Feeds:
投稿
コメント

Posts Tagged ‘宮家邦彦’

さて、やや旧聞になるが、『中央公論』2014年5月号に宮家邦彦(元外交官、現キャノングローバル戦略研究所研究主幹)・加茂具樹(慶應義塾大学准教授、現代中国政治学専攻)の「対談ー中国共産党崩壊のシナリオはありうるか」という記事が掲載された。特に、宮家の発言には、現在の「外交実務家」たちの中国をめぐる意識が露呈されているように思える。宮家は『語られざる中国の結末』(未見)という本を出しているそうであるが、この対談の中でその中身が紹介されている。それによると、宮家は、中国の今後を、中国が統一を保つか分裂するか、民主化するか独裁化するなど7つのケースに分けてシュミレーションしている。しかし、対談相手の加茂は「すべてのシュミレーションの前提として、米中の衝突を想定されていますね」と指摘した。それに対して、宮家は、このように答えている。

宮家 中国に民主化、あるいは崩壊の可能性があるとするなら、そのきっかけは現時点では外的要因しか考えられなかったからです。
 格差が広がったといっても、つい最近まで「10億総貧乏」だった国ですから、それによって人々が本気で怒りだして政権が崩壊するほどの暴動が起きるとは思えない。また、あれだけの国家ですから、局所的な暴動なら簡単に抑え込める。そして、少々の外圧なら耳を貸さなければいい。それで、米中の武力衝突を前提にしました。

加茂は、さらに「共産党政権が米国への挑戦を選択する理由は何ですか…共産党政権は、実際に、国際社会における影響力の拡大を一貫して追求していますが、どうやって米国と対話し、調整して共存していくかもずっと模索しています」と指摘した。宮家は、次のように応答している。

宮家 それは分かります。だからといって、米中衝突が「絶対ない」とは言えない。1930年代の日本をとっても、米国と武力衝突することでどれほどの利益があったのか。冷静に考えてみれば分かりそうなものですが、当時の日本人は戦争を選択してしまう。
 当時の日本もいまの中国もコントロールできないのはナショナリズムです。ただ、中国経済はまさに対外関係で持っているので、下手に動けば制裁される。そうなると資源がない分、ロシアより深刻です。そう考えれば米中の武力衝突の可能性は相当低い。とはいえ、ロシアは経済的なメリットがほとんどないにもかかわらずクリミア半島を軍に制圧させた。いつの時代もナショナリズムは判断を曇らせる厄介なもので、損得勘定を度外視させる危険がある。

宮家は、いわばナショナリズムの暴発によって利害をこえて中国がアメリカと衝突する可能性があるというのである。しかし、加茂は「僕は、中国における政治的な社会的な変化の重要な契機は、中国共産党内のエリート間の利害対立の先鋭化にある」と発言し、「宮家さんのシュミレーションに話を戻すと、それぞれ可能性を論じてみて、最終的には、当面、このまま変わらない蓋然性が高い」と指摘した。宮家も「このマトリックスをやってよかったと思っているのは、真面目に議論すればするほど、いまの中国のシステムがいかに強靭であるかということを再認識させられたことなんです」と述べている。

その上で、宮家は、次のように発言している。

宮家 ところで、日本にとって真に最悪のシナリオは、中国が民主化されて超優良大国になることだと思います。そうするとまず、日本の存在価値が低くなる。そして、いずれ米国はアジアから軍を引き揚げることになるでしょう。しかし、超優良大国になっても国内のナショナリズムがなくなるわけではありませんから、引き続き日本は中国に叩かれる。それなのに両国間の緊張が高まったときに、もうアジアに米国はいない、となったら悪夢です。日本はすべての国防政策を見直さなければなりません。それはバッドニュースです。ただ、グッドニュースは、縷々見てきたとおり、中国がそう簡単には民主化される可能性がないこと。(笑)

宮家の議論には、中国に対する大きなコンプレックスが見て取れる。彼からみれば、中国共産党政権は、内部抗争でも「少々の外圧」でも変わらないー「民主化」にせよ「崩壊」にせよーのである。つまりは日本側の作為でも変えることはできないのだ。そして、この「変わらない中国」の「ナショナリズム」によって日本は叩かれ続けるという。それを交渉によって変えようということは問題にもされていない。「強大な中国」と「卑小な日本」とでもいうべきイメージが垣間見えている。この中国に対抗するためには、アメリカに依存するしかないと宮家は考える。このように、中国に対するコンプッレクスは、アメリカへの依存を強めていくことに結果していくのである。そして、ここでも、「強大なアメリカ」と「卑小な日本」というイメージが表出されている。

そして、最終的には、次にような逆説に行きつく。中国に対抗するためには、東アジアにアメリカ軍がいてもらわなくてはならない。中国が「民主化」すれば、アメリカ軍が東アジアにいる必要がなくなる。ゆえに日本にとって「中国の民主化」は「最悪のシナリオ」なのだと宮家は主張するのである。他方で、宮家は、米中の衝突によって「中国が変わる」ことを「シュミレーション」という形で夢想するのである。

宮家は、現在のところ、外務省などの公職についていない。ただ日米安全保障条約課長や中国公使なども勤めており、安倍外交を現在担っているいわゆる外交実務家とかなり意識を共有しているだろうと考えられる。特定秘密保護法制定、憲法解釈の変更による集団的自衛権行使、普天間基地の辺野古移転強行などにより、「日米同盟強化」をめざす。その一方で、靖国参拝など中国のナショナリズムを刺激することで、米中関係を緊張させる。これらのことにより、政治・経済面で台頭していると意識されている中国に対して、アメリカに依存して対抗していこうとするのである。

それは「中国の民主化」をめざしてのことではない。あくまでも、彼らの考える日本の「国益」なるものが中心となっている。アメリカ政府の「民主化」要求は、もちろん、一種の大国主義的であり、欧米中心主義的なものではあるが、建前では「普遍主義的価値観」に基づいてもいるだろう。日本の元外交官である宮家は、そのような普遍主義的価値観を共有していない。むしろ、「中国の民主化」が挫折したほうが、日本にとって「グッドニュース」だというのである。この論理は、アメリカに依存して中国に対抗しようとしながら、アメリカの価値観とは共有しない自国中心主義なものといえよう。宮家が表明しているこの論理は、安倍外交の基調をなしているようにみえるのである。

Read Full Post »