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安倍晋三首相が「年頭所感」を1月1日に発表した。たいして長い文章ではないが、ほとんどのマスコミがテクスト自体を報道していないので、ここで全文を紹介しておく。

安倍内閣総理大臣 平成27年 年頭所感

 新年あけましておめでとうございます。

 総理就任から2年が経ちました。この間、経済の再生をはじめ、東日本大震災からの復興、教育の再生、社会保障改革、外交・安全保障の立て直しなど、各般の重要課題に全力で当たってまいりました。さらには、地方の創生や、女性が輝く社会の実現といった新たな課題にも、真正面から取り組んできました。

 そして先の総選挙では、国民の皆様から力強いご支援を頂き、引き続き、内閣総理大臣の重責を担うこととなりました。

いずれも戦後以来の大改革であり、困難な道のりです。しかし、信任という大きな力を得て、今年は、さらに大胆に、さらにスピード感を持って、改革を推し進める。日本の将来を見据えた「改革断行の一年」にしたい、と考えております。

 総選挙では全国各地を駆け巡り、地方にお住いの皆さんや、中小・小規模事業の皆さんなどの声を、直接伺う機会を得ました。こうした多様な声に、きめ細かく応えていくことで、アベノミクスをさらに進化させてまいります。

経済対策を早期に実施し、成長戦略を果断に実行する。今年も、経済最優先で政権運営にあたり、景気回復の暖かい風を、全国津々浦々にお届けしてまいります。

今年は、戦後70年の節目であります。

日本は、先の大戦の深い反省のもとに、戦後、自由で民主的な国家として、ひたすら平和国家としての道を歩み、世界の平和と繁栄に貢献してまいりました。その来し方を振り返りながら、次なる80年、90年、さらには100年に向けて、日本が、どういう国を目指し、世界にどのような貢献をしていくのか。

私たちが目指す国の姿を、この機会に、世界に向けて発信し、新たな国づくりへの力強いスタートを切る。そんな一年にしたいと考えています。

 「なせば成る」。

上杉鷹山のこの言葉を、東洋の魔女と呼ばれた日本女子バレーボールチームを、東京オリンピックで金メダルへと導いた、大松監督は、好んで使い、著書のタイトルとしました。半世紀前、大変なベストセラーとなった本です。

 戦後の焼け野原の中から、日本人は、敢然と立ちあがりました。東京オリンピックを成功させ、日本は世界の中心で活躍できると、自信を取り戻しつつあった時代。大松監督の気迫に満ちた言葉は、当時の日本人たちの心を大いに奮い立たせたに違いありません。

 そして、先人たちは、高度経済成長を成し遂げ、日本は世界に冠たる国となりました。当時の日本人に出来て、今の日本人に出来ない訳はありません。

国民の皆様とともに、日本を、再び、世界の中心で輝く国としていく。その決意を、新年にあたって、新たにしております。

 最後に、国民の皆様の一層の御理解と御支援をお願い申し上げるとともに、本年が、皆様一人ひとりにとって、実り多き素晴らしい一年となりますよう、心よりお祈り申し上げます。

平成27年1月1日
内閣総理大臣 安倍晋三
http://www.kantei.go.jp/jp/97_abe/statement/2015/0101nentou.html

この「年頭所感」の冒頭は、昨年までの安倍内閣の「業績」を語っている。経済の再生、東日本大震災からの復興、教育の再生、社会保障改革、外交・安全保障の立て直し、地方創成、女性が輝く社会の実現という課題ー安倍首相によれば「戦後以来の大改革」ーに取り組んできたとし、昨年末の総選挙で国民の信任を得たと述べている。

そして、今年は日本の将来をみすえた「改革断行の年」にしたいとして、二つの課題を提起している。第一の課題は「アベノミクスのさらなる進化」である。安倍首相は、「経済対策を早期に実施し、成長戦略を果断に実行する。今年も、経済最優先で政権運営にあたり、景気回復の暖かい風を、全国津々浦々にお届け」するとしている。といっても、具体策が提起されているわけではない。

安倍首相のあげている第二の課題は、戦後70年を迎えて平和国家としての戦後日本を前提としながら、「日本が、どういう国を目指し、世界にどのような貢献をしていくのか」を世界に発信し、新しい国づくりのスタートを切るということである。これは、一見、今までの「平和国家」としての日本を維持していくかにみえる。しかし、たぶん、安倍首相の心底では「新しい国づくり」のほうに力点があるのだろう。

さて、後半は、安倍政権の業績とも政策課題とも違った、「ポエム」のような「心情告白」である。安倍首相は、東京オリンピックの際の日本女子バレーボールチームの大松監督が使った言葉「なせば成る」を声高らかに宣言している。安倍首相は、「戦後の焼け野原の中から、日本人は、敢然と立ちあがりました。東京オリンピックを成功させ、日本は世界の中心で活躍できると、自信を取り戻しつつあった時代。大松監督の気迫に満ちた言葉は、当時の日本人たちの心を大いに奮い立たせたに違いありません。そして、先人たちは、高度経済成長を成し遂げ、日本は世界に冠たる国となりました」と主張している。このなかでは東京オリンピックと戦後復興ー高度経済成長の課程が二重写しにされているのである。

そして、「当時の日本人に出来て、今の日本人に出来ない訳はありません。国民の皆様とともに、日本を、再び、世界の中心で輝く国としていく。その決意を、新年にあたって、新たにしております。」と語りかけているのである。

いわば、「東京オリンピック」を象徴として、戦後復興ー高度経済成長の過程が、過去の「成功体験」として認識されており、「なせば成る」というスローガンのもとに、現在の日本人でもそのような成功が可能なのだとハッパをかけているのである。

ある意味で、安倍首相が考えている、「戦後日本」で受け継ぐべきものとは、この心情告白によって十二分に語られているといえよう。そして、このことは、みずからの親族ー祖父岸信介、大叔父佐藤栄作を継承することでもあるのだ。

しかし、このことは、単に安倍首相の個人的なパーソナリティに還元するだけではとどまらない。安倍首相を積極的であれ消極的であれ支持する人びとはいるのだ。先行きが見えないままー特に民主党政権の「挫折」と3.11以降ー、過去の「成功体験」に依拠するしか未来の展望をもてないということが普遍化していることが問題なのである。

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さて、増えつづける福島第一原発の汚染水処理の切り札として、ストロンチウム他多くの放射性物質を除去できる設備として、ALPS(多核種除去設備)が設置された。この設備ではトリチウムは除去できないが、その他の62種類の放射性物質は除去できるとされている。

しかし、現実はどうだったのだろうか。福島民報では、3月17日に次のように回想している。

汚染水処理期待外れ ALPS試運転1年
 東京電力が福島第一原発の汚染水処理の切り札として導入した「多核種除去設備(ALPS)」は試運転開始から30日で1年を迎える。一日平均の処理量は11日現在、約180トン。相次ぐトラブルによる停止などで、一日に発生する汚染水約400トンの半分にも満たない。東電は増設で、平成26年度内にタンクに貯蔵している汚染水約34万トンの浄化完了を目指している。だが、トラブルが起きないことが前提で、計画通りに進むかどうかは不透明だ。

■増え続けるタンク
 東電は昨年3月30日、3系統のALPSのうち、「A」と呼ばれる1系統で試運転を開始した。同年6月中旬に「B」、同9月末に「C」と呼ばれる系統の試運転を始めた。今年2月12日には初めて3系統同時の試運転がスタートした。
 ALPSの汚染水処理のイメージは【図上】の通り。一日当たりの1系統の処理能力は250トンで、3系統が稼働すれば750トンの処理が可能だ。しかし、試運転開始後にトラブルが相次ぎ、11日現在までに処理した汚染水の総量は6万2792トンにとどまる。一日当たりの処理量に換算すると平均約180トンで、一日に発生する汚染水約400トンの半分にも達していないのが現状だ。
 高濃度の汚染水を保管する地上タンクは増え続けており、16日現在、約1100基、貯蔵量は約34万トンに上る。東電は平成26年度内に全てのタンクの汚染水を浄化させる目標を掲げている。だが、目標達成には一日当たりの処理能力を1960トンまで上げる必要があり、処理能力の向上が急務だ。

■増設頼み
 東電は4月以降、試運転から本格運転に切り替え、3系統を常時稼働させる。10月に3系統を増設する。さらに政府は同時期に一日当たり500トンの処理能力を持つ高性能ALPS1系統を整備する。
 現在の処理態勢と10月以降の見通しは【図下】の通り。東電のALPS6系統と、政府が新設する高性能ALPS一系統がフル稼働すれば、最大で一日2000トンの汚染水を処理できると見込んでいる。
 ただ、あくまでもトラブルによる停止がないことが前提だ。ALPSでは、試運転開始から作業員のミスなどが原因での停止が相次いでいる。特に、昨年9月下旬には作業員がタンク内部に作業で使用したゴム製シートを置き忘れる人為ミスも起きている。増設後、順調に汚染水処理を進めるには、作業員のミスが原因のトラブルを防ぐ対策が不可欠だ。

( 2014/03/17 08:36 カテゴリー:主要 )
http://www.minpo.jp/news/detail/2014031714538

要約すると、このようにいえるだろう。現在、ALPSは3系統あり、その処理能力の合計は1日あたり750トンあることになっている。汚染水は1日あたり400トン発生しており、それらタンクに貯められた汚染水は34万トンに上っている。東電は2014年度中にすべての汚染水を処理する計画をたてており、そのために、現状のALPSを増設して1日1500トンの処理能力をもたせるとともに、国が1日あたり500トンの処理能力を有する高性能ALPSを設置し、総計1日約2000トンの汚染水処理を行おうとしているのである。

しかし、現実には、ALPSのトラブルによる停止が相次ぎ、結局1日あたり180トンしか処理できていないのが現状である。ALPSを増設しても、実際にはどれほどの汚染水処理ができるのだろうか。

皮肉なことに、このネット記事が配信された翌日の18日、トラブルによるALPSの運転停止が発表された。朝日新聞がネット配信した次の記事をみておこう。

福島第一のALPSまた停止 一部で浄化能力失う不具合
2014年3月19日01時10分

 東京電力は18日、福島第一原発で発生する汚染水から放射性物質を取り除く多核種除去設備「ALPS(アルプス)」で、試運転中の3系統のうち1系統で処理ができなくなっていたと発表した。汚染水が十分浄化されないままタンクに移されたことを確認した。

 ALPSは、汚染水から62種類の放射性物質を取り除くとされる装置。東電によると、ストロンチウムなどベータ線を出す放射性物質全体の濃度を10万分の1程度まで下げる能力がある。だが17日に3系統あるうちの「B」と呼ぶ系統の処理後の水を調べたところ1リットルあたり1千万ベクレル程度残っていた。14日には異常はなかったという。

 東電はB系統で処理ができなくなったと判断。三つの系統で処理された水は一つに集めて貯蔵タンクに移すため、装置全体を止めた。東電はB系統の異常がいつから起きたのか調べているが、浄化されなかった汚染水が貯蔵タンクに移された可能性がある。

 ALPSは昨年3月に試運転を始めたが、装置内で汚染水が漏れるなどのトラブルが相次ぎ、この1カ月間にも電気系統の不具合が2度発生。その度に一部の系統で処理を止めている。
http://www.asahi.com/articles/ASG3L5JM3G3LULBJ00P.html?iref=comtop_list_nat_n01

これは、単に停止というだけでなく、ALPSの除去能力が一部稼働せず、汚染水が未処理のまま、タンクに移されたことを意味する。しかも、この記事にあるように、それ以前の1カ月間に2度も停止しているのである。

そして、24日にようやく、故障が特定され、一部の運転が再開された。朝日新聞の次のネット配信記事をみてみよう。

福島第一のALPS故障、原因はフィルター 運転を再開
2014年3月24日17時42分

 東京電力福島第一原発で汚染水を処理する多核種除去設備ALPS(アルプス)が故障した問題で、東電は24日、3系統あるうち1系統のフィルターが働かず、放射性物質を含む泥が取れていなかったと発表した。残り2系統は問題ないとして同日午後、運転を再開した。

 ALPSは、高濃度の汚染水からストロンチウムなど62種類の放射性物質を取り除くとされる設備。前処理として、薬品を入れて吸着を妨げる物質を泥状にしてフィルターでこし取った後、吸着材で放射性物質を取り除く仕組み。東電によると、フィルターが機能せず、泥がそのまま吸着材に流れ込んでいたという。

 その結果、処理できなかった汚染水がタンク21基に送られた。タンクの汚染を調べたところ、このうち9基分で6300トン分が汚染されたという。

 このほか、ALPSとタンクをつなぐ配管も汚染された。このため、東電は運転再開した2系統で処理した水を配管などに流し、汚染を洗い流せるかどうか調べる。配管を通した水は、汚染された9基のタンクにためるという。
http://www.asahi.com/articles/ASG3S4RGLG3SULBJ00J.html

しかし、トラブルの原因が特定されたからよかった、というものではない。共同通信は、24日のネット配信記事で、次のように指摘している。

試運転中の東京電力福島第1原発の汚染水処理設備「多核種除去設備(ALPS)」が、汚染水から放射性物質を取り除けないトラブルで停止、東電が目指す4月中の本格運転は厳しい状況になった。敷地内の地上タンクにたまり続ける汚染水の浄化を来年3月までに完了するとの目標達成も一層困難になってきた。
 ALPSはトリチウム以外の62種類の放射性物質を除去でき、汚染水対策の切り札とされる。18日に発覚したトラブルでは、3系統のうち1系統の出口で17日に採取した水から、ベータ線を出す放射性物質が1リットル当たり最高1400万ベクレル検出。本来なら、数億ベクレル程度の汚染水が数百ベクレル程度まで浄化されるはずだった。
 (中略)
 敷地内の汚染水を来年3月までに浄化するとの目標は、昨年9月に安倍晋三首相が第1原発を視察した際に、東電の 広瀬直己 (ひろせ・なおみ) 社長が表明した。達成には汚染水を1日当たり1960トン処理しなければならない計算で、ハードルは極めて高い。
 (中略)
  尾野昌之 (おの・まさゆき) 原子力・立地本部長代理は「改善点を新しい設備に反映させる。今回の件が、ただちに計画に影響を与えるとは思わない」とする。だが今回のトラブルの原因究明や、設備の洗浄などにかかる時間は不明で、本格運転の見通しは立たない。
 3設備を合わせても処理量は1日約2千トンで、1960トンを維持するには綱渡りが続く。いったん今回のようなトラブルが起きれば、計画は破綻しかねない。
(共同通信)
2014/03/24 13:57
http://www.47news.jp/47topics/e/251668.php

つまり、現状のALPSの本格運転自体が難しいのである。2014年度中に汚染水処理を完了するというのは、東京オリンピック誘致時に東電が表明した方針であった。つまりは、安倍首相の「アンダーコントロール」というのは、2014年度末にすら達成は困難であるということなのである。

ALPSは、そもそもトリチウムを除去できないという構造的欠陥をもっている。しかし、それにしても、トラブル続きで、まともに汚染水処理をこなすことができないという現状は、いったい何なのだろうか。このALPSの惨状には、もんじゅや六カ所村再処理工場と同じようなにおいを感じる。軽水炉本体のようなマニュアルのあるものはそれなりに作れるといえるのだが、独自技術をうまく実用化することができない。そして、日々トラブルにみまわれた結果の反省というものを見いだすことができない。福島第一原発事故自体に反省がないのである。そして、有益かどうかわからない技術に多額の資金が費やされ、さらに作業員も被ばくせざるをえなくなっている。そして、このような惨状を放置したまま、文字通りの「机上の計算」にもとづき、トップダウンで汚染水処理計画が設定され、その計画に基づいて、東京オリンピック招致が正当化されているのである。

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ブエノスアイレスで開催された9月7日のIOC(国際オリンピック委員会)総会で、2020年の東京オリンピック開催が決定された。

2020年のオリンピック開催については、東京、イスタンブール、マドリードが立候補していたが、東京は福島第一原発事故の処理、イスタンブールは反政府デモや隣国シリアの内戦などの政情不安、マドリードは経済危機と、それぞれ問題をかかえていた。結果的にいえば、IOCは、経済危機や政情不安よりも、福島第一原発の事故処理のほうがオリンピック開催における克服可能な課題と考えたのだろうといえる。そう考えてみれば、この3都市の中で、東京が選ばれる可能性はもともと少なくはなかったと思われる。これについては、いろいろ考えていることがあるが、それは別の機会にしたい。

さて、東京オリンピック開催決定のIOC総会でなされた東京招致委員会のプレゼンテーションの中で、安倍首相もスピーチをし、その中で短く福島第一原発のことについて触れた。そして、その後、IOC委員から福島第一原発について質問が出て、それにも安倍首相は答えた。福島第一原発についての安倍首相の発言の要旨について、朝日新聞が2013年9月8日にネット配信している。この発言については、NHKのテレビでリアルタイムに聞いていたが、大体この通りであった。

「ヘッドラインではなく事実みて」汚染水巡る首相発言

 東京電力福島第一原発の放射性物質汚染水漏れをめぐる安倍晋三首相の発言要旨は次の通り。

 【招致演説で】

 状況はコントロールされている。決して東京にダメージを与えるようなことを許したりはしない。

 【国際オリンピック委員会(IOC)委員の質問に対し】

 結論から言うと、まったく問題ない。(ニュースの)ヘッドラインではなく事実をみてほしい。汚染水による影響は福島第一原発の港湾内の0・3平方キロメートル範囲内で完全にブロックされている。

 福島の近海で、私たちはモニタリングを行っている。その結果、数値は最大でも世界保健機関(WHO)の飲料水の水質ガイドラインの500分の1だ。これが事実だ。そして、我が国の食品や水の安全基準は、世界で最も厳しい。食品や水からの被曝(ひばく)量は、日本のどの地域でも、この基準の100分の1だ。

 健康問題については、今までも現在も将来も、まったく問題ない。完全に問題のないものにするために、抜本解決に向けたプログラムを私が責任をもって決定し、すでに着手している。

 【演説後、記者団に】

 一部には誤解があったと思うが、誤解は解けた。世界で最も安全な都市だと理解をいただいたと思う。http://www.asahi.com/politics/update/0908/TKY201309070388.html

安倍首相の原発問題についての発言について、2013年9月10日付朝日新聞朝刊の社説「東京五輪―原発への重い国際公約」の中で、

 「状況はコントロールされている」「汚染水の影響は原発の港湾内で完全にブロックされている」――国際オリンピック委員会(IOC)総会での安倍首相のプレゼンテーションと質疑応答は、歯切れがよかった。

 必ずしも原発事故の問題に精通しているわけではないIOC委員には好評で、得票にもつながった。http://www.asahi.com/paper/editorial.html#Edit2

と評されている。全く、スピーチにおけるレトリックの問題に限定するならば、そうなんだろうと私も思う。日本の国政の最高責任者が「安全だ」とお墨付きを与えること、つまり、福島第一原発事故問題は、日本政府によって克服している問題であるということ、これがIOC委員たちの求めていることであったに違いない。IOC委員たちの求めていた答えを、安倍首相は言い切ったのである。

それにしても、「(ニュースの)ヘッドラインではなく事実をみてほしい。」とは、人を食った発言である。安倍首相の発言内容は「事実」なのか。朝日新聞の同社説は、「だが、この間の混迷ぶりや放射能被害の厳しさを目の当たりにしてきた人には、空々しく聞こえたのではないか。」とも述べている。

そもそも、福島第一原発の状況を「コントロール」しているということ自体が事実に反するだろう。今日(2013年9月10日)も、汚染水貯蔵タンク周辺や1号機のタービン建屋周辺の井戸水が放射能で汚染されたことが報道されている。NHKの次のネット配信記事をみてほしい。

福島第一原発 地下水の汚染拡大か
9月10日 4時21分

福島第一原発 地下水の汚染拡大か
東京電力福島第一原子力発電所でタンクの汚染水が漏れた問題で、地下水への影響を調べるためタンクの周辺に新たに掘った2本目の井戸の水からも、ストロンチウムなどのベータ線という種類の放射線を出す放射性物質が高い値で検出されました。
東京電力は地下の汚染が拡大しているとみて調べています。

福島第一原発では先月、4号機の山側にあるタンクから、高濃度の汚染水300トン余りが漏れ、一部が側溝を通じて、原発の専用港の外の海に流出したおそれがあります。
東京電力が問題のタンクのおよそ20メートル北側に新たに掘った井戸で8日採取した水を調べたところ、ストロンチウムなどのベータ線という種類の放射線を出す放射性物質が1リットル当たり3200ベクレルという高い値で検出されました。
今月4日にはタンクの南側の井戸の水からも放射性物質が検出されていて、今回はその値よりさらに高く、東京電力は漏れ出した汚染水が地下水に到達し、汚染が拡大しているとみています。
100メートル余り海側には、建屋に流れ込む前の地下水をくみ上げて海に放流するための井戸があり、影響が懸念されていて、東京電力はさらに観測用の井戸を増やして詳しく調べることにしています。
一方、高濃度の汚染水がたまっている1号機のタービン建屋のすぐ海側の井戸で今月5日に採取した水から放射性物質のトリチウムが1リットル当たり8万ベクレルという高い値で検出されました。
この井戸は原発事故の前から設置されていて、今回、監視を強化するためにほぼ1年ぶりに分析したところ、濃度は上昇していました。
東京電力は「継続的に見ていかないと原因や傾向はわからない」としています。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130910/k10014415491000.html

より包括的に、安倍首相の発言内容が事実であるかいなかを厳しく検証しているのが、次の毎日新聞の9月9日付ネット配信記事である。

安倍首相:汚染水「完全にブロック」発言、東電と食い違い
毎日新聞 2013年09月09日 21時07分(最終更新 09月10日 01時09分)

 安倍晋三首相が、7日にアルゼンチン・ブエノスアイレスで行われた国際オリンピック委員会(IOC)総会の五輪招致プレゼンテーションで、福島第1原発の汚染水問題をめぐり、「完全にブロックされている」「コントロール下にある」と発言したことについて、「実態を正しく伝えていない」と疑問視する声が出ている。

 9日に開かれた東京電力の記者会見で、報道陣から首相発言を裏付けるデータを求める質問が相次いだ。担当者は「一日も早く(状況を)安定させたい」と応じた上で、政府に真意を照会したことを明らかにするなど、認識の違いを見せた。

 防波堤に囲まれた港湾内(0.3平方キロ)には、汚染水が海に流出するのを防ぐための海側遮水壁が建設され、湾内での拡大防止で「シルトフェンス」という水中カーテンが設置されている。また、護岸には水あめ状の薬剤「水ガラス」で壁のように土壌を固める改良工事を実施した。

 しかし、汚染水は壁の上を越えて港湾内に流出した。フェンス内の海水から、ベータ線を出すストロンチウムなどの放射性物質が1リットル当たり1100ベクレル、トリチウムが同4700ベクレル検出された。東電は「フェンス外の放射性物質濃度は内側に比べ最大5分の1までに抑えられている」と説明するが、フェンス内と港湾内、外海の海水は1日に50%ずつ入れ替わっている。トリチウムは水と似た性質を持つためフェンスを通過する。港湾口や沖合3キロの海水の放射性物質は検出限界値を下回るが、専門家は「大量の海水で薄まっているにすぎない」とみる。

 さらに、1日400トンの地下水が壊れた原子炉建屋に流れ込むことで汚染水は増え続けている。地上タンクからは約300トンの高濃度汚染水が漏れ、一部は、海に直接つながる排水溝を経由して港湾外に流出した可能性がある。不十分な対策によるトラブルは相次ぎ、今後もリスクは残る。「何をコントロールというかは難しいが、技術的に『完全にブロック』とは言えないのは確かだ」(経済産業省幹部)という。

 安倍首相は「食品や水からの被ばく量は、どの地域も基準(年間1ミリシーベルト)の100分の1」とも述べ、健康に問題がないと語った。厚生労働省によると、国内の流通食品などに含まれる放射性セシウムによる年間被ばく線量は最大0.009ミリシーベルト。だが、木村真三・独協医大准教授は「福島県二本松市でも、家庭菜園の野菜などを食べ、市民の3%がセシウムで内部被ばくしている。影響の有無は現状では判断できない」と指摘する。【鳥井真平、奥山智己】
http://mainichi.jp/select/news/20130910k0000m040073000c2.html

そもそも、安倍首相は、福島第一原発の港湾部で放射能汚染水がブロックされているといっていたが、港湾と外洋はフェンスによって仕切られているものの、完全に封鎖されているわけではなく、水は移動できる状態である。原子炉建屋への地下水流入はコントロールされておらず、汚染水は増える一方である。

そして、食品に対する放射性物質による汚染についても、流通食品についてはそれなりにコントロールしているが、家庭菜園などの野菜によって内部被ばくした可能性があることが指摘されている。さらに、9月10日付東京新聞朝刊では、「疑問符の付く安倍首相の発言はもう一つ。『日本の食品や水の安全基準は世界で最も厳しい』と説明したが、厳密には違う。チェルノブイリ事故の影響を受けたベラルーシは、一部の食品の基準が日本よりも厳しい」と述べている。

このような安倍首相の発言内容に対し、現在、福島第一原発からの汚染水流出によって最も被害を蒙っている福島県の漁業者その他は「あきれた」と発言する他なかった。9月8日の福島民友新聞ネット配信記事をみてほしい。

汚染水めぐる首相発言に批判の声 福島の漁業者ら「あきれた」
(09/08 20:51)

 「状況はコントロールされている」。安倍晋三首相は、国際オリンピック委員会(IOC)総会で、東京電力福島第1原発事故の汚染水漏れについて、こう明言した。しかし、福島の漁業関係者や識者らからは「あきれた」「違和感がある」と批判や疑問の声が上がった。「汚染水の影響は福島第1原発の港湾内0・3平方キロメートルの範囲内で完全にブロックされている」とも安倍首相は説明した。だが、政府は1日300トンの汚染水が海に染み出していると試算。地上タンクからの漏えいでは、排水溝を通じて外洋(港湾外)に流れ出た可能性が高いとみられる。
http://www.minyu-net.com/newspack/2013090801001923.html

そして、とうとう、菅官房長官も、汚染水を含む港湾部の海水が外洋との間で出入りしていることを認めざるを得なかった。結果的に、安倍発言の一部を訂正したことになるといえる。9月10日に配信した朝日新聞のネット配信記事をみてほしい。

「全部の水、ストップではない」 汚染水問題で官房長官

 菅義偉官房長官は10日午前の記者会見で、東京電力福島第一原発の放射能汚染水漏れについて「全部の水をストップするということではない」と述べ、同原発の港湾の内外で汚染水を含む海水が出入りしていることを認めた。

 安倍晋三首相が国際オリンピック委員会(IOC)総会で「汚染水の影響は港湾内で完全にブロックされている」と発言した真意を問われて答えた。ただ、菅氏は「港湾内でも大幅に基準値以下だ。汚染水の影響については完全にブロックされていると申し上げた」と強調した。

 安倍首相は同日午前、首相官邸で記者団に「ブエノスアイレスでの約束はしっかり責任をもって実行したい」と述べた。http://www.asahi.com/politics/update/0910/TKY201309100112.html

そして、笑うしかないのは、次の朝日新聞のネット配信記事(9月10日)である。

福島第一原発の汚染水対策 関係閣僚会議が初会合

 東京電力福島第一原発の汚染水問題で、安倍政権は10日午前、廃炉・汚染水対策関係閣僚会議(議長・菅義偉官房長官)の初会合を開いた。五輪招致の演説で、安倍晋三首相は汚染水漏れは制御できているとの考えを示した。その裏付けとなる対策づくりを急ぐ。

 菅長官は会合の冒頭、「総理の発言どおり、状況を確実にコントロールして解決につなげていくことが必要」と述べ、対策を東電任せにせず、政府が前面に出る考えを強調した。

 閣僚会議の下に、茂木敏充経済産業相をチーム長とする「廃炉・汚染水対策チーム」をもうけることを決めた。技術的に難しい課題について国内外から解決策を募り、2カ月後をメドに対応をとりまとめる。
http://www.asahi.com/politics/update/0910/TKY201309100079.html

安倍発言は、「汚染水漏れは制御できている」としている。これは、現在「制御できている」という意味だ。しかし、廃炉・汚染水対策関係閣僚会議では「その裏付けとなる対策づくりを急ぐ」としている。対策はまだつくられてもおらず、実施は当然されていない。未来に属することだ。未来に成立する対策によって、現在の状況を「制御」するというのである。原因と結果が取り違えられているとしかいえない。

事が起こってからあわてて対策や準備をしたりすることを「泥棒を捕えて縄をなう」というが、現状では、汚染水という「泥棒」は捕まえてさえいないのだ。

今、それこそ、「ニュースのヘッドラインだけを見させて、事実を見せない」報道が蔓延している。しかし、その中で「事実」を探してみると、以上の通りなのである。東京オリンピック開催が決定されようとしまいと福島第一原発は存在している。そして、専門家ではなく、責任もないIOC委員たちがどう考えようと、福島第一原発は東京におけるオリンピック開催への「脅威」であり続けているのである。

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