とにかく、あきれて、物がいえなくなるーこれが福島第一原発事故処理をめぐる状況だ。
まずは、2月22日、福島第一原発の港湾に流れ込む排水路で通常時より高い濃度の放射性物質を含んだ汚染水が流出したという報道がなされた。中日新聞が同日付でネット配信した記事をみてほしい。
港湾内に汚染水流出か 福島第1原発
22日午前10時ごろ、東京電力福島第1原発敷地内の排水路で放射性物質濃度の上昇を示す警報が鳴った。東電や原子力規制庁によると、ストロンチウムなどのベータ線を出す放射性物質が、最高で普段の70倍以上に当たる1リットル当たり7230ベクレル検出された。原発の港湾内にそのまま流れたとみられるが、流出量は不明。
午前11時35分ごろに排水路のゲートを閉めるなどの対策を取った。東電などによると、普段の検出値は数十ベクレル程度といい、濃度が上昇した原因やタンクからの汚染水漏えいがないかどうか調べている。
(共同)
http://www.chunichi.co.jp/s/article/2015022201001650.html
そして、2月24日には、別の排水路において、高濃度汚染水が、福島第一原発前の港湾ではなく、直接海洋に流出していたことが東電から発表された。この排水路について、昨年4月から、雨のたびに放射性濃度が上昇することが発覚していたが、東電は一年近くもそのことを公表してこなかったのである。そして、ようやく、汚染源が特定できたとして公表した。NHKがネット配信した記事をみてほしい。
福島第一 高い濃度の汚染水を海に流出か
2月24日 21時14分福島第一 高い濃度の汚染水を海に流出か
東京電力福島第一原子力発電所2号機で、原子炉建屋の屋上に比較的高い濃度の汚染水がたまっているのが見つかり、雨が降るたびに排水路を通じて海に流れ出していたおそれがあることが分かりました。
東京電力はこの排水路の放射性物質の濃度が雨のたびに上がっていることを去年4月から把握していましたが、公表していませんでした。東京電力によりますと、比較的高い濃度の汚染水がたまっていたのは福島第一原発2号機の原子炉建屋の屋上の一部で、この水には放射性物質のセシウム137が1リットル当たり2万3000ベクレル、セシウム134が6400ベクレル、ベータ線という放射線を出す放射性物質が5万2000ベクレル含まれていました。
2号機の周囲を通る排水路では、東京電力が去年4月に観測を始めて以降、雨のたびにほかの排水路よりも高い濃度の放射性物質が検出されていて、去年8月にはベータ線という放射線を出す放射性物質が1リットル当たり1500ベクレル、セシウム137が760ベクレル、セシウム134が250ベクレル、それぞれ検出されていました。
しかも、この排水路は原発の港湾内ではなく港湾の外の海につながっていて、東京電力は2号機の屋上にたまった汚染水が雨のたびに排水路を通じて海に流れ出していたおそれがあるとしています。
東京電力は、問題の排水路の放射性物質の濃度が雨のたびにほかよりも上がっていることを去年4月から把握していましたが、今回の調査結果がまとまるまで公表していませんでした。
東京電力は、周辺の海水の放射性物質の濃度に大きな変動はみられていないとしていますが、対策として来月末までに汚染水がたまっていた2号機の屋上や排水路の底に放射性物質を吸着する土のうを敷くとしています。
福島第一原発では22日にも、別の排水路で、ベータ線と呼ばれる種類の放射線を出す放射性物質の濃度が一時、簡易測定で1リットル当たり最大で7230ベクレルと通常の10倍以上の値を示していて、東京電力は「続けて放射性物質を含んだ水が排水路に流入したことで、福島県民をはじめ皆様に、重ねてご心配をかけて申し訳ありません。調査結果を踏まえて速やかに対策を取っていきたい」と話しています。いわき市漁協「ショック受けている」
汚染された水が流出していたことについて、地元のいわき市漁協の矢吹正一組合長は「これまでの説明と異なり、港の外に汚染水が漏れていたという発表にショックを受けている。東京電力への信頼喪失につながると思う。現在、東京電力から受け入れ要請を受けている建屋周辺の井戸からくみ上げた汚染水を浄化して海に放出する計画にも影響が出かねない。原因究明と対策の徹底を求めたい」とコメントしています。問題の排水路とは
今回、汚染水が流れ出していたおそれがある排水路は「K排水路」と呼ばれ、福島第一原発の1号機から4号機のすぐ山側を通り、4号機の南側で港の外の海につながっています。
22日、放射性物質の濃度が一時、上昇した排水路は山側のタンクエリアから流れる別の排水路で、こちらはタンクからの汚染水漏れが相次いだのをきっかけに、港の外に出ないようルートが変更されていました。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150224/k10015716031000.html
この記事にもあるように、東電は、福島第一原発周辺の汚染地下水をくみあげ、浄化して海に放出する計画をたて、合意をもとめて福島県漁連と交渉を継続していた。このニュースは、交渉中の福島県漁連にもショックを与えた。2月25日にネット配信した東京新聞の次の記事をみてほしい。
福島第一汚染水垂れ流し 漁連「信頼崩れた」
2015年2月25日 夕刊
福島県漁業協同組合連合会は二十五日、同県いわき市で組合長会議を開き、東京電力福島第一原発2号機の原子炉建屋屋上から汚染雨水が排水路を通じて外洋に流出していた問題について、東電と国から説明を受けた。東電が問題を把握しながら対策を講じなかったことに、出席者からは「信頼関係が崩れた」「漁業者を甘く見ているのか」と怒りの声が相次いだ。
内堀雅雄県知事はこの日の関係部長会議で「県民に不安を与える問題が起きたこと、情報が速やかに公表されなかったことは遺憾だ」と述べ、県や地元市町村、専門家でつくる廃炉安全監視協議会の立ち入り調査を近く行う考えを示した。
東電と国は第一原発の汚染水対策として、建屋周辺の井戸「サブドレン」などからくみ上げた地下水を浄化して海に流す方針で漁業者に理解を求めているが、今回の汚染雨水の流出で反発が強まりそうだ。
会議では、いわき市漁協の矢吹正一組合長が「以前から分かっていたのになぜ黙っていたのか。漁業者は大ショックで、サブドレンどころではない」と批判。相馬双葉漁協の佐藤弘行組合長も「東電と漁業者の信頼関係が崩れた」と述べた。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2015022502000241.html
東電の対応はあきれるしかない。汚染源は福島第一原発2号機原子炉建屋の屋上にたまっていた放射性物質で、それが雨のたびに排水路に流出したとされている。そもそも、この程度のことを調査するのに、1年近くもかかるのだろうか。そして、たとえ、汚染源が特定されなくても、排水路の出口を港湾内につけかえるとか、水門を設けて汚染水をためておくとか(これらのことが現実的に効果があるかどうかは疑問だが)などの改善策をとることができないものであろうか。多少でも現状を改善しようというより、事態を隠蔽し、対応を少しでも先送りし、このような事象を「なかったことにする」ということが、東電の対応の基本姿勢であったと思われる。そして、これは、日本の原発で常に行なわれてきたことだった。
一方で、安倍政権の菅義偉官房長官は25日の記者会見で次のようにこたえている。ロイターの記事をみてほしい。
菅官房長官「影響は完全にブロック」、福島第1原発の汚染水流出
2015年 02月 25日 17:48 JST[東京 25日 ロイター] – 菅義偉官房長官は25日午後の記者会見で、福島第1原発2号機原子炉建屋の屋上に溜まっていた比較的高い濃度の汚染水が海に流出していた問題で、港湾外の海水濃度は法令告示濃度に比べて十分に低い数値だと言明。
その上で「港湾への汚染水への影響は完全にブロックされている。状況はコントロールされているという認識に変わりない」と述べた。
東京電力(9501.T: 株価, ニュース, レポート)は、この汚染水流出問題を把握していたが、公表していなかった。今回の東電の対応について菅長官は「(問題を)放置していたわけではない。原因を調査して、溜まり水の箇所が判明したのですぐ対応した」と述べた。
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKBN0LT0OK20150225
1年近く、汚染源特定もなんらかの対策もなしていないことは、普通は「放置」というだろう。それを「放置していたわけではない」というのである。さらに「港湾への汚染水への影響は完全にブロックされている。状況はコントロールされているという認識に変わりない」としている。問題の排水路は港湾に直結されていないから、そこへの影響は確かにない。しかし、直接に海洋を汚染するという、より深刻な事態を惹起しているのである。この、形式論的には「正しい」言い逃れは、事態のある種の誤認でなければ、意図的な「虚偽」である。そして、菅官房長官は、福島第一原発を「コントロールしている」のではなく、「マスコミ」を「コントロール」しているのである。
東電側の、事故の隠蔽と対応の先送り。安倍政権側の、虚偽的な言い逃れと、マスコミ・コントロール。東電と安倍政権の考える福島第一原発のコントロールは、このようなことから構成されているといえよう。