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Posts Tagged ‘甲状腺’

日本のマスコミは、世界各国で日本人が活躍していることを探し出し、称揚することにやっきになっているようにみえる。オリンピック、サッカーW杯、スポーツ選手、ノーベル賞受賞候補者、アメリカアカデミー賞ノミネートなど、枚挙に暇がない。そんな中、世界各国で上映され、評価も得ているのに、日本国内ではまったく報道も上映もされなかったアニメがある。3.11以後の福島の状況を描いたアニメ「Abita」である。あまり長いものではないので、まずはみてほしい。

このアニメは、次のことをテーマにしている。題名の「Abita」はラテン語で暮らしとか生命とかを意味するそうである(なお、
後で 辞書にて確認してみたところ、「abita」は、イタリア語動詞の「abitare」の直説法現在三人称単数であるようである。「住む」「暮らす」「棲息する」という意味であった。また、日本語の「(放射能を)浴びた」とかけているのではないかと友人から指摘があった)。

福島の子供たちが、放射能のため外で遊ぶことができない。
彼らの夢と現実について。

内容は、テーマそのものである。水墨画のタッチで描かれた画面のなかで、家に籠もっている少女はお絵描きをしながら福島の山林を飛び回ることを夢見ている。しかし、一歩外に出てみると、福島の山林は放射性物質で汚染されており、少女は飛び回ることはできず、防護服を着用した大人に連れ戻され、マスクを強制される「現実」があった。

この作品は、Shoko Haraという在独日本人学生がPaul Brennerという学生とともに、バーデン=ヴュルテンベルク・デュアルシステム大学レーヴェンスブルグ校の卒業作品として制作したものである。海外では、次の二つの賞を受けた。

Best Animated Film, International Uranium Filmfestival, Rio de Janeiro, 2013
Special Mention, Back-up Filmfestival, Weimar, 2013

上記のうち、国際ウラニウムフィルムフェスティバルは、核問題を焦点にしたものであるといえる。バックアップ・フィルムフェスティバルは、ドイツのバウハウス大学が主催するものである。

このアニメは、世界各地で上映された。下記は、上映リストである。

Screenings:
International Festival of Animated Film ITFS 2013, BW-Rolle
Japanese Symposium, Bonn, 2013
Nippon Connection, 2013
International Uranium Filmfestival, Rio de Janeiro, 2013
International Uranium Filmfestival, Munich, 2013
International Uranium Filmfestival, New Mexico, 2013
International Uranium Filmfestival, Arizona, 2013
International Uranium Filmfestival, Washington DC, 2013
International Uranium Filmfestival, New York City, 2013
Back-up Filmfestival, Weimar, 2013
Mediafestival, Tübingen, 2013
zwergWERK – Oldenburg Short Film Days, 2013
Konstanzer Filmfestspiele, 2013
Green Citizen’s Action Alliance GCAA, Taipei, Taiwan, 2013
Stuttgart Night, Cinema, 2013
Yerevan, Armenien, ReAnimania, 2013
Minshar for Art, The Israel Animation College, Tel Aviv, Israel, 2013
IAD, Warschau, Gdansk, Wroclaw/Polen, 2013
IAD (BW-Rolle, Best of IC, Best of TFK) Sofia, Bulgarien, 2013
05. November 2013: Stuttgart Stadtbibliothek (BW-Rolle) , 2013
PISAF Puchon, Southkorea, (BW-Rolle, Best of IC, Best of TFK) , 2013
Freiburg, Trickfilm-Abend im Kommunalen Kino (BW-Rolle), Freiburg, 2013
Zimbabwe, ZIMFAIA (BW-Rolle, Best of IC, Best of TFK), Zimbabwe, 2013

Upcoming Screenings:
18. Dezember 2013: Böblingen – Kunstverein Böblingen (BW-Rolle)
21.-22. Dezember 2013: Schorndorf – Kino Kleine Fluchten (BW-Rolle, Best of IC, Best of TFK)
27. August 2014: Künzelsau – Galerie am Kocher (BW-Rolle)
Movie Night for the anniversary of the Fukushima desaster,Zurich, 2014

このリストでは、ドイツの地名が多い。アメリカのワシントンやニューヨークなどでも、国際ウラニウムフィルムフェスティバルが開催された関係で上映されている。アルメニア・ポーランド・イスラエル・ジンバブエも上映地である。台湾や韓国でも上映されている。しかし、日本では一回も上映されていないのである(Japanese Symposium, Bonn, 2013はボンで開催されており、Nippon Connection, 2013は、フランクフルトで開催されたドイツの日本映画祭である)。

通常であれば、「日本人学生の快挙!」などといって報道しているだろう。しかし、このアニメに関しては、報道もされていないし、映画祭などに招待して上映することもなかったのである。そして、このアニメに関する限り、日本の人びとよりも、ドイツ・アメリカ・韓国・台湾の人びとのほうがより認識するようになったといえる。

背景には、原発再稼働をねらう政財界の動向があるだろう。ただ、それ以上に、3.11はなかったことにしたいという一般的な意識があるといえる。アニメであるがゆえに直接的な表現ではないが、3.11直後、福島だけでなく、放射性物質が拡散されたとされる東北・関東地方において、子どもたちが外で遊ぶことは避けられていた。その後、「復興」の名の下に、放射性物質の影響はないものとされ、福島において、今度はマスクを着用することが避けられるようになった。そして、福島第一原発事故は克服されるべき課題というよりも、日本の弱さをさらけだす直視しがたいものとして意識されてきているのである。そのような中、福島第一原発事故における子どもの問題を扱っているこのアニメについては、報道も紹介もされないことになってしまったといえる。結局、日本人の活動であっても、日本の弱さを現していると考えられるものは「見たくない」のである。現状の政治動向の裏側には、そのような日本社会の意識があるだろう。

他方で、世界各国の日本についての関心は、福島第一原発事故へのそれが大きな部分をしめている。このアニメが制作されたドイツだけでなく、欧米、アジア、アフリカの各地では、日本については福島第一原発事故から考えようとしている。それゆえに、このアニメが国際的に評価・紹介されることになったといえる。このような日本の内と外との認識のギャップは、福島第一原発事故だけではなく、靖国参拝や従軍慰安婦問題でもみることができる。

そして、2014年時点でみると、福島第一原発事故における子どもの問題は、より複雑で、深刻さをましている。確かに、2011年時点からみれば、相対的に放射線量は下がっている。しかし、除染については、学校・住宅地・農地などが主であり、効果自体が限定的である。山林を面的に除染する試みはなく、結局、自然の減衰・流出をまつしかない。そのような中、マスク着用すら忌避された福島の子どもたちの半分程度は甲状腺に異常があり、通常よりも多く、甲状腺がんが発生する状況になっている。福島の子どもたちの悲惨を描いた本アニメよりも厳しい状況なのである。

*制作者側の情報については、下記サイトによった。

*なお、本アニメについては、下記サイトに紹介されている。
http://saigaijyouhou.com/blog-entry-1519.html

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先日、、福島県の県民健康管理調査における18歳以下の甲状腺がん調査で、甲状腺がん患者が12人発見されたことが各紙で報じられた。ここでは、東京新聞のネット配信記事を紹介しておこう。

甲状腺がん「確定」12人 福島の18歳以下、9人増

2013年6月5日 朝刊

 東京電力福島第一原発事故による放射線の影響を調べている福島県の県民健康管理調査で、十八歳以下で甲状腺がんの診断が「確定」した人が九人増え十二人に、「がんの疑い」は十五人になった。
 これまで一次検査の結果が確定した約十七万四千人の内訳。五日に福島市で開く検討委員会で報告される。検討委の二月までの調査報告では、がん確定は三人、疑いは七人だった。
 これまで調査主体の福島県立医大は、チェルノブイリ原発事故によるがんが見つかったのが、事故の四~五年後以降だったとして「放射線の影響は考えられない」と説明している。
 甲状腺検査は、震災当時十八歳以下の人約三十六万人が対象。一次検査でしこりの大きさなどを調べ、軽い方から「A1」「A2」「B」「C」と判定。BとCが二次検査を受ける。
 二〇一一年度は、一次検査が確定した約四万人のうち、二次検査の対象となったのは二百五人。うち甲状腺がんの診断確定は七人、疑いが四人。ほかに一人が手術を受けたが、良性と分かった。
 一二年度は、一次検査が確定した約十三万四千人のうち、二次検査の対象となったのは九百三十五人、うち診断確定は五人、疑いが十一人。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2013060502000133.html

なお、確定したがん患者が12人であるのだが、それ以外に「疑い」のある者が15人存在している。合計で27人が、がん患者もしくはがんの疑いがあるということになるのである。

この報道は、福島県で6月5日に開催された第11回「県民健康管理調査」検討委員会の資料に基づいたものである。なお、甲状腺がんの調査は、36万人を対象としているが、まだ17万4000人しかすすんでいない。また、二次検査も2011年度の対象者205人のうち166人、2012年度の対象者935人のうち255人しか終了していない。二次検査自体が全体の約37%しか実施されていないのである。

しかも、これは本ブログで前述したことがあるが、すでに実施された一次検査では、対象者の約35〜45%から、結節や嚢胞などの甲状腺異常が見つかった。しかし、大半が小さいということで二次検査からはずされたのである。

つまり、いまだ甲状腺がん検査は途上であるとともに不備であり、検査が進むとより多くの患者の発生がある可能性があり、さらに、甲状腺がん検査で「異常なし」とされた人びとからも甲状腺がんが発生する危険性もあるといえよう。

甲状腺がんは、平時では100万人に1〜3人程度発症するとされている。参考として、次の「日本臨床検査薬協会」のサイトの記事をあげておこう。

チェルノブイリ原発事故と小児の甲状腺がん
 1986年4月26日のチェルノブイリ原発事故後はチェルノブイリ地方で小児、特に女児に多くの甲状腺がんが見られたことが報告されています。図3はチェルノブイリ原発事故後の人口100万人当たりの甲状腺がんの発生件数を示しています。一般に小児の甲状腺がんの発生は100万人当たり1~3人といわれていますが、原発事故の2~3年後から急な増加が見られます。そして、被爆時の年齢によってそのピークが異なることがわかります。0~10歳までの乳幼児・小児は被曝7年後にピークがあり、以後漸減して、1997年以降はベースライン、すなわち通常の発生率に戻っています。10~19歳の思春期では被曝10年後にピークが見られ、2002年以後は急激に増加しますが、ベースラインには戻っていません。
http://www.jacr.or.jp/topics/09radiation/03.html

検査途上なのだが、仮に17万4000人を基準とした場合、現状でも1万人につき約0.69人のがん患者が発生していることになる。「疑い」を入れれば1万人につき約1.5人になってしまうのである。甲状腺がんが増えているというよりほかはないだろう。

しかし、「これまで調査主体の福島県立医大は、チェルノブイリ原発事故によるがんが見つかったのが、事故の四~五年後以降だったとして「放射線の影響は考えられない」と説明している。」という対応なのである。結局、既存の知を根拠にして、実際におきていることから眼をそらす/そらさせているのである。そして、その中で、福島県の子どもたちの健康被害は過小評価されていくのである。

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最近、私自身も含めて、被災地の問題について考える機会が少なくなっている。しかし、2012年11月11日の永田町・霞ヶ関の反原発抗議行動の中で、文部科学省前に原爆やビキニ水爆実験で被ばく死した久保山愛吉などの遺影が安置され、「子どもを守れ」「福島の子供達を避難させて!」というプラカードが掲げられたことを本ブログで書いた。その時の写真を、もう一度再掲する。

文部科学省前抗議(2012年11月11日)

文部科学省前抗議(2012年11月11日)

さて、その後、福島県で実施されている18歳以下の児童(36万人)を対象にした甲状腺検査において、甲状腺がんの疑いのある児童が一人発見されたということが報道された。2012年11月19日、河北新報は、次のような記事をネット配信している。

甲状腺がん疑い 即時要2次検査は16~18歳の女子

 福島第1原発事故後に福島県が県内の18歳以下36万人を対象に実施している甲状腺検査で、甲状腺がんの疑いがあるとして即時2次検査が必要な「C判定」を受けた子どもが1人いた問題で、県の県民健康管理調査検討委員会は18日、判定を受けたのは16~18歳の女子だったことを明らかにした。
 検査を担当している福島県立医大によると、女子は甲状腺に結節が発見され現在、2次検査を受けている。福島市で18日あった委員会後の記者会見で、医大の鈴木真一教授は「原発事故による被ばく線量は低く因果関係は考えにくい」と話した。
 委員会をめぐり9月の前回会合後、議論の誘導が疑われる議事進行表を委員に事前送付するなど県の不適切な運営が発覚した。菅野裕之県保健福祉部長は18日の会合で「県民の皆さまに疑念を抱かせ、申し訳ない」と陳謝。(1)菅野部長が委員を辞任(2)新たに外部委員2人が参加(3)速やかな議事録作成-などの改善策を説明した。
 会合では2012年度分の9月までの甲状腺検査結果も公表。結節や嚢胞(のうほう)がない「A1」判定が57.3%、小さな結節などがある「A2」が42.1%、一定以上の大きさの結節などがあって2次検査が必要な「B」が0.5%だった。
2012年11月19日月曜日
http://www.kahoku.co.jp/news/2012/11/20121119t63011.htm

この報道自体が衝撃的である。しかし、それにもまして問題なことは、検査を実施した福島県立医大の鈴木真一教授のコメントである。1986年のチェルノブイリ事故においても児童の甲状腺がんが多発した。そのようなことをふまえて、福島第一原発事故後、福島県の児童に対して甲状腺検査が実施されている。つまり、そもそも福島第一原発事故による放射線被ばくがなんらかの形で児童の甲状腺がん多発につながることが懸念されているから甲状腺検査が実施されている。しかし、鈴木は「原発事故による被ばく線量は低く因果関係は考えにくい」と述べている。これでは、甲状腺検査をする意味はない。

鈴木のコメントは、結局、年間100mSv以下の「低線量」被ばくでは人体に影響をもたらさないという、日本の「原子力ムラ」で流通している「通説」の方を優先しているのである。この論理でいけば、どれほど甲状腺がん患者が出ていても、「低線量」しか被ばくしていないとして、結局、すべて福島第一原発事故の影響ではないということになる。実際には、「低線量」被ばくでも甲状腺がんは発生するという「実証」ともいえるものを、「低線量」被ばくであれば人体に影響がないという「通説」によって否認しているのである。

これは、もちろん、国や東京電力や福島県などによる「低線量」被ばくの影響を否認しようという政策が背景になっているといえる。このような論理は、水俣病において有機水銀が原因であることを認めなかった当時の対応とも共通しているといえる。しかし、より「科学」として考えなくてはならないことは、一般的に流通する「通説」によって「実証」を否認しているということである。これは、コペルニクスの「地動説」をそれまでの「通説」であったプトレマイオスの「天動説」で否認していることと同じだ。

さらに、「会合では2012年度分の9月までの甲状腺検査結果も公表。結節や嚢胞(のうほう)がない「A1」判定が57.3%、小さな結節などがある「A2」が42.1%、一定以上の大きさの結節などがあって2次検査が必要な「B」が0.5%だった。」としている。「小さな結節」が「致命的」であるかいなかは別として、福島の児童たちの約57%しか甲状腺の状態が正常ではない、42%以上の児童たちが甲状腺異常を抱えているということになる。これは、どうみても、異常事態であろう。甲状腺がん患者の疑いのある児童が1人発見されたというだけでなく、これ自体が大問題のはずである。

しかも、このことは、すでに9月の時点で報道されていた。河北新報のコルネット会員サービスを利用して検索してみると、「子ども1人、甲状腺がん 事故の影響否定 福島県検査」という記事が9月12日にネット配信されている。この記事でも、「福島第1原発事故後に福島県が県内の18歳以下の子どもを対象に実施している甲状腺検査で、甲状腺がんを発病しているケースが1例確認されたことが11日、分かった。甲状腺がんの発症例が確認されたのは初めて。」と、甲状腺がん発病者が1人いたことが伝えられている。この発病者が、11月19日の報道による患者と同一かいなかは明らかではない。ただ、もし他にいれば「2人」などと報道されると考えられるので、同一人物と思われる。

そして、この報道でも「検査担当の鈴木真一福島県立医大教授は「原発事故による被ばく線量は内部、外部被ばくとも低い。チェルノブイリ原発事故の例からも、事故による甲状腺がんが4年以内に発症することはないと考えている」と説明している。」としている。何があっても、コメントは同じなのである。

重要なことは、次のことである。

委員会では2012年度分の8月までの検査の結果も報告された。結節や嚢胞(のうほう)がない「A1」判定が56.3%(11年度は64.2%)、小さな結節などがある「A2」が43.1%(35.3%)、一定以上の大きさの結節などがあって2次検査が必要な「B」が0.6%(0.5%)だった。

つまり、2011年度と2012年度を比較すると、甲状腺が正常な児童の比率が64.2%から56.3%に減少し、甲状腺に小さな異常のある児童が 35.3%から43.1%に増加したことになる。11月の発表ではやや数字が違っているが、大枠は変わらない。つまり、福島県の児童の甲状腺異常は時間の経過につれて増えているのである。

このように、福島県の児童は異常事態の中にいる。一般的にみて甲状腺異常が見られる児童が福島県では40%以上存在しており、そのうち、約0.6%は甲状腺がんの疑いがあるのである。

そして、このことに対策をしたくない政府は、次のようなことを提起した。共同通信は2012年11月20日に次のような記事をネット配信した。

長崎でも子供の甲状腺検査 環境省、福島の結果と比較

 長浜博行環境相は20日、東京電力福島第1原発事故による福島県内の子どもの甲状腺への影響を確かめるため、比較材料として長崎県内の18歳以下の甲状腺検査を今月7日に始めたことを明らかにした。閣議後の記者会見で答えた。環境省によると、青森、山梨両県でも年内に調査を始める方向で調整している。

 子どもの甲状腺を大規模に調べる疫学的調査の前例がなく、原発事故の影響の有無を確かめる必要があるため、原発から離れた地域でも検査し福島県の結果と比較する。

 福島県は、事故発生時に18歳以下だった約36万人を対象に甲状腺検査を進めている。

2012/11/20 13:02 【共同通信】
http://www.47news.jp/CN/201211/CN2012112001001429.html

もちろん、このような比較調査が全く意義がないということではない。そのような比較を行わなければ「疫学的知見」は得られない。しかし、これは、明らかに福島の児童に甲状腺異常が多く発生しているということを否認したい、少なくとも、実質的な対策を先送りしたいという意識から発しているといえる。

今、必要なことは、福島県の児童については、放射線被ばくによると仮説的に推定される甲状腺異常・甲状腺がんが多く発生しているということを認め、その線にそって避難や医療などの対策を進めることだといえるのではないか。そして、それが、原爆やビキニ水爆実験で被ばく死した人びとの思いにもこたえることになるのではなかろうかと思う。

追記:http://www.pref.fukushima.jp/imu/kenkoukanri/240911siryou2.pdfによって福島県の現時点における調査結果を確認した。いまだ、約9万6000人しか調査していないのだが、その調査での甲状腺異常は18119人(43.1%)、二次検査が必要な者が239人(0.6%)である。なお、この調査結果ではがん患者発生は認めていない。つまり、実際に甲状腺がんを発症していても、福島第一原発事故関係ではないと「判断」されてはじかれてしまっているのである。なお、誤解を招いてはいけないので、36万人を基準に検討した人数についての言及は削除・訂正させていただくことにした。

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福島県第一原発事故の影響は、時間の経過とともに、その深刻さがあきらかになってきている。低線量での放射線被害は、即時出てくるものではない。チェルノブイリ事故の時のように、時間の経過につれて、甲状腺がんなどの形で発症してくるのだ。

本日(2011年10月4日)、信濃毎日新聞は、一面トップで次のような報道を行った。ここでは、同紙のサイトから紹介しておこう。

10人の甲状腺機能に変化 福島の子130人健康調査
10月04日(火)

 認定NPO法人日本チェルノブイリ連帯基金(JCF)と信大病院(ともに松本市)が、福島県内の子ども130人を対象に今夏行った健康調査で、10人(7・7%)の甲状腺機能に変化がみられ、経過観察が必要と診断されたことが3日、分かった。福島第1原発事故との関連性は明確ではない。旧ソ連チェルノブイリ原発事故(1986年)の被災地では事故から数年後に小児甲状腺がんが急増しており、JCFは今後も継続的に検査が受けられるよう支援していく方針だ。

 調査は原発事故から逃れて茅野市に短期滞在していた子どものうち希望者を対象に7月28日、8月4、18、25日に実施。130人は73家族で生後6カ月~16歳(平均年齢7・2歳)。医師の問診と血液検査、尿検査を受けた。

 甲状腺は成長に関するホルモンをつくる。今回の調査で1人が甲状腺ホルモンが基準値を下回り、7人が甲状腺刺激ホルモンが基準値を上回った。甲状腺機能低下症と診断された例はなかった。信大病院の中山佳子小児科外来医長は「現時点では病気とは言えないが、経過観察の必要があるので、再検査を受けるように伝えた」としている。

 ほかに、2人の男児(3歳と8歳)が、甲状腺がんを発症した人の腫瘍マーカーにも使われる「サイログロブリン」の血中濃度が基準値をやや上回った。サイログロブリンは甲状腺ホルモンの合成に必要なタンパク質。甲状腺の腫瘍が産生したり、甲状腺の炎症で甲状腺組織が破壊されたりすることで血中濃度が高くなるが、健康な人の血液中にも微量存在する。

 原発事故で放出された放射性物質のうち、放射性ヨウ素は、甲状腺が甲状腺ホルモンを合成する際にヨウ素を使うため、人体に取り込まれると甲状腺に蓄積、甲状腺がんや機能低下症を引き起こす。

 JCFの鎌田実理事長(諏訪中央病院名誉院長)は「いろいろ意見はあるが、被ばくの可能性は捨てきれないと思う。継続してフォローしていくのはもちろん、福島の新たな希望者がいれば、健康調査の枠を広げるつもりだ」と話している。
http://www.shinmai.co.jp/news/20111004/KT111003ATI090018000.html

つまりは、日本チェルノブイリ連帯基金と信州大学病院が、長野県茅野に避難してきていた福島県児童130人の健康調査を行い、その結果として、8人の児童が甲状腺ホルモン分泌異常をしめし、2人の児童からは、甲状腺がんの腫瘍マーカーの血中濃度が高まったというのである。

この児童たちは、現状では病気とはいえないとされているが、経過観察が必要とされている。

このニュースは、共同通信が配信し、東京新聞・毎日新聞・TBSなども報じているようである。ただ、現時点(4日7時現在)では、朝日新聞やNHKは報道していない模様である。

福島県の児童が甲状腺被ばくしたことについては、すでに報道されている。例えば、朝日新聞は、2011年8月17日にネット配信し、翌日18日の1面に掲載した記事で、次のように伝えている。

2011年8月17日21時26分

福島の子ども、半数近くが甲状腺被曝 政府調査で判明

 東京電力福島第一原子力発電所事故をめぐり、政府の原子力災害対策本部は17日、福島県の子ども約1150人を対象にした甲状腺の内部被曝(ひばく)検査で、45%で被曝が確認されていたことを明らかにした。17日、同県いわき市で開かれた説明会で発表した。すぐに医療措置が必要な値ではないと判断されているが、低い線量の被曝は不明な点も多く、長期的に見守る必要がある。

 検査は3月24~30日、いわき市と川俣町、飯舘村で0~15歳の子どもを対象に実施した。原子力安全委員会が当時、精密検査が必要だと決めた基準は甲状腺被曝線量が毎時0.20マイクロシーベルト以上。1150人のうち、条件が整い測定できた1080人は全員、0.10マイクロシーベルト以下だった。

 この日、説明会には、検査を受けた子どもの保護者ら約50人が参加した。対策本部原子力被災者生活支援チームの福島靖正医療班長は「問題となるレベルではない」と説明した。

 全体の55%の子は検出限界も含み測定値が「0」だった。「0」超では、0.01マイクロシーベルトが26%いた。0.02マイクロシーベルトが11%で、最高は0.10マイクロシーベルトだった。

 3月の検査時に、その場で「健康に影響はない」とする結果が保護者らに伝えられた。ただし数値は通知されず、説明を求める声が上がっていた。

 対策本部は、当時18歳以下の県内の子ども36万人について、福島県が一生涯続ける予定の甲状腺の超音波検査への協力を呼びかけている。(林義則、大岩ゆり)
http://www.asahi.com/special/10005/TKY201108170394.html

しかし、この記事が伝えているように、被ばくしたとしても「問題となるレベルではない」とされていたのである。その意味で、福島県の児童に対する被ばくの影響は事実上無視されていたといえる。そして、「低線量の被ばくは人体によい」などという「風説」が流されていた。

今回の報道は、福島県の児童における被ばくが、実際に健康被害を引き起こしている可能性を示すものである。確かに低線量の放射線被ばくでは、急性症状は出ない。しかし、時間の経過につれて、甲状腺機能異常というかたちで、被ばくによる被害が生じてきたといえる。ある意味では、それまでの「直ちに影響はない」としてきた、政府側の楽観論をくつがえす、ターニングポイントになりうる報道といえるのである。

東日本大震災を契機とした福島第一原発事故については、確かに規模は違うが、チェルノブイリ事故と同様の経過をたどっているといえる。如何に、政府側が根拠のない楽観論ー「健康に直ちに異常はない」を主張していても、同レベルの放射能汚染度である以上は、同様の状況が生じることが予想されるのである。

それを実証しているのが、今回の報道といえるのではなかろうか。今後とも、注視していく必要があろう。

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