来ることが懸念されている。その意味で、原発の稼働を続けるということは、人類自体が処理不可能な放射性廃棄物を増やしていくといわれているのである。

そのことに対して、自民党の公約は「次世代への責任を果たすべく、高レベル放射性廃棄物の『大幅な有害期間の短縮・毒性の低減化』の研究開発を加速させます」といっている。これを読んで、最初は何を言っているのかわからなかった。知人に「消滅処理ー核変換処理」のことを言っているのだろうと教示をうけた。何らかの形で、放射性物質の原子核の核種を変換させて、別の物質にするということである

この「消滅処理ー核変換処理」の現状については、デイリー東北がネット配信した記事が要領よくまとめている。

核燃料サイクル

注目の研究「核変換技術」 現状と課題探る
(2013/01/20)
 原発の使用済み核燃料を再処理した際に出る高レベル放射性廃棄物。放射能レベルが非常に高く、人体への毒性が天然ウラン並みに下がるまで約1万年かかるとされる。この核のゴミを、「核変換技術」を用いて毒性を低減させる研究が国内で進められている。政府も2013年度、本腰を入れて取り組む姿勢を示し、注目が集まる。確立すれば毒性低減の時間を1万年から300年に短縮できる「夢の技術」だが、技術的や時間的な課題も多く、実用化は未知数。核のゴミ問題を解決する突破口になるか、現状と課題を探った。

■核変換の仕組み
 核変換は原子核に中性子を当てて、異なる元素や同位体に変換する技術。廃棄物の場合、長時間、強い放射線を出す原子核を短時間で弱い核種に変換するという考え方だ。
 全ての放射性核種には、固有の「半減期」があり、例えば半減期30年のセシウム137は、30年ごとに放射能が半減し、300年で1千分の1になる。
 高レベル廃棄物にはさまざまな核種が存在するが、中でも半減期の長いネプツニウム237(半減期214万年)とアメリシウム243(同7370年)がやっかいだ。
 これらの長寿命放射性原子核はマイナーアクチノイド(MA)と呼ばれ、重さ1トンの使用済み核燃料にわずか1キロしか含まれていないが、放射線を長時間出すため、毒性低減の妨げとなっている。
 核変換では、MAに中性子を当て、半減期の短いセシウム137(同30年)やストロンチウム90(同28年)などの短寿命放射性原子核に変える。どの核種に変化するかは、中性子の当たり具合で異なり、繰り返すことで効果を高められる。

■研究の現状
 廃棄物の核変換技術は現在2種類の研究が行われている。一つは加速器駆動未臨界システム(ADS)を使った研究、もう一つは高速中性子を使った高速炉で発電しながら核変換を行う「高速炉サイクル」の研究だ。
 ADSの研究は原子力機構が茨城県で実施。毒性低減に特化した装置で、専用炉に冷却材の鉛・ビスマスとMAを入れ、加速器で加速させた陽子を照射。炉内で発生した中性子で核変換を行う。
 大量のMAを処理できるほか、臨界(核分裂の連鎖反応)を伴わないため安全性が高いとされるが、装置は未完成で基礎研究にとどまっている。
 一方、高速炉を使った核変換は「もんじゅ」(福井県、原子力機構)で今後、本格的な研究が進められる見通し。
 経済産業省は国の13年度予算の概算要求で、高速炉を使った廃棄物の毒性低減や減容化の研究費として新規で32億円を要求、本格的な研究に着手する方針を示している。

■課題と見通し
 ADSはさまざまな技術的課題がある。まず陽子を照射する加速器を高出力に変えることが不可欠で、超電導装置の研究開発に時間がかかる。
 冷却材に使用している鉛・ビスマスも重い上、さびやすいため酸素濃度の調整が必要なほか、炉内に入れるMAの加工技術も重要な研究課題となる。
 もんじゅは、トラブル続きで現在も運転を停止しており、再開の見通しが立っていない。経産省は「コンピューターのシミュレーションなどで研究はできる」としているが、先行きは不透明だ。
 技術的な課題は、プルトニウム・ウラン混合(MOX)燃料などにMAを混ぜて燃焼させた際の安全性の確保や、以前から指摘されている冷却用ナトリウムの安定性などが挙げられる。
 「もんじゅ」を再稼働させることに対する国民の反発も根強く、今後の研究に影響する可能性がある。http://cgi.daily-tohoku.co.jp/cgi-bin/tiiki_tokuho/kakunen/news/news2013/kn130120a.htm

具体的には、高速増殖炉もんじゅと、東海村の大強度陽子加速器(J-PARC)を使い、そこで、長寿命放射性元素をより寿命の短いセシウムやストロンチウムに変換することが現在研究されているということである。

朝日新聞は、この「核変換」を「現代の錬金術」とよんだネット記事を2013年7月1日に配信している。

核のごみ、毒性消す「錬金術」 実用化には高い壁

 【小池竜太】原発の使用済み核燃料から出る「高レベル放射性廃棄物」が、たまり続けている。国は地下深くに埋めて捨てる方針だが場所は未定。処分場を造っても、放射能が強く、数万年は社会から隔離する必要がある。この「核のごみ」の寿命を短くしたり量を減らしたりする「核変換」という技術がある。実現できるのか。

     ◇

 「核変換はある意味、現代の『錬金術』です」。京都大原子炉実験所の三澤毅教授(原子炉物理学)はいう。中世の錬金術師たちは卑金属から金を作り出そうと試みたが、かなわなかった。だが、今は中性子を使って物質を変えられる。

 実は核変換は珍しいことではない。原発で起きている核分裂反応もその一つ。ウランが中性子を取り込んで分裂、ヨウ素やセシウムなどに変わる。

 核変換技術を原発の使用済み核燃料から出る高レベル放射性廃棄物、いわゆる「核のごみ」対策に役立てる研究がある。毒性が長く続く放射性核種の寿命を短くしたり、毒性を消したりするのが目的。使用済み核燃料をそのまま捨てると、放射線の強さが天然ウランと同じレベルに下がるまで約10万年、高レベル放射性廃棄物は数千年かかる。核変換ができれば数百年に短縮できるとされる。
http://www.asahi.com/special/news/articles/TKY201306300096.html

「核変換処理」でも、危険期間が万年単位から百年単位になるだけのことだが、画期的な技術ではあろう。朝日新聞は、たぶん、評価する意味で「錬金術」とよんでいる。そもそも、原発のエネルギー源となっている核分裂反応は、人の手で新しい物質を作り出すことでもある。そう考えると、全く不可能なことではないともいえよう。

しかし、現状において、そもそも、このような処理は可能なのか。まず、この核変換処理が、使用済み核燃料再処理と、高速増殖炉・プルサーマルによって再処理した核燃料を再利用する核燃料サイクルを前提にして立案されていることに注目しなくてはならない。前述したように、日本の核燃料再処理工場や高速増殖炉もんじゅは、安定的に稼働できる状態ではない。つまり、核変換処理自体の前提がクリアされていないのである。

そして、核変換処理研究の一方の柱として、高速増殖炉もんじゅがあげられている。そもそも、通常運転すらおぼつかないもんじゅで、このような研究が可能なのか。その点、やはり疑問なのである。

もう一つの柱が、茨城県東海村の大強度陽子加速器(J-PARC)である。この陽子加速器を使って核変換させることが現在計画されている。しかし、この陽子加速器をつかったハドロン実験施設で5月23日に放射能漏れ事故が起きたことは記憶に新しい。そもそも、こんな状態で、より危険度の高い放射性廃棄物が扱えるのかとも思うのである。報道の一例として、ここでは毎日新聞のそれをあげておこう。

茨城・放射能漏れ:被ばく 新たに24人確認 計30人に
毎日新聞 2013年05月26日 21時53分(最終更新 05月27日 00時11分)

 茨城県東海村の加速器実験施設「J−PARC」(ジェイパーク)の放射性物質漏れで、日本原子力研究開発機構などは26日、新たに24人の被ばくを確認したと発表した。被ばくしたのはこれまでの6人と合わせ計30人になった。被ばく量は最大で1.7ミリシーベルトだった。6人が未検査で、さらに増える可能性もある。

 同機構などによると、事故は23日正午ごろ発生。当時施設にいた測定対象者55人のうち、49人を測定した。被ばくが確認されたのは22〜55歳の男女計30人で、線量は1.7〜0.1ミリシーベルト。最大被ばく量は、22歳の男性大学院生と29歳の原子力機構の男性職員の計2人だった。女性は、36歳の大学職員(0.1ミリシーベルト)と51歳の研究機関職員(0.4ミリシーベルト)の計2人だった。いずれも放射線業務従事者の年間被ばく限度の50ミリシーベルトを下回っており、「健康に影響する可能性はかなり低い」としている。

 19人は検出限界値未満。残りの6人については27日以降に測定する。

 被ばく者数が多くなった理由について、J−PARCの担当者は「放射性物質が遮蔽(しゃへい)材の隙間(すきま)などを通して漏えいしたが、気付くまでに時間がかかり、退避が遅れたのでは」と説明している。

 事故は、金に陽子線を当てて素粒子を発生させる実験中に照射装置が誤作動し、通常より400倍の強さで陽子線が当たり、高温になった金の一部が蒸発。原子核が崩壊し、放射性物質が漏れた。【斎藤有香】
http://megalodon.jp/2013-0527-0023-09/mainichi.jp/select/news/20130527k0000m040048000c.html

現状でもかなり放射性廃棄物があり、それを処理するための有効な方法を可能な限り研究することはよいだろう。しかし、いかに理論上可能であったとしても、破綻した核燃料サイクルを前提に立案している限り、実施は困難だと考えられる。良い意味でも、悪い意味でも「核変換」とは「現代の錬金術」としかいえないだろう。

その上で、自民党の参院選公約に、「核変換」と思われることが推進されている意味を考えたい。もちろん、これは、原発再稼働において、増え続ける放射性廃棄物の処理につき、ある意味で「前向き」な印象を与えることを目的としていると思われる。そして、それは、破綻した核燃料サイクル事業にさらに資金をつぎ込むことを正当化するものでもあろう。しかし、現状においては、とても実現できるものではない。しかし、逆に、この実現困難性は放射性廃棄物処理を遠い将来の課題として先送る論拠にもなっている。その上で、まさに「核変換処理」という、現状では「幻想」でしかない「錬金術」についての期待と夢をかきたてることにもつながっていく。そして、「錬金術」についての「科学信仰」が強化されていく。実現困難なことへの「期待」と「夢」をかきたてるということは、経済の面におけるアベノミクスにもつながるだろう。その意味で、この一文は、安倍政権全体のあり方にもつながっていると思う。

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私は、昨年度(2012年度)の歴史学研究会大会特設部会において「原発災害に対する不安・批判の鎮静化と地方利益ー電源交付金制度の創設」という報告を行い、その冒頭で、次のような主張を行った。

 

本報告の目的は単純である。ひと言でいえば、原発災害に対する、原発が立地する地域社会でのリスク意識をいかに鎮静化してきたということについて、リターンとしての「地方利益」の問題から検討し、そのことが災害リスクを一層拡大していくシステムを確立していったことについて、歴史的段階をふまえて考察することを目的としている。(『歴史学研究』第898号、2012年10月、p177)

この報告では、1974年の電源交付金制度の成立過程を中心に検討したが、翻ってみると、日本の原子力開発のすべての過程で、このようなリスクとリターンのバーターはみられた。日本の原子力開発が始まった1954年は、ビキニ環礁における水爆実験によって第五福竜丸などが被曝した年でもあった。この第五福竜丸の被曝は、広島・長崎における原爆投下の記憶を有していた日本の人びとに放射能汚染の恐怖を再認識させたものであり、核兵器の廃絶を求める原水禁運動の出発点となった。しかし、このように、原子力におけるリスクを意識していたにもかかわらず、原水禁運動に携わっている人びとですら、原子力の「平和利用」によって、リターンー利益を得ることを期待していたのである。

といっても、原子炉事故によって生じる放射能への恐怖というリスク認識は払拭しがたいものであった。結局のところ、1950〜1960年代の政府も、原子炉事故によって多くの人びとが被曝し、生産活動に多大な支障をあたえる危険性がある大都市圏に原発のような大容量の原子炉を置くことを忌避し、人口の少ない過疎地に原発を立地することを志向した。いわば、原発のリスクは公言されなくても、意識されていた。

原発を受け入れた福島県においても、原発による放射能汚染のリスクは全く意識されていなかったわけではない。しかし、地域開発というリターンを期待して、原発を受け入れたのである。さらに、1970年代になり、原発建設反対運動が立地地域で盛んに展開されると、それを鎮静化するために、電源交付金制度を1974年に創設したのである。その後も、度重なる原発事故によってリスクが強く意識されることはあったが、安全策をとってリスクを軽減しようという試みよりも、原発によるリターンを過大に意識させることで乗り切ろうとしていたのである。

今、安倍政権が行っている、アベノミクスという名において経済成長政策を行い、その中に原発の積極的再稼働を位置づけるという営みは、日本全国の人びとを相手に、リスクとリターンのバーターを行おうとするものにほかならない。安倍政権の与党である自民党の現在の参議院選挙の公約における経済の項目をみてみよう。まず、経済の項目における冒頭の「総論」にあたる部分をみてみよう。

さあ、経済を取り戻そう。

「瑞穂の国」の資本主義は、開かれた市場における自由な競争と長期的な国内投資によりダイナミックな経済活動を創出するとともに、勤勉を尊び、道義を守ることです。
頑張る方々に、広く成長の果実が行き渡る経済を実現します。

日本経済の新しい姿
●「再生の10年」へ。自民党は、「縮小均衡の分配政策」から「成長による富の創出」への転換をお約束しました。安倍政権発足後、速やかに大胆に政策方針を転換し、日本は再起動しました。
●まずは、アベノミクスの「3 本の矢」を一体的に推進するとともに、「経済再生と財政健全化の両立」に向けた取組みを通じて、デフレからの早期脱却とともに、持続的成長への道筋を確かなものにします。
●「世界で一番企業が活動しやすい国」「民間の活力と個人の能力が、常に最大限に発揮される社会」を実現します。絶え間なくイノベーションが起き、日本列島の隅々まで活発な経済活動が行き渡り、雇用と所得が増え、一人ひとりが景気回復を実感でき、共に日本の未来に大きな希望を抱ける日まで、強力に迅速に改革を進めます。
●国際リスクなど内外の環境変動に強い新しい経済モデルを確立します。「産業投資立国」と「貿易立国」の双発型エンジンが互いに相乗効果を発揮する「ハイブリッド型経済立国」を目指しています。
●今後10年間の平均で、名目GDP成長率3%程度、実質GDP成長率2%程度の成長実現を目指します。

ここで、「アベノミクス」自体の詳細は省くが、安倍政権は「成長による富の創出」をめざすとし、名目GDP成長率年3%、実質GDP成長率年2%を「公約」としている。そして、「世界で一番企業が活動しやすい国」とすることを実現することを目的とするとしている。

続いて、資源・エネルギーのところをみておこう。

資源・エネルギー大国への挑戦

●資源小国(輸入国)から資源大国(資源・エネルギー技術を活かしたシステム等の輸出国)へ転換させ、地球規模での安全・安心なエネルギー供給体制の普及拡大に貢献します。
●わが国のエネルギー安全保障上、資源・エネルギーの多様で多角的な供給構造を確立します。
今後3年間、再生可能エネルギーの最大限の導入促進を行います。
また、海洋産業を育成し、自国経済水域内の天然ガス、メタンハイドレート、レアアース泥等の探査・技術開発・利用の促進を集中的に行い、さらに、北米のシェールガス等の新規輸入等により調達コストを低減させます。
●省エネ・再エネ・蓄電池・燃料電池等を活かした分散型エネルギーシステムの普及拡大を図るとともに、世界最高水準のスマート・コミュニティや原子力技術等のインフラ輸出の支援体制を強化します。2020 年に約 26 兆円(現状8兆円)の内外のエネルギー関連市場を獲得することを目指します。
●これまでのエネルギー政策をゼロベースで見直し、「電力システム改革」(広域系統運用の拡大・小売参入の全面自由化・発送電分離)を断行します。
●原子力発電所の安全性については、原子力規制委員会の専門的判断に委ねます。
その上で、国が責任を持って、安全と判断された原発の再稼働については、地元自治体の理解が得られるよう最大限の努力をいたします。
●次世代への責任を果たすべく、高レベル放射性廃棄物の「大幅な有害期間の短縮・毒性の低減化」の研究開発を加速させます。
●次世代自動車については、2030 年までに、新車販売に占める割合を5割から7割とすることを目指し、研究開発支援や効率的なインフラ整備等を進めます。
●国際宇宙ステーション「きぼう」における宇宙太陽光発電システムの実証計画を策定します。

まず、最初のところで、資源・エネルギー技術の輸出大国になるとし、その後で、原発輸出を主張している。もちろん、再生可能エネルギー開発や、メタンハイドレート・シェールガスなどの新たなエネルギー資源の利用、電力システム改革にも言及している。しかし、原発再稼働については、「原子力発電所の安全性については、原子力規制委員会の専門的判断に委ねます。その上で、国が責任を持って、安全と判断された原発の再稼働については、地元自治体の理解が得られるよう最大限の努力をいたします。」と、「安全と判断された」原発の再稼働について、地元自治体を積極的に説得していると述べているのである。

現在、世論調査では、大体のところ、半数程度が原発再稼働に反対している。原発再稼働に賛成している割合は少ない。ここでは、共同通信のネット配信記事(7月17日付)をあげておこう。

共同通信社は13、14両日、参院選での有権者の動向を探るために全国電話世論調査(第4回トレンド調査)を実施した。政府が「安全性は確認された」とした原発の再稼働について、反対が50・6%、賛成40・0%だった。比例代表の投票先政党の1位は自民党で前回調査の29・8%に比べ30・6%とほぼ横ばいだった。安倍内閣の支持率は前回の64・2%に対し65・3%で堅調に推移した。
 原発再稼働への反対が半数を超えたことで、原発政策が参院選終盤の論争の焦点となりそうだ。積極姿勢の安倍政権はあらためて慎重な判断が迫られることになる。
http://www.47news.jp/47topics/e/243507.php

このように、安倍政権は、有権者の多くが支持しない政策を実施しようとしているのだが、それでも、世論調査によると、有権者の多くが安倍政権を支持しているとしている。毎日新聞が7月14日にネット配信した記事をみておこう。

毎日世論調査:参院比例投票先、自民減少37%
毎日新聞 2013年07月14日 20時04分(最終更新 07月15日 02時41分)

 21日投開票の参院選を控え、毎日新聞は13、14の両日、全国世論調査を実施した。参院比例代表の投票先を聞いたところ、自民党が37%とトップで、公明党、日本維新の会、みんなの党が各8%で続いた。自民党の「1強」状態が続くが、自民は6月の前回調査と比べ8ポイント減少した。安倍内閣の支持率は55%で、前回から5ポイント減。ただ参院での自公過半数を望む声は前回に続いて半数を超えた。

 ◇安倍内閣支持率は55%
 参院の比例投票先は、自公の与党で45%(前回は51%)となった。維新の会は前回(5%)から3ポイント増加し、橋下徹共同代表の慰安婦発言による落ち込みがやや回復した。民主党は7%、共産党は4%。前回同様、男女ともすべての年齢層で、自民党を投票先として挙げた人がもっとも多かった。

 また、内閣支持率は55%で発足時(2012年12月)の52%に近づいた。3月調査(70%)▽4月(66%)▽5月(66%)▽6月(60%)で、2回連続の下落は内閣発足以来初めて。

 安倍内閣の高支持率を支える「アベノミクス」は期待先行の側面がある。首相の経済政策によって景気回復が期待できると思うかを聞いたところ「期待できる」は50%で、「期待できない」の41%を上回った。ただ、期待できるとした人の割合は3月調査(65%)▽4月(60%)▽5月(59%)▽6月(55%)と減少傾向。さらに「生活する上で、景気がよくなっていると実感しているか」と尋ねたところ「実感していない」は78%にのぼり、「実感している」の16%を大きく上回った。

 安倍内閣の支持層では「景気回復が期待できる」が82%を占めたのに対し、不支持層では「期待できない」が88%にのぼった。また景気回復を「実感していない」とした人は安倍内閣の支持層では68%なのに対し、不支持層では96%にのぼった。

 景気回復への期待感は内閣支持率と強い相関関係があり、内閣支持率下落はアベノミクスへの期待がややはがれ落ちていることを示しているとみられる。

 一方で自公の与党が参院で過半数の議席を獲得した方がいいと思うかを尋ねたところ、「思う」と答えた人は52%(前回は57%)で、「思わない」の39%(同37%)を大きく上回った。【鈴木美穂】
http://senkyo.mainichi.jp/news/20130715k0000m010047000c.html

毎日新聞によると、やや下がりながらではあるが、内閣支持率は55%あることになっている。そして、その大きな要因が、アベノミクスに対する期待であり、これも約50%の人が期待できるとしているのである。景気回復について、実感がないという人が78%もいるにもかかわらずである。結局、経済成長というリターンへの「期待」が内閣支持率をおしあげているのである。

毎日新聞の記事が書いているように、今回の参院選においては、安倍政権の与党である自由民主党・公明党が優位であるといえる。そして、参院選後において、安倍政権は、これまで以上に原発再稼働に積極的になっていくと考えられる。そうなった場合、究極のところ、原発に対するリスク認識が、経済成長というリターンによってバーターされるということになろう。もちろん、こうなることは望ましい未来ではない。こうならないように努力している人たちも多くいる。その上で、結局、安倍政権が参院選で勝利するということは、そういう意味があるということをここでは指摘しているのである。

しかし、これでは、あまりに悲観的なので、もう少し、希望のあることを述べておこう。安倍政権がなりふりかまわずに、「経済成長」を旗印にしているが、それは、結局のところ、「世界で一番企業が活動しやすい国」をめざすことにすぎない。企業が一番活動しやすいことと、人びとが暮らしやすいことが相反することが、アベノミクスの進行の中で、より鮮明になってくると思われる。今後、「企業が一番活動しやすい」という「経済成長」を至上の価値として信奉することから脱却することが、いろんな課題ー脱原発、生活保障、自国産業保護などーを解決することの前提にあるということ、このことがより一般的に理解されてくると思うのである。つまり、「経済成長」という「リターン」自体が「無意味」なものであることがしだいに認識されてくると私は考えている。それは、引用した毎日新聞のネット記事の内閣支持率の相対的低下ということにも徴候は現れていると思う。

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今回、国旗国歌法の審議過程においてあかるみにされた矛盾についてみていこう。1999年8月9日、小渕内閣において「国旗・国歌法」(正式には「国旗及び国歌に関する法律」)が成立した。法律自体はシンプルで、国旗を日章旗に、国歌を君が代とすることを定めただけである。しかし、この国旗・国歌法は矛盾をかかえていた。この国旗・国歌法は、1989年の学習指導要領において、「入学式や卒業式などにおいては、その意義を踏まえ、国旗を掲揚するとともに、国歌を斉唱するよう指導するものとする。」と規定されて、公立学校の入学式や卒業式などで国旗掲揚・国歌斉唱が事実上義務付けられたことを前提としたものであった。少なくとも、学校教育の現場で儀式に携わる教員たちが国旗・国歌を扱うことは、当然の責務として考えられていた。

例えば、当時の文部大臣有馬朗人は、このように答弁している。

一般に,思想,良心の自由というものは,それが内心にとどまる限りにおいては絶対的に保障されなければならないと考えております。しかし,それが外部的行為となってあらわれるような場合には,一定の合理的範囲内の制約を受け得るものと考えております。
 学校において,校長の判断で学習指導要領に基づき式典を厳粛に実施するとともに,児童生徒に国旗・国歌を尊重する態度を指導する一環として児童生徒にみずから範を示すことによる教育上の効果を期待して,教員に対しても国旗に敬意を払い国歌を斉唱するよう命ずることは,学校という機関や教員の職務の特性にかんがえてみれば,社会通念上合理的な範囲内のものと考えられます。そういう点から,これを命ずることにより,教員の思想,良心の自由を制約するものではないと考えております。
(平成11年7月21日 衆議院内閣委員会文教委員会連合審査会 文部大臣)
http://www1.jca.apc.org/anti-hinokimi/archive/chronology/sengo2/tsuchi_shiryo.htm

しかし、国会審議の中で、当時の日本共産党や社会民主党などからさまざまな異論を出された。例えば、6月29日の衆議院本会議で、日本共産党の志位和夫衆議院議員は、小渕恵三総理大臣に次のように問いかけた。

どのような形であれ、思想、良心の自由など人間の内面の自由に介入できないことは、近代公教育の原理であり、教育基本法の原則ではありませんか。日本共産党は、法律に根拠がない現状ではもちろん、我が党が主張するように国民的討論と合意を経て法制化が行われたとしても、国旗・国歌は、国が公的な場で公式に用いるというところに限られるべきであって、国民一人一人にも教育の場にも強制すべきものではないと考えます。総理の見解を問うものであります。

そして、小渕恵三は、次のようにこたえている。

良心の自由についてお尋ねがありましたが、憲法で保障された良心の自由は、一般に、内心について国家はそれを制限したり禁止したりすることは許されないという意味であると理解をいたしております。学校におきまして、学習指導要領に基づき、国旗・国歌について児童生徒を指導すべき責務を負っており、学校におけるこのような国旗・国歌の指導は、国民として必要な基礎的、基本的な内容を身につけることを目的として行われておるものでありまして、子供たちの良心の自由を制約しようというものでないと考えております。
 教育現場での教職員や子供への国旗の掲揚等の義務づけについてお尋ねがありましたが、国旗・国歌等、学校が指導すべき内容については、従来から、学校教育法に基づく学習指導要領によって定めることとされております。学習指導要領では、各教科、道徳、特別活動それぞれにわたり、子供たちが身につけるべき内容が定められておりますが、国旗・国歌について子供たちが正しい認識を持ち、尊重する態度を育てることをねらいとして指導することといたしておるものであります。http://kokkai.ndl.go.jp/cgi-bin/KENSAKU/swk_dispdoc.cgi?SESSION=15652&SAVED_RID=1&PAGE=0&POS=0&TOTAL=0&SRV_ID=8&DOC_ID=2248&DPAGE=1&DTOTAL=10&DPOS=7&SORT_DIR=1&SORT_TYPE=0&MODE=1&DMY=15931

この答弁は微妙である。子供たちの良心の自由を制限するものではないとしながらも、国民として必要な基礎的・基本的な内容を身につけさせるためには、学習指導要領に基づいて国旗・国歌の指導は必要だとしているのである。

ただ、この答弁は、ともあれ、おおっぴらに児童・生徒に対して国旗・国歌を強制すべきではないということにもなろう。例えば、7月21日、有馬文相はこのように答弁している。

どのような行為が強制することになるかについては,当然,具体的な指導の状況において判断をしなければならないことと考えておりますが,例えば長時間にわたって指導を繰り返すなど,児童生徒に精神的な苦痛を伴うような指導を行う,それからまた,たびたびよく新聞等々で言われますように,口をこじあけてまで歌わす,これは全く許されないことであると私は思っております。
 児童生徒が例えば国歌を歌わないということのみを理由にいたしまして不利益な取り扱いをするなどということは,一般的に申しますが,大変不適切なことと考えておるところでございます。
(平成11年7月21日 衆議院内閣委員会文教委員会連合審査会 文部大臣)
http://www1.jca.apc.org/anti-hinokimi/archive/chronology/sengo2/tsuchi_shiryo.htm

そして、このような態度は、教員たちに対する「強制」についても微妙な配慮を生み出していった。学習指導要領に規定された職務上の責務であるから、それについて職務命令を出すことは可能である。しかし、有馬文相はこのように述べている。

私は,教育というのは根本的に先生と児童生徒の信頼関係であり,またそれを生み出すのは先生方同士の信頼関係だと思っています。ですから,職務命令というのは最後のことでありまして,その前に,さまざまな努力ということはしていかなきゃならないと思っています。
 ただ,極めて難しい問題に入っていったときに最終的にはやむを得ないことがあるかもしれませんが,それに至るまでは校長先生も,また現場の先生方もよくお話し合いをしていただきたいと思っています。
(平成11年8月6日 参議院国旗及び国歌に関する特別委員会 文部大臣)http://www1.jca.apc.org/anti-hinokimi/archive/chronology/sengo2/tsuchi_shiryo.htm

職務命令を出すことは最後のことにすべきで、それまでによく教員の間で話し合ってほしいと有馬は要望しているのである。

そして、処分についても、有馬文相は次のように述べている。

 

職務命令を受けた教員は,これに従い,指導を行う職務上の責務を有し,これに従わなかった場合につきましては,地方公務員法に基づき懲戒処分を行うことができることとされているところでございます。
 そこで,実際の処分を行うかどうか,処分を行う場合にどの程度の処分とするかにつきましては,基本的には任命権者でございます都道府県教育委員会の裁量にゆだねられているものでございまして,任命権者である都道府県におきまして,個々の事案に応じ,問題となる行為の性質,対応,結果,影響等を総合的に考慮して適切に判断すべきものでございます。
 なお,処分につきましては,その裁量権が乱用されることがあってはならないことはもとよりのことでございます。
(平成11年8月6日 参議院国旗及び国歌に関する特別委員会 政府委員)

 教育の現場というのは信頼関係でございますので,とことんきちっと話し合いをされて,処分であるとかそういうものはもう本当に最終段階,万やむを得ないときというふうに考えております。このことは,国旗・国歌が法制化されたときにも全く同じ考えでございます。
(平成11年8月6日 参議院国旗及び国歌に関する特別委員会 文部大臣)http://www1.jca.apc.org/anti-hinokimi/archive/chronology/sengo2/tsuchi_shiryo.htm

もし、職務命令を受けた教員が従わない場合、処分の権限は都道府県教育委員会がもっているが、その裁量権は乱用すべきではないとし、処分は最後の手段とすべきとしているのである。

ある意味では、「学習指導要領」を根拠とした教育現場における国旗・国歌の強制という論理と、思想の自由を保障するという論理が、国旗国歌法の審議過程ではせめぎあっていたといえる。もちろん、小渕や有馬のいう「思想の自由」は、児童・生徒にせよ教員にせよ、「内心の自由」でしかなく、学校教育現場の国旗・国歌の強制という営為を阻害することは許されなかった。それでも、あからさまな強制を児童・生徒にたいして課すべきではなく、教員についても最後の手段とすべきとはされていたのである。そして、このようなアンパビレンツな態度は、2004〜2005年における日の丸・君が代に対する天皇の発言や、2012年1月に出された、国旗国歌に対する職務命令は合法・合憲とはするものの重すぎる処分は裁量権の乱用にあたるとする最高裁判決にも影響してくるといえる。ここで詳述できないが、その意味で、結果的に国旗国歌法の成立を許したとしても、国会において、国旗国歌法の問題点を洗い出したことは意味があるといえるのである。

付記:なお、1999年6月29日の衆議院本会議における志位和夫と小渕恵三の論戦については国会会議録から引用したが、その他の資料は文部省初等中等教育局が1999年9月にまとめた「国旗及び国歌に関する関係資料集」から引用した。

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6月28日、東京都教育委員会は、実教出版の高校日本史教科書の採択をさけるようにとする通達を出した。それを伝える毎日新聞の記事をまずあげておく。この記事は、この通達の背景まで踏み込んで書いている。

都教委:「教科書使うな」 検定通過の実教出版日本史、国旗国歌「公務員へ強制の動き」記述
毎日新聞 2013年06月27日 東京夕刊
 東京都教育委員会は27日の定例会で、高校で使う特定の日本史教科書に国旗国歌法に関して不適切な記述があるとして、各都立高に「使用はふさわしくない」とする通知を出すことを決めた。高校の教科書は各校長が選定して都道府県教委に報告することになっており、選定に教委が事実上の介入をするのは極めて異例。通知に強制力はないが、都教委は「指摘した教科書を選定した場合は、最終的に都教委が不採択とすることもあり得る」としている。 都教委が問題視しているのは、実教出版の「日本史A」と、来年度向けに改訂された「日本史B」。国旗国歌について「一部の自治体で公務員への強制の動きがある」と記載している。 都教委は2003年、学校行事で日の丸に向かい君が代を斉唱することを通達で義務付け、従わない職員は懲戒処分にする厳しい対応を取ってきた。最高裁は11年、起立斉唱の職務命令を合憲と判断したが、12年の判決では「減給や停職には慎重な考慮が必要」との判断も示している。 実教出版の日本史Aには11年度の検定で「政府は国旗掲揚、国歌斉唱などを強制するものではないことを国会審議で明らかにした。しかし現実はそうなっていない」との記述に文部科学省の意見がつき、後半を「公務員への強制の動き」などと書き換えて合格。文科省によると、日本史Aの全国シェアは約14%という。 だが、都教委は昨年3月以降、各校に電話で「都教委の考えと合わない」と伝え、13年度の教科書に選定しないよう要求。採択の最終判断は都教委ができることもあり、この教科書を選定した高校はなかった。 14年度から使う教科書を決める昨年度の検定では、同じ記述がある日本史Bも合格。都教委は不使用を徹底するため、今回は文書で通知することにしたという。都教委幹部は「『公務員への強制』という表現は明らかに間違っており、採用するわけにはいかない」と話している。 実教出版は「そうした決定が出たとすれば大変残念だ」とコメントした。【和田浩幸、佐々木洋】http://mainichi.jp/feature/news/20130627dde041100019000c.html

より正確を期して、東京都教育委員会の見解を出しておこう。教育委員会は、実際にはこのような見解を示している。

平成26年度使用都立高等学校(都立中等教育学校の後期課程及び都立特別支援学校の高等部を含む。)用教科書についての見解

 都教育委員会は、各学校において、最も有益かつ適切な教科書が使用されるようにしなければならない責任を有しており、教科書の採択に当たっては、採択権者である都教育委員会がその責任と権限において適正かつ公正に行う必要がある。
 平成26年度使用高等学校用教科書のうち、実教出版株式会社の「高校日本史A(日A302)」及び「高校日本史B(日B304)」に、「国旗・国歌法をめぐっては、日の丸・君が代がアジアに対する侵略戦争ではたした役割とともに、思想・良心の自由、とりわけ内心の自由をどう保障するかが議論となった。政府は、この法律によって国民に国旗掲揚、国歌斉唱などを強制するものではないことを国会審議で明らかにした。しかし一部の自治体で公務員への強制の動きがある。」という記述がある。
 平成24年1月16日の最高裁判決で、国歌斉唱時の起立斉唱等を教員に求めた校長の職務命令が合憲であると認められたことを踏まえ、都教育委員会は、平成24年1月24日の教育委員会臨時会において、都教育委員会の考え方を、「入学式、卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱について」(別添資料)にまとめ、委員総意の下、議決したところである。
 上記教科書の記述のうち、「一部の自治体で公務員への強制の動きがある。」は、「入学式、卒業式等においては、国旗を掲揚するとともに、国歌を斉唱するよう指導することが、学習指導要領に示されており、このことを適正に実施することは、児童・生徒の模範となるべき教員の責務である。」とする都教育委員会の考え方と異なるものである。
 都教育委員会は、今後とも、学習指導要領に基づき、各学校の入学式、卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱が適正に実施されるよう、万全を期していくこととしており、こうした中にあって、実教出版株式会社の教科書「高校日本史A(日A302)」及び「高校日本史B(日B304)」を都立高等学校(都立中等教育学校の後期課程及び都立特別支援学校の高等部を含む。以下「都立高等学校等」とする。)において使用することは適切ではないと考える。
 都教育委員会は、この見解を都立高等学校等に十分周知していく。

 都教育委員会は、委員総意の下、以上のことを確認した。

 平成25年6月27日

東京都教育委員会
http://www.kyoiku.metro.tokyo.jp/press/pr130627d-2.htm

今回は、国旗国歌法などへの言及は差し控えておく。ここで問題にしたいのは、「国旗・国歌法をめぐっては、日の丸・君が代がアジアに対する侵略戦争ではたした役割とともに、思想・良心の自由、とりわけ内心の自由をどう保障するかが議論となった。政府は、この法律によって国民に国旗掲揚、国歌斉唱などを強制するものではないことを国会審議で明らかにした。しかし一部の自治体で公務員への強制の動きがある。」と書いたことを理由にして、歴史教科書の採択をおしとどめようとする行為自体について考えてみることである。

これは、いわば「思想・信条・学問の自由」を侵害することは言をまたないであろう。さらにいえば、この行為は歴史叙述という行為自体を否定するものである。

まず、2003年以来、東京都教育委員会は、従わないならば処分することを前提にして、入学式・卒業式などで日の丸を掲揚し君が代を斉唱させてきた。これに対して、従わずに処分された教員たちは、その不当さを各地の裁判所に訴えた。この経過についてここでは述べないが、結局、教員たちについては、合意を取らずに、入学式・卒業式などで日の丸を掲揚し君が代を斉唱することが強いられてきたのである。

法令用語研究会編『法律用語辞典』(第四版、有斐閣、2012年)には、次の記述がある。

きょうせい【強制】 ①人の自由な意思を抑圧し、又はそれに反して無理やりに一定の行為をさせること。②相手方をして一定の作為又は不作為の義務を履行させるために、物理的ないしは心理的な圧力を加えること。法はその効力を保障するため、一定の要件の下に公的な強制力を発動する態勢をとっている。法的強制の方法には、物理的な力を行使することによって義務履行があったのと同一の状態を実現する直接的な方法(例、入管二四・五一〜五三)と、法的制裁によって相手方の意思に働きかける間接的な方法とがある。

教員たちに日の丸を掲載させ君が代を歌わせることは「強制」といってもさしつかえないはずである。それは、「合憲」であろうが「合法」であろうが同じことである。刑罰は合憲・合法の「強制」ではないのか。代執行もまた合憲・合法の「強制」ではないのか。

つまり、事実を語ったことを理由にして、東京都教育委員会は実教出版の日本史教科書の採択を忌避したということになる。

これは、つまりは、歴史叙述そのものの侵害とみるべきである。歴史叙述は、実際に起ったことを文章にすることから成立している。もちろん、実際に起ったことが何であったかを知ることは難しく、それに対しては様々な解釈が成り立つ。しかし、今回のようなことは、ことの適否は別として、起った事実の確定は難しくない。そして、それを書くこと自体を差し止めていたら、歴史叙述は成り立たなくなる。

それは、歴史叙述という営みが始まった初期からそうであった。中国の春秋時代を対象にした『春秋左氏伝』の中に次のような記述がある。当時の有力国であった晋の君主霊公は暗愚な君主で、料理がよく煮えていないという理由で料理人を処刑したりしていた。霊公を擁立し、宰相にあたる正卿の地位にいた趙盾は、たびたび霊公を諌めたが、そのため霊公の怒りを買い、霊公より刺客をさしむけられた。趙盾は亡命しようとしたが、従兄弟の趙穿が霊公を殺したので引き返してきた。紀元前607年のことである。

そして、次のようなことが起った。

〔九月〕乙丑の日、趙穿が霊公を桃園で殺すと、宣子(趙盾)が国境の山を越えぬうちに引き返した。大史〔董孤〕は「趙盾、其ノ君ヲ弑ス」と記録して、朝廷に告示した。趙盾が、「事実とちがうぞ」と言うと、こう答えた。
 「子は晋の正卿です。亡げても国境を越えず、もどってからも賊(趙穿)を討とうとしない。〔責任者は〕子以外にはありません」
 宣子は言った。
 「ああ、『詩』(『詩経』)に、
   わが懐ふこと多くして
   われに憂ひを残さしむ  (邶風 雄雉)
とあるのは、我のことだ。」
(『春秋左氏伝』上、岩波文庫)

この場合、趙盾自身には落ち度はなく、霊公を自身で殺してもいない。それでも、史官は「弑ス」と書法通りに表現した。それに対し、趙盾は苦情はいったが、最終的に認めたのである。

このエピソードに対し、孔子はこのように批評した。

 

孔子の評。董孤は古の良き史官である。書法通りに記録して、事実を曲げて隠したりしなかった。趙盾は古の良き大夫である。書法に従って〔弑君の〕悪名を受けた。惜しかった、国境を越えてしまえば〔悪名を〕免れたのに。

『春秋左氏伝』には、この他にも、君主を殺したものたちが「弑ス」と史官たちに記録された話が出て来る。ある場合には、そのことで史官たちが殺されたこともある。それでも、まさに、歴史叙述は、孔子の言うように「書法通りに記録して、事実を曲げて隠したりしなかった」ことによって成り立ってきたのである。

ことの当否や、合憲・合法かどうは別として、卒業式・入学式において、教員たちに日の丸・君が代を強制していることは事実である。その事実を書いたということを理由にして、歴史教科書の採択を忌避するとした東京都教育委員会の今回の通達は、結局、歴史叙述という営みを否定し、抹殺しているものといえるのである。このようなことすらわからない者たちに、歴史教科書の選定などできるわけもないのだ。

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