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Posts Tagged ‘セシウム’

さて、福島第一原発汚染水問題についての政府の方針が9月3日に発表された。まず、次の毎日新聞がネット配信した記事をみておこう。

福島第1原発:政府の汚染水対策 柱は「アルプス」増設
毎日新聞 2013年09月03日 19時42分(最終更新 09月03日 20時29分)

 政府が3日決めた東京電力福島第1原発の汚染水対策の柱は、地下水が原子炉建屋に流入するのを防ぐ「凍土遮水壁」の建設と、汚染水から放射性物質を取り除く多核種除去装置「ALPS(アルプス)」の増設・改良だ。両事業に計470億円の国費を投入し、汚染水問題収拾へ「国が前面に出る」(安倍晋三首相)姿勢をアピールする。

 事業費の内訳は遮水壁320億円、除去装置150億円。今年度予算の予備費(総額約3500億円)から遮水壁に140億円、除去装置に70億円を充て、事業を前倒しで進める。

 組織体制も強化。経済産業省や原子力規制庁に加え、国土交通省や農林水産省も入る関係閣僚会議を設け、汚染水を増幅している地下水対策などに政府一丸で取り組む。また、福島第1原発近くに現地事務所を設けて国の担当者が常駐、東電や地元との連携を強める。風評被害防止を狙いに海洋での放射性物質の監視を強めるほか、在外公館を通じた国際広報体制も充実させる。
http://mainichi.jp/feature/20110311/news/20130904k0000m010040000c.html

結局、国が前面に出るといっても、「凍土遮水壁」建設と多核種除去装置(ALPS)の増設・改良に国費を投じるというだけだ。問題の汚染水貯蔵タンクの改修については、いまだ東電まかせだ。9月4日のロイターのインタビューにおいて、茂木経産相は、次のように語っている。

(前略)
ただ、8月下旬に汚染水貯蔵タンクから約300トンの高濃度汚染水の漏えいが発覚するなど、事態は予断を許さない。タンク問題について茂木経産相は「(東電の)管理態勢の問題。パトロールの強化、漏えいの検出装置の設置など5つの強化策を指示した。東電もより緊張感をもって仕事に当たってくれると思っている」などと述べ、東電側の改善を見守る考えを示した。

その上で、汚染水問題を含む福島第1の廃炉作業における東電と政府の役割分担について「国が前面に出て、廃炉の問題や汚染水問題も(対応を)加速化させていきたいと思っているが、日々のオペレーションは原発を所有している東電が責任を持つことになる」と語り、作業の主体は一義的には東電だという政府としての見解をあらためて強調した。

<「廃炉庁」は否定>

未曽有(みぞう)の原発事故から2年半が経過し、失態を重ねてきた東電に対する国内外の不信感は根深い。廃炉の作業自体を国が全面的に引き受けるべきと指摘する声も少なくない。

ただ茂木経産相は、受け皿となる「廃炉庁」のような新しい組織を作る考えについては否定した。「エネルギー政策をどうするのか、大きな視野で(検討を)やらないといけない。1つの分野に限った新しい組織を作ることで作業が加速化していくかというと、必ずしもそうではないなと思っている」と語った。

(インタビュアー:ケビン・クロリキー)
http://jp.reuters.com/article/jp_energy/idJPTYE98307920130905?pageNumber=2&virtualBrandChannel=0

結局、長期的にも、東電に日々のオペレーションをまかすということであり、東電の責任ー株主や金融機関の責任をただす姿勢はない。この国費投入もまた、破たん企業東電に対する法外な支援なのである。そして、汚染水タンクの設置・管理すらできない東電に日々のオペレーションをまかすという体制こそ、一番の問題である。

さて、政府が国費を投じて行うという凍土遮水壁の設置と多核種除去装置(ALPS)の改良・増設についてみておこう。凍土遮水壁とは、原子炉建屋への地下水の流入や、そこからの汚染地下水の流出を防ぐために、凍土による遮水壁を建屋周辺の地下に設置するというものである。この凍土遮水壁がそもそも実現可能なものか、そして実現されたとしても十分機能をはたすのか、いろいろと疑問がある。また、とりあえず、これらの疑問はおいておくとしても、その設置は年単位でかかり、急場の汚染水対策には寄与できない。ただ、今は、可能と思われることを何でもするということは必要だろうとは考えられるだろう。

他方、多核種除去装置(ALPS)の改良・増設であるが、これは、大きな問題をはらんでいる。多核種除去装置(ALPS)は、従来の除去装置がセシウムだけしか汚染水から除去できないものだったのに対し、ストロンチウムその他、多くの放射性物質を放出限界以下まで除去することができるというものである。この装置は東芝製で、すでに福島原発に設置されていたが、これすらも汚染水もれを起こして、現在は稼働できないものとなっている。多核種除去装置(ALPS)の改良・増設とは、現在ある装置の不備を修繕して、さらに、増設して、どんどん東電に汚染水処理を進めさせようということを意味する。

そして、処理済みの汚染水をどうするのか。田中俊一原子力規制委員会委員長は9月2日の日本外国特派員協会における講演で次のように語っている。ここではロイターのネット配信記事を出しておく。

原子力規制委員長、低濃度汚染水の海洋放出の必要性強調
2013年 09月 2日 16:55 JST

9月2日、原子力規制委員会の田中委員長は、福島第1原発における汚染水問題が深刻化していることについて「(東電の対応は)急場しのぎで様々な抜けがあった」と指摘。

[東京 2日 ロイター] – 原子力規制委員会の田中俊一委員長は2日、日本外国特派員協会で講演し、東京電力(9501.T: 株価, ニュース, レポート)福島第1原子力発電所における汚染水問題への対応で、放射能濃度を許容範囲以下に薄めた水を海に放出する必要性をあらためて強調した。

政府や東電よると、福島第1原発1─4号機に流入してくる地下水(推定日量1000トン)の一部が、配管や電線を通す地下の坑道にたまっている汚染源に触れ、海に日量約300トンが放出されている。また、8月19日には、汚染水を貯蔵している地上のタンクから約300トンの高濃度の汚染水が漏れていることがわかり、これが排水溝を通じて外洋に流れた可能性も否定できないとしている。

田中委員長は講演で、 汚染水の海洋への影響について「おおむね港の中で、(港湾の)外に出ると(放射性物質は)検出限界以下だ」と指摘。その上で田中氏は、「必要があれば、(放射性濃度が)基準値以下のものは海に出すことも検討しなければならないかもしれない」と述べた。

多核種除去設備(ALPS)で処理した汚染水を一定濃度に薄めて海洋に放出する必要性については、田中氏が過去の記者会見でも言及した。ただ、ALPSに通してもトリチウムは取り除けない。東電は2011年5月から今年7月までに20兆から40兆ベクレルのトリチウムが海に出たと試算している。

この数値について、田中氏は「とてつもなく大きな値に見えるが、トリチウム水としてどれくらいか計算すると最大で35グラムくらいだ」と述べ、十分に低い水準であるとの認識を示した。

一方で田中氏は、タンクからの汚染水漏れなど対応が後手に回る東電の対応について、「急場しのぎで様々な抜けがあった」と指摘。田中氏は「福島第1は今後も様々なことが起こり得る状況。リスクを予測して早めに手を打つことが大事だ」と強調した。

(浜田健太郎;編集 山川薫)
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE98103M20130902

ここでは、多核種除去装置(ALPS)で処理した低濃度汚染水(もちろん、完全には取り除けない)を、海洋に放出する必要があると田中は述べた。重要なことは、この装置では、トリチウム(三重水素)は除去できないということだ。

つまり、この国費投入による多核種除去装置(ALPS)の改良・設置は、ある意味では、海洋へのトリチウム汚染水の放流につながりかねないものなのである。まさしく、技術的においても、そのような危険性をはらんでいる。このようなことがなされれば、福島県周辺の漁業者だけでなく、日本列島すべての人の脅威となろう。さらに、海洋への汚染は、広くいえば全世界の問題ともなる。オリンピック招致への影響を懸念して、国会審議もなく、このような重大な問題が決められてしまった。しかし、このことは、これではすまないだろうと考える。

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本ブログで、カタログハウスの店・東京店において「福島さん」野菜を販売する試みを以前紹介した。

その時は、カタログハウスの店・東京店を実際に見ていなかったので、2011年10月15日に実際にいってみた。

本来は写真撮影は遠慮すべきだったのだが、結局、ブログに使うということで、写真を結果的に使えることになった(ありがとうございます)。

カタログハウスの店・東京店は、新橋駅前にある。一般的には「都心」といえるであろう。ビルの一・二階が店舗になっている。それほど大きくはない。基本的に通販であり、その一部を販売しているという感じである。食品などより、枕などの生活用品が目立つ印象がある。二階には講演会場もある。たぶん、『通販生活』のアンテナショップなのであろう。

カタログハウスの店・東京店(2011年10月15日撮影)

カタログハウスの店・東京店(2011年10月15日撮影)

「福島さんの野菜」コーナーは、1階入口付近の、かなり目立つところにあった。ここでも「ウクライナの基準合格」を強調していた。カタログハウスとしては、力を入れている企画だと感じた。

「福島さんの野菜」コーナー(2011年10月15日撮影)

「福島さんの野菜」コーナー(2011年10月15日撮影)

店舗の入り口には、このような看板がたっている。販売する野菜・果物の放射性セシウム含有値をそれぞれ示しているのだ。ほとんどが10ベクレル未満になっている。つまりは検出限界ということなのであろう。ただ、ぶどうの一部は23ベクレル・17ベクレルとやや検出されている。果物は比較的セシウムがあることが多いことは承知していたので、これも想定通りであった。もちろん、野菜は40ベクレル、果物は70ベクレルという「ウクライナの基準」以下ではある。

放射性セシウム検査値をしめす看板(2011年10月15日撮影)

放射性セシウム検査値をしめす看板(2011年10月15日撮影)

実際の売り場は、このようになっている。値札をみてほしい。ミニきゅうり280円、ピーマン210円、ニンジン220円、ナス230円…。そんなに安くはない。比較的高級食材を売ることがメインであるスーパーマーケットなみの値段といえるのである。

野菜売り場(2011年10月15日撮影)

野菜売り場(2011年10月15日撮影)

ここでの商品は、基本的に生産者特約で買い入れている。それも明示している。

生産者を明示する掲示板(2011年10月15日撮影)

生産者を明示する掲示板(2011年10月15日撮影)

そして、極め付きは、店舗内に鎮座している放射能測定器である。本体の上にかなり大きなディスプレイがあり、検査結果がわかるようになっている。出荷している福島県側でも測定しているとされている。普通は、店舗内におくようなものではない。まさに、この放射能測定器が、「安心」を強調する、最大の宣伝アイテムとなっているのである。

放射能測定器(2011年10月15日撮影)

放射能測定器(2011年10月15日撮影)

放射能測定器のディスプレイ(2011年10月15日撮影)

放射能測定器のディスプレイ(2011年10月15日撮影)

店内には、「福島さんの野菜」を推奨する有名人の看板もあった。西田敏行・田部井淳子・永六輔・山本太郎・小泉武夫・鎌田實という面々である。

「福島さんの野菜」を推奨する有名人(2011年10月15日撮影)

「福島さんの野菜」を推奨する有名人(2011年10月15日撮影)

実際に、ナス(230円)を購入してみた。1袋に3個。やはり高級スーパーなみの値段である。ただ、それぞれが大きくて、肉が多いと感じた。たぶん、特約生産者による注意深い農作業のたまものであろう。

福島県産ナス(2011年10月17日撮影)

福島県産ナス(2011年10月17日撮影)

一言でいえば、かなり頭のいいという意味での、スマートな売り方だといえる。「放射能測定器」というアイテムを使用し、さらには、現行の暫定基準よりも厳しい基準を採用することで、「安全」という付加価値をつける。一度「安全」ならば、被災地福島県産の野菜を買うという積極的な購買意欲を掘り起こすことができる。それゆえ、ある意味で、かなり高い値段で売ることが可能となるのである。

といっても、それほど、カタログハウスとしては、この「福島さんの野菜」販売で大きな利益は見込んでいないであろう。むしろ、「安全な福島県産の野菜」を売ることで、カタログハウス全体のイメージをアップさせる、いわば「広告塔」のような役割もたぶん想定していると思われる。もちろん、カタログハウスとしての「信念」でもあろうが。ある意味では、企業戦略なのであろう。ただ、それは悪い意味ではない。ソフトバンクの孫正義社長が自然エネルギー導入を推進するということは、単に信念だけでなく、イメージアップという企業戦略もからんでいるであろうが、それ自体は評価すべきことである。それと同じような意味で、カタログハウスの試みも評価すべきなのである。

といっても、このような、イメージとしては成功(採算がとれているかいないかは不明だが)している売り方は、残念ながらたぶん少数であろう。そのことは、また別個に考える必要があるといえる。

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さて、単に、検査体制や精度の問題とは別の次元で、政府や福島県の検査体制が信用できるのかということを、8月に発覚した福島県浪江町産のセシウム汚染牛肉問題を事例に考えてみよう。7月に表面化したセシウム汚染牛肉問題は、セシウム汚染問題の深刻さを日本社会全体に再認識させた「事件」であったといえる。暫定基準値の高下というレベルではなく、そもそも政府・県の放射性物質対策総体への不信を募らせた事件であった。そして、今でも、インターネット上で検索してみると、関連報道であふれかえっている。今なお進行中の事件なのである。

この問題については、一度全体を通してみてみたいと思うが、ここでは、7月から開始された福島県の肉牛出荷停止を8月に解除しようとした際に直面した浪江町産の汚染牛肉問題をみておこう。

8月18日、毎日新聞は、次のような記事をネット配信した。

福島・宮城:肉牛の出荷停止解除へ 政府、19日にも指示

 政府は18日、福島県と宮城県で飼育されている肉牛の出荷停止を両県全域で解除する方向で検討に入った。早ければ19日にも両県知事に解除を指示する。肉牛から国の暫定規制値(1キロあたり500ベクレル)を超える放射性セシウムが検出され、政府は7月19日~8月2日、福島、宮城、岩手、栃木の4県に出荷停止を指示したが、解除すれば初めてとなる。

 農林水産省と厚生労働省、福島、宮城両県は、汚染された稲わらの管理や解体後の牛の放射性物質検査の体制などを協議してきた。その結果、汚染稲わらを他の飼料と明確に区分してシートで覆ったり、地中に埋めて餌として使用できない状態であることが確認され、食肉処理後のセシウム検査で暫定規制値以下であれば、出荷を認める方向。

 政府は岩手、栃木両県についても同様の条件が整い次第、出荷停止を解除する方針。

 出荷再開の条件として、厚労省は畜産農家に保管されている汚染稲わらを農家の敷地外に移すよう求めていた。一方、農水省や福島、宮城両県は、保管場所の確保が難しいことを理由に農家の敷地内で牛と隔離した場所に置く方法を主張していた。【佐々木洋】

毎日新聞 2011年8月18日 22時19分(最終更新 8月18日 23時15分)
http://mainichi.jp/select/wadai/news/20110819k0000m040119000c.html

牛肉のセシウム汚染の原因として、宮城県などで福島第一原発事故の際、野外にあった稲わらを牛に与えたためと農水省などは判断し、その対策を講じることで、検査値が暫定基準値以内であれば出荷停止を解除するという方針を打ち出したといえる。

しかし、19日、宮城県の肉牛の出荷停止は解除されたが、福島県の出荷停止解除は延期された。8月20日に毎日新聞がネット配信した記事がその景況を伝えている。

 ◇福島汚染牛、追跡調査を強化

 一方、解除方針が一転して延期となった福島県幹部は「また福島のマイナスイメージが広がってしまった」と苦渋の色を浮かべた。

 新たに汚染が確認されたのは、浪江町の計画的避難区域から出荷された4頭分。同区域は4月22日に指定され、肉牛の出荷・避難時にはスクリーニング検査が課されたが、その前に出荷されていた。4月7、19日に食肉処理され、東京都内の食肉業者が川崎市の冷凍倉庫で保管していた。

 同市や厚生労働省によると、業者が今月自主検査し、最大で国の暫定規制値の2倍に当たる1キロ当たり1000ベクレルの放射性セシウムを検出。同省が19日に検査し、最大で同997ベクレルを検出した。

 出荷した畜産農家は、浪江町と隣接している葛尾村、田村市の畜舎で約4000頭を肥育していた。原発事故後に県外へ避難し、現在は廃業した。「汚染稲わらは与えていない」と説明しているという。福島からの肉牛出荷解除のためには、汚染原因の確認が急務で、国と県は畜舎の状況や与えられていた水や飼料の調査を始めた。冷凍保存の牛肉は2年くらい保管するケースもあるといい、追跡調査も強化する。

 福島県は解除後に備え、全頭検査する体制を整えており、「今後は問題のある牛肉は市場に出ない」(鈴木義仁農林水産部長)として理解を求めている。JA全農福島畜産部の担当者は「出荷しても価格が原発事故以前に戻らないと畜産農家の生計は成り立たない。国と東京電力には風評被害の払拭に全力を尽くしてもらいたい」と怒りをにじませた。【浅野翔太郎、種市房子、高橋克哉、倉岡一樹】

毎日新聞 2011年8月20日 東京朝刊
http://mainichi.jp/select/jiken/news/20110820ddm041040098000c.html

つまり、4月22日に計画的避難区域に指定された浪江町の農場から、それ以前に出荷された肉牛から暫定基準値のほぼ2倍の1000ベクレル程度の放射性セシウムが検出され、そのため福島県産の牛肉の出荷停止解除が延期されたのである。

この記事を読んでみると、実は暫定規制値など以前の問題で、政府・県が何の対策もとっていなかったことがわかる。高放射線値を検出し、後に計画的避難区域に指定された浪江町からの肉牛は、その時点では何も検査されずに流通していたのだ。そして、この汚染発覚も、業者の自主検査を契機にしているのである。宮城県産の稲わら汚染などより、承知しやすい汚染だったと思うのだが、その時点では何もしていなかったのである。

そして、この記事では、「汚染稲わらは与えていない」としていることに注目されたい。8月21日の毎日新聞は、次のように報じている。

セシウム汚染:浪江町の牛のふんから高濃度検出

 福島県浪江町の農場が4月に出荷した肉牛から国の暫定規制値(1キロあたり500ベクレル)を超える放射性セシウムが検出された問題で、県は21日、農場への立ち入り調査の結果を発表した。えさの干し草は残っていなかったが、牛のふんを調べたところ、同じ干し草を与えた別の農場では浪江の10分の1以下しかセシウムが検出されなかった。県は「えさの汚染による可能性は低い。大気中のセシウムが牛舎に入り込み、吸い込んだことが原因かもしれない」としている。

 この農家は計画的避難区域などに指定されている葛尾村と浪江町、田村市で計約4000頭を飼育。いずれも葛尾の農場に保管していた輸入干し草を与えていたが、規制値超えが判明しているのは浪江から出荷した牛だけ。県は各農場に残っていた乾燥したふんを分析、浪江で1キロあたり9500ベクレルと高かったのに対し、葛尾、田村は同610ベクレル、同620ベクレルにとどまった。【関雄輔】

毎日新聞 2011年8月21日 22時05分(最終更新 8月21日 22時08分)
http://mainichi.jp/select/weathernews/news/20110822k0000m040092000c.html

このように、この農家では、葛尾村に保管していた輸入干し草を、葛尾村・浪江町・田村市で飼育していた肉牛に与えていたが、暫定規制値を超えたのは浪江町で飼われていた牛だけであったという。ふんもとりわけ高いのは浪江町だけであった。この時点では干し草は残っていない。そして、福島県では、えさが原因ではなく、大気中のセシウムを牛が吸い込んだためではないかとの推測を述べている。

しかし、翌22日の産経新聞は、次のような記事をネット配信している。

側壁のない牛舎で干し草が汚染 福島県が原因公表

2011.8.22 22:38
 福島県浪江町の農場が出荷した12頭の牛の肉から暫定基準値を超える放射性セシウムが検出された問題で、同県は22日、開放型の牛舎で保管中に汚染された餌を牛に与えたのが原因とする調査結果を公表した。県は結果を国に報告し、この問題で先延ばしになった肉用牛の出荷停止解除を強く求めていく。

 福島県によると、生産者は東京電力福島第1原発事故後、避難で農場を約1週間離れる際、同県葛尾村の農場から大量の輸入干し草を運び込み、牛舎内のえさ箱や通路に置いていた。

 牛舎は側壁がなく、放射性物質を含む外気が干し草を汚染したとした。県によると、4月11日時点の周辺の放射線量は、毎時平均24.7マイクロシーベルトに達していた。

 県畜産課の大谷秀聖課長は「稲わら汚染と同じ状況に陥った。当時の国の通達は餌の屋内保管などだけだった」としている。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/110822/dst11082222400027-n1.htm

一日で、福島県は「干し草」が原因と、180度違ったことを公表したのである。すでにみてきたように、証拠としての「干し草」は残っていない。にもかかわらず、外気に触れるところで「干し草」を保管し、そこで放射性セシウムが蓄積されたためであるとしたのである。

もちろん、そのようなことが蓋然性を持たないということはない。しかし、一日で見解を覆すには根拠不十分といえるであろう。大気を通じて汚染されたと考えても不思議はない。あれほどの高放射線地域である。今、この地域に一時避難した人びとの内部被ばくが問題となっている。牛でも同じであろう。汚染されたのは「干し草」だけではない。大気も水も汚染されていたのだ。

そして、結局、「干し草による汚染」というストーリーが維持されたことで、福島県の肉牛出荷停止は解除された。朝日新聞は、8月25日にネットで次のような記事を配信した。

福島、岩手、栃木の3県、肉牛の出荷停止解除

 福島、岩手、栃木県全域の肉牛について、菅政権は25日、えさが汚染しない管理や牛の検査体制が確立したとして、出荷停止の指示を解除した。福島県の牛は、国の基準を超える放射性物質が肉から見つかり、原因がわからないため、19日の解除が見送られていた。これで牛の出荷停止地域はなくなった。

 福島県は7月19日の出荷停止から5週間あまりで解除となった。原因不明だった牛肉の汚染は、その後の調査で、壁のない牛舎に置かれていた飼料に放射性物質が降り注いで汚染した可能性が高いと判明。菅政権は、えさの管理の徹底と、放射性物質に高濃度に汚染された地域の牛は全頭検査にする福島県の計画で対応できると判断した。

 福島、岩手、栃木3県のの計画は、19日に解除された宮城県とほぼ同様だ。汚染稲わらなどをえさとして利用した農家の牛は、全頭検査で国の基準を下回れば出荷できる。それ以外の農家は、最初の出荷の際に1頭以上を検査し、基準を大幅に下回っていれば、ほかの牛は一定期間、検査なしで出荷できる。(沢伸也)
http://www.asahi.com/national/update/0825/TKY201108250374.html

農水省などは、稲わらなどのえさの対策を中心に考えていた。しかし、ここでえさ以外の要因があると、別個の対策が必要となる。そのための遅延を嫌った福島県が、強引に政治的な形で「結論」を決めたというようにおもえてならないのである。8月31日の検査ではとりあえず暫定規制値は下回ったとのことである。

このように、政府・福島県においては、単に無策というのではなく、十分検証もせず、政治的に有利ということに着目して、浪江町のセシウム汚染牛肉について強引に結論を下しているようにみえるのである。特に、福島県にとっては、選挙民であり納税者である畜産農家の要望に応えるということを重視するのはよくわかる。しかし、そのあまりに、検査結果の分析について、拙速で根拠のうすい結論を下すのは問題であろう。私自身は、福島県では放射性物質の検査・公表にそれなりに力をつくしているとは思うし、数値自体を大々的に改竄したとも思ってはいない。しかし、このような調査結果の解釈においては、より条理をつくしておかないと、信用されないであろう。いろんなことを想定しなくてはならないのではないか。「稲わら」というのもその一つだ。しかし、今や「稲わら」が唯一無二の汚染源と理解されてしまっている。それが大半であることに異議があるわけではない。他の可能性を少しでも想定しておかないと、「稲わら」と同様な見落としをするということである。

放射性物質の汚染は、稲わらや干し草に限るものではない。空気・土地・水すべてが汚染されていると考えるべきである。特に浪江町においては。そして、このことは、牛ばかりの問題ではない。むしろ、人びとの被ばくこそ、より重要な問題なのではなかろうか。その意味で、汚染は総合的に考えるべきである。しかるに、根拠薄弱に「干し草」のみを原因にし、それ以外はみないメンタリティこそが重要である。

そして、いわゆる「風評被害」も、根本的には、大地・水・空気総体に対する放射性物質の汚染に対応していないということが原因であるといえる。このブログでも、福島県の浜通りや中通りなどで、チェルノブイリ事故での自主避難区域や、放射線管理区域に相応するような汚染を示す地域がひろがっていることを指摘した。そのような地域で人びとが生活すること自体が問題となっている。そこでの食品生産が現状において問題にならないわけはないのである。耕地を除染すること、水を除染すること…そのような取り組みこそが最も必要な課題といえるであろう。

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2011年8月8日、「放射線防護プロジェクト」という民間団体が、「首都圏150ヶ所 放射能土壌調査会見」を参議院議員会館で行った。この調査については、この団体のホームページに掲載されている(http://www.radiationdefense.jp/investigation/metropolitan)。

この調査については、Facebookにおける知人のウオールへのリンクで知った。

この調査における「首都圏」とは、東京都、千葉県、埼玉県、神奈川県、茨城県の1都3県をさしている。さらに栃木県・長野県・山梨県の数値も出されている。ただ、実際にあげられているのは132箇所である。この132箇所でほぼ6月を中心に、地表から5cm(砂場は15cm)の土壌を採取し、土壌1kgあたりのヨウ素131、セシウム134、セシウム137のベクレル値を計測している。さらに、セシウムについては、セシウム134・セシウム137の合計値を記し、加えて、1㎡あたりのセシウム134・セシウム137をあわせたベクレル値も算出している。

原子力安全委員会では、土壌1kgあたりの汚染度を1㎡に換算するにあたって、1kgあたりのベクレル値に65を掛けているとのことで、この調査も、そのような方式で算出している。

「放射線防護プロジェクト」という団体については、団体のホームページを次に挙げておく。

放射線防護プロジェクトとは

福島第一原発事故についての正確な情報を共有し、放射能から未来を守るために立ち上がりました!

「世界最大規模の原子力事故」福島第一原発事故によって放射性物質が拡散し、空気、大地、河川、湖、地下水、海への汚染、食糧への汚染が広がり続けています。
情報を隠し、基準値を上げての「安全」宣言のなかで、健康被害が発生・拡大していくことを防ぐために私たちは活動を始めました。
正しい情報を発信し、放射能からこの国を守るための具体的な提案や活動をおこなうことを目的とした市民グループです。
首都圏をはじめ日本全国、さらには世界各国から、「福島第一原発事故の真実を知りたい」という思いでつながった約5000人のメンバーを有するFacebookグ ループ「福島第一原発を考えます」 http://www.facebook.com/groups/fukushimadaiichi/ が母体となっています(http://www.radiationdefense.jp/より)。

Facebookグループを母体にした団体といえるであろう。

以前、本ブログで、地表面の放射性セシウム汚染について、明確なデータがないと記した。ようやく、比較対象となるデータが得られたといえる。

また、この調査で興味深いことは、放射性セシウムのベクレル値を単純にあげるのではなくて、チェルノブイリ事故時の汚染度に応じた対応区分を挙げていることである。

この発表における、チェルノブイリ事故時の対応区分は、次のようなものである。

参考:チェルノブイリの区分

148万Bq/㎡~     (第1) 強制避難区域   直ちに強制避難、立ち入り禁止
55万Bq/㎡~     (第2) 一時移住区域   義務的移住区域
18万5千Bq/㎡~   (第3) 希望移住区域   移住の権利が認められる
3万7千Bq/㎡~    (第4) 放射線管理区域  不必要な被ばくを防止するために設けられる区域

田代ヤネス和温の『チェルノブイリの雲の下で』では、西ドイツもっとも汚染度の高いとされたミュンヘンで、1㎡あたりセシウム134が10000ベクレル、セシウム136が4200ベクレル、セシウム137が19000ベクレルであったことを思い返してみよう。ミュンヘンでは、放射性セシウム総計が23200ベクレル、セシウム137とセシウム134の合計が19000ベクレルで、約2万ベクレルである。そして3万7千ベクレル以上であると、放射線防護服が必要とされていたのである。

それを前提にして、今回の放射能土壌調査結果をみてみると、かなりひどい状況なのである。なお、先ほどのこの団体のホームページの調査結果を参照して、この項をみてほしい

まず、東京の調査箇所は56箇所(その他により汚染の激しい場所として2箇所)あげられている。この56箇所のセシウム134・セシウム137の合計値を1㎡あたりに換算すると、平均値は30032ベクレルに達している。少なくとも、ミュンヘンよりはひどいのである。

しかも、その内、希望移住区域としての第三区分に属する箇所が1箇所、江戸川区に存在する。そこでは240045Bq/㎡に達している。この地点で、この調査の詳細をみていこう。ここの調査は6月3日に行われた。調査場所は植え込みである。ヨウ素131(半減期8,04日)は不検出であった。大抵の調査地点で不検出なのであるが、中にはいまだに検出されているところがある。セシウム134(半減期2.0年)が1571Bq/kg、セシウム137(半減期30年)が2122Bq/kgを検出している。セシウム134はセシウム137と同じくらい検出されているのである。放射性セシウムというと、ほとんどセシウム137のことばかり議論され、私もそう思い込んでいたのであるが、セシウム134もほとんどの地点でセシウム137に匹敵するくらいの量が出ているのである。セシウム134とセシウム137を合計すると3693Bq/kgとなる。放射性セシウムは他にもあるが、とりあえず、この二つを合算することでその総量の近似値を出しているといえる。3693Bq/kgという値に65を掛けると、240045Bq/㎡という値となる。

そのほか、12箇所で3万7千Bq/㎡をこえている。このような箇所は、線量でいえば放射線管理区域なのであり、本来は放射線防護服が必要なのである。

もちろん、他県でもいえることだが、放射性セシウムの汚染度の高い地域ばかりではない。1000~2000Bq/㎡台のところもみられる。特に、三多摩地域は、23区地域よりも汚染度が低い傾向がみられる。しかし低いといっても、不検出でない限り、セシウム137は10~20Bq/kgはある。2009年度セシウム137の新宿区における平均値が1.5Bq/kgであり、おおまかにいえば、従来よりも約10倍は多いのである。先ほどの第三区域に達するとした江戸川区の地点では、2122Bq/kgであり……つまりは、事故以前からいえば1000倍以上になってしまったのである。

千葉県では24箇所調査されている。平均値は62359Bq/㎡であり、この平均値自体がもはや放射線管理区域の線量である。群をぬいて汚染度が著しい地点があるところが松戸市であり、希望移住区域以上の汚染度を示す地域が2箇所存在する。一番高い所では455845Bq/㎡に達している。放射線管理区域以上の汚染度のあるところも8箇所存在する。基本的に、柏・松戸・流山・八千代・佐倉・四街道などの千葉県北部に甚大な汚染度のあるところが集中している。

埼玉県の調査箇所は18箇所である。特にひどい地点が三郷市にあり、919100Bq/㎡に達している。この数値は、最早一時移住区域(55万Bq/㎡~)に属している。また、放射線管理区域なみの汚染度を示しているところも、4箇所存在している。平均値も81449Bq/㎡であり、それ自体が放射線管理区域以上となっている。

神奈川県では21箇所調査している。放射線管理区域以上の汚染度を示しているのは1箇所のみで、総体的には汚染度は低いといえる。平均値は19033Bq/㎡となる。しかし、これで、ようやく、チェルノブイリ事故の際、西ドイツ中でもっとも汚染度の高いとされたミュンヘンと同等になったといえる。

茨城県では、龍ヶ崎・取手・つくば(2箇所)・石岡・日立の6箇所が調査されている。どの箇所も放射線管理区域なみの汚染度になっており、平均値は102093Bq/㎡である。特に高い箇所が、取手にあり、219700Bq/㎡と、希望移住区域なみになっている。

この調査報告で評価できるところは、放射性物質による汚染度を、チェルノブイリ事故の対応区分に応じて示したところにある。放射線の影響については、いろいろ議論がわかれており、それが、ある意味では、事態の深刻さを認知する妨げになっている。チェルノブイリ事故の対応区分にあてはめることで、直観的に事態が理解できるであろう。

このように、チェルノブイリ事故の歴史と対照することで、今の自分たちの状況がつかめるのである。

前のブログで、千葉市のセシウム汚染の調査結果を紹介し、5万Bq/㎡以上になるのではないかという見解を紹介した。今回の調査により、より甚大な汚染度を示す地点があることが判明したといえる。

もちろん、すべての地点を調査したわけではないし、調査した箇所でも、すべてが極めて高い数値を示しているわけではないことは付言しておく。より網羅的な調査が必要なのだ。

ちなみに、文科省などが実施している航空機によるモニタリング調査では、栃木県南部(大体宇都宮以南)は1万Bq/㎡以下の地域になっている。首都圏でもモニタリング調査が実施されれば、そのような数値が出るかもしれない。しかし、公的機関がこのような調査を実施していないということが問題である。それに、調査内容が信頼されるかいなかも問題なのだ。

それにしても、より北部の福島県の状況は……。よりひどいであろう。首都圏でこの状態なら。

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