さて、郡山の除染問題をもう少し続けよう。2011年8月26日、内閣府の原子力災害対策本部が「除染に関する緊急実施基本方針」「除染推進に向けた基本的考え方」「市町村による除染実施ガイドライン」(http://www.kantei.go.jp/saigai/anzen.html#除染の取組)などを発表した。これが、現在の除染事業の基本方針となっている。警戒区域や年間被曝量20ミリシーベルトをこえる計画的避難区域では国が実施し(安全性が確保されれば市町村が実施することも可)、1-20ミリシーベルトの地域では、コミュニティ単位が有効に除染できるとして、市町村が除染計画を策定して実施し、国はその支援を行うとされた。ある意味では、人の住んでいない警戒区域や計画的避難区域は国費で、それ以外の人の住んでいる地域は市町村で除染するという、ある意味では不思議な制度が実施されたのである。
そして、「市町村による除染実施ガイドライン」では、除染の実施主体を「地域住民の方々が自ら実施することができる作業」と「安全性や効率性などから専門事業者に依頼して実施すべき作業」にわけた。後者の作業の例として、高所作業など危険性の高い作業、重機などの特別の機器が必要な作業、文化財など慎重に取り扱うべき作業、線量率が高く安全性により配慮すべき作業をあげた。ある意味で、専門事業者が行うべき作業は限定しているといえる。町内会などの市民に依拠して行っている郡山市の除染作業は、国の指針におおむねそっているといえる。
もちろん、このような除染作業のあり方自体が問題である。そもそも、市民は、このような無償労働をする謂われはない。東電が実施すべき作業のはずである。国や市町村ならばかかった費用を東電に請求することもできようが、市民の無償労働では、まったく請求できない。
また、防護服や線量計などを持ち合わさない市民が、安全に除染作業ができようか。もちろん、半袖・短パン、マスクなしでも除染作業ができるとしていた福島県や郡山市のマニュアルとは違って長袖、防塵マスク、ゴム手袋、ゴム長靴などの着用が指示されているが、それにしても普通の衣類である。「市町村による除染実施ガイドライン」では、事業者の行う場合、従業者に個人線量計を持たせ、放射線量を記録することを義務付けているが、市民にはそのようなことは規定していない。要するに、どれだけ被曝してもわからないのである。
福島市の場合は、9月27日に「福島市ふるさと計画」というものを出し、その中で、市が中心となって道路・公共広場・公共施設などの主要な部分を除染をし、住民自らは住宅やその周囲の除染のみを行わせる方針を打ち出した。もちろん、町内会などに50万円の補助を出して除染作業を行わせることも規定している。しかし、住宅でも屋根や雨樋は業者委託で作業させることとしている。福島民報は、次のように報じている。
除染へ市町村始動 ほぼ全世帯対象に実施 福島市が計画
2011年10月 9日 | カテゴリ: 震災から7カ月福島市は市内全域の約11万世帯を対象とした除染計画をまとめた。除染した放射性物質を含む全世帯分の土を仮置きする場所は確保できないとして、民家分は敷地内に埋めて保管するよう求めた。市内の約6割を占める山林や農地は対象から外された。
当初発表した計画では、費用負担対象を比較的高い世帯のみとしていたが、市は発表後、市内ほぼ全世帯の屋根と雨どいを業者委託で除染する方向で対象を拡大した。2年間で市内全域の放射線量を毎時1マイクロシーベルト以下にするのが目標だ。http://www.minpo.jp/pub/topics/jishin2011/2011/10/post_2113.html
郡山市とはかなり対照的である。ただ、たぶんに、福島市の場合は有名になった渡利地区のように避難が問題になるような地域をかかえており、市民まかせにはできないという事情も加味しなくてはならないと思う。それはそれなので、福島市については、別の角度からみる必要がある。ここでは、郡山市の特質をうきたたせるために、福島市の事例を扱っているとご承知されたい。
他方で、郡山市は、10月1日に前述のように「郡山市放射性物質除染マニュアル(第一版)」を出した。これは、町内会などを通じて市民に除染を行わせる福島県のマニュアルを良くも悪くも踏襲したものである。この時期、郡山市議会が開会していた。これをみると、本来、国の方針であると除染計画を出さなくてはならないので、議員がさかんに質問しているが、市長などはほとんど町内会を通じての市民への除染作業ばかりを強調していた。ある意味では、全体的な除染計画不在の除染作業なのである。
特に、それがあらわれているのは汚染された土壌の仮置き場である。郡山市では、先駆的に学校や公園の除染を進めていた。しかし、今度は、道路・住宅の周りなど、かなり面的に除染をすることになった。そして出された汚染物のうち、ゴミや草などの可燃物はゴミ焼却場で焼却処分することになった。これ自体、東京の例をみてもわかるのだが、かなり問題なのだが。しかし、土壌については、最終処分場が決まらず、小学校の学区単位で協議して、学区内の公園に穴を掘って仮置きするこおTになったのである。
これでは全く意味がない。公園については、わざわざ除染したのに、また汚染土壌を運びこむことになっている。もちろん、穴を掘っていわば埋めるのであるから、多少は放射線量は低くなるだろう。しかし、それだけだ。子どものために公園の除染をしたのに、これではほとんど意味がない。
郡山市では10月2日に、デモンストレーション的に、喜久田町で市民2000人を動員した除染事業を実施した。福島民報は、次のように伝えている。
住民2000人通学路除染 郡山市喜久田町 汚泥など195トン埋設
小中学校の通学路の放射線量低減を目指す大規模な除染作業が2日、郡山市喜久田町で行われた。
喜久田町区長会などが市の協力を得て実施し、住民約2000人が参加した。喜久田小、喜久田中の通学路のうち、多くの児童、生徒が通るコースを集中的に除染し、喜久田小を起点に側溝にたまった汚泥や側道の土砂を15キロ四方にわたって除去した。約5時間の作業で25キロの専用袋約5000袋合わせて195トンを回収した。JR磐越西線の喜久田駅前近くの喜久田町堀之内畑田の側溝は、地上1センチの高さで除去前の毎時1.30マイクロシーベルトから毎時0.94マイクロシーベルトに下がった。他地点もおおむね低下したという。
袋の埋設は市建設業協会が担当。喜久田スポーツ広場に掘った穴に遮蔽(しゃへい)シートなどを三重に敷き、汚泥と土砂の袋を埋め、さらに約30センチの盛り土をした。これにより、袋を集めた時点で毎時7.45マイクロシーベルトだった埋設地の放射線量は毎時0.43マイクロシーベルトになったという。
市は除染で出た汚泥や土砂をスポーツ広場や都市公園など市有地の土中に仮置きする手法を模索している。今回の取り組みをモデルケースの一つとして各地域に提案する方針。
(2011/10/03 09:29)
http://www.minpo.jp/view.php?pageId=4107&blockId=9894048&newsMode=article
といっても、郡山市の除染計画が決まったわけではない。10月12日、福島民報は、次のような記事をネット配信した。
郡山市は11日、除染計画の策定などを担う原子力災害対策直轄室を設置した。しかし、配属された職員は浮かぬ顔だ。国は除染地域の優先順位付けを求めているが、人口、地域の放射線量、子どもの利用する施設数など考慮する事情が多い上、具体的な基準を示さないためだ。
郡山市内の放射線量は毎時0・2~2・0マイクロシーベルト。最も線量の高い地域が優先順位のトップ候補だが、そうした地域の中でも放射線量に高低があり一概に「大字」「字」の単位で実施場所を決めるのは難しい。市民から除染を早急に実施するよう求める声が相次いでおり、線引きの仕方によっては反発も生まれかねない。
直轄室職員は「道路を挟んで除染が始まるのが早い世帯と遅い世帯が出る可能性もある。国は地域の設定の仕方まで示すべきだ」と訴える。
http://www.minpo.jp/pub/topics/jishin2011/2011/10/post_2149.html
ある意味では、除染作業を市民に押し付ける枠組みはできていたのに、除染計画が不在であったことがわかる。ある意味、郡山にとってジレンマであったと思われる。
そのような状況を打破したのが、かなり皮肉なことだが、10月18日の野田首相の郡山訪問であったといえる。福島民報は、10月19日に次のように報じている。
除染徹底を推進 首相が郡山で園児の父母に表明
2011年10月19日 | カテゴリ: 福島第一原発事故野田佳彦首相は18日、郡山市の富田幼稚園で開かれた保護者との意見交換会で、除染を徹底して進め、子どもたちが屋外で遊ぶことのできる環境を一刻も早く取り戻す考えを示した。
同園と市内の別の幼稚園の保護者らも参加した。除染の推進や食品の安全確保を求める意見が相次ぎ、野田首相は全力で対応することを約束した。終了後、みどり幼稚園の女性の保護者は「野田首相ならやってくれるのではないかと感じた」と評価。同園の男性の保護者は、首相が首相官邸で本県産のコメや野菜を使う考えを表明したことに、「心強く感じた」と笑顔を見せた。
一方、富田幼稚園の女性の保護者は「いち早く子どもたちが外で遊べる環境をつくりたいという話はあったが、もっと具体的な話が聞きたかった」と不満を口にした。席上、原正夫市長が除染の財政支援や最終処分場整備などを求める要望書を野田首相に手渡した。http://www.minpo.jp/pub/topics/jishin2011/2011/10/post_2200.html
たぶんに、野田首相は、幼稚園を訪問し、子どもたちやその保護者のために、国も除染に積極的になっていることを示したかったのだと思う。同日、郡山市とはだいぶ違う除染方針をとっている福島市大波地区を訪問しているので、郡山市の除染方法に特別賛意を野田がもっていたわけではないだろう。
しかし、その二日後の10月20日、郡山市は、町内会長などを集めて、「郡山市線量低減化活動支援事業・郡山市放射性物質除染マニュアル」説明会を開催した。そして翌日の21日から補助金受付を開始した。郡山市のサイトは、次のように伝えている。
「郡山市線量低減化活動支援事業・郡山市放射性物質除染マニュアル」説明会
10月20日に郡山市公会堂で「郡山市線量低減化活動支援事業・郡山市放射性物質除染マニュアル」説明会を開催しました。
郡山市線量低減化活動支援事業とは、子どもの健康を守るために、通学路等の除染活動を行う町内会、PTA、ボランティアなど自発的な取り組みを行う団体に対して、除染活動や除染に必要な物品の購入などに最大で50万円を補助するものです。
開会に先立ち、郡山市自治会連合会の鈴木光二会長が「いくら除染、除染といっても一時仮置き場がなければ、除染は不可能です。除染には総論賛成、各論反対の意見が必ず出ます。今日は、忌憚のない意見を出していただき郡山市の除染につながるようことを願っています」とあいさつしました。
続いて栗山副市長が、東日本大震災の被害状況やこれまでの学校等の表土除去の取り組み、喜久田町の自発的な除染作業で出た汚泥をスポーツ広場へ埋めた事例などを説明し、「本日は、町内会長さんをはじめ、PTA、ボランティアの皆様に参加いただき、大変ありがとうございます。ぜひとも皆さんにお願いしたいのは、今後の日本を担う子どもたちをぜひとも守る。ということで皆さんのご協力をいただければと思います。皆様のご協力なしには十分な除染は進みません。どうかひとつよろしくお願いいたします」とあいさつしました。
この日は、町内会連合会やPTAなど133団体、244名の方に参加していただき、補助事業の内容説明や申請の仕方、除染マニュアルの説明、除染活動で生じた草木の収集・運搬方法などを説明しました。
参加した方からは、早期に除染計画を策定するよう求めることや仮置き場の確保、除染活動の技術講習会の開催、活動時に負傷した場合の保険適用の有無、除染の際に使用する水道水の確保、町内会とPTAの連携のあり方、継続的な説明会の開催などの多くの意見や要望が出されました。市では、これらの意見などを踏まえ、今後の除染活動への取り組みに反映させていきます。
なお、線量低減化活動支援事業の申請は、10月21日から受け付を開始しました。
http://www.city.koriyama.fukushima.jp/pcp_portal/PortalServlet?DISPLAY_ID=DIRECT&NEXT_DISPLAY_ID=U000004&CONTENTS_ID=24986
結局、この時点でも、除染計画が示されることはなかった。結局のところ、野田首相がきて、除染の必要性を主張し、それを契機に、町内会などへの補助を中心とする「線量低減化活動支援事業」のみが開始されたのである。たぶん、当事者たちは否定するであろうが、あまりにも近接しており、野田首相の訪問が「線量低減化活動支援事業」開始の追い風になったことは否めないであろう。しかし、あまりに「事大主義」である。
住民680人が除染 郡山市の赤木小の通学路周辺
郡山市の赤木小学区の通学路除染クリーン統一活動は3日、同校周辺で行われ、町内会や育成会など28団体の関係者や住民合わせて約680人が通学路の除染作業に取り組んだ。市内の中心市街地での大規模な除染活動は初めて。
県の補助を受けた除染活動で、町内会などでつくる実行委員会の主催。市の協力を得て赤木小の通学路のうち、道幅の広い道路などを中心に除染した。住民がデッキブラシで路面を丁寧にこすった。地元の消防団のポンプ車3台を含む高圧洗浄機計12台が放水し、歩道や路肩にたまった土砂を洗い流した。
除染前は、うねめ通りの最も高いところで毎時1・5マイクロシーベルトあったが、除染後は同1・3マイクロシーベルトになった。
実行委によると、購入し使用した高圧洗浄機は今後、町内会で除染作業を行う際に貸し出す。(2011/11/04 09:41)
http://www.minpo.jp/view.php?pageId=4107&blockId=9904116&newsMode=article
華々しく報道される除染作業。しかし、それは単に町内会に補助金を渡して実施するものであり、「無計画」といえる。そして、そこから出された汚染土壌は、最初の除染目標であった公園に積み置きされる。
もちろん、ある程度早く除染が進展することはいいことである。しかし、「計画不在」の事業では、進展になるのだろうか。そもそも、マニュアル自体が、とても不備だというのに。
その上で、町内会・PTA単位で動員され、望まない人びと、いやむしろ、最大限防護しなくてはならない子連れの母親たちも、結局不必要な被曝にさらされる
のである。
前述したように、野田首相は幼稚園にきて、子どもたち、そしてその親たちのためにも国は除染に協力するといったはずだ。それが、全く逆のことに帰結してしまったといえるのである。
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