Feeds:
投稿
コメント

Posts Tagged ‘避難指示解除準備区域’

2015年6月13日現在、日本社会の一大関心事(なお、NHKその他のテレビは別だが)となっているのは、安倍政権の安全保障関係法制立法の動きである。しかし、その一方で、それこそ目立たない形で、福島第一原発事故被災者の切り捨てが進行している。

まず、自民党は、5月21日に震災からの復興に向けた第五次提言をとりまとめ、「避難指示解除準備区域」と「居住制限区域」の避難指示を2017年3月までに解除し、両区域住民への慰謝料支払を2018年3月に終了する方針を打ち出した。それを伝える東京新聞のネット配信記事をみてほしい。

自民復興5次提言 原発慰謝料18年3月終了 避難指示は17年に解除

2015年5月22日 朝刊

 自民党の東日本大震災復興加速化本部(額賀福志郎本部長)は二十一日、総会を開き、震災からの復興に向けた第五次提言を取りまとめた。東京電力福島第一原発事故による福島県の「避難指示解除準備区域」と「居住制限区域」の避難指示を二〇一七年三月までに解除するよう正式に明記し、復興の加速化を政府に求めた。 
 賠償では、東電が避難指示解除準備区域と居住制限区域の住民に月十万円支払う精神的損害賠償(慰謝料)を一八年三月に一律終了し、避難指示の解除時期で受取額に差が生じないようにする。既に避難指示が解除された地域にも適用するとした。
 提言は自民党の総務会で正式決定後、今月中に安倍晋三首相に提出する。額賀本部長は「古里に戻りたいと考える住民が一日も早く戻れるよう、生活環境の整備を加速化しなければならない」と述べ、避難指示解除の目標時期を設定した意義を強調した。
 だが、福島県の避難者からは「二年後の避難指示解除は実態にそぐわない」と不安の声も上がっており、実際に帰還が進むかどうかは不透明だ。
 避難指示区域は三区域あり、居住制限区域と避難指示解除準備区域の人口は計約五万四千八百人で、避難指示区域全体の約七割を占める。最も放射線量が高い「帰還困難区域」については避難指示の解除時期を明示せず、復興拠点となる地域の整備に合わせ、区域を見直すなどする。
 集中復興期間終了後の一六~二〇年度の復興事業は原則、国の全額負担としながらも、自治体の財政能力に応じ、例外的に一部負担を求める。
 また一六年度までの二年間、住民の自立支援を集中的に行うとし、商工業の事業再開や農業再生を支援する組織を立ち上げる。その間、営業損害と風評被害の賠償を継続するよう、東電への指導を求めるとした。
 提言には、第一原発の廃炉、汚染水処理をめぐり地元と信頼関係を再構築することや風評被害対策を強化することも盛り込まれた。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2015052202000117.html

そして、6月7日、東京電力は避難指示区域内の商工業者に払っている営業補償を2016年度分までで打ち切る方針を提起した。東京新聞の次のネット配信記事をみてほしい。

福島第一事故 営業賠償 16年度まで 東電方針

2015年6月8日 朝刊

 東京電力は七日、福島第一原発事故の避難指示区域内の商工業者に支払っている営業損害賠償を二〇一六年度分までとし、その後は打ち切る方針を明らかにした。同日、福島市内で開かれた、福島県や県内の商工団体などでつくる県原子力損害対策協議会(会長・内堀雅雄知事)の会合で示した。
 方針は与党の東日本大震災復興加速化プロジェクトチームが五月にまとめた第五次提言を踏まえた措置。事故による移転や転業などで失われる、一六年度までの収益を一括して支払う。事業資産の廃棄に必要な費用なども「必要かつ合理的な範囲」で賠償するとしている。
 東電の広瀬直己社長は「個別の事情を踏まえて丁寧に対応していく」と述べた。
 営業損害の賠償をめぐっては、東電が一時、来年二月で打ち切る案を提示していたが、地元から強い反発を受けて撤回した。一方、与党は第五次提言で、国が東電に対し、一六年度まで適切に対応しその後は個別の事情を踏まえて対応するよう指導することを明記した。
 商工業者の支援に関し、安倍晋三首相は先月三十一日、官民合同チームを立ち上げ県内の八千事業者を個別に訪問し、再建を後押しする方針を示している。
 会合に参加した団体からは、国や東電に「風評被害は依然残っており、賠償は続けるべきだ」「被害者に寄り添った賠償をお願いしたい」など、継続的な賠償を求める意見が相次いだ。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/news/CK2015060802000120.html

他方、福島県は、自主避難者に対して行っている無償での住宅提供を2017年3月までで打ち切ることを5月頃より検討している。これは、たぶん、自民党の第五次提言と連動しているのだろう。そのことを報じる朝日新聞のネット配信記事をみてほしい。

自主避難者への住宅提供、2年後に終了へ 福島県が方針
2015年5月17日13時02分

 東京電力福島第一原発事故後に政府からの避難指示を受けずに避難した「自主避難者」について、福島県は避難先の住宅の無償提供を2016年度で終える方針を固め、関係市町村と調整に入った。反応を見極めた上で、5月末にも表明する。故郷への帰還を促したい考えだ。だが、自主避難者からの反発が予想される。

 原発事故などで県内外に避難している人は現在約11万5千人いる。このうち政府の避難指示の対象外は約3万6千人。津波や地震の被災者を除き、大半は自主避難者とみられる。

 県は災害救助法に基づき、国の避難指示を受けたか否かにかかわらず、避難者に一律でプレハブの仮設住宅や、県内外の民間アパートなどを無償で提供している。期間は原則2年だが、これまで1年ごとの延長を3回し、現在は16年3月までとなっている。

 今回、県はこの期限をさらに1年延ばして17年3月までとし、自主避難者についてはその後は延長しない考え。その際、終了の影響を緩和する支援策も合わせて示したいとしている。国の避難指示を受けて避難した人には引き続き無償提供を検討する。
http://www.asahi.com/articles/ASH5J5H83H5JUTIL00M.html

さらに、6月12日、ほぼ自民党の第五次提言を踏襲して、安倍政権は福島の復興指針を改定し、閣議決定した。「居住制限区域」と「避難指示解除準備区域」の避難指示を2016年度末(2017年3月)までに解除し、慰謝料支払も2017年度までで打ち切るというもので、ほぼ自民党の第五次提言にあったものだ。2016年度までで営業補償を打ち切ることも盛り込まれた。ただ、2016年度までに被災者の「事業再建」を「集中支援」するというのである。東京新聞のネット配信記事をみてほしい。

避難解除 17年春までに 生活・健康…不安消えぬまま

2015年6月12日 夕刊

 政府は十二日、東京電力福島第一原発事故で多大な被害を受けた福島の復興指針を改定し、閣議決定した。「居住制限区域」と「避難指示解除準備区域」の避難指示を、事故から六年後の二〇一六年度末までに解除するほか、事業再建に向けて一六年度までの二年間に集中支援する方針を盛り込み、被災者の自立を強く促す姿勢を打ち出した。 
 避難住民の帰還促進や、賠償から事業再建支援への転換が柱。地元では帰還への環境は整っていないと不満の声もあり、被害の実態に応じた丁寧な対応が求められる。
 安倍晋三首相は官邸で開かれた原子力災害対策本部会議で「避難指示解除が実現できるよう環境整備を加速し、地域の将来像を速やかに具体化する」と述べた。
 居住制限区域など両区域の人口は計約五万四千八百人で避難指示区域全体の約七割を占めるが、生活基盤や放射線による健康被害への不安は根強く、避難指示が解除されても帰還が進むかは不透明。東電による「居住制限区域」と「避難指示解除準備区域」の住民への月十万円の精神的損害賠償(慰謝料)支払いは一七年度末で一律終了する。一六年度末より前に避難指示が解除された場合も一七年度末まで支払い、解除時期で受取額に差が生じないようにする。既に避難指示が解除された地域にも適用する。
 一方、第一原発に近く依然、放射線量が高い「帰還困難区域」の解除時期は明示しなかった。
 被災地域の事業者に対しては事業再建に向けた取り組みを一六年度までの二年間に集中的に実施。商工業者の自立を支援するための官民合同の新組織を立ち上げ、戸別訪問や相談事業を行うほか、営業損害や風評被害の賠償は一六年度分まで継続する。
 東電は既に今月七日、福島県に対し、避難指示区域内の商工業者に支払っている営業損害賠償は一六年度分までとし、その後は打ち切る方針を示している。
◆きめ細かな対応必要
 <解説> 福島復興指針の改定で政府は、福島県の居住制限区域と避難指示解除準備区域の避難指示の解除目標時期と賠償の終了時期を明示し、住民の自立を促す方針を打ち出した。政府はこれまでの「賠償」という形から「生活再建支援」に移行したい考え。しかし住民の置かれた状況はまちまちで、福島では「賠償の打ち切りだ」との反発も多い。
 除染やインフラ整備が完了しても、商圏自体を失った企業の再建や、避難に伴い住民がばらばらになったコミュニティーの再生は容易でない。既に避難指示が解除された地域でも帰還が進んでいないのが実情だ。政府や東電は、無責任な賠償打ち切りにならないよう、分かりやすい説明と、個々の被災者の状況に応じたきめ細かな対応に努める必要がある。
 震災復興、原発事故対応には多額の国費が投入されている。被災地への関心の低下が指摘される中、国民への丁寧な説明も引き続き求められる。 (共同・小野田真実)
■改定指針のポイント■
▼福島県の居住制限区域と避難指示解除準備区域の避難指示を2016年度末までに解除。
▼両区域の住民への精神的損害賠償(慰謝料)の支払いを17年度末で一律終了。早期解除した場合も同等に支払う。
▼16年度までの2年間を集中的に事業者の自立支援を図る期間として取り組みを充実。事業者の自立を支援する官民合同の組織を創設し、戸別訪問や相談事業を実施。
▼原発事故の営業損害と風評被害の賠償は16年度分まで対応。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2015061202000266.html

これらの措置が、福島県の被災者の生活を大きく揺るがすことは間違いない。特に重要なことは、「居住制限区域」も2017年3月までに避難指示を解除するとしたことである。「避難指示解除準備区域」は放射線量年間20mSv以下で、それでも福島県外の基準である1mSvの20倍で、かなり高い。「居住制限区域」は20−50mSvであり、もちろん、より高い。そこも含めて、避難指示を解除しようというのである。いかにも、安倍政権らしい、無茶苦茶で乱暴な措置だ。

ある程度は、除染その他で「居住制限区域」でも線量は下がっているとは思われる。しかし、それならそれで、空間線量を計測して、20mSv以下の線量になったことを確認して、「避難指示解除準備区域」に編入するという手続きが必要だろう。そういうことはまったくお構いなしなのだ。このような状態だと、福島県民の放射線量基準は、福島県外の50倍ということになりかねないのである。

そして、避難指示解除と連動して、慰謝料や営業補償などの支払いを打ち切るという。つまりは、もとの場所に戻って、東電の支払いに頼らず、3.11以前と同じ生活を開始しろということなのである。そのための支援は講じるということなのであろう。しかし、逆にいえば、自主避難者などの支援は打ち切らなくてはならないということなのであろう。避難指示に従った人びとへの慰謝料・営業補償などは打ち切っていくのに、自主避難者への支援を続けていくわけにはいかないというのが、国や福島県などの考えであると思われる。もちろん、放射線量についてはいろんな意識があり、自民党などがいうように、線量にかまわず「古里に戻りたい」という考えている人はいるだろう。とはいえ、福島県外と比べて制限線量が50倍というのは、やはり差別である。法の下の平等に背いている。それゆえに、自主避難している人たちもいるだろう。そういうことは考慮しないというのが「復興新指針」なのである。何も自主避難している人びとだけではなく、線量が下がらないまま、自らの「希望」にしたがった形で、「帰還」を余儀なくされる人びとも「棄民」されることになるだろう。

良くも悪くも、安全保障関係法制立法の問題のほうに、日本社会の目は向けられている。その陰で、このような福島県民の「棄民」が進行しているのである。

Read Full Post »

福島第一原発周辺においては、2つの基準が存在している。まず、居住制限区域と避難指示解除準備区域は年間20mSvが境界となっており、線量20mSv以下で、インフラの整備が完了すれば、帰還を認めることになっている。

しかし、除染の基準は年間1mSv以上であり、それ以下をめざして除染を行うことになっている。だが、除染事業の現状は、年間1mSv未満に線量を下げることは困難であることが判明している。

そこで、次のようなことが行われた。しんぶん赤旗が2013年11月13日に配信した次の記事をみてほしい。

帰還後「個人線量が基本」

規制委方針 「空間線量」から変更

 原子力規制委員会は20日の定例会合で、東京電力福島第1原発事故で避難している住民の帰還に向けた防護措置のあり方などについて、「基本的考え方」をほぼ了承しました。これまで専門家による検討会合が4回開かれ、11日に案がまとめられていたもの。

 「考え方」は、帰還後の被ばく線量管理について、個人線量計による測定を基本とすることなどが明記されました。個人線量計などを用いた個人線量は、ヘリコプターなどによる空間線量率から推定される被ばく線量と比べて低くなる傾向が指摘されています。
(後略)
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2013-11-21/2013112115_01_1.html

つまり、今までの空間線量から推定される被ばく線量より低く測定される傾向がある個人線量計に切り替えることにしたのである。朝日新聞が2013年11月21日にネット配信した記事によると、次のように、約半分程度になるということである。

福島県伊達市は21日、全住民を対象に1年間実施した個人線量計(ガラスバッジ)による放射線被曝(ひばく)量の測定結果を発表した。国の推計方式で年1ミリシーベルトの被曝量があるとされた二つの地域で、住民の被曝量の平均が、いずれも0・5ミリ台だったという。
http://www.asahi.com/articles/TKY201311210369.html

しかし、年間線量1mSvという除染基準は、低線量被ばくの影響について確定したことがいえない中、20mSvなどなるべく高い線量を基準にしたいとする当時の政権と、少しでもゼロをめざして低くしたいという民意との間の中で決まった「社会的基準」というべきものである。空間放射線量は変わらないまま、約半分の測定値となる個人線量計の測定値に切り替えるということは、実質的には、今までの倍に基準を緩和するということにほかならない。

しかし、個人線量計に切り替えて測定していても、年間1mSvにならないところが出現していた。そのことについて、毎日新聞が2013年3月25日に次のようにネット記事を配信している。

<福島原発事故>被ばく線量を公表せず 想定外の高い数値で
毎日新聞 3月25日(火)7時0分配信
 ◇内閣府のチーム、福島の3カ所

 東京電力福島第1原発事故に伴う避難指示の解除予定地域で昨年実施された個人線量計による被ばく線量調査について、内閣府原子力被災者生活支援チームが当初予定していた結果の公表を見送っていたことが24日、分かった。関係者によると、当初の想定より高い数値が出たため、住民の帰還を妨げかねないとの意見が強まったという。調査結果は、住民が通常屋外にいる時間を短く見積もることなどで線量を低く推計し直され、近く福島県の関係自治体に示す見込み。調査結果を隠したうえ、操作した疑いがあり、住民帰還を強引に促す手法が批判を集めそうだ。

 毎日新聞は支援チームが昨年11月に作成した公表用資料(現在も未公表)などを入手した。これらによると、新型の個人線量計による測定調査は、支援チームの要請を受けた日本原子力研究開発機構(原子力機構)と放射線医学総合研究所(放医研)が昨年9月、田村市都路(みやこじ)地区▽川内村▽飯舘村の3カ所(いずれも福島県内)で実施した。

 それぞれ数日間にわたって、学校や民家など建物の内外のほか、農地や山林などでアクリル板の箱に個人線量計を設置するなどして線量を測定。データは昨年10月半ば、支援チームに提出された。一般的に被ばく線量は航空機モニタリングで測定する空間線量からの推計値が使われており、支援チームはこれと比較するため、生活パターンを屋外8時間・屋内16時間とするなどの条件を合わせ、農業や林業など職業別に年間被ばく線量を推計した。

 関係者によると、支援チームは当初、福島県内の自治体が住民に配布した従来型の個人線量計の数値が、航空機モニタリングに比べて大幅に低かったことに着目。

 関係省庁の担当者のほか、有識者や福島の地元関係者らが参加する原子力規制委員会の「帰還に向けた安全・安心対策に関する検討チーム」が昨年9~11月に開いた会合で調査結果を公表し、被ばく線量の低さを強調する方針だった。

 しかし、特に大半が1ミリシーベルト台になると想定していた川内村の推計値が2.6~6.6ミリシーベルトと高かったため、関係者間で「インパクトが大きい」「自治体への十分な説明が必要」などの意見が交わされ、検討チームでの公表を見送ったという。

 その後、原子力機構と放医研は支援チームの再要請を受けて、屋外8時間・屋内16時間の条件を変え、NHKの「2010年国民生活時間調査」に基づいて屋外時間を農業や林業なら1日約6時間に短縮するなどして推計をやり直し、被ばく推計値を低く抑えた最終報告書を作成、支援チームに今月提出した。支援チームは近く3市村に示す予定だという。

 支援チームの田村厚雄・担当参事官は、検討チームで公表するための文書を作成したことや、推計をやり直したことを認めた上で、「推計値が高かったから公表しなかったのではなく、生活パターンの条件が実態に合っているか精査が必要だったからだ」と調査結果隠しを否定している。

 これに対し、独協医科大の木村真三准教授(放射線衛生学)は「屋外8時間・屋内16時間の条件は一般的なもので、それを変えること自体がおかしい。自分たちの都合に合わせた数字いじりとしか思えない」と指摘する。

 田村市都路地区や川内村東部は避難指示解除準備区域で、政府は4月1日に田村市都路地区の避難指示を解除する。また川内村東部も来年度中の解除が見込まれている。【日野行介】
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140325-00000008-mai-soci

つまり、避難指示解除準備区域で、避難指示解除が予定されている地域で予備的に個人線量計で内閣府の支援チームが測定したのだが、そのうち、大半が1mSv以下になると推定していた川内村の推計線量が、個人線量計でも2.6〜6.6mSvになってしまった。内閣府の支援チームは、この結果を公表せずに隠蔽した。そして、現在、農業・林業従事者の生活時間パターンを「屋外8時間、屋内16時間」から「屋内6時間、屋外18時間」などにかえ、より推計値が低くなるように計算しなおしているというのである。つまりは、測定値が高いから、より推計値が低くなるように数字を操作しているということになるのである。

測定方法を空間線量から個人線量計に変更するだけでも、約2倍に基準線量を緩和していることになる。それでも高いとなれば、推計の計算式をかえて、まだ下げようとしている。空間線量は全く変わらず、いわゆる「線量推計値」だけが下げられたのである。

福島第一原発事故後、東北・関東の諸地域は広範に放射性物質によって汚染された。そこで、空間線量からの推計で年間1mSvを基準として除染された。もちろん、現実には、除染作業を行っても1mSv以下にならなかった地域も多い。それでも、とりあえず、除染作業は実施されたのである。

ところが、避難指示解除準備区域においては、測定方法が空間線量から個人線量に切り替えられ、さらには推定値の計算式が変更されることになっている。そのために、従来の空間線量では1mSv以上と認定されて除染の対象になった線量のある地域が、除染の対象にならなくなるケースが出現することが想定されるのである。

現時点の除染基準1mSvとは「社会的」基準である。そして、この基準は、すでに他地域では適用されている。このように「科学」の名をかりて、実質的に緩和された基準を福島第一原発周辺地域に押しつけるという不公平なことが、平然となされているのである。

Read Full Post »

さて、昨2011年12月16日の野田首相による福島第一原発事故「収束宣言」を受けて、福島第一原発周辺地域の警戒区域(立入制限)、計画的避難区域(居住等制限)が見直されることになった。官邸の原子力災害本部が12月26日に発表した「ステップ2の完了を受けた警戒区域及び避難指示区域の見直しに関する基本的考え方及び今後の検討課題について」では、このように説明している。

現在、東京電力福島第一原子力発電所の半径20km に設定されている警戒区域は、引き続き同原子力発電所の状況が不安定な中にあって、再び事態が深刻化し住民が一度に大量の放射線を被ばくするリスクを回避することを目的に設定されたものである。
ステップ2の完了により、原子力発電所の安全性が確認され、今後、同原子力発電所から大量の放射性物質が放出され、住民の生命又は身体が緊急かつ重大な危険にさらされるおそれはなくなったものと判断されることから、警戒区域は、基本的には解除の手続きに入ることが妥当である。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/genshiryoku/dai23/23_06_gensai.pdf

つまり、警戒区域は、すでに拡散された放射性物質によってもたらされた放射線量ではなく、さらなる福島第一原発の過酷事故により、住民が大量に被ばくするリスクを回避することを目的として設けられたので、「収束宣言」以後は不必要なものとしているのである。なお、計画的避難区域は「既に環境中に放出された放射性物質からの住民の被ばくを低減するため、事故発生から1年の期間内に累積線量が20ミリシーベルトに達するおそれのある地域」であり、年間20mSvを基準として設定されたとしている。

その上で、年間20mSvを基準として「避難指示解除準備区域」を設けることにしたとしている。他方、20〜50mSvの区域を居住を制限する「居住制限区域」、50mSv以上を立入を制限する「帰還困難区域」とした。「避難指示解除準備区域」を設けた正当性をこのように説明している。

① 住民の帰還を進めるに当たり、まずは地震・津波に起因するインフラ被害による住民への危険を回避する必要があることは言うまでもないことである。
このため、道路や防災施設などについて最低限の応急復旧を急ぎ、必要な防災・防犯対策を講じた上で、区域特有の課題に取り組むこととする。
② さらに、放射性物質による汚染に対するおそれを絶えず抱えている住民の心情をかんがみれば、こうした物理的なリスクの排除のみならず、放射性物質による影響に関する住民の安全・安心の確保は帰還に当たっての大変重要な課題であると考えられる。
③ 原子力安全委員会は、本年8月4日に示した解除に関する考え方において、解除日以降年間20ミリシーベルト以下となることが確実であることを、避難指示を解除するための必須の要件であるとの考えを示した。
④ この度の区域見直しの検討に当たっては、年間20ミリシーベルトの被ばくリスクについては様々な議論があったことから、内閣官房に設置されている放射性物質汚染対策顧問会議の下に「低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ」を設け、オープンな形で国内外の幅広い有識者に意見を表明していただくとともに、低線量被ばくに関する国内外の科学的知見や評価の整理、現場からの課題抽出などを行った。
その結果、事故による被ばくリスクを自発的に選択できる他のリスク要因と単純に比較することは必ずしも適切でないものの、リスクの程度を理解する一助として評価すると、年間20ミリシーベルト以下については、健康リスクは喫煙や飲酒、肥満、野菜不足など他の発ガン要因によるリスクと比較して十分に低いものである。年間20ミリシーベルトは、除染や食品の安全管理の継続的な実施など適切な放射線防護措置を講ずることにより十分リスクを回避出来る水準であることから、今後より一層の線量低減を目指すに当たってのスタートとして用いることが適当であるとの評価が得られた。
⑤ こうした議論も経て、政府は、今回の区域の見直しに当たっても、年間20ミリシーベルト基準を用いることが適当であるとの結論に達した。
⑥ しかしながら、放射性物質による汚染に対する強い不安感を有している住民がいることも事実であり、これを払拭するための積極的な施策が必要である。
このため、健康管理の着実な実施への支援に加え、国は、放射性物質の健康影響に関する住民の正しい理解の浸透と対策の実施のために、県や市町村と連携して、政府関係者や多方面の専門家がコミュニティレベルで住民と継続的に対話を行う体制の整備や地域に密着した専門家の育成、透明性の確保及び住民参加の観点から地域への放射線測定器の配備を行うこととする。

この区域を設定する上に当って一番重視したことは地震・津波によって破壊されたインフラの復旧であることとしている。これは注目すべきことである。放射線による区域内での被ばくは二義的なもので、「さらに、放射性物質による汚染に対するおそれを絶えず抱えている住民の心情をかんがみれば、こうした物理的なリスクの排除のみならず、放射性物質による影響に関する住民の安全・安心の確保は帰還に当たっての大変重要な課題であると考えられる」としているように、心情的な問題としているのである。

その上で、この区域における放射線量の上限基準を20mSvとしている。これは、国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告によるものである。サイト「原子力百科事典」(高度情報科学技術研究機構運営、略称ATOMICA)により、少し検討しておこう。この勧告については、このように概括されている。

ICRP勧告(1990年)による個人の線量限度の考え (09-04-01-08)
<概要>
 ICRP(国際放射線防護委員会)による線量限度は、個人が様々な線源から受ける実効線量を総量で制限するための基準として設定されている。線量限度の具体的数値は、確定的影響を防止するとともに、確率的影響を合理的に達成できる限り小さくするという考え方に沿って設定されている。水晶体、皮膚等の特定の組織については、確定的影響の防止の観点から、それぞれのしきい値を基準にして線量限度が決められている。がん、遺伝的疾患の誘発等の確率的影響に関しては、放射線作業者の場合、容認できないリスクレベルの下限値に相当する線量限度と年あたり20mSv(生涯線量1Sv)と見積もっている。公衆に関しては、低線量生涯被ばくによる年齢別死亡リスクの推定結果、並びにラドン被ばくを除く自然放射線による年間の被ばく線量1mSvを考慮し、実効線量1mSv/年を線量限度として勧告している。
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_No=09-04-01-08

公衆の限度線量は1mSv以下であり、20mSvは放射線作業者の限度線量なのである。ただし、これは、平常時のものである。緊急時の公衆の限度線量は、ATOMICAではこのように定義されている。

緊急時被ばく状況(事故などの非常事態での職業被ばくと公衆被ばく)と現存被ばく状況(非常事態からの回復、復興期を含めて既に被ばくが存在する事態)においては、表5に示すように、計画被ばく状況とは異なる防護体系が適用される。非常事態では線量限度や線量拘束値を用いずに状況に応じて適切な参考レベルを選定して、防護活動を実施する。なお、参考レベルとはそれ以上の被ばくが生じることを計画すべきでない線量またはリスクレベルをいう。
 1990年勧告の後、約10年間に様々な状況に対する30に及ぶ制限値が勧告された。例えば、緊急時の公衆被ばくに関しては、5件の項目に対して介入レベルが勧告されている(表6)。しかし、この防護体系は複雑過ぎるため、2007年勧告では1mSv以下、1~20mSv、20~100mSvの3つの枠を定義し、状況に応じてそれぞれの枠内で適切な線量拘束値または参考レベルを設定し、防護活動を行うことを勧告している。緊急時の公衆被ばくの参考レベルとしては、表6に示すように、20~100mSvの枠内で状況に応じて選定することとしている。
 2011年3月の福島第一原発事故においては、周辺住民の被ばく限度として、国は20~100mSvの枠のうち最小の値である20mSv/年を選定した。ICRPは、この枠内で参考レベルを選定する場合、放射線のリスクと線量低減活動について住民に説明し、個人の線量評価を実施することを勧告している。

結局、年間20mSvは、緊急時の公衆の限度線量なのである。こうやってみてみると、「収束宣言」自身がいかなる意味があったのかわからなくなってくる。なお、がん・白血病・遺伝的障害などについては、このように説明されている。

細胞レベルの損傷は、極低線量(あるいは低線量率)の被ばくによって引き起こされるため、障害が発生する確率は、被ばく線量(あるいは線量率)に比例して増加することになる。実質的にほとんど障害が発生しない線量は存在するが、障害発生の確立がゼロとなるしきい線量は存在しないと考えられる。したがって確率的影響は、被ばく線量を合理的に達成できる限り低く制限することによって、その発生確率を容認できるレベルまで制限することになる。

そして、ATOMICAでは、年間被ばく線量の多寡による年死亡確率を表として示している。例えば、75歳時の100万人あたりの年死亡者数では、年間20mSvならば1900人、5mSvならば470人、1mSvならば95人とされている。年間20mSvにおいても0.19%死亡者数が増加するだけだが、もし首都圏のように1000万人の人口規模ならば、約2万人死亡者が増加するということになる。そして、確かに低い確率であるが、低放射線量でも死亡者は増加するのである。

年齢別条件付き年死亡確率

年齢別条件付き年死亡確率

ということで、年間20mSvは緊急時の(それこそ、福島第一原発事故直後のような時期)の基準でしかないといえる。なお、この
ATOMICAは文科省の事業であり、別に原発反対派のサイトではないことを付記しておこう。

そして、前述の原子力災害本部の「ステップ2の完了を受けた警戒区域及び避難指示区域の見直しに関する基本的考え方及び今後の検討課題について」では、「避難指示解除準備区域」について、このような方針で望むことにしたと説明している。

① 避難指示解除準備区域
(基本的考え方)
(i) 現在の避難指示区域のうち、年間積算線量20ミリシーベルト以下となることが確実であることが確認された地域を「避難指示解除準備区域」に設定する。
同区域は、当面の間は、引き続き避難指示が継続されることとなるが、除染、インフラ復旧、雇用対策など復旧・復興のための支援策を迅速に実施し、住民の一日でも早い帰還を目指す区域である。
(ii) 電気、ガス、上下水道、主要交通網、通信など日常生活に必須なインフラや医療・介護・郵便などの生活関連サービスがおおむね復旧し、子どもの生活環境を中心とする除染作業が十分に進捗した段階で、県、市町村、住民との十分な協議を踏まえ、避難指示を解除する。
解除に当たっては、地域の実情を十分に考慮する必要があることから、一律の取扱いとはせずに、関係するそれぞれの市町村が最も適当と考える時期に、また、同一市町村であっても段階的に解除することも可能とする。
(立入規制など区域の運用)
(ⅰ) 同区域の汚染レベルは、年間積算線量20ミリシーベルトを下回っていることが確認されており、現存被ばく状況に移行したものと見なされる。
このため、主要道路における通過交通、住民の一時帰宅(ただし、宿泊は禁止)、公益目的の立入りなどを柔軟に認める方向で検討する。
(ii) 加えて、事業所の再開、営農の再開について、公共インフラの復旧状況や防災・防犯対策などに関する市町村との協議を踏まえ、柔軟に認めることを検討する。
なお、これらの立入りの際には、スクリーニングや線量管理など放射線リスクに由来する防護措置を原則不要とすることも検討する。
(除染及びインフラ復旧の迅速な実施)
(i) 国は、特別地域内除染実施計画に基づき迅速に除染を実施する。実施に当たっては、子どもの生活環境や公共施設など優先度の高い施設を中心に、地域ごとの実情を踏まえた取組を進めることを検討する。
(ii) インフラ復旧・整備については、まずは早急に状況を把握し、住民の帰還のために必要なインフラの復旧を行うなど、生活環境の整備を迅速に実施することを検討する。
(局所的に線量の高い地点の扱い)
(i) 避難指示解除準備区域が設定される地域においても、局所的に線量の高い地点が存在し得る。
こうした地点については、避難指示が継続されている地域内に存在する地点であることにかんがみ、居住制限区域(後述)や特定避難勧奨地点を設定することはせずに、優先して除染を実施することにより早期の線量低減を図ることを検討する。
(ii) なお、避難指示区域外において現在設定されている特定避難勧奨地点についても、その解除に向けた検討を開始する。

つまり、避難指示準備解除区域においては、現時点での居住は許さないが、①インフラ復旧、②子どもの生活環境地点や特別に線量が高い地点などを中心とした部分的な除染を前提にして避難指示を解除するということになっている。全面的な除染は避難指示解除の条件とはなっていないのである。結局のところ、東京圏(年間1mSv、ICRPの平常時公衆の被ばく限度)の約20倍の年間20mSvが現状では基準となっている。

前回のブログでは、福島県の自治体では、現状では年間5mSと東京圏の約5倍となっていることを述べた。ここでは、さらに東京圏の20倍が、事実上の被ばく限度とされ、それを前提にして「復興」が進められているのである。

今のところ、「避難指示解除準備区域」で、「避難指示」が解除され、居住が許可されたところはない。ただ、福島民報は、8月10日に「避難指示解除準備区域」に再編された楢葉町では、町内の除染作業者などの「避難指示解除準備区域」の宿泊を認めるように要望していることを伝えている。年間20mSvを居住の基準とすることへの布石といえよう。

町内宿泊を国に要望 除染作業員や防犯関係者に対して楢葉町
 今月10日に警戒区域が避難指示解除準備区域に再編された福島県楢葉町が、除染作業員や防犯関係者らに限り町内に宿泊できるよう国に要望していることが30日までに分かった。
 再編後は町内への出入りは自由だが宿泊は禁止されている。国は例外的に宿泊を認めるか調整しており、近く方針を公表するとみられる。一方で避難指示解除準備区域を持つ他の一部の自治体は慎重な姿勢を見せており、国が宿泊を認めるかは不透明だ。
 町によると9月から国直轄で本格的な除染作業が始まる。多い日で1500人を超す作業員が出入りするという。
 町は宿泊が認められれば作業員らの通勤時間が大幅に短縮されるとともに作業時間を確保できると期待する。さらに再編に関して多くの町民が不安に感じていた24時間態勢の防犯対策を強化できるとしている。町は再編後、町民の立ち入りを午前9時から午後4時までにするよう協力を呼び掛けている。

( 2012/08/31 09:47 カテゴリー:主要 )
http://www.minpo.jp/news/detail/201208313395

前回のブログで、東京圏の除染基準は1mSvであるのに、福島県内の自治体では、現状では年間5mSvであり、ダブルスタンダートであると指摘した。実は、現在「避難指示解除準備区域」という名のもとに、原発周辺町村では東京圏の20倍の基準が設定されようとしているのである。そして、年間1mSvという基準は、国ー環境省の基準であり、ICRP の平常時公衆の被ばく限度線量でもある。ICRPの勧告でも20mSvは緊急時の公衆の基準であるが、それが固定化されようとしているのである。人びとの安全性を保障するかの基準は、同一国内にあっても同じではない。もはや、東京圏ー福島県ー原発周辺町村は、ダブルならぬトリプルスタンダートということになっている。

先ほど、例として、年間20mSvならば、100万人ならば75歳時に1900人死亡者が増加するとし、1000万人ならば約2万人増加する計算であるとした。他方、10万人ならば190人ということになる。これは、人口の少ない地域に原発が建設された理由の一端であるといえる。いくら確率が低いといっても、被ばく人口が多ければ、社会的影響も大きくなり、がん増加などの原発の危険性がくっきりと浮かび上がることになる。人口が少ないということは、被ばく人口も少ない。その分、社会的影響も小さく、がん増加などはその他の原因の中に埋もれてしまう。といっても、その地域に居住し、がん発病などのリスクを背負ってしまった人びとの苦悩には変わらないのであるといえるのだ。

付記:死亡確率については、例としてあげた。ここでは、①放射線量と死亡確率は比例し、しきい値はない、②被ばく人口が多ければ、死亡者数も増えるということを理解しておいてほしい。

Read Full Post »