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さて、福島第一原発汚染水問題についての政府の方針が9月3日に発表された。まず、次の毎日新聞がネット配信した記事をみておこう。

福島第1原発:政府の汚染水対策 柱は「アルプス」増設
毎日新聞 2013年09月03日 19時42分(最終更新 09月03日 20時29分)

 政府が3日決めた東京電力福島第1原発の汚染水対策の柱は、地下水が原子炉建屋に流入するのを防ぐ「凍土遮水壁」の建設と、汚染水から放射性物質を取り除く多核種除去装置「ALPS(アルプス)」の増設・改良だ。両事業に計470億円の国費を投入し、汚染水問題収拾へ「国が前面に出る」(安倍晋三首相)姿勢をアピールする。

 事業費の内訳は遮水壁320億円、除去装置150億円。今年度予算の予備費(総額約3500億円)から遮水壁に140億円、除去装置に70億円を充て、事業を前倒しで進める。

 組織体制も強化。経済産業省や原子力規制庁に加え、国土交通省や農林水産省も入る関係閣僚会議を設け、汚染水を増幅している地下水対策などに政府一丸で取り組む。また、福島第1原発近くに現地事務所を設けて国の担当者が常駐、東電や地元との連携を強める。風評被害防止を狙いに海洋での放射性物質の監視を強めるほか、在外公館を通じた国際広報体制も充実させる。
http://mainichi.jp/feature/20110311/news/20130904k0000m010040000c.html

結局、国が前面に出るといっても、「凍土遮水壁」建設と多核種除去装置(ALPS)の増設・改良に国費を投じるというだけだ。問題の汚染水貯蔵タンクの改修については、いまだ東電まかせだ。9月4日のロイターのインタビューにおいて、茂木経産相は、次のように語っている。

(前略)
ただ、8月下旬に汚染水貯蔵タンクから約300トンの高濃度汚染水の漏えいが発覚するなど、事態は予断を許さない。タンク問題について茂木経産相は「(東電の)管理態勢の問題。パトロールの強化、漏えいの検出装置の設置など5つの強化策を指示した。東電もより緊張感をもって仕事に当たってくれると思っている」などと述べ、東電側の改善を見守る考えを示した。

その上で、汚染水問題を含む福島第1の廃炉作業における東電と政府の役割分担について「国が前面に出て、廃炉の問題や汚染水問題も(対応を)加速化させていきたいと思っているが、日々のオペレーションは原発を所有している東電が責任を持つことになる」と語り、作業の主体は一義的には東電だという政府としての見解をあらためて強調した。

<「廃炉庁」は否定>

未曽有(みぞう)の原発事故から2年半が経過し、失態を重ねてきた東電に対する国内外の不信感は根深い。廃炉の作業自体を国が全面的に引き受けるべきと指摘する声も少なくない。

ただ茂木経産相は、受け皿となる「廃炉庁」のような新しい組織を作る考えについては否定した。「エネルギー政策をどうするのか、大きな視野で(検討を)やらないといけない。1つの分野に限った新しい組織を作ることで作業が加速化していくかというと、必ずしもそうではないなと思っている」と語った。

(インタビュアー:ケビン・クロリキー)
http://jp.reuters.com/article/jp_energy/idJPTYE98307920130905?pageNumber=2&virtualBrandChannel=0

結局、長期的にも、東電に日々のオペレーションをまかすということであり、東電の責任ー株主や金融機関の責任をただす姿勢はない。この国費投入もまた、破たん企業東電に対する法外な支援なのである。そして、汚染水タンクの設置・管理すらできない東電に日々のオペレーションをまかすという体制こそ、一番の問題である。

さて、政府が国費を投じて行うという凍土遮水壁の設置と多核種除去装置(ALPS)の改良・増設についてみておこう。凍土遮水壁とは、原子炉建屋への地下水の流入や、そこからの汚染地下水の流出を防ぐために、凍土による遮水壁を建屋周辺の地下に設置するというものである。この凍土遮水壁がそもそも実現可能なものか、そして実現されたとしても十分機能をはたすのか、いろいろと疑問がある。また、とりあえず、これらの疑問はおいておくとしても、その設置は年単位でかかり、急場の汚染水対策には寄与できない。ただ、今は、可能と思われることを何でもするということは必要だろうとは考えられるだろう。

他方、多核種除去装置(ALPS)の改良・増設であるが、これは、大きな問題をはらんでいる。多核種除去装置(ALPS)は、従来の除去装置がセシウムだけしか汚染水から除去できないものだったのに対し、ストロンチウムその他、多くの放射性物質を放出限界以下まで除去することができるというものである。この装置は東芝製で、すでに福島原発に設置されていたが、これすらも汚染水もれを起こして、現在は稼働できないものとなっている。多核種除去装置(ALPS)の改良・増設とは、現在ある装置の不備を修繕して、さらに、増設して、どんどん東電に汚染水処理を進めさせようということを意味する。

そして、処理済みの汚染水をどうするのか。田中俊一原子力規制委員会委員長は9月2日の日本外国特派員協会における講演で次のように語っている。ここではロイターのネット配信記事を出しておく。

原子力規制委員長、低濃度汚染水の海洋放出の必要性強調
2013年 09月 2日 16:55 JST

9月2日、原子力規制委員会の田中委員長は、福島第1原発における汚染水問題が深刻化していることについて「(東電の対応は)急場しのぎで様々な抜けがあった」と指摘。

[東京 2日 ロイター] – 原子力規制委員会の田中俊一委員長は2日、日本外国特派員協会で講演し、東京電力(9501.T: 株価, ニュース, レポート)福島第1原子力発電所における汚染水問題への対応で、放射能濃度を許容範囲以下に薄めた水を海に放出する必要性をあらためて強調した。

政府や東電よると、福島第1原発1─4号機に流入してくる地下水(推定日量1000トン)の一部が、配管や電線を通す地下の坑道にたまっている汚染源に触れ、海に日量約300トンが放出されている。また、8月19日には、汚染水を貯蔵している地上のタンクから約300トンの高濃度の汚染水が漏れていることがわかり、これが排水溝を通じて外洋に流れた可能性も否定できないとしている。

田中委員長は講演で、 汚染水の海洋への影響について「おおむね港の中で、(港湾の)外に出ると(放射性物質は)検出限界以下だ」と指摘。その上で田中氏は、「必要があれば、(放射性濃度が)基準値以下のものは海に出すことも検討しなければならないかもしれない」と述べた。

多核種除去設備(ALPS)で処理した汚染水を一定濃度に薄めて海洋に放出する必要性については、田中氏が過去の記者会見でも言及した。ただ、ALPSに通してもトリチウムは取り除けない。東電は2011年5月から今年7月までに20兆から40兆ベクレルのトリチウムが海に出たと試算している。

この数値について、田中氏は「とてつもなく大きな値に見えるが、トリチウム水としてどれくらいか計算すると最大で35グラムくらいだ」と述べ、十分に低い水準であるとの認識を示した。

一方で田中氏は、タンクからの汚染水漏れなど対応が後手に回る東電の対応について、「急場しのぎで様々な抜けがあった」と指摘。田中氏は「福島第1は今後も様々なことが起こり得る状況。リスクを予測して早めに手を打つことが大事だ」と強調した。

(浜田健太郎;編集 山川薫)
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE98103M20130902

ここでは、多核種除去装置(ALPS)で処理した低濃度汚染水(もちろん、完全には取り除けない)を、海洋に放出する必要があると田中は述べた。重要なことは、この装置では、トリチウム(三重水素)は除去できないということだ。

つまり、この国費投入による多核種除去装置(ALPS)の改良・設置は、ある意味では、海洋へのトリチウム汚染水の放流につながりかねないものなのである。まさしく、技術的においても、そのような危険性をはらんでいる。このようなことがなされれば、福島県周辺の漁業者だけでなく、日本列島すべての人の脅威となろう。さらに、海洋への汚染は、広くいえば全世界の問題ともなる。オリンピック招致への影響を懸念して、国会審議もなく、このような重大な問題が決められてしまった。しかし、このことは、これではすまないだろうと考える。

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さて、今まで何度となく述べてきたが、東電は福島第一原発に対する処理能力を失っているようにみえる。それならば、国が責任をもって福島第一原発を処理していかねばならないといえるだろう。しかし、その場合、東電が現在の体制のまま、存続することの当否が問われることになるだろう。

そもそも、東京電力が民間会社のまま存続することになったのは、3.11後の菅政権の政治判断によるものである。すでに2011年3月末、震災によって被害を受けた発電所の修理、原子力にかえて火力にするための燃料費、既発行の社債償還などのため東電は資金不足に陥っていた。特に、信用力が低下したため、社債の新規発行ができず、金融機関から2兆円もの借金をすることになった。さらに、原発事故に対する多額の補償金支払いがこの当時から予想されていた。

東電は、原子力損害賠償法における「異常に巨大な天災地災」などによって生じた場合、事業者ではなく政府が損害を補償するという特例条項の適用を求めた。しかし、当時の菅政権はそれを認めず、東電が全額補償するという建前を崩さなかった。しかし、多額に及ぶと見積もられていた補償金の支払を東電が行えば、それだけでも債務超過となり、東電はつぶれるしかなかった。そのため、菅政権としては、東電救済のシステムを造らざるを得なかった。

そのために造られたのが原子力損害賠償支援機構であった。元々の案は大手銀行が作成したといわれている。原子力損害賠償支援機構を新設し、そこに他の電力会社や政府が資金を提供し、東電はそこから借金して、賠償金にまわすという仕組みがつくられた。もちろん、東電は、この借金を返さなくてはならない。政府としては、一時資金を融通するが、最終的には東電が返済するので税金は投入されないとしたのである。

この機構の新設を定めた原子力損害賠償支援機構法は2011年8月3日に成立したが、その直後の2011年8月4日に出された朝日新聞朝刊では、「政府支援の前提となるのは東電のリストラだ」と述べられている。つまり、まずは、大幅なコストカットが東電に義務付けられたのである。しかし、同紙では「最終的な負担は電気料金に回る可能性が高い」としている。実際、2012年に東電の電力料金は値上げされた

他方で、同紙は「東電の株主や金融機関など、利害関係者の責任追及は先送りされた」と報道している。倒産や破産などの法的破たん処理においては、株主や貸し手の金融機関なども損害を蒙ることになるが、破たん処理されなかった東電では、それらに直接的な損害は及ばなかったのである。結局、株主や金融機関の利益は保護されるとともに、政府は税金を投入するという責任をとらず、それらのつけは、リストラと料金値上げにまわされることになったのである。そして、今の時点で回顧してみると、この「リストラ」は、福島第一原発の廃炉費用にも及んでいたと考えられる。

そして、この矛盾は、野田政権下で2012年7月31日に決定された東電の実質国有化においても解消されなかった。東電の国有化は、前述の原子力損害賠償支援機構が1兆円もの株式投資を行う形で行われた。しかし、2012年7月31日付の朝日新聞朝刊は、まず、原子力損害賠償支援機構による東京電力救済を批判して、次のようにいっている。

 

普通なら会社更生法の適用を申請するなどして、つぶれる。「つぶさない」と決めたのは民主党政権だ。
 昨年8月、原子力損害賠償支援機構法をつくり、政府が東電に賠償のための資金を貸したり、出資したりして支える仕組みをつくった。政府が賠償の責任を持ちたくないので、東電に賠償をすべて負わせるためにつぶさなかったのだ。
 この結果、つぶれれば、「債権放棄」で貸したお金が返ってこない銀行や、株が何の価値もなくなる株主が守られ、ほとんど損をしなかった。逆に、東電の生き残りのために利用者や国民が負担を強いられる。

そして、次のように主張している。

 

さらに、賠償費用や除染費用が予想よりふくらめば、東電がつぶれるなどして政府の出資金や賠償のための支援金が返ってこないおそれもある。その時は国民の税金で穴埋めすることになる。

加えて、東電の実質的国有化は、新たな矛盾をうむことになった。前述の朝日新聞朝刊では、「一方、政府は、電力会社を監督する立場と、東電の筆頭株主という立場になり、大きな矛盾を抱える」と指摘している。そして、東電が予定している柏崎刈谷原発の再稼働を事例にして、「政府は本来、原発が安全かどうかをしっかり審査し、再稼働を認めるかどうかを決めなくてはならない」という立場と、「原発が動けば、火力発電の燃料費が抑えられるという。筆頭株主としては東電再建に黄信号がともるため再稼働しなくては困る」という立場が矛盾していることを示すのである。その上で、同紙は、東電の言い分を認めて電力料金の値上げを認可した枝野経産相(当時)の態度をあげながら「政府はこれから、常に東電の側に立つのではないか。そんな疑念を抱かせた」と述べている。つまり、この段階で東電の筆頭株主となった政府は、東電を存続させ、経営を安定させたいという意識が強まったといえる

このような形で東電が存続しているのは、菅・野田という民主党政権の責任である。しかし、その後継となった自民党の安倍政権も、他の分野でさかんに民主党政権の政策見直しを主張しているにもかかわらず、民主党政権が定めた形で東電を維持している。補償費用、除染費用、廃炉費用など、全く利益にならない支出が何兆円(いや十兆円こえて…それより多くとも不思議はない)もあると想定される東電は、到底自分で資金をまかなうことができるとは思えない。長期間かけても、返済することは難しいだろう。実質的には破たんしているのだが、この会社はいまだ「原子力損害賠償支援機構」のもとに存続している。しかし、東電のやっていることは、補償金支払い一つとっても、被災者の意にそったものとは思えない。東電の救済が、被災者への補償金支払いの形で行われているのである。どの道、税金で、補償費用、除染費用、廃炉費用などをまかなうことになるであろうが、営利会社の形をとることで、政府は税金投入の責任を免れ、さらに補償費用、除染費用、廃炉費用などを「安上がり」で行わせることができる。さらに、表面上の責任を東電にとらせることで、株主や金融機関への責任追求をかわせるということになる。

福島第一原発の汚染水漏れは、そのような矛盾の中で発生しているのである。急ごしらえの汚染水のタンクや、先送りされた遮水壁建設などは、しょせん、コストをカットして、国などへの返済金を確保するという意識が背景になっているといえる。もはや、東電自体の当事者能力はないが、その責任は株主でもあり規制者でもある政府がとらなくてはならない。そして、福島第一原発の危機は、当面、コスト意識を捨てて考えなくてはならない。そのような形での税金投入は、民主党政権で免罪された、東電の株主や金融機関にも責任をとってもらうことにもつながっていくといえよう。

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