Feeds:
投稿
コメント

Posts Tagged ‘有馬朗人’

今回、国旗国歌法の審議過程においてあかるみにされた矛盾についてみていこう。1999年8月9日、小渕内閣において「国旗・国歌法」(正式には「国旗及び国歌に関する法律」)が成立した。法律自体はシンプルで、国旗を日章旗に、国歌を君が代とすることを定めただけである。しかし、この国旗・国歌法は矛盾をかかえていた。この国旗・国歌法は、1989年の学習指導要領において、「入学式や卒業式などにおいては、その意義を踏まえ、国旗を掲揚するとともに、国歌を斉唱するよう指導するものとする。」と規定されて、公立学校の入学式や卒業式などで国旗掲揚・国歌斉唱が事実上義務付けられたことを前提としたものであった。少なくとも、学校教育の現場で儀式に携わる教員たちが国旗・国歌を扱うことは、当然の責務として考えられていた。

例えば、当時の文部大臣有馬朗人は、このように答弁している。

一般に,思想,良心の自由というものは,それが内心にとどまる限りにおいては絶対的に保障されなければならないと考えております。しかし,それが外部的行為となってあらわれるような場合には,一定の合理的範囲内の制約を受け得るものと考えております。
 学校において,校長の判断で学習指導要領に基づき式典を厳粛に実施するとともに,児童生徒に国旗・国歌を尊重する態度を指導する一環として児童生徒にみずから範を示すことによる教育上の効果を期待して,教員に対しても国旗に敬意を払い国歌を斉唱するよう命ずることは,学校という機関や教員の職務の特性にかんがえてみれば,社会通念上合理的な範囲内のものと考えられます。そういう点から,これを命ずることにより,教員の思想,良心の自由を制約するものではないと考えております。
(平成11年7月21日 衆議院内閣委員会文教委員会連合審査会 文部大臣)
http://www1.jca.apc.org/anti-hinokimi/archive/chronology/sengo2/tsuchi_shiryo.htm

しかし、国会審議の中で、当時の日本共産党や社会民主党などからさまざまな異論を出された。例えば、6月29日の衆議院本会議で、日本共産党の志位和夫衆議院議員は、小渕恵三総理大臣に次のように問いかけた。

どのような形であれ、思想、良心の自由など人間の内面の自由に介入できないことは、近代公教育の原理であり、教育基本法の原則ではありませんか。日本共産党は、法律に根拠がない現状ではもちろん、我が党が主張するように国民的討論と合意を経て法制化が行われたとしても、国旗・国歌は、国が公的な場で公式に用いるというところに限られるべきであって、国民一人一人にも教育の場にも強制すべきものではないと考えます。総理の見解を問うものであります。

そして、小渕恵三は、次のようにこたえている。

良心の自由についてお尋ねがありましたが、憲法で保障された良心の自由は、一般に、内心について国家はそれを制限したり禁止したりすることは許されないという意味であると理解をいたしております。学校におきまして、学習指導要領に基づき、国旗・国歌について児童生徒を指導すべき責務を負っており、学校におけるこのような国旗・国歌の指導は、国民として必要な基礎的、基本的な内容を身につけることを目的として行われておるものでありまして、子供たちの良心の自由を制約しようというものでないと考えております。
 教育現場での教職員や子供への国旗の掲揚等の義務づけについてお尋ねがありましたが、国旗・国歌等、学校が指導すべき内容については、従来から、学校教育法に基づく学習指導要領によって定めることとされております。学習指導要領では、各教科、道徳、特別活動それぞれにわたり、子供たちが身につけるべき内容が定められておりますが、国旗・国歌について子供たちが正しい認識を持ち、尊重する態度を育てることをねらいとして指導することといたしておるものであります。http://kokkai.ndl.go.jp/cgi-bin/KENSAKU/swk_dispdoc.cgi?SESSION=15652&SAVED_RID=1&PAGE=0&POS=0&TOTAL=0&SRV_ID=8&DOC_ID=2248&DPAGE=1&DTOTAL=10&DPOS=7&SORT_DIR=1&SORT_TYPE=0&MODE=1&DMY=15931

この答弁は微妙である。子供たちの良心の自由を制限するものではないとしながらも、国民として必要な基礎的・基本的な内容を身につけさせるためには、学習指導要領に基づいて国旗・国歌の指導は必要だとしているのである。

ただ、この答弁は、ともあれ、おおっぴらに児童・生徒に対して国旗・国歌を強制すべきではないということにもなろう。例えば、7月21日、有馬文相はこのように答弁している。

どのような行為が強制することになるかについては,当然,具体的な指導の状況において判断をしなければならないことと考えておりますが,例えば長時間にわたって指導を繰り返すなど,児童生徒に精神的な苦痛を伴うような指導を行う,それからまた,たびたびよく新聞等々で言われますように,口をこじあけてまで歌わす,これは全く許されないことであると私は思っております。
 児童生徒が例えば国歌を歌わないということのみを理由にいたしまして不利益な取り扱いをするなどということは,一般的に申しますが,大変不適切なことと考えておるところでございます。
(平成11年7月21日 衆議院内閣委員会文教委員会連合審査会 文部大臣)
http://www1.jca.apc.org/anti-hinokimi/archive/chronology/sengo2/tsuchi_shiryo.htm

そして、このような態度は、教員たちに対する「強制」についても微妙な配慮を生み出していった。学習指導要領に規定された職務上の責務であるから、それについて職務命令を出すことは可能である。しかし、有馬文相はこのように述べている。

私は,教育というのは根本的に先生と児童生徒の信頼関係であり,またそれを生み出すのは先生方同士の信頼関係だと思っています。ですから,職務命令というのは最後のことでありまして,その前に,さまざまな努力ということはしていかなきゃならないと思っています。
 ただ,極めて難しい問題に入っていったときに最終的にはやむを得ないことがあるかもしれませんが,それに至るまでは校長先生も,また現場の先生方もよくお話し合いをしていただきたいと思っています。
(平成11年8月6日 参議院国旗及び国歌に関する特別委員会 文部大臣)http://www1.jca.apc.org/anti-hinokimi/archive/chronology/sengo2/tsuchi_shiryo.htm

職務命令を出すことは最後のことにすべきで、それまでによく教員の間で話し合ってほしいと有馬は要望しているのである。

そして、処分についても、有馬文相は次のように述べている。

 

職務命令を受けた教員は,これに従い,指導を行う職務上の責務を有し,これに従わなかった場合につきましては,地方公務員法に基づき懲戒処分を行うことができることとされているところでございます。
 そこで,実際の処分を行うかどうか,処分を行う場合にどの程度の処分とするかにつきましては,基本的には任命権者でございます都道府県教育委員会の裁量にゆだねられているものでございまして,任命権者である都道府県におきまして,個々の事案に応じ,問題となる行為の性質,対応,結果,影響等を総合的に考慮して適切に判断すべきものでございます。
 なお,処分につきましては,その裁量権が乱用されることがあってはならないことはもとよりのことでございます。
(平成11年8月6日 参議院国旗及び国歌に関する特別委員会 政府委員)

 教育の現場というのは信頼関係でございますので,とことんきちっと話し合いをされて,処分であるとかそういうものはもう本当に最終段階,万やむを得ないときというふうに考えております。このことは,国旗・国歌が法制化されたときにも全く同じ考えでございます。
(平成11年8月6日 参議院国旗及び国歌に関する特別委員会 文部大臣)http://www1.jca.apc.org/anti-hinokimi/archive/chronology/sengo2/tsuchi_shiryo.htm

もし、職務命令を受けた教員が従わない場合、処分の権限は都道府県教育委員会がもっているが、その裁量権は乱用すべきではないとし、処分は最後の手段とすべきとしているのである。

ある意味では、「学習指導要領」を根拠とした教育現場における国旗・国歌の強制という論理と、思想の自由を保障するという論理が、国旗国歌法の審議過程ではせめぎあっていたといえる。もちろん、小渕や有馬のいう「思想の自由」は、児童・生徒にせよ教員にせよ、「内心の自由」でしかなく、学校教育現場の国旗・国歌の強制という営為を阻害することは許されなかった。それでも、あからさまな強制を児童・生徒にたいして課すべきではなく、教員についても最後の手段とすべきとはされていたのである。そして、このようなアンパビレンツな態度は、2004〜2005年における日の丸・君が代に対する天皇の発言や、2012年1月に出された、国旗国歌に対する職務命令は合法・合憲とはするものの重すぎる処分は裁量権の乱用にあたるとする最高裁判決にも影響してくるといえる。ここで詳述できないが、その意味で、結果的に国旗国歌法の成立を許したとしても、国会において、国旗国歌法の問題点を洗い出したことは意味があるといえるのである。

付記:なお、1999年6月29日の衆議院本会議における志位和夫と小渕恵三の論戦については国会会議録から引用したが、その他の資料は文部省初等中等教育局が1999年9月にまとめた「国旗及び国歌に関する関係資料集」から引用した。

広告

Read Full Post »