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朝日新聞2012年12月9日付朝刊の東京版(29面 東京北部)に、次のような記事が掲載された。東京都知事選も対象とした記事なので、全国版には掲載されず、ネット配信もされていない模様である。ここで、まず、全文を掲載しよう。

届けダブル選@派遣村 生活保護 怠けて来たんじゃない

 芋と野菜がゴロゴロ入った汁。プラスチックの器から白い湯気が立っていた。
 8日、京王線府中駅にほど近い府中公園。市民グループ「府中緊急派遣村」が9日まで開く「年末困り事相談会」の炊き出しを訪ねた。
 テントの中。職を失った人たちが、弁護士や看護師にとつとつと打ち明けている。突然の解雇のこと、健康面の不安ー。通りの向こうでは、選挙カーが候補者名を連呼していた。
 派遣村の村長が松野哲二さん(63)がつぶやいた。「人々が今、不安に思っていることや、困っていることは、今回の選挙では何一つ反映されていないような気がします」
 松野さんが定年後に仲間と派遣村を立ち上げたのは09年。自公政権の社会保障費抑制を強く批判した民主党政権の誕生に期待した。
 あれから3年。世の中では生活保護へのバッシングが高まり、与野党は、引き上げや現物支給案さえ話題にし始めている。もう、どこにも期待できない。
 炊き出しの手伝いをしていた女性(64)に話を聞くことができた。昨春から生活保護を受け、アパートで暮らしているという。
 中学卒業と同時に、育った施設を出て以来、働きづめの50年だった。サウナやラーメン屋の住み込み店員、子どもをおんぶしてのヤクルトの配達…。夫は早くに亡くなり、昨年2月まで市内の建設会社で住み込みの炊事係をしていた。だが男性作業員からの暴力や嫌がらせを受けて退職。住むところも失った。
 そこへ、東日本大震災が起きた。身を寄せるところもなく、公園で凍え、飢えた。結婚して家族との暮らしを必死で守っている子どもには頼りたくない。そんな時、松野さんに会った。
 生活保護を受けるように勧められた。でも、不安だった。軽蔑されるんじゃないか。決心がついたのは、体臭を気にする野宿生活者に、松野さんがかけたという言葉を人づてに聞いた時だ。「臭くないですよ。人間のにおいがします」ー。涙が止まらなかった。
 「政治家で、そんな風に思ってくれる人がどこにいると思いますか? 怠けて生きて、ここに来たんじゃない。私たちの人生をほんの少しでも聞いてほしい」
(市川美亜子)

この記事を読んで、どのように思われるだろうか。まず、第一番に言わねばならないことは、現時点で府中緊急派遣村が行っている「年末相談会」は緊急になさねばならない課題であるということだ。そして、この記事を、純粋に、府中緊急派遣村の「年末相談会」を社会に紹介し、貧困者に冷たい社会に対してその是正を訴えるものとして読むならば、それなりの価値をもつといえるだろう。特に、最後の「政治家で、そんな風に思ってくれる人がどこにいると思いますか? 怠けて生きて、ここに来たんじゃない。私たちの人生をほんの少しでも聞いてほしい」という女性の主張には共感を覚える人もいるだろう。府中緊急派遣村のサイト自体も、次のように評価している。純粋に宣伝としての意味があったということであろう。

昨日は、朝日新聞から別な企画で二名の記者が取材にきました。市川記者は社会部で選挙の連続記事で、松浦記者は経済部でサンキューハウスの集会で高見さんの話を聞いてやがて特集記事を書くために、一緒に炊き出し食べたりインタビューしたり長時間取材をされました。
市川さんは、早速今朝の東京版に大きく書いています。こんなこと言ったかな?と気恥ずかしい内容もありますが、相談に行こうと思う方々の目にふれていただければと思います。
http://blogs.yahoo.co.jp/peace19th/MYBLOG/yblog.html

しかし、これは、「届けダブル選」と題され、衆議院議員選挙と東京都知事選挙を扱った選挙報道なのである。そのことを考慮にいれて、この記事を読むと様相は一変する。最初の場面で、選挙カーと「年末相談会」は対比的に示される。そして、府中緊急派遣村村長松野哲二氏の「人々が今、不安に思っていることや、困っていることは、今回の選挙では何一つ反映されていないような気がします」という発言が挿入される。そして、さらに「自公政権の社会保障費抑制を強く批判した民主党政権の誕生に期待した。あれから3年。世の中では生活保護へのバッシングが高まり、与野党は、引き上げや現物支給案さえ話題にし始めている。もう、どこにも期待できない。」と要約した形で松野氏の主張が述べられる。そして、最後に「政治家で、そんな風に思ってくれる人がどこにいると思いますか? 怠けて生きて、ここに来たんじゃない。私たちの人生をほんの少しでも聞いてほしい」という女性の言葉で締められるのである。

単純にいえば、政治家たちの選挙と反貧困の活動を対比的にのみとらえ、前者は、後者の思いを全く受けとめていないとして「糾弾」するという姿勢を有しているのである。

これは、確かに、生活保護費の圧縮を主張している「与野党」ー民主党・自民党・日本維新の会についてなら該当するといえよう。しかし、これらだけが政党なのか。すべての政党の公約にふれることはできないが、少なくとも、日本共産党や社会民主党は、生活保護制度の拡充を主張している。反貧困の活動と、衆議院議員選挙は無縁ではないのだ。

さらに、東京都知事選挙については、完全に次のことを無視している。都知事選の候補者の一人である宇都宮健児氏は、「会の目的は、人間らしい生活と労働の保障を実現し、貧困問題を社会的・政治的に解決することにある。」(規約第四条)として、反貧困運動を展開している反貧困ネットワークの代表であるということである。つまり、反貧困の問題は、都知事選の大きな争点の一つなのである。全く、そのことを看過して、一般的な「選挙不信」を募らせているのが、この記事なのである。

それでは、府中緊急派遣村自体はどのように言っているのだろうか。彼らのサイトからみてみよう。

府中緊急派遣村「年末相談会」開会宣言
2012年12月8日

 本日より、年末困り事相談会を開始します。
 今回で6回目となる相談会は、生活と労働に悩む人びとに一層厳しい状況下で開きます。世界を見ても、グローバル化が豊さをもたらすどころか貧富の格差を拡大させ中間層の下層への地滑りが広がっています。
 国内においても、底冷えの経済、殺伐とした社会状況が長期に続き、庶民の我慢と苛立ちを領土や国家へと向けさせ、さらに社会的弱者、とりわけ外国人労働者や生活保護者への攻撃に転嫁する政治勢力が暗雲のごとく覆っています。まるで戦前への回帰か、新たな戦前か、それとも大衆動員フアッシズムの到来というべき危険な状況です。そもそも金持ち勢力の彼らが、生活保護費をやり玉にあげるのは、単にお金の問題ではなく、社会をどこに向けさせるのかという価値観から政策として出されているのです。派遣労働や使い捨て労働者の蔓延も、彼らが企業中心社会を堅持し、働く者には知的文化的な暮らしをあきらめさせ、食うためにのみ働く従順な労働者になること、それができないのならば一生どん底に居ろという彼らの政策なのです。
 さらに、福島の原発犯罪で、製造企業東芝、日立、GE、運営管理会社の東電の社長は逮捕されることなく、原発の持続、輸出、拡大路線をひた走りしています。被曝労働、廃棄物、プルトニウム生産を見るまでもなく、原発は人類に敵対する一握りの富のかたまりです。
 私たちは、福島を思い、寄り添い、忘れずこれまで11回の福島現地支援を行動してきました。
 しかし、この選挙で予想される新たな政権は、原発拡大路線です。原発ゆるすまじの民意は反映されず動員煽動された投票が多数派を形成するという矛盾を許してはなりません。
 生き辛い人びとが一層生きにくくなるこの年末に、大切な選挙のさなかにあえて私たちは相談会を開きます。すべてが選挙に向かい、今困っている人びとが選挙に埋もれ窒息してはなりません。
 私たちは派遣村を地域で日常化する活動をしてきました。そこから自覚できたことは、第1に、森居さんが毎日新聞で語っているように本当に困窮している人たちの生活を知ることです。第2に、どんな人間も地域で仲間と共に健康で文化的に生きる権利があるということです。第3に人間は何度でもやり直すことが出来る。しかし、1人でできないことは仲間と共にすること。
 だからこそ、私たちは、決して仲間を貧困ビジネス施設に追いやらない。決して孤立の深みに追いやらない。決して国家の弱者、野宿者排除を許さない。決して健康と文化を奪う生活保護改悪を許さない。決して被曝労働を許さない。決して働く者の困窮化を許さない。
 そして、新たな仲間との出会いを求めてここにつどう。
 今回も多くの方々からご理解とカンパをいただき準備できました。2日間の相談態勢は、多摩弁護士会から4名の弁護士と荒木弁護士、大阪から萬田司法書士が待機します。府中診療所の看護士さん2名が健康相談に待機していただけます。
 炊き出しは昨年の相談者やみんなの村の仲間たちが腕によりをかけて準備しました。
 いくつかの福祉事務所から炊き出し物資を提供いただきました。
 派遣村労働組合は何度もハローワーク前などでビラまきもしました。 東京、読売、毎日新聞各社も報道してくれました。朝日は今日会場取材し明日報道する予定です。 皆さまにあらためてお礼申し上げます。 また、寒さをついての屋外相談です。カイロを用意しています。風邪を引かないよう充分温かくしてご活躍ください。
 となりの中央文化センターに会議室も用意しています。無理をしないで屋内相談に移動してください。
 では皆さん、胸は優しく温かく、頭はおおらかに冷静に、みんな仲良く2日間を過ごしましょう。 相談には耳をかたむけ、聞くだけではなく解決を共にする具体的な対応を心がけましょう。

府中緊急派遣村 松野哲二
http://blogs.yahoo.co.jp/peace19th/MYBLOG/yblog.html

「しかし、この選挙で予想される新たな政権は、原発拡大路線です。原発ゆるすまじの民意は反映されず動員煽動された投票が多数派を形成するという矛盾を許してはなりません。生き辛い人びとが一層生きにくくなるこの年末に、大切な選挙のさなかにあえて私たちは相談会を開きます。すべてが選挙に向かい、今困っている人びとが選挙に埋もれ窒息してはなりません。」ということである。彼らは、原発拡大派が政権をとることをよしとはしていない。「大切な選挙」としているのである。彼らとすれば、選挙戦において、貧困者が「埋もれ窒息」させてはいけないとして「年末相談会」を行ったとしているのである。

そして、彼らのサイトには「藤田祐司さんからも、相談会の成功を祈りつつ、衆院選を最後までがんばるとの決意メールも今朝届いています。」という記載がある。藤田祐司氏は日本未来の党の衆議院議員候補者の一人で、東京21区から立候補した。なお、21区には府中市は含まれない。彼らは、予想される選挙結果には不信をもっているだろうが、選挙自体を無視しているわけではないのである。

結局のところ、この朝日新聞の報道は、民主党・自民党・日本維新の会のみを「選挙の参加者」とし、その他の選択を全く排除することによって成り立っているといえる。そのことを、自分の口ではなく、貧困者やそれを支援する人の口を借りて語っている。「民・自・維」しか選択肢にないならば、だれが選挙にいくのだろうか。そういった形で、選挙自体への不信を結果的にあおりたてているといえる。

例え、積極的に選挙活動ができなくても、選挙権は行使できる。それに、府中緊急派遣村のサイトにも出ているように、既存の政党からではない形で選挙に立候補する人もいる。「府中緊急派遣村」の記事に出ていた人たちも、議員などになることもあるかもしれない。そのような可能性を見出さないまま、朝日新聞の記者は「選挙への絶望」を語っている。

記事を読むと、それなりに良心的な記者だと思う。しかし、その良心をはきちがえていると思う。それは、全く「政治」の枠を「小さくみる」ことから始まっているといえるのである。

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