さて、前回は、柏市などの首都圏のホットスポットになった地域で、2011年5月頃より地域住民のあげた声によって、柏市などの自治体が放射線測定など自主的な放射線対策を始めてきたことを概観した。
他方で、それまで、自治体が自主的な対応を取らない根拠としてきた、東京大学などによる「柏市の放射線量は健康に影響がない」という主張について、東京大学内部からもこの時期より批判されるようになった。
本ブログの「https://tokyopastpresent.wordpress.com/2012/10/06/柏市の放射線量は健康に影響がないと主張してい/ 」で一部とりあげたことであるが、ここでは、多少、その記事にさかのぼりながら、この問題をみていこう。柏市には国立がん研究センターや東京大学柏キャンパスという専門機関があり、放射線の測定を行なっていた。しかし、この両機関は、平常より高い放射線量が測定されたことを公表しながらも、「柏市の放射線量は健康に影響がない」と主張し続けた。例えば、国立がん研究センターは、このように主張している。
このように、今回の福島第一原発事故で、直近の地域以外で報告されている放射線量は、少なくとも俄に人体に悪影響を及ぼす値ではなく、また、いくつかの事実はこのような低い放射線量を持続的に被ばくしたとしても、悪影響を及ぼす可能性はとても低いことを示しています。
http://www.city.kashiwa.lg.jp/soshiki/080500/p008644_d/fil/rikai1.pdf
柏キャンパスを設置している東京大学も、「東京大学環境放射線情報」というサイトにある「環境放射線情報に関するQ&A」で次のように述べている。
Q:本郷や駒場と比較すると、柏の値が高いように見えますが、なぜですか?
A:測定点近傍にある天然石や地質などの影響で、平時でも放射線量率が若干高めになっているところがあります。現在、私たちが公表している柏のデータ(東大柏キャンパス内に設けられた測定点です)は、確かに、他に比べて少々高めの線量の傾向を示しています。これは平時の線量が若干高めであることと、加えて、福島の原子力発電所に関連した放射性物質が気流に乗って運ばれ、雨などで地面に沈着したこと、のふたつが主たる原因であると考えています。気流等で運ばれてきた物質がどの場所に多く存在するか、沈着したかは、気流や雨の状況、周辺の建物の状況や地形などで決まります。結論としては、少々高めの線量率であることは事実ですが、人体に影響を与えるレベルではなく、健康にはなんら問題はないと考えています。
(http://megalodon.jp/2011-0521-2238-09/www2.u-tokyo.ac.jp/erc/QA.htmlより一部転載。後日変更されたため)
専門機関である東京大学・国立がん研究センターが健康に影響がないと宣言しており、柏市としても当初は追随するしかなったのである。2011年5月18日の柏市のサイトには、次のような文章がアップされていた。
東京大学・国立がん研究センターにおいて、定期的、継続的調査が実施されており、この測定結果に対し「少々高めの線量率だが、人体に影響を与えるレベルではなく、健康に問題はありません」とのコメントが出されています。
(https://sites.google.com/site/utokyoradiation/home/municipalitiesより転載。柏市のサイトからは削除されているので、ここから転載した。)
しかし、この「東京大学環境放射線情報」が、東京大学の教官有志から問題にされたのである。彼らは、2011年6月13日、東京大学総長に対して、次のような要請を行なった。かなり、長文だが、重要なものなので、全文引用しておく。
[要請の概要]
1、放射線のリスク評価に関して、少なくとも、低線量でもそれに比例したリスクは存在するという標準的なICRPモデルに基づいた記述とし、「健康に影響はない」と言う断定は避けること。
2、柏の放射線量が高い理由について、原発由来の放射性物質が主因であると明記すること。
3、測定中断をしている本郷1と柏1の計測を(頻度を下げても良いので)再開継続すること。
なお、Webページの記述については、私どもによる説明案の例を添付致します。
[以下、本文]
3月11日の東日本大震災に引き続いて起こった福島第1原子力発電所の事故により、地域住民に多大な被害が及び、なお収束までかなりの時間がかかると懸念されていることはまことに残念なことです。放射能による健康被害が懸念され、福島県のみならず東北から関東、さらにはそれ以外の地域の住民にも不安が広がっています。
これに関わり、本学の標記Webページについて、まず有用なデータを測定し公表していただいていることについて、関係者各位のご尽力に感謝いたします。とりわけ本学の柏キャンパス地域では事故後放射線量の増加が多く、住民の懸念が高まっておりますので、参考になる資料のご提示は意義あることです。
しかしながら、観測された放射線量についての標記Webページでの記述については、いくつかの問題があるものと私たちは考えます。本学の社会に対する責任という観点からも、これらは見逃せないものです。実際に、本学のWebページでの記述がいくつかの自治体によって引用され、放射線対策を取らない理由として用いられてきました。
本学のWebページの記述は、社会・市民からの本学に対する信頼が揺らぐ理由にもなり得るものと私たちは懸念しています。以下で問題を具体的に議論しますが、一刻も早い内容の再検討と修正をお願いいたします。なお、ご参考までに、私どもによる説明の案を例として添付致します。
I. 放射線の健康への影響について
「環境放射線情報に関するQ&A」のページで、「少々高めの線量率であることは事実ですが、人体に影響を与えるレベルではなく、健康にはなんら問題はないと考えています。」との記述がありますが、その根拠はまったく示されていません。
実際、私達はこの記述は学問的に不適当なものと考えます。放射線の健康への影響についてはさまざまな説があり、完全なコンセンサスは専門家の間でも得られていないものと承知しています。しかし、世界的にも標準的な考え方は、放射線による発がんリスクには放射線量にしきい値はなく、放射線量に比例してリスクが増加する、と言うもの(LNT仮説: Linear Non-Threshold=しきい値なし直線仮説)です。
このLNT仮説にも(楽観的・悲観的両方の立場から)批判はありますが、たとえば全米アカデミー全米研究評議会National Research Council of the National Academies 、BEIRVII報告書 http://www.nap.edu/openbook.php?isbn=030909156X でも各種学説を検討した結果、LNT仮説を支持する結論となっています。放射線防護に関する国際機構ICRPの勧告も、LNT仮説をベースにしたものです。LNT仮説によれば「これ以下であれば無害」といえる線量は存在しないので、ICRPも被曝線量はALARA(As Low As Reasonably Achievable=合理的に達成可能な限り低く)原則に従ってなるべく下げるべきという立場を取っています。http://hps.org/publicinformation/ate/q435.html
日本政府の施策も(少なくとも今回の原発事故までは)このような立場に基づいたものでした。たとえば、平成18年4月21日 原子力安全・保安院資料「我が国の原子力発電所における従事者の被ばく低減について」 http://www.meti.go.jp/committee/materials/downloadfiles/g60501a05j.pdf では、原発従事者の年間被曝が平均1mSv程度に抑えられている(現在の柏で屋外で過ごすと仮定した場合の被曝線量よりも低い)こと、しかしALARA原則に従ってさらに低下を目指すべきことが示唆されています。
平成22年7月23日 経産省原子力安全技術課「集団線量の低減に関する今後の検討について(案)」 http://www.meti.go.jp/committee/materials2/downloadfiles/g100723e07j.pdf でも「法令上の要求は十分に満足していることを前提として、被ばく量を合理的に達成可能な限り低く保つという「ALARA の原則」を踏まえた取組を行うことが適当である」と同様の方針を述べています。
原発従事者でもそうなのですから、特に本学を含めた地域社会の学生・生徒、乳幼児、妊婦などについては更に被曝線量の低下に向けた努力が求められるのではないでしょうか。もちろん、「十分低い線量」であれば、「リスクは十分に低いので無視できる」という判断はあり得ます。しかし、この判断は最終的には主権者である国民一人一人が行うものであり、リスクの開示なく東京大学が「無視できる」と判断するべきものではありません。一つの目安として、ICRP勧告による平時の一般公衆被曝限度 1mSv/年未満であれば無視できるといっても差し支えないかもしれませんが、少なくとも柏キャンパスの放射線強度は(自然バックグラウンドを差し引いても)これを上回るものです。
さまざまな説がある場合、子どもをもつ親のように安全サイドに立たざるをえない人の立場を考えれば、悲観的なリスク評価を排除するのは適切ではありません。とくに、「健康にはなんら問題がない」のような強い断定を行おうとするのであれば、悲観的な学説をなぜ排除したかの説明が必要でしょう。上記のLNT仮説やICRP勧告でも楽観的すぎるとする説もいくつもあります。仮にそのような説は考慮しないにしても、最低限、標準的なリスク評価であるLNT仮説やICRP勧告に基づいた記述をしてほしいものです。そのような基準に照らしても、標記Webページの記述は不適切なものと考えます。
福島県の住民をはじめとして放射能の健康への影響については、広い範囲の国民が強い関心を抱いています。放射線量が高い地域の住民の中には、子どもたちの将来を思い、日々悩んでいる方々も少なくありません。国民の期待を担う学問の府として、正確な情報を提示すべく、記述の修正をお願いいたします。
II. 柏の放射線量が高い理由
「東京大学環境放射線情報」のトップページに「測定地点の近くに天然石材や敷石などがある場合には、0.3μSv/時に近い値を示す場合もあります。」とのコメントがあります。また「環境放射線情報に関するQ&A」のページの「Q1:本郷や駒場と比較すると、柏の値が高いように見えますが、なぜですか? 」に対し、まず、「測定点近傍にある天然石や地質などの影響で、平時でも放射線量率が若干高めになっている所があります」との記述があります。そして、柏の線量の高さの原因として、「平時の線量が若干高めであることと、加えて、福島の原子力発電所に関連した放射性物質が気流に乗って運ばれ、雨などで地面に沈着したこと、のふたつが主たる原因であると考えています。」と結論しています。
私達は、この記述にはいくつかの点で問題があるものと考えます。
まず、東大柏(1)の測定データでも、3/18〜3/20の計測データの平均は0.12μSv/時程度です。これにも原発事故の影響がないとは言い切れませんが、平時の値は高々この程度のはずです。関東地方の典型的な平時の値を0.05μSv/時とすると、差は0.07μSv/時に過ぎません。一方で、現時点で柏(1)の最終測定値となっている5/13の値は0.35〜0.37μSv/時(5/12はもっと高く、0.38〜0.39μSv/時)です。従って、原発事故の影響による増分は(控え目に見ても)0.23μSv/時、すなわち平時の差を 0.07μSv/時 としてその3倍以上です。
ある量が大きい原因の 1/4程度に過ぎないものを強調し、3/4を占める要因をおまけ程度に扱うというのは科学的に誠実な態度とは考えられません。この増加の健康への影響の議論は別にして、柏キャンパスの放射線量が高いのは、時間変化からも明らかに原発事故の影響が主因です。
また、柏(1)の測定点の近くに天然石があるとのことですが、その影響による放射線量の増加については定量的な根拠をもとに論じられているのでしょうか。柏市やその周辺地域で放射線量が高いのは本学の測定に限らず一般的な事実であり、天然石や地質の影響とは考えられません。まず、近隣の国立がん研究センター東病院の測定 http://www.ncc.go.jp/jp/information/sokutei_ncce.html でも病院敷地境界で6/2になっても0.35μSv/時 が観測されています。また、最近の千葉県による測定 http://www.pref.chiba.lg.jp/taiki/press/2011/230602-toukatsu.html でも柏市内および周辺地域で高い線量が観測されています。その他、市民有志による測定でも地点によって差はあるものの、柏市周辺では有意に高い放射線量が観測されています。これらがすべて「天然石」の影響であるとは考えられません。
また、私達のうちの一人は個人で所有している線量計で柏キャンパス内の放射線量を計測していますが、天然石の近くでなくても高い値を観測しています。(たとえば、5/21キャンパス中央付近コンクリートタイル上約1mで0.39μSv/時) なお、日本地質学会による「日本の自然放射線量」 http://www.geosociety.jp/hazard/content0058.html によると、柏市周辺で期待される自然放射線量は0.036μSv/時以下で日本の中でもむしろ低い部類に入るようです。したがって、本学の標記Webページでの記述は科学的に不適当であると言えます。
国民から高い科学的倫理が期待されている東京大学としては、事実をもとにして、柏で計測されている高い線量値の主因は原発事故であることを明らかにする記述をするべきものと考えます。
また、柏(1)の「平常時の値」が0.1〜0.2となっていますが、前述したように3/18〜3/20の3日間の計測データの平均が 0.12μSv/時であり最大でも 0.14μSv/時であったこと、またこの期間においても原発事故の影響があった可能性も考えると、平常値の値は0.12μSv/時またはそれ未満であると考えられます。「平常値の値」0.1〜0.2μSv/時とは、2011年3月11日以前の実測データに基づくものなのでしょうか。推定の根拠を明らかにするようにお願いいたします。震災以前の同地点での実測値が存在しないのであれば、高めに見積もっても 0.12〜0.14μSv/時とするべきではないでしょうか。
以上、柏キャンパスの放射線量をどう評価するかという問題について述べてきました。これは柏地域の住民にとって関心が高い事柄ですが、放射線量の上昇は東北、関東の諸地域で起こっていますので、東大キャンパス周辺の1地域の問題にとどまらぬ影響をもちうるものです。早急な再検討とWebページの記述内容の修正をお願いいたします。
また、本郷(1)、柏(1)の測定が中断されていますが、原発事故後の時間変化を追跡するという意味で、同一地点での計測の継続はたいへん貴重なデータとなります。以前より頻度を低下させても良いかもしれませんが、是非計測の継続とその結果の公表をお願いいたします。
平成23年6月13日
東京大学教員有志
(氏名別添)
https://sites.google.com/site/utokyoradiation/home/request
ここで、重要な論点として、東京大学の有志教員たちは、放射線被曝による発がんリスクの上昇は、閾値などなく被曝線量に比例していること、そして、少なくとも柏市の状況は、ICRP勧告の一般公衆被曝限度の年間1mSvをこえていることを指摘していることをあげておきたい。さらに、柏市の放射線量の高さについて、「天然石」からの影響をあげていることにも疑義を示しているのである。そして、東京大学の主張が、各自治体の放射線対策を取らない理由となっていることも批判しているのである。
これに対して、結局、東京大学も、サイトについて変更することを余儀なくされた。朝日新聞2011年6月18日付夕刊は、次のように報道している。
「健康に問題なし」は問題 東大サイト 指摘うけ削除 放射線測定結果
学内の放射線を計測して公式サイトで公表している東京大学が、測定結果に「健康にはなんら問題はない」と付記してきた一文を、全面的に削除して書き換えた。市民からの問い合わせが相次ぎ、「より厳密な記述に改めた」という。学内教員有志からも「安易に断定するべきではない」と批判が寄せられていた。測定値は東京・本郷と駒場、千葉県柏市の各キャンパスの、1時間ごとの値を掲載している。柏キャンパスは現在、毎時0.25マイクロシーベルト前後だが、平時は0.05〜0.10程度。サイトでは「(原発の)事故前より少々高めの線量率であることは事実ですが、人体に影響を与えるレベルではなく、健康にはなんら問題はないと考えています」とのコメントを載せていた。
これに対し、学内の教員有志45人が今月13日、記載を改めるよう浜田純一総長に要請書を提出した。ごく微量でも放射線量に比例して発がんリスクがあるというのが世界的に標準的な考え方だと指摘。「(安全だと)強い断定をするなら、悲観的学説をなぜ排除したか説明が必要だ」と主張した。
大学側は翌14日、当該コメント部分を削除し、100ミリシーベルト(1回または年あたり)以下の被曝による人体へのリスクは明確ではない、との研究成果を紹介。国際放射線防護委員会(ICRP)が「長期的には放射線レベルを年1ミリシーベルトに」「事故の収束後は年1〜20ミリシーベルトの範囲」と提言した事実などを列記した。
東大広報課は、「当初は一般からの問い合わせに答えるため端的な記述が求められていると判断したが、双方向のやりとりがないウェブサイトでは、リスク情報を発信する難しさを感じた」と話している。
(吉田晋)
具体的には、このようにサイトは変わった。なお、東大教官有志は、これでは不十分として7月1日に第二回の要請を行なっている。
東大環境放射線情報ページの変化
私たちが2011年6月13日に要請文を提出後、6月14日付で東京大学「環境放射線情報に関するQ&A」の内容に重要な変更が行われました。
本サイトに掲載されている要請文は、変更前の内容に基づいて書かれていたものなので、変更前の上記ページの内容と、6月14日付の変更の内容について記しておきます。
上記ページは少しずつ改訂されていましたが、2011/5/21時点でのページが、こちらに保存されています。
(要請書提出の6/13時点では更なる改訂によって内容は変化していましたが、重要な点での見解は同じでした。)
私たちが主に問題にした箇所を以下に抜粋して引用しておきます。
Q:本郷や駒場と比較すると、柏の値が高いように見えますが、なぜですか?
A:測定点近傍にある天然石や地質などの影響で、平時でも放射線量率が若干高めになっているところがあります。現在、私たちが公表している柏のデータ(東大柏キャンパス内に設けられた測定点です)は、確かに、他に比べて少々高めの線量の傾向を示しています。これは平時の線量が若干高めであることと、加えて、福島の原子力発電所に関連した放射性物質が気流に乗って運ばれ、雨などで地面に沈着したこと、のふたつが主たる原因であると考えています。気流等で運ばれてきた物質がどの場所に多く存在するか、沈着したかは、気流や雨の状況、周辺の建物の状況や地形などで決まります。結論としては、少々高めの線量率であることは事実ですが、人体に影響を与えるレベルではなく、健康にはなんら問題はないと考えています。
2011/6/16時点でのページの記録は、こちらになります。この時点での、上記に対応する箇所を以下に引用します。
最も重要な変更として、「人体に影響を与えるレベルではなく、健康にはなんら問題はない」という記述が消滅しました。
Q2:本郷や駒場と比較すると、柏の値が高いように見えますが、なぜですか?
A2:現在、私たちが公表している柏のデータ(東大柏キャンパス内に設けられた測定点)は、確かに他に比べて高めの線量を示しています。測定点近傍にある天然石や地質などの影響で、平時でも空間線量率が若干高めになっている所があります。また、福島の原子力発電所に関連した放射性物質が気流に乗って運ばれ、雨などで地面に沈着したことが原因であると考えています。気流等で運ばれてきた物質がどの場所に多く存在するか、沈着したかは、気流や雨の状況、周辺の建物の状況や地形などで決まります。
Q3:キャンパス内で測定されている放射線量(空間線量率)は人体への影響はありますか?
A3:事故前より高い空間線量率が測定されています。従来の疫学的研究では、100mSv(1回または年あたり)以下の被ばく線量の場合、がん等の人体への確率的影響のリスクは明確ではありません(自然被ばく線量は世界平均で1年間に2.4 mSvです)。ICRP(国際放射線防護委員会)は、2007年勧告を踏まえ、本年3月21日に改めて、「長期間の後には放射線レベルを1mSv/年へ低減するとして、これまでの勧告から変更することなしに現時点での参考レベル1mSv/年~20mSv/年の範囲で設定すること」(日本学術会議訳)とする内容の声明を出しています。
※ICRP声明 3月21日 http://www.icrp.org/news.asp
Q9:柏キャンパスにおける空間線量率のバックグランド(表中では「平時の値」と記載)は、どのように評価されたものですか?
A9:柏(1)のバックグランドは、福島第1、第2原子力発電所の事故以前に、放射線管理の専門家によって、まさにその地点で実際に測定されていた値を基にしています。0.08~0.16μSv/時程度ですので、平時の値としては、まるめて0.1~0.2μSv/時としました。柏(2)は柏(1)のすぐ近傍(約10m離れた地点)にあります。原子力発電所からの事故による飛来物の量は柏(1)と柏(2)でほぼ同じと推定されますので、柏(2)の自動測定を開始したころの相互の測定値を比較して、柏(2)の平時の値を0.05~0.1μSv/hと評価しました。この値は、柏(2)における過去のバックグランド測定値(0.07~0.10μSv/時)とよく整合しています。
測定された値から、平時の値を差し引いた値が、主に原子力発電所の事故由来の放射性物質による影響と考えています。
https://sites.google.com/site/utokyoradiation/home/developments
このように、東大の「健康に影響がない」という主張は、東大内部の有志教官らの運動で、不十分ながらも改変されたのである。朝日新聞が伝えているように、この背後には、東大の主張に対する市民からの批判があったといえる。ただ、それでも、東大の教官有志という「科学者」の集団が、「科学」で武装した東大の「健康に影響がない」という主張を批判し、変えさせたということは大きいといえる。これは、権力に献身してきた「科学」を、その内部からも一部なりとも変えていく可能性を提示したといえる。
しかし、その後も、「専門家」たちは、あきれるくらい「健康に影響がない」と主張し続けた。これは柏市などの千葉県東葛地域だけはない。もっとも激しく主張しているのは、より放射能汚染が深刻な福島県である。次回以降、柏市などにしぼったかたちで、この「専門家」たちの言動をみておこう。
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