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先日、、福島県の県民健康管理調査における18歳以下の甲状腺がん調査で、甲状腺がん患者が12人発見されたことが各紙で報じられた。ここでは、東京新聞のネット配信記事を紹介しておこう。

甲状腺がん「確定」12人 福島の18歳以下、9人増

2013年6月5日 朝刊

 東京電力福島第一原発事故による放射線の影響を調べている福島県の県民健康管理調査で、十八歳以下で甲状腺がんの診断が「確定」した人が九人増え十二人に、「がんの疑い」は十五人になった。
 これまで一次検査の結果が確定した約十七万四千人の内訳。五日に福島市で開く検討委員会で報告される。検討委の二月までの調査報告では、がん確定は三人、疑いは七人だった。
 これまで調査主体の福島県立医大は、チェルノブイリ原発事故によるがんが見つかったのが、事故の四~五年後以降だったとして「放射線の影響は考えられない」と説明している。
 甲状腺検査は、震災当時十八歳以下の人約三十六万人が対象。一次検査でしこりの大きさなどを調べ、軽い方から「A1」「A2」「B」「C」と判定。BとCが二次検査を受ける。
 二〇一一年度は、一次検査が確定した約四万人のうち、二次検査の対象となったのは二百五人。うち甲状腺がんの診断確定は七人、疑いが四人。ほかに一人が手術を受けたが、良性と分かった。
 一二年度は、一次検査が確定した約十三万四千人のうち、二次検査の対象となったのは九百三十五人、うち診断確定は五人、疑いが十一人。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2013060502000133.html

なお、確定したがん患者が12人であるのだが、それ以外に「疑い」のある者が15人存在している。合計で27人が、がん患者もしくはがんの疑いがあるということになるのである。

この報道は、福島県で6月5日に開催された第11回「県民健康管理調査」検討委員会の資料に基づいたものである。なお、甲状腺がんの調査は、36万人を対象としているが、まだ17万4000人しかすすんでいない。また、二次検査も2011年度の対象者205人のうち166人、2012年度の対象者935人のうち255人しか終了していない。二次検査自体が全体の約37%しか実施されていないのである。

しかも、これは本ブログで前述したことがあるが、すでに実施された一次検査では、対象者の約35〜45%から、結節や嚢胞などの甲状腺異常が見つかった。しかし、大半が小さいということで二次検査からはずされたのである。

つまり、いまだ甲状腺がん検査は途上であるとともに不備であり、検査が進むとより多くの患者の発生がある可能性があり、さらに、甲状腺がん検査で「異常なし」とされた人びとからも甲状腺がんが発生する危険性もあるといえよう。

甲状腺がんは、平時では100万人に1〜3人程度発症するとされている。参考として、次の「日本臨床検査薬協会」のサイトの記事をあげておこう。

チェルノブイリ原発事故と小児の甲状腺がん
 1986年4月26日のチェルノブイリ原発事故後はチェルノブイリ地方で小児、特に女児に多くの甲状腺がんが見られたことが報告されています。図3はチェルノブイリ原発事故後の人口100万人当たりの甲状腺がんの発生件数を示しています。一般に小児の甲状腺がんの発生は100万人当たり1~3人といわれていますが、原発事故の2~3年後から急な増加が見られます。そして、被爆時の年齢によってそのピークが異なることがわかります。0~10歳までの乳幼児・小児は被曝7年後にピークがあり、以後漸減して、1997年以降はベースライン、すなわち通常の発生率に戻っています。10~19歳の思春期では被曝10年後にピークが見られ、2002年以後は急激に増加しますが、ベースラインには戻っていません。
http://www.jacr.or.jp/topics/09radiation/03.html

検査途上なのだが、仮に17万4000人を基準とした場合、現状でも1万人につき約0.69人のがん患者が発生していることになる。「疑い」を入れれば1万人につき約1.5人になってしまうのである。甲状腺がんが増えているというよりほかはないだろう。

しかし、「これまで調査主体の福島県立医大は、チェルノブイリ原発事故によるがんが見つかったのが、事故の四~五年後以降だったとして「放射線の影響は考えられない」と説明している。」という対応なのである。結局、既存の知を根拠にして、実際におきていることから眼をそらす/そらさせているのである。そして、その中で、福島県の子どもたちの健康被害は過小評価されていくのである。

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前回のブログで、国連人権理事会で福島住民の健康問題が人権問題として提起され、特別助言者アナンド・グローバー氏が調査し、11月26日に記者会見して、そのことについて、朝日新聞は27日付朝刊で「福島の健康調査「不十分」 国連人権理事会の助言者が指摘」という見出しで報じたことを伝えた。

ある方の紹介で、グローバー氏の記者会見の「プレス・ステートメント」が国際連合広報センターに掲載されていることを知った。http://unic.or.jp/unic/press_release/2869/がそれである。

また、自分自身でもサイトを検索して、日本記者クラブで26日付で行ったグローバー氏の記者会見の動画を発見した。参考のために、動画をこのブログでもここでアップしておく。1時間以上もある長い動画だが、最後の記者との質疑以外は、ほとんど「プレス・ステートメント」と同じである。ここで、特に断らない限り、引用は「プレス・ステートメント」から行う。

内容についていえば、「福島の健康調査「不十分」」というようなレベルではない。鄭重な言い回しのため、誤解される場合もあるかもしれないが、現時点で日本政府が福島で行っている住民対策の包括的かつ全面的批判なのである。

まず、グローバー氏は、調査に協力した日本政府・東電・住民などに感謝するとしながら、彼の目的を「達成可能な最高水準の心身の健康を享受する権利(「健康を享受する権利」)に関する国連人権理事会特別報告者としてのミッション」であり、「対話と協力の精神を胸に、日本がいかに健康を享受する権利を実行しようと努めているか把握し、それを首尾よく実現させるための方策並びに立ちはだかる障害について理解することです」と説明している。福島第一原発事故後、「健康を享受する権利」について日本がどのようなことを行っており、どのような障害をもっているかを理解することなのだとしている。つまり、声高に批判することはグローバー氏の目的ではないことを強調しているといえよう。

しかし、その内容は、日本政府が福島の住民に行っている対策総体を批判するものなのだ。朝日新聞には全く報道されていないが、グローバー氏は、福島第一原発事故以前の状態から言及している。

原子力発電所で事故が発生した場合の災害管理計画について近隣住民が把握していなかったのは残念なことです。実際、福島県双葉町の住民の方々は、1991 年に締結された安全協定により、東京電力の原子力発電所は安全であり、原発事故が発生するはずなどないと信じてきたのです。

独立した立場からの原子力発電所の調査、モニタリングの実施を目指し、原子力規制委員会を設立した日本政府は賞賛に値します。これにより、従来の規制枠組みに見られた「断層」、すなわち、原子力発電所の独立性と効果的なモニタリング体制の欠如ならびに、規制当局の透明性と説明責任の欠如への対応を図ることが可能になります。こうしたプロセスは強く望まれるものであり、国会の東京電力福島原子力発電所事故調査委員会の報告でも提言されています。従って、原子力規制委員会の委員長や委員は、独立性を保つだけでなく、独立性を保っていると見られることも重要です。この点については、現委員の利害の対立を開示するという方策が定着しています。日本政府に対して、こうした手順を出来るだけ早急に導入することを要請いたします。それにより、精査プロセスの独立性に関する信頼性を構築しやすくなるでしょう。

つまり、そもそも、原発事故などないと住民に信じ込ませてきたことが間違いなのだといっている。後半では原子力規制委員会設置を評価しているのだが、「従来の規制枠組みに見られた「断層」、すなわち、原子力発電所の独立性と効果的なモニタリング体制の欠如ならびに、規制当局の透明性と説明責任の欠如への対応を図ることが可能になります。」という、従来の対応を批判した上での評価であるといえる。しかも「従って、原子力規制委員会の委員長や委員は、独立性を保つだけでなく、独立性を保っていると見られることも重要です。この点については、現委員の利害の対立を開示するという方策が定着しています。日本政府に対して、こうした手順を出来るだけ早急に導入することを要請いたします。」といっている。つまり、現状の原子力規制委員会の議事公開が十分ではないので、その是正をはかることを婉曲な形で要請しているといえるのだ。

そして、原発事故においてヨウ素剤を配布しなかったこと、SPEEDIなどの情報が公開されなかったことに言及する。これは、さんざん日本国内でも言われてきたことであるが、国際的な観点でも批判されるべきことであることが確認できたといえよう。

原発事故の直後には、放射性ヨウ素の取り込みを防止して甲状腺ガンのリスクを低減するために、被ばくした近隣住民の方々に安定ヨウ素剤を配布するというのが常套手段です。私は、日本政府が被害にあわれた住民の方々に安定ヨウ素剤に関する指示を出さず、配布もしなかったことを残念に思います。にもかかわらず、一部の市町村は独自にケースバイケースで安定ヨウ素剤を配布しました。

災害、なかでも原発事故のような人災が発生した場合、政府の信頼性が問われます。従って、政府が正確な情報を提供して、住民を汚染地域から避難させることが極めて重要です。しかし、残念ながらSPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)による放射線量の情報および放射性プルームの動きが直ちに公表されることはありませんでした。さらに避難対象区域は、実際の放射線量ではなく、災害現場からの距離および放射性プルームの到達範囲に基づいて設定されました。従って、当初の避難区域はホットスポットを無視したものでした。

さらに、避難区域の基準が年間20mSvとされたことを強く批判している。

これに加えて、日本政府は、避難区域の指定に年間20 mSv という基準値を使用しました。これは、年間20 mSv までの実効線量は安全であるという形で伝えられました。また、学校で配布された副読本などの様々な政府刊行物において、年間100 mSv 以下の放射線被ばくが、がんに直接的につながるリスクであることを示す明確な証拠はない、と発表することで状況はさらに悪化したのです。

年間20 mSv という基準値は、1972 年に定められた原子力業界安全規制の数字と大きな差があります。原子力発電所の作業従事者の被ばく限度(管理区域内)は年間20 mSv(年間50 mSv/年を超えてはならない)、5 年間で累計100mSv、と法律に定められています。3 ヶ月間で放射線量が1.3 mSv に達する管理区域への一般市民の立ち入りは禁じられており、作業員は当該地域での飲食、睡眠も禁止されています。また、被ばく線量が年間2mSv を超える管理区域への妊婦の立ち入りも禁じられています。

ここで思い出していただきたいのは、チェルノブイリ事故の際、強制移住の基準値は、土壌汚染レベルとは別に、年間5 mSv 以上であったという点です。また、多くの疫学研究において、年間100 mSv を下回る低線量放射線でもガンその他の疾患が発生する可能性がある、という指摘がなされています。研究によれば、疾患の発症に下限となる放射線基準値はないのです。

残念ながら、政府が定めた現行の限界値と、国内の業界安全規制で定められた限界値、チェルノブイリ事故時に用いられた放射線量の限界値、そして、疫学研究の知見との間には一貫性がありません。これが多くの地元住民の間に混乱を招き、政府発表のデータや方針に対する疑念が高まることにつながっているのです。

もう一度、確認しておこう。年間20mSvという基準は、そこに就労することで賃金を得られる原発労働者の基準であり、何の利益もない一般住民の基準ではない。3ヶ月で1.3mSv放射線を被曝する場所に一般市民の立入りは禁じられている。妊婦の場合は、年間2mSvをこえる場所には立ち入れない。年間20mSvというのは、一般市民の基準ではないのである。そして、グローバー氏は、チェルノブイリの避難基準でも年間5mSvであったことを指摘している。

その上で、グローバー氏は、年間100mSv以下では衛生上問題ないとする政府の宣伝を「多くの疫学研究において、年間100 mSv を下回る低線量放射線でもガンその他の疾患が発生する可能性がある、という指摘がなされています。研究によれば、疾患の発症に下限となる放射線基準値はないのです。」として批判している。

これらの点も、すでに国内で強く主張されてきたことであった。グローバー氏の指摘は、それらの主張を追認するものである。

加えて、グローバー氏は、福島県内の放射線調査、健康調査が不十分であること指摘する。

これに輪をかけて、放射線モニタリングステーションが、監視区域に近接する区域の様々な放射線量レベルを反映していないという事実が挙げられます。その結果、地元住民の方々は、近隣地域の放射線量のモニタリングを自ら行なっているのです。訪問中、私はそうした差異を示す多くのデータを見せてもらいました。こうした状況において、私は日本政府に対して、住民が測定したものも含め、全ての有効な独立データを取り入れ、公にすることを要請いたします。

健康を享受する権利に照らして、日本政府は、全体的かつ包括的なスクリーニングを通じて、放射線汚染区域における、放射線による健康への影響をモニタリングし、適切な処置をとるべきです。この点に関しては、日本政府はすでに健康管理調査を実施しています。これはよいのですが、同調査の対象は、福島県民および災害発生時に福島県を訪れていた人々に限られています。そこで私は、日本政府に対して、健康調査を放射線汚染区域全体において実施することを要請いたします。これに関連して、福島県の健康管理調査の質問回答率は、わずか23%あまりと、大変低い数値でした。また、健康管理調査は、子どもを対象とした甲状腺検査、全体的な健康診査、メンタル面や生活習慣に関する調査、妊産婦に関する調査に限られています。残念ながら、調査範囲が狭いのです。これは、チェルノブイリ事故から限られた教訓しか活用しておらず、また、低線量放射線地域、例えば、年間100 mSv を下回る地域でさえも、ガンその他の疾患の可能性があることを指摘する疫学研究を無視しているためです。健康を享受する権利の枠組みに従い、日本政府に対して、慎重に慎重を重ねた対応をとること、また、包括的な調査を実施し、長時間かけて内部被ばくの調査とモニタリングを行うよう推奨いたします。

放射線モニタリングステーションの数値がいかに実態とかけ離れているか、そして、住民自身が放射線測定に乗り出さなくてはならないことか、このこともさんざん国内で伝えられてきている。

そして、健康調査が、ほぼ福島県民に限られ、質問会回答率も23%と低く、質問項目も限定されていることを批判している。結局、それは、チェルノブイリ事故の教訓を取り入れず、低線量被ばくによる健康障害の可能性を考慮しないためだとしているのである。

特に、グローバー氏は、次の点を強調している。

自分の子どもが甲状腺検査を受け、基準値を下回る程度の大きさの嚢胞(のうほう)や結節の疑いがある、という診断を受けた住民からの報告に、私は懸念を抱いています。検査後、ご両親は二次検査を受けることもできず、要求しても診断書も受け取れませんでした。事実上、自分たちの医療記録にアクセスする権利を否定されたのです。残念なことに、これらの文書を入手するために煩雑な情報開示請求の手続きが必要なのです。

これは、すでに福島県の児童を対象とした甲状腺検査において40%以上の甲状腺異常の児童が発見されたことを前提にしていると考えられる。基準以下の甲状腺異常の児童においては、二次検査も受けられず、診断書でさえ情報公開請求しなければ受取れないのである。グローバー氏は「事実上、自分たちの医療記録にアクセスする権利を否定されたのです」と指摘しているのである。

グローバー氏は、原発労働者の多くが下請けで短期雇用のため、健康調査を受けられないことを指摘している。これも、すでに、日本国内で指摘されていることだ。

政府は、原子力発電所作業員の放射線による影響のモニタリングについても、特に注意を払う必要があります。一部の作業員は、極めて高濃度の放射線に被ばくしました。何重もの下請け会社を介在して、大量の派遣作業員を雇用しているということを知り、心が痛みました。その多くが短期雇用で、雇用契約終了後に長期的な健康モニタリングが行われることはありません。日本政府に対して、この点に目を背けることなく、放射線に被ばくした作業員全員に対してモニタリングや治療を施すよう要請いたします。

グローバー氏の批判は、狭義の放射線対策だけにとどまらない。避難所の不十分さについても、このように指摘している。

日本政府は、避難者の方々に対して、一時避難施設あるいは補助金支給住宅施設を用意しています。これはよいのですが、 住民の方々によれば、緊急避難センターは、障がい者向けにバリアフリー環境が整っておらず、また、女性や小さな子どもが利用することに配慮したものでもありませんでした。悲しいことに、原発事故発生後に住民の方々が避難した際、家族が別々にならなければならず、夫と母子、およびお年寄りが離れ離れになってしまう事態につながりました。これが、互いの不調和、不和を招き、離婚に至るケースすらありました。苦しみや、精神面での不安につながったのです。日本政府は、これらの重要な課題を早急に解決しなければなりません。

さらに、食品の安全規制や除染のあり方についても、グローバー氏はこのように指摘している。

食品の放射線汚染は、長期的な問題です。日本政府が食品安全基準値を1kgあたり500 Bq から100 Bq に引き下げたことは称賛に値します。しかし、各5県ではこれよりも低い水準値を設定しています。さらに、住民はこの基準の導入について不安を募らせています。日本政府は、早急に食品安全の施行を強化すべきです。

また、日本政府は、土壌汚染への対応を進めています。長期的目標として汚染レベルが年間20 mSv 未満の地域の放射線レベルは1mSv まで引き下げる、また、年間20~50 mSv の地域については、2013 年末までに年間20 mSv 未満に引き下げる、という具体的政策目標を掲げています。ただ、ここでも残念なのは、現在の放射線レベルが年間20 mSv 未満の地域で年間1mSv まで引き下げるという目標について、具体的なスケジュールが決まっていないという点です。更に、他の地域については、汚染除去レベル目標は、年間1 mSv を大きく上回る数値に設定されています。住民は、安全で健康的な環境で暮らす権利があります。従って、日本政府に対して、他の地域について放射線レベルを年間1mSv に引き下げる、明確なスケジュール、指標、ベンチマークを定めた汚染除去活動計画を導入することを要請いたします。汚染除去の実施に際しては、専用の作業員を雇用し、作業員の手で実施される予定であることを知り、結構なことであると思いました。しかし、一部の汚染除去作業が、住人自身の手で、しかも適切な設備や放射線被ばくに伴う悪影響に関する情報も無く行われているのは残念なことです。

除染については、20mSv以上の放射線量レベルの土地は20mSv未満に下げるとしか決まっておらず、現状年間20mSv未満の土地では年間1mSvに下げるスケジュールが決まっていないと指摘し、特に、十分な準備もなく一部の住民が除染作業をしていることについて警告を発している。

その上で、グローバー氏は、経済的支援を前提にした上で、避難か帰宅か、避難者が自分の意志で判断すべきとした。

また、日本政府は、全ての避難者に対して、経済的支援や補助金を継続または復活させ、避難するのか、それとも自宅に戻るのか、どちらを希望するか、避難者が自分の意志で判断できるようにするべきです。これは、日本政府の計画に対する避難者の信頼構築にもつながります。

グローバー氏は、東電の賠償において国税が使われる可能性があるのに、東電は説明責任をはたしていないことも述べている。

訪問中、多くの人々が、東京電力は、原発事故の責任に対する説明義務を果たしていないことへの懸念を示しました。日本政府が東京電力株式の大多数を所有していること、これは突き詰めれば、納税者がつけを払わされる可能性があるということでもあります。健康を享受する権利の枠組みにおいては、訴訟にもつながる誤った行為に関わる責任者の説明責任を定めています。従って、日本政府は、東京電力も説明責任があることを明確にし、納税者が最終的な責任を負わされることのないようにしなければなりません。

そして、最後に、福島第一原発事故の被災者、特にその中の社会的弱者自身を、健康調査・避難所設計・除染実施などを中心にした意思決定・実行・モニタリング・説明責任プロセスに参加させることを求めている。これは、日本国内で明示的にはあまり主張されてこなかったことといえる。現実には、ここでも述べられているように、住民自らの手で放射線測定などがなされている。しかし、一度、行政側が「住民参加」というと、町内会を通じての除染活動のように、一方的に負担が押しつけられることになりやすい。そういうことではなく、グローバー氏は、被災者住民自身がそういったことの意志決定プロセスに参加する必要性を強調している。

訪問中、被害にあわれた住民の方々、特に、障がい者、若い母親、妊婦、子ども、お年寄りなどの方々から、自分たちに影響がおよぶ決定に対して発言権がない、という言葉を耳にしました。健康を享受する権利の枠組みにおいては、地域に影響がおよぶ決定に際して、そうした影響がおよぶすべての地域が決定プロセスに参加するよう、国に求めています。つまり、今回被害にあわれた人々は、意思決定プロセス、さらには実行、モニタリング、説明責任プロセスにも参加する必要があるということです。こうした参加を通じて、決定事項が全体に伝わるだけではなく、被害にあった地域の政府に対する信頼強化にもつながるのです。これは、効率的に災害からの復興を成し遂げるためにも必要であると思われます。

日本政府に対して、被害に合われた人々、特に社会的弱者を、すべての意思決定プロセスに十分に参加してもらうよう要請いたします。こうしたプロセスには、健康管理調査の策定、避難所の設計、汚染除去の実施等に関する参加などが挙げられるでしょう。

この点について、「東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律」が2012 年6 月に制定されたことを歓迎します。この法律は、原子力事故により影響を受けた人々の支援およびケアに関する枠組みを定めたものです。同法はまだ施行されておらず、私は日本政府に対して、同法を早急に施行する方策を講じることを要請いたします。これは日本政府にとって、社会低弱者を含む、被害を受けた地域が十分に参加する形で基本方針や関連規制の枠組みを定める、よい機会になるでしょう。

そして、記者会見における質疑の中で、グローバー氏は、「専門家の人たちだけなく地域社会の人がかかわってすべてのことをしなくては駄目だ。他の国でもよくあることで、意図してのことではないが、政府は専門家だけで決めようとしがちである。しかし、それでは十分ではない。専門家というのは一部のある事象しかわかっているにすぎず、コミュニティ全体がかかわっていくことでよりよい結果が得られる」と述べ、このことを日本政府側に伝えたとした(なお、この質疑内容は記者会見の動画からおこしたものであり、原文そのままではない)。そして、低線量被ばくの影響については否定する見方と肯定する見方があるが、政府はどちらが正しいとすべきではなく、用心深い立場で何事も排他せず包括的に物事を進めるべきとした。最後に、チェルノブイリ事故では3年間情報が秘匿されておりよい例ではないとしながら「民主的な国である日本で起ったからこそ、すべての調査、すべてのプロセスに地域社会をかみあわせていかねばならない。それがあってこそ、徹底的で、オープンで、包括的で、科学的な調査が行われるべきものであろう」と述べた。

非常に鄭重で、日本政府の立場を傷つけないようにとする配慮に満ち満ちていたが、グローバー氏の主張は、福島第一原発事故における住民対策総体を、事故以前にまでさかのぼって包括的に批判しているものといえよう。グローバー氏の批判点は、日本国内でも批判されているものが多いが、それら日本国内での批判が、国際的な立場からも正当化されるものであることを示した点は重要であるといえる。特に、グローバー氏が強調していることは、福島原発事故後の健康対策が、100mSv未満は健康に影響がないとする一部の専門家に依拠して行われ、住民の主体性を排除していることである。その上で、グローバー氏は、経済的援助を前提に避難か帰宅かを選択する権利が住民に認められるべきであるとし、さらに、健康調査・避難所設計・除染などのすべての意思決定プロセスに、社会的弱者を含んだ被災者住民が参加することを主張したのである。このことは、今すぐ取り入れなくてはならない「提案」といえるのである。

グローバー氏の記者会見の最後で、「民主的な国である日本で起ったからこそ、すべての調査、すべてのプロセスに地域社会をかみあわせていかねばならない。それがあってこそ、徹底的で、オープンで、包括的で、科学的な調査が行われるべきものであろう」と「希望」したくだりを聞いた時、恥ずかしくてたまらなかった。彼は、国連側の人間であり、日本政府を批判するためにきたわけではないので、当然そのような言い回しをするだろう。しかし、本当に可能なのか。今、暗澹として、日本の現状をかえりみざるをえない。しかし、逆にいえば、グローバー氏のいうような調査・医療が被災地で行われることこそ、日本が真に民主主義の下にある証になるだろうといえる。

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福島県の健康問題は、すでに国連の人権問題になっている。朝日新聞では、2012年11月3日に次のような記事をネット配信している。

「福島住民の健康の権利守れ」 国連人権理事会が勧告

 【ジュネーブ=前川浩之】日本の人権政策について、各国が質問や勧告(提案)ができる国連人権理事会の日本審査が終わり、2日、各国による計174の勧告をまとめた報告書が採択された。福島第一原発事故について、住民の健康の権利を擁護するよう求める勧告が盛り込まれた。
 普遍的定期審査(UPR)と呼ばれ、加盟国すべてに回る。日本は2008年以来2回目で、討論には79カ国が参加。法的拘束力はないが、日本は来年3月までに勧告を受け入れるかどうかを報告するよう求められる。
 福島事故をめぐり、オーストリアだけが「福島の住民を放射能の危険から守るためのすべての方策をとる」よう求めた。日本は、11月中に健康の権利に関する国連の特別報告者の調査を受け入れると表明した。
http://www.asahi.com/international/update/1103/TKY201211030340.html

その結果、国連人権理事会の助言者グローバー氏が来日した。そして、朝日新聞は、27日付朝刊で「福島の健康調査「不十分」 国連人権理事会の助言者が指摘」という記事を掲載した。この記事の担当者は大岩ゆりである。まず、この記事をみてほしい。

福島の健康調査「不十分」
国連人権理事会の助言者が指摘

 東京電力福島第一原発事故の影響を調べるため、来日した国連人権理事会の助言者、アナンド・グローバー氏が26日、都内で記者会見した。福島県民への健康調査について「不十分」と指摘。さらに「除染のあり方などを決める場に住民が参加していないのは問題」と述べた。
 インド人弁護士のグローバー氏は、福島県民らの「健康を享受する権利」が守られているか調べるため、政府や東電関係者、県民らから事情を聞いた。この結果は来年6月の国連人権理事会(前身・人権委員会)に報告され、日本政府に勧告すべきか議論される。
 福島県などが行っている子どもの甲状腺検査や一般的な健康診断、アンケートについて「内容が不足している。チェルノブイリの教訓や、100ミリシーベルト以下でもがんなどの健康影響があるとする疫学研究を無視したものだ」と批判した。具体的な提案、改善策にはふれなかった。
 また、甲状腺検査を受けた子どもの保護者が検査記録を入手するには、県の複雑な情報公開請求手続きが必要なことについても言及。「別の専門家を聞いたり、検査を受けたりできる権利が守られていない」と懸念を示した。
 さらに、健康調査だけでなく、避難区域の解除や除染の枠組み決定のプロセスについて、グローバー氏は「住民が参加していない。健康に影響が及ぶ意思決定やモニタリングなど、すべての過程に住民が参加すべきだ」と指摘した。(大岩ゆり)
 

つまり、国連人権理事会の助言者グローバー氏は、福島県の健康診断について、チェルノブイリ事故の教訓や低線量被曝の影響などを考慮しない不十分なものであること、子どもに対する検査結果の保護者への開示が不十分で他の検査を受けたり専門家の意見を聞けないものであること、除染方法の決定過程に住民が参加できないことなどをあげて、国連人権理事会に報告する意向であると記者会見で述べたのである。

これは、福島県の健康調査や除染のあり方が、最早、国連人権理事会において勧告されるレベルの人権問題を惹起するにいたっていること示しているといえる。私自身は福島に住んでいるわけではないので詳しくは知らないが、時折伝えられる福島の状況からみても、そうだと思われる。

そして、不十分と指摘された福島県の児童を対象とした甲状腺検査でも、このブログでも伝えたように、甲状腺異常が約42.1%、二次検査の必要な児童が0.5%、がん患者1人が発見されている。最早、「低線量被ばくは人体に影響ない」という通説に依拠して放置できる状態ではないと考えられるのである。この放置もまた、人権問題にほかならない。

それにしても、この数日における福島県の健康問題に対する朝日新聞とその記者(大岩ゆり)の姿勢は大きな問題をはらんでいると思う。朝日新聞では、11月20日付朝刊で次のような記事を掲載している。ここでは、ネット配信した分のみを紹介したい。

甲状腺検査、長崎でも 環境省、福島の子どもと比較

 

【大岩ゆり】環境省は19日までに、長崎県の子どもを対象に甲状腺検査を始めた。東京電力福島第一原発事故による健康影響調査として福島県が実施する、同県内の子どもの甲状腺検査の結果と比較し、被曝(ひばく)の影響の有無をみるのが目的。同県では4割の子どもの甲状腺にしこり(結節)などが見つかっている。
 チェルノブイリ原発事故では子どもの甲状腺がんが増えたため、福島県は事故当時18歳以下の子ども36万人を対象に甲状腺検査を生涯続ける計画だ。これまでに検査結果が出た約9万6千人の40%に結節や液体の入った袋(嚢胞=のうほう)が見つかり、1人が甲状腺がんと診断された。
 保護者からは被曝の影響を心配する声が出ているが、子どもの甲状腺をこれだけ高性能の超音波検査機で網羅的に調べた例はなく、「4割」の頻度が高いかどうか判断がつかない。
http://www.asahi.com/special/10005/intro/TKY201211190881.html

この記事では、その後、長崎での調査のあり方などが記載されているが、ここでは、省略する。問題なのは、大岩ゆり自体も甲状腺異常の児童が約40%発見されたことを認めているということなのだ。しかし、大岩ゆりは「「4割」の頻度が高いかどうか判断がつかない。」としている。

そして、朝日新聞11月25日付朝刊の1面トップで大々的に「福島のがんリスク、明らかな増加見えず WHO予測報告」と報道している。この担当者も大岩ゆりなのだ。その中で、彼女は「日本人の2人に1人は一生のうちにがんが見つかっており、福島県民約200万人のほぼ半数はもともとがんになる可能性がある。このため、仮に被曝で千人にがんが発生しても増加率が小さく、統計学的に探知できないということだ。」としている。しかし、記事本文をよく読むと、「予測」においてすら小児甲状腺がんが増加することが指摘されている。こういう「明らかな増加見えず」という判断自体に問題があるのだ。

そして、今回の「福島の健康調査「不十分」 国連人権理事会の助言者が指摘」という記事が27日付朝刊に出される。その担当者も大岩ゆりなのだ。このように一貫性のない報道では、私も含めた読者が混乱することになる。

そのことについて、第一には、それぞれの場所で発表されることを、前後の一貫性もなく、ただ新聞に垂れ流しているのであろうと指摘できる。こういう記事の速報性は必要だが、その前後の脈絡も含めて提供すべきだろう。それこそ、3.11直後のマスコミ報道において問われたことであった。しかし、それが、いまになっても生かされていないのである。

第二にいえば、福島県の放射線の影響を少なく見積もった記事が大々的に取り上げられているということである。すでに、福島の健康問題が国連人権理事会で取り上げられるほどの人権問題になっていることは、報道されても小さく扱われている。そのように、当局や推進派学者の都合のよいことを大々的にとりあげるということも、3.11直後のマスコミ報道で問題となったことであった。その反省がないのである。

このような意味で、朝日新聞の姿勢が、記者も含めて問われねばならないと思う。

追記:現在、福島県における児童の甲状腺検査は、36万人を対象としているが、9万6000人しか終了していない。その意味で、甲状腺異常や二次検査の人数について確定的に述べることは適当ではない。過去の本ブログで人数についても言及しているが、9万6000人を対象とした調査結果を36万人のものとしてみた場合の推測値でしかないので、削除・訂正することにした。

 

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