もう、先月のことになるが、2015年5月27日、東京電力は、福島第一原発の汚染水処理が「完了」したと発表した。日本経済新聞のネット配信記事をみてほしい。
福島第1の汚染水処理、東電「完了」 除去し切れず道半ば
2015/5/27 23:56東京電力は27日、福島第1原子力発電所のタンクにたまった高濃度汚染水の処理を「完了」したと発表した。当初の目標時期より2カ月遅れ、累積処理量は約62万トンに達する。もっとも、このうち18万トンは放射性物質を除去し切れておらず、再処理が必要。浄化作業は道半ばだ。
福島第1原発では事故を起こした1~3号機の原子炉に冷却用の水を注いでいる。核燃料などに触れた水は放射性物質を含む汚染水となり、さらに建屋に流れ込む地下水と混じる。東電はこれを敷地内のタンクに移し、浄化装置「ALPS」などで処理してきた。
東電の広瀬直己社長は2013年に安倍晋三首相に対し「14年度中に浄化を完了する」と約束した。しかしALPSのトラブルが頻発し、達成を断念していた。
2カ月遅れながら浄化を完了したと東電が発表したのは、あと数カ月かかり夏以降になるとみられていた海水成分の多い汚染水の処理が、想定より前倒しできたためだ。この結果、漏洩による環境汚染や被曝(ひばく)のリスクも下がった。
ただ作業がこれで終わるわけではない。東電によると、処理した62万トンのうち放射性物質の大半を取り除けるALPSで浄化したものは44万トン。当初はALPSですべて処理する考えだったが実現しなかった。残る18万トンは「主成分」といえるセシウムとストロンチウムを重点的に処理した水で、ほかの放射性物質は除去し切れていない。
東電は改めてALPSで処理する方針だが、達成時期は未定。ALPSで処理した水もトリチウムという放射性物質は除去できずに残る。この水の扱いは決まっておらず当面は保管を続ける。
地下水対策も不十分だ。1日約300トンが建屋に流れ込んでおり、浄化作業は続く。流入を止めない限り汚染水が新たに発生する。建屋の周囲の土壌を凍らせて壁を築く「凍土壁」を造成中だが、完成のめどはついておらず、汚染水問題の最終的な解決はなお遠い。
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG27HAA_X20C15A5CR8000/
これを読んでいても、何がどういう意味で「完了」したのかがわからない。原子炉建屋への地下水流入は止まっておらず、日々汚染水は発生しているのである。それに、処理したといっても、一部にはセシウムとストロンチウムしか除去できなかった汚染水が残り、ALPSで再処理する必要がある。なにより、すべての汚染水処理で、放射性物質のトリチウムが除去できないでいるのだ。ある程度、高濃度汚染水における放射能汚染を緩和したという程度である。
そして、この汚染水処理におけるトリチウムの問題が課題となっている。本日6月23日にネット配信された福島民報の記事をみてほしい。
トリチウム処分足踏み 第一原発汚染水 政府、来年度に検討会新設
東京電力福島第一原発で、多核種除去設備(ALPS)を使っても汚染水から取り除けない放射性トリチウムを含む水の処分方法をめぐる動きが足踏みしている。政府は来年度前半にも有識者や県内の漁業関係者らからなる検討会を新設し、最善の処分方法を決める方針を固めた。しかし、大量のトリチウム水を処分する技術は依然として確立されておらず、漁業関係者らも「陸上保管が前提」と慎重姿勢で、課題解決の糸口は見えない。■議論本格化
検討会は経産省の作業部会が絞り込んだ5つの処分方法について適切かどうか議論し、採用する方法を決める。検討会の構成員など概要は今後詰めるが、地元の意向をくみ上げる観点から、周辺自治体や漁業関係者らもメンバーに加える案が浮上している。
経産省の作業部会は「採用方法について結論を出す場ではない」(同省)との位置付けで、検討会が作業部会の成果を引き継ぐことになる。同省の担当者は「国民の理解を得るため、拙速にならないように進めたい」と話している。
ただ、作業部会は現在、それぞれの処分方法について実証試験を実施しているが、有効性が認められるとは限らないのが現状だという。■慎重姿勢
漁業関係者をはじめ地元関係者は風評などを懸念し、海洋放出など陸上保管以外の処分方法には慎重な姿勢を崩していない。
県漁連の野崎哲会長は「ALPS処理水は現時点では陸上保管が前提。政府がどういう提案をしてくるかを注視している段階だが、いずれにしても風評を招かないように丁寧な説明を求める」としている。
県原子力安全対策課の菅野信志課長は「県としては安易な海洋放出は認めない。どの選択肢を選ぶにしてもしっかりと議論した上で県民の理解を得てほしい」と注文した。
■保管のリスク東電によると、福島第一原発構内には18日現在、ALPSで処理したトリチウム水約45万7500トンが地上タンク約330基に貯蔵されている。これらの水は日々増加しており、トリチウムを処分できないと地上タンクを造り続けなくてはならない。
タンクのうち、板状の鋼材をボルトでつなぎ合わせたフランジ型タンクの耐久期間は5年とされている。継ぎ目のない溶接型タンクへの切り替えを急ぎながらタンクの増設も進めている。汚染水対策に取り組む作業現場で大きな負担となっている。タンクの設置場所にも限界があり、原子力規制委員会の田中俊一委員長(福島市出身)は「トリチウム水を海洋放出すべき」と指摘する。( 2015/06/23 09:45 カテゴリー:主要 )
http://www.minpo.jp/news/detail/2015062323598
これもわかりにくい記事である。まず、一番最後に出ているのだが、専門家である原子力規制委員会委員長田中俊一は「トリチウム未処理水」を海洋放出せよと主張している。記憶によれば、田中は前々からそのように主張していた。しかし、福島県の漁業関係者は風評被害などを懸念し、トリチウム未処理の「完了汚染処理水」(これ自体が名義矛盾だが)は陸上で保管せよと主張し、とりあえず現段階で福島県庁も同様の姿勢をとっている。
経産省としては、トリチウム処理について作業部会を設置し、5つほど処分方法を検討しているが、どれもまだ有効性が実証できないということである。有効な処分方法があれば、専門家である田中俊一委員長も、トリチウム処理を推奨するはずであり、トリチウム処理についての方法論は確立していないということになろう。
しかし、経産省は、作業部会の成果を引き継ぐ形で検討会を設置するというのだ。この記事では「検討会は経産省の作業部会が絞り込んだ5つの処分方法について適切かどうか議論し、採用する方法を決める。検討会の構成員など概要は今後詰めるが、地元の意向をくみ上げる観点から、周辺自治体や漁業関係者らもメンバーに加える案が浮上している」としている。専門家である原子力規制委員会でもトリチウム処理の方法論はわからないというのに、非専門家である漁業関係者や周辺自治体をメンバーに加えても、トリチウム処理の方法論が判断できるとは思えない。
思うに、トリチウム未処理水の海洋放出を地元に飲ませるための布石として位置づけられているのではなかろうか。「完了」などしていないのにもかかわらず、「汚染水処理」は「完了」したという擬制のもと、新たな放射能汚染を心配しなくてはならないのだ。