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現在、安倍内閣は、国会に特定秘密保護法案を提出している。これに対し、いろんなところから、批判の声があがっている。恒例の官邸前抗議行動においても、多くの人が特定秘密保護法案によって原発情報が隠蔽されることを懸念するスピーチやコールが行わっている。

そして、この場で知ったのだが、福島県議会では、特定秘密保護法案について、「原発情報」が隠蔽されることを危惧し、慎重審議を求める意見書が決議されたということである。帰宅して、ネット検索してみた。実は、多くのマスコミがこの情報をネットにあげていない。ようやく、福島民友のネット配信記事をみつけることができた。次にあげておく。

「原発情報」隠蔽危惧 秘密保護法案めぐり県会意見書
 「原発の安全性に関わる問題や住民の安全に関する情報が『特定秘密』に指定される可能性がある」。安全保障上の情報保全徹底を掲げる特定秘密保護法案をめぐり、県議会は10月9日、全会一致で「慎重な対応を求める」とする首相、衆参両院議長宛ての意見書を可決した。東京電力福島第1原発事故直後、放射性物質の拡散について十分な情報開示がなされなかったことへの不信感が根強い。意見書の背景には「重要な情報がまた隠されるのではないか」との危機感がある。
 原発事故では、放射性物質の拡散を予測する「緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)」の試算結果が、事故の初期段階で公表されず、住民の避難に生かされなかった。浪江町の一部の住民は、第1原発から放出された放射性物質が大量に流れて、放射線量がより高い地域に避難していたことが後から判明した。国が適切に公表していれば「無用の被ばく」を防げたはずだという住民たちの怒りは、今も収まっていない。
(2013年11月5日 福島民友ニュース)
http://www.minyu-net.com/news/news/1105/news9.html

ここで重要なことは、この意見書が全会一致で決議されたということである。つまりは、かなり多数いると思われる自由民主党員の福島県議会議員たちも、この意見書に賛成したのである。

そして、この意見書は、福島県議会のサイトにpdfの形でアップされている。ほとんど紹介されていないので、ここであげておこう。

特定秘密の保護に関する法律案に対し慎重な対応を求める意見書
今秋の臨時国会に政府から提出が予定されている「特定秘密の保護に関する法律案」では、「特定秘密」について、「防衛」「外交」「外国の利益を図る目的で行われる安全脅威活動の防止」「テロ活動防止」の4分野の中で、国の存立にとって重要な情報を対象としているが、その範囲が明確でなく広範にすぎるとの指摘がある。
事実、日本弁護士連合会では、憲法に謳われている基本的人権を侵害する可能性があるとして、同法案の制定に対して反対の立場を明確にしており、また、当県が直面している原子力発電所事故に関しても、原発の安全性に関わる問題や住民の安全に関する情報が、核施設に対するテ口活動防止の観点から「特定秘密」に指定される可能性がある。
記憶に新しいが、放射性物質の拡散予測システムSPEEDIの情報が適切に公開されなかったため、一部の浪江町民がより放射線量の高い地域に避難したことが事後に明らかになるケースがあった。このような国民の生命と財産を守る為に有益な情報が、公共の安全と秩序維持の目的のために「特定秘密」の対象に指定される可能性は極めて高い。
今、重要なのは徹底した情報公開を推進することであり、刑罰による秘密保護と情報統制ではない。「特定秘密」の対象が広がることによって、主権者たる国民の知る権利を担保する内部告発や取材活動を委縮させる可能性を内包している本法案は、情報掩蔽を助長し、ファシズムにつながるおそれがある。もし制定されれば、民主主義を根底から覆す瑕疵ある議決となることは明白である。
よって、国においては、特定秘密保護法案に対し、慎重な対応をするよう強く要望する。
以上、地方自治法第99条の規定により意見書を提出する。
平成25年10月9日
衆議院議長
参議院議長あて
内閣総理大臣
福島県議会議長 斎藤健治
http://wwwcms.pref.fukushima.jp/download/2/2509iken01.pdf

内容を簡単に概括すれば、まず、特定秘密保護法の対象が広範で明確ではなく、テロ防止の観点から原発情報が隠蔽されるおそれがあるとしている。そして、3.11直後、「放射性物質の拡散予測システムSPEEDIの情報が適切に公開されなかったため、一部の浪江町民がより放射線量の高い地域に避難したことが事後に明らか」になったケースがあったことが想起されている。その上で、このように主張している。

今、重要なのは徹底した情報公開を推進することであり、刑罰による秘密保護と情報統制ではない。「特定秘密」の対象が広がることによって、主権者たる国民の知る権利を担保する内部告発や取材活動を委縮させる可能性を内包している本法案は、情報掩蔽を助長し、ファシズムにつながるおそれがある。もし制定されれば、民主主義を根底から覆す瑕疵ある議決となることは明白である。
よって、国においては、特定秘密保護法案に対し、慎重な対応をするよう強く要望する。

この意見書は、特定秘密保護法案はファシズムにつながるとすらいっているのである。このような意見書を、自由民主党員である福島県議会議員たちも賛成したのである。

思えば、3.11直後、原発事故情報の隠蔽は、福島県だけではなく、日本全国に及んでいた。そして、それが、近年には見られなかった反原発運動の高まりにつながったといえる。もちろん、特定秘密保護法案の問題は、原発情報の隠蔽だけではとどまらない。この意見書が指摘するように「民主主義を根底から覆す」ものなのである。そして、この「民主主義」は、反原発を進めるためにも必須なのである。

現在、国会議員の多数は与党である自由民主党と公明党が握っている。民主党の対応もよくわからない。この法案が今後どうなるのか、全く不明である。しかし、一つ言わなくてはならないことは、反原発を進める前提において「民主主義」が必要であるということを、全く逆説的な形で安倍内閣が提示したということである。福島だけでもなく、自民党に投票した多くの人びとは、広い意味で原発を廃止・減少させることを求めていた。しかし、その結果登場した安倍内閣は、自民党員の意向にすら反した形で原発再稼働を進めるだけでなく、原発情報の隠蔽につながる特定秘密保護法案制定に動いているのである。

そして、そういう政治がいつまで続けるだろうか。そのことを暗示させるのが、今回の福島県議会の意見書であるといえよう。

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福島第一原発における危機的状況に対して、ようやく、国会においても議論をしなくてはならないという動きが出てきた。茂木経産相は、8月26日に、汚染水対策につき、国が前面に出ることを強調し、凍土による遮水壁の設置などについては、国が財政措置をとるこも検討すると述べた。以下の時事新報のネット配信記事をみてほしい。

汚染水対策の強化指示=局長級ポスト新設―茂木経産相
時事通信 8月26日(月)21時35分配信
 茂木敏充経済産業相は26日、東京電力福島第1原発を視察後、「汚染水対策はモグラたたきのような状況。今後は国が前面に出る」と改めて強調した。経産省に汚染水対策担当の局長級ポストを新設することを明らかにした上で、貯蔵タンクの汚染水漏出問題を踏まえ、東電にタンクの管理体制強化や水漏れしにくいタイプへの切り替えなど5項目を指示した。福島県楢葉町の東電復興本社で報道陣に述べた。
 東電に対しては他に、タンクの見回り強化や汚染水の放射性物質除去の加速、汚染水貯蔵に関するリスクの洗い出しを指示。原発敷地内の土を凍らせて地下水の流入を防ぐ遮水壁など、緊急性があり技術的に難易度が高い対策は、予備費活用を含め財政措置も検討する考えを表明した。
 指示を受け、東電の広瀬直己社長も復興本社で記者会見。「必要な要員や機材を投入し、管理していきたい」と述べ、同日付で社内に汚染水・タンク対策本部を新設したと発表した。タンクの運用強化や地下水分析など計15のプロジェクトチームを設置し、内外の専門家から助言を仰ぐという。 
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130826-00000147-jij-soci

そして、民主党の海江田万里代表も、26日に、とりあえず福島第一原発の高濃度汚染水問題について、閉会中審査という形で国会で議論していくことを自民・公明両党に求めた。しかし、その際、「海江田氏は、同問題が2020年の東京夏季五輪招致へ影響を与える恐れがあると指摘、『政府が前に出て責任を持つと国際社会に明らかにすることが大切だ』と注文をつけた」(朝日新聞朝刊2013年8月27日号)としたという。つまり、海江田にとって、福島第一原発の汚染水問題は、まずはオリンピック招致活動に影響が与えるかいなかという問題なのである。

それは、自民党も同様であった。8月29日、自民党の東日本大震災復興加速化本部は「汚染水対策の加速求める決議」を可決したが、その背景として「国民に強い不安を与えており、風評被害が拡大する」、「2020年のオリンピックとパラリンピックの東京招致にも影響が出かねない」という声があったことをNHKは指摘している。

汚染水対策の加速求める決議
8月29日 16時5分

自民党は、東日本大震災復興加速化本部の会合を開き、東京電力福島第一原子力発電所でタンクから汚染水が漏れ、海に流れ出たおそれがある問題について、関係省庁が一体となり、十分な財政措置をとって対策を加速させるよう求める決議を行いました。

会合では、福島第一原発で高濃度の放射性物質を含む汚染水がタンクから漏れ、海に流れ出たおそれがある問題について、「国民に強い不安を与えており、風評被害が拡大する」、「2020年のオリンピックとパラリンピックの東京招致にも影響が出かねない」といった指摘が出されました。
こうした指摘を受けて会合では、「国が前面に立って問題の早期解決を図るべきだ」として、政府が対策の具体的な内容などを国民に丁寧に説明することや、経済産業省や原子力規制委員会など、関係省庁が一体となった体制を速やかに構築し十分な財政措置をとって対策を加速させることなどを求める決議を行いました。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130829/k10014132501000.html

このように、民主党にしても自民党にしても、まずは東京オリンピック招致が大事なのである。そのことが、非常に不思議な事態を惹起した。2020年オリンピックの候補地が決定される9月7日のIOC総会まで、議論を先送りしようということが自民党・民主党の衆院経済産業委員会の理事たちによって8月30日に合意されたのである。次の朝日新聞の記事をみてほしい。

汚染水漏れ、国会チェック機能果たさず 審議先送り
朝日新聞デジタル 8月30日(金)23時58分配信

 東京電力福島第一原発の放射能汚染水漏れをめぐり、国会の機能不全が露呈した。2020年東京五輪招致への影響に気兼ねし、衆院経済産業委員会の閉会中審査が先送りに。五輪のために汚染水問題にふたをしたとの批判を招きかねない対応に被災地では怒りの声が上がる。五輪招致関係者からは「逆に招致に悪影響を与える」との懸念も出ている。

 30日、国会内で開いた衆院経済産業委員会の理事懇談会。自民党の塩谷立筆頭理事が「安倍晋三首相も政府を挙げて取り組むと言っている。もう少し時間をとったうえで検討したい」と表明した。民主党の近藤洋介筆頭理事は現地視察を提案。政府側が五輪招致を決める9月7日の国際オリンピック委員会(IOC)総会前に打ち出す汚染水対策を見極めることで、事実上先送りを容認した。

 もともと閉会中審査は、野党の要求に応じる形で自民党が開催を検討した。だが、五輪開催地の決定直前に開けば、審議を通じて事故の深刻さや政府の対応の遅れがさらに強調されて世界に伝わり、東京招致に悪影響を及ぼしかねない――。こんな懸念が政権内に広がった。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130831-00000003-asahi-pol

結局、自民党も民主党も、オリンピック招致が第一の課題なのであり、それに影響を与えることが予想される福島第一原発問題の国会審議は先送りしてしまったのである。朝日新聞の「国会チェック機能果たさず」という見出しは正鵠をついているだろう。

福島第一原発の汚染水問題は、福島県をはじめ、日本列島に住む人びとの生存について脅威を与えている。さらに、放射能物質による海洋汚染は、韓国・中国・台湾・ロシア・カナダ・アメリカなどの北太平洋に面する諸国の間における国際問題にもなっている。より広くいえば、福島第一原発問題は、世界全体の問題にもなっているだろう。

それに、汚染水問題ということは、福島第一原発の廃炉作業にとって、入口の問題にすぎない。実際には、原子炉内の破損された核燃料などをとりだし、原発全体を解体するという、資金的にも技術的にも難しい作業がまちかまえている。現状では、汚染水問題という入口の問題すら解決できないということになるだろう。

それに対して、自民党も民主党もまず第一の課題として念頭にあることは、東京オリンピック招致なのである。私個人は、東京でオリンピックを開催するということは、過密過疎問題を拡大し、東京にせよ、地方にせよ、どちらにとっても有益にはならないと思っている。ただ、日本の他の都市でオリンピックを開催することには反対しない。しかし、どちらにせよ、福島第一原発の現状において、オリンピック招致活動をしている状態なんだろうかと考えている。2020年においても、確実に福島第一原発は存在している。汚染水問題よりも解決困難な課題に直面しているかもしれない。そして、東電にせよ、政府にせよ、その時に可能な限り適切な対応しているだろうかと思う。

政府側のいっている「国が前面に出る」というのも、凍土による遮水壁設置に国費を支出するなど、部分的に可能な対策をあげているにすぎない。そして、最早、いろんな人びとが「健忘」しているが、東電は福島第一原発事故の「責任者」であるにもかかわらず、国から資金提供を受け、破たん処理を免れている存在なのである。東電自体は「リストラ」されたが、株主や金融機関は、直接的損害は免れているのである。そして、廃炉作業にせよ、除染にせよ、補償にせよ、東電が現状では費用を賄うことはできず、国から支援された資金を返済できるあてもない。国費で廃炉作業を行うことは必要な課題であるが、その枠組みもなくただ資金をつぎ込むことは、倫理的にも経済的にも問題がある。

そのような議論も含めて国会という公開の場で福島第一原発について討論をすることは、喫緊の課題である。しかし、自民党や民主党の議員たちは、東京オリンピック招致という、たぶん、日本列島に住む人びとにとっても、世界の人びとにとっても、生存の問題とはいえない問題を第一に考え、それへの影響を懸念して、福島第一原発問題における閉会中審査を先送りした。本末転倒としかいえないのである。

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さて、今回は、韓国・聖公会大学日本学科教授権赫泰氏のインタビュー記事である「現代日本の『右傾化』と『平和主義』について」(京都大学新聞2013年4月16日号、5月16日号掲載)を紹介しておきたい。権氏は、ある歴史の学会で報告される予定であったが、病気のため報告できなくなった。ただ、すでに報告要旨などはあり、また、主催者側が権氏の議論を自己の責任で紹介するレジュメが配布された。報告要旨やレジュメには、日本の平和主義や反原発運動についてのかなり激しい批判が語られていた。ただ、本人不在で要旨・レジュメ類でその意図をつかむことは難しい。このレジュメ類の中で、部分的に京都大学新聞に掲載された「現代日本の『右傾化』と『平和主義』について」というかなり長いインタビュー記事が部分的に紹介されていた。後日、このインタビュー記事全体を入手した。そこで、このインタビュー記事をもとに、権氏の日本の平和主義や反原発運動についての批判の意味することを検討していきたい。なお、今回は、日本の平和主義についての権氏の見解を中心にみていくことにしたい。

まず、権氏は、韓国では日本を軍国主義というイメージでとらえることが多く、日本の平和主義について、韓国での認識は低かったと指摘している。その上で、近年の日本が右傾化しているということに対しては、

左か右かはそんなに大事な問題ではない…ただ、要するに一言でいえば平和憲法とそのもとで設けられている自衛隊それから在日米軍の問題、これをどうみるかということだと思うんですね、それに尽きる。(京都大学新聞2013年4月16日号)

と述べている。これは、ある意味で、原則主義の立場に立っているといえる。平和主義というのであれば、自衛隊が存在し、在日米軍の核の傘の下にあること、どう向き合うべきなのかをまず考えるべきということになるだろう。

その意味で、権氏は、鋭く、日本の「平和主義」の欺瞞性を鋭く批判する。

で、左派は反対反対反対と言い続けていつの間にか、国旗国歌法が制定される。で、それを呑みこまざるを得ない。憲法にしても同じこと、自衛隊にしても同じことという。その繰り返しがずっと起っている。
 要するに、日本戦後社会、平和主義といった場合、「平和主義」という言葉表現そのものが、一種のいってみれば過剰表現だった。過剰表現というのは「いいすぎ」。どういうことかというと、その言い過ぎの表現があるがために、現実性の麻酔効果があったと思う。つまり、現実では麻酔効果があったと思う。つまり、現実では全く「平和主義」が機能していないのに、あたかも言葉が先行してしまうということ…いや、ただね、だからといって憲法改正がいいのかなんてそんなことはなくて、それでも「歯止め」の役割はあるじゃないですか。だから、憲法をどう、できるだけ良い働き、というか、つまり最小限の防波堤の役割を、憲法に期待せざるを得ない状況、というのは逆にいうとすごく情けないですよね。(京都大学新聞2013年4月16日号)

結局、「平和主義」は現実を麻酔させるものでしかなかったとし、憲法は確かに歯止めにはなっているが、それを憲法に期待することは情けないことではないかと主張しているのである。

権氏にとっては、いわゆる「右傾化」の中心人物たちではなく、むしろ、「現実的な対応」をしようとした人びとたちこそ、より警戒すべきとしている。慰安婦問題が提起されるのは、韓国の民主化があったからとしながら、それに対して、村山談話など日本国家の「謝罪」を構想していった和田春樹などの営為については「謝罪というのはコストがかからない、分りやすくいえばすごい安上がりなんです」と批判し、「これは和田春樹さんの謝罪に基づいて日韓関係に決着をつけようとした、いわゆる現実路線というのは破綻したと思う。」(京都大学新聞2013年4月16日号)と総括している。権氏は、次のように指摘している。

「靖国なんてダサいしそんなところ行かない」「もう悪かった」「ただ憲法は改正します」。どうですか?そういう発想は。僕はそれが一番怖いですよ…日本の保守政権が「現実」路線を取ると思いませんか?(京都大学新聞2013年4月16日号)

そして、権氏は、現実路線をとる可能性が高かったのは民主党政権であったと思うが、結局、民主党ですら「左翼的」といわれてつぶれてしまったと述べている。

そして、権氏は、韓国におけるナショナリズムの問題は、それが批判されるべき問題ではあるが、独島問題などは、韓国ナショナリズムの問題ではあるが、植民地主義の問題でもあるとしている。権氏は、次のように述べている。

基本的にナショナリズムと植民地主義の結合というかたちで捉えるべきじゃないのかな。ナショナリズムを批判すれば何でも解決できると思い込んでいることもちょっとおかしい。特に上野千鶴子さんの台頭後はそんな感じになってきているから。(京都大学新聞2013年4月16日号)

さらに、権氏は、日本においても韓国においても、地域としてのアジア全体の中でとらえようとする思想的営為にかけていると論じている。そして、権氏は、次のように述べている。

…例えば東アジアで生活している人たちが、国別ではなく地域的なレベルで何らかのかたちで平和的秩序を造らないと、一国のレベルで民主主義を成し遂げても、それは不安定であり、あるいは何らかのかたちで周りの人間に被害を与えるという問題意識がすごく大事ですよね。それがなければ、アジア的枠組みでとらえる必要がなくなっちゃう。(京都大学新聞2013年5月16日号)

このように、権氏の日本の平和主義理解は、徹底的に原則主義の上にたっている。その意味で「護憲論」も、自衛隊や在日米軍の問題を無視している限り、平和主義の「麻酔」の中にあると彼は考えているといえよう。つまり、日本の「平和主義」は現実を隠蔽するイデオロギーでしかないのである。そして、権氏の警戒対象は、右傾化の中心人物ではなく、歴史認識と外交問題を切り離し、日本の植民地主義責任などは認めつつ、憲法改正はしようとする「現実的」対応を構想する人びとなのである。真の平和主義ならば自衛隊保有や在日米軍を問題にしなてはならないという原則主義を堅持し、その視点から日本の「平和主義」をイデオロギーとして批判し、現実主義に警戒するということが、権氏の議論の中心にあるといえよう。

権氏のような議論は、確かに、原則を無視して安易な「現実主義」に走ることについての的確な批判であり、その意味で、こういう議論は必要であるといえる。しかし、逆にいえば、どのような具体的な営為が今可能なのかということを提起していないといえる。例えば、確かに平和憲法は「歯止め」でしかないのであるが、それでも、その存在は意義があり、平和憲法を正当性原理とした九条の会のような運動が展開もしている。また、村山談話などが不十分であるだけでなく、国家権力の戦略を含んでいることも事実といえるが、これもまた、このような村山談話も一つの歯止めになっているのだろうと思う。いわば、さまざまな勢力、多様な思想のせめぎ合いの中で、現実の政治や運動は動いているといえよう。その中で、どのような営為が可能なのかということも重視すべきことではないかと考える。

このような権氏の思想的特色は、反原発運動の批判のなかでより鮮明に現れてくる。次回以降、権氏の反原発運動批判を検討していきたい。

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さて、本日9月21日は、民主党の代表選が投開票される日である。報道によれば、現職の野田首相の再選が確実と聞く。

同時並行的に行われている自民党総裁選は、テレビなどの露出も多く、街頭演説なども多いらしい。しかし、民主党の代表選は、テレビへの露出も少なく、街頭演説もほとんどない。

しかし、一度は行わなくてならないと考えたらしく、9月19日午後4時半より、野田佳彦、鹿野道彦、赤松広隆の三候補は、新宿駅西口にて街頭演説会を実施した。なお、原口一博は、沖縄にいっており、この演説会には出ていない。

野田首相の演説分をとった映像が youtubeに投稿されている。ここで紹介したい。

10分はある映像だが、最初のところだけみれば、大体理解できる。野田は、群衆に「帰れ」「帰れ」や「人殺し」などと野次られながら、演説を行っていたのである。

この状況をもっともよく伝えているのが、日刊ゲンダイの次のネット記事である。

野田首相初の街頭演説「人殺し」「辞めろ」コールに思わず涙目
【政治・経済】

2012年9月20日 掲載

 野田首相は、自分がどれだけ国民から嫌われているか、身に染みて分かったのではないか。
 19日、民主党代表選の街頭演説が東京・新宿で行われた。詰めかけた聴衆の手には「辞めろ」「ウソつき」などと書かれたプラカード。野田が登場すると、「帰れ!」「人殺し!」とヤジや罵声が飛び、最後は「辞めろ」コールの大合唱で演説がまったく聞こえないほどだった。
「反原発の官邸デモの件もあって、総理は街頭演説を嫌がっていた。今回は反原発の左翼だけじゃなく、尖閣問題で右翼も警戒しなければならない。それで、大阪と福岡で行われた演説会も屋内開催になったのです。しかし、自民党総裁選が各地で街頭をやっているのに、民主党が1回もやらないのでは批判されると中央選管から泣きつかれ、急きょ投票2日前の街頭演説会となった。新宿駅は聴衆と選挙カーの間に大きな道があって安全ということで、総理も納得してくれました。警視庁とも相談し、警備しやすい安全な場所を選んだのですが……」(官邸関係者)
“演説力”が自慢の野田にしては意外な気もするが、街頭演説は首相就任後これが初めて。昨年12月に新橋駅前で予定されていた街頭は、直前に北朝鮮の金正日総書記死去の一報が入って取りやめになった。
 今回は万全の警備態勢を取り、民主党関係者も動員したのだが、野田が演説を終えても拍手は皆無。怒号とヤジがやむことはなく、さすがに野田も涙目になっていた。これがトラウマになり、二度と人前に出てこられないんじゃないか。最初で最後の街頭演説かもしれない。
「右からも左からも、これだけ攻撃される首相は珍しい。最近は、千葉県の野田首相の事務所や自宅でも『落選デモ』が数回にわたって繰り広げられています。首相の自宅前をデモ隊が通るなんて、自民党政権では考えられなかったこと。かつて渋谷区松濤にそびえる麻生元首相の豪邸を見にいこうとした市民団体は、渋谷駅前のハチ公広場からスクランブル交差点を渡ったところで止められ、3人が逮捕された。警察も、野田政権は長く続かないと考えているのでしょうか。もはや政権の体をなしていません」(ジャーナリストの田中龍作氏)
 こんなに嫌われている男が再選確実なんて、悪い冗談としか思えない。民主党が国民から見放されるのも当然だ。
http://gendai.net/articles/view/syakai/138764

つまり、右からも左からも攻撃されているのが、現在の野田首相なのである。そのことは、野田自身も予期していたと思われる。本来、代表選であっても、ライバル自民党との対抗のため、街頭演説をなるべく実施しようとするのが当然のことであろう。しかし、こうなることを予期して、街頭演説を最小限にとどめたと考えられる。それであっても、このような状態なのだ。

野田の演説をところどころ聞くと、自民党の批判を中心にしているように思われる。朝日新聞は、次の記事を9月20日ネット配信している。

ヤジで声がかき消されそうになる中、首相の語り口も次第にヒートアップ。「財政がひどい状態になったのは誰の政権下だったでしょうか」「原子力行政を推進した政権は誰だったんですか」「領土、領海をいい加減にしてきた政権は一体誰だったんですか」

 消費増税をめぐって自民党との合意を優先してきた首相とは思えないほど、自民党を厳しく批判。聴衆に笑顔を振りまくこともなく会場を後にした。
http://www.asahi.com/special/minshu/TKY201209190746.html?ref=chiezou

しかし、野田を野次っている人びとは、彼の自民党批判を聞きにきたわけではない。野田政権が進めている原子力政策や尖閣諸島国有化による日中摩擦を批判しているのだ。そして、可能ならば、それに対する野田の弁明を聞いてみたいのだ。だが、野田は、群衆が批判する声にこたえようとせず自民党批判を続けている。野田だって人間なので、まったく感じないわけではないようで、「涙目」「ヒートアップ」になったといわれている。しかし、その演説内容は、少なくとも、その批判に答えようとしたものではない。いわゆる抽象的な「有権者」しか眼中にないのだ。野田にとって、いちおう野次と怒号は肉体的に反応を余儀なくされた「大きな音」ではあったが、理性的に対応する必要がある「大きな声」ではなかったのだ。

昔、ソ連解体過程で、リトアニアの独立派のデモの前で、ゴルバチョフがその説得を試みようとしたことがある。そういった意志は全くない。批判している人びとを説得するのではなく、それを無視して、自説を続けるということーこれが、民主党政権のあり方を象徴的に示しているといってよいだろう。

この街頭演説について、多くのマスコミはあまり伝えようとはしていなかった。今挙げたもの以外では、TBSがニュース23の中で、群衆の野次・怒号と各候補の演説内容を要領よくまとめているくらいである。

その中で、特筆すべきは、フジテレビである。9月19日に、このように報道した。

この映像では、全く、野田首相を野次っている群衆の姿は写っていない。そればかりか、野田首相を野次る群衆の声すら聞こえない。野田首相が自民党批判している声が非常にクリーンに聞こえてくる。まるで、批判する群衆などは不在の映像なのだ。

知人によると「ライン録り」ーアンプから直接録音機材に連結するーでとっているのではないかと話していた。いずれにせよ、これは、まさに、野田を批判する群衆などはいないがごとき映像なのである。たぶんに、フジテレビは、マスコミとしての特権から、ライン録りを許可されたのだと思う。それがゆえの映像なのだ。確かに、野田らの演説は、よく聞こえる。そして、このような映像がマスコミを通じて配信されることを、民主党側は期待していたといえるのだ。群衆を無視した野田は、テレビを通じて抽象的な「有権者」に自民党批判を語りかけたかったのであろう。

しかし、逆にいえば、フジテレビは、全くあの街頭演説会の状況を伝えなかったともいえるのだ。そして、それは、この街頭演説会自体を報道しなかった他の各メディアもいえることである。その意味で、マスコミ報道自体のあり方も問われるべきことであるといえる。

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さて、前回のブログで、2012年6月20日、原子力規制委員会設置法の付則というかたちで、原子力基本法も法改正され、原子力三原則に「前項の安全の確保については、確立された国際的な基準を踏まえ、国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的として、行うものとする。」という文言が追加されたことを、原子力三原則の歴史的経緯からみてきた。簡単にいえば、被爆国ということを前提にした「原子力の平和利用」に限定するための方針である原子力三原則の精神に相反する改変であるといえる。

では、具体的には、どのような経緯で、原子力基本法は改変されたのか。ここでは、その経過をみていこう。

まず、どのような形になったのか。改正された原子力基本法の冒頭部分の改変個所を確認しておくことにしよう。「 」のところが改変された部分である。なお、原子力基本法は原子力安全委員会のことなども規定しており、そのようなことも、原子力規制委員会設置法で定められている。

(目的)
第一条
 この法律は、原子力の研究、開発及び利用(「以下『原子力利用』という」と付け加えられる)を推進することによつて、将来におけるエネルギー資源を確保し、学術の進歩と産業の振興とを図り、もつて人類社会の福祉と国民生活の水準向上とに寄与することを目的とする。
(基本方針)
第二条
 「原子力利用」(「原子力の研究、開発及び利用」を修正)は、平和の目的に限り、安全の確保を旨として、民主的な運営の下に、自主的にこれを行うものとし、その成果を公開し、進んで国際協力に資するものとする。
「2 前項の安全の確保については、確立された国際的な基準を踏まえ、国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的として、行うものとする。」

民主党内閣は、「原子力の安全の確保に関する組織及び制度を改革するための環境省設置法等の一部を改正する法律案」及び「原子力安全調査委員会設置法案」を国会に提出することを2012年1月31日に閣議決定したが、その中には、「安全保障に資する」などの規定はない。この2法案は、内閣府にある原子力安全委員会や経産省にある原子力安全・保安院などを、今回設置する環境省の外局としての原子力規制庁に一元化し、規制庁内部に「原子力安全調査委員会」に置くなど、原子力の安全性を保障する体制を確立することをめざしたものである。そこには「原子炉原則40年廃炉」という方針も設けられた。しかし、原子力基本法に対する姿勢は、今回の法改正とは全く違うものである。

具体的には、「原子力の安全の確保に関する組織及び制度を改革するための環境省設置法等の一部を改正する法律案」の第三条には、このような改正を規定している。

第三条 原子力基本法(昭和三十年法律第百八十六号)の一部を次のように改正する。
  第一条中「利用」の下に「(以下「原子力利用」という。)」を加える。
  第二条中「原子力の研究、開発及び利用」を「原子力利用」に改め、同条に次の一項を加える。
 2 前項の安全の確保については、これに関する国際的動向を踏まえつつ、原子力利用に起因する放射線による有害な影響から人の健康及び環境を保護することを目的として、行うものとする。
(後略)
http://www.shugiin.go.jp/index.nsf/html/index_gian.htm

現在の改定部分は、政府原案では、「前項の安全の確保については、これに関する国際的動向を踏まえつつ、原子力利用に起因する放射線による有害な影響から人の健康及び環境を保護することを目的として、行うものとする」とされていたのである。いわば、原子力基本法の「安全」規定を、「放射線による有害な影響」から健康や環境を保護することと、より詳細に決めている。これ自体も、原子力三原則の改変であるが、原子力三原則の精神に相反するものではないといえる。

しかし、この政府案に対抗して出された、自民党・公明党の「原子力規制委員会設置法案」は、全く相反した原子力基本法改変の提案を行っている。自公案は、政府案において首相が緊急時の対応において「原子力災害対策本部」より原子炉関係の指示することを嫌って、独立した形で「原子力規制委員会」を設置し、平時も緊急時もその委員会から安全対策を行うとするものである。政府案と自公案の考え方の違いは、福島第一原発事故への対応において、どこが問題になったかということへの見方の違いに起因している。政府案は、原子力安全・保安院や東電が十分な対応できず、政府側が指揮権を発動せざるをえないというところから構想している。他方、自民党側は、政府側が現場をーといっても東電や原子力安全・保安院ということになるがー振り回したことが事故の原因であるとし、ゆえに、政府から独立している「原子力規制委員会」に、緊急時の最終的指揮権を与えることを意図したものである。どちらもどちらであるが、政府案であれば、選挙の結果成立したまともな政府ー民主党政権ではないがーのもとであれば、より適切な事故対応が行われる可能性があるが、自公案であれば、専門家ーいわば「原子力ムラ」の人びとーから構成される「原子力規制委員会」にまかさざるをえないということになるだろう。

この自公案の「原子力規制委員会設置法案」では、第三条において、次のように規定している。

第三条 原子力規制委員会は、国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに我が国の安全保障に資するため、原子力利用における安全の確保を図ることを任務とする。
http://www.shugiin.go.jp/index.nsf/html/index_gian.htm

ここで、「安全保障」という文言が出ているのである。そして、付則第十一条において、このように規定しているのである。

(原子力基本法の一部改正)
第十一条 原子力基本法(昭和三十年法律第百八十六号)の一部を次のように改正する。
  第一条中「利用」の下に「(以下「原子力利用」という。)」を加える。
  第二条中「原子力の研究、開発及び利用」を「原子力利用」に改め、同条に次の一項を加える。
 2 前項の安全の確保については、確立された国際的な基準を踏まえ、国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的として、行うものとする。
(後略)
http://www.shugiin.go.jp/index.nsf/html/index_gian.htm

このように、あきらかに原子力規制委員会設置法案に引きずられた形で、原子力基本法を改変することがめざされているのである。そして、この原子力基本法の改定案は、実際に、この形で改変されたのである。

ある意味では、政府案と自公案は、原子力基本法の改変においても、全く違う姿勢をとっていた。それが、自公案をもとに改変されることになった。このことは、民主党・自民党・公明党の三党合意によるものといえる。次にかかげる毎日新聞のネット記事のように、6月14日、原子力規制委員会設置法案に関しての三党合意が成立した。ここでは、あまり強調されていないが、原子力規制委員会が原子力安全対策の要になることなど、民主党政権が、自公案にすりよったものといえる。そして、ほとんど報道されていないが、この中で、原子力三原則の改変も盛り込まれたのである。

<原子力>規制組織、3党最終合意…「原子力防災会議」新設
毎日新聞 6月14日(木)13時11分配信
 民主、自民、公明3党は14日午前、原子力の安全規制を担う新組織の設置法案の修正内容で最終合意した。首相をトップに全閣僚で構成する常設の「原子力防災会議」を新設。専門家らの「原子力規制委員会」が策定する原子力防災指針に基づき、原発敷地外での平時の防災計画や訓練などを推進し、関係各省庁、自治体との調整などの実務を行う。

 同会議は議長を首相が務め、副議長に官房長官と規制委員長、環境相を充てる。事務局は内閣府に置き、環境相を事務局長とする。3党は原子力基本法を改正し、同会議の設置を盛り込む方針だ。

 13日の3党実務者の修正協議で、原発敷地外の規制委、国、自治体の連携のあり方が最後の論点として持ち越されていた。

 14日午前に国会内で民主党の仙谷由人政調会長代行、自民党の林芳正政調会長代理、公明党の斉藤鉄夫幹事長代行が協議し、新法案の全容が固まった。新法案は今国会で成立する見通しだ。【岡崎大輔】
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120614-00000037-mai-pol

しかし、この後の経過はひどいものである。6月15日に、政府案・自公案はともに撤回され、環境委員長名で「原子力規制委員会設置法案」が提案され、即日環境委員会での審議を終えることを強要された。法案の趣旨説明もされたが、そこでは、原子力基本法の改正には言及されていなかった。共産党所属の吉井英勝衆議院議員の環境委員会における発言を、ここでは紹介しておく。

吉井議員 質疑時間の中で意見も表明してくれという話なんで、今から意見を申し上げておきたいと思います。

 昨年の三・一一福島第一原発事故は、全電源喪失によるメルトダウンとその後の水素爆発によって大量の放射性物質を大気中に飛散させ、汚染水を海洋に流出させるなど、チェルノブイリに並ぶ史上最悪の原発事故となりました。

 あれだけ大きな被害を受け、今も約十六万人の人々が避難生活を強いられているときに、事故の深い原因究明と責任、教訓を明らかにして、本来、特別委員会を設置して各党が十分な議論を尽くしてよい法律をつくるべきであるのに、環境委員会という一つの常任委員会での審議で、しかも、三党修正協議がきょう出てきていきなり質疑、採決というやり方は、議会制民主主義に反する暴挙であり、民主、自民、公明三党修正協議と法案審議のあり方そのものについて、まず強く抗議をしておきたいと思います。

 その上で私は、原子力規制委員会設置法案に対し、反対の意見を述べます。

 このような事態を招いた政府と東京電力の責任は極めて重大です。事故を完全に収束させ、放射能汚染の被害から国民の生命と暮らしを守り、二度とこのような事故を起こすことのないように事故原因の徹底究明が不可欠であり、本法案の大前提となるものです。

 ところが、政府や国会の事故調の事故原因の究明が途上であるにもかかわらず、加害者である東京電力は、想定外の津波が原因で、人災でないと責任回避を続けております。野田政権もまた、津波、浸水が事故原因で、地震の影響はなかったという驚くべき断定を行いました。

 これは、再び新しい安全神話を復活させ、大飯三、四号機を初め、原発再稼働に進み、原発輸出戦略の条件づくりであり、断じて容認できません。

 この点でまた、事故の被害を拡大した当時の官邸の混乱のみを菅リスクと過大に問題にすることは、事態を一面的に描くものです。

 これと同時に、三・一一以前の歴代自民党政権の原子力行政のゆがみを徹底的に検証しなければなりません。

 反対理由の第一は、昨年の三・一一福島第一原発の事故原因と教訓を全面的に踏まえた法案となっていないからであります。

 特に、原子炉等規制法で根拠も実証試験もなく、老朽原発の四十年、例外六十年制限としたところ、本法案ではさらに事実上青天井とし、半永久的稼働を容認したことは、政府案を一層改悪するものであり、認められません。

 第二に、原子力規制組織をいわゆる三条委員会としていますが、推進と規制の分離、独立性を確保すべき原子力委員会を環境省のもとに置くとしていることは容認できません。

 環境省は、歴史的にも基本政策の上でも原発推進の一翼を担ってきた官庁であり、今国会に提出している地球温暖化対策基本法案で、温室効果ガスの排出抑制のため原発推進を条文上も明記したままです。これの削除と根本的な反省なしに真の独立は担保されません。当然、電促税を財源とする財源面でも問題であります。

 第三に、原子力基本法を改め、原子力利用の目的について「我が国の安全保障に資する」としたことは、いわゆる原子力平和利用三原則にも抵触するものです。

 また、国際的動向を踏まえた放射線対策と称して、内外の批判の強いICRP、国際放射線防護委員会の線量基準などを持ち込もうとしていることも認められません。

 最後に、我が国の原発政策の根幹をなす日米原子力協定と電源三法のもとで、原発安全神話をつくり上げ、地域住民の反対を押し切って原発を推進してきた歴代自民党政権の、政財官学の癒着した一体構造そのものにメスを入れる必要があります。

 地域独占体制と総括原価方式に守られた、電力会社を中心とする、原発メーカー、鉄鋼、セメント、ゼネコン、銀行など財界中枢で構成する原発利益共同体ともいうべき利益構造を解体することと、そして、再生可能エネルギーの爆発的普及とその仕事を地域経済の再生に結びつけ、エネルギーでも地域経済でも原発に依存しない日本社会への発展の道こそ、政治的決断をするべきものであります。

 以上申し述べて、私の発言を終わります。
http://www.shugiin.go.jp/index.nsf/html/index_kaigiroku.htm

また、6月15日の衆議院議院運営委員会でも、共産党の佐々木憲昭議員が、次のような抗議を行っている。

○佐々木(憲)委員 原子力規制委員会設置法案に対して、意見表明をいたします。

 この法案は、民主、自民、公明の三党によって緊急上程されようとしておりますが、断固反対です。

 法案は、昨夜十九時の時点で、でき上がっていなかったのであります。示されたのは、A4の紙一枚の、未定稿の要綱のみであります。きょうになって法案が示され、それを、まともな審議もせず、どうして採択できるでしょうか。しかも、本会議での討論も行わないなど、到底認められません。

 もともと、法案は、環境省の所管を超える広範な領域を含む原子力行政全般にかかわるものであり、全ての政党が参加し、充実した審議を行うにふさわしい委員会に付託すべきでありました。本会議では、重要広範議案として扱われ、総理も出席して質疑が行われたのであります。

 ところが、三党は、特定の範囲しか扱わない環境委員会に原子力規制委員会設置法案を付託するという暴挙を行ったのであります。

 私たちが抗議すると、与党は、議運理事会で、環境委員会に付託するかわり、審議には日本共産党、社民党、みんなの党などを常時出席させて審議を行わせ、理事会にも出席させるという言明がありました。

 しかし、審議時間は極めて短く、きょうを入れてわずか二回しか行われず、連合審査は一回だけでありました。理事会では、陪席さえ許されず、単なる傍聴扱いでありました。委員会での総理出席の審議も行われておりません。なぜ、これほど拙速な形で法案を通さなければならないのでしょうか。

 この法案には重大な問題が含まれております。

 第一は、昨年の三月十一日福島第一原発の事故原因と教訓を全面的に踏まえた法案となっていないのであります。

 特に、原子炉等規制法で、根拠も実証試験もなく、老朽原発の四十年、例外六十年制限としていたところ、本法案で、さらに、事実上、青天井とし、半永久的稼働を容認したことは、政府案を一層改悪するものであります。

 第二は、原子力規制組織について、推進と規制の分離、独立性を確保すべき規制委員会を環境省のもとに置くこととしていることであります。

 環境省は、歴史的にも、基本政策の上でも、原発推進の一翼を担ってきた官庁であり、今国会に提案している地球温暖化対策基本法案で、温室効果ガスの排出抑制のため、原発推進を条文上も明記したままであります。この削除と抜本的反省なしに、真の独立性は担保されません。

 第三に、原子力基本法を改め、原子力利用の目的について、「我が国の安全保障に資する」としたことは、いわゆる原子力平和利用三原則にも抵触するものであります。

 最後に、我が国の原発政策の根幹をなす日米原子力協定と電源三法のもとで、安全神話をつくり上げ、地域住民の反対を押し切って原発を推進してきた歴代政権の政財官学の構造そのものにメスを入れることが必要であります。原発再稼働など論外であります。

 このことを指摘し、意見表明といたします。
http://www.shugiin.go.jp/index.nsf/html/index_kaigiroku.htm

しかし、同法案は、衆議院本会議におくられ、そのまま可決されてしまったのである。

参議院においては、いまだ会議録が公開されておらず、確定した情報はない。ただ、この法案には4日間しか審議期間がなかったことは報じられている。15日は金曜日であるから、たぶん、17・18・19・20日の4日間であろう。民主党議員も含めて、それなりの議論はあり、環境委員会での付帯決議も可決されたと伝えられている。そして、最終的に、20日の参議院本会議で、同法案は可決され、原子力三原則の改変がなされてしまったのである。

原子力三原則の影響については、また別個に記しておきたい。ただ、いえることは、この原子力規制委員会設置法による原子力三原則の改変は、16日に民・自・公が合意した消費増税法案の成立過程と平行して行われており、それと同様の問題をはらんでいるということだ。消費増税案と同様に、原子力規制委員会設置法案でも、ほとんど自公案の骨子を民主党が受け入れる形で民・自・公の合意が成立した。この合意は、公開の場である国会審議を無視した形で行われ、人びとの目にふれない形で、このようなことがなされてしまったのである。民・自・公という大政党が「合意」すれば、公開の原則すら蹂躙される。

他方、民主党議員でも、このような改変には疑問をもった人びとはおり、参議院環境委員会でも議論はあったようである。しかしながら、参議院本会議での採決結果をみると、ほとんど民主党議員は同法案に賛成しているのである。消費増税法案と同様に党議拘束がかかっているのである。ある意味で、一部議員個人の意識すら相反した形で、この改変はなされたのである。

ある意味で、衆議院・参議院ともに多数を獲得するという意味でおこなわれた、民・自・公合意の危険性が、消費増税だけではなく、原子力三原則の改変過程でも表出されたといえる。

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