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Posts Tagged ‘凍土遮水壁’

さて、安倍晋三首相の衆院選の第一声で、福島にいながら全く言及しなかった、福島第一原発の現状はどうなっているのだろう。実は11月に重大な発表があった。このブログでも触れたが、東電は、原子炉と海側トレンチ(地下道)の間の水の流れを遮断するため、トレンチとタービン建屋の接続部を凍らせて止水しようとしていた。止水が完了すればトレンチの中の汚染水を汲み上げ、それを前提に凍土遮水壁を設置し、原子炉から地下水を通じて海に流出する汚染水の流れを食い止めようというのである。しかし、その止水は難航した。十分凍らない上に、追加投入した止水材も効力を発揮しないのである。結局、11月21日の原子力規制委員会の会合で、東電は止水を断念し、新たな工法をとることを提案した。下記の共同通信のネット配信記事をみてほしい。

福島第1原発の現状】(2014年11月24日) 汚染水流出、新たな懸念 「氷の壁」止められず

 東京電力は、福島第1原発2号機の海側トレンチ(電源ケーブルなどが通る地下道)で、タービン建屋との接続部に設けた「氷の壁」や、追加投入した止水材でも水の流れが止まらなかったと明らかにした。 完全な止水を断念し 今後は、トレンチ内の汚染水を徐々にくみ上げながらセメントで埋める対策に移るが、汚染水の流出や残留など新たな懸念が生じている。
 2号機のトレンチには、2011年の事故直後から約5千トンの高濃度汚染水がたまっている。当初はトレンチと建屋の接続部を「氷の壁」で凍らせて水を止めた上で、トレンチ側の汚染水を全て抜き取り、トンネル部分を埋める計画だった。
 だが、4月の凍結開始後も壁は十分に凍らず、7月からは氷やドライアイスを投入。10月からはコンクリートなどの止水材で隙間を埋めることを試みていた。
 11月21日に開かれた原子力規制委員会の会合で、東電は止水材を入れた後も水の流れが完全に止まっていないと説明。当初の計画を断念し、汚染水を少しずつ抜き取りながら、特殊なセメントを段階的に投入して埋める新たな方法を提案し、規制委も了承した。
 ただ会合では、セメントによる穴埋めが十分にできないと、水の通り道が残り、建屋からトレンチへの汚染水の流出が続いてしまうとの懸念も相次いだ。
 また最近の調査で、トレンチの底に津波で運ばれた砂がたまっていることも新たに判明。投入されたセメントが砂の上で固まると、砂が汚染水を含んだまま閉じ込められ、汚染水が残ってしまう可能性が高いことも明らかになった。
 2号機のトレンチでは近く新たな対策が始まるが、約6千トンの汚染水がある3号機トレンチは手付かずの状態。トレンチを埋めないと、汚染水抑制の抜本対策とされる「凍土遮水壁」の工事も進められず、目標とする来年3月末の凍結開始に間に合うか、不透明だ。
(共同通信)
2014/11/24 13:33
http://www.47news.jp/47topics/e/259645.php

まあ、簡単にいえば、トレンチ(地下道)全体を特殊なセメントで埋め立ててしまおうということなのである。しかし、そもそも、接続部の止水すらできないのに、そういうことが可能なのだろうか。共同通信もこの記事の中で「セメントによる穴埋めが十分にできないと、水の通り道が残り、建屋からトレンチへの汚染水の流出が続いてしまうとの」懸念の声があったことを伝えている。そして、セメントを流し込めば、そこに汚染水が閉じ込められ、汚染が残ってしまう可能性も指摘されている。

毎日新聞が11月21日にネット配信した記事によると「一方、トンネル部分は約60メートルあり、東電は「これだけ長距離を埋めた経験はない。慎重に進める」と説明した」とのことであり、そのような大きな空間全体をセメントで埋めて、水の通り道となる空隙ができないという保証はないのではなかろうか。そして、この水の通り道を塞がないと、トレンチ内の汚染水を汲み上げても、原子炉から汚染水が再び流入してくるだけで、意味はないのである。しかし、結局、原子力規制委員会は工法を認め、今、この工事が進められている。

とにかく、なんとかして、トレンチ内の汚染水を汲み上げなくてはならないということは理解できる。もしかすると、多少は事態が改善するのかもしれない。しかし、まずはタービン建屋とトレンチの接続部を凍結させて止水しようとし、それが失敗して止水材を投入し、それもまた失敗してトレンチ全体をセメントで埋め立てるという方策を、それこそ矢継ぎ早に実施しているのである。それぞれの方策にあった問題点を反省する時間があったようにも思えない。来年3月の凍土遮水壁の運用開始に間に合わせることしか念頭にないように思われる。

衆院選の第一声で、安倍首相は、次のように述べている。

復興を加速化させていくために、例えば常磐道、私たちは来年のゴールデンウイーク、この常磐道を使ってたくさんの観光客がこの地にやってくるように、ゴールデンウイークまでに全線を開通する、そうお約束をしました。さらに私はハッパを掛けました。そして、2カ月間、思い切ってさらに前倒しをします。3月の1日に常磐道全線が皆さん、開通するんです。
http://thepage.jp/detail/20141202-00000013-wordleaf?page=3

ハッパをかければ、あるいは常磐道開通などは早めることができるかもしれない。しかし、汚染水処理一つとっても、未知のことばかりである福島第一原発対策がスケジュール通りにうまくいくとは限らない。そして、それぞれの失敗点を反省することも必要であろう。福島第一原発事故は、少なくとも日本で同様の事故はなかったのである。これまでにない事態に直面しているのであり、そのことに恐れ戦きつつも、なんとか対策をとっていかねばならないのだ。理性的に思考することも必要なはずである。しかし、そういうことも考慮されないまま、東電や政権の都合に合せようとして、福島第一原発事故対策は進められているといえよう。

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さて、福島第一原発汚染水問題についての政府の方針が9月3日に発表された。まず、次の毎日新聞がネット配信した記事をみておこう。

福島第1原発:政府の汚染水対策 柱は「アルプス」増設
毎日新聞 2013年09月03日 19時42分(最終更新 09月03日 20時29分)

 政府が3日決めた東京電力福島第1原発の汚染水対策の柱は、地下水が原子炉建屋に流入するのを防ぐ「凍土遮水壁」の建設と、汚染水から放射性物質を取り除く多核種除去装置「ALPS(アルプス)」の増設・改良だ。両事業に計470億円の国費を投入し、汚染水問題収拾へ「国が前面に出る」(安倍晋三首相)姿勢をアピールする。

 事業費の内訳は遮水壁320億円、除去装置150億円。今年度予算の予備費(総額約3500億円)から遮水壁に140億円、除去装置に70億円を充て、事業を前倒しで進める。

 組織体制も強化。経済産業省や原子力規制庁に加え、国土交通省や農林水産省も入る関係閣僚会議を設け、汚染水を増幅している地下水対策などに政府一丸で取り組む。また、福島第1原発近くに現地事務所を設けて国の担当者が常駐、東電や地元との連携を強める。風評被害防止を狙いに海洋での放射性物質の監視を強めるほか、在外公館を通じた国際広報体制も充実させる。
http://mainichi.jp/feature/20110311/news/20130904k0000m010040000c.html

結局、国が前面に出るといっても、「凍土遮水壁」建設と多核種除去装置(ALPS)の増設・改良に国費を投じるというだけだ。問題の汚染水貯蔵タンクの改修については、いまだ東電まかせだ。9月4日のロイターのインタビューにおいて、茂木経産相は、次のように語っている。

(前略)
ただ、8月下旬に汚染水貯蔵タンクから約300トンの高濃度汚染水の漏えいが発覚するなど、事態は予断を許さない。タンク問題について茂木経産相は「(東電の)管理態勢の問題。パトロールの強化、漏えいの検出装置の設置など5つの強化策を指示した。東電もより緊張感をもって仕事に当たってくれると思っている」などと述べ、東電側の改善を見守る考えを示した。

その上で、汚染水問題を含む福島第1の廃炉作業における東電と政府の役割分担について「国が前面に出て、廃炉の問題や汚染水問題も(対応を)加速化させていきたいと思っているが、日々のオペレーションは原発を所有している東電が責任を持つことになる」と語り、作業の主体は一義的には東電だという政府としての見解をあらためて強調した。

<「廃炉庁」は否定>

未曽有(みぞう)の原発事故から2年半が経過し、失態を重ねてきた東電に対する国内外の不信感は根深い。廃炉の作業自体を国が全面的に引き受けるべきと指摘する声も少なくない。

ただ茂木経産相は、受け皿となる「廃炉庁」のような新しい組織を作る考えについては否定した。「エネルギー政策をどうするのか、大きな視野で(検討を)やらないといけない。1つの分野に限った新しい組織を作ることで作業が加速化していくかというと、必ずしもそうではないなと思っている」と語った。

(インタビュアー:ケビン・クロリキー)
http://jp.reuters.com/article/jp_energy/idJPTYE98307920130905?pageNumber=2&virtualBrandChannel=0

結局、長期的にも、東電に日々のオペレーションをまかすということであり、東電の責任ー株主や金融機関の責任をただす姿勢はない。この国費投入もまた、破たん企業東電に対する法外な支援なのである。そして、汚染水タンクの設置・管理すらできない東電に日々のオペレーションをまかすという体制こそ、一番の問題である。

さて、政府が国費を投じて行うという凍土遮水壁の設置と多核種除去装置(ALPS)の改良・増設についてみておこう。凍土遮水壁とは、原子炉建屋への地下水の流入や、そこからの汚染地下水の流出を防ぐために、凍土による遮水壁を建屋周辺の地下に設置するというものである。この凍土遮水壁がそもそも実現可能なものか、そして実現されたとしても十分機能をはたすのか、いろいろと疑問がある。また、とりあえず、これらの疑問はおいておくとしても、その設置は年単位でかかり、急場の汚染水対策には寄与できない。ただ、今は、可能と思われることを何でもするということは必要だろうとは考えられるだろう。

他方、多核種除去装置(ALPS)の改良・増設であるが、これは、大きな問題をはらんでいる。多核種除去装置(ALPS)は、従来の除去装置がセシウムだけしか汚染水から除去できないものだったのに対し、ストロンチウムその他、多くの放射性物質を放出限界以下まで除去することができるというものである。この装置は東芝製で、すでに福島原発に設置されていたが、これすらも汚染水もれを起こして、現在は稼働できないものとなっている。多核種除去装置(ALPS)の改良・増設とは、現在ある装置の不備を修繕して、さらに、増設して、どんどん東電に汚染水処理を進めさせようということを意味する。

そして、処理済みの汚染水をどうするのか。田中俊一原子力規制委員会委員長は9月2日の日本外国特派員協会における講演で次のように語っている。ここではロイターのネット配信記事を出しておく。

原子力規制委員長、低濃度汚染水の海洋放出の必要性強調
2013年 09月 2日 16:55 JST

9月2日、原子力規制委員会の田中委員長は、福島第1原発における汚染水問題が深刻化していることについて「(東電の対応は)急場しのぎで様々な抜けがあった」と指摘。

[東京 2日 ロイター] – 原子力規制委員会の田中俊一委員長は2日、日本外国特派員協会で講演し、東京電力(9501.T: 株価, ニュース, レポート)福島第1原子力発電所における汚染水問題への対応で、放射能濃度を許容範囲以下に薄めた水を海に放出する必要性をあらためて強調した。

政府や東電よると、福島第1原発1─4号機に流入してくる地下水(推定日量1000トン)の一部が、配管や電線を通す地下の坑道にたまっている汚染源に触れ、海に日量約300トンが放出されている。また、8月19日には、汚染水を貯蔵している地上のタンクから約300トンの高濃度の汚染水が漏れていることがわかり、これが排水溝を通じて外洋に流れた可能性も否定できないとしている。

田中委員長は講演で、 汚染水の海洋への影響について「おおむね港の中で、(港湾の)外に出ると(放射性物質は)検出限界以下だ」と指摘。その上で田中氏は、「必要があれば、(放射性濃度が)基準値以下のものは海に出すことも検討しなければならないかもしれない」と述べた。

多核種除去設備(ALPS)で処理した汚染水を一定濃度に薄めて海洋に放出する必要性については、田中氏が過去の記者会見でも言及した。ただ、ALPSに通してもトリチウムは取り除けない。東電は2011年5月から今年7月までに20兆から40兆ベクレルのトリチウムが海に出たと試算している。

この数値について、田中氏は「とてつもなく大きな値に見えるが、トリチウム水としてどれくらいか計算すると最大で35グラムくらいだ」と述べ、十分に低い水準であるとの認識を示した。

一方で田中氏は、タンクからの汚染水漏れなど対応が後手に回る東電の対応について、「急場しのぎで様々な抜けがあった」と指摘。田中氏は「福島第1は今後も様々なことが起こり得る状況。リスクを予測して早めに手を打つことが大事だ」と強調した。

(浜田健太郎;編集 山川薫)
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE98103M20130902

ここでは、多核種除去装置(ALPS)で処理した低濃度汚染水(もちろん、完全には取り除けない)を、海洋に放出する必要があると田中は述べた。重要なことは、この装置では、トリチウム(三重水素)は除去できないということだ。

つまり、この国費投入による多核種除去装置(ALPS)の改良・設置は、ある意味では、海洋へのトリチウム汚染水の放流につながりかねないものなのである。まさしく、技術的においても、そのような危険性をはらんでいる。このようなことがなされれば、福島県周辺の漁業者だけでなく、日本列島すべての人の脅威となろう。さらに、海洋への汚染は、広くいえば全世界の問題ともなる。オリンピック招致への影響を懸念して、国会審議もなく、このような重大な問題が決められてしまった。しかし、このことは、これではすまないだろうと考える。

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