2011年5月9日の第二回女川町復興計画策定委員会をうけて、女川町では、5月22日から復興計画公聴会を実施した。ここでは、女川町南部の漁村集落である五部浦地区(高白・横浦・大石原・野々浜・飯子浜・塚浜・小屋取)の住民を対象として5月22日の10時から行われた公聴会の模様から、漁村集落・漁港集約化の問題をみてみよう。前回のブログで書いたように、この地域は、大石原・野々浜の後背地の高台に集中移転することを町は提案している。なお、議事録は、問題別に編集しているので、このままの順序で話しているわけではないことを付言しておく。
〇漁村集落・漁港集約のメリットを主張する女川町長
まず、町長の発言から、漁村集落・漁港集約化の意味をみておこう。
女川町長は、まず、このように述べている。
今日は、町としての集約の案を示すが、五部浦地区の漁業のあり方、生活のあり方について、皆さんの意見を聞きたい。家をすべて流されており、住居の高台移転については、皆さんの理解を得ていると考えている。
すべての漁港を、同時に整備することは何十年かかるか分からず、現実的には困難である。女川町内の居住地や漁協を数箇所にまとめて集中的に整備すれば、時間的メリットが生まれる。また、組合、支部がまとまり協同で漁業をすれば公的なお金を出すこともあり得る。しかし、従来どおり7~40世帯で漁港・集落も別々では、皆将来への不安は持っているはずであり、ある規模にまとまる方法もある。地区が集約し世帯がまとまっていれば行政的なメリットもある。
五部浦を1箇所にと町長が言えば、馬鹿を言うなという皆さんの気持ちも分かる。しかし、各漁村の世帯数は少ない。10年後、20年後を考えた時、本当に各浜で良いのか考え、本音で議論して欲しい。対立する場ではない。最終的には皆が決めることである。(http://www.town.onagawa.miyagi.jp/hukkou/pdf/iinkai/03_meeting/03_meeting_appendix5.pdf 女川町役場ホームページより)
概括すれば、①高台移転は合意を得ている、②漁港・漁村集落を集約化すれば、整備も急いでできるし、公的資金も受けることができる、③小規模の世帯では将来不安のはずである、ということになろう。それがメリットとして町長は語っているのである。
〇漁村集落・漁港集約化に反対する地域住民
この町長の発言に対し、この地域の住民は、ほとんど集約化に反対の意見を述べた。
(野々浜)
各地区の支部長や区長と話合ったが、集落の集約化は認められないとの結論である。現在の集落の背後、高台に居住地を設けて欲しい。(塚浜)
住民と話し合ったが、塚浜地内に居住地を設けて欲しいとの結論になった。土地の保証は、どうなるのか?(中略)
(塚浜)
先祖代々受継いだ土地で漁業を営むことでパワーを感じている。漁師はそのようなものだ。ぜひ、各浜の高台に宅地を設けていただきたい。であれば、復興に向けて努力する。(中略)
(高白)
みんなと同じ意見である。どこにも離れたくない。
しかし、各集落の住民にもジレンマがあった。結局、自力で住宅を再建する資力がないのである。
(塚浜)
高台への移転は分かるが、従来どおりの集落を設けて欲しい。町内(町の中心部の意味)に人が流出することも避けたい。
家、船、養殖施設も流出し、自力で家を建てることは困難である。地区内に町営住宅的なものを建設できないか?(中略)
(大石原浜)
大石原地区に残りたい。土地は充分にある。しかし、住宅を建てることは考えていない。
町長は、近隣の塚浜・小屋取地区の集約化を求めた。しかし、それも拒否された。
(町長)
塚浜、小屋取地区の高台は2つの地区の中間点となる。それでも、集約できないのか?(塚浜)
皆で話し合ったが無理だった。塚浜、小屋取地区で話合いを行ったが、地先権の問題もあり物別れとなった。
この塚浜の住民からの発言は重要である。集落前の沿岸に対する漁業権を「地先権」というが、そのために集落の集約はできないとしているのである。この地域の場合、集落と漁業権は一体なのである。
〇漁港早期再建を望む地域住民
地域住民としては、漁港の早期整備を望んでいた。次に示しておこう。
(飯子浜)
飯子浜区民で、復興プランを議論しており、宅地の民有地借上げも話している。個人漁業やグループ化についても考えている。とにかく早期の漁港整備を町にお願いしたい。(町長)
現状において地盤が沈下し、満潮時はひどい状況である。どこの地域においても嵩上げは必要であるし、背後地の問題や土地利用についても使途や調達方法など、各地区での議論が必要だ。すべての港を一斉に整備することは時間がかかるので、優先順位をつけさせてもらう。(塚浜)
被害の少ない港を先に整備して、早期再開したいのが皆の気持ちである。(町長)
優先順位をつけて早期整備を考える必要がある。
結局のところ、全ての漁港を同時に整備するということは難しいのである。
〇民間企業の漁業参入への対抗としての漁村・漁港の集約化を主張する女川町長
町長は、反対意見に対し、民間企業の漁業参入への対抗としての集約化を主張した。
(町長)
漁業は、競争して力が出ることも分かる。世帯数が減れば使える場所が増えるが、民間企業が漁業に参入した場合、皆さんは対抗できるのか? 結束して力を高める時ではないのか。1回話しをして駄目であっても、何度も議論していただきたい。ここで結論を出すつもりは無い。国とか相手の気持ちを動かすには前進の姿勢も大事であるので、可能性を探ってほしい。(中略)
(町長)
前述のように大手企業が漁業に参入したときに、資本力や手法の違いから協調するのは難しい。日本が海外で企業としてペルーやノルウェーで漁業を展開しているように、会社㋐組織として運営している。災害時として生産量が期待される中で、企業が経営した方が効率的という考え方もある。それを防ぐためにも協同で漁業はできないものかという話し。女川町に民間が漁業に参入してから騒ぐのか、それを防げるだけの結束があるのか。いろいろ政治的なかけ引きが出てくる。
高台に地区を集積するメリットは命を守ることが第一である。また、地区が統合することで、インフラ整備、福祉、医療、その他の行政サービス的メリットが大きい。
次の世代、若い世代のことを考え、意見も聞いて皆さんには再度議論して欲しい。
町長は、少なくとも主観的には、地域漁業に対する大資本の参入を防ぐためにも、地域漁業の協同化は必要ではないかとしている。これは、たぶんに、宮城県の水産特区構想を念頭にしていると思われる。そして、「政治的かけ引き」が強調されているが、それは、高台移転や漁港集約化を打ち出す背景として説明していると思われる。高台移転も漁港集約化も宮城県の打ち出している政策なのであって、それは受け入れつつも、大企業の漁業参入は対抗するという姿勢といえるであろう。「国とか相手の気持ちを動かすには前進の姿勢も大事である」もその現れであるといえる。
高台移転、漁港集約化、水産特区など、東京においての議論は、ほぼリアリティを欠いている。しかし、当事者の人々にとっては、切実でありつつ、さまざまな思惑をはらんだ、微妙なものなのである。
さて、このように、女川町南部の漁村集落は、おおむね集約化には反対しているといえる。しかし、すべての地域が反対しているわけではない。次回以降、その景況をみていきたい。