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本ブログでは、雁屋哲作・花咲アキラ画「美味しんぼ」において鼻血など福島の人びとの健康状況をとりあげたことに対して閣僚や福島県知事などが批判したことについて、もともと、鼻血の有無も含めて、避難区域など除外した福島県民全体に対して十分健康診査をしていないことを述べた。

さて、5月19日に、福島の人びとの健康状況をとりあげた「美味しんぼ」の「福島の真実」編のクライマックスである第604話(『週刊ビックコミックスピリッツ』2014年6月2日号所載)の販売が開始された。そのことを伝える NHKのネット配信記事をまずみてほしい。

健康影響描写が議論「美味しんぼ」最新号
5月19日 16時36分

東京電力福島第一原子力発電所の事故による健康影響の描写が議論を呼んだ漫画「美味しんぼ」を連載する雑誌の最新号が19日に発売され、地元福島県では「不安に追い打ちをかけられた」と批判的な意見がある一方で、「原発事故の問題が風化してきているなかで発信することは大事だ」と理解を示す声も聞かれました。

「美味しんぼ」は、小学館の雑誌「週刊ビッグコミックスピリッツ」に連載されている人気漫画です。
先月28日の連載で、主人公が福島第一原子力発電所を取材したあとで鼻血を出し、実名で登場する福島県双葉町の前町長が「福島では同じ症状の人が大勢いますよ」と語る場面などが描かれ、福島県や双葉町が「風評被害を助長する」などと批判していました。
最新号では、自治体からの批判や、有識者13人の賛否両論を載せた特集記事が組まれ、最後に「編集部の見解」が掲載されています。
この中で編集部は、一連の表現について「残留放射性物質や低線量被ばくの影響について、改めて問題提起したいという思いもあった」と説明したうえで、「さまざまなご意見が、私たちの未来を見定めるための穏当な議論へつながる一助となることをせつに願います」と締めくくっています。
これについて、福島県ではさまざまな意見が聞かれました。
このうち、福島県中島村の64歳の女性は「放射線量が下がってきて、食品もいろんな検査を通して落ち着いて生活できるようになってきたのに、3年目にして不安に追い打ちをかけられた気持ちです」と話していました。
本宮市に住む30歳の女性は「全体的に原発事故の問題が風化してきているので、このように発信することは大事だと思う。福島がこれから立ち上がっていこうとしているところをほかの人にも知ってほしいし、この問題を取り上げるのは勇気のいることではないか」と理解を示していました。

前双葉町長「住民と議論尽くすべき」
漫画「美味しんぼ」に実名で登場した福島県双葉町の前の町長の井戸川克隆氏は19日、NHKの取材に応じました。
このなかで井戸川前町長は、血が付いた紙を見せながら、みずからもいま毎日のように鼻血がでるとしたうえで、「鼻血が出ることについて、風評ということばで片付けられようとしているが、福島でどのように皆が苦しんでいるか、鼻血がどれくらい出ているか、実態を調べていない人が『ない』と言っている感じがする」と話しました。
そのうえで、「『安全だ』と言う人と『危険だ』と言う人の両方の意見を聞くべきだが、そうしたプロセスが取られずに、安全だとか、安心だという宣伝ばかりが先行しており、危険だという人の意見を小さくしている。避難にあたっての放射線の基準などについて、政府は一方的に考えを押しつけるのではなく、さまざまな考えを持つ住民と議論を尽くすべきだ」と述べました。

被ばく検査の医師「国民全体が放射線の知識を」
東京電力福島第一原子力発電所の事故による健康影響の描写が議論を呼んだ漫画「美味しんぼ」について、福島県南相馬市を拠点に住民の被ばく検査を行っている東京大学医科学研究所の坪倉正治医師は、放射線の影響を正しく判断できるよう、国民全体が放射線の知識を身につけることが重要だと訴えました。
坪倉医師は被ばくと鼻血の関連性について、「現在のさまざまな放射線量の測定では、被ばくが鼻血を引き起こすような高いレベルではない。被ばくによる鼻血は血小板の減少で出血するので、鼻血が少し出るという程度ではすまない」と指摘しました。
また、福島には住めないという表現について、「汚染が起きたことは確かだが、3年以上計測してきた住民の被ばく線量では、現在、人が住んでいる地域は安全性が担保される被ばく量に収まることが分かっている」と述べました。
そのうえで、「今回の件で福島の子どもたちが将来、差別を受けるきっかけを作ってしまったことは残念だ。差別や臆測に対して行われている放射線の検査や被ばく線量などを、福島の住民1人1人が自分のことばで説明できるようになってほしい。福島県外の人たちも福島の現状を正しく理解し、放射線を安全か危険かという二元論ではなく、どういうものかを小中学校できちんと議論して理解する機会を増やすべきだ」と訴えました。

「正しい情報提供を積極的に」
メディア論に詳しい学習院大学の遠藤薫教授は「放射能を不安に思っている人に対して『根拠がない。風評だ』とだけ言っても、実はもっと怖いことが隠されていると思ってしまい、事態が悪化する。不安に対していろいろな形で答えていくのが重要で、これまでの研究でも正しい情報を積極的に提供していくことで、根拠のないデマに惑わされなくなるというのがセオリーだ。委縮して声を出しにくい状況をつくるのではなく、いろいろな情報を出して議論する場をつくっていかなければいけない」と話しています。

被ばく医療専門家「血管だけ障害考えられない」
被ばく医療が専門の放射線医学総合研究所の明石真言理事は「全身に被ばくして骨髄に障害が起きて血小板が減り鼻血が出ることはありえるが、今回の事故では住民に骨髄に障害が起きるような被ばく線量になっていない。鼻の周辺に強い放射線が当たるような場合でも周辺の粘膜や皮膚組織にも障害が出るはずで、血管だけが障害を受けるということは考えられない。鼻血の症状を訴える頻度が増えているとしたら放射線以外のことを考えるべきで、さまざまな原因があり人によって違うと思う」と話しています。
そのうえで今回の問題については「人々の間に放射線への不安が完全には消えていないことと、専門家の話を心の底から信頼できていないことが大きいと思う。『また福島でこんなことが起きているの』と福島県外の人に思わせてしまったことは大きなマイナスで、こういうときにどうすべきかみんなで考えていくべきだと思う」と話しています。

「国は疑問解決のための調査を」
「美味しんぼ」の問題について、科学技術と社会の関係を研究している大阪大学コミュニケーションデザイン・センターの平川秀幸教授は、「放射能の影響を一面的に描くことで誤った情報が広まるおそれがあり、当然配慮が必要だったと言える。しかしこの一方で、多くの人が被ばくについて心配するなか、住民の不安な思いなどがかき消され、伝えられなくなるのは大きな問題だ」と指摘しています。
そのうえで、「国などは住民が放射能の影響について何を問題とし不安に思っているかきちんと向き合い、疑問を解決するための調査などを進めていく姿勢が求められる」と話しています。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20140519/k10014553891000.html

この記事は「美味しんぼ」における福島の人びとの健康状況の描写の是非について述べているが、「美味しんぼ」漫画全体では、何をメッセージとして訴えているのかについては全くふれていない。この「描写」についても、「メッセージ」と表裏一体の関係にあるはずだが、それは全く考慮されていないのである。

私自身は、19日に、この「美味しんぼ」が掲載されている『週刊ビックコミックスピリッツ』2014年6月2日号を入手した。漫画自体をコピペしたり、あらすじを詳細に述べてネタバレすることはさけつつ、『美味しんぼ』が発したメッセージをここで紹介しておこう。

一応、簡単に設定を紹介しておくと、この「美味しんぼ」第604話は、料理批評のライバルであり親子でもある山岡士郎と海原雄山が、取材チームをひきつれて、福島県内外において、福島第一原発事故による福島の人びとへの影響を2013年4月に取材するというものである。この取材過程で、主に山岡と海原がメッセージを述べているのである。

まず、この漫画の前のほうで、前号などにとりあげた井戸川克隆前双葉町長と荒木田岳福島大学准教授について触れながら、海原と山岡は、次のような対話をしている。

海原雄山:井戸川前双葉町長と福島大学の荒木田先生は、福島には住めないとおっしゃる…。
だが、放射能に対する認識、郷土愛、経済的な問題など、千差万別の事情で福島を離れられない人も大勢いる。
今の福島に住み続けて良いのか、われわれは外部の人間だが、自分たちの意見を言わねばなるまい。
山岡士郎:自分たちの意見を言わないことには、東電と国の無責任な対応で苦しんでいる福島の人たちに嘘をつくことになる。
海原:偽善は言えない。
山岡:真実を語るしかない。

ここで、「美味しんぼ」のメッセージのテーマが明確に提起されている。それは、福島に住みつづけることの是非について、外部の人間から「自分の意見」を言うことなのだ。これを言わないことについて、山岡と海原は「福島の人たちに嘘をつくこと」であり、「偽善」というのである。そして、山岡は「真実を語るしかない」という。

そして、この漫画の後のほうで、このテーマに対する答えが述べられている。まず、山岡は「原発事故は日本という国がいかに大事なものか思い知らせてくれた。福島を守ることは日本を守ることだ」といっている。その部分を紹介しておこう。

山岡:僕の根っこが福島だという父さんの言葉についてだけど、原発の事故がこのまま収まらず、拡大したら福島県は駄目になる。
それは福島にとどまらず日本全体を破壊する。
福島の未来は日本の未来だ。これからの日本を考えるのに、まず福島が前提になる。
海原:なるほど。だから福島は日本の一部ではなく、日本が福島の一部と前に言ったのだな。
山岡:世界のどこにいようと僕の根っこは日本だ。
原発事故は日本という国がいかに大事なものか思い知らせてくれた。
福島を守ることは日本を守ることだ。であれば、僕の根っこは福島だ。
海原:うむ。私の問いに対する答えとして、それでよかろう。

私自身の個人的な感覚では「福島を守ることは日本を守ることだ」というフレーズに違和感を感じなくもない。福島第一原発事故は、単に「日本」だけの問題ではなく、「世界」全体の問題になっていると考えているからである。ただ、いずれにせよ、福島を守るということは、福島以外を守るということでもあるということは確かなことだ。その意味で、福島の外部にいる者も「福島」の運命に結び付けられているのである。それを「美味しんぼ」はこの部分で確認している。

その上で、「美味しんぼ」では、福島県に住みつづけることの是非について、このように結論づける。

山岡:父さんは、福島の問題で、偽善は言えないと言ったね。
海原:福島に住んでいる人たちの心を傷つけるから、住むことの危険性については、言葉を控えることが良識とされている。
だが、それは偽善だろう。
医者は低線量の放射能の影響に対する知見はないと言うが、知見がないと、とはわからないということだ。
私は一人の人間として、福島の人たちに、危ないところから逃げる勇気をもってほしいと言いたいのだ。
特に子供たちの行く末を考えてほしい。
福島の復興は土地の復興ではなく、人間の復興だと思うからだ。
山岡ゆう子:人間の復興…それが一番大事だわ。
飛沢周一(別人かもしれない):では、われわれにできることは。
山岡:福島を出たいという人たちに対して、全力を挙げて協力することだ。
海原:住居、仕事、医療などすべての面で、個人では不可能なことを補償するように国に働きかけることだ。
岡星良三(別人かもしれない):そう働きかけることはわれわれの義務だ。

「美味しんぼ」は、福島の人たちへは「危ないところから逃げる勇気をもってほしい」とよびかけた。他方、福島の外部にいる「われわれ」に対しては「福島を出たいという人たちに対して、全力を挙げて協力することだ」「住居、仕事、医療などすべての面で、個人では不可能なことを補償するように国に働きかけることだ」と課題を提起し、それを「われわれの義務」とした。

「美味しんぼ」は、「医者は低線量の放射能の影響に対する知見はないと言うが、知見がないと、とはわからないということだ」と指摘している。これは、全く、その通りである。「美味しんぼ」について、非科学的などという批判が浴びせられた。しかし、他方で、だれも「低線量の放射能」が健康に影響しないと言い切ることはできない。そのような調査すらやっていないのである。

その上で指摘された「福島の復興は土地の復興ではなく、人間の復興だ」とする言葉は重い。復興の目的が「人間の復興」であるならば、健康に影響に影響があることが懸念される土地に住みつづけるということは、ありえないことなのである。結局、一般的に言われている「復興」とは「土地の復興」であって「人間の復興」ではないということなのである。別に放射線のことがなくても、国や地方自治体が進めていることは、所詮「土地の復興」であり「人間の復興」ではないのである。

このメッセージは、非常に勇気のあるものだ。個々の漫画叙述についてひっかかる人も、安倍政権の閣僚や福島県知事ではなくてもいるだろう。それでも、「美味しんぼ」のこのメッセージをうけとってほしいと思う。

もちろん、福島県に住み続けなくてならない人びともたくさんいる。その人びとにとって、このメッセージは意にそぐわないこともあるだろう。このメッセージは「理想」論であり、現実には実現できないという人もいるだろう。しかし、こう考えて欲しい。「現実」を多少とも我慢できるものとしていくためにも「理想」は必要なのであると。

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福島第一原発周辺においては、2つの基準が存在している。まず、居住制限区域と避難指示解除準備区域は年間20mSvが境界となっており、線量20mSv以下で、インフラの整備が完了すれば、帰還を認めることになっている。

しかし、除染の基準は年間1mSv以上であり、それ以下をめざして除染を行うことになっている。だが、除染事業の現状は、年間1mSv未満に線量を下げることは困難であることが判明している。

そこで、次のようなことが行われた。しんぶん赤旗が2013年11月13日に配信した次の記事をみてほしい。

帰還後「個人線量が基本」

規制委方針 「空間線量」から変更

 原子力規制委員会は20日の定例会合で、東京電力福島第1原発事故で避難している住民の帰還に向けた防護措置のあり方などについて、「基本的考え方」をほぼ了承しました。これまで専門家による検討会合が4回開かれ、11日に案がまとめられていたもの。

 「考え方」は、帰還後の被ばく線量管理について、個人線量計による測定を基本とすることなどが明記されました。個人線量計などを用いた個人線量は、ヘリコプターなどによる空間線量率から推定される被ばく線量と比べて低くなる傾向が指摘されています。
(後略)
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2013-11-21/2013112115_01_1.html

つまり、今までの空間線量から推定される被ばく線量より低く測定される傾向がある個人線量計に切り替えることにしたのである。朝日新聞が2013年11月21日にネット配信した記事によると、次のように、約半分程度になるということである。

福島県伊達市は21日、全住民を対象に1年間実施した個人線量計(ガラスバッジ)による放射線被曝(ひばく)量の測定結果を発表した。国の推計方式で年1ミリシーベルトの被曝量があるとされた二つの地域で、住民の被曝量の平均が、いずれも0・5ミリ台だったという。
http://www.asahi.com/articles/TKY201311210369.html

しかし、年間線量1mSvという除染基準は、低線量被ばくの影響について確定したことがいえない中、20mSvなどなるべく高い線量を基準にしたいとする当時の政権と、少しでもゼロをめざして低くしたいという民意との間の中で決まった「社会的基準」というべきものである。空間放射線量は変わらないまま、約半分の測定値となる個人線量計の測定値に切り替えるということは、実質的には、今までの倍に基準を緩和するということにほかならない。

しかし、個人線量計に切り替えて測定していても、年間1mSvにならないところが出現していた。そのことについて、毎日新聞が2013年3月25日に次のようにネット記事を配信している。

<福島原発事故>被ばく線量を公表せず 想定外の高い数値で
毎日新聞 3月25日(火)7時0分配信
 ◇内閣府のチーム、福島の3カ所

 東京電力福島第1原発事故に伴う避難指示の解除予定地域で昨年実施された個人線量計による被ばく線量調査について、内閣府原子力被災者生活支援チームが当初予定していた結果の公表を見送っていたことが24日、分かった。関係者によると、当初の想定より高い数値が出たため、住民の帰還を妨げかねないとの意見が強まったという。調査結果は、住民が通常屋外にいる時間を短く見積もることなどで線量を低く推計し直され、近く福島県の関係自治体に示す見込み。調査結果を隠したうえ、操作した疑いがあり、住民帰還を強引に促す手法が批判を集めそうだ。

 毎日新聞は支援チームが昨年11月に作成した公表用資料(現在も未公表)などを入手した。これらによると、新型の個人線量計による測定調査は、支援チームの要請を受けた日本原子力研究開発機構(原子力機構)と放射線医学総合研究所(放医研)が昨年9月、田村市都路(みやこじ)地区▽川内村▽飯舘村の3カ所(いずれも福島県内)で実施した。

 それぞれ数日間にわたって、学校や民家など建物の内外のほか、農地や山林などでアクリル板の箱に個人線量計を設置するなどして線量を測定。データは昨年10月半ば、支援チームに提出された。一般的に被ばく線量は航空機モニタリングで測定する空間線量からの推計値が使われており、支援チームはこれと比較するため、生活パターンを屋外8時間・屋内16時間とするなどの条件を合わせ、農業や林業など職業別に年間被ばく線量を推計した。

 関係者によると、支援チームは当初、福島県内の自治体が住民に配布した従来型の個人線量計の数値が、航空機モニタリングに比べて大幅に低かったことに着目。

 関係省庁の担当者のほか、有識者や福島の地元関係者らが参加する原子力規制委員会の「帰還に向けた安全・安心対策に関する検討チーム」が昨年9~11月に開いた会合で調査結果を公表し、被ばく線量の低さを強調する方針だった。

 しかし、特に大半が1ミリシーベルト台になると想定していた川内村の推計値が2.6~6.6ミリシーベルトと高かったため、関係者間で「インパクトが大きい」「自治体への十分な説明が必要」などの意見が交わされ、検討チームでの公表を見送ったという。

 その後、原子力機構と放医研は支援チームの再要請を受けて、屋外8時間・屋内16時間の条件を変え、NHKの「2010年国民生活時間調査」に基づいて屋外時間を農業や林業なら1日約6時間に短縮するなどして推計をやり直し、被ばく推計値を低く抑えた最終報告書を作成、支援チームに今月提出した。支援チームは近く3市村に示す予定だという。

 支援チームの田村厚雄・担当参事官は、検討チームで公表するための文書を作成したことや、推計をやり直したことを認めた上で、「推計値が高かったから公表しなかったのではなく、生活パターンの条件が実態に合っているか精査が必要だったからだ」と調査結果隠しを否定している。

 これに対し、独協医科大の木村真三准教授(放射線衛生学)は「屋外8時間・屋内16時間の条件は一般的なもので、それを変えること自体がおかしい。自分たちの都合に合わせた数字いじりとしか思えない」と指摘する。

 田村市都路地区や川内村東部は避難指示解除準備区域で、政府は4月1日に田村市都路地区の避難指示を解除する。また川内村東部も来年度中の解除が見込まれている。【日野行介】
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140325-00000008-mai-soci

つまり、避難指示解除準備区域で、避難指示解除が予定されている地域で予備的に個人線量計で内閣府の支援チームが測定したのだが、そのうち、大半が1mSv以下になると推定していた川内村の推計線量が、個人線量計でも2.6〜6.6mSvになってしまった。内閣府の支援チームは、この結果を公表せずに隠蔽した。そして、現在、農業・林業従事者の生活時間パターンを「屋外8時間、屋内16時間」から「屋内6時間、屋外18時間」などにかえ、より推計値が低くなるように計算しなおしているというのである。つまりは、測定値が高いから、より推計値が低くなるように数字を操作しているということになるのである。

測定方法を空間線量から個人線量計に変更するだけでも、約2倍に基準線量を緩和していることになる。それでも高いとなれば、推計の計算式をかえて、まだ下げようとしている。空間線量は全く変わらず、いわゆる「線量推計値」だけが下げられたのである。

福島第一原発事故後、東北・関東の諸地域は広範に放射性物質によって汚染された。そこで、空間線量からの推計で年間1mSvを基準として除染された。もちろん、現実には、除染作業を行っても1mSv以下にならなかった地域も多い。それでも、とりあえず、除染作業は実施されたのである。

ところが、避難指示解除準備区域においては、測定方法が空間線量から個人線量に切り替えられ、さらには推定値の計算式が変更されることになっている。そのために、従来の空間線量では1mSv以上と認定されて除染の対象になった線量のある地域が、除染の対象にならなくなるケースが出現することが想定されるのである。

現時点の除染基準1mSvとは「社会的」基準である。そして、この基準は、すでに他地域では適用されている。このように「科学」の名をかりて、実質的に緩和された基準を福島第一原発周辺地域に押しつけるという不公平なことが、平然となされているのである。

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さて、今度は、元空幕長であり、石原慎太郎(日本維新の会共同代表)より推薦を受けて都知事選に立候補を予定している田母神俊雄がどのような原発論をもっているかみておこう。彼の原発論については、本ブログでも一部紹介した。しかし、部分的に紹介しても、彼の原発論総体が伝わらないと思われる。また、これは、原発推進派が原発や放射能についてどのように考えているのかを知る一つの材料にもなるだろう。ここでは、「第29代航空幕僚長田母神俊雄公式ブログ 志は高く、熱く燃える」に2013年3月20日に掲載された「福島原発事故から2年経って」を中心にみていこう。

田母神は、まず冒頭で、このように述べている。これが、全体のテーマといってよいだろう。

東日本大震災の福島原発の事故から2年が経過して、テレビなどではまたぞろ放射能の恐怖が煽られている。あの事故で誰一人放射能障害を受けていないし、もちろん放射能で死んだ人もいない。2度目の3月11日を迎え、原発反対派は鬼の首でも取ったように反原発運動を強化している。
http://ameblo.jp/toshio-tamogami/entry-11494727117.html

まず、田母神は、チェルノブイリでは原子炉自体が爆発して当初30人の死者が出てその後も多くの放射線障害を受けた人がいたが、福島では地震で原子炉自体は自動停止したが、津波により電源供給が絶たれて冷却水が送れないために水蒸気爆発を起こしたと、その違いを強調している。福島第一原発事故の主要原因が地震なのか津波なのかは議論のあるところだ。ただ、それはそれとして、田母神は「だから電源を津波の影響を受けない高台に設置すれば安全対策完了である。マグニチュード9の地震に対しても日本の原発は安全であることが証明されたようなものだ」と言い放つ。かなり唖然とする。日本の原発は海辺にあることが普通であり、もともと、津波被害には脆弱な構造を有しているのだが。

続いて、彼はこのようにいって、2012年末の総選挙で「脱原発」を掲げた政党を批判する。

原発がこの世で一番危険なものであるかのように騒いでいるが、我が国は50年も原発を運転していて、運転中の原発による放射能事故で死んだ人など一人もいない。それにも拘らず原発が危険だと煽って、昨年末の衆議院選挙でも脱原発、卒原発とかを掲げて選挙を戦った政党があった。しかし、日本国民もそれほど愚かではない。原発さえなければ後のことは知ったことではないという政党は選挙でボロ負けをすることになった。
http://ameblo.jp/toshio-tamogami/entry-11494727117.html

田母神によれば、「人間の社会にリスクがゼロのものなど存在しない…豊かで便利な生活のためにはリスクを制御しながらそれらを使っていくことが必要なの」であり、脱原発を主張する人は、飛行機にも車にも乗るべきではないとする。そして、原発新規建設計画がある米中韓で原発反対運動をすべきと揶揄しているのである。

田母神は、現在の福島第一原発は危険ではないと主張している。復旧作業をしている人がいるのだから、危険はないというのだ。福島第一原発の作業員において、今の所急性症状が出ていないのは、東電なりに法的規制にしたがって、作業場所や作業時間を管理した結果であり、人が入れないところは、ロボットが作業しているのだが、そういうことは考慮した形跡がない。

福島原発周辺で放射能的に危険という状況は起きていない。東京電力は、周辺地域に対し放射能的に危険であるという状況を作り出してはいない。福島原発の中では今でも毎日2千人もの人が入って復旧作業を継続している。そんなに危険であるのなら作業など続けられるわけがない。
http://ameblo.jp/toshio-tamogami/entry-11494727117.html

そして、福島第一原発は危険ではないにもかかわらず、住民を避難させて、損害を与えたのは、当時の菅政権の責任だとしている。彼によれば、年間20ミリシーベルトという基準でも厳しすぎるのである。年間100ミリシーベルトでよかったのだと、田母神はいう。ここで、私は、除染の基準は年間1ミリシーベルトであり、たとえ、住民が帰還しても、そこまで下げる義務が国にはあるということを付言しておく。田母神のようにいえば、避難も除染も一切ムダな支出となる。

しかし危険でないにも拘らず、ことさら危険だと言って原発周辺住民を強制避難させたのは、菅直人民主党政権である。年間20ミリシーベルト以上の放射線を浴びる可能性があるから避難しろということだ。国際放射線防護委員会(ICRP)の避難基準は、もっと緩やかなものに見直しが行われるべきだという意見があるが、現在のところ年間20ミリから100ミリになっている。これは今の基準でも100ミリシーベルトまでは避難しなくてもいいということを示している。100ミリを採れば福島の人たちは避難などしなくてよかったのだ。
(中略)
強制避難させられた人たちは、家を失い、家畜や農作物を失い、精神的には打ちのめされ、どれほどの損害を受けたのだろうか。一体どうしてくれるのかと言いたいことであろう。
(中略)
政府が避難を命じておいて、その責任を東京電力に取れというのはおかしな話である。繰り返しになるが福島原発の事故によって、東京電力は放射能的に危険であるという状態を作り出していない。危険でないものを危険だとして、住民を強制避難させたのは菅直人なのだ。
http://ameblo.jp/toshio-tamogami/entry-11494727117.htm

田母神は、原子力損害賠償責任法で異常な天災・地変によって生じた損害については、電力会社は責任をとらなくてよいことになっているが、にもかかわらず、巨額の賠償金支払いが義務付けられたと述べている。それは、東京電力が戦わなかった結果であるとし、「社長は辞めたが、残された東京電力の社員は経済的にも、また精神的にも大変つらい思いをしていることであろう」と、東京電力に同情している。

そして、田母神は、放射能は塩と同じで、なければ健康が維持できないが、一時に取りすぎると真でしまうものだと述べている。

放射能は、昔は毒だといわれていた。しかし今では塩と同じだといわれている。人間は塩分を採らなければ健康を維持できない。しかし一度に大量の塩を採れば死んでしまう。放射線もそれと同じである。人間は地球上の自然放射線と共存している。放射線がゼロであっては健康でいられるかどうかも実は分からない。放射能が人体に蓄積して累積で危険であるというのも今では放射線医学上ありえないことだといわれている。放射線は短い時間にどれだけ浴びるかが問題で累積には意味がない。
http://ameblo.jp/toshio-tamogami/entry-11494727117.htm

その論拠として、自然放射線の100倍の環境にいるほうが健康にいいという説(ミズーリ大学のトーマス・ラッキー博士が提唱しているとしている)、DNAが放射線で壊されてもある程度なら自動修復されるという説、年間1200ミリシーベルトの放射線照射は、健康によいことはあっても、それでガンになることはないという説(オックスフォード大学のウェード・アリソン教授が提唱したものとされている)をあげている。これは、いわゆる放射線ホルミシウス論というものであろう。

そして、結論として、田母神は、このように述べている。

我が国では長い間歴史認識の問題が、我が国弱体化のために利用されてきた。しかし近年では多くの日本国民が真実の歴史に目覚め始めた。そこに起きたのが福島原発の事故である。左向きの人たちは、これは使えるとほくそ笑んだ。そして今ありもしない放射能の恐怖がマスコミ等を通じて煽られている。原発なしでは電力供給が十分に出来ない。電力が不足してはデフレ脱却も出来ない。不景気が今のまま続き学校を卒業してもまともな就職も出来ない。放射能認識は第二の歴史認識として我が国弱体化のために徹底的に利用されようとしている。
http://ameblo.jp/toshio-tamogami/entry-11494727117.htm

田母神の「原発論」は、いってしまえば、日本の原発は、地震によって停止し、津波対策もされている(?)ので安全であり、放射線による健康障害などはありえず、それらを理由にした脱原発は、日本を弱体化させる陰謀であり、それにのってしまえば、電力不足、デフレによる不景気、就職危機が継続してしまうということになる。

田母神俊雄は、福島県郡山出身である。福島県あたりで、このような議論をされていると考えるとうそ寒くなる。

さらにいえば、田母神は、元航空幕僚長であった。航空自衛隊ではトップの役職である。一応、自衛隊は、よくも悪くも、核戦争や核物質テロへの対処を考えているはずだと思っていた。しかし、放射能を塩と同じという田母神のような認識で、まともな核戦争やテロへの対策がとれるのかと思ってしまう。さらにいえば、彼らから見れば都合の悪い情報は、こちら側を弱体化させる敵の悪宣伝でしかないのである。このような人が、どうして、航空幕僚長を勤めることができたのかとすら思えてしまう。

田母神俊雄のサイトに都知事選の政策が出ているが、原発については全くふれていない。しかし、このような原発認識を抱いている人物が、今や都知事に立候補しようとしているのである。

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昨年、本ブログでも紹介した、国連人権理事会の特別報告者アナンド・グローバー氏による福島第一原発事故被ばく問題に関する特別報告が5月24日に公表された。まず、それを伝える毎日新聞のネット配信記事をみておこう。

福島第1原発事故:国連報告書「福島県健康調査は不十分」
毎日新聞 2013年05月24日 15時00分(最終更新 05月24日 16時59分)

 東京電力福島第1原発事故による被ばく問題を調査していた国連人権理事会の特別報告者、アナンド・グローバー氏の報告書が24日明らかになった。福島県が実施する県民健康管理調査は不十分として、内部被ばく検査を拡大するよう勧告。被ばく線量が年間1ミリシーベルトを上回る地域は福島以外でも政府が主体になって健康調査をするよう求めるなど、政府や福島県に厳しい内容になっている。近く人権理事会に報告される。

 報告書は、県民健康管理調査で子供の甲状腺検査以外に内部被ばく検査をしていない点を問題視。白血病などの発症も想定して尿検査や血液検査を実施するよう求めた。甲状腺検査についても、画像データやリポートを保護者に渡さず、煩雑な情報開示請求を要求している現状を改めるよう求めている。

 また、一般住民の被ばく基準について、現在の法令が定める年間1ミリシーベルトの限度を守り、それ以上の被ばくをする可能性がある地域では住民の健康調査をするよう政府に要求。国が年間20ミリシーベルトを避難基準としている点に触れ、「人権に基づき1ミリシーベルト以下に抑えるべきだ」と指摘した。

 このほか、事故で避難した子供たちの健康や生活を支援する「子ども・被災者生活支援法」が昨年6月に成立したにもかかわらず、いまだに支援の中身や対象地域などが決まっていない現状を懸念。「年間1ミリシーベルトを超える地域について、避難に伴う住居や教育、医療などを支援すべきだ」と求めている。【日野行介】

 ◇グローバー氏の勧告の骨子

 <健康調査について>
・年間1ミリシーベルトを超える全地域を対象に
・尿や血液など内部被ばく検査の拡大
・検査データの当事者への開示
・原発労働者の調査と医療提供

<被ばく規制について>
・年間1ミリシーベルトの限度を順守
・特に子供の危険性に関する情報提供

<その他>
・「子ども・被災者生活支援法」の施策策定
・健康管理などの政策決定に関する住民参加
http://mainichi.jp/select/news/20130524k0000e040260000c.html

この報告書については、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウが暫定的に仮訳し、サイトで公開している。結論的部分の「勧告」というところをここで紹介しておこう。なお、公開されている仮訳は、報告書の原文も提示した対訳になっているが、ここでは、仮訳部分のみしめしておく。

勧告

76. 国連特別報告者は、日本政府に対し、原発事故の緊急対応システムの策定と実施について、以下の勧告を実施するよう要請する。

(a) 指揮命令系統を明確に定め、避難区域・避難所を明示し、社会的弱者を救助するガイドラインを規定した、原発事故の緊急対応計画を確立し、不断に見直すこと。
(b) 原発事故の影響を受ける危険性のある地域の住民と、事故発生時の対応や避難基準を含む災害対応計画について協議すること。
(c) 原発事故発生後、可及的速やかに、関連する情報を公開すること。
(d) 原発事故発生前、又は事故発生後可及的速やかに、ヨウ素剤を配布すること。
(e) 原発事故の影響を受ける地域に関する情報を集め、広めるために、「緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム」(SPEEDI)のような技術の、迅速かつ効果的な利用を提供すること。

77. 原発事故の影響を受けた人々に対する健康管理調査について、国連特別報告者は日本政府に対し、以下の勧告を実施するよう要請する。

(a) 長期間の、全般的・包括的な健康管理調査を通じ、原発事故の影響を受けた人々の、健康に関する放射能による影響を、継続的に監視すること。 また、必要な場合、適切な治療を行うこと。
(b) 健康管理調査は、年間被ばく線量 1mSv 以上の全ての地域に居住する人々に対し実施されるべきである。
(c) すべての健康管理調査を、より多くの人が受け、調査の回答率をより高めるようにすること。
(d)「健康基本調査」には、個人の健康状態に関する情報と、放射能による健康へ悪影響を与えるその他の要素を含めて調査がされるようにすること。
(e) 子どもの健康管理調査は、甲状腺検査に限定せず、血液・尿検査を含む、全ての健康影響に関する調査に拡大すること。
(f) 甲状腺検査の追跡調査と二次検査を、親や子が希望する全てのケースで利用できるようにすること。
(g) 個人情報を保護しつつも、検査結果に関わる情報への子どもと親のアクセスを、容易なものにすること。
(h) ホールボディカウンターによる内部被ばくの検査対象を限定することなく、地域住民、避難者、福島県外の人々等、影響を受ける全ての人々に対して実施すること。
(i) 全ての避難者、及び地域住民、とりわけ高齢者、子ども、妊婦等の社会的弱者に対して、メンタルヘルスの施設、必要品、及びサービスが利用できるようにすること。
(j) 原発労働者に対し、被ばくによる健康影響調査を実施し、必要な治療を実施すること。

78. 国連特別報告者は、日本政府に対し、放射線量に関連する政策・情報提供に関し、以下の勧告を実施するよう要請する。

(a) 避難区域、及び放射線被ばく線量の限界に関する国家の計画を、科学的な証拠に基づき、リスク対経済効果の立場ではなく人権を基礎において策定し、かつ、年間被ばく線量を1mSv 以下に低減すること。
(b) 放射線の危険性と、子どもは被ばくに対して特に脆弱であるという事実について、学校教材等で正確な情報を提供すること。
(c) 放射線量の監視においては、住民による独自の測定結果を含めた、独立した有効性の高いデータを取り入れること。

79. 除染について、国連特別報告者は、日本政府に対し、以下の勧告を採用するよう要請する。

(a) 年間被ばく線量が 1mSv 以下の放射線レベルに下げるための、時間目標を明確に定めた計画を、早急に策定すること。
(b) 放射能汚染土壌等の貯蔵場所を、標識等で明確にすること。
(c) 安全で適切な中間・最終保管場所の設置を、住民参加の議論により決定すること。

80. 国連特別報告者は、規制の枠組みの中で、透明性と説明責任の確保について、日本政府に対し、以下の勧告を実施するよう要請する。

(a) 原子力規制行政、及び原子力発電所の運営において、国際的に合意された基準や、ガイドラインを遵守するよう求めること。
(b) 原子力規制委員会の委員と、原子力産業の関連に関する情報を公開すること。原子力規制庁の委員と原子力産業の関連に関する情報を公開すること。
(c) 原子力規制委員会が集めた、国内、及び国際的な安全基準・ガイドラインに基づく規制と、原発事業者による遵守に関する情報は、独立した監視が出来るよう公開すること。
(d) 原発事故による損害について、東京電力等が責任をとることを確実にし、かつその賠償・復興関わる法的責任のつけを、納税者が支払うことがないようにすること。

81.賠償や救済措置について、国連特別報告者は、日本政府に対し、以下の勧告を実施するよう要請する。

(a)「原子力事故 子ども・被災者支援法」の基本計画を、影響を受けた住民の参加を確保して策定すること。
(b) 復興と、人々の生活再建のための費用を、救済措置に含めること。
(c) 原発事故と被ばくにより生じた可能性のある健康影響について、無料の健康診断と治療を提供すること。
(d) さらなる遅延が生ずることなく、東京電力に対する損害賠償請求が解決するようにすること。

82. 国連特別報告者は、原発の稼動、避難区域の指定、放射線量の限界、健康管理調査、賠償を含む原子力エネルギー政策と原子力規制の枠組みに関する全ての側面の意思決定プロセスに、住民が、特に社会的弱者が、効果的に参加できることを確実にするよう、日本政府に要請する。
以上
http://hrn.or.jp/activity/%E3%82%B0%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%90%E3%83%BC%E5%A0%B1%E5%91%8A%E6%9B%B8%20%E6%9A%AB%E5%AE%9A%E4%BB%AE%E8%A8%B3130614%E6%94%B9%E8%A8%82%E7%89%88.pdf

まず、確認しておきたいのは、この報告書は、「原発事故の緊急対応システムの策定と実施」(76)、「原発事故の影響を受けた人々に対する健康管理調査」(77)、「放射線量に関連する政策・情報提供」(78)、「除染」(79)、「原子力規制の枠組みの中で、透明性と説明責任の確保」(80)、「賠償や救済措置」(81)、「原子力エネルギー政策と原子力規制の枠組みに関する全ての側面の意思決定プロセスに対する住民(とりわけ社会的弱者)の効果的参加」となっており、毎日新聞報道よりもはるかに広汎なものになっているということである。特に、「原発事故の緊急対応システムの策定と実施」「原子力規制の枠組みの中で、透明性と説明責任の確保」原子力エネルギー政策と原子力規制の枠組みに関する全ての側面の意思決定プロセスに対する住民(とりわけ社会的弱者)の効果的参加」は、これまでの日本政府による原子力規制のありかた自体を批判しているといえるだろう。

その上で、まず、注目されるのは、「避難区域、及び放射線被ばく線量の限界に関する国家の計画を、科学的な証拠に基づき、リスク対経済効果の立場ではなく人権を基礎において策定し、かつ、年間被ばく線量を1mSv 以下に低減すること。」としていることである。この報告書の前の方で、まず、低線量被ばくについて、このように述べている。

9. チェルノブイリ、スリーマイル島、及び福島での原発事故の類似性から、チェルノブイリ、及びスリーマイル島の教訓が、福島において対策を考案する際にも用いられたことは理解できる。しかしながら、国連特別報告者は、チェルノブイリの原発事故に関する重要かつ完全な情報は、1990 年まで公表されなかったことを強調する。したがって、チェルノブイリに関する研究は、放射能汚染及び被ばくの影響を十分に認識していない可能性がある。こうしたことから、チェルノブイリの原発事故後の、甲状腺癌の疾病率の増加のみが、福島の原発事故に対して認められ、かつ適用されることを懸念する。チェルノブイリの原発事故後の被ばく量の健康への影響に関する報告書は、他の健康異常の証拠を不確定なものとしている。遺憾なことに、この報告書は、本来監視されるべき、子どもや成人の疾病率を増加させる染色体異常、機能障害、及び白血病のような、被ばくによる健康に対する他の影響を無視している。

10. 日本政府は、汚染地域への帰還のための基準として、年間被ばく量 1mSv から 20mSvを参照レベルとしている。これは、国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告に依拠している。しかしながら、広島及び長崎に落とされた原爆の生存者に関する疫学研究は、長期的な低線量被ばくと、発がんの危険との因果関係を示している。国連特別報告者は、これらの研究結果を無視することによって、低線量被ばくに対する理解が損なわれ、健康への悪影響が増加することを懸念する。

つまり、チェルノブイリに関する情報は1990年まで公表されておらず、そのことにより被ばく量の健康への影響が十分調査されていないとし、広島・長崎では長期的低線量被ばくと発がんの危険が因果関係があるとされているにもかかわらず、低線量被ばくの影響を無視する懸念があるとしているのである。

そして、この報告書では、このように低線量被ばくの影響について論じている。

46. 電離放射線障害防止規則(3 条)は、3 ヶ月間の被ばく線量が 1.3mSv を超える区域を管理23 区域とするよう規定している。一般に、推奨されている放射線被ばく限度は年間 1mSv である。ウクライナでは、「チェルノブイリの原発事故の結果悪影響を被った市民の地位と社会的保護に関する」1991 年法が、年間被ばく線量 1mSv 以下を、何の制限もなく生活し働くための被ばく限度とした。

47. 年間被ばく限度 20mSv 以下は、原発事故以降、日本政府によって適用されている基準である。日本政府は、この基準が、原発事故以後の居住不可能地域を決定する際の、年間被ばく線量の基準として 1mSv~20mSv を推奨している ICRP から発行された文書に依拠したものだとしている。ICRP の勧告は、日本政府の全ての行動が、損失に比べて便益が最大化するよう行われるべきであるという最適化と正当化の原則に基づいている。このようなリスク 対 経済効果の観点は、個人の権利よりも集団的利益を優先するため、健康に対する権利の枠組みに合致しない。健康に対する権利の下で、全ての個人の権利が保護され必要がある。さらに、人々の身体的及び精神的健康に長期的に影響を及ぼすこのような決定は、人々の自発的、直接的及び実効的な参加とともに行われるべきである。

48. 日本政府は、国連特別報告者に対して、年間被ばく線量 100mSv 以下では発がんに関して過度の危険がないため、年間被ばく線量 20mSv 以下の居住不可能地域は安全であると保証した。しかしながら、ICRP もまた、発がん又は遺伝的疾患の発生が、約 100mSV 以下の被ばく線量の増加に正比例するという科学的可能性を認めている。さらに、低線量放射線による長期被ばくの健康影響を調査する疫学研究は、白血病のような非固形癌に関する過度の被ばくリスクについて下限はないと結論付けている。固形癌に関する付加的な被ばくリスクは、線形用量反応関係で、一生を通し増加し続ける。

49. 日本政府によって導入される健康政策は、科学的証拠に基づいているべきである。健康政策は、健康に対する権利の享受への干渉を、最小化するように策定されるべきである。被ばく線量限度を設定するにあたって、健康に対する権利は、特に影響を受けやすい妊婦、及び子どもついて考慮し、人々の健康に対する権利に対する影響を最小にするよう要請する。健康への悪影響の可能性は、低被ばく線量でも存在しており、年間被ばく線量が 1mSv 以下で可能な限り低くなった時のみ、避難者は帰還を推奨されるべきである。その間にも、日本政府は、全ての避難者が、帰還か又避難続けるか、自発的に決定できるようするために、全ての避難者に対して金銭的な援助、及び給付金を提供し続けるべきである。

この報告書では、年間100mSv以下の低線量被ばくでもがんもしくは遺伝性疾患発生の可能性が線量に比例して増加するとして、年間1mSvを「何の制限もなく生活し働くための被ばく限度」としている。その上で、ICRPのリスクーベネフィットの原則を「このようなリスク 対 経済効果の観点は、個人の権利よりも集団的利益を優先するため、健康に対する権利の枠組みに合致しない。健康に対する権利の下で、全ての個人の権利が保護され必要がある」と批判しているのである。

その上で、具体的には、「健康への悪影響の可能性は、低被ばく線量でも存在しており、年間被ばく線量が 1mSv 以下で可能な限り低くなった時のみ、避難者は帰還を推奨されるべきである。その間にも、日本政府は、全ての避難者が、帰還か又避難続けるか、自発的に決定できるようするために、全ての避難者に対して金銭的な援助、及び給付金を提供し続けるべきである。」としており、年間1mSv以下を限度として、それ以下になった時、避難者の帰還をすすめるべきで、それまでは、避難者全てに援助を続けるべきとしているのである。

この年間1mSvという限度は、この報告書における、避難基準だけでなく、除染の基準でもあり、健康調査の基準でもある。そして、また、「原子力事故 子ども・被災者支援法」の支援基準にすることも求めているのである。

現在、日本政府は避難が義務付けられた警戒区域や計画的管理区域において「避難指示解除準備区域」として放射線量年間1〜20mSvの地域を指定し、住民の帰還を促進しようとしている。除染も現在のところは年間1mSv未満にするようにされているが、除染困難ということで、年間1mSvという原則を放棄することが検討されているようである。加えて、昨年成立した「原子力事故 子ども・被災者支援法」は、成立してからほぼ1年たつが、いまだ実施の基本方針すら定められていないという状態である。

それに対し、国連人権理事会のこの特別報告は、日本の被ばく対策が、すでに人権侵害という観点から検討されなくてはならないことを示しているのである。そして、このような状態をどのようにかえていくのかということは、日本の人びと全体の問題なのである。

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最近、私自身も含めて、被災地の問題について考える機会が少なくなっている。しかし、2012年11月11日の永田町・霞ヶ関の反原発抗議行動の中で、文部科学省前に原爆やビキニ水爆実験で被ばく死した久保山愛吉などの遺影が安置され、「子どもを守れ」「福島の子供達を避難させて!」というプラカードが掲げられたことを本ブログで書いた。その時の写真を、もう一度再掲する。

文部科学省前抗議(2012年11月11日)

文部科学省前抗議(2012年11月11日)

さて、その後、福島県で実施されている18歳以下の児童(36万人)を対象にした甲状腺検査において、甲状腺がんの疑いのある児童が一人発見されたということが報道された。2012年11月19日、河北新報は、次のような記事をネット配信している。

甲状腺がん疑い 即時要2次検査は16~18歳の女子

 福島第1原発事故後に福島県が県内の18歳以下36万人を対象に実施している甲状腺検査で、甲状腺がんの疑いがあるとして即時2次検査が必要な「C判定」を受けた子どもが1人いた問題で、県の県民健康管理調査検討委員会は18日、判定を受けたのは16~18歳の女子だったことを明らかにした。
 検査を担当している福島県立医大によると、女子は甲状腺に結節が発見され現在、2次検査を受けている。福島市で18日あった委員会後の記者会見で、医大の鈴木真一教授は「原発事故による被ばく線量は低く因果関係は考えにくい」と話した。
 委員会をめぐり9月の前回会合後、議論の誘導が疑われる議事進行表を委員に事前送付するなど県の不適切な運営が発覚した。菅野裕之県保健福祉部長は18日の会合で「県民の皆さまに疑念を抱かせ、申し訳ない」と陳謝。(1)菅野部長が委員を辞任(2)新たに外部委員2人が参加(3)速やかな議事録作成-などの改善策を説明した。
 会合では2012年度分の9月までの甲状腺検査結果も公表。結節や嚢胞(のうほう)がない「A1」判定が57.3%、小さな結節などがある「A2」が42.1%、一定以上の大きさの結節などがあって2次検査が必要な「B」が0.5%だった。
2012年11月19日月曜日
http://www.kahoku.co.jp/news/2012/11/20121119t63011.htm

この報道自体が衝撃的である。しかし、それにもまして問題なことは、検査を実施した福島県立医大の鈴木真一教授のコメントである。1986年のチェルノブイリ事故においても児童の甲状腺がんが多発した。そのようなことをふまえて、福島第一原発事故後、福島県の児童に対して甲状腺検査が実施されている。つまり、そもそも福島第一原発事故による放射線被ばくがなんらかの形で児童の甲状腺がん多発につながることが懸念されているから甲状腺検査が実施されている。しかし、鈴木は「原発事故による被ばく線量は低く因果関係は考えにくい」と述べている。これでは、甲状腺検査をする意味はない。

鈴木のコメントは、結局、年間100mSv以下の「低線量」被ばくでは人体に影響をもたらさないという、日本の「原子力ムラ」で流通している「通説」の方を優先しているのである。この論理でいけば、どれほど甲状腺がん患者が出ていても、「低線量」しか被ばくしていないとして、結局、すべて福島第一原発事故の影響ではないということになる。実際には、「低線量」被ばくでも甲状腺がんは発生するという「実証」ともいえるものを、「低線量」被ばくであれば人体に影響がないという「通説」によって否認しているのである。

これは、もちろん、国や東京電力や福島県などによる「低線量」被ばくの影響を否認しようという政策が背景になっているといえる。このような論理は、水俣病において有機水銀が原因であることを認めなかった当時の対応とも共通しているといえる。しかし、より「科学」として考えなくてはならないことは、一般的に流通する「通説」によって「実証」を否認しているということである。これは、コペルニクスの「地動説」をそれまでの「通説」であったプトレマイオスの「天動説」で否認していることと同じだ。

さらに、「会合では2012年度分の9月までの甲状腺検査結果も公表。結節や嚢胞(のうほう)がない「A1」判定が57.3%、小さな結節などがある「A2」が42.1%、一定以上の大きさの結節などがあって2次検査が必要な「B」が0.5%だった。」としている。「小さな結節」が「致命的」であるかいなかは別として、福島の児童たちの約57%しか甲状腺の状態が正常ではない、42%以上の児童たちが甲状腺異常を抱えているということになる。これは、どうみても、異常事態であろう。甲状腺がん患者の疑いのある児童が1人発見されたというだけでなく、これ自体が大問題のはずである。

しかも、このことは、すでに9月の時点で報道されていた。河北新報のコルネット会員サービスを利用して検索してみると、「子ども1人、甲状腺がん 事故の影響否定 福島県検査」という記事が9月12日にネット配信されている。この記事でも、「福島第1原発事故後に福島県が県内の18歳以下の子どもを対象に実施している甲状腺検査で、甲状腺がんを発病しているケースが1例確認されたことが11日、分かった。甲状腺がんの発症例が確認されたのは初めて。」と、甲状腺がん発病者が1人いたことが伝えられている。この発病者が、11月19日の報道による患者と同一かいなかは明らかではない。ただ、もし他にいれば「2人」などと報道されると考えられるので、同一人物と思われる。

そして、この報道でも「検査担当の鈴木真一福島県立医大教授は「原発事故による被ばく線量は内部、外部被ばくとも低い。チェルノブイリ原発事故の例からも、事故による甲状腺がんが4年以内に発症することはないと考えている」と説明している。」としている。何があっても、コメントは同じなのである。

重要なことは、次のことである。

委員会では2012年度分の8月までの検査の結果も報告された。結節や嚢胞(のうほう)がない「A1」判定が56.3%(11年度は64.2%)、小さな結節などがある「A2」が43.1%(35.3%)、一定以上の大きさの結節などがあって2次検査が必要な「B」が0.6%(0.5%)だった。

つまり、2011年度と2012年度を比較すると、甲状腺が正常な児童の比率が64.2%から56.3%に減少し、甲状腺に小さな異常のある児童が 35.3%から43.1%に増加したことになる。11月の発表ではやや数字が違っているが、大枠は変わらない。つまり、福島県の児童の甲状腺異常は時間の経過につれて増えているのである。

このように、福島県の児童は異常事態の中にいる。一般的にみて甲状腺異常が見られる児童が福島県では40%以上存在しており、そのうち、約0.6%は甲状腺がんの疑いがあるのである。

そして、このことに対策をしたくない政府は、次のようなことを提起した。共同通信は2012年11月20日に次のような記事をネット配信した。

長崎でも子供の甲状腺検査 環境省、福島の結果と比較

 長浜博行環境相は20日、東京電力福島第1原発事故による福島県内の子どもの甲状腺への影響を確かめるため、比較材料として長崎県内の18歳以下の甲状腺検査を今月7日に始めたことを明らかにした。閣議後の記者会見で答えた。環境省によると、青森、山梨両県でも年内に調査を始める方向で調整している。

 子どもの甲状腺を大規模に調べる疫学的調査の前例がなく、原発事故の影響の有無を確かめる必要があるため、原発から離れた地域でも検査し福島県の結果と比較する。

 福島県は、事故発生時に18歳以下だった約36万人を対象に甲状腺検査を進めている。

2012/11/20 13:02 【共同通信】
http://www.47news.jp/CN/201211/CN2012112001001429.html

もちろん、このような比較調査が全く意義がないということではない。そのような比較を行わなければ「疫学的知見」は得られない。しかし、これは、明らかに福島の児童に甲状腺異常が多く発生しているということを否認したい、少なくとも、実質的な対策を先送りしたいという意識から発しているといえる。

今、必要なことは、福島県の児童については、放射線被ばくによると仮説的に推定される甲状腺異常・甲状腺がんが多く発生しているということを認め、その線にそって避難や医療などの対策を進めることだといえるのではないか。そして、それが、原爆やビキニ水爆実験で被ばく死した人びとの思いにもこたえることになるのではなかろうかと思う。

追記:http://www.pref.fukushima.jp/imu/kenkoukanri/240911siryou2.pdfによって福島県の現時点における調査結果を確認した。いまだ、約9万6000人しか調査していないのだが、その調査での甲状腺異常は18119人(43.1%)、二次検査が必要な者が239人(0.6%)である。なお、この調査結果ではがん患者発生は認めていない。つまり、実際に甲状腺がんを発症していても、福島第一原発事故関係ではないと「判断」されてはじかれてしまっているのである。なお、誤解を招いてはいけないので、36万人を基準に検討した人数についての言及は削除・訂正させていただくことにした。

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