さて、増えつづける福島第一原発の汚染水処理の切り札として、ストロンチウム他多くの放射性物質を除去できる設備として、ALPS(多核種除去設備)が設置された。この設備ではトリチウムは除去できないが、その他の62種類の放射性物質は除去できるとされている。
しかし、現実はどうだったのだろうか。福島民報では、3月17日に次のように回想している。
汚染水処理期待外れ ALPS試運転1年
東京電力が福島第一原発の汚染水処理の切り札として導入した「多核種除去設備(ALPS)」は試運転開始から30日で1年を迎える。一日平均の処理量は11日現在、約180トン。相次ぐトラブルによる停止などで、一日に発生する汚染水約400トンの半分にも満たない。東電は増設で、平成26年度内にタンクに貯蔵している汚染水約34万トンの浄化完了を目指している。だが、トラブルが起きないことが前提で、計画通りに進むかどうかは不透明だ。■増え続けるタンク
東電は昨年3月30日、3系統のALPSのうち、「A」と呼ばれる1系統で試運転を開始した。同年6月中旬に「B」、同9月末に「C」と呼ばれる系統の試運転を始めた。今年2月12日には初めて3系統同時の試運転がスタートした。
ALPSの汚染水処理のイメージは【図上】の通り。一日当たりの1系統の処理能力は250トンで、3系統が稼働すれば750トンの処理が可能だ。しかし、試運転開始後にトラブルが相次ぎ、11日現在までに処理した汚染水の総量は6万2792トンにとどまる。一日当たりの処理量に換算すると平均約180トンで、一日に発生する汚染水約400トンの半分にも達していないのが現状だ。
高濃度の汚染水を保管する地上タンクは増え続けており、16日現在、約1100基、貯蔵量は約34万トンに上る。東電は平成26年度内に全てのタンクの汚染水を浄化させる目標を掲げている。だが、目標達成には一日当たりの処理能力を1960トンまで上げる必要があり、処理能力の向上が急務だ。■増設頼み
東電は4月以降、試運転から本格運転に切り替え、3系統を常時稼働させる。10月に3系統を増設する。さらに政府は同時期に一日当たり500トンの処理能力を持つ高性能ALPS1系統を整備する。
現在の処理態勢と10月以降の見通しは【図下】の通り。東電のALPS6系統と、政府が新設する高性能ALPS一系統がフル稼働すれば、最大で一日2000トンの汚染水を処理できると見込んでいる。
ただ、あくまでもトラブルによる停止がないことが前提だ。ALPSでは、試運転開始から作業員のミスなどが原因での停止が相次いでいる。特に、昨年9月下旬には作業員がタンク内部に作業で使用したゴム製シートを置き忘れる人為ミスも起きている。増設後、順調に汚染水処理を進めるには、作業員のミスが原因のトラブルを防ぐ対策が不可欠だ。( 2014/03/17 08:36 カテゴリー:主要 )
http://www.minpo.jp/news/detail/2014031714538
要約すると、このようにいえるだろう。現在、ALPSは3系統あり、その処理能力の合計は1日あたり750トンあることになっている。汚染水は1日あたり400トン発生しており、それらタンクに貯められた汚染水は34万トンに上っている。東電は2014年度中にすべての汚染水を処理する計画をたてており、そのために、現状のALPSを増設して1日1500トンの処理能力をもたせるとともに、国が1日あたり500トンの処理能力を有する高性能ALPSを設置し、総計1日約2000トンの汚染水処理を行おうとしているのである。
しかし、現実には、ALPSのトラブルによる停止が相次ぎ、結局1日あたり180トンしか処理できていないのが現状である。ALPSを増設しても、実際にはどれほどの汚染水処理ができるのだろうか。
皮肉なことに、このネット記事が配信された翌日の18日、トラブルによるALPSの運転停止が発表された。朝日新聞がネット配信した次の記事をみておこう。
福島第一のALPSまた停止 一部で浄化能力失う不具合
2014年3月19日01時10分東京電力は18日、福島第一原発で発生する汚染水から放射性物質を取り除く多核種除去設備「ALPS(アルプス)」で、試運転中の3系統のうち1系統で処理ができなくなっていたと発表した。汚染水が十分浄化されないままタンクに移されたことを確認した。
ALPSは、汚染水から62種類の放射性物質を取り除くとされる装置。東電によると、ストロンチウムなどベータ線を出す放射性物質全体の濃度を10万分の1程度まで下げる能力がある。だが17日に3系統あるうちの「B」と呼ぶ系統の処理後の水を調べたところ1リットルあたり1千万ベクレル程度残っていた。14日には異常はなかったという。
東電はB系統で処理ができなくなったと判断。三つの系統で処理された水は一つに集めて貯蔵タンクに移すため、装置全体を止めた。東電はB系統の異常がいつから起きたのか調べているが、浄化されなかった汚染水が貯蔵タンクに移された可能性がある。
ALPSは昨年3月に試運転を始めたが、装置内で汚染水が漏れるなどのトラブルが相次ぎ、この1カ月間にも電気系統の不具合が2度発生。その度に一部の系統で処理を止めている。
http://www.asahi.com/articles/ASG3L5JM3G3LULBJ00P.html?iref=comtop_list_nat_n01
これは、単に停止というだけでなく、ALPSの除去能力が一部稼働せず、汚染水が未処理のまま、タンクに移されたことを意味する。しかも、この記事にあるように、それ以前の1カ月間に2度も停止しているのである。
そして、24日にようやく、故障が特定され、一部の運転が再開された。朝日新聞の次のネット配信記事をみてみよう。
福島第一のALPS故障、原因はフィルター 運転を再開
2014年3月24日17時42分東京電力福島第一原発で汚染水を処理する多核種除去設備ALPS(アルプス)が故障した問題で、東電は24日、3系統あるうち1系統のフィルターが働かず、放射性物質を含む泥が取れていなかったと発表した。残り2系統は問題ないとして同日午後、運転を再開した。
ALPSは、高濃度の汚染水からストロンチウムなど62種類の放射性物質を取り除くとされる設備。前処理として、薬品を入れて吸着を妨げる物質を泥状にしてフィルターでこし取った後、吸着材で放射性物質を取り除く仕組み。東電によると、フィルターが機能せず、泥がそのまま吸着材に流れ込んでいたという。
その結果、処理できなかった汚染水がタンク21基に送られた。タンクの汚染を調べたところ、このうち9基分で6300トン分が汚染されたという。
このほか、ALPSとタンクをつなぐ配管も汚染された。このため、東電は運転再開した2系統で処理した水を配管などに流し、汚染を洗い流せるかどうか調べる。配管を通した水は、汚染された9基のタンクにためるという。
http://www.asahi.com/articles/ASG3S4RGLG3SULBJ00J.html
しかし、トラブルの原因が特定されたからよかった、というものではない。共同通信は、24日のネット配信記事で、次のように指摘している。
試運転中の東京電力福島第1原発の汚染水処理設備「多核種除去設備(ALPS)」が、汚染水から放射性物質を取り除けないトラブルで停止、東電が目指す4月中の本格運転は厳しい状況になった。敷地内の地上タンクにたまり続ける汚染水の浄化を来年3月までに完了するとの目標達成も一層困難になってきた。
ALPSはトリチウム以外の62種類の放射性物質を除去でき、汚染水対策の切り札とされる。18日に発覚したトラブルでは、3系統のうち1系統の出口で17日に採取した水から、ベータ線を出す放射性物質が1リットル当たり最高1400万ベクレル検出。本来なら、数億ベクレル程度の汚染水が数百ベクレル程度まで浄化されるはずだった。
(中略)
敷地内の汚染水を来年3月までに浄化するとの目標は、昨年9月に安倍晋三首相が第1原発を視察した際に、東電の 広瀬直己 (ひろせ・なおみ) 社長が表明した。達成には汚染水を1日当たり1960トン処理しなければならない計算で、ハードルは極めて高い。
(中略)
尾野昌之 (おの・まさゆき) 原子力・立地本部長代理は「改善点を新しい設備に反映させる。今回の件が、ただちに計画に影響を与えるとは思わない」とする。だが今回のトラブルの原因究明や、設備の洗浄などにかかる時間は不明で、本格運転の見通しは立たない。
3設備を合わせても処理量は1日約2千トンで、1960トンを維持するには綱渡りが続く。いったん今回のようなトラブルが起きれば、計画は破綻しかねない。
(共同通信)
2014/03/24 13:57
http://www.47news.jp/47topics/e/251668.php
つまり、現状のALPSの本格運転自体が難しいのである。2014年度中に汚染水処理を完了するというのは、東京オリンピック誘致時に東電が表明した方針であった。つまりは、安倍首相の「アンダーコントロール」というのは、2014年度末にすら達成は困難であるということなのである。
ALPSは、そもそもトリチウムを除去できないという構造的欠陥をもっている。しかし、それにしても、トラブル続きで、まともに汚染水処理をこなすことができないという現状は、いったい何なのだろうか。このALPSの惨状には、もんじゅや六カ所村再処理工場と同じようなにおいを感じる。軽水炉本体のようなマニュアルのあるものはそれなりに作れるといえるのだが、独自技術をうまく実用化することができない。そして、日々トラブルにみまわれた結果の反省というものを見いだすことができない。福島第一原発事故自体に反省がないのである。そして、有益かどうかわからない技術に多額の資金が費やされ、さらに作業員も被ばくせざるをえなくなっている。そして、このような惨状を放置したまま、文字通りの「机上の計算」にもとづき、トップダウンで汚染水処理計画が設定され、その計画に基づいて、東京オリンピック招致が正当化されているのである。