ここで、福島第一原発周辺を「死のまち」と会見で述べたことを契機にして辞任した鉢呂吉雄経済産業大臣についてみておこう。まず、鉢呂吉雄の言動を大々的に報道して辞任のきっかけを作った大手マスコミの一つである朝日新聞が、鉢呂吉雄が経済産業大臣に就任した9月2日直後、どのように報道しているかをみておこう。
まず、次の記事をみておいこう。2011年9月3日付朝日新聞朝刊で、「新内閣、難題の山」という野田内閣の課題を紹介する記事の中で、鉢呂吉雄の原発政策が大きくとりあげられている。
野田氏に起用された鉢呂吉雄経済産業相は、選挙区に北海道電力泊原発を抱えている。旧社会党出身で初当選以来、原発を「過渡的エネルギー」と位置づけ、自然エネルギー普及を訴えてきた。地元の民主党総支部は5月末、「脱原発」政策への転換を求める提言書をまとめており、経産省には「原発推進には慎重な立場」(幹部)との戸惑いもある。
しかし、鉢呂氏も原発再稼働に反対する考えはないようだ。2日夜の就任会見で「基準をより厳格にして関係自治体の理解を得る」と述べ、稼働の最終判断をどのように行うのかについて首相と関係閣僚で協議する考えを示した。
前政権では、再稼働を巡って菅直人首相と海江田万里経済産業相が激しく対立し、相互不信が残った。鉢呂氏はこの教訓を踏まえて2日、「首相とよく相談していく」と周囲に語った。当面は再稼働に向けた環境整備を進めながら、東京電力の原発事故の賠償などについて菅政権が敷いた路線を淡々と進めることになりそうだ。
ただ、電力会社の地域独占体制の見直しや発送電分離といった電力供給システムへの抜本改革への対応は未知数だ。鉢呂氏は会見で「良い面、悪い面があるのかもしれない。議論する場が必要だ」と述べた。
この記事は興味深い。まず、とりあげていることは、鉢呂の選挙区に泊原発があり、彼が初当選以来、将来のエネルギーとして原子力に否定的であったこと、そして地元の民主党総支部が「脱原発」を主張していることである。つまり、鉢呂は、原発問題については、彼なりによく理解していたといえる。原発地元の選挙区では、原発推進の意見が主張されることが多いが、その中でも鉢呂は前から原発に否定的であったといえる。いわば「俄脱原発」ではないのである。
しかし、このことについて、この記事では、経産省幹部の言を借りて「戸惑い」を表明している。朝日新聞がすべからく全部原発推進というわけではないが、この記事を書いた記者は「脱原発」に「戸惑って」いるのである。
他方、次の二つの段落では、「鉢呂氏も原発再稼働に反対する考えはないようだ」「「首相とよく相談していく」と周囲に語った。」と述べており、やや安心したポーズを示している。この記事を書いた記者にとっては、「当面は再稼働に向けた環境整備を進めながら、東京電力の原発事故の賠償などについて菅政権が敷いた路線を淡々と進めることになりそうだ。」ということが原発政策の課題なのだ。
しかし、鉢呂が語る将来の電力政策については、「未知数」と語っている。この記者にとって、「電力会社の地域独占体制の見直しや発送電分離といった電力供給システムへの抜本改革」を語る場を設けることは「未知数」なのである。これらのことは、すでに議論されていて、「未知数」とはいえない。ただ、実行されていないだけともいえる。つまりは、このような改革は行うべきものではないということになろう。
その意味で、この記事は、野田内閣の一員として原発事故の補償をすすめながら原発再稼働をすすめていくだろうことは評価するが、鉢呂が自身や選挙区の意見をいかしつつ、脱原発も含めた電力供給システムの抜本改革を行うに警戒感を示しているといえる。
他方、2011年9月3日付朝日新聞朝刊は、鉢呂について、このように紹介している。
「一次産業のプロ」自任
経済産業 原子力経済被害
鉢呂吉雄氏 63
衆院 北海道4区
横路グループ国対委員長として、「ねじれ国会」に突入した昨秋の臨時国会を陣頭指揮。野党の日程要求を次々とのむ「べた折れ路線」で臨んだが、野党の協調は得られず、年明けの通常国会を前に交代した。
旧社会党出身。元農協職員で「一次産業のプロ」を自任。支持者に農家が多く、環太平洋経済連携協定(TPP)への対応が焦点だ。地元には北海道電力泊原発があり、原発へのゆかりも深い。エネルギー政策の見直しとも向き合わなければならない。
この紹介記事では、後半が注目できるであろう。原発だけでなく、元来農協職員であり「一次産業のプロ」を自任する鉢呂にとって、TPP問題にどう向き合うかも問題であったとされているのである。
このように、そもそも、9月3日付の朝日新聞朝刊の描く鉢呂のイメージでは「脱原発」志向、「反TPP」志向があるのではないかと懸念されているといえる。そして、野田内閣の一員として首相や関係閣僚と協議して、原発再稼働を推進するならば評価するという姿勢を示しているといえる。そして、最後の一文は、このような記事を書いている朝日新聞記者たちの姿勢を現しているといえよう。
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