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Archive for 2013年6月

ちょっと過去になるが、2013年6月15日付朝日新聞朝刊に次のような記事が掲載された。

政府、再除染認めない方針 自治体に非公式伝達

 【青木美希、鬼原民幸】福島第一原発事故後の除染について、政府が自治体に対し、今年度の計画達成は難しいことや、作業しても放射線量が下がらない場所の再除染を認めない考えを非公式に伝えていたことが分かった。「除染を加速させる」という公式見解と矛盾しており、明確な説明がないまま政策転換に動き出した。

 政府は被曝(ひばく)線量を年1ミリシーベルト以下にする目標を掲げ、今年度までに1・5兆円を投入。福島県の11市町村の避難区域内を年度内に終える計画を公表し、安倍晋三首相も3月に「除染と復興の加速化」を表明した。一方、廃棄物の保管場所が確保できず、5市町では今も除染に着手していない。他も飯舘村で住宅除染の進捗(しんちょく)率が3月時点で1%など大幅に遅れている。

 こうした中、11市町村中5市町村の担当者が環境省から4月以降に「今年度中の計画達成は難しい」と言われたと証言した。富岡町は「少なくとも来年度までかかる」と住民に説明し始め、担当者は「国は遅れを正式に認め、計画を早く見直してほしい」と話す。

 線量が下がらない場所の再除染について、環境省が5月27日に県内7市町村が参加した意見交換会で「今のところ認めていない」と伝え、事実上拒否していたことも分かった。除染ガイドラインの関連資料で、「財政措置の対象になり得る」としている従来の方針と食い違うものだ。県内25市町村が「除染後も1ミリまで下がらない例がある」と取材に回答しており、自治体に反発が広がっている。

 環境省は取材に対し、除染計画について「今年度内を目途に実施する方針に変更はない」と回答。一度も除染していない地区を優先する考えを示した。環境省幹部は「7月の参院選が終わるまでは大幅な見直しは表明できない」と語る。

この記事は、簡単に要約すれば、環境省は福島県内の避難区域をかかえる11市町村に対して、①今年度中に除染するという方針の達成は困難である、②除染しても年間1mSvに下がらない地区の再除染は認めない、という2点を非公式に伝えたということである。

もちろん、①も問題だが、長期的にいえば、②が重要である。つまり、環境省は、年間1mSvまでさげるという除染目標を事実上放棄したということになるのである。しかも、現状のところ「非公式」であり、参院選対策でおおっぴらにはされていないというのだ。参院選で現政権が勝利すれば、この方針変換はより明確に示されるであろう。

さすがに、朝日新聞も、同日朝刊の多田敏男による解説記事で次のように論評した。

(前略)
 進捗率がまとまった3月には遅れが明白になったのに、石原伸晃環境相は5月の国会で「計画に変更はない」と語った。表向き「加速する」と言い、水面下で逆の姿勢を見せるのは政治の責任を放棄する行為だ。

 政府は現実的な除染政策を世に問い、合意形成に努めなければならない。参院選への影響を恐れ、なし崩し的に「アナウンスなき政策転換」を進めるのは論外だ。

そして、この日の朝日新聞の紙面には、避難区域ではないが、福島県湯川村、福島県中島村、福島市、郡山市、須賀川市、千葉県松戸市、茨城県日立市において、環境省が再除染費用の支出を拒んだ例が掲載されている。さらに、伊達市において高線量地域を対象として独自に年間5mSvという基準を採用したことも伝えている。

では、年間1mSv以下に下がらない地域ではどのように住民は生活するのか。そのことを2013年6月29日付朝日新聞朝刊では次のように報じている。

政府、被曝量の自己管理を提案 「除染完了」説明会で

 【青木美希】政府が福島県田村市の除染作業完了後に開いた住民説明会で、空気中の放射線量を毎時0・23マイクロシーベルト(年1ミリシーベルト)以下にする目標を達成できなくても、一人ひとりが線量計を身につけ、実際に浴びる「個人線量」が年1ミリを超えないように自己管理しながら自宅で暮らす提案をしていたことが分かった。

「その気なら増産してもらう」
 田村市都路(みやこじ)地区は避難指示解除準備区域に指定され、自宅に住めない。政府が計画した除染作業は一通り終わったが、住宅地は平均毎時0・32~0・54マイクロにとどまり、大半の地点で目標に届かなかった。政府は今月23日に住民説明会を一部非公開で開いた。

 朝日新聞が入手した録音記録によると、住民から「目標値まで国が除染すると言っていた」として再除染の要望が相次いだが、政府側は現時点で再除染に応じず、目標値について「1日外に8時間いた場合に年1ミリを超えないという前提で算出され、個人差がある」と説明。「0・23マイクロと、実際に個人が生活して浴びる線量は結びつけるべきではない」としたうえで「新型の優れた線量計を希望者に渡すので自分で確認してほしい」と述べ、今夏のお盆前にも自宅で生活できるようにすると伝えた。

 説明会を主催した復興庁の責任者の秀田智彦統括官付参事官は取材に「無尽蔵に予算があれば納得してもらうまで除染できるが、とてもやりきれない。希望者には線量計で一人ひとり判断してもらうという提案が(政府側から)あった」と述べた。除染で線量を下げて住民が帰る環境を整える従来の方針から、目標に届かなくても自宅へ帰り被曝(ひばく)線量を自己管理して暮らすことを促す方向へ、政策転換が進む可能性がある。

 環境省は取材に対して説明会での同省の発言を否定した。録音記録があり、多くの住民も証言していると伝えたが、明確な回答はなかった。
http://www.asahi.com/politics/update/0629/TKY201306280625.html

このような提案は、避難指示解除準備区域に指定された福島県田村市都路地区で6月23日に開催された住民説明会でなされたとされている。都路地区の除染では、住宅地においても毎時0.23μSvー年間1mSv以下に下がらなかった。しかし、政府関係者は再除染には応ぜず、線量計を渡して自己管理して生活すべきであると提案したのである。そして、今夏のお盆前から自宅で生活できるようにすると伝えたということである。

同日付の朝日新聞に掲載されている「説明会の主なやりとり」では、より露骨に、この方針が表明されている。

内閣府職員「線量計、その気なら僕が増産してもらう」
説明会の主なやりとり

 福島県田村市都路地区の住民向けに政府が23日開いた説明会の主なやりとりは次の通り。

 住民「除染しても目標値より高い所がある。目標値まで国がやると言っていたので、しっかり再除染して頂きたい」

 環境省「再除染については0.23と年1ミリ、実際に個人が生活して浴びる線量は結びつけられるべきものではない。避難基準の20ミリは大幅に下回っている」

 住民「目標値にするということで除染が始まったのにおかしい。私たちが納得して初めて完了だ」

 環境省「できる限りやらせて頂いた。調査はしていくし、対策を考えることもあるかもしれない」

 内閣府「具体的にどのような形で避難指示を解除するか進めていきたい。帰還準備のため解除前から(自宅に)泊まってもらえる制度を作ろうと考えている」

 内閣府「個人線量のはかり方がある。今日は最新型の線量計を持ってきた。皆さん、その気なら僕が増産してもらう。国の負担でやらせて頂く。やってみたほうが僕だったら安心する」

 住民「うちは0.36マイクロ。住んで大丈夫か」

 内閣府「私は大丈夫だと思う。20ミリ以下が一つの考え方。より安心して頂いたほうがいいということで除染をやっている。

 住民「被曝線量の上限値は女性は低く、妊婦はもっと低い。一番弱い人にあわせて一生懸命、除染するのがあるべき姿だ」

 内閣府「おっしゃる通りだ。20ミリをスタートとして下げる形でやっている。その一つが除染だ」

 住民「子供はどれぐらいの線量で住めるのか」

 内閣府「個別の線量計のデータを見て判断して頂くしかない」

解説するのもいやになるが…。結局、政府関係者の見解は、避難指示解除準備区域の線量基準であった年間20mSv以下なら「安全」であるとして、除染も「より安心頂いたほうがいい」ということでしかないのである。そして、線量計を「国の負担」で配布するとして、その線量計を使って「自己管理」せよというのである。

つまりは、年間20mSv以下ならば「安全」なのであり、「安心」したいのならば「線量計」を使って「自己管理せよいうことで、放射性管理区域のように生活せよということになろう。放射性管理区域で労働する際には、建前では専門家によって管理され、積算線量が限度を越えれば否応もなくその現場から離れざるをえない。しかし、都路地区の場合、住民生活を直接的に管理する専門家はいない。積算線量が限度をこえても生活の場を離れることはできないし、その保障もない。つまり、政府は全く責任を放棄し、住民は「自己管理」の名のもとに棄民されることになるのである。

同日付の朝日新聞は、青木美希の解説記事で、このように論評している。

(前略)
 23日の説明会では、除染目標に届かなくても帰還をなし崩し的に進める政府の本音がにじんだ。国費で開発した小型線量計を自宅に戻る希望者に無償配布した被曝量を抑える生活を工夫してもらい、帰宅者を増やして避難区域解除の環境を整える狙いが垣間見えた。

 解除後には賠償が打ち切られる。 自宅に戻らず暮らしていけるのかという不安も広がる。除染に責任を持つと言いつつ、再除染を拒んだまま住民に責任を転嫁する形で帰還を進めるのは、国の責任の放棄だ。

朝日新聞の報道には、残念ながら首を傾けることもある。しかし、この報道とそれに対する論評には賛意を示しておきたい。

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福島第一原発については、相変わらず、放射能汚染水漏れが相次いでいる。しかし、現在報じられている汚染水漏れは、いわゆる汚染水処理装置や汚染水タンクから汚染水漏れがあったということとは次元が違うようなのである。

まず、毎日新聞夕刊2013年6月19日付に出された記事からみていこう。

福島第1原発:高濃度汚染水を検出 2号機、観測用の井戸から
毎日新聞 2013年06月19日 東京夕刊

 東京電力は19日、福島第1原発2号機タービン建屋と海の間に設けた観測用の井戸から、1リットル当たりトリチウム(三重水素)が最高50万ベクレル、ストロンチウム90が同1000ベクレルなど、高濃度の放射性物質を含む汚染水が検出されたと発表した。

 東電は、事故直後の2011年4月に2号機の取水口付近で放射性汚染水が漏れた際、一部が地中に残留していた影響だと説明。海水中の濃度に変化はないとして、新たな海洋汚染の可能性を否定した。東電は3日に異常を認識していたが、発表は16日後に遅れた。

 ストロンチウム90は放出基準の約33倍、トリチウムは8倍以上。東電によると、井戸は2号機東側の海から27メートル地点。放射性物質の海への流出を調べるため設置され、昨年12月には基準値以下だったが、5月24日に採水した2回目の検査で高濃度汚染を確認した。

 東電は、建屋から漏れた可能性について、汚染水が漏れ出ないよう閉じ込めの対策をしており、可能性は低いと説明。放射性セシウムは土壌が吸着しているとした。一方で、完全に海に漏れ出ない構造ではないため、近く護岸付近に薬剤を注入して地盤改良する。

 放射性汚染水の対策で、東電は汚染される前の地下水をくみ上げ、海へ放出する計画を立てているが、地下貯水槽の汚染水漏れなどトラブルが頻発。風評被害を懸念する漁協の反対で計画は進んでいない。【鳥井真平、河内敏康】
http://mainichi.jp/feature/20110311/news/20130619dde001040027000c.html

つまりは、福島第第一原発2号機建屋と海岸の間に設置された井戸から、放射性物質であるトリチウム(三重水素)が50万bq(基準の8倍以上)、ストロンチウム90が1000bq(基準の33倍)検出されたというのである。昨年12月には検出されていなかったが、5月24日の採取分から検出されたという。しかも、東電は6月3日には異常を認識していたが、発表は6月19日になってやっと行われたのである。

6月19日時点の発表では、海洋汚染はないと東電は発表していた。しかし、6月24日には、海水のトリチウム濃度が上昇していることが報道された。毎日新聞が2013年6月24日のネット配信した記事をみておこう。

福島第1原発:井戸近くのトリチウム濃度上昇傾向
毎日新聞 2013年06月24日 20時18分(最終更新 06月24日 20時41分)

 福島第1原発2号機と海の間に設置した観測用井戸から高濃度のトリチウム(三重水素)とストロンチウム90が検出された問題で、東京電力は24日、この井戸に近い港湾内の海水に含まれるトリチウムの濃度が、上昇傾向にあると発表した。放射性物質の海への漏えいが懸念されるが、東電は「海水を継続調査し、海への漏出の有無を判断したい」としている。

 東電によると、濃度の上昇傾向が見られたのは、1号機取水口の北側の海水。21日の採取分から、1リットル当たり1100ベクレル(前回10日採取分は500ベクレル)を検出した。この検査地点のトリチウム濃度は、2011年10月10日の920ベクレルがこれまでの最高値だった。

 また、1、2号機取水口の間から21日に採取した海水からも910ベクレル(同600ベクレル)が検出され、上昇傾向を示した。【鳥井真平】
http://mainichi.jp/feature/20110311/news/20130625k0000m040053000c.html

この記事を読んでいる限り、2011年10月時点よりも2013年6月21日採取分のほうがトリチウム濃度が上がっているということになる。しかも、6月10日採取分よりも2倍前後増えているのである。つまり、この海水の放射能汚染は、前からのものではなく、直近のものなのであるといえよう。

たぶん、東電の「建屋からもれた可能性は低い」という説明は成り立たないだろうといえる。今まで、福島第一原発には大量の地下水が侵入し、そのため、大量の汚染水が生じ、それをすべて回収し、汚染処理した後、汚染水タンクに貯めているというように説明がされていた。今回、地下水ー海水から放射性物質が検出されたということは、そもそも汚染水の管理自体が完全ではないことを示しているといえよう。

そもそも、福島第一原発ーとりわけ2号機の原子炉がどれほど破壊されているかということはわかっていない。そして、万全であれば、地下水が侵入すること自体がないのである。

東電としては、次のような方策を考えているとされている。産經新聞が6月11日にネット配信した記事をみておこう。

バスの中からは地下水をくみ上げる井戸も公開された。汚染水自体を減らすために東電が率先して取り組んでいる方法だ。原子炉建屋に流れ込む前の汚染されていない水をくみ上げて、海に放流する。

 しかし漁協などに対しこれまで開いた説明会では「安全だったら飲んでみろよ」などと怒号の交じった質問が繰り返され、両者の溝は埋まりそうにない。

 地下水のくみ上げに理解が得られたとしても、1日100トンしか汚染水を減らすことができず、1日400トン発生する汚染水の抜本的な対策にはならない。

 そこで政府が飛びついた“奇策”が、4基の原子炉を取り囲むように土を凍らせて水の流入を完全に防ぐ「凍土壁方式」だった。今月中にも設計に取りかかるが、世界に前例がなく、常に冷却しなければならないという電源リスクがある。

 とはいっても、「ためる方式」はすでに限界がきているのは明らかだ。敷地内にタンクは約1千基(容量33万トン)あり、行き場のない汚染水のために80万トンまで拡充する計画がある。

 取材に応じた第1原発の高橋毅(たけし)所長は「無限に汚染水を蓄えることはできない」と、試運転中の多核種除去装置(ALPS)の稼働に期待を寄せている。26日付での異動が決まっている高橋所長。「反省すべき点はあるが放射線量は確実に減っており、できたことがあることも事実」と1年半の任務を振り返った。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/130611/dst13061121540011-n2.htm

つまり、①原子炉に流入する以前に地下水をくみ上げ、海に放流する、②「凍土壁」を設けて地下水流入を防止する、③汚染水タンクの拡充、④多核種除去装置の稼働、という四つが考えられているといえる。

まず、①については、そもそも、原子炉流入以前の地下水にも放射性セシウムが微量含まれていることが6月3日に発表されており、今回の新たな海水への汚染発覚で漁業者の一層の反発を買うことが予想される。しかし、東電としては「国」の責任で強行的に押し切ろうという姿勢を示している。産經新聞が6月24日にネット配信した記事をみてみよう。

「国の判断必要」と東電 福島原発の地下水放出
2013.6.24 21:45
 東京電力福島第1原発事故で、汚染水を減らすため、地下水を井戸でくみ上げ海に放出する「地下水バイパス」計画について、東電の新妻常正常務は24日「最終的には、漁業関係者の反応をしっかり受け止めて国に説明し、国にご判断いただくことが必要だ」と述べた。

 福島県いわき市で開かれた福島県漁業協同組合連合会(県漁連)の組合長会議に出席し、終了後、記者団の質問に答えた。

 新妻常務は「(出席者から)漁業関係者が結論を下し、責任を負うことがいいのかという意見があった」と語った。さらに「まずは地下水と汚染水は違うということを丁寧に説明していく」として、県内の漁業関係者に説明を続け「説明会後に国に報告する」との考えを示した。

 県漁連の野崎哲会長も会議終了後「地下水の流入を抑制しないといけないという共通認識はある」と述べた。
http://sankei.jp.msn.com/region/news/130624/fks13062422060000-n1.htm

これが実現しても流入する汚染水の四分の一が減少できるにすぎない。③の汚染タンクの拡充、④の多核種除去装置の稼働は、いずれにしても弥縫策にすぎない。となると、まったくの新技術である②の「凍土壁」設置によって地下水侵入を阻止することしか、決め手にならない。

しかも、今回の地下水ー海水への放射能汚染は、単に流入してくる地下水を防ぐだけでは不十分であることを示している。現実的に福島第一原発を廃炉にする作業過程においては、原子炉内部を水にみたして核燃料をとりだすことが想定されているが、地下水が侵入し汚染水として流出する状態ではそれは難しい。

結局、弥縫策を繰り返して、なんとかもたせているというのが現状であるといえるのである。もちろん、現状維持も全く意味がないわけではない。しかし、その中で、放射能汚染は拡大し、事態収束の筋道すらみえなくなっている。これが福島第一原発の現状といえよう。

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自由民主党政調会長の高市早苗が、6月17日に福島第一原発事故で死亡者は出ておらず、原発は再稼働して活用するしかないと発言し、安倍首相を含めた多くの批判をあびて、19日に謝罪して撤回した。

結局、謝罪して撤回したとはいえ、この高市の発言は、現在の安倍政権の原発政策の基調を可視化したものといえる。今回、そういった観点で、高市発言についてみていくことにする。

まず、第一報をみてみよう。東京新聞6月18日付朝刊では、次のように報道されている。

「福島事故で死者なし」 自民・高市氏が原発再稼働主張

2013年6月18日 朝刊

 自民党の高市早苗政調会長は十七日、神戸市で講演し、原発の再稼働問題について「福島第一原発で事故が起きたが、それによって死亡者が出ている状況ではない。最大限の安全性を確保しながら活用するしかない」と述べた。
 同時に「原発は廃炉まで考えると莫大(ばくだい)なお金がかかるが、稼働している間はコストが比較的安い。エネルギーを安定的に供給できる絵を描けない限り、原発を利用しないというのは無責任な気がする」と指摘した。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2013061802000122.html?ref=rank

この高市発言のうち、「福島第一原発で事故が起きたが、それによって死亡者が出ている状況ではない。」ところに、与野党の批判が集中した。6月19日付東京新聞朝刊は、次のように伝えている。

高市氏「原発事故で死者なし」発言 与野党から批判噴出

2013年6月19日 朝刊

 自民党の高市早苗政調会長は十八日、原発の再稼働について「東京電力福島第一原発事故で死者が出ている状況ではない」として、原発再稼働を主張した自らの発言について「誤解されたなら、しゃべり方が下手だったのかもしれない」と釈明した。ただ、震災関連死を無視するような言葉だけに、与野党から厳しい批判を浴びている。 (清水俊介)
 高市氏は十八日、十七日の講演での言及について「被ばくが直接の原因でなくても体調を崩し亡くなられ、なりわいを失い、自ら命を絶たれた方がいる。(死亡者がいないから)再稼働するなんて考え方は、そもそも持っていない」と記者団に説明した。
 菅義偉官房長官も記者会見で「前後(の文脈)を見ると問題になるような発言ではなかった」と擁護。「被災者に寄り添う形で東日本大震災復興を加速させるとの政府方針を高市氏も理解していると思う」と語った。
 しかし、被災者への配慮を欠いた発言に対する擁護論は少ない。
 自民党の溝手顕正参院幹事長は、夏の参院選への影響を懸念し「この期に及んで余計なことを言わなくてもよい」と指摘。公明党の山口那津男代表は「今なお故郷に帰れない方々が大勢いる中、被災者に共感を持たなければならない。被災者の苦労や苦痛をいかに解消するかに全力を挙げなければならない」と苦言を呈した。
 野党では、民主党の細野豪志幹事長が、福島県内で大勢の震災関連死者が出ていることを挙げて「この数字の重さを理解できない人は政権を担う資格がない」と厳しく批判。
 みんなの党の江田憲司幹事長も「深刻な原発事故への影響の認識が甚だ薄い。政治家を辞めるべきだ」と述べた。みどりの風の谷岡郁子代表は「事故を小さく見せるための無理な考えだ」と発言の撤回を求めた。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2013061902000104.html?ref=rank

特に、自民党の福島県関係者の批判は強かった。6月20日に福島民報は次の記事をネット配信している。

県連「現状認識乏しい」 森少子化相も直接抗議
 自民党の高市早苗政調会長が東京電力福島第一原発事故で死者は出ていないと発言した問題で、同党県連は19日午前、発言の撤回と謝罪を求める抗議文を党執行部に提出した。
 党県連の抗議文は、「本県では原発事故の影響で過酷な避難により亡くなった方や、精神的に追い詰められ自殺をされた方など現在1400人を超える災害関連死が認定されている」と指摘。「(高市氏の発言は)現状認識に乏しく、亡くなられた方々、ご遺族、避難をされている方々をはじめ、県民に対しての配慮も全くなく、不適切なものであり、強い憤りを感じる」と強く批判した。
 党県連の平出孝朗幹事長、吉田栄光筆頭副幹事長が党本部で党東日本大震災復興加速化本部の大島理森本部長に抗議文を手渡した。大島氏は「(高市)政調会長にもしかと伝える。(抗議文を提出した県連と県民の)思いに対しては申し訳ない思いでいる」と陳謝。さらに「(被災者の)皆さんが地元で苦しんでいる時に、(抗議文を受けたことを)真摯(しんし)に受け止め、(復興に向けて)党を挙げて努力していく」と強調した。平出幹事長らは高市氏と「予定が取れない」との理由で直接面会できなかった。
 また、森少子化担当相も党本部で記者団の取材に応じ、「大変怒っている」として高市氏に直接抗議したことを明らかにした。
http://www.minpo.jp/news/detail/201306209113

結局、安倍首相(というよりも自民党総裁としての立場だが)、高市に「注意喚起」をせざるをえなくなった。結局、6月19日、高市は、発言を撤回し、謝罪せざるをえなくなった。それを伝える東京新聞のネット配信記事をあげておこう。

高市氏撤回し謝罪 「原発事故で死者なし」発言

2013年6月20日 朝刊

 自民党の高市早苗政調会長は十九日、東京電力福島第一原発事故で死者が出ていないとして原発再稼働を主張した自らの発言について「福島県の方に不愉快で悔しい、腹立たしい思いをさせた。撤回し、おわび申し上げる」と陳謝した。党本部で記者団に語った。
 高市氏は野党側からの辞任要求について、進退を安倍晋三首相に委ねる考えを示したが、外遊中の首相は菅義偉官房長官を通じ「今後、発言には注意し、政調会長としての職務はしっかり務めてほしい」と辞任の必要はないとの考えを伝えた。
 問題の発言は、十七日に神戸市で講演した際「福島第一原発で事故が起きたが、それによって死亡者が出ている状況ではない。(原発は)最大限の安全性を確保しながら活用するしかない」と述べたもの。
 高市氏は十八日に「(発言が)誤解されたのであれば、しゃべり方が下手だったのかもしれない」と釈明したが、震災関連死を無視したような発言に、与野党から批判が続出。十九日には自民党福島県連の平出孝朗幹事長らが党本部を訪れ「発言は現状認識に乏しく、県民への配慮もない、不適切なものだ。強い憤りを感じる」と発言撤回と県民への謝罪を求める抗議文を提出。福島県選出の森雅子少子化担当相も国会内で高市氏に直接抗議した。
 菅氏は問題が長引けば、参院選に悪影響を与えかねないと判断。高市氏に「誤解を招いていることは事実だからしっかり対応すべきだ」と要請し、高市氏は発言撤回を決めた。
◆止まらない批判 滋賀知事「許せない」
 滋賀県の嘉田由紀子知事は十九日、自民党の高市政調会長の発言について「震災関連死を無視することは、やってはいけない。いくら再稼働を急ぐからといって、被害をないものにすることは許せない」と批判した。県庁で記者団の取材に答えた。
◆福島県民「どうせ人ごとなんだ」
 多数の「震災関連死」が既に認定されている福島県に対し「原発事故で死者は出ていない」と発言した自民党の高市政調会長。今も約十五万人が避難生活を続ける福島県では「政治家は、どうせ人ごととしか思っていない」との声が広がっている。
 「形だけ取り繕っても意味がない。謝るなら、福島に来て避難者の前で謝ってほしい」
 福島県楢葉町からいわき市に避難している男性(51)は十九日、突き放すように話した。
 第一原発が立地する福島県双葉町に住んでいた七十代の叔父は、埼玉県加須市の避難所で体調を崩し、事故から約三カ月後の二〇一一年六月、入院先で亡くなった。「避難中に亡くなった人は、他にもいっぱいいる。そんなことも分かっていない政治家を相手にするのも疲れた。どうせ人ごとなんだ」
 ことあるごとに「復興が使命」とうたう政権与党幹部の事実認識が欠けた発言に、男性は諦めたような口調だった。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2013062002000111.html

この高市発言でもっとも問題になったのは、前述したように、福島県で1300人以上にのぼるといわれている「震災関連死」の無視である。確かに、狭義の意味での放射線障害での死亡者は報道されていないが、震災や原発事故後の避難中などになくなったり、自殺した人びとは確実に存在する。市町村によっては、原発事故の影響かいなかを記録している場合もある。3月11日付の東京新聞は、原発事故関連の場合について「原発関連死」として、少なくとも福島県内789人にのぼることを報道した。なお、南相馬市といわき市は原発関連であるかどうかを記録しておらず、東京新聞によれば、それらをいれれば、1000人以上になるだろうとしている。そして、震災後2年たっても増え続けているのである。

原発関連死789人 避難長期化、ストレス 福島県内本紙集計

2013年3月11日

 東京電力福島第一原発事故に伴う避難やストレスによる体調悪化などで死亡したケースを、本紙が独自に「原発関連死」と定義して、福島県内の市町村に該当者数を取材したところ、少なくとも七百八十九人に上ることが分かった。死者・行方不明者一万八千五百四十九人を出した東日本大震災から十一日で二年。被災三県のうち福島では、宮城、岩手よりも多くの人が今も亡くなり続けている。原発事故は、収束していない。(飯田孝幸、宮畑譲) 
 地震や津波の直接の犠牲者だけでなく、震災や事故後の避難中などに亡くなった人に対し、市町村は「震災関連死」として災害弔慰金(最高五百万円)を給付している。福島では二十二市町村が計千三百三十七人(十日現在)を関連死と認定。二十市町村はこのうちの原発事故に伴う避難者数を把握しており、本紙で「原発関連死」として集計したところ七百八十九人に上った。南相馬市といわき市は把握していない。
 南相馬市の担当者は「事故後、市全域に避難指示を出した。震災関連死と認定した三百九十六人の大半は原発避難者とみられる」と話しており、これを合わせると原発関連の死者は千人を超えるとみられる。
 二百五十四人が原発関連死だった浪江町では、申請用紙の「死亡の状況」欄に「原子力災害による避難中の死亡」という項目がある。町の担当者は「全員がこの項目にチェックしている。自殺した人もいる」と話す。
 震災関連死の認定数は、福島より人口が多い宮城で八百五十六人(八日現在)、岩手が三百六十一人(一月末現在)で、福島が突出している。復興庁は「福島は原発事故に伴う避難による影響が大きい」と分析している。
 認定数の多さだけではなく、影響が長期に及んでいるのも福島の特徴だ。震災後一年間の震災関連死の認定数は福島が七百六十一、宮城六百三十六、岩手百九十三。その後の一年の認定数は福島が五百七十六、宮城が二百二十、岩手が百六十八。今も申請は続き「収束が見えない」(浪江町)という状況だ。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/feature/nucerror/list/CK2013031102100005.html

福島原発事故がもたらした、広範囲における長期的避難とそれによる生活破壊、その結果として多数生じている「震災関連死」、これらを無視したとして、高市発言は自民党内からも批判されたといえよう。

さて、それでは、この高市発言が、どのような文脈でなされたかということをみておこう。高市発言の詳細についてはあまり報道されていない。6月19日付東京新聞朝刊が比較的詳細に伝えている。

■高市氏発言の要旨
 【十七日】日本に立地したい企業が増えているが、電力の安定供給が不安要因だ。原発は廃炉まで考えると莫大(ばくだい)なお金がかかるが、稼働中のコストは比較的安い。東日本大震災で悲惨な爆発事故を起こした福島原発も含めて死亡者が出ている状況にない。そうすると、最大限の安全性を確保しながら(原発を)活用するしかないのが現状だ。火力発電も老朽化し、コストがかかる。安いエネルギーを安定的に供給できる絵を描けない限り、原発を利用しないというのは無責任な気がする。(神戸市での講演で)
 【十八日】趣旨を取り違え報道されている。安全基準は最高レベルを保たなければいけないと伝えたかった。誤解されたのであればしゃべり方が下手だったのかもしれない。被ばくが直接の原因でなくても、体調を崩し亡くなられ、なりわいを失い自ら命を絶たれた方がいる。(死亡者がいないから)再稼働するなんて考え方は、そもそも持っていない。(国会内で記者団に)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2013061902000104.html

17日の発言において、高市は、企業立地をすすめるために、電力の安定供給が必要であり、そのために比較的安価なコストの原発を利用すべきとしている。その文脈において原発事故において死亡者は出ていないとしているのである。企業を中心として日本社会を運営する、そのためには安い電力が必要であり、ゆえに原発を利用し続けるというのが、高市発言の骨子なのである。18日には、死亡者云々については、取り違えられて報道していると(橋下徹をはじめとした失言した政治家の常套句だ)と述べたが、その骨子は何もかえていない。

企業を中心に日本社会を運営するということは、安倍政権の基調であるといってよい。例えば、2月28日の施政方針演説で安倍首相は次のように述べている。

 

世界のすぐれた企業は、日本に立地したいと考えるでしょうか。
 むしろ、我が国は、深刻な産業空洞化の課題に直面しています。
 長引くデフレからの早期脱却に加え、エネルギーの安定供給とエネルギーコストの低減に向けて、責任あるエネルギー政策を構築してまいります。
 東京電力福島第一原発事故の反省に立ち、原子力規制委員会のもとで、妥協することなく、安全性を高める新たな安全文化をつくり上げます。その上で、安全が確認された原発は再稼働します。
 省エネルギーと再生可能エネルギーの最大限の導入を進め、できる限り原発依存度を低減させていきます。同時に、電力システムの抜本的な改革にも着手します。
 世界で一番企業が活躍しやすい国を目指します。
http://www.shugiin.go.jp/index.nsf/html/index_kaigiroku.htm

もちろん、安倍の施政方針演説においては、「原発依存度の低減」など、ある程度配慮した表現はみられる。しかし、高市発言とそれほど変わらないといえる。高市発言は、ある意味では安倍首相自身がいえない「本音」を代弁しようとしたといえるのである。

 そして、19日に「発言」を「撤回」したはずの高市早苗は、「政調会長」として、翌20日に自民党参院選公約をとりまとめ、その中に「原発再稼働」を明記した。そのことを伝えるテレビ朝日のネット配信記事を次にあげておく。

自民党きょう公約決定 「原発再稼働」を明記(06/20 11:51)

「原発事故による死者はいない」と発言し、福島県などから批判された自民党の高市政調会長。19日に自らのこの発言を撤回・謝罪し、幕引きを図りました。その高市氏は20日、党の公約をまとめますが、そのなかには「原発再稼働」が盛り込まれていて、またしても福島県からの反発が予想されます。

 (政治部・鈴木久嗣記者報告)
 公約を巡っては、普天間基地の問題など地方の県連と足並みがそろわなかった部分もありましたが、高市氏は「全員野球で作り上げた」と胸を張りました。
 自民党・高市政調会長:「ギリギリまで調整を続けて頂き、本当に多くの国会議員が参加して、全員野球で作り上げた公約でございます」
 このなかでは、安全性が確認された原発の再稼働について、地元自治体の理解が得られるよう「最大限の努力をする」として、再稼働が明記されました。再稼働に意欲的な議員の会議では、「原発は地域経済への影響が大きいので、速やかな安全確認を進めてほしい」「再稼働は悪だとする風潮が問題だ」といった意見が出ました。自民党は夕方に公約を正式決定しますが、福島県連や女性支持者など慎重論も出ているなかで原発再稼働への舵を切ることになります。
http://news.tv-asahi.co.jp/news_politics/articles/000007452.html

それこそ、「昨日の今日」である。企業を中心に社会を運営するという安倍政権の方針においては、原発事故による死者の存在はやはり無視されて、原発の本格的再稼働がめざされていくのである。高市早苗の個人的問題ではないのである。

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昨年、本ブログでも紹介した、国連人権理事会の特別報告者アナンド・グローバー氏による福島第一原発事故被ばく問題に関する特別報告が5月24日に公表された。まず、それを伝える毎日新聞のネット配信記事をみておこう。

福島第1原発事故:国連報告書「福島県健康調査は不十分」
毎日新聞 2013年05月24日 15時00分(最終更新 05月24日 16時59分)

 東京電力福島第1原発事故による被ばく問題を調査していた国連人権理事会の特別報告者、アナンド・グローバー氏の報告書が24日明らかになった。福島県が実施する県民健康管理調査は不十分として、内部被ばく検査を拡大するよう勧告。被ばく線量が年間1ミリシーベルトを上回る地域は福島以外でも政府が主体になって健康調査をするよう求めるなど、政府や福島県に厳しい内容になっている。近く人権理事会に報告される。

 報告書は、県民健康管理調査で子供の甲状腺検査以外に内部被ばく検査をしていない点を問題視。白血病などの発症も想定して尿検査や血液検査を実施するよう求めた。甲状腺検査についても、画像データやリポートを保護者に渡さず、煩雑な情報開示請求を要求している現状を改めるよう求めている。

 また、一般住民の被ばく基準について、現在の法令が定める年間1ミリシーベルトの限度を守り、それ以上の被ばくをする可能性がある地域では住民の健康調査をするよう政府に要求。国が年間20ミリシーベルトを避難基準としている点に触れ、「人権に基づき1ミリシーベルト以下に抑えるべきだ」と指摘した。

 このほか、事故で避難した子供たちの健康や生活を支援する「子ども・被災者生活支援法」が昨年6月に成立したにもかかわらず、いまだに支援の中身や対象地域などが決まっていない現状を懸念。「年間1ミリシーベルトを超える地域について、避難に伴う住居や教育、医療などを支援すべきだ」と求めている。【日野行介】

 ◇グローバー氏の勧告の骨子

 <健康調査について>
・年間1ミリシーベルトを超える全地域を対象に
・尿や血液など内部被ばく検査の拡大
・検査データの当事者への開示
・原発労働者の調査と医療提供

<被ばく規制について>
・年間1ミリシーベルトの限度を順守
・特に子供の危険性に関する情報提供

<その他>
・「子ども・被災者生活支援法」の施策策定
・健康管理などの政策決定に関する住民参加
http://mainichi.jp/select/news/20130524k0000e040260000c.html

この報告書については、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウが暫定的に仮訳し、サイトで公開している。結論的部分の「勧告」というところをここで紹介しておこう。なお、公開されている仮訳は、報告書の原文も提示した対訳になっているが、ここでは、仮訳部分のみしめしておく。

勧告

76. 国連特別報告者は、日本政府に対し、原発事故の緊急対応システムの策定と実施について、以下の勧告を実施するよう要請する。

(a) 指揮命令系統を明確に定め、避難区域・避難所を明示し、社会的弱者を救助するガイドラインを規定した、原発事故の緊急対応計画を確立し、不断に見直すこと。
(b) 原発事故の影響を受ける危険性のある地域の住民と、事故発生時の対応や避難基準を含む災害対応計画について協議すること。
(c) 原発事故発生後、可及的速やかに、関連する情報を公開すること。
(d) 原発事故発生前、又は事故発生後可及的速やかに、ヨウ素剤を配布すること。
(e) 原発事故の影響を受ける地域に関する情報を集め、広めるために、「緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム」(SPEEDI)のような技術の、迅速かつ効果的な利用を提供すること。

77. 原発事故の影響を受けた人々に対する健康管理調査について、国連特別報告者は日本政府に対し、以下の勧告を実施するよう要請する。

(a) 長期間の、全般的・包括的な健康管理調査を通じ、原発事故の影響を受けた人々の、健康に関する放射能による影響を、継続的に監視すること。 また、必要な場合、適切な治療を行うこと。
(b) 健康管理調査は、年間被ばく線量 1mSv 以上の全ての地域に居住する人々に対し実施されるべきである。
(c) すべての健康管理調査を、より多くの人が受け、調査の回答率をより高めるようにすること。
(d)「健康基本調査」には、個人の健康状態に関する情報と、放射能による健康へ悪影響を与えるその他の要素を含めて調査がされるようにすること。
(e) 子どもの健康管理調査は、甲状腺検査に限定せず、血液・尿検査を含む、全ての健康影響に関する調査に拡大すること。
(f) 甲状腺検査の追跡調査と二次検査を、親や子が希望する全てのケースで利用できるようにすること。
(g) 個人情報を保護しつつも、検査結果に関わる情報への子どもと親のアクセスを、容易なものにすること。
(h) ホールボディカウンターによる内部被ばくの検査対象を限定することなく、地域住民、避難者、福島県外の人々等、影響を受ける全ての人々に対して実施すること。
(i) 全ての避難者、及び地域住民、とりわけ高齢者、子ども、妊婦等の社会的弱者に対して、メンタルヘルスの施設、必要品、及びサービスが利用できるようにすること。
(j) 原発労働者に対し、被ばくによる健康影響調査を実施し、必要な治療を実施すること。

78. 国連特別報告者は、日本政府に対し、放射線量に関連する政策・情報提供に関し、以下の勧告を実施するよう要請する。

(a) 避難区域、及び放射線被ばく線量の限界に関する国家の計画を、科学的な証拠に基づき、リスク対経済効果の立場ではなく人権を基礎において策定し、かつ、年間被ばく線量を1mSv 以下に低減すること。
(b) 放射線の危険性と、子どもは被ばくに対して特に脆弱であるという事実について、学校教材等で正確な情報を提供すること。
(c) 放射線量の監視においては、住民による独自の測定結果を含めた、独立した有効性の高いデータを取り入れること。

79. 除染について、国連特別報告者は、日本政府に対し、以下の勧告を採用するよう要請する。

(a) 年間被ばく線量が 1mSv 以下の放射線レベルに下げるための、時間目標を明確に定めた計画を、早急に策定すること。
(b) 放射能汚染土壌等の貯蔵場所を、標識等で明確にすること。
(c) 安全で適切な中間・最終保管場所の設置を、住民参加の議論により決定すること。

80. 国連特別報告者は、規制の枠組みの中で、透明性と説明責任の確保について、日本政府に対し、以下の勧告を実施するよう要請する。

(a) 原子力規制行政、及び原子力発電所の運営において、国際的に合意された基準や、ガイドラインを遵守するよう求めること。
(b) 原子力規制委員会の委員と、原子力産業の関連に関する情報を公開すること。原子力規制庁の委員と原子力産業の関連に関する情報を公開すること。
(c) 原子力規制委員会が集めた、国内、及び国際的な安全基準・ガイドラインに基づく規制と、原発事業者による遵守に関する情報は、独立した監視が出来るよう公開すること。
(d) 原発事故による損害について、東京電力等が責任をとることを確実にし、かつその賠償・復興関わる法的責任のつけを、納税者が支払うことがないようにすること。

81.賠償や救済措置について、国連特別報告者は、日本政府に対し、以下の勧告を実施するよう要請する。

(a)「原子力事故 子ども・被災者支援法」の基本計画を、影響を受けた住民の参加を確保して策定すること。
(b) 復興と、人々の生活再建のための費用を、救済措置に含めること。
(c) 原発事故と被ばくにより生じた可能性のある健康影響について、無料の健康診断と治療を提供すること。
(d) さらなる遅延が生ずることなく、東京電力に対する損害賠償請求が解決するようにすること。

82. 国連特別報告者は、原発の稼動、避難区域の指定、放射線量の限界、健康管理調査、賠償を含む原子力エネルギー政策と原子力規制の枠組みに関する全ての側面の意思決定プロセスに、住民が、特に社会的弱者が、効果的に参加できることを確実にするよう、日本政府に要請する。
以上
http://hrn.or.jp/activity/%E3%82%B0%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%90%E3%83%BC%E5%A0%B1%E5%91%8A%E6%9B%B8%20%E6%9A%AB%E5%AE%9A%E4%BB%AE%E8%A8%B3130614%E6%94%B9%E8%A8%82%E7%89%88.pdf

まず、確認しておきたいのは、この報告書は、「原発事故の緊急対応システムの策定と実施」(76)、「原発事故の影響を受けた人々に対する健康管理調査」(77)、「放射線量に関連する政策・情報提供」(78)、「除染」(79)、「原子力規制の枠組みの中で、透明性と説明責任の確保」(80)、「賠償や救済措置」(81)、「原子力エネルギー政策と原子力規制の枠組みに関する全ての側面の意思決定プロセスに対する住民(とりわけ社会的弱者)の効果的参加」となっており、毎日新聞報道よりもはるかに広汎なものになっているということである。特に、「原発事故の緊急対応システムの策定と実施」「原子力規制の枠組みの中で、透明性と説明責任の確保」原子力エネルギー政策と原子力規制の枠組みに関する全ての側面の意思決定プロセスに対する住民(とりわけ社会的弱者)の効果的参加」は、これまでの日本政府による原子力規制のありかた自体を批判しているといえるだろう。

その上で、まず、注目されるのは、「避難区域、及び放射線被ばく線量の限界に関する国家の計画を、科学的な証拠に基づき、リスク対経済効果の立場ではなく人権を基礎において策定し、かつ、年間被ばく線量を1mSv 以下に低減すること。」としていることである。この報告書の前の方で、まず、低線量被ばくについて、このように述べている。

9. チェルノブイリ、スリーマイル島、及び福島での原発事故の類似性から、チェルノブイリ、及びスリーマイル島の教訓が、福島において対策を考案する際にも用いられたことは理解できる。しかしながら、国連特別報告者は、チェルノブイリの原発事故に関する重要かつ完全な情報は、1990 年まで公表されなかったことを強調する。したがって、チェルノブイリに関する研究は、放射能汚染及び被ばくの影響を十分に認識していない可能性がある。こうしたことから、チェルノブイリの原発事故後の、甲状腺癌の疾病率の増加のみが、福島の原発事故に対して認められ、かつ適用されることを懸念する。チェルノブイリの原発事故後の被ばく量の健康への影響に関する報告書は、他の健康異常の証拠を不確定なものとしている。遺憾なことに、この報告書は、本来監視されるべき、子どもや成人の疾病率を増加させる染色体異常、機能障害、及び白血病のような、被ばくによる健康に対する他の影響を無視している。

10. 日本政府は、汚染地域への帰還のための基準として、年間被ばく量 1mSv から 20mSvを参照レベルとしている。これは、国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告に依拠している。しかしながら、広島及び長崎に落とされた原爆の生存者に関する疫学研究は、長期的な低線量被ばくと、発がんの危険との因果関係を示している。国連特別報告者は、これらの研究結果を無視することによって、低線量被ばくに対する理解が損なわれ、健康への悪影響が増加することを懸念する。

つまり、チェルノブイリに関する情報は1990年まで公表されておらず、そのことにより被ばく量の健康への影響が十分調査されていないとし、広島・長崎では長期的低線量被ばくと発がんの危険が因果関係があるとされているにもかかわらず、低線量被ばくの影響を無視する懸念があるとしているのである。

そして、この報告書では、このように低線量被ばくの影響について論じている。

46. 電離放射線障害防止規則(3 条)は、3 ヶ月間の被ばく線量が 1.3mSv を超える区域を管理23 区域とするよう規定している。一般に、推奨されている放射線被ばく限度は年間 1mSv である。ウクライナでは、「チェルノブイリの原発事故の結果悪影響を被った市民の地位と社会的保護に関する」1991 年法が、年間被ばく線量 1mSv 以下を、何の制限もなく生活し働くための被ばく限度とした。

47. 年間被ばく限度 20mSv 以下は、原発事故以降、日本政府によって適用されている基準である。日本政府は、この基準が、原発事故以後の居住不可能地域を決定する際の、年間被ばく線量の基準として 1mSv~20mSv を推奨している ICRP から発行された文書に依拠したものだとしている。ICRP の勧告は、日本政府の全ての行動が、損失に比べて便益が最大化するよう行われるべきであるという最適化と正当化の原則に基づいている。このようなリスク 対 経済効果の観点は、個人の権利よりも集団的利益を優先するため、健康に対する権利の枠組みに合致しない。健康に対する権利の下で、全ての個人の権利が保護され必要がある。さらに、人々の身体的及び精神的健康に長期的に影響を及ぼすこのような決定は、人々の自発的、直接的及び実効的な参加とともに行われるべきである。

48. 日本政府は、国連特別報告者に対して、年間被ばく線量 100mSv 以下では発がんに関して過度の危険がないため、年間被ばく線量 20mSv 以下の居住不可能地域は安全であると保証した。しかしながら、ICRP もまた、発がん又は遺伝的疾患の発生が、約 100mSV 以下の被ばく線量の増加に正比例するという科学的可能性を認めている。さらに、低線量放射線による長期被ばくの健康影響を調査する疫学研究は、白血病のような非固形癌に関する過度の被ばくリスクについて下限はないと結論付けている。固形癌に関する付加的な被ばくリスクは、線形用量反応関係で、一生を通し増加し続ける。

49. 日本政府によって導入される健康政策は、科学的証拠に基づいているべきである。健康政策は、健康に対する権利の享受への干渉を、最小化するように策定されるべきである。被ばく線量限度を設定するにあたって、健康に対する権利は、特に影響を受けやすい妊婦、及び子どもついて考慮し、人々の健康に対する権利に対する影響を最小にするよう要請する。健康への悪影響の可能性は、低被ばく線量でも存在しており、年間被ばく線量が 1mSv 以下で可能な限り低くなった時のみ、避難者は帰還を推奨されるべきである。その間にも、日本政府は、全ての避難者が、帰還か又避難続けるか、自発的に決定できるようするために、全ての避難者に対して金銭的な援助、及び給付金を提供し続けるべきである。

この報告書では、年間100mSv以下の低線量被ばくでもがんもしくは遺伝性疾患発生の可能性が線量に比例して増加するとして、年間1mSvを「何の制限もなく生活し働くための被ばく限度」としている。その上で、ICRPのリスクーベネフィットの原則を「このようなリスク 対 経済効果の観点は、個人の権利よりも集団的利益を優先するため、健康に対する権利の枠組みに合致しない。健康に対する権利の下で、全ての個人の権利が保護され必要がある」と批判しているのである。

その上で、具体的には、「健康への悪影響の可能性は、低被ばく線量でも存在しており、年間被ばく線量が 1mSv 以下で可能な限り低くなった時のみ、避難者は帰還を推奨されるべきである。その間にも、日本政府は、全ての避難者が、帰還か又避難続けるか、自発的に決定できるようするために、全ての避難者に対して金銭的な援助、及び給付金を提供し続けるべきである。」としており、年間1mSv以下を限度として、それ以下になった時、避難者の帰還をすすめるべきで、それまでは、避難者全てに援助を続けるべきとしているのである。

この年間1mSvという限度は、この報告書における、避難基準だけでなく、除染の基準でもあり、健康調査の基準でもある。そして、また、「原子力事故 子ども・被災者支援法」の支援基準にすることも求めているのである。

現在、日本政府は避難が義務付けられた警戒区域や計画的管理区域において「避難指示解除準備区域」として放射線量年間1〜20mSvの地域を指定し、住民の帰還を促進しようとしている。除染も現在のところは年間1mSv未満にするようにされているが、除染困難ということで、年間1mSvという原則を放棄することが検討されているようである。加えて、昨年成立した「原子力事故 子ども・被災者支援法」は、成立してからほぼ1年たつが、いまだ実施の基本方針すら定められていないという状態である。

それに対し、国連人権理事会のこの特別報告は、日本の被ばく対策が、すでに人権侵害という観点から検討されなくてはならないことを示しているのである。そして、このような状態をどのようにかえていくのかということは、日本の人びと全体の問題なのである。

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先日、、福島県の県民健康管理調査における18歳以下の甲状腺がん調査で、甲状腺がん患者が12人発見されたことが各紙で報じられた。ここでは、東京新聞のネット配信記事を紹介しておこう。

甲状腺がん「確定」12人 福島の18歳以下、9人増

2013年6月5日 朝刊

 東京電力福島第一原発事故による放射線の影響を調べている福島県の県民健康管理調査で、十八歳以下で甲状腺がんの診断が「確定」した人が九人増え十二人に、「がんの疑い」は十五人になった。
 これまで一次検査の結果が確定した約十七万四千人の内訳。五日に福島市で開く検討委員会で報告される。検討委の二月までの調査報告では、がん確定は三人、疑いは七人だった。
 これまで調査主体の福島県立医大は、チェルノブイリ原発事故によるがんが見つかったのが、事故の四~五年後以降だったとして「放射線の影響は考えられない」と説明している。
 甲状腺検査は、震災当時十八歳以下の人約三十六万人が対象。一次検査でしこりの大きさなどを調べ、軽い方から「A1」「A2」「B」「C」と判定。BとCが二次検査を受ける。
 二〇一一年度は、一次検査が確定した約四万人のうち、二次検査の対象となったのは二百五人。うち甲状腺がんの診断確定は七人、疑いが四人。ほかに一人が手術を受けたが、良性と分かった。
 一二年度は、一次検査が確定した約十三万四千人のうち、二次検査の対象となったのは九百三十五人、うち診断確定は五人、疑いが十一人。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2013060502000133.html

なお、確定したがん患者が12人であるのだが、それ以外に「疑い」のある者が15人存在している。合計で27人が、がん患者もしくはがんの疑いがあるということになるのである。

この報道は、福島県で6月5日に開催された第11回「県民健康管理調査」検討委員会の資料に基づいたものである。なお、甲状腺がんの調査は、36万人を対象としているが、まだ17万4000人しかすすんでいない。また、二次検査も2011年度の対象者205人のうち166人、2012年度の対象者935人のうち255人しか終了していない。二次検査自体が全体の約37%しか実施されていないのである。

しかも、これは本ブログで前述したことがあるが、すでに実施された一次検査では、対象者の約35〜45%から、結節や嚢胞などの甲状腺異常が見つかった。しかし、大半が小さいということで二次検査からはずされたのである。

つまり、いまだ甲状腺がん検査は途上であるとともに不備であり、検査が進むとより多くの患者の発生がある可能性があり、さらに、甲状腺がん検査で「異常なし」とされた人びとからも甲状腺がんが発生する危険性もあるといえよう。

甲状腺がんは、平時では100万人に1〜3人程度発症するとされている。参考として、次の「日本臨床検査薬協会」のサイトの記事をあげておこう。

チェルノブイリ原発事故と小児の甲状腺がん
 1986年4月26日のチェルノブイリ原発事故後はチェルノブイリ地方で小児、特に女児に多くの甲状腺がんが見られたことが報告されています。図3はチェルノブイリ原発事故後の人口100万人当たりの甲状腺がんの発生件数を示しています。一般に小児の甲状腺がんの発生は100万人当たり1~3人といわれていますが、原発事故の2~3年後から急な増加が見られます。そして、被爆時の年齢によってそのピークが異なることがわかります。0~10歳までの乳幼児・小児は被曝7年後にピークがあり、以後漸減して、1997年以降はベースライン、すなわち通常の発生率に戻っています。10~19歳の思春期では被曝10年後にピークが見られ、2002年以後は急激に増加しますが、ベースラインには戻っていません。
http://www.jacr.or.jp/topics/09radiation/03.html

検査途上なのだが、仮に17万4000人を基準とした場合、現状でも1万人につき約0.69人のがん患者が発生していることになる。「疑い」を入れれば1万人につき約1.5人になってしまうのである。甲状腺がんが増えているというよりほかはないだろう。

しかし、「これまで調査主体の福島県立医大は、チェルノブイリ原発事故によるがんが見つかったのが、事故の四~五年後以降だったとして「放射線の影響は考えられない」と説明している。」という対応なのである。結局、既存の知を根拠にして、実際におきていることから眼をそらす/そらさせているのである。そして、その中で、福島県の子どもたちの健康被害は過小評価されていくのである。

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さて、最近、福島第一原発の廃炉作業の工程表が見直しされ、一部作業が前倒しされると報道があった。代表的なものとして、NHKが2013年6月10日にネット配信した記事をここで掲げておくことにする。

廃炉工程表 作業一部前倒しへ
6月10日 18時45分

東京電力福島第一原子力発電所の廃炉の工程表について、政府と東京電力は、これまで個別に示していなかった、溶け落ちた核燃料の取り出しの開始時期を、号機ごとの状況で差をつけ、1号機と2号機では最大1年半前倒し、7年後の平成32年度とするなどの見直し案をまとめ公表しました。

福島第一原発の廃炉の工程表は、政府と東京電力が透明性をもって廃炉を進めるため、核燃料の取り出し時期などの目標を定めて公表しているもので、茂木経済産業大臣の前倒しの指示を受けて、新たに見直された案が10日公表されました。
それによりますと、まず溶け落ちた核燃料の取り出しの開始時期については、これまで個別に示さずに冷温停止状態の宣言から10年以内としていましたが、今回の見直しでは1号機から3号機の号機ごとの状況で差をつけ、技術開発の不確かさなどを考慮して複数の計画を示しています。
具体的には、1号機と2号機では、最も早いケースで、これまでより1年半早い平成32年度上半期の開始となっています。
ただ、この時期は、燃料を取り出すための設備の設置状況や建屋内の除染の進捗などによって変わり、1号機の場合、遅いケースでは、平成34年度下半期、2号機では平成36年度上半期となっています。
一方、3号機は、建屋の上にあるがれきによって放射線量が非常に高い状態だなどとして、今回の見直しでは前倒しはなく、早いケースでも平成33年度下半期と、これまでと変更はありません。
このほか、使用済み燃料プールからの核燃料の取り出しについては、1号機と2号機で初めて具体的な開始の時期が示され、1号機では平成29年度、2号機では平成29年度から35年度、一方、3号機は、去年、プールに鉄骨が落下してがれきの撤去が遅れている影響で、半年遅れの平成27年6月の開始となっています。
最も早い4号機については、予定どおり、ことし11月からの取り出しとなっています。
3つの原子炉でメルトダウンするという、世界でも例のない福島第一原発の廃炉の現場は、今も高い放射線量にさらされ、核燃料の取り出しなどの重要な作業は、ロボットに頼らざるをえないなど、今後の技術開発によって工程が大きく左右される可能性があります。
廃炉の実現は、福島の復興とも大きく関わることから、政府と東京電力は、これらの見直し案について地元の自治体に意見などを聞いたうえで今月中に決定する方針です。

廃炉への詳しい工程表
福島第一原発の廃炉の工程表は、おととし12月、当時の政府が冷温停止状態の宣言と合わせて公表しました。
工程を3つに分けて、4号機の使用済み燃料プールからの核燃料の取り出し開始までを第1期、溶け落ちた核燃料の取り出しの開始までを第2期、建屋の解体など廃炉を終えるまでを第3期とし、冷温停止状態の宣言を起点に、第2期については、10年以内の平成33年末、第3期は、最長40年後までに終えるとしていました。
今回、完了時期の見直しはなく、大きな変更点は、第2期の溶け落ちた燃料の取り出しの開始時期が、号機ごとに複数提示され、具体的になっている点です。
これは、事故から2年以上がたち、がれきの撤去作業の進捗や、建屋の放射線量の値に違いがあることを踏まえて、号機ごとに差をつけたものです。
具体的に見ていきます。
溶け落ちた燃料を取り出すには、建屋の上部に燃料を取り出すための設備を新たに設ける必要がありますが、水素爆発で建屋が壊れたかや、がれきの撤去が進んでいるかどうかなどでその方法の選択肢に違いがあります。
まず、1号機です。
建屋全体がカバーで覆われていてがれきの撤去作業が進んでいません。
このため、一度、カバーを解体し、がれきを撤去したうえで、燃料を取り出す設備を設置する方針です。
最も早いケースは、建屋の上部に設備を設置する場合で、1年半前倒しの平成32年度上半期、しかし、建屋の耐震性が十分でない場合、建屋に荷重をかけないよう建屋を覆うように新たな構造物を設置する必要があり、その場合は平成34年度下半期と逆に遅れます。
次に、2号機です。
水素爆発しなかったため建屋は壊れていませんが、建屋上部の放射能の汚染が特にひどく、除染の進み具合などによって3つの計画が示されています。
1つが、除染が進んだケース。
そのまま建屋を使うため、最も早い開始と見込んでいて、平成32年度上半期、一方、除染が進まない場合、1号機と同じパターンになり、建屋の上部に設備を設置する場合は平成33年度上半期、建屋全体で設備を支える場合は、平成36年度上半期と、開始時期に大きな幅があります。
3号機は、すでにがれきの撤去作業が始まっていて、4号機の次にプールからの燃料の取り出しが始まる予定で、最も早い想定では、プールからの燃料取り出し用の設備を改造して使用できる場合は平成33年度下半期、改造がうまくできなかった場合は、平成35年度下半期と、2つの計画が示されています。

廃炉実現には難しい課題も
福島第一原発の廃炉の実現は、福島の復興とも密接に関わっており、その道筋や見通しを示す工程表は、国民、世界の人たちにとっても関心が高く、透明性をもって作業を進めるうえでも重要な意味を持ちます。
特に今回の工程表の見直しでは、作業が順調に進む場合や、計画どおりに進まない場合などを事前に織り込んで複数の計画を示し、途中段階でどの計画に進むか、判断ポイントを設けて柔軟な対応ができるようにしています。
これは、裏返していうと、福島第一原発の廃炉作業が、それだけ先を見通せないさまざまな不確定要素を含んでいるといえます。
廃炉作業で最も重要な溶け落ちた核燃料の取り出しは、世界でも例のない技術的にも難しい作業です。
かつて福島と同じメルトダウンを経験したアメリカ、スリーマイル島原発事故の場合、溶け落ちた燃料は、原子炉内にとどまりましたが、福島の場合、原子炉の底を突き破ってメルトスルーし、格納容器のどこに、どのような状態で存在しているのか分かっていません。
さらに、核燃料の取り出しには、高い放射線量を遮るために格納容器を水で満たすことが最も有力だとされていますが、格納容器の損傷か所の特定すらできていない状況です。
ロボットや炉内を観察するテレビカメラなど新たな技術開発が不可欠で、廃炉工程は、こうした技術開発の動向によって大きく左右されることになります。
さらに福島第一原発の現場は、仮設の設備が多く、今も不安定な状態で、事前に予期できていなかったトラブルが相次いでいます。
去年、3号機の燃料プールに鉄骨が落下したトラブルでは、原因究明などに時間がかかり、がれきの撤去作業に大幅な遅れが出ました。
このほかにも、電源設備にねずみが侵入し、プールの冷却システムが長時間にわたって停止したり、地下の貯水槽から水漏れが見つかったりと、今後も思いもよらぬトラブルで廃炉工程に影響が出るおそれがあります。
40年かかとされる廃炉を1日でも早く実現することは、誰もが望んでいます。
想定されるリスクを事前に洗い出し、トラブルが起きた時にすぐに対応できる準備を整える、廃炉に向けた備えの充実が求められます。

専門家「一日も早く人が管理できる状態に」
今回の見直し案について、原発の安全対策に詳しい東京大学大学院の岡本孝司教授は「工程表は、一度作ったらそのとおりに進まないといけないものではなく、現場の状況を踏まえつつ、見直しながら前に進むことが重要だ。今回、うまくいかなかった場合のバックアップを示したのは分かりやすくてよいと思う」と述べました。
また廃炉作業を進めるにあたって「高い放射線量」が最大の課題になるとして、「人が近づけないと、ロボットで作業をしないといけなくなるが、ロボットも万能ではない。線量が低ければ、すぐに終わる作業も線量が高いために1年、2年と時間がかかることもありうる。そういう遅れも踏まえながら着実に進めることが求められる」と指摘しました。
そのうえで、「福島第一原発の事故はまだ収束していない。一応の安定状態にはあるが、一日も早く人の手で管理できる状態にしないといけない。国と東京電力は、公開の原則で、今、どういう状況にあり何が問題なのか、国民や国際社会に説明していく必要がある」と述べ、福島第一原発の現状をリスクも含めてしっかりと社会に示す重要性を強調しました。http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130610/k10015202101000.html

まず、一つ確認しておこう。これまでの工程表では、ステップ2=「放射性物質の放出が管理され、放射線量が大幅に抑えられている」から10年以内に、各原子炉からメルトダウンした核燃料の取り出しを開始するとしていた。とりあえず、建前的には(実質は不明だが)野田首相が「収束宣言」をした2011年12月がステップ2ということになっている。つまり、2021年度ー平成33年度には原子炉からメルトダウンした核燃料の取り出しが遅くとも開始されるということになっていたのである。なお、それまでの工程表でもステップ2より10年以内となっていたので、別に可能なら前倒しして作業してもかまわなかったのである。

今回、何がかわったのいうのだろうか。NHKなど中心的な報道を読んでみると、メルトダウンした核燃料を取り出す装置をどのように各原子炉につけるかということが検討されただけなのである。この工程表の見直しを行った廃炉対策推進会議事務局が作成し「東京電力(株)福島第一原子力発電所1~4 号機の廃止措置等に向けた 中長期ロードマップの改訂のための検討のたたき台」(2013年6月10日発表)の中で、 1号機についてふれているところをみておこう。

(1)1 号機
1 号機原子炉建屋は、水素爆発により原子炉建屋上部が破損したため、建屋からの放射性物質の飛散抑制を目的として 2011 年 10 月に建屋カバーを設置した。その後、原子炉の安定冷却の継続により、放射性物質の発生量は減少した。今後、建屋カバーを撤去し、オペレーティングフロア上部のガレキ撤去を実施する予定である。
【プラン①】建屋カバーを改造し、オペレーティングフロア上に燃料取り出し作業のための燃料取扱設備を設置し燃料を取り出す計画。燃料デブリ取り出しは、建屋カバーを撤去後に本格コンテナ を設置し実施する。
(目標工程)
・ 燃料取り出し開始(2017年度上半期)
・ 燃料デブリ取り出し開始(2022 年度上半期)
【プラン②】建屋カバーの改造が実施できない場合に、燃料取り出しに必要な機能を持たせた上部コンテナ を設置して燃料を取り出す計画。その後、上部コンテナを改造し、燃料デブリ取り出しに必要な機能を持たせた上で燃料デブリを取り出す。
(目標工程)
・ 燃料取り出し開始(2017年度下半期)
・ 燃料デブリ取り出し開始(2020 年度上半期)
【プラン③】建屋カバーの改造の成立性、コンテナの設計条件の整備及び原子炉建屋の耐震安全性の評価において、プラン①とプラン②が成立しない場合の計画。
(目標工程)
・ 燃料取り出し開始(2017年度下半期)
・ 燃料デブリ取り出し開始(2022 年度下半期)
<プラン①~③を決める HP>
(HP1-1)燃料取り出し計画、燃料デブリ取り出し計画の選択(2014 年度上半期) 燃料取り出し計画、燃料デブリ取り出し計画は、上部コンテナ及び本格コンテナを設計する上で必要となる条件の検討を進めるとともに、建屋カバー改造の成立性、既存原子炉建屋の耐震安全性の評価結果を踏まえ決定する。
<燃料デブリ取り出し開始の時期を判断する HP>
(HP1-2)燃料デブリ取り出し方法の確定
1 号機の燃料デブリ取り出し設備設置が可能となるよう、燃料デブリ取り出し工法・装置の開発を行い、プラン①においては 2020 年度下半期、プラン②においては2019年度上半期、プラン③においては 2020 年度下半期までに取り出し方法を確定する。
http://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/pdf/130606/130606_01c.pdf

この中でも、時期については、3つの場合が想定されている。たぶん、プラン①が推奨されていると思われるが、その場合、2022年度上半期と、今までの工程表からみても遅れた時期(といっても半年程度だが)になっている。プラン②が可能になった場合のみ、2020年度上半期着手となり1年半程度作業が前倒しされるにすぎない。そして、プラン①もプラン②も成り立たない可能性もあり、その際は2022年度下半期と従来の工程表から1年ほど遅れることになっている。

2号機についてみてみよう。

(2)2 号機
2 号機原子炉建屋は、水素爆発による損傷はないが、建屋内の線量が非常に高い状況である。今後、オペレーティングフロアの汚染状況調査を実施する予定。
【プラン①】除染・遮へいによりオペレーティングフロアの線量を低減した上で、既存の燃料取扱設備の復旧を行い、燃料デブリ取り出しは、既存原子炉建屋内に燃料デブリ取り出し装置を設置して行う計画。
(目標工程)
・ 燃料取り出し開始(2017年度下半期)
・ 燃料デブリ取り出し開始(2020 年度上半期)
【プラン②】オペレーティングフロアの除染と既存燃料取扱設備の復旧が成立しない場合に、燃料取り出しに必要な機能を持たせた上部コンテナを設置して燃料を取り出す計画。
(目標工程)
・ 燃料取り出し開始(2020年度上半期)
・ 燃料デブリ取り出し開始(2021 年度上半期)
【プラン③】オペレーティングフロアの除染、既存の燃料取扱設備の復旧及び原子炉建屋の耐震安全性の評価において、プラン①とプラン②が成立しない場合の計画。
(目標工程)
・ 燃料取り出し開始(2023年度上半期)
・ 燃料デブリ取り出し開始(2024 年度上半期) 8
<プラン①~③を決める HP>
(HP2-1)燃料取り出し計画、燃料デブリ取り出し計画の選択(2014 年度上半期)
燃料取り出し計画、燃料デブリ取り出し計画は、上部コンテナ及び本格コンテナ設計条件の整備を進めるとともに、オペレーティングフロアの汚染状況調査、燃料取扱設備の復旧可能性及び既存原子炉建屋の耐震安全性の評価
結果を踏まえ決定する。
<燃料デブリ取り出し開始の時期を判断する HP>
(HP2-2)燃料デブリ取り出し方法の確定
2 号機の燃料デブリ取り出し設備設置が可能となるよう、燃料デブリ取り出し工法・装置の開発を行い、プラン①においては 2018 年度上半期、プラン②においては 2018 年度上半期、プラン③においては 2021 年度上半期まで
に取り出し方法を確定する。
http://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/pdf/130606/130606_01c.pdf

とりあえず、放射線量が高く、除染・遮蔽などによって線量低減が課題だとしている。その上で、プラン①では、既存の核燃料取り出し装置を修復して利用するものとして、2020年上半期に核燃料取り出しに着手するとしている。それ以外の場合は、いずれにせよ、当初の工程表が想定していた2021年度という時期から遅れるのである。

これらのことからみて、原子炉からの核燃料取り出しについては作業の一部前倒しの可能性があると提起しただけで、実際には遅れる可能性のほうが多く記載されているといえるのである。

しかも、これらは、純粋に、原子炉から核燃料を取り出すかということだけが検討されているにすぎない。例えば、2号機における放射線量の低減は、いまだにめどがたっていない。そもそも、2011年12月21日の「東京電力(株)福島第一原子力発電所1~4号機の廃止措置等に向けた中長期ロードマップ(概要版)」では、核燃料の取り出しについては、次のように規定されていた。

⑥ 燃料デブリ取り出し計画
 初号機での燃料デブリ取り出し開始の目標をステップ2完了後10年以内に設定。
 以下のステップで作業を実施する。作業の多くには遠隔技術等の研究開発が必要であり、これらの成果、現場の状況、安全要求事項等を踏まえ、段階的に進めていく。
a)技術開発成果を順次現場に適用し、原子炉建屋内除染を進め、2014 年度末までに漏えい箇所調査等に本格着手。
b)2015 年度末頃に格納容器補修技術(下部)の現場実証を終了し、当該技術を現場に適用することにより、a)において特定された漏えい箇所(下部)を補修し、止水する。その後、格納容器下部の水張りを行う。
c)格納容器下部の水張り後、格納容器内部調査技術の現場実証を 2016 年度末頃に終了し、本格的な内部調査を行う。
d)格納容器(上部)の補修を実施し、格納容器に更なる水張りを実施する。その後、原子炉建屋コンテナ(又はカバー改造)を設置し、閉じ込め空間を形成した上で、原子炉圧力容器の上蓋を解放する。
e)原子炉圧力容器内部調査技術の現場実証を 2019 年半ば頃に終了し、原子炉圧力容器内部調査を本格的に実施する。
f)これまで実施した格納容器、原子炉圧力容器内部調査結果等も踏まえ、燃料デブリ取り出し方法を確定することに加え、燃料デブリ収納缶開発、計量管理方策の確立が完了していること等も確認した上で、ステップ2完了から10年以内を目途に燃料デブリ取り出しを開始する。http://www.tepco.co.jp/cc/press/betu11_j/images/111221c.pdf

まず、前提において、遠隔技術等の研究開発が必要とされている。メルトダウンした核燃料がある原子炉という放射線量の高い場所での作業が要求されているのだから、それは当然である。そして、原子炉を補修し、漏洩個所をなくしてから水をはり、それから、燃料取り出し作業をするということになっている。そういうことが、現状の技術で可能なのだろうか。NHKが指摘するように、核燃料がどこにどんな形で存在しているのかということすらわかっていないのである。ある意味で、これは未知の領域なのである。そのような未知の領域に属する技術を前提にしなければ、このような工程表自体が成り立たないのである。

もちろん、こういう検討をしなくていいということはない。これ以外にも廃炉の各作業が検討されており、部分的には前倒し可能なものもあろう。しかし、少なくとも、廃炉作業における核燃料取り出し作業については、今までの技術で想定されてきた燃料取り出し装置のことのみが検討され、「前倒し」の可能性が提起されているにすぎない。そして、それさえ、従来の工程表よりも遅延する可能性も指摘されているのである。

結局のところ、この件について、さほど意味があるとは思えない「前倒し」の可能性を強調するべきではないと思われる。むしろ、社会においても、国家においても、東電においても、報道においても、未知の領域に属する技術を開発しなくてはならない廃炉作業の「困難さ」を直視することが必要とされているといえるのである。

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さて、今回も、韓国・聖公会大学日本学科教授権赫泰氏のインタビュー記事である「現代日本の『右傾化』と『平和主義』について」(京都大学新聞2013年4月16日号、5月16日号掲載)を紹介していくことにしたい。前回は、権氏の日本の平和主義批判を中心にみてきたが、今回は権氏の日本の反原発運動批判を中心にみていくことにする。

反原発運動の状況については、京都大学新聞のインタビュアーがかなり主導的に議論を引き出そうとしている。まず、インタビュアーは、このように問いかけた。

ー日本国内では震災・原発事故という全社会的な危機があった。その後、反原発運動を中心に社会運動が盛り上がってもいる。しかしそれがそれが新しいかたちでの国家主義、たんなる戦後社会礼賛になる危険性も極めて一部からであるが指摘されています(※16)。ここで指摘されている日本左派の「変質」について韓国では知られているのでしょうか。(京都大学新聞2013年5月16日号)

単に、「反原発運動をどう思いますか」と訊ねたのではない。「反原発運動における左派の変質について韓国では知られているのでしょうか」と質問したのである。そして、京都大学新聞では、わざわざ(※16)の注記で、官邸前デモは、労働組合や市民運動の団体旗の持ち込みや「脱原発以外の事柄」についてアピールが禁止されている一方で、脱原発で一致するならば右翼団体も受け入れており、日の丸の持ち込みも許容されていることを付記している。

この質問に対し、権氏は、韓国では自分しかそういうことは言っていないと述べた。そして、韓国では、自国の反原発運動を進めるために、日本の反原発運動を過大評価している傾向があるとしつつ、権氏は「韓国の反原発運動やっている連中は、日本で起っている情報を、僕に言わせればすごくウソついている」(京都大学新聞2013年5月16日号)と指摘する。

権氏は、日本の反原発運動の問題点を三つあげている。第一は、反原発運動で人が集まり、世論調査では原発反対が多数をしめるにもかかわらず、選挙では原発支持派がおおむね当選するという問題である。第二は、日本社会では「被害者(被爆者)としての選民意識」があり、それが日本の「平和主義」を根拠づけてきたとする問題である。これは、前回紹介した権氏の日本の平和主義への批判に通底しているといえる。

第三には、京都大学新聞のインタビュアーが指摘していた、「日本左派」の「変質」の問題である。権氏は、このように言っている。

 

最近反原発デモを見ていて感じるのは、それはそれとして良いのだけれど、右の人も大分入っているじゃないですか。西部邁なんかもいるし。つまりあらゆるこれまでの争点の上に、反原発が乗っかっているという。そうすると、百歩譲って反原発に成功してもね、全ての政治的争点というのは解決しないわけですよ。
 デモする社会になって反原発成し遂げても、歴史的問題、憲法問題それはどこに行くか分らなくなっちゃう。しかもエネルギーが全部そこに吸収されちゃいますので。それで僕は常に、反原発が今の観点で捉えるならば、当然そこには朝鮮高校無償化の問題なりね、そういうのも全部含めてやらなきゃなんないんだって。そこに「変な奴等」が入ってくるのなら排除しなければならないんだって言っているわけ。なんか反原発主義一本(※17)でやっていくとこれはどうなるか怖い。(京都大学新聞2013年5月16日号)

権氏は、日本の反原発運動は、シングルイッシューであるがゆえに、その他の政治的争点を無視していると述べている。本来は、朝鮮高校無償化の問題なども含めて反原発運動は取り組むベきとしている。そして、そこに「変な奴等」が入ってくるならば、排除しなくてはならないと権氏は主張している。その点からいえば、シングルイッシューであるがゆえに右翼も入っている反原発運動は「警戒対象」でしかないのである。

そして、ここで、インタビュアーは「在日特権を許さない市民の会」へのカウンターの問題を提起し、権氏は次のように答えている。

ー今のお話をお聞きして、反原発のみならず「在特会」に反対する社会運動での「左右連帯」を想起しました。この場合も、在特会が主張しているような根本の問題は解決されないどころか温存されてしまう。

 ショックだったよ。日の丸が出てきたりねえ。
 それで反原発を勝ち取ったらまだ「マシ」なんだけれども。
 そういう感じはありますね。しかもね、原発運動というのは、基本的にエコロジーですから一歩間違っちゃうと、生態主義、天皇主義とくっつく可能性がすごく高いね。ロジックとして。そもそも気をつけなくてはいけない。つまり「天皇様から譲り受けたこれだけ綺麗な国土を、西洋白人どもが持ってきた原発によって汚れちゃたまんない」という、実際そういう内容がありますから。しかも日本人共同主義みたいになっちゃって…。
 見ていてね、まあ原発無くなってくれればいいのだけれど、ただ見ていて良いのかな?という心配。であらゆる政治的争点は全部どっか吹っ飛んじゃって。(京都大学新聞2013年5月16日号)

結局、シングルイッシューの名の下に政治的争点を無視して右翼と日の丸を許容した反原発運動は、生態主義・天皇主義に結びつく可能性が高いとし、すでに日本人共同主義になっている指摘しているのである。

権氏の反原発運動についての批判を、とりあえず、権氏の論理にそって紹介してみた。まず、第一に指摘しなくてはならないのだが、権氏の反原発運動に対する情報は、かなり歪曲された形で受容されているのではなかろうかということである。例えば、官邸前抗議行動において、日の丸持ち込みが許容されているのは事実だが、日の丸だけが認められたわけではない。実際、抗議行動に出てみると、日の丸よりも数多く、赤旗、赤黒旗、ゲバラ旗、レインボーフラッグなどが掲げられているのである。主催者の首都圏反原発連合が下記のようなコードによって官邸前抗議行動における政党・組合などの旗をもってくることを歓迎しない姿勢を示しているが、そこには、前記のような旗は含まれていないのである。

(1) 原発問題と直接関連しない文言を掲示することはお控えください。下ろしていただくよう、スタッフがお願いする場合があります。「直接関連しない」とは、その文言だけを見たときに、一般に原発問題と認識されないものを言います。

(2) 市民団体その他で、団体の名称そのものが特定の政治的テーマに関する主張となっている場合も(1)に準じます。

(3) その他の団体名の旗や幟については現場で下ろしていただくことはしませんが、首都圏反原発連合はそれらの幟旗を歓迎しません。所属よりも主張を!ということを強く提案します。
http://coalitionagainstnukes.jp/?p=789

首都圏反原発連合の一員である野間易通は『金曜官邸前抗議』(2012年)の中で、「首都圏反原発連合は日の丸やこれらの旗を『特定の政治的テーマに関する旗や幟』と見なしていなかった。こうしたシンボルに関しては、特定の解釈を押し付けるべきではないと考えていた」(p172)と述べている。

といっても、このような認識は、韓国の権氏だけではない。私も時々そのような質問を受ける。直接反原発デモに行かない人たちの間で、そのような認識がひろまっているのかもしれない。京都大学新聞のインタビュアーも、そのような認識にたっているといえよう。

ただ、たぶん、このように言っても、権氏は納得しないであろう。結局、シングルイッシューで、脱原発一本で、他の政治的争点を無視して、右翼を(つまり日の丸を)受け入れること自体が問題だと答えるだろう。前回のブログで述べたように、権氏の議論は徹底的に原則主義にたつべきとするものであり、「現実主義的対応」すべてが警戒すべきものなのである。それは、慰安婦の問題でもそうであり、自衛隊・在日米軍の問題でもそうであり、この反原発運動でもそうなのである。

ある意味で、確かにすべての問題は関わっている。しかし、それぞれの社会運動はそれぞれの活動対象がある。例えば、朝鮮高校無償化を求める運動において、「反原発」に対する意見があわないといって排除することはできないだろう。それぞれの社会運動はそれぞれの活動対象をもっており、その中で戦略をたてているのだ。シングルイッシューもその戦略の一つである。最小限共有できることで、多くの人びとを運動に参加させていくということなのである。私たちは、自分たちの狭い価値観だけで生きていくことはできない。多様な人びととつながりあうことによってより豊かに生きていけるのである。

しかし、それは、それぞれの社会運動に参加する人びとがそれぞれシングルイッシューしかもっていないということではない。反原発運動に参加する人びとは、それとは別の在特会デモに対するカウンターにも参加するし、生活保護制度改悪の集会にも出席し、沖縄へのオスプレイ配備への抗議行動にも加わる。もちろん、それぞれの人により、関与の度は違うだろう。ただ、全く関心がないということはない。それぞれの個によって支えられているネットワークがあり、それを基盤にして、それぞれの社会運動が成り立っているのである。

さて、もう少し権氏の議論をみていこう。権氏は、インタビュアーの「日本社会内部においては思想の「左右」が溶け合い反戦や反差別についての実質的な対立軸が失われている、そして実質的に韓国なり中国が日本の政権に対する野党勢力の役割を果しているように感じました」という質問に対し、次のように答えている。

だから、国内の政党なりがしっかりやってくれないと、攻撃の対象が全部韓国・中国人になっちゃうわけ。日本の左翼政党がだらしないんで全部が日本人と韓国人・中国人の人種対立みたいになっちゃうわけ…「平和と民主主義」のもとでつくられた戦後日本社会の資産はどこにあるのか。最近ね、僕は日本に対する視点がこれまでずっと批判的だったんだけれど、それでも最近見ていると、僕の予想以上に速くダメになってきたんで悲しいですよ、本当に。怖いし。軍事化、民主主義の後退、生活水準の低下、日本で生活している人が不幸になることじゃないですか、結局。韓国も似たような状況になりつつあるけれど。(京都大学新聞2013年5月16日号)

こうやってみてくると、権氏は「国内の政党」「左翼政党」の復権を求めているということになる。それならば、ある意味では多くの政治的争点を運動が包含すべきだと主張している意図も理解できる。彼にとっては、多くの政治的争点に対しての態度を共有する政党を基盤とした政治運動が中心となるべきと考えているのであろう。確かに、シングルイッシューでしかない反原発運動において、多様な争点をもつ「政治」への関与が課題であることは事実なのだ。しかし、とはいっても、それこそ、自立した個によるネットワークに基づいた形で、従来の「左翼政党」とは違った形の政党が必要とされているのである。そして、その際、それぞれの社会運動、それぞれの個の自立性を認めていくこともまた課題なのであるといえよう。

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