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Posts Tagged ‘東葛地区’

これまで、柏市や松戸市などの高放射線量地区ーホットスポットになってしまった地域において、「専門家」のご託宣にもかかわらず、市民や東京大学内部の批判によって、各自治体が放射線対策に乗り出した契機をみてきた。2011年6月、千葉県西北部の野田市、我孫子市、柏市、松戸市、鎌ヶ谷市、流山市の六市は、市ごとに独自に放射線量の測定をはじめるとともに、2011年6月8日、これらの自治体で東葛地区放射線量対策協議会(会長柏市長秋山浩保、副会長流山市長井崎義治、事務局柏市)を設置し、この協議会全体でも放射線の測定を行なった。さらに、千葉県には、この協議会に参加することをよびかけ(千葉県も参加)、政府に対しても「福島県以外の学校・幼稚園・保育所等における放射線量の安全基準値を早急に策定し公表すること、安全基準値を超えた場合の対応策を示すとともに、その対策に要した費用については、国が全額負担すること。」(柏市のサイトより)という要望書を6月29日に提出した。

東葛地区放射線量対策協議会の行なった放射線量の測定結果(第1回、6月14〜16日実施)は、今からみれば、かなり深刻なものであった。流山市では0.38〜0.58μSv/h、我孫子市0.26〜0.60、鎌ヶ谷市0.12〜0.29、松戸市0.21〜0.39、柏市0.42〜0.47、野田市0.08〜0.27という値を示した。鎌ヶ谷市と野田市だけが比較的低いが、それでも0.23μSv/hを超えている地点が出ていたし、他の市では、ほとんどの地点が0.23μSv/hを超えていた。5月29日・6月1日に千葉県が行なった測定や、6月前半に柏市が独自に小中学校、高等学校や、幼稚園・保育園を対象とした測定でも同様の結果が出ている。6月27〜29日には第2回の測定が行なわれたが、その測定結果でも0.23μSv/hを超えている地点が続出した。

そして、柏市では、6月23日に、このような見解を出した。福島第一原発事故の影響で放射線量が上昇しており、その後も東葛地区放射線量対策協議会を中心に測定していくとしたのである。ここでは柏市だけをあげたが、他市も同様の対応をしたと思われる。

柏市を含めた関東一円の放射能被曝は、福島第一原発において3月13日から15日に発生した一連の水素爆発が原因で、風により放射性物質が広がり、3月21日から22日に降った雨により地表に付着したものと考えられます。
現在の放射線量は、その地表に付着した放射性物質の影響によるものであり、雨などで地表面が洗われることで、少しずつ減少しています。
このことは、市原市モニタリングポストと東京大学柏キャンパスから推測できます。(右図参照)
このことから、福島第一原発において、今後、水素爆発等の事故が発生しなければ、柏市においてはこれ以上の放射線量の上昇はないものと考えています。
ただし、東葛地区の空間放射線量が比較的高めであることから、その影響に関する不安の声や自治体での測定及び評価を実施するよう要望があがってきており、市としても現状を把握し対策を講じる必要があると考え、検討を重ねてきました。
しかし、放射線に対する基準等が明確でないことを受け、専門家の指導・助言を踏まえながら空間放射線対策を広域的に行う必要があると考え、東葛6市(松戸市、野田市、柏市、流山市、我孫子市、鎌ケ谷市)で結束して協議会を立ち上げました(6月8日に正式発足)。市としては、この東葛地区放射線量対策協議会を軸に対応していきますが、必要に応じて独自調査などを行う予定です。
同協議会では、6~8月にかけて専門機関に委託して放射線量の測定を行い、数値は随時ホームページなどで公表します。測定結果の評価についても、専門家の指導・助言を得て7月上旬ごろに公表する予定です。
市としても、これらに基づき、今後の対応を検討していきます。
http://www.city.kashiwa.lg.jp/soshiki/080500/p008644.html

しかし、もちろん、柏市を始めとした各自治体には、放射線量の専門家はいない。そこで、東北大学名誉教授中村尚司(前文部科学省放射線審議会会長)、東京大学准教授飯本武志(環境安全本部)、国立がんセンター東病院機能診断開発部長藤井博史(臨床開発センター)を専門家として参加させたのである。

そして、2011年7月8日、この3人の専門家と6市の市長たちにより、「第1回・第2回東葛地区放射線量測定結果等について」を議題として、第1回東葛地区放射線量対策協議会が我孫子市役所で開催された。まず、事務局より「測定結果は、毎時0.65~0.08マイクロシーベルトであった。文部科学省がICRPの参考レベルを基準化した毎時3.8マイクロシーベルト時、線量低減策の基準である毎時1.0マイクロシーベルトを下回っていた。」という見解が示された。まず、文部科学省が提示した3.8μSv/hという基準には達していないというのである。この時期、すでに文部科学省でも年間1mSv以下をめざすことを余儀なくされていたが、そうではなく、年間20mSvを基準とした3.8μSv/hもまだ基準となっていた。さらに、文部科学省が校庭などの除染費用を出すとしている1μSv/hも基準としている。この基準は年間で5mSvにあたる。いずれにせよ、東葛地区の測定値は基準を下回っているとしているのである。

そして、三人の専門家は、このように意見を提示した。

飯本准教授
今回の数値は絶対的なものではなく、様々な要因で変動する事実の理解も重要である。また、放射線計測上の15~20%程度の測定誤差は避けられず、例えば少数第2位の数値をもとに細かい議論をすることは得策でない。
2平方キロメートルメッシュの測定を優先し、線量分布の全体像を早期に整備することが必要。
市民向けの情報交換会を頻繁に開催し、市民の懸念に耳を傾け、リスクコミュニケーションを広げることが大切。多勢に向けたシンポジウムよりも小規模で双方向的な勉強会が望ましい。
藤井氏
東葛地区の空間線量では、外部被ばくによる発がんの有意な増加は考えられない。
東葛地区で体内に摂取される放射性核種の量は、既に体内に内在している放射性核種の量に比較して、有意に大量ではない。
東葛地区の放射線汚染の現状が住民の生命を直ちに脅かすものではないが、住民の被ばく線量を低減させるための努力を続けるべきである。
中村教授
通常のバックグラウンドに比べて高いが、数値は毎時1マイクロシーベルトより低く心配ない。2回の測定結果で数値がほとんど変化していないので今後は測定をもっと減らし、測定地点も少なくして構わない。
国内法令では、5ミリシーベルトは通常時でも、一般公衆に対する線量限度として、特別な場合は許容されている。また、日本人の内部被ばくを含めた年間の積算線量は約2.2ミリシーベルトあるといわれている。多大な人員と費用をかけて年1ミリシーベルト以下とすることは、ICRPが掲げているALARA(合理的に達成できる限り低くする)の精神に反する。
文部科学省が示した校庭の除染費用を出す目安である毎時1マイクロシーベルトは妥当な値である。屋外8時間、屋内16時間の計算式にあてはめると1年間の線量は約5ミリシーベルトになり、平常時の法令に照らしても問題ない。
http://www.city.kashiwa.lg.jp/soshiki/080500/p009027.html

飯本の議論も仔細によめば、自然の宇宙放射線や建材などに元々含まれている放射線物質の影響について言及しているのだが、とりあえず、線量分布の全体像を把握する必要性は指摘しているとはいえる。

他方で藤井は「東葛地区の空間線量では、外部被ばくによる発がんの有意な増加は考えられない」と述べている。藤井は国立がん研究センターの職員であり、この程度では、がんにならないというお墨付きを専門家が出しているといえるだろう。

中村にいたっては、「多大な人員と費用をかけて年1ミリシーベルト以下とすることは、ICRPが掲げているALARA(合理的に達成できる限り低くする)の精神に反する。文部科学省が示した校庭の除染費用を出す目安である毎時1マイクロシーベルトは妥当な値である。屋外8時間、屋内16時間の計算式にあてはめると1年間の線量は約5ミリシーベルトになり、平常時の法令に照らしても問題ない」とまで主張している。そして、測定もなるべくしないように述べている。中村は、文部科学省の放射線審議会の前会長であり、「専門家」中の「専門家」である。別に、自治体の首長たちのように、財政的な考慮を行なう必要はないはずである。

そして、このような議論は、質疑の中でも続くことになる。松戸市長本郷谷健次は、次のように質問し、藤井・中村は、次のように答えている。

本郷谷市長
放射線発がんの生涯リスクは被ばく時の年齢が影響するとされていたが、問題ないとされている年間5ミリシーベルトという値は、子ども・乳幼児にとっても問題ないと考えていいか。
中村教授
放射線に対する感受性は(子どもの方が)高いが、子どもががんになるのではない。
藤井氏
ICRPの出されている(確率的影響の発生頻度の)数値は年齢も考慮して算出されているが、年齢ごとの数値は出されていない。
広島・長崎の原爆の調査結果からは、10歳以下の子どもの場合、成人に比べてがんのリスクが2~3倍増える可能性はある。年間1ミリシーベルトでの発がん率は10万人あたり5人とされているが、この数字が2~3倍になったとしても(実際にはこの数が2~3倍になるわけではない)大きな数値にはならないといえる。
若いうちに被ばくしても、実際にがんが発生するのはある程度の年齢になってからであり、子どもの被ばくを大人と比べて神経質にとらえることはないと思う。
本郷谷市長
保護者はがん年齢になったときの影響を心配している。その点をどのように説明できるか。
中村教授
被ばくした線量による。この程度の線量で、発がん率が有意にあがるとは思えない。100ミリシーベルトを超える値であれば、大人と子供で明らかに差が出てくると思うが、今の状況で影響が出ることは考えられない。
飯本准教授
ある線量以下の数値はリスクマネジメントの領域になってくる。放射線のリスクをどの程度まで容認するかという点がひとによって感覚が異なり、論点になる。リスクマネジメントの考え方を上手に伝えて、数値のもつ意味を伝えることも重要である。
例えば1ベクレルのセシウムによる内部被ばくの影響は、年齢別の感受性の違いも考慮して、線量換算係数を用いてシーベルトに換算することができる。小さな子供の場合は、同じ量のセシウムを体内に入れても、大人の場合よりもシーベルトの数値が大きくなるような計算の仕組みができている。
今回は、地上1mと50cmの高さの放射線量を測定しており、外部被ばくについての子どもと大人の線量の差を明確化している。
このようにシーベルトの算出の過程に、感受性の高い子どもの数値が大人よりも高く評価されるような仕組みを持っており、リスクマネジメントのある段階までは計算でなされていることに留意すべき。
http://www.city.kashiwa.lg.jp/soshiki/080500/p009027.html

藤井は、広島・長崎の調査結果から、10歳以下の子どもが被曝した場合、がん発生リスクが2〜3倍になることは認めつつも、「若いうちに被ばくしても、実際にがんが発生するのはある程度の年齢になってから」としている。そして、本郷谷市長に「保護者はがん年齢になったときの影響を心配している。その点をどのように説明できるか。」と批判されている。さらに、中村にいたっては「この程度の線量で、発がん率が有意にあがるとは思えない」と発言している。

特に問題になったのは、年間1mSvという基準についてである。各市長たちは、住民の世論では年間1mSvが安全基準となっており、年間5mSvを基準にすることは納得されないと主張している。例えば、野田市長は、「市民の頭には、年間1ミリシーベルトという目標値がすでに入っている」と発言し、「少なくとも文部科学省は年間20ミリシーベルトから毎時3.8マイクロシーベルトを算出しており、その計算式を適用すれば、年間1ミリシーベルトは毎時0.19マイクロシーベルトになってしまう。これから時間をかけて説明する必要があると思うが、現時点でそのような説明をしても納得してもらえない」と述べている(なお、私も年間1mSvを前提として0.23μSv/hという基準を使っているが、それに対して疑義がないわけではない)。それに対して、主に中村が「現行の法律でも特別の場合は年間5ミリシーベルトという線量限度の数値は規定されている。今回の事故に関して、文部科学大臣は、回復時には年間1ミリシーベルトを目指すと発言しただけである」「現状では数値が先行していて、それを超えたら何かしなければならないとなっている。そのようなことをしていたら莫大な費用が掛かってしまう」と述べ、反論している。中村は、ここでも、「費用」というコストを最大の検討材料としているのである。

本郷谷市長
年間1ミリシーベルトという値が独り歩きしており、これが安全基準になっている。この値をどのように説明すればいいか。
中村教授
原発の施設設計・管理の基準であり、安全か危険かの基準ではない。
飯本准教授
平時や計画時のルールと事故時や復旧時のルールは考え方が異なる。事故時や復旧時に平時のルールは使えない。そのために1~20、20~100ミリシーベルトといった幅をもったバンドによる数値表現がICRPによって提唱されている。復旧時には相当するバンドの中で、ある目標値に向かって線量を合理的に下げる努力をしていくことになる。ICRPやIAEAは、事故直後の暫定的なルールを示しているが、その後の復旧時における新しいルールを作る場合には、検討の透明性を高めて、ルール決定に至るプロセスを記録に残しておくべきとしている。数値基準を定めるときを特にこの点に注意すべきである。
根本市長(崇 野田市長)
文部科学省が学校において年間1ミリシーベルトという目標値を示しているが、これと比べて中村先生がお示しした毎時1マイクロシーベルトで年間5ミリシーベルトまで問題ないとする見解はどのように解釈すればよいか。
中村教授
現行の法律でも特別の場合は年間5ミリシーベルトという線量限度の数値は規定されている。今回の事故に関して、文部科学大臣は、回復時には年間1ミリシーベルトを目指すと発言しただけである。
根本市長
市民の頭には、年間1ミリシーベルトという目標値がすでに入っている。年間5ミリシーベルトという数値を市民に説明する際に、どのようにすればいいのか。
飯本准教授
最終的には1ミリシーベルトを目指すとしているが、達成が不可能なケースも、もしかしたら出てくるかもしれない。
代表的な線量を見ながらどのような対策をすべきかという議論は必要だと思うが、今の段階でどれくらいの数値が出たらこの対策をしなければならないということを安易に決めるのは、プロセスとして間違っている。なんらかの数値基準を決めるならば、情報をきちんと整え、関係者で話し合う手続きを踏むことが大切だと考えている。その意味で、私が提言したように小さいお子さんをお持ちの方との情報交換の場を設定することは、プロセスとして重要であると考えている。
やれることをやれる範囲で低い線量を目指すという姿勢はきわめて重要。また一回線量低減対策を実行すればそれでいいというものでもない。常に、最適化をしていくということが大事。
まずは急いで、データをきちんとそろえることが重要である。
中村教授
ICRPでもALARA(合理的に達成できる限り低くする)ということをいっている。その対策をしてどれだけ意味があるのかを考えていかなければならない。
本郷谷市長
市民の立場からみれば移動の自由がある。ある地域は他と比べて数値が高いとなると市民は別の場所に引っ越しできるし、他から人が来ないということになる。この数値ならば問題ないということを市民が納得してくれればいいが、いろいろ議論がある中で説明に苦慮している。
飯本准教授
どの線量がいいかは、ひとそれぞれリスクに対する考え方の違いがあり決められない。いろいろな考え方がある中で、合議をしながら最終的な対応を決めていくという手続きを踏むことが重要である。
清水市長(聖士 鎌ヶ谷市長)
数値的な答えとしては中村先生がおっしゃっている毎時1マイクロシーベルトが妥当ということでよろしいか。
中村教授
私はそのように思うが、気になるようであれば特に高いところの線量低減をしてもいいのではないか。
清水市長
新聞などでは年間1ミリシーベルトであれば、毎時0.19マイクロシーベルトであると書いている。0.19を基準とされると東葛6市ではほとんど基準を超えてしまう。
飯本准教授
年間1ミリシーベルト=毎時0.19マイクロシーベルトの単純換算は誤り。1年間の基準では、一時的に少々高い値が示されたとしても許されるが、時間単位にするとそれが許されなくなる。現実からかけ離れた机上の計算を基準に議論するのは賛成できない。
根本市長
少なくとも文部科学省は年間20ミリシーベルトから毎時3.8マイクロシーベルトを算出しており、その計算式を適用すれば、年間1ミリシーベルトは毎時0.19マイクロシーベルトになってしまう。これから時間をかけて説明する必要があると思うが、現時点でそのような説明をしても納得してもらえない。
飯本准教授
年間20ミリシーベルト程度のところであれば、自然放射線を含めて考えてもいいが、年間1ミリシーベルト程度のところを議論するなら自然放射線を除外して考えなければいけない。誤解が多いため、ICRPも注意深く書いている部分。
中村教授:現状では数値が先行していて、それを超えたら何かしなければならないとなっている。そのようなことをしていたら莫大な費用が掛かってしまう。
飯本准教授
数値基準は安全と危険の境界線ではない。数値基準だけを前面に出すことは、リスクに関するメッセージ性を考えても間違っている。放射線は身のまわりに存在するさまざまなリスクの一部であり、ことさら放射線リスクだけに着目するのは、バランスとしてよくない。ICRPの提唱するALARA、最適化をまさに実践するとき。藤井先生ご指摘のように、もっと別のリスクにも、バランス良く目を向け、対応を判断する必要があるのではないか。
星野市長(順一郎 我孫子市長)
市民の方は、国の年間1ミリシーベルトという基準値から逆算した毎時0.19マイクロシーベルトという数値が頭に入っていて、国の基準値を超えていると考えている。実際はそうではないが、ある程度低い数値を基準値として示さない限り、納得してもらえない。
飯本准教授
市民の方は非常によく勉強されている。一方、情報が氾濫しており、その中でも興味や関心を強く引くような特定の情報に傾倒してしまうケースもあるよう。しかし、落ち着いて、真摯に情報交換をすれば冷静に耳を傾けてくださる方も多いと感じている。地に足をつけたしっかりしたリスクコミュニケーションを進めるのが重要。
早急に新たな線量基準だけを作るというのは、ICRPの提唱する手順からいっても間違っている。
星野市長
国に対して基準値と低減策を示すように要望しているが、国の対応はにぶいようである。市町村としては対応に苦慮している。
一つの方法として、野田市が行ったように学校・保育園等で職員に積算線量計を携帯させて積算線量を測定し、公表する。実際の積算線量がわかれば、安心感につながるのではないか。
http://www.city.kashiwa.lg.jp/soshiki/080500/p009027.html

重要なのは、松戸市長が「市民の立場からみれば移動の自由がある。ある地域は他と比べて数値が高いとなると市民は別の場所に引っ越しできるし、他から人が来ないということになる。この数値ならば問題ないということを市民が納得してくれればいいが、いろいろ議論がある中で説明に苦慮している。」と発言していることである。移動の自由がある限り、世論から離れた安全基準で対策を行なうと、住民が減ってしまうのである。これは、この地域で現実におきていることである。この地域は、首都圏のベットタウンであり、職場だけでいえば、他地域へ移動することは容易である。なお、さらに、職場すらもかえて、関東地方外に移動する人びとすらいるのである。ゆえに、この地域では、住民減少を少しでも食い止めるために、放射線量低減対策に自治体としても積極的に行なわざるをえないということになるといえる。

そして、このような「移動の自由」は、被災地の福島県では、実質的に保障されていないといえる。高線量地域をさけることは本来自由であり、その自由のため住民が減少するというならば、各自治体は放射線対策に本気で取り組まなくてはならないはずである。首都圏のホットスポットと比較すると、その点が福島県は違うといえるのである。

最終的に、柏市長より「6市の基本的認識と今後の方針については、「東葛6市の空間放射線量に関する中間報告及び今後の方針」のとおり決定させていただく。」という発言があり、この協議会は終了した。この「今後の方針」について、結論部分のみ引用しておこう。

第3章 基本的認識と今後の方針
以上の結果より、現状において東葛地域の空間放射線量は、直ちに対策が必要となる状況にはないと考えられた。しかしながら、同時に国際放射線防護委員会勧告においては、合理的に達成出来る限り放射線量を低減すべきとしている。また、地域住民から引き続き不安の声が寄せられていることを鑑み、安全よりむしろ安心に資する取り組みが必要であるとの認識に立ち、更なる措置として、今後は、以下のとおり、取り組みを行うこととした。

 引き続き空間放射線量調査は実施し、実態把握を進める。
 測定結果と生活実態調査の結果に基づき、個々の施設において年間の被ばく量を算定するなど、管理を徹底する。
 管理の基準は、国際放射線防護委員会勧告に示された目安を尊重し、学校保育園,幼稚園等の施設において年間1ミリシーベルト(自然界からを除く)を目標とする。
 相対的に空間放射線量の高い区画の把握及びその区画における空間線量低減方策を検討する。
 各自治体が各施設等の実情に応じ、優先順位を定め、費用対効果を勘案して具体的取り組みを順次進める。

1.放射線量の低減策について
具体的な放射線量の低減対策実施にあたっては、優先順位を決め、低減効果の実証実験等を行うなど、費用対効果を勘案し検討することとした。
2.今後の調査方針
各市域2kmメッシュ内の代表施設について、早期に測定値を把握することを優先する。また、きめ細かな測定を迅速に行うため、東葛6市で比較校正を済ませた簡易測定器を複数台入手する。

3.国や東京電力(株)に対する要望活動
(1)実態に即した被ばく線量の推計、評価方法の確立を国に求めて行く。
(2)放射線量低減を図るために行った費用負担を国及び東京電力(株)に求めていく。

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ある意味では玉虫色の見解だが、重要なことは、年間1mSvをめざすということが、これらの6市の方針として明記されたことである。この方針策定については、事前に中村らの意見も聞いていたはずと思われるが、結局、中村のいう1μSv/h(年間5mSv)は採用されなかったのである。これは、世論の反映ということができる。首長たちは、住民の世論を、「専門家」の主張よりも重視せざるを得なかったのである。そのかわり、中村の持論と思われる「費用対効果」が明記されることになったと考えることができる。

そして、住民の世論を無視して主張する「専門家」のこのようなあり方こそ、福島第一原発事故で問われたものの一つということができよう。このような「専門家」の主張に抗しつつ、住民の世論が自治体の首長たちを動かすことによって、「年間1mSv」という基準は意味あるものとされていったということができよう。

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