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福島第一原発事故以後、停止されていた「次世代型原子炉」の研究開発が2015年度に再開させる方針を政府は固めたという。次の読売新聞のネット配信記事をみてほしい。

次世代型原子炉、研究開発を再開へ…政府
読売新聞 9月17日(水)7時32分配信

 政府は、次世代型原子炉として期待される高温ガス炉の試験研究炉(茨城県大洗町)の運転を2015年度に再開し、研究開発を本格化させる方針を固めた。

 東日本大震災を受けて停止中だが、早ければ10月にも原子力規制委員会に安全審査を申請する。産官学による協議会を年内に設置して研究開発の工程表を作成し、実用化に向けた取り組みを後押しする考えだ。

 高温ガス炉は軽水炉と違い、冷却に水ではなく、化学的に安定しているヘリウムガスを使う。このため、水素爆発などが起きず、安全性が高いとされる。

 日本は1990年代から、日本原子力研究所(現在の日本原子力研究開発機構)を中心に高温ガス炉の研究開発を行っており、世界有数の技術の蓄積がある。試験研究炉では98年、核分裂を連続して発生させる「臨界」に初めて成功した。ただ、震災を受けて2011年3月に運転を停止して以降、研究は進んでいない。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140917-00050009-yom-sci

「新世代型原子炉」研究開発を再開するというのである。この原子炉は、減速材・冷却材にともに軽水を使う軽水炉と異なり、減速材に黒鉛、冷却材にヘリウムを使い、そのヘリウムガスでタービンを回して発電させる「高温ガス炉」というものである。産經新聞のネット配信記事(8月25日配信)によると、次のように安全性が説明されている。

自然に停止

 ヘリウムガスを冷却材に使う高温ガス炉は、基本的な仕組みは既存の原発と同じだ。ウラン燃料の核分裂反応で生じた熱でタービンを動かし、電力を生み出す。だが過酷事故の発生リスクは極めて低いという。

 茨城県大洗町にある日本原子力研究開発機構の高温ガス炉の試験研究炉「HTTR」。ここで4年前、運転中に炉心冷却装置を停止する実験が行われた。福島第1原発事故と同じ状況だ。原子炉は、いったいどうなったか。

 「何も起こらず自然に停止した。何もしなくても安全だった」。同機構原子力水素・熱利用研究センターの国富一彦センター長はこう話す。

 炉心冷却を停止すると、通常の原発は温度上昇で危険な状態に陥る。しかし、HTTRは停止とほぼ同時に原子炉の出力がゼロになり、温度は一瞬上昇しただけで安定していた。放射能漏れや炉心溶融は、もちろん起きなかった。

炉心溶融せず

高温ガス炉の安全性が高いのは、燃料の保護方法、炉心の構造材や冷却方式が従来と全く異なるためだ。

 既存の原発では、運転時の炉心温度は約300度。燃料の被覆材や、燃料を収める炉心構造材は耐熱温度が千数百度の金属製で、冷却材には水を使う。福島第1原発事故は冷却手段が失われ、炉心は2千度前後の高温になり溶融して燃料が露出。溶けた金属と冷却水の水蒸気が反応して水素爆発を起こし、放射性物質の飛散に至った。

 これに対しHTTRの炉心温度は950度と高いが、球状(直径0・9ミリ)の燃料は耐熱温度1600度のセラミックスで覆われており、これを2500度の超高温に耐える黒鉛製の炉心構造材に収めている。冷却材のヘリウムガスは化学的に安定で燃焼しない。これが炉心の高い熱エネルギーを運ぶため、高温ガス炉と呼ばれる。

 冷却手段が失われても炉心は理論上、1600度を超えないため、燃料の被覆が熱で壊れて放射能が漏れることはない。黒鉛製の構造材も溶融しない上、放熱効果が高いため自然に熱が逃げて冷える。

 水を使わないため水素爆発や水蒸気爆発の懸念もない。核分裂反応も、冷却停止で炉心温度がわずかに上がると、ウランは分裂しない形で中性子を吸収するため自然に停止するそうだ(後略)。
http://sankei.jp.msn.com/science/news/140825/scn14082511170004-n2.htm

水を使わないから、水素爆発も水蒸気爆発もないというのは本当であろう。また、炉心冷却装置が停止しても支障がないともされている。しかし、それだから、安全というわけにもいかない。減速材に使われている黒鉛は「炭素」であり、高温で酸素や水に接触すると燃えるのだ。一般財団法人 高度情報科学技術研究機構(RIST)が運営しているインターネットの原子力百科事典『ATOMICA』では、最終的に対応できるとするものの、黒鉛が燃焼する可能性を指摘している。チェルノブイリ原発は、黒鉛減速沸騰軽水圧力管型原子炉というもので、冷却材に軽水を使っており、その点では違うのだが、減速材に黒鉛を使うという点は同じである。チェルノブイリ事故では、この黒鉛が燃えたのである。

通常運転時および事故時の黒鉛構造物の酸化損傷 (06-01-04-03)
<概要>
 高温ガス炉は減速材として黒鉛材料を使用しているので、黒鉛が燃焼したり、燃焼で生じた水素または一酸化炭素の爆発等により、黒鉛が酸化損傷する可能性を含んでいる。この酸化損傷は、通常運転時では冷却材中に含まれる反応性ガスによって、また万一炉心内に水または空気が侵入する事故時では水蒸気と空気によって引き起こされる可能性がある。通常運転時では、冷却材中に含まれる反応性ガスの量はわずかであるので酸化損傷が問題になることはない。事故時においては、空気侵入事故が酸化損傷の観点から最も厳しいので、高温ガス炉においては想定される最も厳しい空気侵入事故条件下でも原子炉の安全性が損なわれないように設計されている。
<更新年月>
2006年01月   
<本文>
 高温ガス炉では高温のガスを得るため、耐熱性と耐腐食性に優れた黒鉛材料が炉内に使用されている。したがって、原子炉の通常運転時においても、万一炉心内に水または空気が侵入する事故時においても、水蒸気、酸素等のガスと高温の黒鉛との間に酸化反応が生じる可能性がある。黒鉛の酸化現象が生じれば、炉心(燃料)を保護している黒鉛構造物が腐食されてもろくなり、最悪の場合には、チェルノブイル炉事故時にみられたように、炉心崩壊に至る可能性を秘めている。さらに、この黒鉛の酸化反応で生じた水素及び一酸化炭素がある量を超えて存在する場合には、燃焼あるいは爆発する恐れがある。このようなことを防ぐため、高温ガス炉においては、この酸化損傷対策を十分考慮し、炉心崩壊に至る事なく、かつ爆発が生じないように設計している。
 一般に、黒鉛と酸素との反応は500 ℃ 程度から、水蒸気との反応は 700 ℃以上から有意になることが知られている。通常運転時では、一次系ヘリウム純化系が計画的に一次系冷却材中の不純物を除去しているので、一次冷却材中に存在する反応性ガスは微量である。したがって、黒鉛構造物の温度がこれらの温度以上であっても、黒鉛酸化損傷が有意になることはない。
 また、事故時においても、黒鉛酸化反応が有意になる温度以下に冷却されれば黒鉛構造物の酸化損傷の問題はなくなるので、事故初期時の高温状態からこれらの温度に冷却されるまでに反応した酸化量が問題となる。黒鉛と水蒸気の反応は吸熱反応であり、一方空気(酸素)との反応は発熱反応であるので、厳しいのは空気侵入事故である。この空気侵入事故では、一次系の圧力バンダリーが技術的には壊れそうもないが万一壊れた場合を想定して原子炉安全性を評価している。なお、大口径配管(ダクト)は、原子炉圧力容器並みの信頼性があるとして、燃料取り出し管などの小口径配管ギロチン破断のみ想定する設計例もある。
 さらに、この高温ガス炉では市販されている電池の電極用黒鉛に比べ高純度で耐食性に優れた黒鉛を使用している。この原子炉級黒鉛は炭とは別の材料であって、燃えにくいものである。なお、炭は以下に示すような理由により黒鉛に比べて燃えやすい。
(1) 炭は黒鉛に比べポーラス(炭のかさ密度は黒鉛の約半分程度)であるので、より多くの酸素が炭素と反応する。
(2) 黒鉛の結晶構造は規則的である。一方、炭の結晶は黒鉛に比べて乱れているため、酸素と反応しやすい。
(3) 炭には多くの不純物が存在するので、酸素と炭素との反応が促進される(不純物は触媒作用するとともに、炭に含まれる有機物等(H2 、CH4 等)がそれ自体で反応する)。
 上記(1)~(3)に示したように、黒鉛との反応に比べ、炭との反応は激しくまた発熱量も多い。また練炭のように下側から空気を吸い込み上側から吐き出すという煙突効果等が加わり十分酸素が供給され続ければ、燃焼範囲に入り燃え続ける。大口径配管ギロチン破断を想定している高温工学試験研究炉(HTTR)では、酸素の量も格納容器内で制限されており、また侵入してくるガスの流れも緩やかであるなどの理由により、黒鉛が燃え続けることはない。
 図1に、HTTRの減圧事故時において発生した一酸化炭素濃度と燃焼範囲との関係を示す。黒鉛の酸化反応で発生したこの可燃性ガスが、仮に黒鉛が格納容器内のすべての酸素と反応して一酸化炭素になったとしても、爆発の可能性のある可燃性ガス濃度にならない。したがって、旧ソ連で起きた大規模チェルノブイル炉(高温ガス炉とその炉の構造が異なっているが、減速材として黒鉛を使用している。)事故のような惨事に至ることはない。
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_Key=06-01-04-03

そして、核燃料廃棄物の問題は軽水炉と同様に残っている。使用済み核燃料を再処理したところで、核燃料廃棄物自体がなくなるわけではない。事故が起こりにくいとしても、運転時などの労働者の被曝問題も解決されないだろう。

さらに、冷却材に使うヘリウム自体が供給不足ということもある。2014年3月22日、日本経済新聞は次のような記事を配信した。

ヘリウムが世界的な供給不足に陥っている。超電導磁石や半導体製造などに使われるヘリウムは天然ガスから採取される貴重な資源。しかし、最大の供給元の米国でシェールガスの採掘が増加、製造プラントの老朽化と相まって供給悪化が近年続いている。アジアなどの新興国需要も追い打ちをかけ、このままでは枯渇するともいわれている。
(後略)
http://www.nikkei.com/article/DGXZZO68601000Q4A320C1000000/

「次世代型原子炉」研究開発再開について、東京新聞は、9月19日のネット配信記事で、次のように批判している。

 

(前略)原子力への国民の不安が払拭(ふっしょく)されないまま実用化のめどが立たない研究に多額の税金を費やすのは一兆円以上をつぎ込んで頓挫している高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)の二の舞いになりかねない。
(中略)
安倍政権は四月に閣議決定したエネルギー基本計画に、高温ガス炉の研究開発推進をもぐり込ませた。原子力機構はもんじゅの運営主体であり、自民党の河野太郎衆院議員は「もんじゅがだめだから高温ガス炉を突然入れてきた。予算確保が見え見えだ」と批判していた。
 九州大の吉岡斉(ひとし)教授(原子力政策)は「今やる理由が分からない。原子力機構は他に動かせそうなものがないから、研究機関としての稼働度を上げるために高温ガス炉に目を付けたのでは」と指摘した。
 政府は三〇年に高温ガス炉の実用化を目指しているが、成功しても「核のごみ」は発生する。最終処分場が見つかる見通しはなく、行き場のない核のごみは増え続ける。安倍政権は一二年の衆院選公約に脱原発依存を掲げ、原発依存度を下げると繰り返し表明しているが、逆行する動きとなる(後略)。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2014091902000154.html

 ここで、河野太郎や吉岡斉は挫折している「もんじゅ」などの代替として「高温ガス炉」開発が浮上してきたと指摘している。大体、日本の核技術というものは、軽水炉のようなアメリカが開発した技術をもとにしたものは「実用化」できたが、「もんじゅ」のような「自主開発」したものは、ことごとく挫折して終っている。たぶん、同じことが繰り返されるのだろう。福島第一原発事故を克服するということこそ、今一番求められていると思うのだが。

「次世代型原子炉」を開発するということ自体が「旧世代」の発想なのだろう。「安全性」「核廃棄物」「被曝」と、原子力には克服困難な問題が山積しており、よしんば解決可能だとしても、そのためのコストは厖大である。ゆえに、原子力からの脱却こそが、「新しい道」なのだ。しかるに、「次世代型原子炉」を開発するという名目で、福島第一原発事故を抑止はおろか事後管理すらもできない「旧き」原子力開発体制に、いまだに資金・人員を大量に動員することが目論まれている。「次世代」をつくるという「進歩」を名目とした「保守」がそこにはあるのだ。

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昨日(2014年4月3日)、たまたま読売新聞朝刊を見ていると、次の記事が目に飛び込んできた。

次世代原子炉の開発推進…エネ基本計画明記へ
2014年04月03日 04時12分

 政府が中長期的なエネルギー政策の指針となる新たな「エネルギー基本計画」に、次世代型原子炉の有力候補の一つである高温ガス炉の研究開発推進を明記することがわかった。

 高温ガス炉は燃料を耐熱性に優れたセラミックスで覆っているため、炉心溶融を起こしにくいのが特徴だ。国内での原発新増設の見通しは立っていないが、東京電力福島第一原発事故の教訓を踏まえ、安全性の高い技術開発に取り組む姿勢を示す。

 2月に公表した計画案では、原子炉の安全性強化について、「過酷事故対策を含めた軽水炉の安全性向上に資する技術」の開発を進めると明記した。政府・与党内の調整を踏まえ、「固有の安全性を有する高温ガス炉など、安全性の高度化に貢献する原子力技術の研究開発を国際協力の下で推進」との文言を追加することが固まった。国内で主流の軽水炉より安全度の高い原子炉の技術の発展を目指す考えを示したものだ。
http://www.yomiuri.co.jp/science/20140403-OYT1T50005.html

この「エネルギー基本計画」は、原子力発電を「重要なベースロード電源」として位置付け、原発再稼働を押し進めるとともに、核燃料サイクルも維持し、欠陥続きのもんじゅも研究炉として残すというもので、この日の自民・公明の作業チームで基本合意され、両党の党内手続きをへて、近く閣議決定されるとされている。このエネルギー基本計画自体、過半数が原発再稼働に反対している世論動向に反したものである。

この報道によると、エネルギー基本計画に、わざわざ、「次世代型原子炉」としての「高温ガス炉」の技術開発を盛り込むというのである。

まあ、反省がないこととあきれてしまう。琉球新報が4月4日に配信した記事によると、このエネルギー基本計画の案文の「はじめに」書かれていた「「政府および原子力事業者は、いわゆる『安全神話』に陥り」や、過酷事故に対する「深い反省を一時たりとも放念してはならない」」という文言を削除し、自公の作業チームでも一部議員が問題にしたという。反省すら「反省」されて、なくなってしまっているのだ。

一方、「新たな科学技術」の導入を提唱するということは、いかにも安倍政権らしいことだと思っている。福島原発事故をみる通り、現状の原子炉ー軽水炉技術は大きな危険をはらんでおり、そのことが人びとの不安の原因になっている。この不安は、原発の再稼働や新増設ができない理由になっている。この不安に対し、安倍政権は、「未来志向」で「新たな科学技術」への夢を煽ることによって、解消しようとしているのである。

さて、安倍政権は現状の体制の維持を主旨とする保守党の自由民主党を基盤とした政権である。しかし、原発政策については、現状の国土や住民に対するリスクを回避することを第一にしてはいないのだ。むしろ、危険性の有無もはっきりしない新たな科学技術に期待し、それを「未来志向」というのである。保守主義者たちが強調する「未来」とは、こういうものなのであろう。「未来への夢」にはコストがかからない。まるでSFのような非現実的とも思われる「未来への夢」を引き換えに、現状のリスクを承服すべきとしているのである。ここには、たぶんに、石油ショック以前の高度経済成長期への懐古意識があるのだろう。新しい科学技術による産業開発を無条件に崇拝し、公害や環境破壊を考慮することなく、資源やエネルギーを浪費することによって、「鉄腕アトム」の世界のような時代を築きあげることを夢見た時代に回帰したいという志向がそこにはあるといえる。そのような「懐古意識」が、彼らにとっての「未来志向」なのである。

このようなことは、現状の体制自体をかえるべきだとしている日本共産党や社会民主党などが、かえって、現状の国土や住民を保全することを第一義として、反原発を主張していることと大きな対照をなしている。歴史的前提としては、高度経済成長期において、日本共産党や日本社会党など「革新政党」が、公害や環境破壊をまねいた当時の開発政策を批判し、革新自治体を誕生させて、公害対策や環境保護を当時の政府よりも先行して実施したということがある。前回のブログで紹介した、東京都練馬区のカタクリ群生地の環境保護も、革新都政の産物なのだ。ここには、「革新」側が、むしろ、現状を保全する側に立つという逆説が現出しているといえよう。

そして、高温ガス炉などの新世代の原子炉が、現状の日本の科学技術で作ることができるか、ということにも大きな疑問符がつく。アメリカからの技術移転を契機に作られた軽水炉は、とにもかくにも、商業ベースになる程度には日本の科学技術でも運転できてきた。他方、日本が独自に技術開発した核技術は、高速増殖炉もんじゅにせよ、核燃料再処理工場にせよ、ALPS(多核種除去設備)にせよ、どれもが安定的に運転されているとはいいがたい。これは、軍事技術として成立してきた核技術の本来のあり方が反映していると思われる。アメリカにせよ、イギリスにせよ、ロシアにせよ、フランスにせよ、核技術は、核兵器その他の軍事技術であった。その際、資金・物資・人員などのコストについては、商業上では考えられないほどかけられたと思われる。軽水炉(元々は原子力潜水艦の動力源だった)などは、軍事技術を転用して作られたものである。その技術をコピーして商業ベースにのせて運用することは、日本の科学技術でもできた。しかし、独自の技術開発については、他国の軍事技術ほどのコストはかけられない。それゆえ、日本独自の核技術開発は質的に劣っているのではないかと考えられる。

さらに、理化学研究所のSTAP細胞問題が象徴的に示しているように、政府・企業の考える「成果」をあげることを求めて過度に競争を強いている日本の科学技術政策によって、日本全体の科学技術のレベル自体が後退しているように思われる。この中で、どうして、新たな科学技術開発が可能なのだろうか。

このように、日本で次世代原子炉の開発をするということは、なんというか、すべてが「非現実的」に思えるのである。現実的とされる保守主義者たちが、現実を見ないでSF的な未来への夢を語り、現状を変えると主張する(保守主義者たちからいえば「空想的」な)共産党や社会民主党などが、「現実」のリスクを前提に反原発を提唱するという、一種のジレンマが、ここに現れているように思われる。

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ここで考えておきたいことは、「原子力の平和利用」の「平和」ということである。原発などの原子力の産業的利用において、特に日本では、常に「平和利用」ということが強調される。1951年に制定された原子力基本法には「平和の目的に限り」と原子力研究・開発が限定されている。

しかし、そもそも、原子力の利用・開発は、核兵器開発の「軍事利用」として、本格的に開始されたといえる。特にそのことを示しているのが、原爆製造のためにアメリカが第二次世界大戦中に実施したマンハッタン計画である。このマンハッタン計画については、平田光司「マンハッタン計画の現在」(歴史学研究会編『震災・核災害の時代と歴史学』、青木書店、2012年)が要領よく整理しているので、これに依拠してみていこう。

ウラン (U235)の核分裂反応が発見されたのは1938年であった。この発見は、ドイツのベルリンにおいて、O・ハーンとF・シュトラスマンによって行われたが、そのことは1939年にはアメリカに伝わった。アメリカでは、カリフォルニアの E・ローレンスのもとで最新鋭の粒子加速器サイクロトロンがつくられており、すぐにウランの核反応の詳細が調べられた。1940年には、サイクロトロンを使った連鎖核分裂反応をおこすプルトニウム(Pu239)の生成にバークレーのG・シーボーグ等により成功した。しかし、プルトニウムの発見・合成はすでに兵器開発の一環とされ、公表されることはなかった。

そして、1941年には、元マサチューセッツ工科大学副学長V・ブッシュが科学研究開発部長になり、原爆の本格的開発をめざしたマンハッタン計画の実施が決定された。この時期想定された原爆製造方法としては、ウラン(U235)とプルトニウム(Pu239)の二つを用いる方法が考えられた。周知のように、天然ウランにおいては、核分裂反応を起こす U235は0.7%しかなく、ほとんどはU238である。原爆としてU235を使うためには、純度を90%以上にする必要があった。これがウラン濃縮である。大量にウラン濃縮をすることは難しく、ガス拡散法やサイクロトロン用に開発された巨大磁石を使う(電磁分離法)などの大規模施設が必要であった。このウラン濃縮施設はテネシー州オークリッジに建設された。
 
他方、プルトニウムの場合は、E・フェルミやL・シラードによって考案された原子炉を使うことが構想された。原子炉(黒鉛炉)の中で天然ウランを「燃焼」させ、天然ウラン中のU235を核分裂させて中性子を発生させ、中性子がU238にあたってPu239に転換になる反応を利用してプルトニウムを生産させるという方策がとられた。シカゴ大学に世界最初の原子炉CP−1(シカゴパイル)がつくられ、1941年12月には連鎖反応が確認された。そして、安全性を配慮して、人口の少ないワシントン州ハンズフォードにプルトニウム生産炉は建設された。このように、原子炉とは、まず原爆製造のためのプルトニウム生産の装置であったのである。
 
このようにして生産されたウランとプルトニウムを原爆に製造する施設として、1943年、ニューメキシコ州にロスアラモス研究所が作られ、所長に理論物理学者のオッペンハイマーが就任した。1945年7月16日、ロスアラモス南方のアラゴモードでプルトニウム原爆の核実験(トリニティ実験)が行われた。そして、周知のように、8月6日には広島にウラン原爆が、8月9日には長崎にプルトニウム原爆が投下されたのである。

第二次世界大戦後、原子力エネルギーの管理は、軍部ではなく、文民の原子力委員会( AEC)に移された。AECは、(1)核兵器の開発、(2)核エネルギーの利用(原子力)、(3)核(素粒子)物理学を管轄した。つまり、アメリカにおいては、第二次世界大戦後も、核兵器の開発と、核エネルギーの利用、核物理学研究は一体のものであった。

そして、いわゆる核エネルギー(原子力)の利用自体も、兵器生産と結びついて開始されたのである。前述したように、そもそも原子炉は原爆材料としてのプルトニウムを生産するために設置されたが、原子炉のエネルギーを動力源とすることをはじめて行ったのは原子力潜水艦であった。原子力潜水艦に搭載するために、水を減速材および冷却材として使い、濃縮ウランを燃料とする軽水炉が開発された。1954年には初の原子力潜水艦ノーチラス号が完成した。原子力潜水艦開発にはウェスティングハウス社とゼネラル・エレクトリック社が協力したが、原子力潜水艦用の軽水炉は民需用原子炉のモデルとなり、両社は、二大原発メーカーとして成長していくのである。

他方で、プルトニウム生産炉としての原子炉は、高速増殖炉計画へとつながっていく。高速増殖炉においては、U235の核分裂反応によるエネルギーによって発電するとともに、放出される中性子により、U238がPu239に転換し、核燃料がより増加していくことになる。プルトニウム生産炉としての原子炉のそもそもの性格を発展させたものといえる。しかし、ここで生産されるプルトニウムは、単に原発の燃料となるだけでなく、原爆・水爆などの核兵器の材料ともなるのである。
 
平田は、次のように指摘している。

原子炉は、もともと原爆製造のために作られたものであり、軽水炉も原子力潜水艦の動力源として開発された。原子力の平和利用は、兵器の製造過程を多少変えて、一般にも役立つようにしたものである。このため、原子力で発電する装置は即軍事に転用できる。…原子力は核兵器と同じ体系のものである。原子力が広まれば、核武装の可能性も同じように広まる。(平田前掲書91頁)

まず、原子力の本格的利用を開始したアメリカにおいて、原子力を原発などの民需に使う「平和利用」とは、核戦争のための軍事利用と一体のものとして位置づけられて開始されていたことに注目しておかねばならない。

その上で、平田は、このように述べている。

アメリカ、フランスなど原子力を進めようとしている国は核武装しており、国防という経済性を無視した聖域のなかで核兵器および原子力の開発を一体として進めてきた。原子力におけるマンパワーも豊富である。軍が基本的な開発をおこなって、ある程度のノウハウが確立してから民間を参入させている。リスクが莫大で事実上計算不能であり、投資が回収できる保証のない原子力の技術とは、国家が国防のために開発するしかないものではなかろうか。この観点からすると、導入の経緯が問題なのではなく日本の原子力は最初から平和利用のみであったため、輸入技術に依存したひよわな産業構造しか持てなかったのかもしれない。(平田前掲書98頁)

高速増殖炉や核燃料再処理などのプルトニウム生産にこだわる日本の原子力政策が「平和利用」目的だけかは疑問の余地があるが、その主流が軽水炉をつかった原発開発という「原子力の平和利用」であることは相違ないといえる。そもそも、核兵器開発と一体として開始された「原子力の平和利用」であり、名目としては「平和利用」に限定せざるをえない日本の「原子力研究・開発」は、そもそも矛盾をかかえていたといえるのである。

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