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Posts Tagged ‘紅白歌合戦’

一昨日(2011年12月31日)、例年のごとくNHKは紅白歌合戦を生放送で放映した。東日本大震災があった2011年という年をNHKがどのようにしめくくるのかということに興味があって、すこし注意深くみることにした。なお、ここで、紅白歌合戦で歌われた歌について、多少批判的なことを書くかもしれないが、その歌や歌っていた歌手を批判するつもりではなく、NHKの紅白歌合戦に対する姿勢を表明している材料として検討していることをまず申し述べておく。それでも、それぞれの歌手のファンには不快の念を与えるかもしれない。前もってお詫びしておく。

今年のテーマは「あしたを歌おう」ということがテーマになっていた。善意でいえば、NHKは「希望」で東日本大震災のあった2011年をしめくくりたいらしいのである。そして、それが、良くも悪くも、紅白歌合戦全体のコンセプトになっていたようである。

まずは、冒頭に、「なでしこジャパン」が登場してきた。別に彼女たちに文句はない。確かに、日本社会に「希望」を与えたことも確かであろう。しかし、彼女たちの「希望」は、震災・津波・原発事故における「苦悩」を背景にしていたがゆえに輝いたのではないか。ある意味では、「明暗」の「明」しかみようとしていないように思えた。

後、大体、そんな調子で進んだ。震災や津波の被災が語られることはあまりなく、語られるとしても「希望」の前提としてみられているようである。例えば、紅組司会井上真央が、3.11当日に誕生した子どもたちを紹介していたが、それこそ、「被災」という現実よりも「明日の希望」に焦点をあてた事例といえよう。

特に、福島第一原発事故については、ほとんどふれられることがなかった。長淵剛の「ひとつ」という歌の紹介で、長淵が原発事故より避難した子どもを鹿児島に招待したということが語られていた。福島出身の人が他にも出ていたので、全く言及されていないとは思えないのだが、印象に残ったのはそれくらいだ。

全く、NHKが被災地を無視していたわけではない。被災地復興のための「応援ソング」というものもかなり多く見受けられた。例えば、福島県出身のグループ猪苗代湖ズが歌った「I love you and I need you ふくしま」などがその一つである。この歌については、賛否両論があることは承知している。とりあえず、紹介しておこう。

この歌の中では、このように福島は歌われている。

I love you,baby 浜通り
I need you,baby 中通り
I want you,baby 会津地方 福島が好き

少し調べてみて、この歌の成立は、3.11以前だったようであることを知った。それならいたしかたないのだが…。ただ、この歌詞を聞いた時の感想では、この三つの地域を同列に扱ってよいのかと思った。ただ、それは、この歌を採用したNHKの方の問題であろう。全体でいえば、「希望」を際立たせたいという、NHK側のもくろみがよく現れていると思う。すべての「応援ソング」を注意深く聞いていたわけではないのだが、いわゆる「応援ソング」はこのようなかたちで「希望」が歌われていたように思われた。

「東北」や「ふるさと」を扱った歌も多かった。ただ、郷愁の中で歌われる「東北」「ふるさと」と、現実の東北の津波・原発被災地とはかなり距離があるのではなかろうか。千昌夫「北国の春」や北島三郎「帰ろかな」では、「ふるさとに帰ろうかな」と歌われていた。しかし、帰ることができる「ふるさと」は、実在するのか。千や北島が悪いわけではないのだが。

「短期的にでも元気づける」というならば、むしろ、現実の苦悩を一時でも忘れさせ、相対化させるようなもののほうがよいのではなかろうか。津波被災地の石巻市の夏祭りで、例年にはないディズニーのパレードがでて、石巻の人びとが喜んでいる映像をみたことがある。今回の紅白でも、ミッキーが出演していた。KARAや少女時代が出演していたのも、そのようなねらいなのかもしれない。しかし、ミッキーの出演には問題がなかったが、KARAや少女時代などの「韓流」の出演については、右翼的な人びとの抗議デモを招いたのである。

さらに、どうしても「希望」を語りたいのであれば、その底流にある「苦悩」にもっと光をあてなくてはならないのではなかろうか。紅白の中で、徳永英明が、中島みゆきの「時代」をカバーして歌っていたが、その点からみれば評価できると思った。歌詞を一部紹介しておこう。

今はこんなに 悲しくて
涙も 枯れ果てて
もう 二度と 笑顔には
なれそうも ないけど

そんな時代も あったねと
いつか話せる 日がくるわ
あんな時代も あったねと
きっと笑って 話せるわ
だから今日は くよくよしないで
今日の風に 吹かれましょう

まわる まわるよ 時代は回る
喜び悲しみ くり返し
今日は別れた 恋人たちも
生まれ変わって めぐり逢うよ
(後略)

そんなこんなの、一視聴者の違和感などは、もちろん気にせず、NHK紅白歌合戦は進行していく。そして、いわゆる、ラストは、スマップが歌った。スマップの歌は、「SMAP AID 紅白SP」ということでメドレーである。「AID」とあるので、応援ソングなのだろう。このメドレーの最後をなしているのが、「オリジナル スマイル」なのである。「オリジナル スマイル」の歌詞を一部紹介しておこう。

笑顔抱きしめ 悲しみすべて
街の中から 消してしまえ
晴れわたる空 昇ってゆこうよ
世界中がしあわせになれ!

(中略)
マイナスの事柄(こと)ばかり 考えていると
いいことない 顔つき暗いぜ

笑顔抱きしめ ココロに活力(ちから)
腹の底から笑いとばせ
女神がくれた 最高の贈り物
生まれつきの笑顔に戻れ!
(後略)
http://www.uta-net.com/user/phplib/Link.php?ID=5299

この歌は、1994年に発売されており、震災とはもちろん関係がなくつくられた。歌っているスマップにも、別に、他意はない。しかし、やはり、この歌をラストにもってきたNHKの意図は、やはり「希望」を強調しようという意識なのであろう。だが、この歌を聞いていると、笑えば何でも解決できるように聞こえるのだ。

もちろん、笑うことも必要だ。しかし、今、笑っているだけで、何が解決するのか。笑っててはすまない問題もあろう。怒ることも悲しむことも、また必要なのではなかろうか。

「希望」は重要である。しかし、「苦悩」が先行していることが、あまりにも紅白歌合戦では軽く扱われているように思えた。

確かに、紅白歌合戦なんて、日本という国民国家でその年流行した歌を確認することによって、日本国民というアイデンティティを確認する国民国家の国民統合の装置ということができる。しかし、これは何だろうか。家族・友人・家・財産・故郷を失い、仮設住宅の中でようやくテレビを見ている人びとも「国民」の中にはいるはずだ。国民統合の装置であるはずが、「国民分断」の象徴のように思えてならないのだ。「共苦」という姿勢がかけたまま、「希望」だけが強調されていたのが今回の紅白だったと思う。

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