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Posts Tagged ‘東京オリンピック招致活動’

福島第一原発の汚染水については、毎日のように新たな漏洩が報道されている。8月31日には、タンク2個で最大毎時1800mSvに達する高放射線量が検出され、汚染水漏洩が原因であると推定されている。毎日新聞のネット配信記事をみてほしい。

福島第1原発:汚染水問題 2タンク底部、高線量 最大1800ミリシーベルト 接合部、漏えいか
毎日新聞 2013年09月01日 東京朝刊

 東京電力福島第1原発でタンクから高濃度汚染水が漏れた問題で、東電は31日、敷地内にある同じ型のタンク2基の底部の外側から最大で毎時1800ミリシーベルトの高い放射線量を検出したと発表した。22日の測定時は最大毎時100ミリシーベルトだった。周辺に水たまりは確認できず、タンク内の水位低下もみられないが、タンクを構成する鋼板の接合部からしみ出ている可能性がある。

 2基は約300トンの汚染水が漏れたタンクから約100メートル離れた「H3」区画にある。測定は、タンクから1メートル離れた地面から高さ50センチの場所で実施。

 前回に比べ線量が高くなった理由について、東電は「原因を調べている」と説明。その上で、「放射線は比較的遮蔽(しゃへい)が容易なベータ線が中心だ。作業員は防護服を着用しており、健康影響は考えにくい。周辺環境への影響も今のところ、みられない」としている。1800ミリシーベルトは、原発作業員の年間被ばく上限に1分あまりで達する線量。

 2基とは別に「H4」エリアにあるタンクの底部と、「H5」エリアのタンク同士をつなぐ配管下部で、最大で毎時230ミリシーベルトを検出した。この2基でも水位の変化は見られないが、「配管部に少量の水滴があり、地面に変色が見られる」という。【渡辺諒】http://mainichi.jp/feature/20110311/news/20130901ddm041040108000c.html

この中で、東電は「放射線は比較的遮蔽(しゃへい)が容易なベータ線が中心だ。作業員は防護服を着用しており、健康影響は考えにくい。周辺環境への影響も今のところ、みられない」と述べている。しかし、この毎時1800mSvという放射線量について、ブルームバーグは、次のような見解のある記事を9月2日に配信している。

近畿大学の伊藤哲夫教授(放射線生物学)は、毎時1800ミリシーベルトという水準について、「4時間浴び続ければ死というものしかなく、手当てしなければ、30日以内に100%の方が亡くなる」と述べ、非常に高いレベルだとの認識を示した。
http://www.bloomberg.co.jp/news/123-MSF7FN6KLVR801.html

東電は、また、事態を矮小化しているとしかいえない。ベータ線が遮蔽しやすいといっても、直接1分でもあびたら、それだけで原発作業員の年間の被ばく上限に達する量なのである。最早、死と隣り合わせの作業になっていると考えるべきなのである。そして、これが最悪だとすらいえないのだ。

このような福島第一原発事故の汚染水漏れは、日本よりもはるかに海外で報道されている。共同通信は、9月2日に、福島第一原発の汚染水漏れについての海外の報道を紹介した記事をネット配信している。

五輪招致への影響、指摘も  汚染水問題、各国が報道

 東京電力福島第1原発で汚染水が海に漏出している問題が、各国メディアの注目を集めている。深刻な海洋汚染の脅威が現実となりつつある事態が連日報じられ、東京がマドリード、イスタンブールと争う五輪招致への影響も指摘されている。
 「日本はもぐらたたきにうんざりしている」。米CNNは相次ぐトラブルへの政府、東電の対応が後手に回っている現状をそう例えた。地上タンクからの漏出が「懸念材料のカタログに新たに加えられた」と表現。「汚染水の海洋放出や土壌の凍結措置も考えられるが、重大な技術、政治的な挑戦となるだろう」との専門家の分析を報じた。
 「約千個あるほかのタンクの耐久性にも疑問を生じさせる」とした米紙ニューヨーク・タイムズは、一連の問題が東電への視線を厳しくし、海洋放出の合意形成を難しくしたとの見方を伝えた。
 英BBC放送は、敷地内のプールにある使用済み核燃料の危険性も指摘し「日本が国際的な支援を求めないのは大きな過ちだ」との声を伝えた。
 事故後、2022年末までの脱原発を決めたドイツでは、保守系のフランクフルター・アルゲマイネ紙が「透明性は皆無」の見出しで、東電の変わらぬ 隠蔽 (いんぺい) 体質を批判。「約束した社内改革は口だけにすぎなかった」と、 広瀬直己 (ひろせ・なおみ) 社長の指導力に疑問を投げかけた。
 20年の夏季五輪開催都市が決まる国際オリンピック委員会(IOC)総会は7日(日本時間8日)。「日本が効率的な五輪運営をすることに疑いはないが、まだ原発の危機に取りつかれたままだ」(カナダ紙)など、原発事故と五輪をからめた報道も出てきた。
 候補地を抱えるスペインの地元メディア、エウロパ・プレスは「原発の問題が未解決であることは東京の五輪招致にも影響を与えるだろう」との元閣僚の発言を報じた。
 政府が原発建設を急ぐ中国でも関心は高い。
 共産党機関紙、人民日報の地方支社の幹部は短文投稿サイト「 微博 (ウェイボ) 」に「(日本は)平和憲法の改正を図り、軍国主義が台頭し、大量の汚染水を公海に流している」と投稿し、五輪の東京開催への反対を呼び掛けた。
 国営通信の新華社は「原発の危機が東京の招致に暗い影」と報道。安全性を訴える 猪瀬直樹 (いのせ・なおき) 東京都知事の発言などを伝える記事を「日本政府は危機を見くびり続けているが、内外で高まる懸念にIOCが耳を傾けるかどうかが注目」と結んだ。
 自国産の水産物などにも風評被害が拡大する韓国では、 日本政府が9月の早い時期にも抜本的対策を打ち出すことについて、 五輪招致への悪影響を懸念し「手をこまねいていた姿勢から急変した」(聯合ニュース)と分析。「根本的な事態解決は期待できない」と懐疑的な見方を伝えている。(パリ、ベルリン、北京、ソウル、東京共同)
(共同通信)
2013/09/02 15:44
http://www.47news.jp/47topics/e/245218.php

しかし、このような、海外における福島第一原発汚染水問題の報道に対して、森喜朗元首相は「東京オリンピック招致活動へのネガティブキャンペーン」として理解しているのである。森は現在、招致委員会評議会議長の立場にある。その彼が8月30日、中日新聞のインタビューを受け、中日新聞は8月31日にネット配信した。

「日本の力 見せる時」
 九月七日の二〇二〇年夏季五輪の開催都市決定まであと一週間余り。東京招致に向け、政財界一体となった招致委の評議会議長を務める森喜朗元首相は三十日、本紙のインタビューに「(福島第一原発の汚染水漏れ事故の報道で)ますます分からなくなってきた」と情勢を分析。安倍晋三首相が出る最終プレゼンテーションでの対応が重要との認識を示した。(田嶋豊)
 一九年のラグビーワールドカップ(W杯)招致を成功させた森氏は、今回もきめ細かな采配(さいはい)を発揮。日本オリンピック委員会(JOC)が中心だった前回のコペンハーゲンの反省から「敗因分析も明確にない中、戦略を立て直した方がいい」と指示。招致委に外務省や文部科学省の人間を送り込み、あらゆる団体を網羅し、国民的運動として盛り上げてきた。
 マドリードと東京の決選投票をにらんだ情勢も一部伝えられるが、森氏は王室を巻き込んだスペインの動きを警戒。さらには「アンフェアだが、欧州における汚染問題のネガティブキャンペーンが痛手だ」と分析する。
 一方、その対応をめぐり、二十九日の出発直前まで竹田恒和理事長らと協議。森氏は国際オリンピック委員会(IOC)委員には欧州勢が多く「風で(票が)動くこともある」と警戒感を募らせ、プレゼンに臨む首相に「ネガティブキャンペーンをうまく打ち消す対応をしなきゃいけない」と注文する。
 戦後、国民に自信と希望を与えた一九六四(昭和三十九)年の東京五輪から半世紀。森氏は「東日本大震災もあった。復興と元気、世界中に日本の力を見せる時だ」と強調する。日本だけではない。「スポーツの世界で取り残されているアジアの存在感を示し、理解してもらう機会になる」と期待を込めた。
(後略)http://www.chunichi.co.jp/hokuriku/article/news/CK2013083102100018.html

森は、福島第一原発汚染水問題に対する海外での報道を、「東京オリンピックに対するネガティブキャンペーン」としかみていないのである。スポーツの世界だけしかみてこなかった人がこのような発言をするのは、ある意味で理解できる。しかし、森は、元首相なのである。スポーツ振興は不要だとは言わないが、日本列島に住む人びとの生に一度は責任をもち、国際的にも、日本を代表して発言してきた人なのである。それが、このような発言…。日本列島に住む人びとの生にも、国際関係についても、森にとっては二義的な問題であり、東京オリンピック招致こそが課題なのである。そして、このような論理でいえば、国内で福島第一原発の問題を報道することも「東京オリンピックに対するネガティブキャンペーン」として認識されかねないといえる。

ただ、このような認識の背景には、権力側の漠然とした危機感があるのではないかとも考えている。福島第一原発事故についても東日本大震災についても、権力側においても漠然と危機を感じているのだと思う。しかし、彼らは、どちらについてもまともに向き合わず、彼らからすれば「ナショナリズムの祭典」(実際は、もちろんそれだけではないのだが)であるオリンピックを東京で開催することで、「国威」を発揚させ、「危機」を脱することができるのだと信じているのだと思う。

しかし、それは、全くの本末転倒な幻想に過ぎないだろう。オリンピックが開催されようとしまいと、福島第一原発事故への対応も東日本大震災からの復旧も課題として厳然として存在する。危機に正面から立ち向かうことこそ、危機への本来の対処の道である。

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