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2012年11月17日、来る総選挙をにらんで、太陽の党の石原慎太郎と日本維新の会の橋下徹が合併で合意し、次のような合意文書を発表した。

維新・太陽、TPP・原発・尖閣など8項目で合意文書

 石原慎太郎、橋下徹両氏が17日署名した合意文書の内容は次の通り。
     ◇
 「強くてしたたかな日本をつくる」

 【1】 中央集権体制の打破

 地方交付税廃止=地財制度廃止、地方共有税制度(新たな財政調整制度)の創設、消費税の地方税化、消費税11%を目安(5%固定財源、6%地方共有税《財政調整分》)

 【2】 道州制実現に向けて協議を始める

 【3】 中小・零細企業対策を中心に経済を活性化する

 【4】 社会保障財源は、地方交付税の廃止分+保険料の適正化と給付水準の見直し+所得税捕捉+資産課税で立て直し

 【5】 自由貿易圏に賛同しTPP交渉に参加するが、協議の結果国益に沿わなければ反対。なお農業の競争力強化策を実行する

 【6】 新しいエネルギー需給体制の構築

 原発(1)ルールの構築(ア)安全基準(イ)安全確認体制(規制委員・規制庁、事業主)(ウ)使用済み核燃料(エ)責任の所在(2)電力市場の自由化

 【7】 外交 尖閣は、中国に国際司法裁判所への提訴を促す。提訴されれば応訴する

 【8】 政党も議員も企業・団体献金の禁止

 個人献金制度を拡充

 企業・団体献金の経過措置として党として上限を設ける
http://www.asahi.com/politics/update/1117/OSK201211170054.html

両党の合併について、新聞などのマスコミや民主党・自民党などは、実質的な政策合意の野合と批判している。全体ではそういう印象がある。 TPPについて、原発について、石原・橋下の隔たりは大きい。

しかし、それほど、単純に「野合」のみと決めつけてよいのだろうか。その点で、もう少し、この「合意文書」を内在的に検討してみたい。

この「合意文書」の第一項は「中央集権体制の打破」とされている。しかしながら、中央の官僚機構の改革ではなく、実際にあげていることは「地方交付税廃止=地財制度廃止、地方共有税制度(新たな財政調整制度)の創設、消費税の地方税化、消費税11%を目安(5%固定財源、6%地方共有税《財政調整分》)」である。つまり、地方自治体の財政基盤の一つである地方交付税制度を廃止し、その代わりに消費税を11%として、消費税全体を地方税とし、5%を「固有財源」(消費税課税地の自治体の財源になるということだと思われる)とし、6%を「地方共有税」分として、自治体間の財政調整に使うということである。

そして、このような地方財政制度の「改革」を前提にして第二項の「道州制」を展望しているのである。

他方で、廃止された地方交付税分の収入は、社会保障支出にあてるとされている。もちろん、「保険料の適正化と給付水準の見直し」「所得税捕捉」「資産課税」という、給付水準の減額と負担増も伴うこととされている。

そのことを、現在の国家財政からみておこう。

平成23年度一般会計予算(2次補正後)の概要

平成23年度一般会計予算(2次補正後)の概要


http://www.zaisei.mof.go.jp/num/detail/cd/2/

現状の財政からいえば、地方交付税は一般会計歳出の約18.4%(17兆4300億円)を占めている。この地方交付税を社会保障費(27.9%)にまわす。そして、消費税を11%にあげ、それで得られた税収(現状が10兆1000億円なので、約20~22兆円程度になるだろう)を「地方税」とする。一見帳尻はあうだろう。

しかし、問題は、この合意のように消費税11%を、固有財源5%、調整財源6%とすると、大都市圏と地方の間で、大きな格差が生じてしまうということである。

まず、現状の地方交付税の状況をみてみよう。地方交付税は、全国どこの自治体に居住していても国民として同一の行政サービスを受けることができることを目的として創設された制度であり、その行政サービス総体を税収などの固有財源で賄えない場合、その不足分を財政調整するということになっている。もちろん、財政状態が豊かな自治体の場合は、地方交付税が不交付になることがあるが、そのような自治体の数は少なく、都道府県では東京都だけであり、市町村では、原発立地自治体などや東京・神奈川・愛知などの大都市圏の自治体が中心となっている。

都道府県別地方交付税交付額(平成21年度)

都道府県別地方交付税交付額(平成21年度)


http://www.stat.go.jp/data/nihon/zuhyou/n0502000.xlsより作図

小さくて読みにくく、恐縮だが、2009年度(平成21年)の都道府県別地方交付税交付額をあげておいた。この年度の地方交付税交付総額は15兆8200億円だが、もっとも多く交付されているのは北海道であり、道・市町村あわせて1兆5000億円と、交付総額の一割近くを交付されている。過疎などにより税収が少ないところが多くの交付金を得るということは、地方交付税のあり方に適合しているといえよう。このように税収が少なく、独自財源で一般的な行政サービスをまかないえないがゆえに、地方交付税が必要とされたのである。

一方で、東京都は360億円、神奈川県は790億円、愛知県は1004億円と、大都市圏では地方交付税交付額は非常に少ない。ただ、大都市圏といっても、大阪府(5100億円)、兵庫県(6170億円)、福岡県(6250億円)にはかなり多額な地方交付税が交付されている。行政サービスの需要総額算定には人口数ももちろん換算されるが、これらの大都市圏は、人口の割には税収が少ないということになるわけで、相対的に衰退しているといえよう。

もし、地方交付税を廃止し、11%の消費税を地方税として、5%を固有財源、6%を地方共有税としたらどうなるのだろうか。つぎに、しんぶん赤旗が2012年2月15日にネット配信した消費税10%にした場合の都道府県別の消費税負担額の推計をみてみよう。しんぶん赤旗では、次のように説明している。

政府・民主党が狙う「社会保障・税一体改革」で消費税が10%まで引き上げられた場合の47都道府県の負担増額を本紙が試算し、地方ごとの影響が明らかになりました。試算によると、最も負担増となるのは東京で1兆6050億円、2番目となる大阪では8720億円です。

 現行消費税率5%のうち1%は地方消費税として各地方自治体に納められます。試算は、各都道府県に納められた地方消費税額を5倍にして増税額を算出しました。地方消費税は、事業者や本社所在地の都道府県に払い込まれます。実際に消費が行われた都道府県の納税となるように、各都道府県の「消費相当の占有率」に応じて計算します。この占有率は、「小売年間販売(商業統計)」「サービス業対個人事業収入額(サービス業基本統計)」「人口(国勢調査)」「従業員数(事業所・企業統計)」の4統計から算出します。

 ただ、全消費税収を各都道府県に割り振った金額なので、当該地域に在住する個人が負担した額に限りません。観光客や地方自治体が負担した消費税額も含まれることになります。

 日本経済に深刻な影響を与える消費税増税は、人々の暮らしを支える地方経済の疲弊を加速させます。

消費税率を10%に引き上げた際の都道府県別の消費税負担額の推計

消費税率を10%に引き上げた際の都道府県別の消費税負担額の推計


http://www.jcp.or.jp/akahata/aik11/2012-02-15/2012021501_02_1.html

これは消費税を10%にした場合の負担増額(5%増額分)であり、11%とするとやや多くなることになるが、大体の傾向は理解できるだろう。日本維新の会のいう消費税5%分の「固有財源」は、おおまかにいえばこの消費税負担増額分と考えればよいのである。

そうすると、まず、固有財源となるのは全体12兆円程度ということになる。現在最も多く地方交付税を得ている北海道は、5400億円程度しか消費税を固有財源にできないことになり、地方交付税の約三分の一しか得られないことになる。そのほか、多くの府県が現状の地方交付税よりも少ない「固有財源」しか得られないということになるのである。

それにかわって、東京都が約1兆6000億円、神奈川県が約7500億円、愛知県が約7400億円と、もともと富裕で地方交付税交付金が少なかったところが、消費税の地方税化の恩恵を受けることになるのである。

日本維新の会の基盤である大阪府は、消費税の地方税化によって東京府についで二番目に多額の8720億円を得ることになる。地方交付税交付金が5100億円なので、その恩恵を得るということになる。しかし、それは大阪府だけである。兵庫県は6170億円が4820億円に、京都府は3140億円が2640億円に、奈良県は2470億円が1070億円になってしまうのである。その他、福岡県が6250億円が4800億円に、広島県が3840億円が2710億円になってしまうのである。もちろん、北海道などとくらべれば減額は小さいのであるが、これらの都市圏も地方交付税から地方消費税への転換の中で財政に打撃を蒙るのである。今まで多くの地方交付税を得られてこなかった東京都・神奈川県・愛知県がかなり多額の消費税を税収に加えることをかんがみると、大阪維新の会を源流とした日本維新の会は、東京などの大阪のライバル都市に塩を送っていることになる。

これは、基本的に消費税の税収は経済活動の活発さに比例するものであり、それをそのままの形で配分すれば、現在「勝ち組」の地域がより有利になるだけということなのである。この「勝ち組」の代表が東京であり、いわば、地方交付税を廃止し消費税を地方税化する日本維新の会の政策は、「地方」の犠牲によって東京などの大都市への集中を促進したものと評価できるだろう。そして、この「勝ち組」の中に大阪をいれようとしているのである。

もちろん、これではすまないので、地方共有税という形で自治体間の財政調整がはかられることになっている。しかし、11%に増税した消費税の半額程度というと、消費税総額が20〜22兆円程度と考えられるので、10〜14兆円程度であろうと思われる。現在の地方交付税交付金が約17兆円なので、それより多いとは考えられない。どのような形で分配されるのか不明だが、やはり官僚的な統制が行われるであろう。そもそも原資が少なくなるので、各自治体への交付額もより少なくなるだろう。それに、もし、「調整」というのであれば、今まで多額の地方交付税が入ってこなかった東京などの大都市圏も多くの財政資金を得ることになり、それらと競争するということになろう。「地方分権」といっても、消費税の税収が多い東京などの大都市圏だけが財政上のフリーハンドを得るだけで、それ以外の多くの自治体ー都市を含むーでは、「地方共有税」というかたちで官僚統制を受けることになる。そして「地方」の自治体は財源不足にこれまで以上に直面する。しだいに、より広域の自治体ー道州制の方向に導かれて行くことになる。しかし、すでの東日本大震災で白日のもとにさらされたが、広域自治体化は、基本的な行政サービスを低下させるものなのである。

ある意味では、資本蓄積が集中的に行われている大都市圏であるがゆえの政策であるといえる。橋下のスタンスは大都市における巨額な税収を背景に大都市の「納税者」たちが自らのために租税を使うことを主張し、それを「代表」しているとして、それまでの都市ー地方間の財政調整を否定するものであるといえる。このスタンスは、いわゆる「生活保護者」攻撃とそれほど変わらないといえよう。しかも、納税者は、とりあえず富裕者だけには限らない。生活保護ギリギリでも、ある程度の納税は行い、それを負担に思う人びとはいるのである。

しかし、これで、地方において日本維新の会は支持基盤を作れるのかとも思ってしまう。もちろん、地方においても、資本蓄積の増大をめざした新自由主義的地方行政が展開されているが、これほど露骨に地方を犠牲にして大都市圏への集中をはかる政策を支持する人びとが多いとは思えない。特に、保守系とはいえども、地方交付税制度のもとで行財政を展開していた首長や地方議員たちはどれほど支持基盤になるのだろうか。

他方、この政策でもっとも利益を得るのは東京都であるということに注目したい。よく、日本維新の会の橋下徹が太陽の党の石原慎太郎を政策面で屈服させたように報道されているが、今、みてみると逆である。結局、橋下徹は、地方を犠牲にしつつ、資本蓄積の観点から東京などの大都市への集中を促進させ、大阪もその一環にいれようとすることで自らの正当性を獲得しようとしているのである。その意味で、橋下は石原を必要としているのであるといえよう。

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