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Posts Tagged ‘草野孝’

さて、このブログの中で、原発を推進してきた双葉町長たちー岩本忠夫や井戸川克隆らーが、 3.11以後、東電への憤懣や原発推進をしてきたことに対する後悔の念を感じていることを紹介してきた。

しかし、福島第一原発事故により離郷せざるをえなかった人たちすべてがそのような認識をもっているわけではない。そのことについては、開沼博氏が「「フクシマ」論』(2011年)で紹介している。開沼氏は、例えば「原発には動いてもらわないと困るんです」(原発労働者家族)などの発言を紹介しつつ、「原発を動かし続けることへの志向は一つの暴力であるが、ただ純粋にそれを止めるを叫び、彼らの生存の基盤を脅かすこともまた暴力になりかねない。(開沼前掲書p372)と述べている。

このような考えを、より自己の責任を明確にして語った人物がいる。楢葉町長(当時)であった草野孝である。草野は、「SAPIO』2011年8月号で、このように述べている。

人口約7700人の福島県双葉郡楢葉町は福島第一原発の南側に位置し、周辺20km内の「警戒区域」にあたる。町内には、原発事故への対応拠点であるJヴィレッジや現在運転停止中の福島第二原発が立地する。町民たちは、県内のいわき市や大沼郡会津美里町での避難生活を余儀なくされている。だが、遠く離れたところから、口先で「脱原発」を叫ぶのは容易い。草野孝・町長(76歳)が切実な事情を語る。
 * * *
――都心などでは「脱原発」「反原発」を掲げるデモ行進も多い。
「遠くにいて“脱原発”なんて言っている人、おかしいと思う。我々は必死に原発と共生して、もちろん我々もその恩恵でいい暮らしをした。だが同時に、東京の人たちに電気を送ってきたわけだ。何十年先の新しいエネルギーの話と、目の前の話は違う。あるものは早く動かして、不足のないように東京に送ればいい。我々地域の感情としてはそうなる」
――とはいえ、第一原発であれだけの事故が起きた。第二原発についても不安は覚える。
「もちろん、津波防御のための工事やチェックは必要だ。国がしっかりと第一原発の教訓を生かしていくべきところ。第二原発は崖と崖の間に位置していて、真っ平らなところにある第一原発とは地理条件が違う。今回の津波の被害も第一より軽微だった。
 そうした違いがあるのに、“脱原発”ばかり。結局“復興”が二の次になってはいないか。双葉郡には、もう第二しかないんだ……。
 正確に放射線量を測り、住民が帰れるところから復興しないと、双葉郡はつぶれてしまう。第二が動けば、5000人からの雇用が出てくる。そうすれば、大熊町(第一原発の1~4号機が立地)の支援だってできる。
 それなのに、国も県も、何の情報も出さないし、相談もしてこない。新聞やテレビのニュースで初めて知ることばかり。町民の不満は限界に近づいている。言ってやりたいよ。“ばが(馬鹿)にすんのもいい加減にしろ”――と」
■聞き手/ジャーナリスト・小泉深
※SAPIO2011年8月3日号
http://www.news-postseven.com/archives/20110724_26396.htmlより引用

草野は、自分たちは原発と共生して、いい暮らしをしてきたとあけすけに語り、その点から、遠くから脱原発を主張することはおかしいと主張する。そして、なるべく早期に警戒区域内でも帰宅可能の場所は住民を戻すべきとし、その住民の雇用を確保するために、福島第二原発の再稼働の必要性を叫んでいるのである。

これは、昨年8月前後の発言である。しかし、今年3月に放映されたNHKのドキュメンタリーの中でも、福島第一原発事故について謝罪に訪れた東電の責任者に対して、福島第二原発の再稼働を直訴していた。

基本的に、草野は、3.11以後においても、「原発との共生」=「いい暮らし」という意識のもとに、他地域の反対派の意見を拒否しつつ、なるべく住民を早期に戻すことを主張し、さらに福島第二原発の再稼働を期待したといえよう。

そして、草野は、2012年2月12日、いわゆる放射能汚染物質の中間貯蔵施設を積極的に楢葉町に受け入れることを主張した。次の読売新聞のネット記事をみてほしい。

中間貯蔵施設、楢葉町長が受け入れ条件伝える

 東京電力福島第一原発事故に伴う放射能で汚染された土壌などを保管する中間貯蔵施設について、福島県楢葉町の草野孝町長が平野復興相に対し、2か所に分けて設置するなど施設受け入れに関する条件を自ら伝えていたことがわかった。

 草野町長によると、12日に平野復興相がいわき市にある町の仮役場を訪れた際、草野町長が「国が現在考えている中間貯蔵施設だけでは規模が足りないのではないか」として、福島第一、第二原発が立地する4町(双葉、大熊、富岡、楢葉町)内の2か所に分けて設置してはどうかと提案した。これに対し、平野復興相は即答を避けたという。

 国は、中間貯蔵施設を原発が立地する双葉郡(8町村)に建設することを県などに要請しているが、郡内の首長で、受け入れについて具体的に言及したのは初めて。草野町長は15日、読売新聞の取材に「楢葉町が受け入れ方針を決めたということではない。早く中間貯蔵施設をつくってほしいという意味で言った」としたうえで、「国から正式に話があれば(受け入れを)検討せざるをえない」と話している。

(2012年2月15日13時56分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20120215-OYT1T00499.htm

草野の考えを推察するならば、中間貯蔵施設を早期に設置し、除染活動を本格化して、なるべく早く住民を戻すということであったと思われる。しかし、このことについて、楢葉町議会は3月15日、反対した。次の読売新聞のネット配信記事をみてほしい。

福島県楢葉町議会は15日、東京電力福島第一原発事故で発生した汚染土の中間貯蔵施設について、町内への設置に反対する意見書を全会一致で採択した。

 国は、同町と双葉町、大熊町の3か所に設置することを提案しているが、反対の意見書が採択されたのは初めて。

 意見書では、施設が設置されれば「地域の放射能汚染の危険が拡大し、町のイメージダウンが全国に広まる」などと懸念。「放射線レベルが年100ミリ・シーベルト以上の土地再利用が不可能な汚染地域に設置を」と、町外への設置を求めている。

 草野孝町長は12日の町議会一般質問で、「国にどのような貯蔵をするのかなど、きちんと説明してもらい、議会や住民と相談して結論を出したい」などと答弁している。

(2012年3月15日18時54分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20120315-OYT1T00852.htm

草野と町議会は、3.11以前において、それほど隔たった考えを有していたとは思えない。しかし、3.11以後においても、草野は放射能汚染のリスクを軽視し、中間貯蔵施設を積極的に受け入れ、住民を地域に早期に戻し、福島第二原発を再稼働するというプランを考えていたのではないかと思う。しかし、町議会は、そもそも放射能汚染のリスクを軽視してはならないという入り口のところで、町長の方針に異を唱えるようになったといえる。

そして、4月7日に、細野豪志環境相が楢葉町議会に中間貯蔵施設受け入れを要請したが、逆に町議会は反発した。毎日新聞福島地方版のネット記事をみてほしい。4月15日には町長選が予定されていたが、草野不出馬の町長選の二人の候補者はともに町議会議員の出身で、ニュアンスの違いはあったが、中間貯蔵施設建設に反対することを表明するようになった。

東日本大震災:中間貯蔵施設、環境相が楢葉町議に説明 批判、疑問相次ぐ /福島
毎日新聞 2012年04月08日 地方版

 「なぜ、この時期に中間貯蔵施設8件の話なのか。思いやりがない」。町長選(15日投開票)さなかの7日、いわき市内であった楢葉町議会8件全員協議会での細野豪志環境相らによる説明会。先月、全会一致で反対意見書を可決した町議から批判と疑問が相次いだ。

 草野孝町長が環境省に申し入れ実現した。説明は施設の受け入れと同時に、雇用の確保や道路建設、研究・情報公開センター設置にも及び、町議に翻意を促す“えさ”をまく格好になった。

 会津美里町の仮設住宅などから駆けつけた町議らは「医療費無料化など国が孫子の代まで健康管理に責任を持つことが大前提」「あてもない最終処分場を福島に造らないと断言する国の姿勢は、先送り政治の典型」などの批判も。さらに、「施設ができて放射能汚染が続けば町民の帰還が遅れる」「双葉郡全体の存続を考えた場合、放射線量が高い地域1カ所に設置すべきだ」などの意見が続出。予定を大幅にオーバーし2時間に及んだ。
http://mainichi.jp/area/fukushima/news/20120408ddlk07040061000c.html

このような経過は、草野孝の元々の考えであった、住民の地域への早期帰還というもくろみにも影響を及ぼしたと考えられる。地域住民の帰還の前提として、警戒区域指定を解除する必要があり、そのために4月11〜13日にかけて住民説明会がひらかれたが、その席で、草野孝町長と住民は対立した。住民は帰還よりも除染を優先してほしいと主張したのだ。福島民報のネット配信記事は、そのことを示している。

町長解除準備、住民除染優先 楢葉の避難区域再編 説明会が終了
2012年4月14日 | カテゴリ: 福島第一原発事故

 楢葉町の草野孝町長は13日、会津美里町で開いた避難区域再編に関する住民説明会終了後、町内の警戒区域を月内にも避難指示解除準備区域に再編するよう国に伝えたい意向を示した。ただ、同日を含む3回の説明会では、住民側から「除染を優先すべき」などの理由で反対、慎重意見が相次いだ。町は17日の町災害対策会議で区域再編に向けた協議を始める方針だが、再編が5月以降にずれ込む可能性もある。
 最終回となる会津美里町での説明会には同町に避難している住民約110人が臨んだ。このうち、楢葉町の自宅に侵入され現金などが盗まれたという主婦(56)は「家が荒らされた上に家族はばらばらになった。家に帰りたい気持ちは強いが、孫や家族を思うと(警戒区域解除よりも)除染を優先してほしい」と涙ながらに話した。
 29日の任期満了に伴い引退する草野町長は終了後、報道陣に対し「(警戒区域が避難指示解除準備区域に移行すれば)立ち入りが自由になり、除染やインフラ整備が進む」と月内再編の意義を強調した。防犯対策については「通行証を発行するなど警察と連携をより密にする。反対意見はしっかり聞き対策を考える」とも語った。
http://www.minpo.jp/pub/topics/jishin2011/2012/04/post_3672.html

草野は4月に行われた町長選には出馬せず、4月中に退任することが決まっていた。そのため、4月13日の段階では、在任中に警戒区域解除の道筋をつけようとしていた。しかし、4月15日の町長選後、警戒区域解除を断念せざるをえなかった。

避難区域再編:楢葉町、政府案容認を撤回
毎日新聞 2012年04月17日 12時13分(最終更新 04月17日 18時52分)

 東京電力福島第1原発事故に伴う避難区域再編問題で、大半が警戒区域になっている福島県楢葉町は17日、災害対策本部会議を開き、全域を避難指示解除準備区域(年間被ばく線量20ミリシーベルト以下)に見直す政府案を受け入れる方針を撤回した。草野孝町長は報道陣に「今月中に再編することができないのは残念だが、町民の不安が大きい。再編については次期町長に委ねるしかない」と述べた。

 任期満了で29日に勇退する草野町長は当初「一日も早く帰還したいという町民の願いもあり、インフラ復旧を進める必要がある」として、政府に協力姿勢を示し、任期中の再編に意欲的だった。

 だが国が11〜13日に開いた住民説明会では、全町避難を強いられている町民から「除染やインフラ復旧、防犯対策を先にすべきだ」「放射線量が高く安全が確保されていないのに、賠償が早期に打ち切られる」などの反対意見が続出。15日の町長選でも、政府案反対を掲げた新人候補が当選した松本幸英氏に199票差まで肉薄した。
http://mainichi.jp/select/news/20120417k0000e040209000c.html

このような経過は、徐々ではあるが、草野町長のような考え方が、地域社会においてヘゲモニーを失っていく過程を示していると思われる。草野は放射能のリスクを軽視した上で、住民早期帰還、中間貯蔵施設建設、福島第二原発再稼働という方向性で「復興」を考えていたといえる。しかし、町議会や住民は、草野よりは放射能のリスクを考慮しながら、草野のような考え方に疑問をもつようになったと考えられる。もちろん、草野のような考え方が楢葉町からなくなったとは思えないし、今後復活してくる可能性もあるといえよう。しかし、現時点に限れば、草野は、自身の引退もあって、「蹉跌」したといえるのだ。

このように、被災地の人びとの考え方は多様であり、流動的である。そのことを踏まえつつ、さらに、このような多様な意見が出てくる根源を常に考え、その先を思い描きながらも、どのような立場にコミットしていくかは、私も含めて、それぞれの人の「立場性」といえよう。

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