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Archive for 2011年9月

ここまで、風評被害の問題から出発して、食品における放射性セシウムの暫定基準の問題、そして食品の検査体制の問題をみてきた。低線量被曝については、さまざまな説があり、暫定基準が安全であるのかどうか、議論が分かれている。

しかし、たぶん、問題なのは、暫定基準が適切かいなかということだけでなく、むしろ、実際の消費行動において、放射性セシウムの検出ということがどのように影響するかということである。

毎日新聞は、筑波大学が、福島第一原発周辺で収穫された米について、どの程度放射能セシウムが検出されたら買わないか、買った場合はいくらで購入するかについて、関東・関西でアンケート調査を行ったことを、9月3日にインターネットで配信した。

放射性物質:コメ風評被害深刻 筑波大の既婚女性アンケート

 東京電力福島第1原発に近い産地の今年の新米について、「放射性物質が検出されなくても買わない」という都市部の女性が関東で3割、関西では4割に上ることが専門家の調査で分かった。セシウム汚染拡大による主食への風評被害の深刻さが浮かび、専門家は「生産者の経済的被害を軽減するため、消費者意識を踏まえた対策を急ぐ必要がある」と提言している。

 筑波大大学院の氏家清和助教(食料消費分析)が8月上旬、東京、大阪とその周辺で20~69歳の既婚女性を抽出してアンケートを実施し、2089人から回答を得た。

 質問は、5キロ2000円の汚染の恐れがないコメ(A)と、福島第1原発に比較的近い産地のコメ(B)の2種類が売られていた場合、Bがいくらならば買うかを尋ねた。Bについては放射性物質の検出値を(1)不検出(2)国の暫定規制値(1キロあたり500ベクレル)の100分の1以下(3)同10分の1(4)同2分の1(5)規制値以下--の5パターンに分けた。

 その結果、価格にかかわらず「不検出でも買わない」という人の割合は関東で34.9%、関西では44.7%。規制値の10分の1では「買わない」が関東で52.9%、関西では60.4%に上った。

 一方、関東では「不検出ならAと同額以上でも買う」が28.9%おり、規制値の500ベクレルに近い値が検出されたとしても「Aより安ければ買う」も31.3%いた。

 氏家助教は「国の暫定規制値が安全かどうかはともかく、消費者を安心させる指標にはなっておらず、特に被災地から遠い関西の風評被害が厳しい」と指摘。それでも検出値が低ければ買う人の割合が増えていくことに注目し、「適正な検査を行い結果を明記すれば、より高い価格で売れる可能性がある。当面は消費者に汚染の程度を細かく伝えることが、経済的被害の軽減につながる」と提言している。【井上英介】

毎日新聞 2011年9月3日 15時01分(最終更新 9月3日 16時50分)
http://mainichi.jp/select/science/news/20110903k0000e040049000c.html

汚染度合いごとの購入価格(関東都市部)

汚染度合いごとの購入価格(関東都市部)

この結果は、かなり厳しいものである。まず不検出でも買わないとする人が、関東で34.9%、関西で44.7%存在している。福島第一原発事故の影響を直接的にはそれほど受けていないと考えられている関西のほうが割合が高いことにも注目しなければならない。「不検出」でも買わないとなれば、まさに「差別」としてしかいえないであろう。この問題は、福島県民などへの差別の問題にもつながっていくといえる。

ただ、一方で、不検出なら購入するという人が、関東では約65%、関西でも約55%いるということになる。関東都市部の調査結果からみると、その場合、極端に値下げしてもあまり効果はみられないようだ。値段はそれほどの問題ではないのである。むしろ、他の米よりも高く買うという人が28.9%存在する。たぶん、「応援」の意味がこめられているのであろう。

ただ、これが、暫定基準値の10分の1、つまり50Bq/kgであると、関東では52.9%、関西では60.4%が買わないと答えている。最早、半分以上が買わないとしているのである。

関東都市部の調査結果からみると、暫定基準値の100分の1、つまり5Bq/kgでは、47,9%が買わないと答えている。ごく微量でも買わない人の比率は高くなるのだ。一方で、暫定基準値(500Bq/kg)ならば買わないという人は55.4%ととなる。放射性セシウムの検出値が高く設定されるにつれ、不買者の比率は高くなるのだが、50Bq/kgとそれほど変わらないといえる。逆に言えば、暫定基準値程度でも、45%程度の人は購入するのである。

ここから、三つの消費パターンがあるといえる。①福島第一原発周辺で収穫された米は、たとえ放射性セシウムが不検出でも買わない、②放射性セシウムが不検出ならば、場合によっては高くなっても買う、③放射性セシウムが暫定基準値以下であれば、検出値の高低によって差はあるが、購入していく、この三つである。

①の場合は、もはや、食品の放射性物質検査の問題だけではなくなっているといえる。これについては、別途検討しなくてはならないだろう。この場合は、現実的なものだけでなく、仮想的なレベルまで、放射性物質の影響を一切排除しようとしているのである。

②の場合は、放射性セシウムがごく微量でも検出されたら買わないということになる。しかし、不検出ならば、高くても買うというのだ。その意味で、不検出であれば、検査結果を公表したほうが、このグループは購入していくといえる。この場合は、現実的なレベルに限ってではあるが、放射性物質の影響を排除しているのである。

③の場合、放射性セシウムの検出値が低ければ購入者が増えるといえるが、ただ、ドラスチックに変わるというものではない。ただ、それでも、5Bq/kgでは購入するという人びとが約52%いるということになるので、かなり低い場合は、検査結果の公表は意味があるといえる。この場合は、それぞれが受忍できる値はあるが、健康に支障がないならば、ある程度放射性セシウムが検出されることを許容するということになる。

①②と、現実の購入行動は違うのだが、メンタリティは近いだろう。①は仮想的レベル、それこそ「福島第一原発事故」を想起されるもの一切を含めて放射性物質の影響を排除しようとしているのだが、②は現実的なレベルに限っているといえる。しかし、②も放射性物質の影響を排除しようということには変わりがない。「不検出」という証拠がなければ、①と同様に一切購入しないということはありえるのである。

③の場合であるが、例えば商品のレベルに放射性セシウムの検出値として「5Bq/kg」「20Bq/kg」「200Bq/kg」などと書かれていた場合、それぞれの数値に応じてではあるが、購入しなくなる可能性がある。アンケート調査では、暫定基準値程度でもそれほど極端には不買者が多くならなかったことも考えなくてはならない。この場合であると、数値よりも、むしろ、政府・都道府県が検査し、極端に検出値が高く害のある食品は排除しているという「安心」が問題になっているのではないだろうか。

低線量の放射性被曝の影響については、どの程度が影響するのか、定説はない。その状況の中で、どの規制値ならば影響がないのかは、一般的には不明である。そうなると、、現実的もしくは仮想的レベルも含めて放射性物質の影響を排除しようという志向と、数値によって違いがあるものの、ある程度の放射性セシウムの含有を認めるという志向に、消費行動は分裂していくことになる。

まあ、大きくいえば、食品から放射性セシウムが検出されないことが多くの消費者の希望であるといえる。しかし、実際の消費行動は分裂しており、検査体制・暫定基準値…大きく言えば「風評被害」全体を考えるに際して複雑な問題を提起しているといえる。

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さて、政府の打ち出した放射性セシウムの野菜・魚・肉などに対する暫定基準500Bq/kgは、むしろあまりにも高すぎるとして不安を招いており、流通側の一部では自主的に暫定基準よりも厳しい基準で放射性物質の検査を自主的に行う状況になったことは前回のブログで述べた。生産者や流通側で自主的に検査するようになった要因は、もう一つある。それは、政府が県を通じて行っている食品検査では、それぞれの個別の食品自体の放射性物質の付着量はわからないということである。

最近、話題となったお茶から暫定基準値をこえた放射性セシウムが検出されたという報道を事例に考えてみよう。例えば、読売新聞は、次のような記事を9月3日インターネットに配信している。

埼玉・千葉県産の茶葉、抜き打ち検査でセシウム

 厚生労働省は2日、市場に流通している食品を国が買い上げて実施する「抜き打ち検査」の結果、埼玉県産と千葉県産の茶葉計4検体から、暫定規制値(1キロ当たり500ベクレル)を上回る放射性セシウムが検出されたと発表した。

 同省は先月から抜き打ち検査を開始したが、規制値を上回ったのは初めて。千葉県産では7市町で出荷が停止されているが、埼玉県産は出荷が停止されていない。

 同省によると、茶葉はいずれも製品用に加工した製茶。埼玉県産の3検体は1530~800ベクレルで、それぞれ埼玉県内の2業者と東京都内の業者が製造。千葉県産は2720ベクレルで千葉市内の業者が製造していた。厚労省は同日、埼玉、千葉、東京の3都県に、生産地などの調査を依頼し、具体的な産地が特定できれば出荷停止などを検討する。厚労省は「いずれも煎じて飲む場合は相当程度薄まっており、健康にただちに影響はない」としている。

(2011年9月3日01時51分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20110903-OYT1T00089.htm

お茶は比較的放射性セシウムが蓄積しやすい作物らしく、静岡県・神奈川県・千葉県などで暫定基準をこえたお茶がみつかり、出荷が停止されたことは記憶に新しい。しかし、埼玉県産の茶からは今まで放射性セシウムが検出されていないため、出荷は停止されていなかった。

さて、埼玉県での検査はどのようなものであったか。9月4日に東京新聞がインターネットで配信した記事は、それを伝えている。

「産地への影響心配」 暫定規制値超セシウム検出 戸惑う狭山茶生産業者

2011年9月4日

 日高、鶴ケ島両市の茶業者による製茶商品から国の暫定規制値(一キログラム当たり五〇〇ベクレル)を超える放射性セシウムが検出された、厚生労働省の「抜き打ち検査」。日高市の製茶会社社長は「五月から七月まで県の指示の通り検査を受け、安全確認して出荷した。慎重に対応していたのに、本当に残念」と声を落とした。
 県によると、一五三〇~一二七〇ベクレルが検出された二商品は、ともに他県産の茶葉はブレンドされておらず、県産茶葉が汚染されていたとみられる。
 社長によると、同社は日高を中心に狭山、入間、所沢など狭山茶の主要生産地の工場を経由し、荒茶を集めて自社工場でブレンド。「(今回の検査結果が)産地そのものに影響を与えないか心配」と戸惑っている。
 複数の生産者によると、福島第一原発事故以降、製品価格は安値で推移。狭山茶から西日本の茶葉に切り替える卸業者も出ているといい、売り上げは昨年比で三割以上落ちた業者も。ある生産者の男性は「(十数年前に)ダイオキシン騒動で散々な影響を受けたのに、またかという思いだ」と訴えた。
 上田清司知事は三日、「福島第一原発事故にすべての原因がある。東京電力に賠償を求めたい」とのコメントを出した。県は五~七月、狭山茶の主産地の狭山、入間、所沢、日高、飯能、鶴ケ島市の六市で生茶葉と荒茶、製茶の計二十一検体を検査したが、最高で四六八・八ベクレルで規制値を超えたものはなかった。 (上田融、杉本慶一)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/saitama/20110904/CK2011090402000047.html

埼玉新聞は、9月4日に同様の記事をインターネットで配信した。大体同じであるが、「38検体」としているところが違う。

県産製茶で基準値超 放射性セシウム

 市販されている埼玉県産と千葉県産の製茶計4品から、国の暫定規制値(1キログラム当たり500ベクレル)を超える放射性セシウムが検出されたことが3日、厚生労働省が市販されている商品を買い上げて行う抜き打ち検査で分かった。

 埼玉県はこれまで、狭山茶の生産地である6市で38検体のサンプル調査を実施し、安全宣言を出していた。県内で規制値超えが確認されたのは初めて。

 埼玉県産は日高市と鶴ケ島市の計2業者と東京都内の1業者が製造した3品で、1530~800ベクレルを検出。千葉県産は千葉市内の業者が製造した1品で2720ベクレルを検出した。

 埼玉県は県内の2業者が扱う製茶について出荷の自粛や商品の回収を要請し、詳細な調査を行う。日高市と鶴ケ島市内のほかの業者が生産した製茶に関しても、追加調査を実施する方針。県は「煎じて飲む場合は80分の1の濃度に薄まるので、直ちに健康に影響するレベルではない」とした上で、「検査方法の見直しを含めしっかり対応していきたい」としている。

 上田清司知事は同日、「県では狭山茶について、全て暫定規制値以下であると確認しているが、今後は厚労省とも連携し、あらためて狭山茶の安全性を確認していきたい」とのコメントを出した。

■声失う茶農家

 狭山茶から暫定規制値(1キロ当たり500ベクレル)を超える放射性セシウムが初めて検出されたことを受け、県は3日、県庁で会見を開き、厚労省の調査結果や今後の対応などについて説明した。風評被害を含め、県内の茶業者への影響が懸念される中、県農林部の海北晃部長は「原発事故による放射性物質の問題は、消費者はもちろん、生産者も被害者。国とも十分連携し、双方の不安が解消されるよう対応したい」と力を込めた。

 県によると、暫定規制値を超えたのは、備前屋(日高市高萩)が製造した「狭山 山出し 狭山茶」(検出値1270ベクレル)と、長峰園(鶴ケ島上広谷)の「露むさし新茶」(検出値1530ベクレル)。いずれも一番茶の製茶だった。

 備前屋は同商品を7月から約5キロ分(一袋100グラム)を、インターネットを通じて販売。同社では、日高市を中心に周辺地域の契約農家から仕入れた荒茶をブレンドし、自社工場で製茶にして販売している。

 長峰園は同商品を5月中旬から約60キロ分(一袋100グラム)を、店舗やインターネットで販売。お茶については自社で生産している。

 狭山茶に関して県は5月から7月にかけて、一番茶と二番茶の生葉、荒茶、製茶について計38検体の調査を実施。全て暫定規制値を下回ったため、安全宣言を出していた。

 しかし、業者から提供されたお茶を検査機関に依頼して分析する方法で、今回のように、買い上げた商品を調べるものではなかった。

 厚生労働省からは2日午後10時ごろに調査結果の報告が入り、知事あてに規制値を超えた製茶の調査や、県産の製茶についてモニタリング検査を強化するよう要請する文書が送られてきたという。県は調査方法の見直しを含め、対応を強化していく方針だ。

 突然の事態を受け、県内の茶業者からは驚きの声が上がった。県茶業協会の長峰宏芳会長は「寝耳に水。本当に驚いた。県の調査で規制値を下回っていたので、こんなことになるとは想像していなかった。今後は県の指導に従って対処していきたい」と話している。

■「対策しようがない」

 県産の製茶から国の暫定基準値を超える放射性セシウムが検出されたことは、県内の茶農家に動揺を与えた。

 入間市の茶農家男性は「報道を聞いてびっくりした。埼玉はセシウムの影響が少ない地域だと思っていたが」と声を落とした。県が6月20日に発表した製茶の放射性物質の検査結果では、いずれも暫定基準値を下回った。茶に関する話題も以前より落ち着いてきた最中の一報に「県が安全宣言を出したのに、これはかなりの痛手だ」と落胆する。男性は「セシウムが検出されたのは一部の製茶。全ての茶農家を一緒にされては困る」と風評被害を懸念した。

 男性は「(放射性物質は)対策のしようがないし、1年で終わるような問題でもない。国や県からの指示を仰ぐしかない。なんでお茶だけ…」と嘆いた。
http://www.saitama-np.co.jp/news09/04/01.html

業者は、検査を受けたと話している。しかし、県の調査は、埼玉県での狭山茶の産地、狭山・入間・所沢・日高・飯能・鶴ヶ島の6市で、東京新聞報道では21検体、埼玉新聞報道では38検体しか実施していないのである。この6市は、埼玉県の南部に位置する狭山丘陵周辺の自治体であるが、かなり広大な地域である。そこからかなり少ない検体しか検査していないのである。

結局、すべての狭山茶を検査しているわけではないのだ。放射性セシウムの降下量は、地域によってさまざまであり、他の地点よりもかなり高いホットスポットという場所が存在していることはよく知られている。狭山茶の産地は広大であり、放射性セシウムの降下量は地域によってさまざまであろう。それを21もしくは38検体だけで代表させること自体、無理があるといえる。

そして、東京新聞報道によれば、その少ない検査でも放射性セシウムが468Bq/kg検出された検体があったことにも注目しよう。これは、すでに暫定基準ぎりぎりである。お茶の暫定基準については、そもそも直に食べるものではないので、もっと基準を緩くしてもよいのではないかという声もあるが、食品の暫定基準自体が高すぎるという声もある。

ただ、暫定基準値に近いようなものが検出されたということは、確率的に、それよりも高いものが現れる可能性があると考えるべきなのではないだろうか。

しかし、とりあえず、埼玉県としては、若芽はセシウムがより蓄積しやすいので、それのみを出荷自粛することとしたようである。9月7日、朝日新聞は、そのような記事をインターネットにて配信している。

製茶セシウム/若芽や早摘み 出荷自粛要請
2011年09月07日

◇県、全業者に対して
 厚生労働省の抜き打ち検査で、県産の狭山茶から国の基準(1キロあたり500ベクレル)を超える放射性セシウムが検出された問題で、県は6日、県内の全業者に対し、若芽や早摘みの製茶の出荷を自粛するよう求めた。県は6月に若芽にセシウムが蓄積しやすいとの推論を得ていたが、これまでの県の検査では一般的な製茶のみを対象としていた。
 県によると、基準を超えたのは「備前屋」(日高市高萩)の「狭山 山出し 狭山茶」と、「長峰園」(鶴ケ島市上広谷)の「露むさし 新茶」。いずれも葉が開ききっていない若芽や、通常より早い時期に摘んだ高級茶で、生産量は少ない。「長峰園」から県が5日に購入した代表的な製茶5品からは、370~195ベクレルが検出された。
 県農林総合研究センター茶業研究所は6月中旬、若芽には栄養分とともにセシウムも蓄積する可能性が高いと推測していた。しかし、厚労省と協議して県が行った検査は、流通量の多い代表的な製茶が対象で、若芽・早摘みの製茶は含まれていなかった。
 上田清司知事はこの日の定例会見で、「今になってみれば(若芽・早摘みの検査は)その通りだと思うが、当時は思い至らなかった。今後は徹底して検査対象を広げたい」と述べた。
 一方、その後の厚労省の抜き打ち検査で川越市の業者の製茶から800ベクレル、東京都小金井市に市民が持ち込んだ入間市の業者の製茶からは1240ベクレルがそれぞれ検出された。
 川越市によると、基準を超えたのは「鈴木園」(川越市上戸)の「鈴峰」。5月に市内で摘んだ茶葉2品種の一番茶をブレンドし、県内や都内に店舗があるスーパー1社に出荷していた。すでに自主回収を進めているという。
 鈴木邦夫社長は「3代目になるが、こんなことは初めて。出荷先のスーパーからは6日朝、『国の責任だよ』と言われた。回収量は20~30キロになると思う」と話した。今後は昨年の在庫を販売するという。
◇狭山茶主産地に困惑「お茶文化すたれないか」
 狭山茶は県内農産物の中でも有数のブランド商品だ。主産地の関係者の間では、困惑が広がっている。
 入間市では木下博市長が「国や県の動向を把握し、正確な情報収集に努めるように」と指示を出し、農政課が市議会に状況を説明するなど対応に追われた。議会側からは生産者に不利益にならないよう対応を求める声などが出たという。
 同課は「(出荷自粛は)正直、影響が大きい。県の指導に従い、県茶業協会などと協力して難局を乗り切りたい」としている。
 同市の茶の小売店は「贈答品の扱いが減った。『500ベクレル』が独り歩きしている。日本のお茶文化がすたれないか心配だ」と話す。
 一方、自民党県議団は同日、上田知事に早急な対策を求める緊急要望書を提出。国に明確な基準値の設定などを求めており、奥ノ木信夫団長は「被害を受けた県が合同で国に要望してはどうか。農家や業者へのつなぎ融資も考えてほしい」と話した。
http://mytown.asahi.com/saitama/news.php?k_id=11000001109070001

このような措置だけでよいのだろうか。たぶん、放射性物質の検査の際の検体は増やすのであろうが、結局、農地それ自体の放射線量の測定とタイアップしなければ、効率は悪いだろう。そして、暫定基準値に近い値を示しているような検体があるようならば、確率論的により検査を密に行う必要もあろう。

それに、暫定基準自体の引き下げも必要であろう。仮に、政府のいうように、現在の暫定基準では健康に害がないとしても、すべての食品を検査していない現状では、それよりも高い汚染のある食品を締め出すことはできないのである。

しかし、ある程度、県や政府の側でサンプル検査を精密に行っても、自分が購入する食品そのものの放射性物質の付着量はわからない。政府が抜き打ち調査を行っても、それは変わらないのである。消費者は、そこに懸念し、買い控えがおきてしまう。結局、前回のブログで示したように、流通側で自主的に販売する食品それ自体を検査することになっていくのである。

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さて、前回は、「風評被害」という言葉が、放射能汚染に対する政府と東電がなすべきであった責任を不可視化し、生産者と消費者の問題に還元する機能を有しているのではないかと述べた。続いて、「暫定基準」について考えてみよう。「風評被害」と「暫定基準」は対になっている。「暫定基準」を超過した放射性物質が検出された食品などは、出荷停止となり、場合によっては摂取制限を受ける。しかし「暫定基準」以下であれば、流通は差し止められない。暫定基準値以下の食品(もちろん不検出の場合もある)が、消費者の買い控えにあった場合は、「風評被害」となることになるのである。

まず、もう一度、暫定基準値について、確認しておこう。NHK科学文化部の文化部のブログが次のようにまとめている。

2011年04月18日 (月)
放射性物質・食品等の暫定基準値をまとめました(藤原記者)

東電福島第一原子力発電所の事故で、厚生労働省は3月17日以降、食品に含まれる放射性物質の量について暫定的な基準を定めています。
基準値は、ヨウ素やセシウム、ウランなど放射性物質の種類ごとに設けられ、基準値を超える食品について国は食用にしないよう求めています。
まとめました。

【放射性ヨウ素】
■飲料水=1リットルあたり300ベクレル
■乳製品=1kgあたり300ベクレル
■牛乳=1kgあたり100ベクレル
 原乳=1kgあたり300ベクレル
■1歳未満の乳児が飲む粉ミルク=1kgあたり100ベクレル*放射性ヨウ素は1歳未満の乳児への影響が大きいため特に厳しくなっています。
■野菜(イモや根菜を除く)=1kgあたり2000ベクレル*土中のイモや根菜は影響を受けにくいとされるため除かれています
■魚介類=1kgあたり2000ベクレル
■1歳未満の乳児が飲む水道=1リットルあたり100ベクレル(1歳以上は300ベクレル)*厚生労働省では水道を管理する自治体に、原則として3日間の平均で指標となる値を超える場合、住民に、飲み水としての使用を控えるよう呼びかけることを求めています。この場合は基準値ではなく「指標値」と呼びます。*基準では1歳未満、とありますが、実際は「ミルクで栄養を摂っている乳児」とお考えください

【放射性セシウム】
飲料水=1リットルあたり200ベクレル
牛乳・乳製品=1kgあたり200ベクレル
野菜や肉、それに卵や魚などそのほかの食品=500ベクレル

【ウラン】
■飲料水=1kgあたり20ベクレル
■牛乳・乳製品=1kgあたり20ベクレル
■乳幼児用の食品=1kgあたり20ベクレル
■野菜やコメなどの穀類=1kgあたり100ベクレル
■肉や魚、卵、そのほか食品=1kgあたり100ベクレル

【プルトニウム】
飲料水、牛乳・乳製品、乳幼児用の食品で=1kgあたり1ベクレル
野菜やコメなどの穀類、肉や魚、それ以外の食品=1kgあたり10ベクレル

原子力発電所周辺の海水に含まれる放射性物質についてもよくニュースで伝えられます。
海水=1ccあたり
放射性ヨウ素131=0.04ベクレル
放射性セシウム137=0.09ベクレル
放射性セシウム134=0.06ベクレル
(http://www9.nhk.or.jp/kabun-blog/600/79101.html)

この「暫定基準」が、妥当かいなかは論争のあるところである。この暫定基準では高すぎるという主張もあり、妥当だという声もある。私自身は、この暫定基準値の許容値は高すぎるのでないかと考えているが、これについては、根拠を出して論じることはできない。ただ、この暫定基準自体が、日本社会全体において、いまだ論争の過程にあり、自明なものではないとはいえるだろう。

そして、現実のところは、暫定基準より放射線物質の付着が少ない商品を求める志向が強くなっている。例えば、中部大学の武田邦彦はブログ上で、「つまり「風評被害」というのは「悪いことでも異常なこともなく」、情報が不足した時に起こる「正常な人間の社会活動」ということです。だから、風評被害をなくすには、一にも二人も人間が自分を守りたいという本能に適した「正確な情報を提供する」ということなのです。」と発言している。さらに、次のように指摘している。

人間はバカではありません。そして現在のようにある程度の情報が提供されていればそれに基づいて自分の身や自分の子供の事を守ろうと考えるのは当然のことです。

福島原発から出た放射性物質が、空中にあたかも花粉や黄砂のように飛び、それが地上に落ちます。

地上に落ちたり、壁についた放射性物質からわたくしたちの体が被爆します。その値はNHKで毎日報告されていて、福島県ではおよそ数マイクロシーベルに及びます。

ということは、会津地方は別かもしれませんが、福島県全体としては放射性物質が常に降っているわけです。このことはほとんどの日本人が知っていると思います。

つまり福島県の農家には大変に申しわけないのですが、野菜には放射性物質が付着していると考えるのが「常識」なのです。そうなると、規制値と比べてどのぐらい低いのかということが、大切で消費者の知りたいことです。

例えば、規制値が300ベクレルの時に、野菜についている放射性物質が200ベクレルなら、多くの消費者は買わないでしょう。20ベクレルなら買うかも知れません。数値がなければ判断できません。

また、普通の時ならば、周りに放射性物質がないので、あるいは規制値以下であれば野菜を購入する人もいるかもしれません。しかし現在では、空間からの放射線、自分が吸い込んだ放射性物質、水食品等の汚染があるのですから、よけいに慎重になります。

このような時に自分や自分の家族を守ろうとしたら、「放射性物質がついている野菜よりも、放射性物質がついてないものを買いたい」と思うのはごく自然のことです。

もし、福島県の農家の人が福島産の野菜を売ろうとするなら、「この野菜は規制値の何分の1の放射性物質がついています。もしもそれで良いなら買ってください」とお願いするのが良いと思います。

つまり野菜を売るということは、人の口に入るのですから、十分に情報を出して信頼を得て、野菜を売らなければなりません。

そうしないと風評被害はさらに拡大すると思います。

原発 緊急情報(46) 「風評被害」を学ぶ
http://takedanet.com/2011/04/46_e65d.html

武田のいう通りであろう。放射性物質の摂取は、少なければ少ない方がよいのだ。そして、暫定基準より少ない放射性物質の付加量を示す食品を消費者は求めるであろう。福島県などで、大量の放射性物質が降下した事実は、だれでも知っている。そうなると、どれだけの放射性物質が付着しているかがわからなければ、該当地域の産物は一般的に買い控えられるということになるのだ。

現状の報道システムであると、「風評被害」ということを指摘されることを恐れて、暫定基準値以下ー不検出も含めてーの場合は、あまり報道されない。実は、厚生労働省は、食品中の放射性物質の検査結果について(http://www.maff.go.jp/noutiku_eikyo/mhlw3.html)において基準以下や不検出も含めて公表しているのであるが、基準値以上の場合しか大きくは報道されないのである。これこそ、「不適切な報道」であり、全く不検出や極微量にしか検出されないものもふくめて買い控えられることになってしまうのである(なお、食品の放射性物質の付着を懸念している方は、上記の厚生労働省の公表結果は参考になるだろう。どの地域のどのような食品が高いか、どのような食品が比較的安全なのかが多少なりとも理解できるようになっている)。

その結果、消費者に購入されるためには、流通側が自主的に検査しなくてならなくなってくる。その場合、検査基準は、政府の暫定基準ではない。より厳しい基準となっていく傾向がある。

例えば、食品宅配を行っているOisixは、商品の放射性物質検査を実施しているが、7月14日より、政府の暫定基準よりも低い震災以前の基準(370Bq/kg)に基づいて検査することにしたとサイトで述べている。

放射線検査の基準について、当社では国の暫定基準に基づいておりましたが多くのお客様からのご要望にお応えして、7/14より震災前の国の基準に基づいて検査を行う体制に変更しました。(※)

当社では、基本的に、国が定めた暫定基準値は安全であると考えておりますが、お客様からのご要望が多いことから、運用上の基準を震災前の国の基準に基づき変更しております。

こちらの検査でも引き続き、対象となる商品について「全アイテム検査」を流通前に「毎日」行ない、お届けいたしますので、新しい基準においても、基準値を超えるものが出荷されることはありません。

※震災前の国の基準で定められている、食品における放射性セシウムの値は370Bq/kg となります。(震災後の暫定基準値は500Bq/kg)。放射性ヨウ素については震災前の国の基準値では定められていないため、放射性セシウムと同様に370Bq/kg を基準としております。(震災後の暫定基準値は2000Bq/kg)
http://www.oisix.com/topPageG5.htm?hosid=2032

次のNHKが報道した事例は、より問題をはらんでいる。8月31日に福島県の野菜農家が中心となって、「震災や原発事故の影響を受けている被災地の野菜農家の現状を理解してもらおうという催しが東京・渋谷区で開かれ」たのである。ここでは、「市場に出回っているものは安全なので安心して食べてほしい」と主張されている。流通が規制される暫定基準以上の食品以外、市場にに流通される食品は、安全であるということなのである。しかし、実際、会場で販売された野菜や果物は、「民間の検査機関で放射性物質の濃度が国の暫定基準値以下で30ベクレルを下回ることが確認された」ものなのである。放射性ベクレルの暫定基準は500ベクレルであり、かなり少ない。つまりは、政府の暫定基準をクリアしているだけでは、このような「風評被害に抗しよう」という催しの際ですら、売れないことが懸念されているのである。

福島の農家が野菜の安全訴え
8月31日 14時48分
8月31日は、語呂合わせで「や・さ・いの日」です。これに合わせて、震災や原発事故の影響を受けている被災地の野菜農家の現状を理解してもらおうという催しが東京・渋谷区で開かれ、福島県の農家の人たちが「市場に出回っているものは安全なので安心して食べてほしい」と呼びかけました。
この催しは、東日本大震災の復興支援活動を行っている108の企業で作る団体が「野菜の日」に合わせて開いたもので、福島県の野菜農家、3人が講演しました。このうち郡山市の農園でカイワレダイコンなどを栽培している降矢セツ子さんは「震災のあと、風評被害などで売り上げは1割まで減った。消費者の不安な気持ちはよく分かるけれど、市場に出回っている物は安全なので、安心して食べてほしい」と、話しました。また、福島県産野菜の直売コーナーが設けられ、民間の検査機関で放射性物質の濃度が国の暫定基準値以下で30ベクレルを下回ることが確認されたキャベツやキュウリ、それに桃など8品目の新鮮な野菜や果物が並べられました。会場には多くの人が訪れ、東京都の主婦は「野菜や果物のおいしい産地なので福島県産の野菜を食べて応援したい」と話していました。この野菜と果物の売り上げは、すべて、あしなが育英会の津波遺児募金に寄付されることになっています。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20110831/t10015270901000.html

さらに、すき屋を展開しているゼンショーグループが、今年度産のコメについて、自然放射能以上の放射性物質の付着を認めない方針で検査をするという記事を、朝日新聞は9月5日に配信している。この記事では、「国の基準は全く信頼されていない。」とまで書かれている。

「すき家」展開のゼンショー、国産米を独自に放射線検査

 牛丼チェーンの「すき家」などを展開する外食大手のゼンショーは5日、店舗で使う今年の国産新米について、独自に放射線検査をすると発表した。国の基準に消費者の不信感が強いため、自然状態より少しでも高い放射線が検出されれば店には出さない方針だ。

 すべての産地について、収穫のたびに川崎市内の分析機関でサンプル検査をする。国の放射性セシウムの暫定基準値は1キロあたり500ベクレルだが、「(もみがらを取った)玄米の段階で自然より高い放射線が検知されるようなら、お客さんには出さない」といい、はるかに厳しい基準となる。

 ゼンショーは年間数万トンのコメを使い、外食産業では最大という。既に肉や野菜などの検査をしているが、主食のコメは消費者の関心が特に高いといい、「国の基準は全く信頼されていない。最大の安心を提供したい」と独自の基準を設ける。
http://www.asahi.com/business/update/0905/TKY201109050362.html

ここでは、三つの事例をあげただけにすぎないが、民間の流通の側で自主検査をするようになったこと、その際には、政府の暫定基準よりも厳しい値をとっていることがわかるであろう。いくら、「風評被害に抗する」といっても、暫定基準では売れないのである。それこそ、暫定基準自体に不信の目が向けられているといえよう。そして、まさに「市場原理」によって、「暫定基準」が駆逐されていくのである。

暫定基準の許容値については、高すぎるという意見もあると前述した。少しでも放射線をあびたくないという心情も手伝って、結局のところ、社会の側自体が、「暫定基準」について拒否しているというのが現状ではないか。

そして、これは、暫定基準を押し付けた政府、さらに「風評被害」といわれることを恐れて暫定基準以下の検査結果をほとんど報道しないマスコミについても不信の目でみられているということになっていくのである。

このように考えると「風評被害に抗する」ということ自体が意味をなさなくなってくる。ある意味で、消費者の側の、自然で合理的な商品選択である。元々暫定基準が高すぎると考えられているのであり、さらに購入を決定するための放射性物質の量という情報が開示されていないということから起きているといえるのである。

もちろん、このことで起きた損害を何の責任もない福島県などの地域の人びとが蒙らなくてはならないと考えているのではない。このような損害も含めて東電が支払うべきなのだ。

さらに、放射性物質の検査体制にも問題がある。次回、述べていきたい。

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福島第一原発事故以来、「風評被害」という言葉がさかんに流通するようになった。「風評被害」ということを辞書的にいえば、次のようになる。

根拠のない噂のために受ける被害。特に、事件や事故が発生した際に、不適切な報道がなされたために、本来は無関係であるはずの人々や団体までもが損害を受けること。例えば、ある会社の食品が原因で食中毒が発生した場合に、その食品そのものが危険であるかのような報道のために、他社の売れ行きにも影響が及ぶなど。
提供元:「デジタル大辞泉」
http://dictionary.goo.ne.jp/leaf/jn2/241515/m0u/

福島第一原発事故における風評被害の状況についてみてみよう。例えば、4月16日の朝日新聞の報道は、その状況を描写している。いわゆる「風評被害」は、国外にも及んでいる。そして、単に食料品だけでなく、直接関係ないとされた福島県地域の瓦礫搬入や、福島県の人びとに対する差別にもつながっているとされているのである。

地震・津波・原発事故に風評被害…「四重苦だ」
2011年4月16日12時17分

 福島第一原発の事故で風評被害が広がっている。被災地周辺の野菜や牛乳が敬遠され、がれきの受け入れで苦情が殺到した。子どもへの差別的な言動も報告された。放射能への誤解や過剰な警戒が原因だ。政府や行政は冷静な対応を呼びかける。

 「地震、津波、原発事故に加えて風評被害で四重苦だ。本当に恐ろしい」

 15日、東京・霞が関の農林水産省で、福島県南相馬市の関係者が、鹿野道彦農水相に口々に訴えた。

 福島県は全域で葉物野菜、大部分で原乳の出荷が禁止されている。だが、対象でない特産のイチゴも売れず、値段は通常の半分。同市は自主的に、全域で今季の米作りも見合わせた。

 官邸ではこの日、JA福島中央会から「風評被害の一掃を」との陳情を受けた菅直人首相らが、報道陣の前で県産のイチゴやキュウリをほおばってみせた。

 農水省によると、福島県産では牛肉が返品されたり、製材が取引をキャンセルされたりするケースも報告されている。

 福島以外でも、葉物野菜を中心に風評被害が広がっている。

 東京都中央卸売市場では3月下旬、出荷停止の対象でない茨城県産レタスの価格が前年同期の2~4割程度に暴落した。キャベツは愛知、神奈川が主産地にもかかわらず平年の69%(14日)で、産地を問わず低迷している。

 水産物では、茨城県沖のイカナゴ(コウナゴ)から基準を超えた放射性物質が検出された4月上旬以降、千葉県産も価格が下落したままだ。

 すべての漁が止まっていた茨城では15日、2漁港の10隻ほどが漁を再開した。日立市の漁師の小泉昭彦さん(67)は「このままでは収入はゼロ。生活するには、安く買いたたかれても、漁に出るしかない」と話す。水揚げしたヤリイカやアンコウなどの値は普段の7割ほど。アジは普段なら1キロ150~200円だが、約10円だった。

 北茨城市の平潟漁港でも、6~7割の値しかつかなかった。16日には東京・築地市場などで競りにかけられる。平潟漁協の鈴木一久参与は「どのくらいの値がつくのか、祈るような気持ちだ」。

海外では、中国が福島周辺の12都県の食品・飼料の輸入を停止。ベトナムなどは全国のすべての食品を止めている。松本剛明外相は15日の記者会見で、海外メディアで間違った情報が流れないよう「しっかり対応する」と述べた。

 そんな中、「回復」の兆しもある。出荷停止が解除され、福島・会津産の原乳を使った牛乳が16日から首都圏の店頭に再び並ぶ。会津中央乳業の二瓶孝也社長は「再建の目鼻がついてきた。このまま順調に流通してほしい」。

 だが、風評被害は食品にとどまらない。

 川崎市では、阿部孝夫市長が被災地のがれきを受け入れると表明したところ、「放射能のごみを燃やしたら危険」などの苦情が市に殺到した。受け入れ方針が報じられた8日以降、電話やメール、封書は4千件近くに及ぶ。

 大半は「放射能を帯びた廃棄物が持ち込まれる」という誤解に基づくもの。市はホームページにQ&Aを掲載し「安全が確認されるまで受け入れることはない」などと説明。最近は「電力を供給されている立場で(がれき受け入れに)文句を言うのはおかしい」「頑張って」といった電話も増えてきたという。

 千葉県船橋市では、「福島から来た児童が地元の子どもたちから避けられた」とする報道もあり、市などが対応に追われた。

 発端は、避難者の支援活動をしている市議が3月下旬、福島から避難している70代女性と40代男性の親子から聞いた話。「船橋に避難した親類の子が市内の公園で遊んでいる時、福島から来たと言ったら避けられた。子どもたちは船橋に転校するのをやめた」といった内容だった。

 事実関係は不明だが、市教委は念のため、3月28日に全市立小中学校に、「(避難してきた子らに)思いやりを持って接し、温かく迎える」「不安な気持ちを考え、言動に注意する」などと注意を求めた。

実際、4月24日の那珂湊では、漁獲されたヒラメがかなり安値で売られていた。普段なら、こういうことはないとのことであった。

那珂湊で売られていたヒラメ(2011年4月24日)

那珂湊で売られていたヒラメ(2011年4月24日)

4月14日の朝日新聞によると、「風評被害」は、放射線汚染とは直接関係ないと考えられる工業製品にも及んだ。

風評被害、日本の工業製品にも 8カ国・地域が輸入規制
2011年4月14日9時24分

 高級感や品質の良さで根強い人気の「メード・イン・ジャパン」。福島第一原発事故による放射能汚染を恐れる海外の国々で、工業製品にも風評被害が広がりつつある。

 「一転して禁輸撤回とは……」。ある経済官庁幹部はほっとした様子でこう話した。4月に入り、日本からの食品輸入を3カ月間停止するとしていたインド政府が、8日に一転して禁輸を撤回したからだ。農林水産省によると28カ国・地域が日本産食品の輸入規制を強めている。

 海外の日本産品への対応に、一喜一憂する日本政府の関係者。ただ「風評被害」は食品や農産物だけではない。工業製品にまで広がっている。

 ロシアのメディアによると5日、極東のウラジオストク税関は、通常の3~6倍の放射線量を検出したとして、日本からの輸入中古車を隔離した。四国タオル工業組合がイタリアに輸出した「今治タオル」も一時、ローマの空港の税関で足止めされた。

 経済産業省によると、工業製品でも8カ国・地域が輸入規制を敷く。

 放射能汚染に敏感な各国の税関当局は、商品が汚染されていないという証明を相次いで企業側に求めている。製品の放射線量を測定できる日本海事検定協会には、震災後に約250件の検査依頼が殺到。ほかの検査機関も対応しきれていないのが現状だ。

 そこで、日本の各商工会議所は、輸出時の証明になる書類に、産地の放射線量を書き込める欄を入れるサービスを始めた。日本商工会議所によると、制度を始めた3月28日以降、証明の発給は487件に上っている。

 風評被害で輸出が落ち込めば、日本経済は震災に続く二重の危機に見舞われかねない。産業のすそ野が広い工業製品で規制が広がれば、影響は大きくなる。

菅直人首相はこのほど、欧州連合(EU)のバローゾ欧州委員長との電話協議で、日本製品への冷静な対応を要請。枝野幸男官房長官も記者会見で「海外での事実と異なる報道に、かなり厳しく対応しないと風評は止められない」と述べてきた。

 経営者も風評被害の打ち消しに躍起だ。日本自動車工業会の志賀俊之会長(日産自動車最高執行責任者)は震災後、自動車メーカーの工場などで放射線の検出はないと国内外向けにコメントを出した。

 ただ、各国とも国内総生産(GDP)で世界3位の日本経済が悪化し、リーマン・ショックから持ち直しつつある世界経済を停滞させることまでは望んでいない。5月にフランスである主要国首脳会議(G8)では、風評被害を防ぐ議論もされる方向だ。(福田直之)
http://www.asahi.com/business/update/0413/TKY201104130520.html

このように、「風評被害」は、国外に及び、食料品だけでなく、直接関係ないはずの工業製品や瓦礫、人間自体にも及んだのだ。現在では、さすがに、これほどではないと思われるのであるが、食料品ではまだよく見られるといえよう。

ただ、この「風評被害」というものが、「根拠のない噂」や「不適切な報道」を主因としているといえるのだろうか。もちろん、それを契機にしていることはあるだろう。しかし、それは、契機に過ぎないといえる。東電の引き起こした福島第一原発事故という「出来事」がおき、そのことが報道され、そして放射線への恐怖を引き起こしたということ自体が、「風評被害」を惹起したといえる。「不適切」であるかどうかは副次的であり、「報道」をされたということが、人びとに目に見えない放射線に対する恐怖をまきおこす。個々の野菜などから放射性物質が検出されたということは、その証左にすぎない。放射性物質の影響を強く受けたと考えられる地域・国家からくる産物・人びとは、根拠もないことであるが、その恐怖のキャリアーとして、一時的にみなされる。放射性物質への対応というよりも、伝染病における細菌やウィルスへの対応に近い。そして、現実的には、最低限の啓蒙(放射性物質は伝染しない程度の)や、現在の放射線量などの情報開示があってはじめて流通が可能となるといえる。これは、二つの意味がある。一つは、本当に無関係な人・物にたいする無根拠な忌避をやめさせるということ、そして、さらに、多少なりとも汚染された実態を可視化し、恐怖を計量的に対処しうるものにすること。もちろん、これは、福島県民などの当事者にとっては、理不尽であり、不条理である。そして、このようなコストは、原発立地を推進した政府と東電が負担すべきことだと思う。

例えば、朝日新聞が出している四国の「今治タオル」がローマの税関で一時足止めをされたという例を考えてみよう。日本では、四国地方が福島からかなり離れていることは自明である。しかし、イタリアでそれがよく知られているとは思われない。そして、チェルノブイリ事故の影響を肌身で経験したヨーロッパ地域において、距離の遠さを理解しても、放射性物質の付着を懸念することはありうるのである。そして、タオルの生産過程で、原材料の生産や中間的生産過程が、福島第一原発事故の影響を強く受ける地域で行われたこともありうるのである。それは、現在の牛肉がそうである。

むしろ、これは、「根拠のない噂」「不適切な報道」を主因としているというよりも(もちろん契機となっていることはありえるが)、通関の際の懸念材料を払拭する情報が欠落していることに起因するといえる。つまり、四国地方と福島との距離、四国地方の放射線量、原材料も含めたタオルの生産過程、タオル自体の放射線量などの情報がイタリアの通関当局は承知しておらず、それゆえに、一時的ではあるが、今治タオルの通関を差し止めたといえる。

この場合、「四国地方の放射線量」の情報開示は政府が行うべき責務であろう。「タオルの生産過程」の情報伝達は生産者側が行うべきことである。「タオル自体の放射線量」は、生産者側で測定すべきことであるが、結局は政府が代行してはかるべきことであろう。しかしながら、「各地方についての放射線量」についての、政府の情報開示について、福島第一原発事故当時は情報隠蔽が目立ち、積極的に情報開示されていたとはみなされないだろう。また、いろんな製品の放射線量を測定することについても、積極的に政府が行っているとはいえないのではないか。この件は、たぶん、イタリア側の過剰反応という意味でとりあげたのであろうが、むしろ、政府の側の不作為が作り上げた出来事として考えるべきであり、その点への是正を積極的に国に求めていくという報道姿勢であるべきだったと思う。

他方、「ロシアのメディアによると5日、極東のウラジオストク税関は、通常の3~6倍の放射線量を検出したとして、日本からの輸入中古車を隔離した。」という朝日新聞の報道について考えてみよう。これは全く「風評被害」とはいえない。むしろ、「根拠」あるのである。この件が結局どうなったのかわからない。ただ、この放射線検出が誤りでないとするならば、むしろ、政府が対策をとるべき事象であったといえるし、そのような形で報道すべきことであったといえる。「不適切な報道」の影響を受けたロシア側の「意識」の問題にすりかえるべきでないと考えられる。

もちろん、過剰で不合理な対応というのもある。福島県民を忌避するなどというのはそれにあたる。そのような行為が容認できないのはいうまでもないことである。ただ、政府が積極的な情報開示や放射線量の測定などを十分なさず、「安全」であると宣伝することも問題である。結局、信頼すべきデータもなく、恐怖を可視化できず、それこそ「根拠のない噂」「不適切な報道」がまかりとおることになるといえる。現状では、残念ながら、放射線への恐怖を完全に払拭することはできない。しかしながら、政府の側でより適切な放射線への対応を行い、それに対して東電が応分の負担をするということは可能であろう。それが十分なされないことが問題なのだ。

いわば、「風評被害」という言葉は、福島第一原発事故を惹起した東電と放射線量の情報開示や放射線量測定における政府の責任を不可視化し、「根拠のない噂」や「不適切な報道」によって生じるとされる生産者と消費者との関係に還元してしまうという機能を有しているといえるのである。

このことについては、もう少し詳しくみてみたいと思っている。

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前々から述べてきたように、都市計画などを理由とした宮城県の建築制限は、現状では9月11日に期限を迎える。そこで、建築制限について、様々な動きがみられようになった。

宮城県としては、全体として、建築制限を11月まで延長する方針である。2011年9月1日、日本経済新聞は、気仙沼市、名取市、東松島市、女川町、南三陸町、山元町の6市町を対象とした建築制限を二か月延長する方針を宮城県が定めたと報道している。日本経済新聞によると、9月の制限解除までに、この6市町は、補助金などで優遇される「復興推進地域」を定める予定であったが、集団移転などの国の負担額が示されず、市町の街づくり計画策定が遅れているので、建築制限を二か月延長することにしたということである。(http://www.nikkei.com/news/local/article/g=96958A9C93819490E1E2E2E7918DE2E3E2EBE0E2E3E39EE2E3E2E2E2;n=9694E3E4E3E0E0E2E2EBE0E0E4E1より)

事実上の先送りであり、この二か月間においても建設は認められないことになるのだ。

一方、気仙沼市では、建築制限の一部解除を検討していると、河北新報は報じている。

建築制限期間延長へ 解除面積4割に 気仙沼市

宮城県が沿岸市町の都市計画区域内で行っている建築制限期限が11日に切れ、気仙沼市ではさらに2カ月間の延長が見込まれていることについて、菅原茂市長は2日の記者会見で「面的整備を行わない所など相当部分が外れる」との見通しを示した。解除面積は全体の4割程度になる見込みだ。
同市の制限区域は津波の浸水地域をベースにした465ヘクタール。市は土地利用方針を含む震災復興計画を今月末までにまとめる予定で、基本的には制限を2カ月延長。被災市街地復興推進地域の区域設定作業に取り掛かる。
菅原市長は記者会見で「産業の復興を早めるために、区画整理事業などの面的整備を行う必要のない所は極力外していく」と述べ、事業所の再開を促す方針を示した。
制限を継続する地域についても「排水施設などが基準を満たせば、積極的に再開に取り組んでほしい。個別に相談しながら進めたい」と、事業所側の意向に沿った対応を進める方針を示した。

2011年09月03日土曜日
http://www.kahoku.co.jp/news/2011/09/20110903t11025.htm

気仙沼市としては、復興推進地域としては、現在の建築制限がかけられている地域を4割縮小した形で指定し、建築制限がかけられる復興推進地域でも個別に相談に応じていく方針を示したといえる。

石巻市の建築制限についても報道されている。朝日新聞は9月2日に次のように報道している。

石巻市 449ヘクタール復興推進地域に
2011年09月02日

東日本大震災で大きな被害を受けた石巻市は1日、被災した市街地のうち、新たに街づくりを進める「復興推進地域」を決めた。この地域では11日まで建築制限がかけられ、12日以降も区画整理事業や再開発を進めるために最長1年半、一定の制限がかかる。
市都市計画審議会で約449ヘクタールを指定することを決めた。期限の2013年3月10日までに復興事業を始める。被災3県の市町村で、復興推進地域の指定は初めて。阪神大震災を受けて制定された被災市街地復興特別措置法に基づくもので、指定地域での事業には国の補助が手厚くなる。
具体的な事業計画をまとめる前に復興推進地域を決められるのも特徴。国の復興方針や財源は示されていないが、市は「復興を急ぐため、議論のたたき台を作った」としている。
復興推進地域では12日以降、一定の要件を満たした建物なら、県の許可を得て新築できるようになる。ただ、区画を整理したり、公営住宅や避難ビルなどを整備したりするため、移転を求められる可能性がある。10月以降、より具体的な図面を示し、市民と意見交換をして事業計画を立てる。
事業計画を作るまでには課題が多い。区画整理には所有者の同意が要るが、大半が避難所や仮設住宅で暮らしたり、県外に移転したりしているため、把握や連絡に手間取りそうだ。市内の死者・行方不明者は計約4千人で、交渉相手の特定も困難を極める。
石巻市の復興基本計画案では、市街地では防潮堤とカサ上げ道路の二重の津波対策を施す。復興推進地域はカサ上げ道路の内陸側と海側に分かれるが、海側を事業用地区とし、住めなくすることも検討している。
事業用地区になりそうな門脇地区に住む主婦阿部利津子さん(64)は「移転するなら早く移転したい」。自宅は津波で浸水し、2部屋の畳を入れ替えた。今のところ不自由はないが、これ以上補修しようにも「移転するなら、あまりお金をかけられない」と言う。
同じ門脇地区に工場を持つ千葉タイヤ商会の千葉隆志社長は「ほっとしている」。事務所は水没したが、ここで事業を続けられるかどうか悩み、大がかりな補修をしていなかった。「内装を奇麗に直し、事業を続けたい」と話した。(吉田拓史、高橋昌宏)
■復興推進地域に指定される地区
【西部地区】
門脇、中屋敷、新館、中浦、三ツ股、築山、大街道南、大街道東、双葉町、重吉町、三河町、中島町、南光町の各一部
【中部地区】
中瀬、湊町、川口町の全域。中央、門脇町、門脇、南浜町、大門町、明神町、湊、住吉町、雲雀野町、日和が丘、不動町、八幡町の各一部
【東部地区】
松原町、長浜町、幸町、渡波町、万石町、塩富町の各一部
(http://mytown.asahi.com/miyagi/news.php?k_id=04000001109020001より)

この朝日新聞の報道では、建築制限がただ延長しているような印象を受ける。しかし、河北新報の報道はニュアンスが異なっている。「地域内での建築行為は、復興計画の土地利用に影響を及ぼさない範囲で、簡易な建物(木造もしくは鉄骨2階以下、敷地300平方メートル未満)の建設に限り認める。」ことに重点がある報道である。

石巻市の復興推進地域、12日から

石巻市は1日、市役所であった都市計画審議会で、建築制限区域となっていた同市南浜町や大街道など市内約450ヘクタールについて、被災市街地復興特別措置法に基づき市街地再生に向けて基盤整備が補助金などで優遇される「被災市街地復興推進地域」とすることを決めた。
期間は12日から2013年3月11日まで。建築制限区域を西部、中部、東部の3区域に分け、住民の意見を参考にしながら区画整理や防災拠点施設整備などの各種事業に取り組む。
地域内での建築行為は、復興計画の土地利用に影響を及ぼさない範囲で、簡易な建物(木造もしくは鉄骨2階以下、敷地300平方メートル未満)の建設に限り認める。
同様に建築制限区域となっている同市鮎川、雄勝両地区の約100ヘクタールについては、11月11日まで制限を続ける方針。

2011年09月02日金曜日
(http://www.kahoku.co.jp/news/2011/09/20110902t11033.htm)

つまり、同じことを報道しても、中央の朝日新聞の視点と地方の河北新報の視点は異なっているのである。朝日新聞においては、国の復興方針が遅れたため、建築制限が継続されているというストーリーで記事は構成されているといえる。一方、河北新報においては、復興推進地域においては、復興計画に支障がでない範囲で、建設が認められるというストーリーとなっているといえる。

もちろん、国の復興方針が明示されないのは問題である。ただ、現状においては、現行法でできる範囲で復興をみとめていくしかないのではないか。その意味で、石巻市や気仙沼市の取り組みは注目できる。ある意味では、仮設でもよいから、早期の建設を認めていくことが重要である。そのためには、気仙沼市のように復興推進地域の縮小も考えられるであろうし、石巻市のように復興推進地域に仮設建築物の建設を認めていくことも考えられるのである。

といっても、現状は、建築制限が解除されても、市内全域で復興がすすむという状況ではない。河北新報は9月1日に次のような報道をしている。

疲弊商店街、津波追い打ち 石巻中心部、再建に踏み出せず

東日本大震災で甚大な被害を受けた宮城県石巻市の中心商店街に、さらなる空洞化が懸念されている。復興需要で活況を呈す郊外の大型店に対し、中心商店街では既に廃業した店が出ている。震災から6カ月近くたった今も市の具体的な事業計画が見えず、再建に踏み出せない店主は多い。

「店を閉めるという決断しかなかった」。石巻市中央2丁目で履物店を営んでいた藤沼信夫さん(81)は、市内の仮設住宅で寂しそうな表情を見せた。
先代から90年以上続いた店は、1階が天井近くまで浸水した。シャッターはひしゃげて壁紙ははがれ落ち、修理用具や商品はすべて水に漬かって使い物にならなくなった。
藤沼さんに、後継者はいない。「体が動くうちは続けたかった。ほかの商売仲間もつらい立場だと思う。商店街の行く末が心配だ」と話す。
店舗・駐車場賃貸業「本家秋田屋」が中心商店街で貸し出す約20の物件のうち、震災後、半数以上が退去した。浅野仁一郎社長(60)は「行政の青写真も明確に出ていない。高齢の店主らは、再建を諦めざるを得なかったのだろう」と話す。
中心商店街は2000年ごろから閉店が目立ち始めた。09年6月に県が実施した調査では、立町や駅前大通りなど8商店会に所属する266店のうち82店が空き店舗だった。
市商工会議所とタウンマネジメント機関「街づくりまんぼう」などは07年、中心地のにぎわいを取り戻そうと協議会を発足。10年2月には「彩り豊かな食と萬画のまち」を掲げた中心市街地活性化基本計画が、県内で初めて内閣府に認定された。新たな街づくりの胎動が始まった直後に津波が襲い、疲弊する商店街に追い打ちを掛けた。
一方、中心市街地から約3キロ内陸にある同市蛇田地区は津波の被害が小規模にとどまり、今は震災前以上のにぎわいを見せる。来春には、飲食や美容院などのテナント10店を連ねた複合施設がオープンする予定だ。
市内の不動産業者は「復興需要で、大型店などは活況だ。車で行動する若い家族層は、確実に蛇田側に買い物行動の軸足を置いている」とみる。
街づくりまんぼうの西条允敏社長は「中心地は、旧北上川沿いのロケーションなど替え難い魅力がある。市の復興計画とうまく連動して商店の新規参入を促すなどし、何とかにぎわいを取り戻したい」と話している。

2011年09月01日木曜日

http://www.kahoku.co.jp/news/2011/09/20110901t13021.htm

ここでいう「蛇田」とは、次のような地域である。

市街地からみるとやや郊外よりであり、国道などが通っている地域である。私が訪れた際も、国道沿いにある、駐車場をともなった大型店舗の復興ぶりは目をみはった。しかし、この地図では石巻駅と旧北上川の間にある市街地中心部においては、かなり多くの店舗が原形をとどめているにもかかわらず、閉店となったところが多く、まさにシャッター通りの様相を呈していたといえる。

石巻市中心市街地(2011年7月26日)

石巻市中心市街地(2011年7月26日)

この問題は、被災地石巻市だけの問題ではない。市街地中心部の商店街が衰退し、道路や駐車場の確保などで車でアクセスしやすい郊外の大型店舗が繁昌するというのは、どこの地方でもみられる。

結局、新築しなくても、リフォームですむ物件が、石巻市街地には存在している。しかし、今まで営業していた人たちも、営業できない現状では、店舗はあまり、賃貸料は低下し、地価も下がっていく。この中で、地価上昇を前提とした区画整理事業で都市計画が進められることになれば、相当な困難が予想されるのである。事業費を整理後の土地の放出ではねん出できず、道路の拡張においても、住民負担が大きくなるといえるのである。

一方的な建築制限を改善していくという一部自治体の努力は評価できよう。しかし、それだけでは問題は解決しないのである。

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さて、これまで、都市計画・区画整理や住宅地の高台移転の実施を前提にして実施された宮城県の建築制限が、ある意味で復興の妨げになっているかもしれないと論じてきた。さらに宮城県の計画するような都市計画などの大規模開発が、新自由主義における減税志向の強い政治体質や、この十年来のデフレ景況、さらに人びとや企業の流失による過疎化により、実現可能なものであるかどうかと疑問を呈してきた。

そして、むしろ、人びとや企業の流失を食い止めることこそ、宮城県にとって最も重要な課題なのではないかと指摘した。もちろん、村井宮城県知事の水産特区構想や住宅地の高台移転計画なども、そのための方策としての意味はあるだろう。しかし、現状においては、むしろ、このような宮城県の復興方針は、最終的な是非は別として、むしろ、人びとや企業の流失をエスカレートさせているともいえるのである。

当たり前の話であるが、被災以前の人びとが再び日常生活を送るようにすることが、復興なのである。現在、宮城県では、他県と比較して、仮設住宅の建設が進んでいないと聞いている。

それでは、生業の場はどうだろう。東日本大震災で、農地も漁港も大きな被害を受けた。この復旧自体が大きな課題であり、宮城県は漁港集約化を打ち出して、ここでも問題を引き起こしている。

そして、市街地については、結局、建築制限のため、既存市街地においては、リフォーム以外、工場・店舗の再建ができないのが宮城県の現状である。

将来的な都市計画の必要性は、もちろんあるだろう。その意味で、建築制限を実施する意義はある。しかし、現実に、人びとが流失していくことを押しとどめるには、被災地自体を生業の場としていかなくてはならないのではないか。

その意味で、被災地自体に、仮設工場・仮設店舗を建設していく必要があるのではないか。商業地・工業地だったところに、再び、営業を認めていくということになる。危険な所の住宅建設は当面許可せず、将来の都市計画をみすえて、撤去・移転可能なものに限定しておく。その意味で「仮設」なのだ。

仮設工場・仮設店舗によって、とりあえず住民の生業の場を与えるとともに、このことによって、市街地は市街地としての景観を少しずつではあるがとりもどすであろう。ただの空き地と、仮設店舗ーそれが屋台であったとしてもーで賑わうところでは、大きく違うのである。

もちろん、これは、ささやかなことに過ぎない。それでも、むしろ、人びとの日常生活それぞれの復旧こそが、本来自治体の取り組むべき課題なのであり、それがないならば、都市計画など意味がないと思えるのである。

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