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Posts Tagged ‘甲状腺がん’

昨2014年5月頃に起きた、雁屋哲の『美味しんぼ』(『週刊ビッグコミックスピリッツ』、小学館)に対するバッシングは、安倍政権の閣僚たち、福島県庁、福島県下の各自治体、、福島大学、「科学者」、マスコミ、インターネットなどによる、異端者を摘発する「魔女狩り」の様相を帯びた。雁屋は、「私はこの国の神聖なタブーを破った極悪人扱いを受けたのです。この国の神聖なタブーとは『原発事故は終息した。福島は今や人が住んでも安全だし、福島産の食べ物はどれを食べても安全だ、という国家的な認識に逆らっていけない』というものです。『福島に行って鼻血を出した』などと漫画に書いた私は、その神聖なタブーを破ったというわけです」(雁屋哲『美味しんぼ「鼻血問題」に答える』、遊幻舎、2015年、p14)と回想している。

それでは、『美味しんぼ』へのバッシングにおいて「タブー」とされたものは、実際にはどのようなものであったのだろうか。福島県が5月7日に出した、『週刊ビッグコミックスピリッツ』編集部からの取材依頼に応じて出した、次の文章が、『美味しんぼ』バッシングでタブーとされたものについて集約的に語っていると思う。長文であるが、まず、紹介しておきたい。

「週刊ビッグコミックスピリッツ」4月28日及び5月12日発売号における「美味しんぼ」について

平成26年5月7日
福 島 県

 福島県においては、東日本大震災により地震や津波の被害に遭われた方々、東京電力福島第一原子力発電所事故により避難されている方々など、県内外において、今なお多くの県民が避難生活を余儀なくされている状況にあります。

 原発事故による県民の健康面への影響に関しては、国、市町村、医療関係機関、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)等の国際機関との連携の下、全ての県民を対象とした県民健康調査、甲状腺検査やホールボディカウンター等により、放射性物質による健康面への影響を早期発見する検査体制を徹底しており、これまでにこれらの検査の実施を通して、原発事故により放出された放射性物質に起因する直接的な健康被害が確認された例はありません。

 また、原発事故に伴い、本県の農林水産物は出荷停止等の措置がなされ、生産現場においては経済的損失やブランドイメージの低下など多大な損害を受け、さらには風評による販売価格の低迷が続いておりましたが、これまで国、県、市町村、生産団体、学術機関等が連携・協力しながら、農地等の除染、放射性物質の農産物等への吸収抑制対策の取組、米の全量全袋検査を始めとする県産農林水産物の徹底した検査の実施などにより、現在は国が定める基準値内の安全・安心な農林水産物のみが市場に出荷されております。

 併せて、本県は国や市町村等と連携し、県内外の消費者等を対象としたリスクコミュニケーションなどの正しい理解の向上に取り組むとともに、出荷される農林水産物についても、安全性がしっかりと確保されていることから、本県への風評も和らぐなど市場関係者や消費者の理解が進んでまいりました。

 このように、県のみならず、県民や関係団体の皆様が一丸となって復興に向かう最中、国内外に多数の読者を有し、社会的影響力の大きい「週刊ビッグコミックスピリッツ」4月28日及び5月12日発売号の「美味しんぼ」において、放射線の影響により鼻血が出るといった表現、また、「除染をしても汚染は取れない」「福島はもう住めない、安全には暮らせない」など、作中に登場する特定の個人の見解があたかも福島の現状そのものであるような印象を読者に与えかねない表現があり大変危惧しております。

 これらの表現は、福島県民そして本県を応援いただいている国内外の方々の心情を全く顧みず、殊更に深く傷つけるものであり、また、回復途上にある本県の農林水産業や観光業など各産業分野へ深刻な経済的損失を与えかねず、さらには国民及び世界に対しても本県への不安感を増長させるものであり、総じて本県への風評を助長するものとして断固容認できるものでなく、極めて遺憾であります。

 「週刊ビッグコミックスピリッツ」4月28日及び5月12日発売号の「美味しんぼ」において表現されている主な内容について本県の見解をお示しします。まず、登場人物が放射線の影響により鼻血が出るとありますが、高線量の被ばくがあった場合、血小板減少により、日常的に刺激を受けやすい歯茎や腸管からの出血や皮下出血とともに鼻血が起こりますが、県内外に避難されている方も含め一般住民は、このような急性放射線症が出るような被ばくはしておりません。また、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)の報告書(4 月 2 日公表)においても、今回の事故による被ばくは、こうした影響が現れる線量からははるかに低いとされております。

 また、「除染をしても汚染は取れない」との表現がありますが、本県では、安全・安心な暮らしを取り戻すため、国、市町村、県が連携して、除染の推進による環境回復に最優先で取り組んでおります。その結果、平成23年8月末から平成25年8月末までの2年間で除染を実施した施設等において、除染や物理的減衰などにより、60%以上の着実な空間線量率の低減が見られています。除染の進捗やインフラの整備などにより、避難区域の一部解除もなされています。

 さらに、「福島を広域に除染して人が住めるようにするなんてできない」との表現がありますが、世界保健機構(WHO)の公表では「被ばく線量が最も高かった地域の外側では、福島県においても、がんの罹患のリスクの増加は小さく、がん発生の自然のばらつきを越える発生は予測されない」としており、また、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)の報告書においても、福島第一原発事故の放射線被ばくによる急性の健康影響はなく、また一般住民や大多数の原発従事者において、将来にも被ばくによる健康影響の増加は予想されない、との影響評価が示されています。
 
 「美味しんぼ」及び株式会社小学館が出版する出版物に関して、本県の見解を含めて、国、市町村、生産者団体、放射線医学を専門とする医療機関や大学等高等教育機関、国連を始めとする国際的な科学機関などから、科学的知見や多様な意見・見解を、丁寧かつ綿密に取材・調査された上で、偏らない客観的な事実を基にした表現とされますよう、強く申し入れます。
http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/63423.pdfより。なお、『週刊ビッグコミックスピリッツ』第25号の「『美味しんぼ』福島の真実編に寄せられたご批判とご意見」という欄に同文が掲載されている。

福島県の言い分として、まず原発事故により放出された放射性物質による直接的な健康被害はないことを強調している。その上で、福島の農林水産物は、出荷停止や「風評被害」などにより多大な損害を受けてきたが、農地の除染、農産物への放射性物質吸収の抑制、放射性物質検査などにより、国の基準内の農林水産物しか市場に出さないことになっており、「風評」も和らいできているとした。このように、福島県庁・県民・関係団体が一丸になって復興に向かう中、『美味しんぼ』が放射能の影響により鼻血が出ると表現したり、「除染をしても汚染は取れない」「福島はもう住めない、安全に暮らせない」などと作中で特定の人物(実際には、元双葉村長井戸川克隆や、福島大学准教授荒木田岳なのだが)が見解を述べたりすることは、福島の現状そのものであると読者に誤解させ、福島県民や福島を応援している人々の心情を傷つけ、福島県の農林水産業や観光業に経済的損失をあたえかねず、福島県への不安感や「風評被害」を助長するものであるとしている。

その上で、福島県は具体的に反論している。まずは、鼻血なども含む急性放射線症が起きる高線量の被曝はなかったとしている。次に、除染や物理的減衰により60%以上の線量を低減できるとしている。そして、福島を広域に除染して住めるようにするのは不可能という見解には、福島第一原発事故において、もっとも高線量の地域を除けば、がん罹患のリスク増加は小さく、被曝による健康影響の増加は予想されないとしている。

福島県としてまず強調しているのは、県民には直接的な健康被害がないということである。つまりは、放射線によるリスクはないと想定している。それを前提に、出荷停止や「風評被害」で打撃を受けた農林水産業の回復を妨げ、復興に一丸となっている県民その他の心情を傷つけるものとして、『美味しんぼ』を批判している。いわば、放射能による健康面のリスクはないとして、農林水産業の復興こそ福島県の復興であるとし、それにがんばっている県民その他の心情を傷つけるものだとしているのである。

福島県民に直接的な健康被害が及んでいないという福島県の主張は、いろいろと問題を含んでいる。まず、急性放射線症が出るような被曝線量ではないという論理は、福島県だけでなく、「科学者」を自認する人びとが『美味しんぼ』を批判する際によく出てくる。前述した『週刊ビッグコミックスピリッツ』第25号の「『美味しんぼ』福島の真実編に寄せられたご批判とご意見」に、『美味しんぼ』を批判する科学者として、安斎育郎と野口邦和が出ているが、この2人とも、そういう意見である。ここでは省略するが、マスコミに出てくる「科学者」の意見も多くはそうである。しかし、『美味しんぼ』自体をみていると、いわゆる急性放射線症として鼻血が出てくるという説明はしていない。その上で、井戸川克隆や雁屋哲自身も体験した「鼻血」の原因を検討しているのである。低線量被曝の影響はよくわかっていない。それゆえ、よく引き合いに出される「高線量」のことを持ち出しても『美味しんぼ』への批判にはならない。それは、私だって知っている「常識」にすぎない。ただ、『美味しんぼ』へのバッシングといえば、最も知られているのが、あの程度の線量では急性放射線症は発症しないから、放射線の影響によって鼻血が出るとすることは非科学的だということであろう。重要なことは、急性障害以外は放射線障害ではなく、それほどの線量で福島県民は被曝していないとすれば、ほとんどの福島第一原発事故による県民の健康へのリスクは無化されるということである。

他方、除染についての県の見解は、それ自体が矛盾をはらんでいる。除染すればある程度の効果はあるだろうが、山林なども含んで広域に除染することは不可能で、結局はまた周囲から汚染物質が流れ込む。どうしても、除染しても、除染基準をクリアできない地域が出てくる。であるがゆえに、福島県では、県外の20倍の年間20mSvまで基準が緩和され、強制的に避難させられた人びとをそのような土地に帰還させるという政策がとられている。そこで、福島第一原発事故程度では健康に大いなる支障をきたす被曝は起きなかったという言説が主張される。しかし、それならば、なぜ、福島県内外で広範囲に除染をしなければならないのだろうか。そして、除染が効果があったとはどういう意味なのだろうか。

結局、健康被害がないのだから、年間20mSvでもいいじゃないか、除染目標の達成などどうでもいいではないかということになる。これは、もちろん、福島県民への差別待遇にほかならないが、これが、とりあえず機能するのは、健康被害が顕在化していないということが条件になる。急性放射線症になるほどの被曝はないのだから、急性放射線症のみを放射線障害とするならば、その条件はクリアされよう。しかし、急性放射線症が発症しない程度の低線量でも健康に影響があれば、一般の除染基準年間1mSv以上の土地に県民を居住させるということの問題性がクローズアップされる。被曝による児童甲状腺がん発症を福島県が認めないのも、そういう理由に基づいている。

そして、また、「鼻血」にもどってくる。甲状腺がんに比べれば、「鼻血」は小さな問題である。しかし、そんな問題でも、年間20mSvまでの低線量被曝を県民に強いている福島県にとっては、その政策の正当性を揺るがす問題なのである。そして、これは、なるべく、補償金を圧縮したい東電と国についても大問題なのである。低線量被曝を強いられる地に住民を早期に帰還させることで補償金を打ち切ることができなくなるばかりか、健康被害についても補償金が必要となるのである。

福島県・国・東電としては、福島第一原発事故の影響による県民の健康リスクの増大は一切認めない。ゆえに「甲状腺がん」も「鼻血」も認めない。そのようなリスクの「無化」の上で、福島県が行っているのが「風評被害」の払拭を中心とする農林水産業の振興である。農林水産業が復興すれば、福島県民の復興となるとしている。しかし、農林水産業に従事している県民自体の健康リスクが顕在化すれば、それ自体の正当性が失われることになるだろう。「鼻血問題」は『美味しんぼ』全体からすれば部分的な問題に過ぎないが、県にとっては重大な問題である。そして、彼らからすれば、「タブー」なのである。

そして、鼻血がタブーにされる一方で、雁屋哲が『美味しんぼ』において最終的に主張しようとしたことは、バッシングの中で看過された。雁屋哲は5月19日に発売された『週刊ビッグコミックスピリッツ』第25号に掲載された『美味しんぼ』において、登場人物の海原雄山に次のように語らせている。

私は一人の人間として、福島の人たちに、危ないところから逃げる勇気をもってほしいと言いたいのだ。
特に、子供たちの行く末を考えてほしい。
福島の復興は、土地の復興ではなく、人間の復興だと思うからだ。

前述した「『美味しんぼ』福島の真実編に寄せられたご批判とご意見」において、小出裕章は次のように述べている。

何より放射線管理区域にしなければならない場所から避難をさせず、住まわせ続けているというのは、そこに住む人々を小さな子どもを含めて棄てるに等しく、犯罪行為です。

結局のところ、『美味しんぼ』の主張は、一般人の放射線基準以上に汚染されている地域に住民が住み続けているということにいかに対処するかということなのであるが、このバッシングのなかでは、だれもそのことに触れようとしなかった。朝日新聞は比較的『美味しんぼ』に同情的であったが、同紙もそのことに触れようとはしなかった。この放置は、違法行為であり、小出の言葉を借りれば犯罪行為なのだが、そのことを誰もまともに議論しようとはしなかった。その中で、『美味しんぼ』は5月19日発売号から休載され、バッシングは終息していった。

放射線基準を守るということは、法的・社会・倫理的問題である。科学的・経験的に「放射線被害」が現在出ていない(将来的に出ないかどうかは全く保証されず、もし何か発症しても、それは放射線の影響ではないとされるだろう)から基準を守る必要がないというならば、そもそも基準設定は必要ない。そして「除染」も必要ないだろう。科学的言辞を駆使することは、法的・社会的・倫理的問題を解決することにはならない。『美味しんぼ』をバッシングする側がかかえていたのは、法的・社会的・倫理的問題として、一般人の放射線限度をこえた地域に住んでいる住民たちにいかに対処するかということであったのだが、それはバッシング側自体が触れることに自ら禁じざるを得なかった「タブー」であったといえよう。

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福島県浪江町津島に居住し、3.11以後福島市に避難していた、ある農民が84歳でなくなった。名を三瓶明雄氏という。そのことを伝える福島民報2014年6月8日付につき、写真とテクストで以下にしめしておく(なお、本記事は東京の早稲田大学所蔵の福島民報からとった。いろいろネットなどをみていると、福島県ではすでに6月7日付福島民報で報じられていたらしい)。

福島民報2014年6月8日(6版)21面

福島民報2014年6月8日(6版)21面

 

「 DASH村」出演

三瓶明雄氏(さんぺい・あきお=「DASH」村出演者)6日午前8時50分、急性骨髄性白血病のため伊達市の病院で死去、84歳。自宅は福島市新浜町2の38。通夜は9日午後6時から、告別式は10日正午からともに福島市泉のさがみ福島ホールで。喪主は美智子(みちこ)さん。
 日本テレビ系の番組「ザ!鉄腕!DASH!!」に出演。人気グループTOKIOのメンバーと浪江町津島の山村「DASH村」で農作業などに当たった。東京電力福島第一原発事故により浪江町が避難区域となり、福島市に避難していた。

この三瓶明雄氏は、日本テレビ系の番組「ザ!鉄腕!DASH!!」に出演し、福島県外でも知られた人だったようである。そこで、東京の各新聞も、三瓶明雄氏の氏を報じた。下記に、拙宅(東京)に配達された朝日新聞における死亡記事をあげておく。

朝日新聞2014年6月7日朝刊(14版)38面

朝日新聞2014年6月7日朝刊(14版)38面

 

三瓶明雄さん(さんぺい・あきお=農業)6日、福島県伊達市内の病院で死去、84歳。通夜は9日午後6時から、葬儀は10日正午から福島市泉下鎌15の1のさがみ福島ホールで。
 日本テレビ系のバラエティー番組「ザ!鉄腕!DASH!!」で、アイドルグループTOKIOが同県浪江町で農作業などをする人気企画「DASH村」に出演。メンバーに農作業の指導をしていた。

福島民報より簡略になっているが、記事内容に大きな違いはない。しかし、一点違いがある。福島民報では死因が「急性骨髄性白血病のため」となっている。しかし、朝日新聞の記事は死因の記述はない。ネットでみる限り、読売新聞・毎日新聞なども死因の記載はないのである。スポニチアネックスによると「死因は不明」とされている。
(スポニチアネックスはhttp://news.livedoor.com/article/detail/8911823/より引用。)

そして、日本テレビの『ザ!鉄腕!DASH!!』では6月8日の放送で、番組レギュラーの TOKIOが三瓶明雄氏を追悼するメッセージが流された。感動的なものであったが、三瓶氏が「急性骨髄性白血病」でなくなったことには一言もふれていないのである。ここでは、メッセージの動画と、それを報道した朝日新聞のネット配信記事をあげておこう。

TOKIO、三瓶明雄さん追悼「見守ってね」
2014年6月8日

 日本テレビ系『ザ!鉄腕!DASH!!』(毎週日曜 後7:00)が8日放送され、看板コーナー「DASH村」で農作業を指導し、今月6日に他界した三瓶明雄(さんぺい・あきお)さんをTOKIOのメンバーが偲んだ。番組の最後、これまでの思い出を振り返るVTRが流され、ナレーションで優しく語りかけるように感謝を伝えた。

     ◇

 明雄さん、僕達は正直、まだ心の整理がつかずにいます。

 本当はまた今年の米を一緒に収穫したかった。

 もう会えないなんて、今は信じることができません。

 明雄さん、僕たちは明雄さんに教えてもらった、自分の手で作り、育てることの素晴らしさや大切さをずっと忘れずにやっていきます。

 だから僕達がしっかりやれているか見守っていてね。

 そして天国で少しはゆっくり休んで下さい。

 TOKIO

 三瓶さんは企画開始時からTOKIOのメンバーに農作業や山仕事のいろはを教え、訃報に際しネット上では「6人目のTOKIO」とその功績や人柄が讃えられている。
http://www.asahi.com/and_w/interest/entertainment/CORI2038375.html?iref=comtop_list_andw_f01

がんや白血病は、放射線被曝で発生することもあると一般的に想定されている病気である。福島県でも、児童の甲状腺がん患者が発生していると報道され、このブログでも紹介している。ただ、福島県では、放射線被曝との関連性を認めていない。

そのようなことから類推するならば、三瓶明雄氏の死因が「急性骨髄性白血病」であったとしても、原因を放射線被曝であるということは否定できるはずだといえる。にもかかわらず、福島県外のメディアは、おしなべて三瓶明雄氏の死因を隠蔽した。

この隠蔽によって、逆説的に次のことがいえるだろう。福島県外のメディアは、福島県内のがんや白血病の罹患は放射線被曝の影響かもしれないと考えている。しかし、彼らは、そのことを報道することをタブーとしているといえるだろう。ある意味で「美味しんぼ」批判がきいている。「急性骨髄性白血病」の罹患が、放射線被曝によるものであるかないか、これはだれにも確定的には答えられない。ただ、福島県の関係者のように、「この程度の被曝線量では白血病は発症しえない」と言い切ることは可能であろう(そのことが妥当であるかどうか、これこそ歴史の審判が必要だろうが)。しかし、福島県外のメディアは、そうする自信もなく、死因を報道しないことを選択している。その際、放射線が現実に影響するかどうかではなく、「福島県に居住し続けている人びとの思いを慮って」というだろう。

まことに「優しい」ことである。ただ、この「優しさ」とは、がん患者にがんに罹患していることを伝えない「優しさ」に似ていると思う。私個人がどう判断するかということではない。この「隠蔽」と「優しさ」は、福島県外のマスコミが「急性骨髄性白血病」という病名への意識と、それを報道することへのリアクションを、問わず語りに語っているといえるのだ。

そして、この「優しい隠蔽」の背後で、以下の福島県のサイトをみるように、 TOKIOを起用した、福島県の野菜販売促進キャンペーンは続いていっているのである。

http://www.new-fukushima.jp/tvcm_vege

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福島第一原発からの汚染水漏れで影に隠れてしまった感があるが、福島からまた一つ重大な報道があった。福島県の児童を対象とした甲状腺検査で、甲状腺がんもしくはその疑いのある患者が増加しているというのだ。

まず、8月20日にこのことをネット配信した朝日新聞の記事をみてほしい。

福島の子どもの甲状腺がん、疑い含め44人に 16人増

 【大岩ゆり、野瀬輝彦】福島県は20日、東京電力福島第一原発事故の発生当時18歳以下だった子どものうち、44人が甲状腺がんやその疑いがあると診断されたと発表した。6月から16人増えた。県は「被曝(ひばく)の影響は考えられない」とした。ただし、県の検査や説明に対して県民の間に疑問や不安の声もあるため、県は、専門家による新たな部会を作り、検査に問題がないか検証することになった。

 6月以降に新たに診断された16人のうち、がんは6人、疑い例は10人だった。累計ではこれまでに結果が判明した約19万3千人のうち18人が甲状腺がん、25人が疑いありと診断された。1人は疑いがあったが良性だった。この44人は原発事故時に6~18歳。がんの直径は5・2~34・1ミリ。がんは進行のゆっくりしたタイプだった。

 事故後4カ月間の外部の全身被曝線量の推計調査を受けた人は44人のうち4割だけだが、全員2ミリシーベルト未満だった。

 チェルノブイリでは4~5年後から甲状腺がんが増えたほか、今回の44人は複数回の検査でがんやしこりの大きさがほとんど変わっていないため、県は「事故以前からできていたと考えられる」と分析した。

 しかし、県民の間には被曝影響に関する解釈や、検査の精度、情報公開のあり方などに批判がある。

 このため県は、検査に関与していない専門医らによる専門部会を新設して、これまでの検査結果の判定や、がんと診断された人の治療、事故による被曝の影響などを改めて検証する。事故当時18歳以下だった約36万人に対し生涯にわたり継続する甲状腺検査のあり方も改めて議論する。
http://www.asahi.com/national/update/0820/TKY201308200364.html

他紙の報道も、それほど、大差がない。福島県の甲状腺検査では、このブログでもふれたが、小児甲状腺がん患者がすでに発見されていたが、それがさらに増え、18人が甲状腺がん、25人が疑いがあるとされ、計44人ががんもしくはその疑いがあると判定された。しかし、福島県は、相変わらず、チェルノブイリ事故では4〜5年後から甲状腺がんが多発した、見つかった甲状腺がんは進行が遅いタイプなので事故前からあったと考えられるなどとして、福島県は被曝の影響を否定したということである。

このブログでも以前に紹介したが、そもそも小児甲状腺がんの平常の発生率は100万人に1〜3人といわれている。この検査が実施された児童は19万3000人である。この検査を100万人に実施されたとするならば、がん患者だけで約93人、疑いのある者を含めると約227人になるという計算になる。いろいろ、全員検査した事例がないなどといっているが、到底、平常の数とはいえないのである。

そして、全く報道されていないが、この甲状腺がん患者増加が報告された福島県の第12回「県民健康管理調査」検討委員会(2013年8月20日開催)の配布資料をみていると、甲状腺がん患者だけでなく、甲状腺異常の児童が年々増加していることが読み取れた。まず、次の資料をみてほしい。

甲状腺検査(一次検査)判定区分集計表(2013年6月7日まで)

甲状腺検査(一次検査)判定区分集計表(2013年6月7日まで)


http://www.pref.fukushima.jp/imu/kenkoukanri/250820siryou2.pdf

福島県では、A1・A2を二次検査を要さないとしているが、実はA1のみが健全で、A2は結節や嚢胞などの甲状腺異常があるのである。ただ、それらが小さいからという理由で二次検査を要さないとしてしまっているのだ。確かに、それらの多くが甲状腺がんにつながるとは現状ではいえないが、甲状腺異常があることには変わりない。

2011年度では、大雑把にみてA1(健全)は63.4%、A2(小規模異常)は36.0%であった。これでも多いと思う。しかし、2012年度には、A1(健全)は54.7%、A2(小規模異常)は44.6%と、あきらかに増加した。さらに、2013年度には、A1(健全)は40.9%、A2(小規模異常)は58.4%と、健全な児童の方が少数になっているのである。年々状態は悪化しているとしかいえないだろう。

そして、今までの検査済みの児童全体では、A1(健全)は55.4%、A2(小規模異常)は44.0%となっている。半分近くの児童が小さなものでも甲状腺異常を抱えており、時がたつにつれ増加しているというのが現実なのだ。

まさしく、チェルノブイリ事故では4〜5年先から甲状腺がんが増加したので、これは原発事故の影響ではないと遁辞をいっている状態ではないのだ。原発事故の影響であろうとなかろうと、甲状腺がん・甲状腺異常の児童の増加がとめられないというのが、福島の現状なのだ。

足尾鉱毒反対運動の指導者であった田中正造が、百年前に死去する直前に遺した言葉の一つに「現在を救い給え、現在を救い給え、ありのままを救い給え」がある。4〜5年先ではない。「現在」を、「ありのまま」を、救わなくてならないのである。

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ウルリヒ・ベック「すなわち、近代に伴う危険にあっては遅かれ早かれ、それを創り出すものも、それによって利益をうけるものも危険に曝されるのである。危険は階級の図式を破壊するブーメラン効果を内包している。富める者も、権力を有する者も、危険の前に安全ではありえない。」(『危険社会』)

日本列島に住んでいる人びとで、この福島第一原発事故直後の事故処理を指揮した吉田昌郎元所長を知らない人は少ないと思う。この人が、本日ー2013年7月9日ーに亡くなった。その一報を伝えるNHKのネット配信記事(2013年7月9日付)をまず紹介しておこう。

東京電力福島第一原子力発電所の事故で現場で指揮を執った吉田昌郎元所長が、9日午前、東京都内の病院で食道がんのため亡くなりました。
58歳でした。

吉田元所長は、3年前の6月に福島第一原子力発電所の所長に就任し、おととし3月11日の事故発生から現場のトップとして事故対応の指揮を執りました。
すべての電源が失われる中で、吉田元所長は、福島第一原発の複数の原子炉で同時に起きた事故の対応に当たりましたが、結果として1号機から3号機でメルトダウンが起きて被害を防ぐことはできませんでした。
吉田元所長は、その後、病気療養のため交代するおととしの11月末までおよそ9か月間にわたって福島第一原発の所長を務め、事故の収束作業にも当たりました。
おととし12月に食道がんと診断されて所長を退任しその後、去年7月には脳出血の緊急手術を受け療養生活を続けていました。(後略)
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130709/k10015922331000.html

吉田元所長の死については哀悼の意を示しておきたい。ただ、吉田元所長自体については、功罪あるといえる。そのことを指摘しているのは、時事通信のネット配信記事(2013年7月9日)付である。ただ、他のマスコミは、吉田元所長の「功」の方を強調しているといえる。

(前略)
11年3月11日の事故発生後は、同原発の免震重要棟で陣頭指揮に当たった。首相官邸の意向を気にした東電幹部から、原子炉冷却のため行っていた海水注入の中止を命じられた際には、独断で続行を指示。行動は一部で高く評価された。
 一方、事故直後の対応では、政府の事故調査・検証委員会などが判断ミスを指摘。原発の津波対策などを担当する原子力設備管理部長時代に、十分な事故防止策を行わなかったことも判明した。(2013/07/09-18:17)
http://www.jiji.com/jc/eqa?g=eqa&k=2013070900691

吉田元所長の評価は、福島第一原発事故の原因、そして、事故処理のあり方が解明されることによって、歴史的に定まってくるといえる。

ここで問題にしたいのは、吉田元所長の死亡原因のことである。報道によれば、吉田元所長は食道がんで死去したということである。それに対して、吉田元所長を雇用していた東京電力関係者は次のように説明したと、上記のNHKのネット配信記事は報道している。

東京電力によりますと、事故発生から退任までに吉田元所長が浴びた放射線量はおよそ70ミリシーベルトで、東京電力はこれまで、「被ばくが原因で食道がんを発症するまでには少なくとも5年かかるので、事故による被ばくが影響した可能性は極めて低い」と説明しています。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130709/k10015922331000.html

「被ばくから5年以上たたないとがん発症との因果関係は認めない」というのは、東電その他「原子力ムラ」の人びとの常套句である。現在、福島県内の子どもたちにおいて、平常よりも多く甲状腺がんが発症しているが、同様の論理で、被ばくとの因果関係は認めていないのである。死去した吉田元所長もあるいは自分のがん発症と福島第一原発事故との因果関係を認めなかったかもしれない。

しかし、「事故発生から退任までに吉田元所長が浴びた放射線量はおよそ70ミリシーベルト」ということ自体がすでに問題なのである。事故発生(2011年3月)から退任(2011年11月)まで、9ヵ月になる。この70mSvという線量が、すでに一般人の限度の70倍ということになる。さらに、この線量は、本来、放射線業務従事者の通常時における被ばく線量限度年間50mSvをもこえているのである。

1972年に制定された電離放射線障害防止規則は次のように定めている。

第四条  事業者は、管理区域内において放射線業務に従事する労働者(以下「放射線業務従事者」という。)の受ける実効線量が五年間につき百ミリシーベルトを超えず、かつ、一年間につき五十ミリシーベルトを超えないようにしなければならない。
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S47/S47F04101000041.html

ただ、この規則では、今回の事故における緊急時の対応に従事する労働者については、年間100mSvまで被ばく線量限度を引上げている。そして、2011年3月14日から2011年12月16日までは、さらに年間250mSvまで被ばく線量限度を引上げていたのである。

つまり、吉田元所長の「9ヵ月で70mSv」という線量は、通常では浴びることのない線量なのである。緊急時という状況下でのみ、許容されているにすぎないものでしかない。

Wikipediaの「被曝」の項によると、50mSvですでに染色体異常が出始めるとしている。そして、81mSvについては、「広島における爆心地から2km地点での被曝量。爆発後2週間以内に爆心地から2km以内に立ち入った入市被爆者(2号)と認定されると、原爆手帳が与えられる。」と説明している。

もちろん、短期に高線量を浴びることになる原爆と、長期間にわたって低線量にさらされる原発事故とは違いがある。その意味で一概にはいえないのだが、吉田元所長のあびた線量は、原爆被災者なみであったということになろう。

吉田元所長の食道がん発症の契機は、福島第一原発事故であったのかどうか、これは、もちろん、不明であるとしかいいようがない。東電を含む「原子力ムラ」の人びとは、必死に因果関係を否定するだろう。前述したように、吉田元所長自身もそう考えていたのかもしれない。しかし、それでも、放射線被ばくという問題について、福島第一原発に職業としてかかわって給与を得つつ、この事故を引き起こした責任者である人たちにもまぬがれないものであることを示す、一つの象徴としての意義を吉田元所長の死はもっているといえよう。

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先日、、福島県の県民健康管理調査における18歳以下の甲状腺がん調査で、甲状腺がん患者が12人発見されたことが各紙で報じられた。ここでは、東京新聞のネット配信記事を紹介しておこう。

甲状腺がん「確定」12人 福島の18歳以下、9人増

2013年6月5日 朝刊

 東京電力福島第一原発事故による放射線の影響を調べている福島県の県民健康管理調査で、十八歳以下で甲状腺がんの診断が「確定」した人が九人増え十二人に、「がんの疑い」は十五人になった。
 これまで一次検査の結果が確定した約十七万四千人の内訳。五日に福島市で開く検討委員会で報告される。検討委の二月までの調査報告では、がん確定は三人、疑いは七人だった。
 これまで調査主体の福島県立医大は、チェルノブイリ原発事故によるがんが見つかったのが、事故の四~五年後以降だったとして「放射線の影響は考えられない」と説明している。
 甲状腺検査は、震災当時十八歳以下の人約三十六万人が対象。一次検査でしこりの大きさなどを調べ、軽い方から「A1」「A2」「B」「C」と判定。BとCが二次検査を受ける。
 二〇一一年度は、一次検査が確定した約四万人のうち、二次検査の対象となったのは二百五人。うち甲状腺がんの診断確定は七人、疑いが四人。ほかに一人が手術を受けたが、良性と分かった。
 一二年度は、一次検査が確定した約十三万四千人のうち、二次検査の対象となったのは九百三十五人、うち診断確定は五人、疑いが十一人。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2013060502000133.html

なお、確定したがん患者が12人であるのだが、それ以外に「疑い」のある者が15人存在している。合計で27人が、がん患者もしくはがんの疑いがあるということになるのである。

この報道は、福島県で6月5日に開催された第11回「県民健康管理調査」検討委員会の資料に基づいたものである。なお、甲状腺がんの調査は、36万人を対象としているが、まだ17万4000人しかすすんでいない。また、二次検査も2011年度の対象者205人のうち166人、2012年度の対象者935人のうち255人しか終了していない。二次検査自体が全体の約37%しか実施されていないのである。

しかも、これは本ブログで前述したことがあるが、すでに実施された一次検査では、対象者の約35〜45%から、結節や嚢胞などの甲状腺異常が見つかった。しかし、大半が小さいということで二次検査からはずされたのである。

つまり、いまだ甲状腺がん検査は途上であるとともに不備であり、検査が進むとより多くの患者の発生がある可能性があり、さらに、甲状腺がん検査で「異常なし」とされた人びとからも甲状腺がんが発生する危険性もあるといえよう。

甲状腺がんは、平時では100万人に1〜3人程度発症するとされている。参考として、次の「日本臨床検査薬協会」のサイトの記事をあげておこう。

チェルノブイリ原発事故と小児の甲状腺がん
 1986年4月26日のチェルノブイリ原発事故後はチェルノブイリ地方で小児、特に女児に多くの甲状腺がんが見られたことが報告されています。図3はチェルノブイリ原発事故後の人口100万人当たりの甲状腺がんの発生件数を示しています。一般に小児の甲状腺がんの発生は100万人当たり1~3人といわれていますが、原発事故の2~3年後から急な増加が見られます。そして、被爆時の年齢によってそのピークが異なることがわかります。0~10歳までの乳幼児・小児は被曝7年後にピークがあり、以後漸減して、1997年以降はベースライン、すなわち通常の発生率に戻っています。10~19歳の思春期では被曝10年後にピークが見られ、2002年以後は急激に増加しますが、ベースラインには戻っていません。
http://www.jacr.or.jp/topics/09radiation/03.html

検査途上なのだが、仮に17万4000人を基準とした場合、現状でも1万人につき約0.69人のがん患者が発生していることになる。「疑い」を入れれば1万人につき約1.5人になってしまうのである。甲状腺がんが増えているというよりほかはないだろう。

しかし、「これまで調査主体の福島県立医大は、チェルノブイリ原発事故によるがんが見つかったのが、事故の四~五年後以降だったとして「放射線の影響は考えられない」と説明している。」という対応なのである。結局、既存の知を根拠にして、実際におきていることから眼をそらす/そらさせているのである。そして、その中で、福島県の子どもたちの健康被害は過小評価されていくのである。

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福島県の健康問題は、すでに国連の人権問題になっている。朝日新聞では、2012年11月3日に次のような記事をネット配信している。

「福島住民の健康の権利守れ」 国連人権理事会が勧告

 【ジュネーブ=前川浩之】日本の人権政策について、各国が質問や勧告(提案)ができる国連人権理事会の日本審査が終わり、2日、各国による計174の勧告をまとめた報告書が採択された。福島第一原発事故について、住民の健康の権利を擁護するよう求める勧告が盛り込まれた。
 普遍的定期審査(UPR)と呼ばれ、加盟国すべてに回る。日本は2008年以来2回目で、討論には79カ国が参加。法的拘束力はないが、日本は来年3月までに勧告を受け入れるかどうかを報告するよう求められる。
 福島事故をめぐり、オーストリアだけが「福島の住民を放射能の危険から守るためのすべての方策をとる」よう求めた。日本は、11月中に健康の権利に関する国連の特別報告者の調査を受け入れると表明した。
http://www.asahi.com/international/update/1103/TKY201211030340.html

その結果、国連人権理事会の助言者グローバー氏が来日した。そして、朝日新聞は、27日付朝刊で「福島の健康調査「不十分」 国連人権理事会の助言者が指摘」という記事を掲載した。この記事の担当者は大岩ゆりである。まず、この記事をみてほしい。

福島の健康調査「不十分」
国連人権理事会の助言者が指摘

 東京電力福島第一原発事故の影響を調べるため、来日した国連人権理事会の助言者、アナンド・グローバー氏が26日、都内で記者会見した。福島県民への健康調査について「不十分」と指摘。さらに「除染のあり方などを決める場に住民が参加していないのは問題」と述べた。
 インド人弁護士のグローバー氏は、福島県民らの「健康を享受する権利」が守られているか調べるため、政府や東電関係者、県民らから事情を聞いた。この結果は来年6月の国連人権理事会(前身・人権委員会)に報告され、日本政府に勧告すべきか議論される。
 福島県などが行っている子どもの甲状腺検査や一般的な健康診断、アンケートについて「内容が不足している。チェルノブイリの教訓や、100ミリシーベルト以下でもがんなどの健康影響があるとする疫学研究を無視したものだ」と批判した。具体的な提案、改善策にはふれなかった。
 また、甲状腺検査を受けた子どもの保護者が検査記録を入手するには、県の複雑な情報公開請求手続きが必要なことについても言及。「別の専門家を聞いたり、検査を受けたりできる権利が守られていない」と懸念を示した。
 さらに、健康調査だけでなく、避難区域の解除や除染の枠組み決定のプロセスについて、グローバー氏は「住民が参加していない。健康に影響が及ぶ意思決定やモニタリングなど、すべての過程に住民が参加すべきだ」と指摘した。(大岩ゆり)
 

つまり、国連人権理事会の助言者グローバー氏は、福島県の健康診断について、チェルノブイリ事故の教訓や低線量被曝の影響などを考慮しない不十分なものであること、子どもに対する検査結果の保護者への開示が不十分で他の検査を受けたり専門家の意見を聞けないものであること、除染方法の決定過程に住民が参加できないことなどをあげて、国連人権理事会に報告する意向であると記者会見で述べたのである。

これは、福島県の健康調査や除染のあり方が、最早、国連人権理事会において勧告されるレベルの人権問題を惹起するにいたっていること示しているといえる。私自身は福島に住んでいるわけではないので詳しくは知らないが、時折伝えられる福島の状況からみても、そうだと思われる。

そして、不十分と指摘された福島県の児童を対象とした甲状腺検査でも、このブログでも伝えたように、甲状腺異常が約42.1%、二次検査の必要な児童が0.5%、がん患者1人が発見されている。最早、「低線量被ばくは人体に影響ない」という通説に依拠して放置できる状態ではないと考えられるのである。この放置もまた、人権問題にほかならない。

それにしても、この数日における福島県の健康問題に対する朝日新聞とその記者(大岩ゆり)の姿勢は大きな問題をはらんでいると思う。朝日新聞では、11月20日付朝刊で次のような記事を掲載している。ここでは、ネット配信した分のみを紹介したい。

甲状腺検査、長崎でも 環境省、福島の子どもと比較

 

【大岩ゆり】環境省は19日までに、長崎県の子どもを対象に甲状腺検査を始めた。東京電力福島第一原発事故による健康影響調査として福島県が実施する、同県内の子どもの甲状腺検査の結果と比較し、被曝(ひばく)の影響の有無をみるのが目的。同県では4割の子どもの甲状腺にしこり(結節)などが見つかっている。
 チェルノブイリ原発事故では子どもの甲状腺がんが増えたため、福島県は事故当時18歳以下の子ども36万人を対象に甲状腺検査を生涯続ける計画だ。これまでに検査結果が出た約9万6千人の40%に結節や液体の入った袋(嚢胞=のうほう)が見つかり、1人が甲状腺がんと診断された。
 保護者からは被曝の影響を心配する声が出ているが、子どもの甲状腺をこれだけ高性能の超音波検査機で網羅的に調べた例はなく、「4割」の頻度が高いかどうか判断がつかない。
http://www.asahi.com/special/10005/intro/TKY201211190881.html

この記事では、その後、長崎での調査のあり方などが記載されているが、ここでは、省略する。問題なのは、大岩ゆり自体も甲状腺異常の児童が約40%発見されたことを認めているということなのだ。しかし、大岩ゆりは「「4割」の頻度が高いかどうか判断がつかない。」としている。

そして、朝日新聞11月25日付朝刊の1面トップで大々的に「福島のがんリスク、明らかな増加見えず WHO予測報告」と報道している。この担当者も大岩ゆりなのだ。その中で、彼女は「日本人の2人に1人は一生のうちにがんが見つかっており、福島県民約200万人のほぼ半数はもともとがんになる可能性がある。このため、仮に被曝で千人にがんが発生しても増加率が小さく、統計学的に探知できないということだ。」としている。しかし、記事本文をよく読むと、「予測」においてすら小児甲状腺がんが増加することが指摘されている。こういう「明らかな増加見えず」という判断自体に問題があるのだ。

そして、今回の「福島の健康調査「不十分」 国連人権理事会の助言者が指摘」という記事が27日付朝刊に出される。その担当者も大岩ゆりなのだ。このように一貫性のない報道では、私も含めた読者が混乱することになる。

そのことについて、第一には、それぞれの場所で発表されることを、前後の一貫性もなく、ただ新聞に垂れ流しているのであろうと指摘できる。こういう記事の速報性は必要だが、その前後の脈絡も含めて提供すべきだろう。それこそ、3.11直後のマスコミ報道において問われたことであった。しかし、それが、いまになっても生かされていないのである。

第二にいえば、福島県の放射線の影響を少なく見積もった記事が大々的に取り上げられているということである。すでに、福島の健康問題が国連人権理事会で取り上げられるほどの人権問題になっていることは、報道されても小さく扱われている。そのように、当局や推進派学者の都合のよいことを大々的にとりあげるということも、3.11直後のマスコミ報道で問題となったことであった。その反省がないのである。

このような意味で、朝日新聞の姿勢が、記者も含めて問われねばならないと思う。

追記:現在、福島県における児童の甲状腺検査は、36万人を対象としているが、9万6000人しか終了していない。その意味で、甲状腺異常や二次検査の人数について確定的に述べることは適当ではない。過去の本ブログで人数についても言及しているが、9万6000人を対象とした調査結果を36万人のものとしてみた場合の推測値でしかないので、削除・訂正することにした。

 

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さて、このブログで、河北新報記事に依拠して、福島県児童36万人を対象とした甲状腺検査で、すでに1名のがん患者が発生しており、さらに甲状腺異常が約42.1%、二次検査が必要な児童が0.5%発見されたことを伝えた。

このことを打ち消すかのごとく、2012年11月25日付朝日新聞朝刊は、一面トップで次のような記事をのせた。まず、ネット配信した分をみてみよう。

福島のがんリスク、明らかな増加見えず WHO予測報告

 【大岩ゆり】東京電力福島第一原発事故の被曝(ひばく)による住民の健康影響について、世界保健機関(WHO)が報告書をまとめた。がんなどの発生について、全体的には「(統計学的に)有意に増える可能性は低いとみられる」と結論づけた。ただし、福島県の一部地域の乳児では、事故後15年間で甲状腺がんや白血病が増える可能性があると予測した。報告書は近く公表される。

 福島第一原発事故による健康影響評価は初めて。100ミリシーベルト以下の低線量被曝の影響には不確かな要素があるため、原爆やチェルノブイリ原発事故などの知見を参考に、大まかな傾向を分析、予測した。

 WHOはまず、福島県内外の住民の事故による被曝線量を、事故当時1歳と10歳、20歳の男女で甲状腺と乳腺、大腸、骨髄について、生涯分と事故後15年間分を推計した。その線量から甲状腺がんと乳がん、大腸がんなどの固形がん、白血病になるリスクを生涯と事故後15年間で予測した。

 成人で生涯リスクが最も高かったのは福島県浪江町の20歳男女。甲状腺がんの発生率は被曝がない場合、女性が0.76%、男性は0.21%だが、被曝の影響により、それぞれ0.85%、0.23%へ1割程度増えると予測された。他のがんは1~3%の増加率だった。
http://www.asahi.com/special/energy/TKY201211240631.html

これだけみると、リスクが低いようにみえるだろう。しかし、これは、成人の場合に限られる。さらに、成人の場合でも、甲状腺がんの増加傾向は認めざるをえないのである。成人の場合については、朝日新聞本紙に掲載されたこの記事の続きで「福島県のほかの地区の成人の増加率は甲状腺以外はおおむね1%以下で、全体的には統計的有意に増加する可能性は低いとの結論になった。」としている。

しかし、浪江町だけ、それなりに影響を認めているのはなぜだろう。この予測に使った被曝線量について、朝日新聞はこのように報道している。

 

予測に使った被曝線量
 福島の原発事故による被曝線量推計の報告書(WHOが5月に公表)などをもとに、性別、年齢ごとに臓器別の線量を被爆後15年間と生涯で地域ごとに計算した。この結果、1歳児の甲状腺の生涯の被曝線量は、浪江町が122ミリシーベルト、飯舘村で74、葛尾村が49、南相馬市が48、福島市や伊達市、川俣町、楢葉町などは43などと推計された。
 国連によると、チェルノブイリ原発事故の避難民の甲状腺被曝は平均490ミリシーベルト。子どもを中心に約6千人が甲状腺がんになった。ただし、甲状腺がんの治療成績は良く、死亡は十数人にとどまる。

なんのことはない。浪江町の被曝線量は生涯で122mSvで、健康に影響があるとされる年間100mSvに近くなるのだ。「通説」に従った結果なのである。

そして、児童については、甲状腺がん・甲状腺異常が増加する傾向を認めざるを得なくなっているのである。朝日新聞は、このように伝えている。

 

一方、被曝の影響を受けやすい子どもでは地域によって増加率が高くなった。浪江町の1歳女児が16歳までに甲状腺がんになる可能性は0.004%から、被曝の影響で0.037%へと9.1倍になった。飯館村では5.9倍、福島市などで3.7倍に増えると予測された。浪江町の1歳男児の白血病は0.03%が1.8倍になるとされた。
 胎児のリスクは1歳児と同じ。県外の住民は全年齢で健康リスクは「無視できる」と評価された。
 また、低線量でも若い時期に甲状腺に被曝すると良性のしこりや嚢胞(液状の袋)ができる可能性が高まるとも指摘。「がん化の可能性は低いが、注意深く見守っていくことが重要」と指摘した。

これは、どういうことなのだろうか。浪江町女児1歳の場合、いくら元来甲状腺がんの発がんリスクは高くないとしても、それが9倍になるということは、放射線の影響がないとはいえないのではないか。また、放射線被曝によって児童の場合は、甲状腺異常が発生する可能性も増えているとしている。しかも、これは「予測」なのである。

もちろん、この WHOの予測自体が、低線量被曝は人体への影響が少ないという「通説」に依拠するものだと考えられる。それでも、さすがに、チェルノブイリ事故による小児甲状腺がんの多発により、甲状腺がんはそれなりにデータが得られており、低線量被曝でもがんリスクが増加することを認めざるを得ないというのが、この報告書なのだと考えられる。

しかし、朝日新聞では「がんリスク 福島原発事故の影響、明らかな増加見えず」と、少なくとも児童においてはあてはまらない見出しをつけている。

そして、三面の解説記事では、このように説明している。

 

世界保健機関(WHO)は、福島第一原発事故の被曝による健康影響について、全体的には、がんが「有意に増える可能性は低い」とした。
 これは、被曝でがんが発生がないという意味ではない。日本人の2人に1人は一生のうちにがんが見つかっており、福島県民約200万人のほぼ半数はもともとがんになる可能性がある。このため、仮に被曝で千人にがんが発生しても増加率が小さく、統計学的に探知できないということだ。
 一方で、小児の甲状腺がんのように患者数が少ないと、わずかな増加も目立つ。福島県浪江町の1歳女児が16歳までに甲状腺がんになる可能性は、0.004%が0.037%へ、約9倍に増えるとされた。これは、仮に浪江町に1歳女児が1万人いたら、甲状腺がんになるのは0.4人から3.7人に増える可能性があるということだ。

予測において統計的に有意の結果は出しにくいというのは事実だろう。しかし、人口の半数が被曝しなくてもがんになるから、放射線被曝の影響によるがん発生率がわからないというならば、調査しなくても同じになる。記者が書いているように、それこそ1000人が被曝によってがんになっても、統計的にはわからないということになる。もし、人口の50%ががんになるにせよ、それが、放射線被曝によって50.001%になるかいなかを調べることが必要とされているのではないか。

そして、小児甲状腺がんにおいては、予測ですらも、低線量被ばくでがん発生率は9〜3.7倍になっている。元来、小児甲状腺がんの発生率が低いとしても、それは大きな増加なのではなかろうか。

そして、このブログでも伝えているように、福島県の児童36万人を対象とした甲状腺検査で、甲状腺異常が約42.1%、二次検査の必要な児童が0.5%発見されている。もちろん、二次検査が必要な児童全員ががんになるわけではない。しかし、放射線被曝がない場合の甲状腺がんの発生率が0.004%というならば、最悪、その100倍が甲状腺がんとなったということになる。9倍などというものではないのである。

WHOなどが予測すること自体はよいだろう。そして、予測が、それまでの通説に基づいてたてるしかないことは了解できる。しかし、福島県の児童を対象とした甲状腺検査結果からみるならば、予測は「過小評価」でしないと考えて比較すべきなのだと思う。その上で、早急に対策をたてるべきなのだ。どうせ人口の半分はがんになるなどとして、何の対策もたてないということは、福島県民を棄民することであり、朝日新聞が「福島のがんリスク、明らかな増加見えず」などと報道することは、それに加担することなのだと思う。

追記:http://www.pref.fukushima.jp/imu/kenkoukanri/240911siryou2.pdfによって福島県の現時点における調査結果を確認した。いまだ、約9万6000人しか調査していないのだが、その調査での甲状腺異常は18119人(43.1%)、二次検査が必要な者が239人(0.6%)である。なお、この調査結果ではがん患者発生は認めていない。つまり、実際に甲状腺がんを発症していても、福島第一原発事故関係ではないと「判断」されてはじかれてしまっているのである。なお、誤解を招いてはいけないので、36万人を基準に検討した人数についての言及は削除させていただくことにした。

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