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2015年5月15日、台湾は、日本産食品の規制を強化した。まず、そのことを伝える朝日新聞のネット配信記事をみておこう。

台湾、日本食品の規制強化開始 日本政府は提訴も検討
台北=鵜飼啓2015年5月15日17時47分

 台湾は15日、日本産食品の輸入に都道府県別の産地証明を義務づけるなどの規制強化を始めた。日本政府は撤回を求めている。ただ、台湾はこれまでも必要だった輸出関連書類の記載を「証明」として扱うことを決めたため、影響は限定的になりそうだ。

 規制強化は福島第一原子力発電所の事故に関連したもので、東京産の水産物など一部地域の特定品目については放射性物質の検査証明を添付するよう義務づけた。15日以降に日本から出荷されるものが対象で、台湾に空輸される生鮮食品などにまず適用される。

 台湾は原発事故後、福島など5県で生産・製造された食品の輸入を全面的に禁止してきた。だが、3月にこの5県の産品が、産地が明示されずに台湾に入っていたことが発覚し、規制強化を決めた。

 これに対し、日本側は「表示問題と規制強化は別。科学的根拠がない」と猛反発。台湾は日本政府や地方自治体の公的な産地証明を求めたが、日本側は証明書の様式などの話し合いに応じていなかった。

 このため、台湾は14日、一次産品については日本からの輸出にもともと必要な検疫証明にある都道府県記載を「証明」として受け入れると発表。加工食品については、商工会議所の証明書に都道府県を注記すれば良いとした。日系食品メーカーによるとすでにこうした対応は始まっており、規制強化後も大きな混乱はなさそうだという。

 放射性物質の検査については既定方針通りに行われる。保存の難しい生鮮水産物などは対象地域からの輸出は難しくなりそうだ。(台北=鵜飼啓)

■農水相「WTO提訴も含め検討」

 台湾が日本産食品の輸入規制強化に踏み切ったことについて、林芳正農林水産相は15日、閣議後会見で「科学的根拠に基づいて輸入規制の撤廃緩和を強く求めていく」と述べ、引き続き撤回を求めていく方針を強調した。その上で、進展がみられない場合には「WTOの提訴も含めて検討していきたい」と語った。

 林氏は台湾の規制強化を「科学的根拠に基づかない一方的な措置」と批判。「具体的な事実関係の説明がない中で行われたということで極めて遺憾」と不満をあらわにした。

 一部の産地と品目が放射性物質の検査対象とされたことについては、「証明書を作成、発行するには時間と経費がかかる」と懸念を表明。「どういう影響があるのか注視していきたい」と述べた。

 農林水産省によると、台湾は香港、米国に次ぐ日本産の農林水産物・食品の輸出先で、2014年の輸出額は約837億円。
http://www.asahi.com/articles/ASH5G7RDTH5GUHBI039.html

3.11以後、台湾は、顕著な放射能汚染がみられた福島・茨城・栃木・群馬・千葉県で生産・製造された食品を輸入禁止にしていたが、3月にこれらの県で製造された食品が産地を偽って輸入されていたとして、都道府県別の産地証明書をつける、一部品目の放射能検査を義務づけるなどの規制強化に乗り出したのである。一方、日本政府は「表示問題と規制強化は別。科学的根拠がない」として反発し、WTOへの提訴も含めて撤回を求めていく方針をあきらかにしたのである。

それでは、もともとの「産地偽装」とは、どのようなものだったのだろうか。3月25日に配信した朝日新聞のネット配信記事をみておこう。

台湾で日本食品回収騒ぎ 輸入業者が産地偽装か
台北=鵜飼啓2015年3月25日18時34分

 台湾で、東京電力福島第一原子力発電所事故後に輸入が禁止された日本産食品が輸入されていたとして回収騒ぎになっている。台湾は今も福島など5県でつくられた食品の輸入を全面的に禁じているが、業者が産地表示を変えて持ち込んだ疑いがあるという。

 食品薬物管理署が24日、発表した。問題になっているのはカップ麺や飲料など283品。製品に記載された記号から生産工場を調べたところ、輸入を禁じている福島、茨城、栃木、群馬、千葉の5県で生産されたことが分かったという。輸出用の中国語ラベルには、東京や大阪など食品メーカーの本社所在地とみられる場所が記載されていた。

 台湾では日本産食品が人気で、メーカーと無関係の業者が独自に輸入しているケースも多い。日本の窓口機関、交流協会はこれまでも、「日本は厳しいモニタリング制度があり、国内で流通している食品は安全」として、台湾側に輸入解禁を働きかけている。(台北=鵜飼啓)
http://www.asahi.com/articles/ASH3T56JSH3TUHBI01X.html

283品目にも及ぶ加工食品が「産地偽装」とされたのである。基本的には、この5県に所在する工場で製造された食品が、本社所在地などで生産されたように中国語ラベルに記載されていたというのである。朝日新聞のこの報道では、日本の食品メーカーではなく、台湾側の輸入業者側に責任があるようなことを示唆している(本当かどうかはわからないが)。

それにしても、どのような食品が「産地偽装」されたのであろうか。台湾側がリストを出しているので、次に掲載しておこう。

産地偽装が指摘された日本産食品リスト1

産地偽装が指摘された日本産食品リスト1

産地偽装が指摘された日本産食品リスト2

産地偽装が指摘された日本産食品リスト2

産地偽装が指摘された日本産食品リスト3

産地偽装が指摘された日本産食品リスト3

産地偽装が指摘された日本産食品リスト4

産地偽装が指摘された日本産食品リスト4

産地偽装が指摘された日本産食品リスト5

産地偽装が指摘された日本産食品リスト5

(http://www.mohw.gov.tw/MOHW_Upload/doc/%E9%99%84%E4%BB%B6%E4%B8%80_0048810002.pdfより)

本ブログの写真は少し読みにくいので、可能なら上記のサイトでみてほしい。最初が明星海鮮ラーメン、次が日清天ぷら粉、その次が日清お好み焼き粉、その次がヱスビーのカレー……、最後がエバラの焼き肉のたれで終っている。ほとんどが日本を代表する食品メーカーの一般的な製品で、日本社会ならば、一日どれかを摂取しているだろう。あまり考えてこなかったが、日本社会では、3.11直後放射線量が高かった福島・茨城・栃木・群馬・千葉県で生産・製造された食品をあたりまえのように飲食していたのである。しかし、このような地域で製造・生産された食品は、台湾では輸入禁止になっているのだ。日本の「あたりまえ」は、世界では「あたりまえ」でないのだ。このことについて……怒るべきか、笑うべきか、微妙な気持ちになってしまう。そもそも、日本政府は、日本列島に住む人々(国籍の有無にかかわらず)の健康保全を第一に考えているのだろうか。

確かに、日本の「あたりまえ」からいえば、自然の中で生産される農水産物と、ある程度環境を操作できる工場内の加工食品はわけて考えるべきかもしれない。しかし、それだからといって「産地偽装」が許されるわけではない。これは、「科学的根拠」以前の法や倫理の問題である。この「産地偽装」に日本側が直接関与しなかったとしても、やはり遺憾なことであり、台湾側の対策に積極的に協力しなくてはならないだろう。そもそも、商品表示が信用できないならば、商取引における等価性は担保されないのである。規制緩和以前の問題である。そのことを放置したまま、日本政府がWTO提訴などいろいろ手を尽くして、台湾に規制緩和措置を強制させることに成功したとしても、逆にそのことによって、日本産食品にとどまらない日本製品全体の不買につながってしまうかもしれないのである。

日本政府は、日本列島に住む人々に対して日本産の食品はすべて安全であり、放射能汚染への恐怖から買い控えることは「風評被害」になるのだと宣伝してきた。このようなことが台湾のような外国で通用するわけはないのである。そして、台湾の今回の反応は、日本社会の危機を客観的に見直す視座を提起しているのだと思う。

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福島第一原発事故以後、停止されていた「次世代型原子炉」の研究開発が2015年度に再開させる方針を政府は固めたという。次の読売新聞のネット配信記事をみてほしい。

次世代型原子炉、研究開発を再開へ…政府
読売新聞 9月17日(水)7時32分配信

 政府は、次世代型原子炉として期待される高温ガス炉の試験研究炉(茨城県大洗町)の運転を2015年度に再開し、研究開発を本格化させる方針を固めた。

 東日本大震災を受けて停止中だが、早ければ10月にも原子力規制委員会に安全審査を申請する。産官学による協議会を年内に設置して研究開発の工程表を作成し、実用化に向けた取り組みを後押しする考えだ。

 高温ガス炉は軽水炉と違い、冷却に水ではなく、化学的に安定しているヘリウムガスを使う。このため、水素爆発などが起きず、安全性が高いとされる。

 日本は1990年代から、日本原子力研究所(現在の日本原子力研究開発機構)を中心に高温ガス炉の研究開発を行っており、世界有数の技術の蓄積がある。試験研究炉では98年、核分裂を連続して発生させる「臨界」に初めて成功した。ただ、震災を受けて2011年3月に運転を停止して以降、研究は進んでいない。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140917-00050009-yom-sci

「新世代型原子炉」研究開発を再開するというのである。この原子炉は、減速材・冷却材にともに軽水を使う軽水炉と異なり、減速材に黒鉛、冷却材にヘリウムを使い、そのヘリウムガスでタービンを回して発電させる「高温ガス炉」というものである。産經新聞のネット配信記事(8月25日配信)によると、次のように安全性が説明されている。

自然に停止

 ヘリウムガスを冷却材に使う高温ガス炉は、基本的な仕組みは既存の原発と同じだ。ウラン燃料の核分裂反応で生じた熱でタービンを動かし、電力を生み出す。だが過酷事故の発生リスクは極めて低いという。

 茨城県大洗町にある日本原子力研究開発機構の高温ガス炉の試験研究炉「HTTR」。ここで4年前、運転中に炉心冷却装置を停止する実験が行われた。福島第1原発事故と同じ状況だ。原子炉は、いったいどうなったか。

 「何も起こらず自然に停止した。何もしなくても安全だった」。同機構原子力水素・熱利用研究センターの国富一彦センター長はこう話す。

 炉心冷却を停止すると、通常の原発は温度上昇で危険な状態に陥る。しかし、HTTRは停止とほぼ同時に原子炉の出力がゼロになり、温度は一瞬上昇しただけで安定していた。放射能漏れや炉心溶融は、もちろん起きなかった。

炉心溶融せず

高温ガス炉の安全性が高いのは、燃料の保護方法、炉心の構造材や冷却方式が従来と全く異なるためだ。

 既存の原発では、運転時の炉心温度は約300度。燃料の被覆材や、燃料を収める炉心構造材は耐熱温度が千数百度の金属製で、冷却材には水を使う。福島第1原発事故は冷却手段が失われ、炉心は2千度前後の高温になり溶融して燃料が露出。溶けた金属と冷却水の水蒸気が反応して水素爆発を起こし、放射性物質の飛散に至った。

 これに対しHTTRの炉心温度は950度と高いが、球状(直径0・9ミリ)の燃料は耐熱温度1600度のセラミックスで覆われており、これを2500度の超高温に耐える黒鉛製の炉心構造材に収めている。冷却材のヘリウムガスは化学的に安定で燃焼しない。これが炉心の高い熱エネルギーを運ぶため、高温ガス炉と呼ばれる。

 冷却手段が失われても炉心は理論上、1600度を超えないため、燃料の被覆が熱で壊れて放射能が漏れることはない。黒鉛製の構造材も溶融しない上、放熱効果が高いため自然に熱が逃げて冷える。

 水を使わないため水素爆発や水蒸気爆発の懸念もない。核分裂反応も、冷却停止で炉心温度がわずかに上がると、ウランは分裂しない形で中性子を吸収するため自然に停止するそうだ(後略)。
http://sankei.jp.msn.com/science/news/140825/scn14082511170004-n2.htm

水を使わないから、水素爆発も水蒸気爆発もないというのは本当であろう。また、炉心冷却装置が停止しても支障がないともされている。しかし、それだから、安全というわけにもいかない。減速材に使われている黒鉛は「炭素」であり、高温で酸素や水に接触すると燃えるのだ。一般財団法人 高度情報科学技術研究機構(RIST)が運営しているインターネットの原子力百科事典『ATOMICA』では、最終的に対応できるとするものの、黒鉛が燃焼する可能性を指摘している。チェルノブイリ原発は、黒鉛減速沸騰軽水圧力管型原子炉というもので、冷却材に軽水を使っており、その点では違うのだが、減速材に黒鉛を使うという点は同じである。チェルノブイリ事故では、この黒鉛が燃えたのである。

通常運転時および事故時の黒鉛構造物の酸化損傷 (06-01-04-03)
<概要>
 高温ガス炉は減速材として黒鉛材料を使用しているので、黒鉛が燃焼したり、燃焼で生じた水素または一酸化炭素の爆発等により、黒鉛が酸化損傷する可能性を含んでいる。この酸化損傷は、通常運転時では冷却材中に含まれる反応性ガスによって、また万一炉心内に水または空気が侵入する事故時では水蒸気と空気によって引き起こされる可能性がある。通常運転時では、冷却材中に含まれる反応性ガスの量はわずかであるので酸化損傷が問題になることはない。事故時においては、空気侵入事故が酸化損傷の観点から最も厳しいので、高温ガス炉においては想定される最も厳しい空気侵入事故条件下でも原子炉の安全性が損なわれないように設計されている。
<更新年月>
2006年01月   
<本文>
 高温ガス炉では高温のガスを得るため、耐熱性と耐腐食性に優れた黒鉛材料が炉内に使用されている。したがって、原子炉の通常運転時においても、万一炉心内に水または空気が侵入する事故時においても、水蒸気、酸素等のガスと高温の黒鉛との間に酸化反応が生じる可能性がある。黒鉛の酸化現象が生じれば、炉心(燃料)を保護している黒鉛構造物が腐食されてもろくなり、最悪の場合には、チェルノブイル炉事故時にみられたように、炉心崩壊に至る可能性を秘めている。さらに、この黒鉛の酸化反応で生じた水素及び一酸化炭素がある量を超えて存在する場合には、燃焼あるいは爆発する恐れがある。このようなことを防ぐため、高温ガス炉においては、この酸化損傷対策を十分考慮し、炉心崩壊に至る事なく、かつ爆発が生じないように設計している。
 一般に、黒鉛と酸素との反応は500 ℃ 程度から、水蒸気との反応は 700 ℃以上から有意になることが知られている。通常運転時では、一次系ヘリウム純化系が計画的に一次系冷却材中の不純物を除去しているので、一次冷却材中に存在する反応性ガスは微量である。したがって、黒鉛構造物の温度がこれらの温度以上であっても、黒鉛酸化損傷が有意になることはない。
 また、事故時においても、黒鉛酸化反応が有意になる温度以下に冷却されれば黒鉛構造物の酸化損傷の問題はなくなるので、事故初期時の高温状態からこれらの温度に冷却されるまでに反応した酸化量が問題となる。黒鉛と水蒸気の反応は吸熱反応であり、一方空気(酸素)との反応は発熱反応であるので、厳しいのは空気侵入事故である。この空気侵入事故では、一次系の圧力バンダリーが技術的には壊れそうもないが万一壊れた場合を想定して原子炉安全性を評価している。なお、大口径配管(ダクト)は、原子炉圧力容器並みの信頼性があるとして、燃料取り出し管などの小口径配管ギロチン破断のみ想定する設計例もある。
 さらに、この高温ガス炉では市販されている電池の電極用黒鉛に比べ高純度で耐食性に優れた黒鉛を使用している。この原子炉級黒鉛は炭とは別の材料であって、燃えにくいものである。なお、炭は以下に示すような理由により黒鉛に比べて燃えやすい。
(1) 炭は黒鉛に比べポーラス(炭のかさ密度は黒鉛の約半分程度)であるので、より多くの酸素が炭素と反応する。
(2) 黒鉛の結晶構造は規則的である。一方、炭の結晶は黒鉛に比べて乱れているため、酸素と反応しやすい。
(3) 炭には多くの不純物が存在するので、酸素と炭素との反応が促進される(不純物は触媒作用するとともに、炭に含まれる有機物等(H2 、CH4 等)がそれ自体で反応する)。
 上記(1)~(3)に示したように、黒鉛との反応に比べ、炭との反応は激しくまた発熱量も多い。また練炭のように下側から空気を吸い込み上側から吐き出すという煙突効果等が加わり十分酸素が供給され続ければ、燃焼範囲に入り燃え続ける。大口径配管ギロチン破断を想定している高温工学試験研究炉(HTTR)では、酸素の量も格納容器内で制限されており、また侵入してくるガスの流れも緩やかであるなどの理由により、黒鉛が燃え続けることはない。
 図1に、HTTRの減圧事故時において発生した一酸化炭素濃度と燃焼範囲との関係を示す。黒鉛の酸化反応で発生したこの可燃性ガスが、仮に黒鉛が格納容器内のすべての酸素と反応して一酸化炭素になったとしても、爆発の可能性のある可燃性ガス濃度にならない。したがって、旧ソ連で起きた大規模チェルノブイル炉(高温ガス炉とその炉の構造が異なっているが、減速材として黒鉛を使用している。)事故のような惨事に至ることはない。
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_Key=06-01-04-03

そして、核燃料廃棄物の問題は軽水炉と同様に残っている。使用済み核燃料を再処理したところで、核燃料廃棄物自体がなくなるわけではない。事故が起こりにくいとしても、運転時などの労働者の被曝問題も解決されないだろう。

さらに、冷却材に使うヘリウム自体が供給不足ということもある。2014年3月22日、日本経済新聞は次のような記事を配信した。

ヘリウムが世界的な供給不足に陥っている。超電導磁石や半導体製造などに使われるヘリウムは天然ガスから採取される貴重な資源。しかし、最大の供給元の米国でシェールガスの採掘が増加、製造プラントの老朽化と相まって供給悪化が近年続いている。アジアなどの新興国需要も追い打ちをかけ、このままでは枯渇するともいわれている。
(後略)
http://www.nikkei.com/article/DGXZZO68601000Q4A320C1000000/

「次世代型原子炉」研究開発再開について、東京新聞は、9月19日のネット配信記事で、次のように批判している。

 

(前略)原子力への国民の不安が払拭(ふっしょく)されないまま実用化のめどが立たない研究に多額の税金を費やすのは一兆円以上をつぎ込んで頓挫している高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)の二の舞いになりかねない。
(中略)
安倍政権は四月に閣議決定したエネルギー基本計画に、高温ガス炉の研究開発推進をもぐり込ませた。原子力機構はもんじゅの運営主体であり、自民党の河野太郎衆院議員は「もんじゅがだめだから高温ガス炉を突然入れてきた。予算確保が見え見えだ」と批判していた。
 九州大の吉岡斉(ひとし)教授(原子力政策)は「今やる理由が分からない。原子力機構は他に動かせそうなものがないから、研究機関としての稼働度を上げるために高温ガス炉に目を付けたのでは」と指摘した。
 政府は三〇年に高温ガス炉の実用化を目指しているが、成功しても「核のごみ」は発生する。最終処分場が見つかる見通しはなく、行き場のない核のごみは増え続ける。安倍政権は一二年の衆院選公約に脱原発依存を掲げ、原発依存度を下げると繰り返し表明しているが、逆行する動きとなる(後略)。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2014091902000154.html

 ここで、河野太郎や吉岡斉は挫折している「もんじゅ」などの代替として「高温ガス炉」開発が浮上してきたと指摘している。大体、日本の核技術というものは、軽水炉のようなアメリカが開発した技術をもとにしたものは「実用化」できたが、「もんじゅ」のような「自主開発」したものは、ことごとく挫折して終っている。たぶん、同じことが繰り返されるのだろう。福島第一原発事故を克服するということこそ、今一番求められていると思うのだが。

「次世代型原子炉」を開発するということ自体が「旧世代」の発想なのだろう。「安全性」「核廃棄物」「被曝」と、原子力には克服困難な問題が山積しており、よしんば解決可能だとしても、そのためのコストは厖大である。ゆえに、原子力からの脱却こそが、「新しい道」なのだ。しかるに、「次世代型原子炉」を開発するという名目で、福島第一原発事故を抑止はおろか事後管理すらもできない「旧き」原子力開発体制に、いまだに資金・人員を大量に動員することが目論まれている。「次世代」をつくるという「進歩」を名目とした「保守」がそこにはあるのだ。

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福島第一原発事故は、どのように歴史的に語り得るのであろうか。その観点からみて、非常に興味深い実践が、茨城文化財・歴史資料救済・保全ネットワーク(略称:茨城史料ネット)で行われている。

この茨城史料ネットは、東日本大震災で被災した文化財・歴史資料を救済・保全するために、2011年7月に設立されたボランティア組織である。茨城史料ネットが出した『身近な文化財・歴史資料を救う、活かす、甦らせるー茨城史料ネットの活動紹介パンフレットー」(2014年5月23日発行、なお文引用や写真はここから行う)によると、茨城史料ネットは、ひたちなか市、筑西市、鹿嶋市、常陸大宮市、北茨城市、栃木県芳賀郡茂木町、常陸太田市、福島県いわき市で文化財・歴史資料の保全活動に携わった(なお、厳密にいえば、茂木町と常陸太田市での活動は直接には震災の被災資料を対象としていない)。

茨城史料ネットは、原発事故で警戒区域に指定された福島県浜通り地区の個人所蔵資料も保全活動の対象とするようになった。前述のパンフレットによると、三件実施しているということであるが、こここでは、双葉町の泉田家資料が紹介されている。泉田家は地震で家屋が半壊し、津波で床上浸水し、その後警戒区域に指定されたため、資料の管理ができなくなった。そこで、所蔵者の一時帰宅の際に資料を警戒区域外に運び出し、最終的には茨城大学に搬入された。

茨城史料ネットでは「地域コミュニティが崩壊し文化の担い手が地域から消失してしまった警戒区域では、泉田家のような個人所蔵資料の救出・保全し地域の歴史像を明らかにしていくことが今後の歴史・文化の継承の際に重要な意義を持つことになるでしょう」と前述のパンフレットで語っている。私もその通りだと思う。

福島県双葉町泉田家資料

福島県双葉町泉田家資料

さらに、茨城史料ネットでは、福島第一原発事故で埼玉県加須市の旧騎西高校に避難した双葉町役場と避難所の資料保全にも着手した。きっかけは、双葉町教育委員会の依頼をうけ、2012年に双葉町役場つくば連絡所で茨城史料ネットが生涯学習講座を開催したことだったという。2013年3月には、双葉町役場埼玉支所及び旧騎西高校避難所にある震災関係資料の保全を茨城史料ネットで行うことが決まったとされている。

保全された資料は、現在、筑波大学春日エリアに保管され、概要調査と資料整理の準備が進められているとのことである。資料の量は、資料保存箱で約170個に及んでいるという。

茨城史料ネットは、前述のパンフレットにおいて、次のように指摘している。

 

保全された資料は、避難生活の困難を物語る文書や資料、国の内外から双葉町へ寄せられた支援・慰問の品などです。この活動は今後も継続させ、東日本大震災による被災の記録・記憶を後世へ伝える一助にしたいと考えています。

双葉町役場・旧騎西高校避難所資料の保全

双葉町役場・旧騎西高校避難所資料の保全

災害時の避難所の資料が保全されるということは、稀有なことであろう。もちろん、一般的な災害ではなく、「全村避難」という過酷な状況で、役場自体も移さなければならないということが背景にあったといえる。

現在、日本社会全体にせよ、福島県にせよ、東日本大震災・福島第一原発事故を忘れさせようという志向が強まっている。3.11の衝撃をなかったものとして、なるべく以前のやり方を踏襲して社会を運営していこうというのである。原発は再稼働されるのかもしれないし、福島第一原発は「コントロール」されていると強弁して東京オリンピックは開催されるのかもしれない。しかし、東日本大震災にせよ福島第一原発にせよ、確かに被災し打撃を受けた地域社会は存在していたのだ。そして、そのことが明らかにするのが、茨城史料ネットなどが保全しようとしている資料なのである。このような営為は、他でも行われている。今後は、保全された資料の中で明らかになるであろう被災した地域社会のあり方をふまえて、社会全体が運営されていかねばならない。このような、資料を保全しようという人びとの思いも、歴史を動かす力の一つであると私は信ずる。

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さて、ここでは、千葉県北西部や茨城県南部という首都圏におけるホットスポットに位置した常総生活協同組合により、3.11直後の3月20日というかなり早い段階で、脱原発の主張が行われたことをみていくことにする。この常総生協のサイトによると、同生協は、1975年に取手市井野団地自治会での「朝市」をもとに「取手生協」として設立され、翌1976年に守谷市に移転し、「常総生協」となった。2009年には千葉県東葛地区が活動エリアに加わった。2012年3月現在で、従業員数44名、組合員数6790名、出資金3億2650万1千円、供給高11億4568万円となっている。配達エリアは次のようなものである。

常総生協の配達エリア

常総生協の配達エリア


http://www.coop-joso.jp/area/area.html

このように、配達エリアの多くの地域が、首都圏におけるホットスポットとされた地域と重なっているのである。

この常総生協は、3月11日の「東日本大震災」発生をうけて同日、対策本部(本部長:専務理事 丸山)を設置し、3月14日には、組合員向けの機関紙『COOP JOSO NEWS LETTER』の号外【東日本大震災 緊急速報】を出し、組合員や組合の安否、商品配送状況などを伝えるとともに、当時知り得た限りの福島第一原発事故の状況を報道している。3月16日には、再び『COOP JOSO NEWS LETTER』号外を出し、「震災にともなう原発事故への対処について」として、雨に注意する、極力外に出ない、吸入・経口摂取での体内被曝を避ける、ヨウ素を含む食品を摂取するなど、組合員に対し放射能被曝をさける対策を伝えている。

そして、早くも3月20日、常総生協震災対策本部は、「原子力発電所・福島原発の現状の認識と対応について」という文書を出し、その中ですべての原発をやめることを提唱している。

原子力発電所・福島原発の現状の認識と対応について
1.かねてより多くの市民が心配し指摘してきた、地震国日本での原子力発電の脆さと危機が現実のものになってしまった以上、エネルギー政策を転換し、電力消費についても率直に国民、企業に語り、次の震災が来る前に一刻
も早くすべての原子力発電をやめる手続き・手順に入るべきです。東海地震に備えて浜岡原発は直ちに停止すべきです。
2.福島原発事故はまだ事態の終息に至っていません。したがって「今後何が起きるか」は予断を許せませんが、「何が起きたか」「何が起きているか」は冷静に判断しておく必要があります。
※現場を知る技術者を結集させ、適確な措置を行うべきです。必要な整理された正確な情報を公開し、「危険は危険」として、危機の冷静な判断ができるようにすべきです。パニック回避のバイアスのあまり、「直ちに健康に影響を及ぼすものでない」とか、「まだ余裕がある」とか、学者や政治家や評論家が軽々に言うべきではないと思われます。
①まず、地震発生直後に制御棒が挿入されて炉心自体の核分裂反応はひとまず緊急停止している。
②現在の問題は、津波による冷却用の非常用電源の喪失による冷却水循環の機能喪失であり、早急に電源を回復して冷却機能を回復させることが急務である。海水注入や放水は緊急措置であって焼け石に水である。
③現時点では原子炉の「格納容器」ならびに炉心の「圧力容器」の爆発に至っていない。また冷却機能の喪失による大規模な炉心溶融ならびに核燃料の「再臨界」は起きていない。
④圧力容器内の炉心の冷却水の低下と燃料棒露出は事実のようだが、圧力容器ならびにそれを包む格納容器の圧力を抜いて爆発は回避している。そのかわり、炉心内部の放射性物質もガス状のものは外部に放出されたと考えられる。
⑤建屋内の使用済み核燃料プールの水位低下・燃料棒露出による表面被膜の溶融、核燃料の露出に伴う水素発生によって、建屋内の酸素との反応で「水素爆発」を引き起こし、建屋の破壊で、ガス状の放射性物質は環境中に放出されたと考えられる。
⑥早急に冷却用電源を回復させ、循環冷却のポンプやパイプを修復させる必要がある。
3.人体、生命への危険の回避と汚染の除去
【原子炉施設からの直接の放射線照射】
圧力容器の圧力抜きに伴い格納容器ならびに建屋へ漏出した放射性物質、ならびに建屋内の露出した使用済み核燃料棒からの強い放射線が放出していると考えられる。
建屋の爆発に伴う遮蔽がないことから、施設周辺には高濃度の「放射線」が放出されていて放射線被曝により近づくことが困難な状態であることは変わりがない。現場の作業員の被曝と健康の限度を超える前に、早期に冷却を回復させて最悪の事態を回避し、コントロール下に置くことです。
【放射能汚染・・・ガス状となって放出された放射性物質の落下】
圧力逃し弁の開放や、使用済み燃料プールの水位低下により、放射性希ガス(セシウム・クリプトン)、放射性ヨウ素が気体の状態のとして漏出し、建屋も水素爆発で崩壊している状態ではそのまま上空に放散された。
放射性雲となって同心円状に拡散しつつ揺らぎながら風向きによって方向付けられて東北・関東、そして太平洋沖へと漂った。
東北・関東内陸部及び太平洋沖を覆い地球上に拡散した放射性雲は小雨や霜といっしょに地上部や海洋に落下し、放射性物質は建物や人体ならびに野菜や土壌、そして海洋ならびに他国を汚染し放射線を放出している。
現時点では吸入や食物による経口摂取による体内被曝を注意深く回避すること。衣類や建物そして土壌と作物の有効な「除染」を急ぐ必要があります。
4.震災を受けた東北の人々の復興支援が最優先課題の中で、このような原発事故による二重苦と広範な地球規模の汚染と被害をもたらした政府・電力会社の責任を明確にし、これからの生産や消費のあり方を抜本的に見直す国民的作業をすすめることを提案します。
http://www.coop-joso.jp/newsletter/pdf/2011041-2.pdf

常総原発による脱原発の主張は、3月11日より10日もたっていない時になされており、かなり早期のものといえるだろう。特に浜岡原発については、直ちに停止すべきとしている。また、「必要な整理された正確な情報を公開し、「危険は危険」として、危機の冷静な判断ができるようにすべきです。パニック回避のバイアスのあまり、「直ちに健康に影響を及ぼすものでない」とか、「まだ余裕がある」とか、学者や政治家や評論家が軽々に言うべきではないと思われます。」と、情報隠蔽や事故の過少評価を戒めていることにも注目される。

そして、この文書の後半では、その当時知り得た福島第一原発事故の状況がまとめられている。その上にたって、二つのことが提言されている。一つは、「現時点では吸入や食物による経口摂取による体内被曝を注意深く回避すること。衣類や建物そして土壌と作物の有効な「除染」を急ぐ必要があります」ということである。もう一つは、「震災を受けた東北の人々の復興支援が最優先課題の中で、このような原発事故による二重苦と広範な地球規模の汚染と被害をもたらした政府・電力会社の責任を明確にし、これからの生産や消費のあり方を抜本的に見直す国民的作業をすすめることを提案します」ということである。

この文章を今、読みながら、東日本大震災・福島第一原発直後の情報混乱状況の中で、よくこれほど的を得た主張ができたものだと感嘆するしかなかった。当時の政府、東電、推進派学者、マスコミは、場当たり的な発言を繰り返していた。そして、私なども、これらの場当たり的な発言に不信感をもちながらも、何が一番問題なのかということを十分把握できなかった。3.11以後、最初に開かれた大規模な脱原発デモは高円寺のデモであるといえるが、それも4月10日である。3.11から10日もたたない時に、常総生協は、福島第一原発事故の問題点を把握して、脱原発を主張し、東電、政府、マスコミ、推進派学者を批判していたのである。

次回以後、常総生協の取り組みについてみていきたい。

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2013年1月19日、首都圏のホットスポットの一つとなってしまった柏市で、原発反対派の小出裕章氏と原発推進派(厳密にいえば放射線利用推進派となるが)の小林泰彦氏が対談するという、異色の講演会が開かれた。講演会の広告は、次のようなものである。

電気の消費地であり、被災地でもある東葛地域(千葉北西部)での真っ当な放射線対策とは?
私達が今後、どのように生きていくのか、共に考えましょう!
ついに実現します
 小林泰彦さん(独立法人日本原子力研究開発機構)
 小出裕章さん(京都大学原子炉実験所助教)
このおふたりを迎えての講演会です 

【 日 時 】 2013年1月19日(土)19:00~21:30(開場18:30)
【 開 場 】 柏市民文化会館 大ホール
【 入場料】 前売り 500円  当日800円
【 主 催 】 1・19 柏講演実行委員会        
◎18歳以下 入場無料! 中・高校生のみなさんも、親御さんとご一緒に
◎保育あり! 生後6か月以上 500円   1月9日まで
          保育申込み 08051920187 たねだ
◎手話通訳あり!
◎お帰りのバス  会場でバス券販売 先着120名 200円
http://www.facebook.com/events/142623802554726/?ref=22

この講演会は、前評判が高く、会場であった柏市民文化会館大ホール1600席のうち、前売り券1500席が売り切れ状況となったとのことである。柏市などのことをブログで取り上げていたので、私も行こうかと考えていた。しかし、前売り券売り切れの情報を聞いて、もしかすると満員で入れないかもしれないと思った。それでも、とりあえず会場の雰囲気だけでも知っておこうと思い、柏市文化会館まで行ってみた。早めにいって整理券をもらい、当日券価格で入場できた。

市民文化会館前は開場時間前から長蛇の列だった。これほどの人数が来るとは主催者側も予想していなかったらしく、入場方法などをめぐって参加者とトラブルになったところもあった。18時30分から入場が開始されたが、講演会開始の19時まで会場に入って来る人びとは絶えなかった。結局、1600席満席になったとのことである。

最初に主催者の挨拶があり、この講演会の趣旨が説明された。当日配布されたレジュメ(なお、実際の挨拶は、内容的には一致しているが、表現などは必ずしも同じかどうかいえない)によると、次のように趣旨説明されている。柏市のある東葛地域では福島第一原発事故によって放射線量の高い地域となり、さまざまな運動が展開されるとともに多くの講演会・学習会が開催された。しかし、そのうちに

体にあたえる影響については『大丈夫だ』と思う人は講師がそう言ってくれる講演会へ行き、『いや心配だ』と思う人はそう言ってくれるところへ行く、そんな風に分かれはじめ、その距離は離れ話題に上ることも少なくなり、その相手も選ぶようになってきました。これで本当に子どもは守れるのか?

という状態になったと挨拶では述べている。そして、次のように、この講演会のねらいについていっている。

「原発事故子ども・被災者支援法」が制定されましたが、適用地域は今まさに検討中です。この地域で子どもに対する責任が果せれば、被ばくを強いられ声を上げにくい福島でも子どもを保護することにつながる、とも思います。
 そして原発は危険だからと首都圏から遠く離して建てたのに(ひどい話ですが)、190kmも離れたこのあたりで被曝することになった。しかもここは福島原発で作った電気の消費地でもあった…。私たちだからこそできることがあるだろう。何をすれば?という思いもあります。
 昨年初夏、原発の危険性について訴えてこられた小出裕章さんに講演のお願いをしましたところ、「原子力を推進している人との対談がしたい」というご希望をおっしゃいました。いろんな方のご協力で、小林泰彦さんが、放射線を利用する立場の専門家として受けてくださったというのが経緯です。立場の違う専門の方の意見を正面からとらえて考えてみる…あってもいいはずなのになかなかない機会に立ち会うことになります。貴重な時間ですので冷静にお聞きくださるようお願いします。答えはそれぞれでお持ち帰りになることになると思います。
 今後もタブーを作ることなく話しあうそんな機会が未来を拓くでしょう。本日の講演会が有意義なものとなり、被害者をこれ以上出さないためのきっかけとなることができれば主催者としての本望です。

つまり、小出氏の希望もあり、立場の違う専門家の意見を正面からとらえて聞く機会にしたいということなのである。

そして、まず小林泰彦氏が「柏地域の子どもたちのための真っ当な放射線対策とはー被害を最小にするための基礎知識」というテーマのもとで講演を開始した。小林氏は、日本原子力研究開発機構量子ビーム応用研究部門(高崎市)に所属している。ちなみに、この高崎市の施設は、中曽根康弘が研究用原子炉のかわりに誘致したものである。当日配布したレジュメを中心にして小林氏の論旨を追っていこう。なお、後述するが、小林氏は、新しい知見を入れており、時間の関係もあって、レジュメの内容と実際の講演内容はやや違っている。

小林氏は、「放射能」は、「物理法則に貫かれた自然現象であり、宇宙の姿そのもの」であって、「得体の知れない不気味なものでは」なく、医療や産業にさまざまに活用」されていると述べ、放射線防護は放射線障害の発生を最小限としつつ社会の中で放射線を利用することであると主張する。とにかく、放射線利用のための放射線防護という発想なのである。その上で、放射線被曝における発がんリスク増加については、一度に100ー200mSv以上当れば、将来の発がんリスクが線量に応じて直線的に増加するとしながら、100mSv以下では他の発がんリスクにまぎれて、本当に影響があるかどうかは不明とした。しかし、100mSv以下でも直線的関係があると仮定し(これをLNTモデルという)、その仮定に基づいて放射線の発がんリスクを推定、他のリスクと比較しつつ、線量限度などが決められているとする。小林氏は、例えば、飲酒、喫煙、肥満、運動不足などの生活習慣よりも100mSv未満の被曝のほうが、発がんリスクの増大ははるかに少ないと主張した。その上で、「平常時」においては、放射線リスク削減の「代償」(たぶんコストの意味だろう)が無視できるので、一般公衆の場合、年間1mSv未満に被曝を抑えるべきだが、緊急時においては、避難、移住、家族離散、食品放棄、耕作放棄、除染などの放射線リスク削減の代償が明らかであり、これらの負担によるリスク増大とトレードオフした形で判断しなくてはならないと述べている。重要なことは、小林氏は、法律上の一般公衆の線量限度である年間1mSvは安全と危険の境界ではないとしていることである。1mSvとは自然放射線の変動レベル(なお、自然放射線は世界平均で年間2.4mSvという)であり、これは、健康リスクではなく「倫理的配慮」としているのである。

なお、小林氏は、主催者側と話し合って、配布されたレジュメにはない、より専門性の高い議論を、この講演では述べている。放射線被曝による発がんリスクの増大は、個々の細胞レベルにおける遺伝子損傷によるものとして、喫煙などの他のリスクも遺伝子損傷の原因となっていること、生体には細胞レベルでの遺伝子損傷のダメージを修復するシステムが備わっていることを主張した。また、放射線被曝における高線量と低線量の違いについて、高線量においては同時に多数の細胞が放射線に照射されることになるが、低線量では、少数の細胞が時間を置いて放射線に照射されることになると説明している。これは、小林氏自身の研究テーマの一つらしい。

小林氏の話は、かなり時間をオーバーし、最後はかなりはしょらざるをえなかった。ただ、レジュメでの結論部分は、このようになっている。

子どもたちと地域の未来のために
今なすべきこと
・被ばく線量の測定と公開
 局所的な線量率より個人個人の累積線量
・その線量による健康影響(リスク)評価
 専門家の一致した評価、科学的根拠
・評価に基づいた関係者の対話と合意形成
 リスクの定量と比較
  気にする自由 VS 気にしない自由
  「許せる」 VS 「許せない」
 リスクの総和を最小にするには?
科学的根拠+価値観+資源⇒現実的判断で意思決定
 互いに歩み寄り、自分たちで納得して決める

小林氏の話は、低線量の放射線被曝による発がんリスクの増大を極めて小さなものとし、避難、除染などそれをゼロにするコストと比較して「現実的判断」で意思決定すべきとしていると概括できるだろう。

続いて、小出裕章氏が「原子力利用と被曝」というテーマで講演を行なった。小出氏の場合も、時間の関係で後半はしょらざるをえず、レジュメと実際の講演内容は異なっているが、ここでもレジュメを中心にみておこう。

小出氏は、福島第一原発事故で放出されたセシウム137は、少なく見積もっても広島原爆の168発分であり、福島県の東半分を中心として、宮城県、茨城県の南部と北部、栃木県・群馬県北部、千葉県の北部、岩手県・新潟県・埼玉県・東京都の一部が放射線管理区域(1㎡あたり4万bq)に指定しなくてはならないほど汚染されたとしている。小出氏は、むしろ低線量のほうが危険度は大きいとしつつ、とりあえずICRP-2007年勧告などを引用して「約100ミリシーベルトを下回る低線量域でのがんまたは遺伝的影響の発生率は、関係する臓器および組織の被曝量に比例して増加すると仮定するのが科学的に妥当である」とした。そして、100mSv以下の被曝をしてはいけないという国家の法律があり、それを無害という学者は刑務所に入れるべきであるが、国家がその最低限の法律を守っていないとした。さらに、「福島原発事故を引き起こした最大の犯罪者は政府であり、その政府は事故が起きたら、それらをすべて反故にした」と主張した。

小出氏は、福島原発事故による、失われた土地、強いられる被曝、崩壊する1次産業、崩壊する生活などの多大な被害は、東電だけでなく日本国が倒産しても賄いきれないとした。そして、地域住民には「被曝による健康被害」か「避難による生活の崩壊」かという選択がつきつけられているとした。特に、柏市を中心とした千葉県北部、茨城県南部は日本の法令を適用すれば放射線管理区域に指定されるとし、自身の体験をもとに、放射線管理区域では何も飲食できないし、汚染されたまま外出することもできないし、汚染された物を持ち出すこともできないことになっているのだが、それと同等に汚染された地域でも、普通に生活することが強いられているとした。本来、このような地域からは避難したほうがよいのだが、避難による生活の崩壊をおそれてそれができないとしているのである。

小出氏は、このように汚染された世界の中で「この自体を許した大人として、私たちはどう生きるのか?」と問いかけ、氏自身としては「子どもを被曝から守りたい」と主張した。原子力を選んだ責任は、政府や東電が一番重いが、放射線に携わってきた自分などにも責任はあり、さらに、このような原子力を容認してきた人びとーこの会場の聴衆にも責任はあると語りかけた。しかし、子どもたちには責任はない。そして、責任のない子どもたちこそが放射線感受性が高いのだと小出氏は述べた。

時間がなく、後半はかなりはしょりながら、小出氏は結論として、次のように述べた。

一人ひとりが決めること

自分に加えられる危害を容認できるか、あるいは、罪のない人々に謂れのない危害を加えることを見過ごすかは、誰かに決めてもらうのではなく、一人ひとりが決めるべきこと

小出氏の講演は、低線量であっても放射線被曝は健康に悪影響があるとし、そのことを広範囲にまねき、さらに事態を放置している政府・東電・学者たちを批判するともに、小出氏自身を含めた多くの人びとが将来の世代に対する責任をおっているとしたものといえよう。

この後、休憩をおかず、討論になった。この討論部分については、http://kiikochan.blog136.fc2.com/blog-entry-2732.htmlが討論部分のおこしを行なっているので、これに依拠しながら、記憶により補いつつ、重要と思われる部分をみておこう。

まず主催者(実行委員長)の柳沢典子氏から、両者の報告を簡単に概括した後、次のような質問が行なわれ、小林氏は次のように答えている。

柳沢:
小林さんのお話しの中で、事前に私たちがお出ししました質問で、このあたりの放射線レベルについて、小林さんはこのあたりのレベルについてどうお考えか?という所がちょっとお話が無かったような気がするんですが、よろしいでしょうか?
小林:
じゃあその点は、えーっと、柏市の市のホームページに出ている数字などいろいろ見て考えたんですけれども、今私自身が、皆さんに「こうしたらいいですよ」っていうつもりで言ってもしょうがないわけで、自分だったらどうするか?という事で考えると、私だったら、もう全然気になりません。小さい子もそれでいいと思う。もし、自分の家族がいてもそれは気にならない。それは学問上の確信があります。

そして、そうですね、私が配ったスライドの最後のところ、被ばく線量の測定と公開という所、これは今非常に市もやられているし、詳しい情報が出ている。ただしこれから気を付けるべきことは、「どこが何ベクレル汚れている」っていうことよりも、そうではなくて、「今住んでいる人がどれ位のシーベルトで放射線を受けているのか」これを基準にし一人一人考えるのがいいと思いますね。

公共施設などは非常に低くなっていますから、全く問題ないと思います。それから、通学路などで、もしところどころマイクロスポットと呼ばれているような所があったとしても、そこをまたぎ越す時間、時間にすれば非常に短いので、それから受ける線量というのは微々たるもの。それよりも長い時間を過ごす子どもさんの寝室の窓のサンとか、屋根のトイであるとか、そういう所の掃除の徹底でもう少し下げる事が出来れば、多分そっちの方が有効なのかな?という気がしています。

後半の線量測定や除染についてのことについては問題はないのであるが、柏市の線量は問題がないとしている点について、その後もたびたび問題となり、小林氏は会場からかなり批判を浴びていた。

同じ質問に対して、小出氏は、次のように答えた。

小出:
私は先程聞いていただいたように、この柏を含めて広い地域が1平方mあたり4万ベクレルを超えて汚れています。そういう所に私は「普通の人々が住むという事自体に反対」です。

出来る事ならばみなさん逃げて欲しいと思いますし、本当であればその法律を作った日本国政府が責任を持って、皆さんをコミュニティーごと、どこかできちっと生活できるようにするというのが私は必要だと思っています。いま大地を汚している主犯人はセシウム134と137という放射性物質ですが、1平方mあたり4万ベクレルのところにいれば、1年間で1ミリシーベルトになると思います。避けることができません。それだけでももう、法律が決めている限度を超えて被ばくをしてしまうという事になる訳です。

そして今、小林さんが言って下さったように、そうではなくて局所的に汚染しているところもあちこちにあります。そういう所をきちっと調べて、子ども達が接するような場所からはそういう汚染を除くという作業を、これからもずっと続けなければいけませんけれども、環境中で放射性物質は移動していますので、ある場所を綺麗にしたと思ってもまたそこがしばらくしたら汚れてくるという可能性もありますので、これから長い期間にわたってそういう作業を続けていって、出来る限り子どもを被ばくから守るという事をしていっていただきたいと思っています。

その後、小出氏と小林氏の間で、自身の主張に対する科学的根拠について論争となった。その内容については割愛したいが、この論争の中で、小林氏は次のような言及を行なった。

小林:
普段の生活で感じて、生活の中ではリスクはあまり感じないわけですね。まぁ、そういう日常バイアスというものがある。たとえば今日ここに来られるのに歩いて来られた方、車で来られた方いらっしゃると思いますけれども、縁起悪い事言って申し訳ないけど、「帰りに交通事故に遭わないだろうか」とか、普通考えないですよね。しかしそれはゼロではない、リスクは必ずある。でも本当は皆さん日常生活の中でそういうリスクを何となく感じて保険に入ろうか、どれぐらいの保険に入っておこうかとか、あるいは飛行機で行った方がいいかな、列車の方がいいかな、という事を判断しています。ま、そういう日常的な感覚を、日常的な感覚の中に、同じように、

(会場:ザワザワ)

板倉:会場からの発言は後でお願いいたします。

小林:信用しないと、特別なリスクで考えてしまうとね、比較はしにくくなるんじゃないかなと思います。

つまり、日常生活におけるリスクは考えないのに、なぜ放射線のリスクだけ考えるのだということなのである。(会場:ザワザワ)とあるが、これらは、ほとんど、小林氏を批判する声であった。そして、この議論の別のところでも、同様の発言を行い、やはり、かなり会場から反発されたのである。

さらに、柳沢氏からは、「科学とは何か」という質問が出された。

柳沢:
次の質問ですが、科学というものについてちょっとお伺いしたいんですが、科学というのはなんだというふうに思われるでしょうか?
科学者としてどういうふうにあるべきだと思われるでしょうか?科学から誘導される利益と人の健康リスクをどのように思われるでしょうか?
それについて小林さんから

小林:
はい、科学には二つの役割があると思います。
一つは、人間の生活を安全に豊かに便利にする科学。物理的な心ですね。
もうひとつは訳の分からない不安、恐ろしい事、理解できない事を減らして、心の平穏と言いますか、あ、わかった、知らない所が分かった。「だんだん知っている世界が広がった」という、そういう喜びのもとにですね、そういう営みで。
で、世の中で、この複雑な世の中で、「物事をどっちにしたらいいだろう?」と決めて、いろいろと迷う時に、一番多くの人が納得できる物事の決め方が、科学の実験で明らかになって、「ああこういうだ」と思って決めていく。そういう事なんだろうと思います。

小出:
それは、その通りだと思います。
ただし、科学というのは要するに、自然、世界というものが、どういう姿なのかという事の真実を知りたくてやっているんですね。

で、長い間科学をみんな、沢山の人が関わってやってきた訳ですけれども、「知れば知るだけまた分からないものが広がってくる」という、
そういうのが科学という場所の世界でした。だから、科学というのは非常に大切なものです。わたしも科学に携わっている人間としてそう思います。人々を平和に、そして豊かにするというためにも大変力を持ったものだと思いますけれども、でも「科学は万能ではない」のです。必ずいつも「分からないものがある」というのが、むしろ科学の本質になっているわけで、「全てがもう分かってしまっている」というふうに、科学に携わる人が思ってしまって、「自分たちの判断が必ず正しい」と思いこむようなやり方は間違いだと、私は思います。

小林:もちろんそうですね、誰も反対しないと思います、科学者ならば。

この二人の意見の微妙な交錯は興味深い。小林氏は科学について①人間の生活を豊かに安全に便利にするもの、②不安、恐怖、無理解をへらして、納得できる意思決定をしていくものとししているのである。いわゆる、小林氏などの「リスク・コミュケーション」による「合意形成」というのは、後者に属するものであろう。

他方で、小出氏は、小林氏の「科学観」を否定はしないのであるが、「科学はやればやるほどわけのわからないものが出てくる」とし、科学は万能ではなく、「自分たちの判断が必ず正しい」と思い込むのは間違いだとしている。そして、そのこと自身は小林氏も反対しないのである。

そして、会場の聴衆からも、多くの質問が出された。専門的なものが多く、すべてを概括できない。私の覚えているものは、数字はわからないが、私たちは何のメリットもなく被曝によるリスクをおった、「人権を無視しても科学のメリットを生かされてもいいのか?科学のメリットのために人権は無視されてもいいのか?」というものであった。それに対して、両者は次のように答えた。

小林:
じゃあ、わたしから。
多分そういう質問にはお答えがずれていると思うんですけれども、さっき私が伝えたかった事はこの場でこの後どうしたらいいのか?ということで、汚されてしまってけしからんと、腹が立つというのは当たり前ですよね。完全に元通りにして欲しいと思う気持ちは当たり前です。自分だってそう思います。
でもそれが無理な場合に、じゃあどうするのか?っていう時に、一番自分と子どもにとってベストな方法をさがす。で、どれがベストなのか?
比べても分かりにくいところを図るための知恵が科学なんだろうと、そういう事になると思います、今の話しのなかにも。

柳沢:小出さんはいかがでしょうか?

小出:
私からは特にお答えするような事は無いと思いますが、科学は万能ではないし、科学が間違えることもあるし、原子力というものをやってきたことも、私は間違いだと思っています。それによって被ばくというリスクが新たに加えられてしまって、被ばくというのはメリットは何にも無くて、害悪だけがあるという、そういうものです。ですから今回の汚染というものは、全く正当化できないという、そういうものが生じている訳で、今後そういう正当化できない行為をどうすれば防ぐ事が出来るかという事を考えてほしいと。ま、科学も、そういうふうにきちっと考えて答えを出すべきだと思います。

小林氏にとっても、被曝に対する憤懣の念があることは認めているのである。しかし、完全な現状回復は無理であるから、ベストな方法をさがすのが科学という知恵だとしている。他方で、小出氏は、被曝という全く正当化できないものをつくり出した科学は万能ではなく、そういうことをどのようにしたら防ぐことができるかと答えている。

そして、ほぼ最後のほうで、柳沢氏は、次のような質問をしている。

柳沢:
一つわたくしからの質問をさせていただいてもよろしいでしょうか?
1ミリシーベルトというのが倫理的な基準であるというふうに、小林さんはおっしゃっているんですけれども、そうしますと、1ミリシーベルト以下を目指している柏市の除染というのはどういう事になるというふうにお考えになりますか?

小林:
倫理的なというのは、もう十分に低いから、適当に止めてもいいよという判断は正しくないだろう。だから放射線の変動レベル、事実上ゼロとみなしても、変動レベルという意味で、見なくてもいいという所まで、元通りに近いところまで除染していくっていうのは、倫理的に求められているという事です。そうしないと健康に影響が出る恐れが高いからという意味ではない。そういう意味で倫理的にということです。

柳沢:それに関しては小出さんは?

小出:
わたしですか?
私はもう繰り返して言っていますけれども、子どもたちに被ばくのしわ寄せをするという事は、私はやるべきではないと思っていますので、限りなくこれからも子どもたちの被ばくを減らすための作業というのを続けて欲しいと思っています。

そして、最後に主催者の柳沢氏より、小林氏が講演に応じた経緯が紹介され、2011年3月15日、前からもっていた線量計が警報をならしたこと、そして、その頃、子どもたちが公園で遊んでいる時、マスクを渡したがつけてくれなかったことなどをのべ、柏地域が「原発事故子ども・被災者支援法」の対象地域になるよう運動していくことなどを述べて、講演会は終了した。

この講演会は、原発推進派と反対派が同じ壇上にたって議論を行なったという意味で、異色であり、大きな価値があったと思う。特に、原発推進派の議論が、原発事故で被害を被った人たちの目からみて、どのような問題点がみえてくるのかということを如実に示しているといえる。小林氏と小出氏の見解の違いの一つは、「低線量被ばく」の影響をどうみるかという「科学的」なものである。そして、そのことは、聴衆であった一般市民の側にもおおむね了解されており、ここでは紹介できなかったが、かなり専門的な質問が飛んでいた。

他方で、この二人の違いは、科学というよりも、実践的姿勢の違いというところからも生じているように思われる。小林氏自身は、被曝の不当性は認めている。しかし、低線量被ばくの影響を少なく見積り、年間1mSvとする営為を「倫理的」でしかないとした上で、被曝からの現状回復を不可能なものとし、いわば状況を追認した形で「合意形成」をはかるということになるのである。その中で、科学ーというかむしろ小林氏自身の学説についてのようにみえるのだがーについては、物事を決める規範として認識されている。それを前提として、ある意味では「あきらめ」を説いているといえる。

小出氏の場合は、放射線被曝(彼は自然放射線も有害としている)全般を有害だとしながら、それを広範囲にひき起こし、この事態を放置している人びとの責任を、自分自身や聴衆も含めて問うているのである。そして、それは、自身が担ってきた科学への懐疑にもつながっている。このように、実践的な姿勢において、この両者は違っている。

ともあれ、このように比較して検討することを可能にした点で、この講演会の意義は大きいといえるのである。

他方で、このような講演会が行なわれた柏市を中心とした東葛地域の状況や、この講演会が東葛地域の今後にどのような意味をもってくるのか、そのことを考えて行きたい。

追記
この講演会についてはIWJがユーストリーム中継を行なっており、下記の動画で全体を視聴できる。前述したように、実際の講演内容とレジュメはやや違っているので、より詳細に内容を知りたい方はみてほしい。

http://www.ustream.tv/recorded/28626790

http://www.ustream.tv/recorded/28627168

また、前述したように、下記のブログが討論部分のおこしをおこなっている。

http://kiikochan.blog136.fc2.com/blog-entry-2732.html

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2012年10月10日、首都圏における放射性セシウムのホットスポットとなってしまった千葉県柏市をとりあげ、「世論におされて子どもの被ばく線量を年間20mSvから1mSvに変更した文部科学省ー公共の場における柏市放射線量問題の提起の前提として」という記事をここでアップした。

だいぶ、長らく、続きを書くことができなかったが、最近、やはりホットスポットになってしまった近隣の茨城県取手市を取り上げることになったので、ここで再開することにした。

3.11直後、柏市は、最高0.74μSv/h(2011年3月24日)を計測するなど、今の0.23μSv/hという基準からみれば、かなり高線量の放射線にさらされた地域であった。しかし、柏市に所在し、空間線量を計測していた国立がん研究センターと東京大学は、この程度の線量ならば健康に支障がないと言い張り、柏市役所も追随するしかなかったのである。その意味で、柏市の高線量は問題とされなかったのである。

先のブログでは、柏市の高線量が問題化されたのは、福島などの人びとの声を受け入れざるをえなくなって、文部科学省が2011年5月27日において学校における子どもの被曝量を年間20mSvから1mSvに事実上引き下げたことを契機としているとした。年間20mSvを基準とする場合、1時間あたりでは3.8μSvになるとされていた。その20分の1は、0.19μSvである。現在、一般的公衆の被曝限度は年間1mSv、0.23μSv/hが基準となっているが、その源流といってよいだろう。

大きくいえば、この文科省の年間1mSvへの基準強化が原因になっているとはいえる。しかし、それ以前からも、この地域の住民から、放射線を測定し、対策を求める声は存在していた。2011年6月17日付朝日新聞朝刊は、次のように報道している。

放射線 首都圏も敏感 変わる日常 「3.11」後を生きる 柏・松戸地域 母親ら「ホットスポットでは…」

 東京電力・福島第一原発の事故以来、首都圏でも、千葉県柏市や松戸市など、周辺と比べて高い放射線量が観測されている地域がある。放射性物質が局所的に集中する「ホットスポット」なのではないかと不安を抱いた市民らが自治体に独自の測定を要請。当初は慎重だった自治体も、住民の声に背中を押されている。

 一帯の放射線量が注目されるようになったきっかけは、東京大学柏キャンパスの測定値だった。事故直後の3月21日に毎時0.8マイクロシーベルトとなったのを最高に、6月17日になっても毎時約0.25マイクロシーベルト前後を記録。同大が一緒に公表している本郷(東京都文京区)、駒場(同目黒区)の値と比べ、一貫して高くなっている。
 さらに、柏市内の女性の母乳や、松戸市の県営浄水場から放射性ヨウ素が検出された。しかし、千葉県が放射線を測定しているのは、約40キロ離れた市原市の1カ所だけ。このため、一般の人が放射線量を測定する動きが出てきた。
 柏市の主婦、美土路優子さん(33)も5月の連休明けに線量計を購入し、自宅周辺の測定を始めた。
 3歳の長男は事故以来、島根県の夫の実家に預けたままだ。行政にもきちんと対応して欲しいとの思いが募り、「ママ友」と一緒に、市に対して独自測定を求めようと決心した。ネットで賛同を呼びかけたところ、2週間ほどで1万人以上の署名が集まった。
 今月初め、市役所に署名提出に行くと、70人以上が集まった。大半は子を持つ年代の女性だったが、ほとんどが初対面だったという。「ふつうの主婦で知識も行動力もないけど、一致団結できたら大きな力になる」。美土路さんは不安が解消されるまで、声をあげ続けるつもりだ。

このように、柏市では、2011年5月から、自ら自宅周辺の測定をするとともに、行政にもきちんと対応してほしいと声をあげる人たちが出現してきたのである。

この朝日新聞で氏名があげられている美土路優子は、ネットで検索してみると、「柏の子どもたちを放射能汚染から守る会」を結成し、6月2日に要望書と署名を柏市に提出している。その要望書の内容は、この会のサイトでみると、以下のようなものであった。

【要望書内容】
柏市長 秋山浩保 様
原発事故による放射能汚染のニュースが毎日ながれ、子どもたちの将来にとても不安を感じています。

インターネットで公開されている東大柏の葉キャンパスやがんセンター東病院の放射線量は千葉県環境研究センターの数値の約10倍で、いわき市や水戸市よりも高くなっています。

柏市が未来をになう子どもたちの命と健康を守るため、早急に以下のことに取り組んでくださるよう、強く要望いたします。

1、柏市が独自に、保育園・幼稚園・小中高等学校・公園など、子どもたちに関わるすべての施設の「屋内、屋外地上1m、地表」の放射線量を測定し、情報を公開すること
2、放射線を出すものを取り除くこと(グラウンドの土や、公園の砂などの入れ替え)
http://kashiwamoms.wordpress.com/

このサイトでは、この要望書と署名が渡された時の状況についても、以下のように述べられている。

「柏の子どもたちを放射能汚染から守る会」の署名ご協力ありがとうございました。 お陰様でオンラインと紙署名合わせて目標であった1万を超え 10,439名分の署名が集まりました。
6月2日、柏市役所にて皆様から頂いた署名を浅羽副市長にお渡ししました。小学校などの測定資料と市原との比較資料、柏の放射線が確実に高いのを踏まえ行政が先立って教育の現場に放射線の危険性を伝えて回避に努めて欲しいこと 、年間1ミリで除染をしてほしいことなど皆で伝えました。
これから市がどう対策を打つのか注視していきたいと思います。 署名提出は締め切ってはいませんので引き続き市の動きを見ながら集めて行きたいと思います。
代表 大作ゆき、美土路優子
http://kashiwamoms.wordpress.com/

口頭では、明確に年間1mSvを基準に除染してほしいと要望しているのである。

このように、地域住民が放射線への不安の中で、放射線量の測定と対策を求めている中で、東京大学の「専門家」たちは、いまだに「健康に影響はない」と繰り返していた。先に挙げた、2011年6月17日付朝日新聞朝刊の記事では、東京大学の中川恵一の「普通に生活していい」という談話を紹介している。

普通に生活していい

 中川恵一・東京大准教授(放射線医学)の話 東大柏キャンパスのように放射線量が高い地点が生じているのは、気流に乗って福島第一原発から運ばれてきた放射性物質が雨などで地面に落ち、地中に染みこんだことが理由と考えられる。ただ、同地点の放射線量は今、国際基準からみても健康に影響がないとされるレベルだ。大気中に放射性物質がまだ残っているわけでもなく、子どもたちが吸い込むことはほとんど考えにくいため、外で遊ばせないなど過剰に反応する必要はない。マスクをつけさせたり長袖を着させたりする必要もない。その半面、心配する親の気持ちもわかる。自治体が放射線量を測定することで親が安心するのならば、意味があると思う。

結局、板ばさみとなったのは、この地域ー柏市、松戸市、我孫子市、野田市、流山市、鎌ヶ谷市で東葛6市といわれるがーの首長たちだった。柏市のサイトによると、5月17日に、この東葛6市の市長たちは連名で千葉県に、大気中および土壌の放射線量などを測定・公表することを要望している。しかし、市民の要求は日増しに増えてきた。市側も紆余曲折しながら、独自測定をしなくてはならなくなった。2011年6月17日付朝日新聞朝刊の記事では、その過程が叙述されている。

 

独自測定へ市も動く

 柏市にはこれまで、放射線の影響について、電話やメールで6千件近い問い合わせが寄せられた。松戸市や流山市など、県北西部の自治体にも相次いでいる。
 ただ、庁内に放射線の専門家がいるわけでもない。柏市の担当者は「なぜ東大の数値は高いのか、という質問が多いが、市では答えられない」と打ち明ける。
 周辺6市で最初に独自測定に向けて動き出したのは松戸市だ。5月22日に公園や保育園で測定を始めた。
 だが、共同で測定する計画を立てていた残りの5市は「測定方法やデータの評価法を統一しなければ混乱を招く」と反発。松戸市内部でも「対応策が決まっていないのに、データだけ公表すれば不安をあおる」との意見が市教委から出て、小中学校と高校の測定開始は6月6日にずれこんだ。
 松戸市が先行するなか、他の市には「なぜ測定をしないのか」という意見が次々寄せられ、我孫子市は5月27日、柏・流山両市は6月6日に測定を開始。さらに野田市、鎌ヶ谷市を含む6市の要望を受けた千葉県は周辺地域の18カ所で測定を開始した。被曝量を年間換算したところ、文部科学省が暫定上限値としている20ミリシーベルトは下回ったが、15地点は目標の1ミリシーベルトを超えた。
 もっとも、年間1ミリシーベルト換算の放射線は、県内の他の場所でも観測されている。柏市周辺で局所的汚染が起きているかどうかは、はっきりしない。
 6市の対策協議会は13日から、県や各市の独自測定とは別に、精度が高い機器を使って学校や公園など36カ所で測定を開始した。1回目の結果は、17日午後に公表する予定だ。
 「ホットスポットの可能性」は他の地域でも指摘され、詳細に放射線量測定をする自治体は首都圏全体に広がり始めている。
(小松重則、園田二郎)

東大などの「専門家」が「健康に支障がない」という中で、住民の要求におされ、ようやく、この地域の首長たちも独自に放射線を測定することをはじめたといえる。「専門家」ではなく、住民の声が、それぞれの市で放射線対策を実施する原動力となったといえよう。そして、このように、放射線対策を行なっている中で、このホットスポットの汚染状況の深刻さがあきらかにされてくるのである。
 

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このブログで前述したように、2012年12月25日、市民団体の調査によって、茨城県取手市の小学1年生、中学2年生の間で、心臓疾患のおそれがある児童・生徒が増加していることが発表された。

この茨城県取手市というところは、茨城県南部に所在し、福島第一原発からかなり離れたところにある。しかしながら、福島第一原発事故当時、多くの放射性物質が降下し、高い放射線量を示したところであった。

ここで、文部科学省が2011年8月31日に修正発表した、「文部科学省及び茨城県による 航空機モニタリングの測定結果」をみてみよう。まず、放射性セシウム(セシウム134、セシウム137の合計)沈着量をみておこう。

茨城県における放射性セシウム沈着量

茨城県における放射性セシウム沈着量


http://radioactivity.mext.go.jp/ja/contents/5000/4933/24/1940_0831.pdfより

みてわかるように、福島県境にある北茨城市、大子町に放射性セシウムが大量に沈着した地域があるが、県南部の、霞ヶ浦と利根川にはさまれたはるかに広大な地域において放射性セシウムが大量に沈着しているのである。その中心は阿見町、牛久市であり、その地域では、放射性セシウムの沈着量が10〜6万bq/㎡となっている。そして、そのまわりの、かすみがうら市、土浦市、つくば市、つくばみらい市、守谷市、龍ケ崎市、利根町、稲敷市、美浦村には、6〜3万bq/㎡の地帯が広がっている。

取手市は、この県南部の一角にある。ほぼ全域が、6〜3万bq/㎡の放射性セシウムが沈着している。しかも、取手市内部には放射性セシウム沈着量が10〜6万bq/㎡のところも存在しているのである。以前、ここで、千葉県柏市の放射線量を紹介したことがあったが、取手市の対岸にある、利根川南岸の千葉県我孫子市、柏市、流山市も同様の放射性セシウム沈着量を示している。取手市もまた、首都圏のホットスポットの一つなのである。

実は、放射性管理区域の基準は3万7000bq/㎡ということになっている。その基準でいくならば、ここであげた地域のかなりの部分は放射性管理区域になってしまうのである。

取手市を含む、茨城県南部の空間線量も同様に高い。下図をみてみよう。

茨城県の空間線量

茨城県の空間線量


http://radioactivity.mext.go.jp/ja/contents/5000/4933/24/1940_0831.pdfより

現在の基準である年間1mSv未満に被曝量を抑えるためには、空間線量は毎時0.23μSv以下でなくてはならないとされている。もちろん、両基準とも信用できるかどうかはわからないが、一応の目安にはなるだろう。その基準でみても、取手市内の多くの地域が毎時0.2μSv以上となっていて、多くの地点で基準以上の空間線量を示しているといえよう。

取手市のみの空間線量マップをみておこう。それもまた、同じ傾向を示しているのである。ざっとみて、市内の半分くらいが、毎時0.23μSvを超えた空間線量を示しているといえる。

取手市の空間線量

取手市の空間線量


http://www.city.toride.ibaraki.jp/index.cfm/8,15622,c,html/15622/20121206-162655.pdfより

取手市では、2011年5月13日から、小中学校、保育所、幼稚園の放射線量測定を始めたが、かなり高いところが続出した。毎時0.23μSvをこえるところはかなり多い。一番高いところは、0.449μSv(高さ1m)であった。2011年7月13日よりは市内の緑地・公園でも放射線量の測定を行なっているが、一番高いところでは毎時0.48μSv(高さ1m)であった(取手市のサイトより)。取手市の空間線量マップでも一番高いところが0.4μSvなので、大体一致している。

もちろん、現在(2012年12月)は、除染などの効果もあって、小中学校や保育所などの空間放射線量は毎時0.23μSv以下になっている。公園・緑地などでもおおむね毎時0.23μSv以下になっているが、いまだ0.39μSv(1m)などの高い線量を示すところも部分的にはあるようである(取手市のサイトより)。

このように、現在はかなり下がったようであるが、福島第一原発事故直後、隣接する茨城県南部や千葉県西北部と同様に、取手市でも放射性セシウムが多く降下し、この地域は首都圏におけるホットスポットの一つとなった。ゆえに、この地域の住民はかなり高い空間線量にさらされたのである。その意味でも、取手市の小中学生に健康被害が増加している可能性があるというニュースは懸念すべきものなのである。

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