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福島第一原発における危機的状況に対して、ようやく、国会においても議論をしなくてはならないという動きが出てきた。茂木経産相は、8月26日に、汚染水対策につき、国が前面に出ることを強調し、凍土による遮水壁の設置などについては、国が財政措置をとるこも検討すると述べた。以下の時事新報のネット配信記事をみてほしい。

汚染水対策の強化指示=局長級ポスト新設―茂木経産相
時事通信 8月26日(月)21時35分配信
 茂木敏充経済産業相は26日、東京電力福島第1原発を視察後、「汚染水対策はモグラたたきのような状況。今後は国が前面に出る」と改めて強調した。経産省に汚染水対策担当の局長級ポストを新設することを明らかにした上で、貯蔵タンクの汚染水漏出問題を踏まえ、東電にタンクの管理体制強化や水漏れしにくいタイプへの切り替えなど5項目を指示した。福島県楢葉町の東電復興本社で報道陣に述べた。
 東電に対しては他に、タンクの見回り強化や汚染水の放射性物質除去の加速、汚染水貯蔵に関するリスクの洗い出しを指示。原発敷地内の土を凍らせて地下水の流入を防ぐ遮水壁など、緊急性があり技術的に難易度が高い対策は、予備費活用を含め財政措置も検討する考えを表明した。
 指示を受け、東電の広瀬直己社長も復興本社で記者会見。「必要な要員や機材を投入し、管理していきたい」と述べ、同日付で社内に汚染水・タンク対策本部を新設したと発表した。タンクの運用強化や地下水分析など計15のプロジェクトチームを設置し、内外の専門家から助言を仰ぐという。 
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130826-00000147-jij-soci

そして、民主党の海江田万里代表も、26日に、とりあえず福島第一原発の高濃度汚染水問題について、閉会中審査という形で国会で議論していくことを自民・公明両党に求めた。しかし、その際、「海江田氏は、同問題が2020年の東京夏季五輪招致へ影響を与える恐れがあると指摘、『政府が前に出て責任を持つと国際社会に明らかにすることが大切だ』と注文をつけた」(朝日新聞朝刊2013年8月27日号)としたという。つまり、海江田にとって、福島第一原発の汚染水問題は、まずはオリンピック招致活動に影響が与えるかいなかという問題なのである。

それは、自民党も同様であった。8月29日、自民党の東日本大震災復興加速化本部は「汚染水対策の加速求める決議」を可決したが、その背景として「国民に強い不安を与えており、風評被害が拡大する」、「2020年のオリンピックとパラリンピックの東京招致にも影響が出かねない」という声があったことをNHKは指摘している。

汚染水対策の加速求める決議
8月29日 16時5分

自民党は、東日本大震災復興加速化本部の会合を開き、東京電力福島第一原子力発電所でタンクから汚染水が漏れ、海に流れ出たおそれがある問題について、関係省庁が一体となり、十分な財政措置をとって対策を加速させるよう求める決議を行いました。

会合では、福島第一原発で高濃度の放射性物質を含む汚染水がタンクから漏れ、海に流れ出たおそれがある問題について、「国民に強い不安を与えており、風評被害が拡大する」、「2020年のオリンピックとパラリンピックの東京招致にも影響が出かねない」といった指摘が出されました。
こうした指摘を受けて会合では、「国が前面に立って問題の早期解決を図るべきだ」として、政府が対策の具体的な内容などを国民に丁寧に説明することや、経済産業省や原子力規制委員会など、関係省庁が一体となった体制を速やかに構築し十分な財政措置をとって対策を加速させることなどを求める決議を行いました。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130829/k10014132501000.html

このように、民主党にしても自民党にしても、まずは東京オリンピック招致が大事なのである。そのことが、非常に不思議な事態を惹起した。2020年オリンピックの候補地が決定される9月7日のIOC総会まで、議論を先送りしようということが自民党・民主党の衆院経済産業委員会の理事たちによって8月30日に合意されたのである。次の朝日新聞の記事をみてほしい。

汚染水漏れ、国会チェック機能果たさず 審議先送り
朝日新聞デジタル 8月30日(金)23時58分配信

 東京電力福島第一原発の放射能汚染水漏れをめぐり、国会の機能不全が露呈した。2020年東京五輪招致への影響に気兼ねし、衆院経済産業委員会の閉会中審査が先送りに。五輪のために汚染水問題にふたをしたとの批判を招きかねない対応に被災地では怒りの声が上がる。五輪招致関係者からは「逆に招致に悪影響を与える」との懸念も出ている。

 30日、国会内で開いた衆院経済産業委員会の理事懇談会。自民党の塩谷立筆頭理事が「安倍晋三首相も政府を挙げて取り組むと言っている。もう少し時間をとったうえで検討したい」と表明した。民主党の近藤洋介筆頭理事は現地視察を提案。政府側が五輪招致を決める9月7日の国際オリンピック委員会(IOC)総会前に打ち出す汚染水対策を見極めることで、事実上先送りを容認した。

 もともと閉会中審査は、野党の要求に応じる形で自民党が開催を検討した。だが、五輪開催地の決定直前に開けば、審議を通じて事故の深刻さや政府の対応の遅れがさらに強調されて世界に伝わり、東京招致に悪影響を及ぼしかねない――。こんな懸念が政権内に広がった。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130831-00000003-asahi-pol

結局、自民党も民主党も、オリンピック招致が第一の課題なのであり、それに影響を与えることが予想される福島第一原発問題の国会審議は先送りしてしまったのである。朝日新聞の「国会チェック機能果たさず」という見出しは正鵠をついているだろう。

福島第一原発の汚染水問題は、福島県をはじめ、日本列島に住む人びとの生存について脅威を与えている。さらに、放射能物質による海洋汚染は、韓国・中国・台湾・ロシア・カナダ・アメリカなどの北太平洋に面する諸国の間における国際問題にもなっている。より広くいえば、福島第一原発問題は、世界全体の問題にもなっているだろう。

それに、汚染水問題ということは、福島第一原発の廃炉作業にとって、入口の問題にすぎない。実際には、原子炉内の破損された核燃料などをとりだし、原発全体を解体するという、資金的にも技術的にも難しい作業がまちかまえている。現状では、汚染水問題という入口の問題すら解決できないということになるだろう。

それに対して、自民党も民主党もまず第一の課題として念頭にあることは、東京オリンピック招致なのである。私個人は、東京でオリンピックを開催するということは、過密過疎問題を拡大し、東京にせよ、地方にせよ、どちらにとっても有益にはならないと思っている。ただ、日本の他の都市でオリンピックを開催することには反対しない。しかし、どちらにせよ、福島第一原発の現状において、オリンピック招致活動をしている状態なんだろうかと考えている。2020年においても、確実に福島第一原発は存在している。汚染水問題よりも解決困難な課題に直面しているかもしれない。そして、東電にせよ、政府にせよ、その時に可能な限り適切な対応しているだろうかと思う。

政府側のいっている「国が前面に出る」というのも、凍土による遮水壁設置に国費を支出するなど、部分的に可能な対策をあげているにすぎない。そして、最早、いろんな人びとが「健忘」しているが、東電は福島第一原発事故の「責任者」であるにもかかわらず、国から資金提供を受け、破たん処理を免れている存在なのである。東電自体は「リストラ」されたが、株主や金融機関は、直接的損害は免れているのである。そして、廃炉作業にせよ、除染にせよ、補償にせよ、東電が現状では費用を賄うことはできず、国から支援された資金を返済できるあてもない。国費で廃炉作業を行うことは必要な課題であるが、その枠組みもなくただ資金をつぎ込むことは、倫理的にも経済的にも問題がある。

そのような議論も含めて国会という公開の場で福島第一原発について討論をすることは、喫緊の課題である。しかし、自民党や民主党の議員たちは、東京オリンピック招致という、たぶん、日本列島に住む人びとにとっても、世界の人びとにとっても、生存の問題とはいえない問題を第一に考え、それへの影響を懸念して、福島第一原発問題における閉会中審査を先送りした。本末転倒としかいえないのである。

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