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2011年の上半期、「魔法少女まどか☆マギカ」(全12回)というアニメーションが放映された。この「魔法少女まどか☆マギカ」の終わりの方の放映は、東日本大震災の影響で一時停止され、4月に未放映分がまとめて放映された。第16回アニメーション神戸賞作品賞・テレビ部門、第15回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞など、2011年のアニメ関係の賞を多く受賞し、2011年を代表するアニメの一つとなった。アニメについては、次のサイトやウィキペディアの記述を参考にしてほしい。

http://www.madoka-magica.com/

このアニメは、そもそも企画は2008年より開始され、放映も予定では2011年1〜3月となっており、東日本大震災や福島第一原発事故とは直接関係なく制作されている。しかし、今、この時点で、このアニメを見てみると、まるで、原発事故を予兆させているかのような思いにかられる。

多少ネタバレになるかもしれないが、このアニメについて簡単に説明しておこう。このアニメは、ただ一つの願いを叶えたことと交換に「魔法少女」となり、過酷な運命を背負うことになった女子中学生たちの物語である。彼女らは、普通では全く叶えられないような「奇跡」(瀕死の状態から蘇生するとか、神経が切断されている手足を動かすとか)を叶えてもらうことを代償として、エイリアンであるインキュベーター(キュウべぇと愛称され、ネコとウサギをあわせたようなマスコットキャラの装いを有している)と契約して「魔法少女」となり、社会に呪いをまきらして、自殺・殺人を蔓延させる「魔女」と闘わされていく。

これだけ聞くと、まさに「正義の味方」の話に聞こえるだろう。

しかし、この「願い」と「魔法少女として戦闘すること」の交換は、フェイクなものでしかなかった。「魔法少女」は「魔女」との戦いで「魔力」を消耗し、さらに自分の過酷な運命を自覚して、次第に絶望していく。そして、臨界点を越すと、「魔法少女」は「魔女」となり、社会を絶望して、今度は自らの呪いをまきちらすことになるのだ。そして、再度、「魔法少女」が新しく登場し、「魔女」を退治していく。つまり、「願い」と「魔法少女として戦闘すること」の交換は、まったく、うわべだけであり、実は、「魔法少女」ー「魔女」というサイクルが作り出すことに眼目があるのだ。

なぜ、こんなことをしているのであろうか。インキュベーター(キュウベエ)は、宇宙全体はエントロピーの増大によりエネルギーが減少しており、それを補填するために熱力学の法則にしばられないエネルギー源を求めてきたと述べている。そして、自らの文明は、知的生命体の感情をエネルギーに変換するテクノロジーを開発したが、自らの文明では、感情を持ち合わせなくなっていた。そこで、人類、特に第二次性徴期の少女に感情エネルギーの供給を求めた。インキュベーターは、このように言っている。

人類の個体数と繁殖力を鑑みればー一人の人間が生み出す感情エネルギーは、その個体が誕生し成長するまでに要したエネルギーを凌駕する。君たちの魂は、エントロピーを覆すエネルギー源たり得るんだよ。とりわけ最も効率がいいのは、第二次性徴期の少女の、希望と絶望の相転移だ。( Magica Quartet『小説魔法少女まどか☆マギカ』(2012年)p329)

そして、インキュベーターは「つまり、すべては、この宇宙を延ばすためなんだ」(同書p329)と誇らしげに言い、主人公のまどかに、

いつかキミは、最高の魔法少女となり、そして、最悪の魔女になるだろう…そのとき、僕らはかつてないほど大量のエネルギーを手に入れるはずだ。この宇宙のために死んでくれる気になったらーいつでも声をかけて(同書p331)

と言い放つ。

そして、インキュベーターは、インキュベーターと人類が歩んできた歴史をまどかに垣間みさせる。

数え切れないほど大勢の少女がインキュベーターと契約し、希望を叶え、そして絶望に身を委ねていった…祈りから始まり、呪いで終わるーこれは数多の魔法少女たちが繰り返してきたサイクルだ。中には歴史に転機をもたらし、社会を新しいステージへと導いた子もいた。(本書p449−450)

まどかは「みんな……みんなあなたたちを信じていたの? 信じていたのに裏切られたの?」(本書p450)と問いかけるが、インキュベーターは、次のように答える。

彼女たちを裏切ったのは、僕たちではなくーむしろ、自分自身の祈りだよ…どんな希望も、それが条理にそぐわないものである限り、必ず何らかの歪みを生み出すことになる。やがてそこから災厄が生じるのは当然の摂理だ。そんな当たり前の結末を裏切りだというなら、そもそも願い事なんてすること自体が間違いなのさ。…まあー愚かにとは言わないよ。…彼女たちの犠牲によって、人の歴史が紡がれてきたこともまた事実だしね。…そうやって過去に流されたすべての涙を礎にして、今の君たちの暮らしを成り立っているんだよ? それを正しく認識するなら、どうして今さら、たかだか数人の運命だけを特別視できるんだい?(本書p450−451)

まどかが「あなたたちが、もしもこの星に来てなかったら…」と問うと、インキュベーターは「それは決まってるさ…君たちは今でもー裸で洞穴に住んでたんじゃないかな」(本書p453)と即座に答えている。

さらに、「魔法少女」ー「魔女」というシステムは、代償をもとに「魔法少女」ー「魔女」となった当事者や、周辺にいて魔女の「呪い」を受ける者たちだけではなく、より広範囲に被害を及ぼすことになる。このアニメの末尾のほうで、「魔法少女の最悪の強敵」とよばれる「ワルプルギスの夜」という魔女が襲来するが、この魔女については、次のように語られている。

今までの魔女と違って…こいつは結界に隠れて身を守る必要なんてない。ただ一度具現しただけでも何千人という人が犠牲になるわ。相変わらず普通の人には見えないから、被害は、地震とか、竜巻とか、そういった大災害として誤解されるだけ。(本書p460)

実際の来襲は、スーパーセルによる竜巻の襲来のように描かれているが、地域社会全体が水没し、巨大な建造物がなぎ倒されている状況は、まるで津波被災のようである。そして、先ほど紹介した台詞は、東日本大震災を考慮して、放映時には削除されたという。

しかも、「魔女」の被害は、地球規模にもおよぶ。このアニメは、話がループしているが、ある結末で、インキュベーターはこのように語っている。

彼女(まどか…引用者注)は最強の魔法少女として、最大の敵(ワルプルギスの夜…引用者注)を倒してしまったんだ。もちろん後は最悪の魔女になるしかない。今のまどかなら、おそらく10日かそこいらでこの星を壊滅させてしまうんじゃないかな。…ーまぁ、あとは君たち人類の問題だ。僕らのエネルギー回収ノルマは概ね達成できたしね(本書p434)

ここでは、細かなストーリーは紹介しない。それは、アニメなどをみてほしい。

このアニメにおける「魔法少女」ー「魔女」システムは、宇宙全体を存続するという目的のもとに、一部の人間を対価をもとに契約させ、最終的には、その生存を代償として、エネルギーを得るシステムということができる。しかも、それは、最終的に、このシステムは、より広範囲な人びとも犠牲に導き、地球全体を壊滅させるものとして描かれているのだ。

このシステムは、まるで原発システムのようである。原発は、ある意味では、科学の名の下に、社会に無限のエネルギーを供給させることによって、「開発」「雇用」「交付金」というリターンを対価として、地域社会に建設を受け入れさせる。しかし、その際、地域社会が支払うものは、地域社会住民の生存・生活そのものなのだ。そして、原発事故は、地域社会の当事者たちの生存・生活だけでなく、より広範囲の人びとーある場合なら地球規模のー生存を脅かすにいたっている。

このような原発システムとの類似について、脚本家の虚淵玄は、3.11以前から、自認していた。『アニメディア』2011年3月号(2011年2月10日)で、彼は、次のように発言している。

ーもし虚淵さんが、魔法で何か願いを叶えると言われたら、何を願いますか。

いや! ノーサンキューです(きっぱり)。だって…一生電気代をタダにしますと言われて、うんと答えて、その引き換えに自分の家の裏庭に原子炉を置かれたらどうします? つまりは理不尽なモノなんです。理不尽なモノでいい思いをしようという発想が、そもそもおかしいのですよ。

ーそんな力を持つことになった魔法少女たちがかわいそうすぎます…!

「夢のエネルギー」と言われるものも、結局はいろんな対価やリスクがあるんだろうと思います。かつて原子力がそう思われていたようにね。でもだからと言って、危険な力をただ否定し封印してしまうのは、自分は間違いだと思う。折り合いをつける方法がいつかどこかにあるはずだと、探し続ける努力を怠っちゃいけない。道を探ることを止めちゃったら、それまでにあった悲劇や犠牲すら無駄になってします…と思うんです。(本書p29)

そして、『ユリイカ』11月臨時特集号「総特集 魔法少女まどか☆マギカ」(2011年10月31日)において、虚淵の発言が次のように紹介されている。

その後、東日本大震災が発生し、放送延期となっていた最終二話(関東では最終三話)で描かれる廃墟が震災を思わせるものだったことから、『SWITCH』11年7月号のインタビューで「震災以後の視点でこの作品を視ると、どこか今回の原発事故とリンクしているように思えてしまいます」とインタビューに言われ、虚淵は「自分は子供の頃から省エネ馬鹿といいますか、結構ヒステリックに電気を節約したりしていたので、原発云々以前に余剰なエネルギーに対する抵抗感というのは常にあります。(中略)この国はエネルギーの使いどころがおかしいでしょう。もうちょっとエネルギーに関してナーバスになってもいいんじゃないか」と語り、脚本には資源に対する意識が顕在化しているのかもしれないと漏らしている。(本書pp239-240)

東日本大震災による福島第一原発事故は、原発システムのもつ問題性を白日のもとにさらした。しかし、それ以前から、原発システムさらには日本のエネルギー消費のあり方について、懐疑する意識がすでに生まれていたのである。直接関係ないはずの「魔法少女まどか☆マギカ」が、まるで原発システムを描いたようになったのは、とりあえず、その証左であるといえる。そして、そのことも、このアニメが2011年を代表するアニメの一つとして位置づけられる要因の一つになったといえよう。

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