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さて、2013年5月25日付朝日新聞朝刊に次のような記事が掲載された。

帰還基準厳格化見送る 民主政権時 原発避難増を懸念

【関根慎一】福島第一原発の事故で避難した住民が自宅に戻ることができる放射線量「年20ミリシーベルト以下」の帰還基準について、政府が住民の安全をより重視して「年5ミリシーベルト以下」に強化する案を検討したものの、避難者が増えることを懸念して見送っていたことが、朝日新聞が入手した閣僚会合の議事概要や出席者の証言で明らかになった。

 民主党政権が2011年12月、三つの避難区域に再編する方針を決め、安倍政権も継承。再編は今月中に川俣町を除く10市町村で完了し、20ミリ以下の地域で帰還準備が本格化する。避難対象や賠償額を左右する基準が安全面だけでなく避難者数にも配慮して作られていた形で、議論が再燃する可能性がある。
http://www.asahi.com/national/update/0525/TKY201305250024.html

このブログでも何回か述べてきたように、現在、福島第一原発事故による避難区域について、放射線量年間20mSv以下の地域は避難指示解除準備区域とされ、その地域は住民の帰宅を準備することとなっている。しかし、本来、公衆の年間被曝限度線量は1mSvであり、除染の基準もそうなっている。あまりにも高すぎる帰還基準のため、現在でも大きな問題となっている。

この報道によると、2011年11月時点で帰還基準が決められる際、現行の年間20mSvではなく、年間5mSvにすることが検討されたというのである。

この経過について、前述の朝日新聞は次のように報じている。

 

5ミリ案が提起されたのは11年10月17日、民主党政権の細野豪志原発相、枝野幸男経済産業相、平野達雄復興相らが区域再編を協議した非公式会合。議事概要によると当初の避難基準20ミリと除染目標1ミリの開きが大きいことが議論となり、細野氏が5ミリ案を主張した。
 チェルノブイリ事故では5年後に5ミリの基準で住民を移住させた。年換算で5.2ミリ超の地域は放射線管理区域に指定され、原発労働者が同量の被爆で白血病の労災認定をされたこともある。関係閣僚は「5ミリシーベルト辺りで何らかの基準を設定して区別して取り組めないか検討にチャレンジする」方針で一致した。
 ところが、藤村修官房長官や川端達夫総務相らが加わった10月28日の会合で「20ミリシーベルト以外の線引きは、避難区域の設定や自主避難の扱いに影響を及ぼす」と慎重論が相次いだ。5ミリ案では福島市や郡山市などの一部が含まれ、避難者が増えることへの懸念が政府内に拡がっていたことを示すものだ。
 11月4日の会合で「1ミリシーベルトと20ミリシーベルトの間に明確な線を引くことは困難」として20ミリ案を内定。出席者は「20ミリ案は甘く、1ミリ案は県民が全面撤退になるため、5ミリ案を検討したが、避難者が増えるとの議論があり、固まらなかった」と証言し、別の出席者は「賠償額の増加も見送りの背景にある」と語った。

つまり、チェルノブイリ事故の移住基準や労災認定などを考慮して5mSvを基準にすることが検討されたが、避難者が増え、さらに賠償額が増加することを懸念して、20mSvを基準にすることになったというのである。

まず、2011年4月時点にさかのぼってみよう。この時、福島第一原発から20km圏内はすべて警戒区域とされ、20km圏外でも飯館村のように放射線量が年間20mSv以上の地域は計画的避難区域とされ、ともに地域住民は避難を余儀なくされたのである。

年間20mSvという現在の帰還基準は、2011年4月時点の緊急時にやむをえず高い放射線量でも許容すべきとした基準がその後も全くかわっていないということを意味する。もちろん、南相馬市小高区や楢葉町のようにそもそも放射線量が比較的高くない地域もあり、自然もしくは除染によって年間20mSv以下になった地域もあるので、放射線量年間20mSvを基準とすれば、警戒区域と計画的避難区域よりも避難区域が縮小することになる。しかし、そのことにより、1〜20mSvという高い放射線量を許容して生活することになる。

他方、5mSvという基準を選んだ場合、どうなるのか。避難区域は、あの当時の警戒区域と計画的避難区域より拡大することになる。次の朝日新聞に掲載された図をみてほしい。

原発避難区域と5ミリシーベルト地帯(当時)

原発避難区域と5ミリシーベルト地帯(当時)

朝日新聞の報道によると、福島県総面積の13%にあたる1778㎢となるとされている。そして、この図では、福島県の政治経済の中心である福島県中通りの伊達市、福島市、川俣町、二本松市、本宮市、郡山市、須賀川市などが、新たに避難区域に包含されることになるのである。

そして、結局のところ、「会合に出席した閣僚の一人は『5ミリ案では人口が減り県がやっていけなくなることに加え、避難者が増えて賠償額が膨らむことへの懸念があったと証言した」(朝日新聞)とあるように、避難者が増え、それにより賠償額をかさむことをおそれて、年間20mSvという基準になったのである。

この朝日新聞の報道によると、

 

民主党政権は報告書(帰還基準を検討した有識者会議報告書)を根拠に20ミリ案については「他の発がん要因によるリスクと比較して十分に低い」と安全性を強調する一方、避難者数に配慮したことは説明してこなかった。安倍政権もこの立場を基本的に踏襲しており、改めて説明を迫られそうだ。

としている。結局、帰還基準の安全性のみが主張され、それが、避難者や賠償額の増加というコストから決まったことは隠蔽されたといえよう。

そして、これは、現在の福島県がかかえている問題でもある。福島県は除染が進まず、そのため住民の帰還が遅れていることから除染基準年間1mSvを見直す考えを示し、自民党や安倍政権もその方向で検討している模様である。他方、避難者においては、年間1mSv以下でないと戻らないという人が多く存在しているのである。朝日新聞報道の末尾では、このように指摘されている。

 

安倍政権は今年3月、20ミリ以下の地域で住民がとるべき被爆対策を年内に公表する方針を決めた。除染で1ミリ以下に達しなくても帰還を促すための環境整備とみられているが、安全よりも帰還を優先している印象が強まれば避難住民らの反発を招く可能性がある。

あまり、多言は要しないだろう。年間5mSvという基準でも高いとはいえるが、20mSvという基準よりはましである。それを、避難者や賠償額の増加というコストを理由として拒否されたのだ、そして、さらに、除染基準すら緩和されようとしている。結局、福島県の人びとは、3.11直後という緊急時に定められた20mSvを、今も、これからも受忍して「帰還」することが強いられているのである。

 

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