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Posts Tagged ‘動物’

前回、新型コロナウィルス肺炎の爆発的感染を封じるため、世界の各地域において都市封鎖ーロックダウンが実施され、そのことによって社会的活動全般が抑制され、社会的活動の一つである経済活動も抑えられたため、世界各地の大気汚染などの環境が一時的ではあれ改善されたことを指摘した。このような環境改善は、都市封鎖ーロックダウンとしては十分とはいえない日本ー東京でも、直接的もしくは間接的な形でみられている。前回に指摘したことであるが、それまでの環境悪化は、人々の生命に危険をもたらすほどのものであって、中国などでは、新型コロナウィルス肺炎感染による死亡者数の十倍以上の人命が都市封鎖ーロックダウンによる大気汚染改善によって救われた可能性すら指摘されているのである。

この都市封鎖ーロックダウンによって、自然環境の一部である野生動物たちの世界も変容している。まず、フランス・パリの事例をあげておこう。AFPは、2020年3月29日に次のような記事を配信している。

 

動画:パリの街角をカモが悠々とお散歩、都市封鎖で人影なく
2020年3月29日16:12 発信地:パリ/フランス [ フランス ヨーロッパ ]
(動画省略)

【3月29日 AFP】新型ウイルス対策としてロックダウン(都市封鎖)措置が実施され、不要不急の外出は認められていないフランス・パリで27日夜、コメディ・フランセーズ(Comedie Francaise)劇場前の通りを散歩する2羽のカモの姿が見られた。

 普段の居場所であるセーヌ(Seine)川から活動の場を広げた2羽は、人影が消え静けさに包まれた街角を闊歩(かっぽ)した。(c)AFP

https://www.afpbb.com/articles/-/3275899?cx_part=search(2020年5月17日閲覧)

 

パリのコメディ・フランセーズ劇場は、パレ・ロワイヤルやルーブル美術館の近傍にあり、パリの都心部に所在している。本来は人通りの多いところのはずだが、都市封鎖ーロックダウンによって、人間の往来が絶え、カモ(動画でみると多分マガモ)が闊歩するようになったのである。カモは人間の行動圏に進出したのである。

イギリス・ウェールズのランディドノーという町では、近傍に住んでいる野生のヤギが、外出制限で人通りが絶えた街の中を自由に歩き回っているとCNNなどが報じている。

 

新型コロナで外出制限、人影消えた町にヤギの群れ 英ウェールズ
2020.04.01 Wed posted at 11:55 JST


町にヤギの群れ 新型コロナの外出制限が影響か 英国

(CNN) 英南西部ウェールズの町でこのところ、丘から下りてきた野生のヤギが目撃されている。ヤギの群れは、新型コロナウイルス対策の外出制限で人影の消えた町を歩き回っているようだ。

ウェールズ北部の海岸沿いに位置する町、ランディドノーに27日以降、グレートオーム岬の丘から十数匹の群れが下りてきた。インターネット上に投稿された動画や写真では、ヤギが教会や民家の敷地で草を食(は)んでいる。

地元ホテルの関係者はCNNとのインタビューで、「ヤギはこの時期、グレートオームのふもとまで来ることもあるが、今年は町の中を歩き回っている」「人がいないからどんどん大胆になっている」と指摘。植木をせん定する手間が省けるとも語った。

地元議員の一人は、この地域に住んで33年になるが、町まで下りてきたヤギを見たのは初めてだと話す。

一方で北ウェールズ警察は、野生のヤギに関する通報があったことを確認したうえで、「ランディドノーではそれほど珍しいことではない」と述べた。通常は自然に丘へ戻っていくとの判断から、警官の出動には至っていないという。

https://www.cnn.co.jp/fringe/35151689.html(2020年5月17日閲覧)

 

完全な都市封鎖・ロックダウンではないが、新型コロナウィルス肺炎感染対策のために夜間の外出禁止が禁止されたチリのサンディエゴでは野生のピューマが出没している。AFPは3月25日に次のような

 

夜間外出禁止令で閑散とした首都に野生のピューマ、チリ
2020年3月25日 10:28 発信地:サンティアゴ/チリ [ チリ 中南米 ]

(写真等は省略)
【3月25日 AFP】チリ当局は24日、夜間外出禁止令のために閑散とした首都サンティアゴで、餌を探してうろついていた野生のピューマ1頭を捕獲したと明らかにした。

 新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)を受けて、チリは夜間外出禁止令を出している。


 ピューマは、首都近郊の丘陵地帯から下りてきたとみられる。

 警察および国立動物園と共に捕獲作業に参加した農業牧畜庁(SAG)のマルセロ・ジャニョーニ(Marcelo Giagnoni)氏は、「ここはかつてピューマの生息地だった。われわれが彼らから奪ったのだ」と述べた。

 ピューマは1歳ほどで、体重およそ35キロ。検査のためサンティアゴ動物園(Santiago Zoo)に移送された。

 ジャニョーニ氏によれば、ピューマの健康状態は良好だという。(c)AFP

https://www.afpbb.com/articles/-/3275122(2020年5月17日閲覧)

 

日本でも同じような状況が生まれている。緊急事態宣言で外出制限が抑制されている北海道・根室の市内中心部の公園は人影がまばらとなり、そこにエゾシカが散歩するようになったと毎日新聞は報じている。

 

エゾシカ、公園を「占拠」 コロナで人影まばら 北海道・根室
毎日新聞2020年5月5日 22時00分(最終更新 5月5日 22時00分)

(動画・写真など省略)

 こどもの日の5日、北海道根室市中心部の公園では子どもの姿はまばらで、エゾシカ5頭がのんびりと寝そべる光景が見られた。新型コロナウイルスの影響で親子連れなどが外出を控える中、子どもたちの遊び場を「占拠」した形だ。

 例年であれば、休日やゴールデンウイーク中はブランコや滑り台などの遊具で遊ぶ家族連れでにぎわい、エゾシカがくつろげる雰囲気ではない。しかし、この日の昼前、人影はまばら。普段、早朝以外は市街地に姿を見せることはないエゾシカが白昼堂々現れ、警戒している様子もなく、春の柔らかな日差しを浴びていた。

 車で公園を通りかかった女性は「まるで奈良公園のシカみたい」と目を細めていた。【本間浩昭】

https://mainichi.jp/articles/20200505/k00/00m/040/217000c(2020年5月17日閲覧)

 

人間にとってはあまり歓迎できない動物が目立ってくる場合もある。NHKは、北九州市の繁華街でネズミの大群が出没していることを報じている。似たような話は、東京やニューヨークでも報じられている。

 

ねずみ大群出没 飲食店休業で餌不足か 北九州 新型コロナ影響
2020年4月27日 11時50分

新型コロナウイルスの感染拡大の影響で多くの飲食店が休業している北九州市の繁華街で、ねずみの大群が出没しています。ねずみの駆除業者は休業で餌が少なくなったことなどから、活発に活動をしているのではないかと指摘しています。

居酒屋など多くの飲食店が休業したり夜の営業を取りやめたりしている北九州市のJR小倉駅近くの繁華街では、午後9時ごろになると通りに数十匹のねずみが現れ、道路脇のゴミなどをあさる様子が確認されています。

映像を見た全国のねずみ駆除業者などで作る協議会の谷川力委員長によると、生ゴミなどが主食のドブネズミと見られ、ふだんはビルとビルの間の狭い空間や植え込みの中にいるということです。

また、ねずみが増えているわけではなく、人通りが減って警戒心が低くなっていることに加え、飲食店の休業で餌が少なくなったことから人前に現れ、活発に活動しているのではないかと指摘しています。そして、餌を求めて住宅街などに活動範囲を広げることも懸念されるということです。

谷川委員長は「世界中でこのような事例が増えている。繁華街に定着していたねずみが住宅地に広がるおそれがあるのか調べていきたい」と話しています。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200427/k10012406951000.html(2020年5月19日閲覧)

 

このネズミたちは、もともと繁華街に住んでいたのである。「自粛」によって人々の社会的活動が抑制されたということが、ネズミたちの餌を減少させ、さらに人目が少なくなったために、ネズミが活動するようになったのである。

もちろん、これらの動物たちは、新型コロナウィルス肺炎対策のための都市封鎖ーロックダウン以後、そのことによって直接増えたというわけではない。それまでも、近傍に住んでいたのである。人の目がなくなって、動物たちの警戒心が薄れて、街なかに帰還してきたのである。

ただ、このことは、それまで、人間の存在自体が、これらの動物にどれほどの負荷を与えていたかということを実感させることになったといえる。これもまた、21世紀の現代における人間社会の動向が、地球環境に大きな負担になっていることの一つの証左なのだといえる。

それでは、このようなことは、現代の社会において、どのような意味を持っているのか。次回以降、考えてみたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

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最近、必要があって、環境関係の書籍を乱読している。その中で、最も感銘深かったのは、原著が1962年に出版されたレイチェル・カーソンの『沈黙の春』(青木簗一訳、新潮社、2001年)であった。レイチェル・カーソンは、本書執筆中に癌を発病し、1964年に亡くなっているので、事実上彼女の遺著でもある。

『沈黙の春』の内容について、ごく簡単にまとめれば、第二次世界大戦後において顕著となった、DDTなどをはじめとした殺虫剤・除草剤などの農薬を飛行機などを利用して大規模に散布することについて、それは、ターゲットとなった害虫や雑草だけでなく、無関係な昆虫・魚類・哺乳類・鳥類・魚類・甲殻類や一般の植物をも「みな殺し」にして生態系を破壊するものであり、その影響は人間の身体にも及ぶのであって、他方で、ターゲットとなった害虫や雑草を根絶することはできないと指摘しているものである。よく、『沈黙の春』について農薬全面禁止など「反科学技術的」な主張をしたものといわれることがあるが、カーソン自身が「害虫などたいしたことはない、昆虫防除の必要などない、と言うつもりはない。私がむしろ言いたいのは、コントロールは、現実から遊離してはならない、ということ。そして、昆虫といっしょに私たちも滅んでしまうような、そんな愚かなことはやめよーこう私は言いたいのだ。」(本書p26)、「化学合成殺虫剤の使用は厳禁だ、などと言うつもりはない。毒のある、生物学的に悪影響を及ぼす化学薬品を、だれそれかまわずやたら使わせているのはよくない、と言いたいのだ。」(本書p30)というように、殺虫剤一般の使用を禁止してはいない。彼女は、農薬散布よりも効果ある方法として、害虫に寄生・捕食する生物の導入や、放射線・化学薬品その他で不妊化した昆虫を放つことなどを提唱しているが、それらもまた科学技術の産物である。

このように、彼女の主張は「科学」的なものである。ただ、一方で、倫理的なものでもある。彼女は、マメコガネ根絶のために行われたアメリカ・イリノイ州などでの農薬散布について叙述し、次のように言っている

 

イリノイ州東部のスプレーのような出来事は、自然科学だけではなく、また道徳の問題を提起している。文明国といわれながら、生命ある、自然に向って残忍な戦いをいどむ。でも自分自身はきずつかずにすむだろうか。文明国と呼ばれる権利を失わずにすむだろうか。
 イリノイ州で使った殺虫剤は、相手かまわずみな殺しにする。ある一種類だけを殺したいと思っても、不可能なのである。だが、なぜまたこうした殺虫剤を使うのかといえば、よくきくから、劇薬だからなのである。これにふれる生物は、ことごとく中毒してしまう。飼猫、牛、野原のウサギ、空高くまいあがり、さえずるハマヒバリ、などみんな。でも、いったいこの動物のうちどれが私たちに害をあたえるというのだろうか。むしろ、こうした動物たちがいればこそ、私たちの生活は豊かになる。だが、人間がかれらにむくいるものは死だ。苦しみぬかせたあげく、殺す。…生命あるものをこんなにひどい目にあわす行為を黙認しておきながら、人間として胸の張れるものはどこにいるのであろう?(本書pp120-121)

本書では、それぞれの農薬、そして、それらが大規模に散布された結果としての生態系の破壊、さらには、散布された農薬が人間の身体を害し、遺伝的な影響を与えていくことが科学的に叙述されている。そして、その科学を前提にして、このような問題を放置していてよいのだろうかという、倫理的な課題が提起されている。多くの生物は、結果まで考えて生きているわけではない。人間は、ある種の結果を想定して行為することによって生きている。自らの営為による生態系の破壊、人類の破滅が科学的に想定された場合、それを避けるということは、人間の倫理的な責任ということができよう。その意味で、本書は、一般化するならば、科学を追求した結果として人間の倫理的な問題が問われていくことを示した書といえるのである。

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