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2013年9月19日、安倍首相は、自身が「状況はコントロールされている」と9月7日のIOC総会で述べていた福島第一原発の視察を行った。とりあえず、全体の商況については、フジテレビがネット配信した、次の記事でみておこう。

安倍首相、福島第1原発5・6号機の廃炉を決定するよう東電に要請

安倍首相は19日、福島第1原発を訪れ、自ら汚染水漏れの状況などを視察した。
今回の視察には、海外メディアも同行し、世界が注目している。
安倍首相は19日午後2時ごろ、「事後処理に集中するためにも、停止している5号機・6号機の廃炉を決定してもらいたい」と述べた。
安倍首相は19日午後、福島第1原発の5・6号機について、廃炉を決定するよう、東京電力に要請した。
19日、安倍首相は、汚染水漏れの現状と対応を確認するため、福島第1原発を視察した。
福島第1原発を訪れるのは、2012年12月以来、2回目となる。
7日のIOC(国際オリンピック委員会)総会で、安倍首相は自ら、「状況はコントロールされている」と明言していた。
19日は、海外メディアも同行し、世界から注目される中、視察が行われた。
安倍首相は「皆様ご苦労さまです。大変過酷な仕事ですが、まさに廃炉に向けての仕事。日本の未来は皆さんの双肩にかかっています。国としても前面に出て、しっかりと皆さんと使命を果たしていきたい」と述べた。
まず、免震重要棟で汚染水の貯蔵タンクを管理している作業員たちを激励した安倍首相。
バスに乗り、次に向かった先は、ALPSと呼ばれる汚染水から放射性物質を取り除くための装置。
そして、いよいよ汚染水が漏れた貯蔵タンクへ向かった。
福島第1原発では、8月にタンクから汚染水およそ300トンが漏れ、一部が海に流出したおそれもある。
タンクの底のつなぎ目から漏れたとみられているが、原因はわかっておらず、抜本的な対策が打てないのが現状。
そうした中、安倍首相は汚染水が漏れたタンクを視察し、東電の関係者から、汚染水対策の説明を受けた。
安倍首相は「これそのものに、(水が)1,000トン入っているんですよね」と述べた。
およそ2時間に及んだ視察を終え、19日午後、安倍首相は「国が前面に出て、われわれも責任を果たしていかなければいけない。この汚染水の影響は、湾内の0.3平方km以内の範囲内において、完全にブロックされているわけであります」と述べた。
(09/19 16:53)
http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00254206.html

この視察についての報道で、関心がひかれるのは福島第一原発5号機6号機の廃炉を安倍首相が東電に要請したということである。しかし、5号機6号機は確かにメルトダウンはまぬがれて原型を保っているとはいえ、現実には稼働困難であることはすでに多くの人により周知されていたことだ。これは、結局、現状を追認したものでしかない。そして、この視察の結論は、「国が前面に出て、われわれも責任を果たしていかなければいけない。この汚染水の影響は、湾内の0.3平方km以内の範囲内において、完全にブロックされているわけであります」という安倍首相の発言に集約されるであろう。

さて、このフジテレビの記事には言及されていないが、興味深い出来事があった。共同通信が9月20日に配信した次の記事をみてみよう。

汚染水の影響範囲知らず発言か 首相「0・3平方キロはどこ?」

 東京電力福島第1原発の汚染水問題をめぐり、安倍晋三首相が19日に現地を視察した際、放射性物質による海洋への影響が抑えられていると説明する東電幹部に、「0・3(平方キロ)は(どこか)」と尋ねていたことが20日、分かった。

 首相は東京五輪招致を決めた国際オリンピック委員会(IOC)総会で「汚染水の影響は港湾内0・3平方キロの範囲内で完全にブロックされている」と説明していたが、実際の範囲がどの程度か理解しないまま発言していた可能性がある。

 安倍首相は東電の小野明所長から放射性物質の海への流出や海中での拡散を防ぐ対策の説明を受けた際に「0・3は?」と質問した。

2013/09/20 19:50 【共同通信】
http://www.47news.jp/CN/201309/CN2013092001002086.html

つまり、安倍首相は、実際視察するまで、汚染水の影響がその内部でブロックされているという0.3平方キロメートルの範囲を理解せず、IOC総会で「汚染水の影響は港湾内0・3平方キロの範囲内で完全にブロックされている」と述べていた可能性があるのである。

まずは、もう一度、福島第一原発の汚染水の海洋流出についてみておこう。9月20日付朝日新聞朝刊には、次のような図が描かれている。汚染水がブロックされているという「港湾」は、福島第一原発建設にともなって建設された港湾全体である。そのうち、汚染地下水が流出しているとみられる原子炉の排水口付近の入口についてはシルトフェンスをはって海水の行き来をおさえているが、何分フェンスであり、完全に抑えることはできない。特に、トリチウムは、基本的には水素のアイソトープであり、それをフェンスで抑えることはできない。シルトフェンス内側では放射性物質が多く検出されているが、外側でも検出されている。そして、この港湾内の海水は、封鎖されているわけではなく。外側の海水と出入りしている。港湾外の海水から放射性物質は検出されていないが、大量にある海水によって稀釈されているだけとみることができるのである。

福島第一原発港湾内の流出防止策と周辺の海水データ

福島第一原発港湾内の流出防止策と周辺の海水データ

「0.3平方キロはどこか」という首相の質問は、こうした細かな事情を十分認識していなかったことを意味するといえる。結局、IOC総会では「0.3平方キロ」という数字のみが強調されていた。もちろん、私のような理系の素養がない一般人でも把握できることが、IOC総会直前の首相に対するレクチャーで言及されていなかったとは思えない。しかし、安倍首相は、視察して始めて0.3平方キロの範囲を「理解」したともいえるのである。

「状況はコントロールされている」「汚染水の影響は港湾内の0.3平方キロで完全にブロックされている」という首相の発言は「虚偽」などと批判されていた。しかし、意図的に虚偽を述べていたよりもはるかに恐ろしい状況なのかもしれない。つまり、安倍は、具体的な状況を自分の頭で把握しようとせず、東電・経産省・原子力規制委員会などの当事者=原子力ムラの主張の楽観的側面のみしかみていないのかもしれないのである。その上で、IOC総会でのスピーチのレトリックとして、ああいうことをいったともいえるのである。

もちろん、これは、安倍首相の個人的資質によるところが大きいだろう。しかし、そればかりではない。彼のような人がトップにいれば、実質的な状況についてはまるで理解しないで、楽観論をたれながしてくれる。当事者たちがそのような楽観論を主張すれば、「隠蔽」「虚偽」という批判を免れない。しかし、安倍首相の場合は、そもそも事態を認識していないのであるから「隠蔽」「虚偽」と批判されても本人はこたえない。安倍首相は、原子力ムラを含めた現代日本の統治者たちにとって、「期待される人間像」なのである。

しかし、楽観論ですむのだろうか。事態に根本的な対策をたてようとせず、根拠の薄い楽観論に基づいて、その場しのぎの対策をしか出さない状況は、まるで、太平洋戦争中のようである。当時の陸海軍は、自分たちの立場に不利になる戦局の悪化については、国民はおろか自分たち以外の政府機関にも隠蔽しようとした。ゆえに、全体的な戦争指導としては、楽観論に終始し、より戦局の悪化を招いていった。同じような状況は、福島第一原発でもみられる。コントロールしていないのは「汚染水」だけではない。福島第一原発に関わる東電や政府の組織もコントロールできていないのである。

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