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さて、前回は、宮城県が独自に津波被災地において都市計画・区画整理のために行っている建築制限が、現地の人びとの自主的な復興をさまたげているのではないかと述べた。その是非は置くとしても、そもそも、このような都市計画・区画整理を含んだ宮城県の復興事業が財政的にみて実現可能なものであるかを検討しておきたい。

河北新報は、7月29日に、次のように報道している。

復興事業費23兆円 宮城県試算12.8兆円 「全然足りない」

 宮城県は東日本大震災の復興財源について、2020年度までの10年間で、県と市町村分を合わせ12兆8327億円が必要と試算した。政府は10年間の復興事業費を23兆円規模と決めたが、村井嘉浩知事は「全然足りない」と批判。8月4日に行う国の3次補正予算に向けた要望活動で、見直しを強く迫る方針だ。
 県によると、内訳は県分が震災復興計画2次案に明記した316事業を含む7兆190億円。市町村分は特定被災地31市町村の総額5兆8137億円で、丸森、加美、色麻、七ケ宿4町は含まれていない。
 県分は、住宅の高台移転費や防潮堤整備費など公共土木施設分野が2兆4320億円、がれき処理費を含む環境生活衛生分野が1兆2260億円、漁港復旧費など農林水産分野が1兆1360億円となった。
 企業誘致の促進事業費を含む経済商工観光分野は4860億円。県立学校再建費など教育分野は2270億円、仮設診療所整備費など保健福祉医療分野は1170億円とそれぞれ算出した。
 東京電力福島第1原発事故に伴う放射能被害対策も計上。県全域での健康被害追跡調査、土壌汚染被害調査、放射性セシウムに汚染された稲わらや牛肉の処理対策、肉用牛の全頭検査などの費用を大まかに見積もった。
 市町村分は、仙台市が5年間の復旧・復興事業費として試算した1兆円のほか、高台移転や土地区画整理、防災緑地整備などに要する8591億円を盛り込んでいる。
 放射線被害が拡大したり、JR復旧費に県負担が発生したりすれば、額はさらに増える。
 村井知事は8月4日、県市長会長の奥山恵美子仙台市長、県町村会長の鈴木勝雄利府町長と合同で、政府に被災地の積算に基づく復興財源の確保を要請する。
 達増拓也岩手県知事や佐藤雄平福島県知事にも呼び掛け、被災3県で政府に再考を求めることも検討している。
 村井知事は「被災地の試算結果を待たず、政府が復興事業費を決めた根拠が分からない。宮城だけで13兆円かかり、どう考えても足りるとは思えない。23兆円の財源確保で幕引きすることは許されない」と話している。

2011年07月29日金曜日
(http://www.kahoku.co.jp/spe/spe_sys1062/20110729_07.htm)

つまり、7月末時点で、宮城県は県内だけで約13兆円事業費がかかるとして、国が算出した、東日本大震災全体の復興事業費23兆円では少ないと批判しているのである。

その是非は置くとしても、現在(8月29日)行われている民主党代表選において、多くの候補が復興事業費を増税ではなく、国債などで賄おうと主張しており、大幅な財政出動が可能かどうか疑問である。私自身は、増税のリスクをおっても、東北の復興事業費に投資すべきである(ただし、宮城県のような方針でよいのかどうかは問題だが)と考えているが、新自由主義的な減税志向の中で主体形成をしてきた民主党議員たちが、大幅な復興事業に賛成するかいなかは判断できかねるといってよい。

他方で、特例公債法案を政争の具にした自由民主党・公明党が、復興事業費を大幅に増額しようとするとも思えない。彼らもまた、新自由主義的な減税志向の中で主体形成をしてきているのである。

そして、復興増税が実現しても、財務省としては、増税額の圧縮をはかり、復興事業費の増額ははからないであろうと予想される。毎日新聞は、8月10日に、次のように報道している。

東日本大震災:政府がJT株一部売却検討 復興財源確保で

 政府・民主党は10日、東日本大震災の復旧・復興事業の財源確保のため、保有する日本たばこ産業(JT)株を一部売却し、最大6000億円程度を調達する検討に入った。今後数年間で、出資比率を現在の50%から33.3%に段階的に引き下げる案が有力で、復興財源を賄うための臨時増税の規模圧縮につなげたい考えだ。ただ、売却には政府の過半出資を義務づけるJT法改正が必要で、今後与野党での調整が難航する可能性もある。

 政府はこのほか、エネルギー対策特別会計を見直し、500億円以上を復興財源に充てる方針。また、公務員の人件費削減で年間2900億円を捻出できるとしている。

 政府は、今後5年間の復旧・復興事業に19兆円以上が必要と試算。既に11年度補正予算で措置している約6兆円を除く13兆円について、歳出削減や、政府保有資産の売却など税外収入で約3兆円、残る約10兆円を臨時増税で充てる方針だった。歳出削減では子ども手当の見直しや高速道路の無料化実験の廃止で約2兆5000億円を確保できる見通し。JT株売却などが実現すれば、増税幅は最大1兆円程度圧縮できる可能性がある。【小倉祥徳】

毎日新聞 2011年8月10日 19時40分(最終更新 8月10日 19時44分)
http://mainichi.jp/select/biz/news/20110811k0000m020037000c.html

政府は、JT株の売却により、増税額の圧縮をはかるというのである。結局、財源をかき集めても、復興事業費増額にまわらないと予想されるのである。

さらに、「市町村分は、仙台市が5年間の復旧・復興事業費として試算した1兆円のほか、高台移転や土地区画整理、防災緑地整備などに要する8591億円を盛り込んでいる。」ということに着目してみよう。この8591億円は、仙台市を除く高台移転や区画整理事業にかかる市町村の費用をさしている。実は、これ自体が、現行法では国に支払う義務は規定されていないのではないかと思われる。産経新聞は、6月11日に、このように報道している。

宮城の復興費2兆円超 現行制度なら「12市町すべて破綻」
2011.6.11 21:22
 宮城県は、東日本大震災の津波被害を受けた沿岸12市町の新たなまちづくりに必要な事業費が2兆1079億円に上るとの試算をまとめた。11日の政府の「復興構想会議」に村井嘉浩知事が提示した。

 このうち国と県などの負担を除いた市町負担分は8591億円と算出。新たな財源措置がなく現行制度を前提とした場合は「12市町すべてがまちづくりだけで財政破綻する」と指摘、自治体負担を軽減する財政支援策を早期に打ち出すよう重ねて求めた。

 試算には政令市である仙台市の事業費は含まれていない。宮城県全体ではさらに額が膨らむことになる。

 県によると、復興まちづくりの対象となるのは4万2700戸。住宅の高台移転費用や土地区画整理事業費で約1兆円、道路や鉄道、防災緑地などの公共施設整備費で約1兆1千億円と試算した。
(http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/110611/dst11061121250045-n1.htm)

つまりは、現行法では国の支出が明記されない、本来は市町村負担である区画事業費など8591億円も含めて、宮城県は県全体の復興事業費を約13兆円と試算しているのである。宮城県の要求する復興事業費が実現するには、法改正が必要ということになる。その是非は問わないが、現状において、このことは実現可能なのであろうか。そして、もし、法改正ができなければ、8591億円は、丸々沿岸市町の自己負担となるのである。

これは、村井嘉浩県知事自身が試算している。次の記事は、村井県知事が6月3日に日本記者クラブで行った記者会見の要旨である。日本記者クラブのサイトから引用した。これによると、高台移転などにかかる総事業費につき、現行法では地元負担のほうが多くなるのである。

村井嘉浩・宮城県知事が「宮城県の復興・再構築に向けて」と題して記者会見し、宮城県の復興計画について話した。
村井知事は、東日本大震災後の宮城県の復興について、復旧期3年、再生期4年、発展期3年間の計10年間を計画期間とし、9月県議会に震災復興計画を議案として上程する、と説明した。復興のポイントとして10項目をあげ、そのうち、①災害に強いまちづくり宮城モデルの構築②水産県みやぎの復興③ものづくり産業の早期復興による「富県宮城の実現」――の3点について詳しく述べた。津波被害を受けたA町(人口2700人)の場合、高台移転による復興事業費について、総事業費519億円のうち地元負担は388億円にものぼるという試算を紹介し、国の支援が欠かせないことを訴えた。また「水産業復興特区」制度により民間資本が漁業に参入する新たな選択肢を説明した。質疑応答では、菅内閣不信任案、国の復興構想会議、義援金の配分、女川原発、漁業振興などの質問に答えた。
司会 日本記者クラブ企画委員 篠原昇司(日本経済新聞)
http://www.jnpc.or.jp/activities/news/report/2011/06/r00022768/

結局、宮城県の打ち出している復興事業は、国の方針が決まらないと実現できないものといえる。さもないと、多大の地元負担がかかるのである。これは、今まで、過疎や財政で苦しんできた、この地域で可能なことなのであろうか。ある意味では、中央依存の復興構想といえるのである。

そして、現在、宮城県の沿岸市町では、8月26日付朝日新聞朝刊で報道されたような現実に直面している。

財源示さぬ国
 「国の方針が決まっていない中で、議論しても何もならない」。津波で市街地の6割が浸水した宮城県東松島市の「まちづくり懇談会」では、住民から不満の声が相次いでいる。
 市は6月に「まちづくり構想図」をつくり、住民に示した。防潮堤と二つの道路をかさ上げする3重の津波対策と居住地の高台移転、沿岸部の再整備などを地区ごとに定めた。
 だが、政府が7月末に示した復興基本方針では、高台移転への国の負担額が明示されなかった。集団移転を希望していた7地区では、反対する住民も出始めた。移転が進まないことを不安視し、「やはり住み慣れた場所のほうがいい」と思い直したからだ。市の担当者は「現状は被災者にさらなる痛みを与えている」と嘆く。

動けぬ自治体
 津波で壊滅的な被害を受けた南三陸町。平地が少ない同町は、浸水した集落の高台移転がまちづくりの柱で、町は移転先の候補用地を取得する議案を議会に提出した。しかし、議会は「町の負担額が分からない」と反発、町は議案の撤回を余儀なくされた。22日に再提出したが、委員会付託になった。

結局のところ、国の負担額が不明のため、沿岸市町では高台移転などに難色を示しているのである。

この状況に対して、宮城県は、9月11日までかけている建築制限を二か月延長することを検討している。宮城県としては、9月11日までに、国の助成などで優遇されるが、しかし建築の規制を受ける「復興推進地域」を定め、それ以外は制限を解除する予定であった。しかしながら、都市計画などがまったく進まないため、建築制限を特例法で定める上限にまで延長するとしているのである。

 上記の朝日新聞によれば、次のような状況がうまれているという。

 

建築制限が長引くなか、宮城県の企業が工場を移す動きもある。気仙沼市の大手水産会社は、岩手県陸前高田市に新たな加工場を建設している。気仙沼商工会議所の臼井賢志会頭は、7月のシンポジウムで不安を漏らした。「企業は規制がないところで事業をやらざるを得ない。戻ってきてくれるだろうか」

津波で破壊された気仙沼市の水産業加工地帯(2011年7月27日)

津波で破壊された気仙沼市の水産業加工地帯(2011年7月27日)

この状況に対して、先の朝日新聞の報道では「ある県幹部は『菅政権は何もしていないのに等しい』とあきれる」と述べている。確かに、菅政権が有能だとはいえない。しかし、それは、前述したように、新自由主義的な減税志向の強い、民主党・自由民主党・公明党などの体質もあわせて考えるべきなのであろう。

そして、宮城県の責任について、翻って考えてみよう。菅政権の無策は、被災した地域全体に及んでいる。しかし、気仙沼の企業が隣接する岩手県陸前高田市に拠点を移すということは、宮城県の建築制限のためである。いわば、中央依存の大規模開発を指向したため、中央が決めないと、企業流失もとめられないのは、宮城県固有の責任といえるのである。

村田県知事の特区構想は、そもそも水産だけではなかった。民間投資促進や集団移転円滑化のための規制緩和も構想されていたように記憶している。今や、「建築制限」という規制のもと、人や企業の流失を逆に促進している「逆特区」という状況に陥っているのが、宮城県の状況といえなくもないのである。

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