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雁屋哲の『美味しんぼ』(2014年)についての批判に巻き込まれてしまい、部分的な発言をあげつらわれてしまった福島大学の荒木田岳は、3.11の時点で福島に在住しており、3.11についてさまざまな発言をしている。それらの中で、もっとも分かりやすく、彼の意見を集約的に語っているのが「大洪水の翌日を生きる」(福島大学原発災害支援フォーラム・東京大学原発災害支援フォーラム『原発災害とアカデミズム 福島大・東大からの問いかけと行動』所収、合同出版、2013年2月)であるといえる。以下、荒木田の語る3.11後の福島の状況についてみてみよう。

まず、荒木田は、「福島第一原発の事故は、当時、多くの人々がそう感じたように、ある時代の終わりを告げる『事件』であった」と述べている(荒木田前掲書p161)。そして、彼が共感をもった人々の発言を引用している。

(3月12日の1号機の爆発音を聞きながら)…「もう、これで終わりだな」と思いました。「ここで、おれは終わりだな」と、だから、今は、その延長戦で、終わったのだけれど、まだ生きているのですよ。(元双葉村長井戸川克隆)

 万一、起こったなら、それはとりもなおさず、「この世の終わり」にほかならなかったはずのーそんな事態が、しかしほんとうに起こってしまった。危惧されたすべての可能性に数倍する絶望的な規模で、いともあっさりと。
 すなわち、いま私たちは「この世の終わり」の後を生きているのだ……(山口泉「『この世の終わり』の後の日本で偽りの希望を拒否して携えるべきもの」、『ミュージック・マガジン』2011年6月号所収、p96)

 取り返しのつかないことが起こってしまった。だからわれわれはこの寓話〔ノアの方舟を指す:筆者注〕を、とりわけ原発事故に重ねて受けとめることになる。この事故は現在も進行しており、われわれは文字どおり現実化した「大洪水」の翌日、来ることが信じられなかった「未来」の翌日を生きている…(西谷修「『大洪水』の翌日を生きる」、ジャン=ピエール・デュピュイ『ツナミの小形而上学』所収、岩波書店、2011年)
(全体は荒木田前掲書p161−162より引用)

そして、彼自身は、このように語っている。

 

こうした感覚が、どれほど共有されているかはよくわからない。つまるところ、「取り返しのつかないこと」かどうかが分水嶺になるのであるが、実際には、リカバリー可能と考えている人が大半であろう。根拠はともかく、「そうでなくては困る」からである。渦中の選手には試合終了のホイッスルが聞こえないという説明もありうるかもしれない。しかし、試合を終えたくない人々には、これほど明らかな『合図』を見過ごすことができる図太さもまた必要だというのが実のところであろう。
(荒木田前掲書p162)

 荒木田は、「相次ぐ原発建屋の爆発を目にし、『これで帰る場所、帰る職場を失った』という絶望的な事実と直面した」という(荒木田前掲書p163)。しかし、彼にとって、その数倍の絶望を与えたのは、政府の事故対応とマスコミの報道であった。政府・マスコミ・福島県などの「事故対応」について、荒木田は次のように指摘している。

 

福島の住民に救いの手がさしのべられなかったのは、政府内部では事故後ごく短時間のうちに「経済的社会的便益や行政上の都合のために住民を被曝させることもやむなし」という決定がなされたからに相違ない。そのことは、とりもなおさず福島問題が政府の手に負えなくなっていることを意味していた。つまり、当時、政府が福島(あるいはその住民)を守るどころか、実際には、福島問題から政府ないし「社会」を守るための「尻尾切り」に必死だったということである。
 ここで確認しておく必要があるのは、東京電力はもちろん、政府も福島県も、おそらくはマスコミも、原子炉がすでにメルトダウンを起こし制御不能に陥っていることや、放射性物質が放出され住民に危険が及んでいる事実を明確に把握していたことである。それは東京電力が公開したテレビ会議の様子を一見しただけでも明らかである。ようするに状況を理解した上で、自覚的に現地住民の被曝を容認したということである。
 筆者がそのことを悟ったのは、原子力安全・保安院が憔悴し動揺を隠せない担当者に代えて、薄ら笑いを浮かべながら他人事のように事態を説明する担当者を登板させたときである。それは、福島で進行中の事故について政府が当事者意識も人間性も欠如させているという事態を、何よりも雄弁に物語っていた。原発事故以前から、人間を大切にしない社会であることに問題を感じていたが、そのことが疑いようもなく明白になった瞬間であった。それは同時に、筆者が「この世の終わり」の翌日を生きている感覚をもった瞬間でもあった。
 政府やマスコミばかりではない。県内の地方自治体も、ほぼ政府の対応を追認するか、あるいはそれに先んじて現地の安全性を強調するようになっていた。
(荒木田前掲書p163−164)

このことについては、特別にまとめなくても、荒木田の文章で十分理解できよう。荒木田は福島市渡利地区に宅地を買っていたが、周知のように、この地区の放射能汚染は深刻であり、住宅建設を断念し、3.11直後は妻子とともに県外避難せざるを得なかった。手元には借金しか残らなかったという。

そして、3月後半には福島でも通常業務が再開され、避難者にも帰還が要請されるようになり、荒木田個人にも及んだ。荒木田は「そこにいれば病気とわかっている場所で暮らせというのか」と感じたが、もちろん、帰還を要請する人々はそのようなことを正面切っては言わず、「この程度の線量なら大丈夫」「全員が病気になるわけではない」という言葉で被曝強要を正当化したという(荒木田前掲書p165)。彼は、妻子を県外避難させたまま、自身は福島で仕事を続けるという生活をせざるをえず、そのことについて、「福島の職場で一緒に被曝したところで自身の社会的責任を果たしたことにはならないとは思いつつも、かといって借金と三人の扶養家族を抱えてほかの方法を見つけることもできなかった。その意味で、筆者もまた哀れむべき『弱者』の一人であった」(荒木田前掲書p175)と回想している。

他方で、福島の地域住民の意識について、荒木田は次のように指摘している。

不幸なのは、住民はこのようなときにも(このようなときだからこそ?)、公務員に普段以上の仕事を期待し、そのことが結果として「みんなで被曝」することにつながったと思われることである。そのためというわけでもないだろうが、行政は避難を要求する『地域からの意見』には耳を貸そうとしない。
(中略)
 他方で、それ(住民が被曝地である福島に留め置かれること…中嶋注)を地元から積極的に受容すべきだという動きもあった。だれしも自らが見捨てられ、あるいは軽んじられ、騙されているという事実を受け入れられないものである。苦境を『自らの選択』として積極的に意味づける機制が働くのもわからなくはない。この場合、復興・希望・決意など、明るく「前向き」なスローガンと結びつく傾向がある。しかし、汚染を受忍して現地に住み続けることは、汚染者の責任と賠償を極小化し、総じて被害見積もりを極小化することにつながる。この場合、他者にも同じ境遇を強要する傾向があるから手に負えない。その意味でも「人権問題」に相違なかった。
(荒木田前掲書p164−166)

他方で、荒木田は、行政の都合により利用されている各分野の「専門家」について、その責任を次のように指摘している。

彼らが難解な術語や数式を用いて事態を説明することは、それを解さぬ「素人」が沈黙を強いられるという効果をもたらした。というより、むしろ人々をこの問題から遠ざけることが目的だということが疑われた。そして、少なくとも、福島県内において住民の多くを萎縮させ、黙らせ、諦めさせることになった点からすれば、それは十分にその目的は達成されたといえる。そして、被曝が日常になれば、やがて考えることをやめてしまう。考えても仕方のないことだからである。
(荒木田前掲書p167)

その上で、荒木田は「しかし、そもそも放射線が細胞と遺伝子を傷つけるメカニズムを考えれば、難解な術語や数式を使うまでもなく『放射線は浴びないに越したことはない』という結論に至るほかない。とすれば、その先に『人々が無用の被曝を避けるにはどうしたらよいか』を考えるというのが自然の成り行きであろう」(荒木田前掲書p167)と主張している。

さらに、荒木田は、福島第一事故以後、作業員の被曝限度を50mSvから250mSvに引き上げ、住民の追加被曝限度を年間20mSvとし、食品暫定規制値を設けるなど、各種安全基準を緩和したことを、「政府が福島問題を『尻尾切り』しようとしてめぐらせた策」(荒木田前掲書p168)と断じている。そして、これらの緩和措置を「○×の答えがないグレーゾーンでリスクと便益を判断する」として正当化した自称「福島の応援団」である福島県放射線リスク管理アドバイザー山下俊一の発言について、「平時ではないのだから『現実的に』考えて安全基準を緩和して対応するしかないこと、住民に『共に』『重荷』を背負うべきであることが主張されている。住民が福島の地に住み続けることは、当然の前提とされており、避難することは『利己的』『過保護』だというのである」(荒木田前掲書p169)と荒木田は概括し、次のように指摘している。

 

しかし、追加被曝年間1ミリシーベルトが「不可能」ないし「非現実的」なのは、福島に住み続けるようとするからであって、それ未満の線量の場所に移住すれば実現不可能ではない。「去るのも、とどまるのも、覚悟が必要」になるのは、政策的な避難を放棄しているためである。自己決定・自己責任を強調しているように見えるが、避難の支援はしない、避難するならご自由に、という部分に強調点がある。
(荒木田前掲書p169)

さらに、荒木田は、山下の発言を「人類史に残るような大事故であったはずの事実が、個人的な感覚や感情の問題に解消」(荒木田前掲書p169)するものとしている。このような発言に加えて、「放射能を正しく理解する」という殺し文句が出てくれば、原理を正しく理解していないから感情的に怖がるのだというイメージが形成されるとしている。そして、荒木田は注で、山下のリスク管理が間違うことがあっても、彼の個人的な責任とされ、政府はどこまでいっても無謬とされるだろうとしている。

荒木田は、この戦略はとりあえず成功しているとしている。彼は、このように言っている。

福島では、一部の人によってではあれ、自発的に「住み続ける権利」が主張され、現地の安全性に疑義を挟むことは「住む者に対する冒涜」だと主張されているからである。同様に、福島の農産物の安全性に疑義を呈することも、「安全だと思って食べている人を侮辱すること」だとされるのである。現地を心配する声が、現地の人々によって諌められ、怨嗟されてきた。自称「福島の応援団」が現地に何をもたらしたかは明らかであろう。
(荒木田前掲書p169−170)

荒木田は、「そうまでして守ろうとした『社会』は、いったいどのようなものだったのであろうか」と自問し、「結論からいえば、自身の快楽や幸福のためには他人の犠牲をも厭わないということがまかり通るような社会であった。とりわけ重視されたのは経済である」(荒木田前掲書p171)と自答している。荒木田によれば、犠牲を受け入れさせることに利用されるのが、山下俊一が主張するような「リスクと便益を判断する」という観念なのだが、これは、結局、地理的にいえば、リスクは現地の人が負担し、便益は域外の、一部の人々が得るという仕組みになっているとしている。さらに、時間的にいえば、廃棄物処理を先送りし、今の快適な生活のため、目の前から問題が消えればそれでいいとする考え方なのだと荒木田は主張している。

荒木田は、「原発事故問題は、原発事故の問題ではない。問われているのは、現在の生活様式であり、生き方そのものである」とし、他人に迷惑をかけても、問題を後世に先送りしても「今ここでの快適な生活」に固執する人々が、その生活を守るために、消極的には思考停止し、積極的にはそれを容認する政党を支持するのだろうと述べている(荒木田前掲書p173)。さらに、荒木田は、問題が大きすぎると直視できなくなるとし、人の手に余るような破滅的な事故・災害は想定外とされ、手に負えない事故は、隠蔽・矮小化され、考慮の枠外にされ、思考停止し、忘却されようとされるのだろうと述べ、「こうして、序曲の幕開け時点においてすでに忘却が政治上の論点になっている。その点に、この世の不幸がある」(荒木田前掲書p174)と言っている。

このような状況に対抗して、荒木田は次のような宣言を発している。

 

しかし、最初の問題に戻っていえば、原発事故が発した「警告」は、時間的・地理的双方の意味で「見えない場所に矛盾を追いやり、今ここでの快適な生活を続けること」が、もはや不可能だということを示す合図だったのではないか…福島第一原発事故は終わらないし、終わりようがないのである。矛盾を押し込むことができる「外部」など、時間的にも空間的にも、もはや存在しないことが明らかになったのである。その規模や汚染の範囲を考えると気が遠くなるし、逃げ出すべき「安全な場所」などどこにも存在しない。それが残念ながら現実である。
 我が亡き後に洪水は来たれーしかし、その洪水は昨日起こってしまっている。結局、脱皮の失敗が命取りになるのは、「大地のライオン」にとっても人間社会にとっても同じかもしれない。
(荒木田前掲書p174)

荒木田は、彼の住んでいる福島の現状を、彼の言う「被曝者」の視点で、赤裸々に描いている。福島の原発建設自体が、彼のいうリスクを現地におしつけ、放射性廃棄物の処理を後世におしつけ、その便益を現在の「快適な生活」を維持し続けようとする一部の人々に与えるものであり、それは、福島の人々に放射線被曝をさせつづけることにつながっている。そのために、「専門家」を使嗾しながら、福島の人々に「放射線」への不安意識を払拭させ、福島に住み続けることを「当然」として意識させようとしている。この戦略は、とりあえず、荒木田は成功しているとしている。そして、2014年に「美味しんぼ」批判に荒木田は巻き込まれたのだが、「現地を心配する声が、現地の人々によって諌められ、怨嗟されてきた」という論理が、皮肉なことに、彼への批判に使われたのであった。短期的には、「現在の快適な生活」に固執する人々は、彼らのいう「福島の正常化」(放射能つきの)に成功しつつあるようにみえる。事実が隠蔽・矮小化され、思考停止され、忘却されていっているのである。そして、福島第一原発にせよ、福島県の放射能対策にせよ、原発再稼働にせよ、「我が亡き後に洪水は来たれ」を、そのまま実行しているように見えるのである。

しかし、荒木田のいうように、福島第一原発事故は「取り返し」のつかないものであった。それは、福島だけのことではない。長期的にいえば、矛盾を押し込むことができる外部は、荒木田のいうように、時間的にも空間的にも存在しない。逃げ出すべき「安全な場所」など、どこにもないのだ。それは、最近開通した常磐道をみていればわかることである。

荒木田が引用している「『この世の終わり』の後」(山口泉)、「『大洪水』の翌日、来ることが信じられなかった『未来』の翌日」(西谷修)という感想は、福島にはいなかった3.11直後の私にも感じられた。そして、2015年の今、福島県民の被曝を前提として、その枠組みの中からでしか未来を展望させない「復興事業」のありかたをみていると、それが「善意」からでているとしても、ある程度県民の生活状況を改善することができたとしても、私には全体として「転倒」したものにみえてしまうのである。まさしく、この世の終わりの後、大洪水の翌日に私たちは生きているのである。

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さて、特定秘密保護法制定や猪瀬直樹東京都知事辞職などの報道の背後で、福島第一原発や原発再稼働のことについても、いろんな動きがみられる。今回は、12月20日に政府が閣議決定した「復興加速の新指針」についてみることにしたい。

まず、大枠について、NHKが一番わかりやすい記事を12月20日にネット配信しているので、それで把握しておこう。

政府 復興加速の新指針を決定
12月20日 19時12分

政府は原子力災害対策本部を開いて、東京電力福島第一原子力発電所の事故で帰還できない住民が移住先で生活を始める場合の住宅の取得費用を賠償の対象に加えることなどを盛り込んだ、福島の復興の加速に向けた新たな指針をまとめ、閣議決定しました。

総理大臣官邸で開かれた対策本部には、安倍総理大臣や茂木経済産業大臣ら関係閣僚が出席し、原発事故からの復旧や復興の加速に向けた新たな指針をまとめました。
安倍総理大臣は指針について「福島の復興なくして日本の再生はない。関係閣僚は今回の決定に従って、地元と十分に協議しながら、被災者の生活再建と関係自治体の再生の道筋を具体化していってもらいたい」と述べました。
閣議決定された新たな指針では、できるだけ早い帰還を望む人と、故郷を離れて新しい生活拠点を定めざるをえない人への、2つの支援策を提示しています。
このうち、避難指示が解除され、できるだけ早い帰還を望む人には、住宅の修繕や建て替えについて賠償を追加するとしていますが、精神的な損害の賠償は、避難指示の解除後1年間までと明記しています。
一方、避難指示が続き帰還できない人が新しい生活を始める場合は、移住先での住宅取得に必要な費用を賠償に加えるとともに、事故から6年後以降の精神的損害を一括で賠償することが盛り込まれています。
また、帰還に向けた対応として、▽住民の被ばく線量は年間1ミリシーベルト以下にすることを長期的な目標とし、▽住民の被ばく線量の評価をこれまでの環境中の線量から推定する方法ではなく、住民に線量計を配り実際に測る方法に変えるとしています。
一方で、賠償や除染費用が膨らむ見通しになっているため、東京電力の支払いが滞らないよう、国が無利子で貸し付ける資金の枠を、今の5兆円から9兆円に拡大するとしています。
賠償は引き続き、東京電力と原子力事業者の負担金で賄う一方、将来的には除染費用などに国が保有する東京電力の株式の売却益も充てられることが盛り込まれています。(後略)
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20131220/k10013988231000.html

この新指針の要点は主に三つある。まず、第一には、従来、福島全員帰還させる方針であったことを転換させ、早期帰還者と移住者の二つにわけて対応するということである。現状で空間線量が年間20mSvをこえている帰宅困難区域や居住制限区域に帰還するということは中期的には難しいことであり、年間20mSv未満の避難指示解除準備区域にせよ、かなり多くの人が帰還を望まない状況であるので、しかたのないことかと思う。ただ、問題は、これが精神的賠償の打ち切りと結びついているということである。現在、避難者には月10万円が精神的賠償として払われているが、避難指示解除1年後には打ち切るとしている。また、移住した場合、事故から6年以降の精神的賠償を一括で支払うとされている。たぶん、これは、避難指示解除ができない帰宅困難区域や居住制限区域を対象としているのであろう。さらに、帰還した場合でも、移住した場合でも、住宅の修繕、建て替え、取得費用は賠償に含めるとしている。いずれにせよ、賠償金の支払いは打ち切られるのである。

第二には、住民の被ばく線量の測定を、空間線量ではなく、個人ごとの線量にかえるということである。除染の基準が年間1mSvであることはかえないが、このことによって、除染対象はかなり少なくなることが想定される。さらに、将来的には、帰宅困難区域や居住制限区域の線引きも変更されることも予想されるであろう。そして、これもまた、除染や賠償費用の減少につながるということになるといえる。

第三には、東電への政府からの支援額を5兆円から9兆円に拡大するということである。賠償については、建前的には東電と原子力事業者が負担すべきとしているが、除染については、政府が保有する東電株式の売却益をあてるということにしているのである。少なくとも除染については、東電に負担させることを政府はあきらめたということになるだろう。

すでに述べてきたように、帰宅困難な被災者も多く、このような方針転換はしかたのないところもある。ただ、これらの復興加速とは、それぞれの項目で賠償や除染の全体額を縮小することで、東電とその費用を肩替りしている国の負担を軽減することにつながっているといえる。特に、東電の場合、支援額が2倍近くになるとともに、除染費用は国の負担にされているのである。賠償にせよ、除染にせよ、本来は被災者が当然受け取るべき権利である。しかし、それが切り捨てられ、東電は手厚く保護されている。もちろん、現状の費用全体を東電が払うことはできず、何らかの公的支援は必要であった。しかし、東電に出資した株主や銀行の責任は問われることは過去も現在もない。「東電復興加速の新指針」というのが、今回の方針といえよう。

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福島第一原発の危機が拡大している。汚染水については、連日報道され、整理することも難しいほどだ。そんな中、ウォールストリートジャーナルが8月7日付で的確な整理を行っているので、まず、紹介したい。

2013年 8月 07日 11:55 JST
福島第1原発、汚染水封じこめで苦闘

東京電力は福島第1原発で、隔壁やポンプ、それに土壌を固める化学品などを使って、放射性物質に汚染された地下水が海に流出するのを防ごうとしている。

 同社は今週、最も高濃度の汚染水が見つかった場所を新たな一連の措置で封鎖しようとしているが、一部の専門家や規制当局者は、汚染水を原発敷地に完全に封じ込める闘いに勝つのは難しいかもしれないとみている。

 シーシュポスの神話のような果てしない苦闘を続ける東電は先週、汚染された水のレベルが上昇しており、わずか1カ月前に工事が始まったばかりで完了が今週末の予定となっている地中の「遮水壁」を既に越えている可能性があると発表した。

 原子力規制委員会の田中俊一委員長は先週の記者会見で、汚染水を汲み上げて貯蔵するといった東電の汚染水対策は一時的な解決策にすぎないとし、最終的には、処理をして放出濃度基準以下にした汚染水を海に捨てることが必要になるとの見解を示した。

 東電は5日、電子メールで、汚染水があふれている最近の問題に対処するため「いつかの措置を取りつつある」とし、「原発近くの水域の海水と魚介類への影響の監視を強化し続け、諸措置のあとに(汚染水の)廃棄について判断する」と述べた。

 2011年3月の東日本大震災で同原発が電源喪失状態となり、稼働中だった3つの原子炉がコントロール不能に陥ってから、東電は汚染水の管理に苦しんでいる。溶けた燃料炉心を冷やすために毎日約400トンの水―そのほとんどはリサイクルされているが―が使われている。より大きな問題は、これとは別に山々から下りてくる400トンの地下水が発電所敷地の下を流れ、海に注いでいることだ。

 東電はこの2年間、放射線濃度の高い原子炉建屋から水を汲み出し、敷地内のタンクにこれを詰めて汚染を封じようとしてきた。しかし、数カ月前には、原子炉付近で採取した地下水から高濃度の放射性物質が検出されて、その努力も実を結んでいないことが分かった。その理由は明らかではない。さらに、東電はこの水が海に漏れ出ている公算が大きいと明らかにしたのだ。

 放射能漏えいに関し同社の情報に透明性が欠けていることなど、原子炉敷地での問題が続いていることから、規制当局の批判を招いている。2日には、成果の上がらない除染作業で政府の役割を拡大するために設けられた原子力規制委員会の対策検討会が初会合を開いた。同検討会は東電に対して、国民の原発への反対が強まっているとして、コミュニケーションと信頼性を改善するよう要求した。

 東電は7月、緊急措置として、護岸に近い土壌に化学品を注入してこれを固め、地下隔壁とする作業を始めた。しかし、その後、この場所の地下水が隔壁にぶつかって水位が急速に上昇した。水位は地下1メートルのところまで来ており、地下1.8メートルから始まる隔壁を既に越えているようだ。

 同社は今、隔壁の手前にたまっている水の一部を汲み上げ、これまでと同様に貯蔵することを計画している。同社はまた、最も高濃度に汚染されている護岸周辺を隔壁で囲む準備もしている。さらに、隔壁で囲った部分を砂利とアスファルトでふたをし、何も漏れ出ないようにすることを提案している。同社は隔壁部分の作業を10月までに終えたい考えだ。

 同社はこのほかにも、原子炉建屋を凍土で囲うなど、いくつかの実験的構想も持っている。

 しかし、資源エネルギー庁の新川達也・原子力発電所事故収束対応室長は7月の記者会見で、このやり方では地下水の流れを変えてしまう恐れがあると述べた。また、水が大量にたまり、地盤を軟らかくして、原子炉建屋を倒壊させる可能性があると指摘した。東電は水が染み出している公算が大きい建屋内のひびをロボットを使って修理するといった方法も試してみるべきだとしている。

 埼玉大学の渡部邦夫地質学教授は、凍土にも問題があると述べた。同教授は、トンネル掘削で使われるこの技術は汚染地域に入ってくる地下水の量を減らせるかもしれないが、コストが高いとし、「システムを構築するには数億円が必要だ。この氷の壁を維持するのには大量の電力も必要だ」と語った。

 田中委員長は、東電は全ての水を処理することは不可能であるとし、許容水準内の汚染水を海に捨てる準備をすべきだと述べた。しかし、現地の漁業協同組合は依然として、かつてのように漁に出られるようになることを望んでいる。地元漁業者は昨年6月以降、放射能テストで一貫して低い値しか検出されないタコなどをとっている。相馬双葉漁協の遠藤和則氏は、最近汚染水が海中に流れ込んでいることについて、困惑しているとし、消費者が同地の魚を拒否し始めることへの懸念を示した。
http://jp.wsj.com/article/SB10001424127887324513804578652903693994978.html

つまり、壊れた原子炉に地下水が流れ込んでいて、それが汚染水となり、海洋に流れ出しているのである。東電としては、応急措置として、海側の地下に隔壁を設け、海洋に流れ出さないようにしようとしたが、かえってせき止められた汚染地下水の水位が上がり、隔壁をこえてしまったという。そこで、この汚染地下水をくみあげて貯蔵する計画をたてているということである。

その上、東電と規制委委員長は、汚染水(何らかの処理をすることを前提としているようだが)を海洋廃棄することを検討しているというのである。このことに対しては、周辺の漁協が反発しているということである。

さらに、東電が中長期的な措置として「凍土」で原子炉建屋を囲う構想をもっていることを報じている。

まず、このような大枠の理解のもとに、最近の報道をみてみたい。

最早、東電にせよ、それを監督する経産省の資源エネルギー庁にせよ、汚染水について十分な対策はとっていない。結局、規制側の原子力規制委員会が、東電や資源エネルギー庁に不満をもちながらも、陣頭指揮をとらざるをえなくなった。8月7日の河北新報はそれを次のように伝えている。

福島第1原発の汚染水流出 規制委、異例の陣頭指揮

 福島第1原発の汚染水の海洋流出問題で、原子力規制委員会が異例の陣頭指揮を執っている。汚染水対策など廃炉作業の監督は本来、経済産業省の役割だが、海洋流出に対する動きは鈍い。規制委の突出ぶりは、事態の深刻さへの焦りと対応が後手に回る東京電力へのいら立ちの裏返しと言えそうだ。(東京支社・若林雅人)

 「規制機関が踏み出すべき領域かどうか疑問もあるが、リスクが高まっている」
 規制委が2日に開いた汚染水対策作業部会の初会合。座長役の更田豊志委員は開催理由をこう説明し、早速東電から聴取を始めた。東電が「調査する」「検討する」と答えた事項について「次回、耳をそろえて持ってきてほしい」と強い口調で要求した。
 春先に地下貯水槽での汚染水漏れが発覚し、汚染水の貯蔵が問題となって以降、政府は廃炉対策推進会議の下に汚染水処理対策委員会を設置。経産省資源エネルギー庁が事務局となり、5月末に地下水流入の抑制策を柱とした報告書をまとめた。
 報告書に対し、規制委は「高濃度汚染水が滞留する海側トレンチ(作業用トンネル)からの漏えいリスクが高い」との見解を表明。海水や地下水から高濃度の放射性物質が検出され始めた6月下旬にはトレンチから海に流出した可能性を指摘したが、東電は7月下旬まで流出を否定し続けた。
 規制委の再三の警告にもかかわらず、エネ庁や対策委に目立った動きはなかった。エネ庁事故収束対応室は「汚染水対策のマネジメントはエネ庁だが、放射性物質の外部流出など安全管理は規制委が担う」と役割分担を理由に挙げた上で、「対策委が今後どう関わっていくべきか検討している」と説明する。
 規制委の会合では「緊急対策が必要な際に国の関与が明確でない」と、エネ庁を念頭に置いた苦言も出た。規制委事務局の原子力規制庁事故対策室は「規制委で対策を検討しても東電に実行させるのはエネ庁。責任の大きさは分かっているはずだ」と自覚を促す。
 福島県の内堀雅雄副知事は6日、規制庁と経産省を訪ね、国が前面に立った対処と監視を要望した。赤羽一嘉経産副大臣との会談後、内堀副知事は「経産省は廃炉対策の所管省庁。東電と一体でしっかり対応してほしい」とくぎを刺した。
http://www.kahoku.co.jp/news/2013/08/20130807t63010.htm

その結果、汚染地下水汲み上げの前倒し実施がなされることになったといえる。NHKは、8月6日、原子力規制委員会の指摘を受けて、今月末に行うとしていた汚染地下水の汲み上げを前倒しして、今週中から開始するとした。東電の措置では、高濃度汚染水の大規模な海洋流出がさけられないとみての規制委員会の判断なのであろう。東電は、ここでも、当事者能力のなさを露呈したといえる。

福島第一原発 汚染水くみ上げ急きょ今週から
8月6日 5時56分

福島第一原発 汚染水くみ上げ急きょ今週から
福島第一原子力発電所で汚染された地下水が海に流出している問題で、流出を防ぐために行っている工事で地下水位が上昇していることから、東京電力は急きょ、地下水のくみ上げを、今週中に始めることにしました。
一方、観測用の井戸では新たに放射性物質の濃度が上昇していることが分かり、汚染水対策は手探りの対応が続いています。

福島第一原発では、汚染水の流出対策として、護岸沿いに地中を壁のように固める工事を進めていますが、せき止められて上昇した地下水がすでに壁を乗り越えているおそれがあることが先週、明らかになりました。
このため東京電力は急きょ、小規模な井戸を掘って、今週中にくみ上げを始め、くみ上げた地下水は、一時、地下の施設に保管した後、敷地内のタンクにためることにしました。
当初、東京電力は今月末から地下水をくみ上げるとしていましたが、国の原子力規制委員会から一刻も早く始めるよう指摘を受け、対応を早めることになりました。
一方、高濃度の汚染水がたまっている2号機のタービン建屋に最も近い観測用の井戸で、5日採取した地下水では先月31日に比べて放射性セシウムの濃度が14倍あまり、ストロンチウムなどのベータ線という種類の放射線を出す物質の合計の濃度が46倍あまりといずれも上昇していることが分かりました。
東京電力は濃度が上昇した原因は分からず、今後詳しく調べるとしています。
汚染水を巡っては、事故から2年4か月がたった今も流出の具体的な状況や影響の広がりをつかめず、手探りの対応が続いています。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130806/k10013569671000.html

そして、政府もまた、東電の計画していた凍土による地下水遮水壁設置に国費投入を決定した。8月7日の毎日新聞は、次のように伝えている。

福島第1原発:汚染水対策に国費投入…政府検討
毎日新聞 2013年08月07日 13時01分(最終更新 08月07日 13時02分)

 政府は7日、東京電力福島第1原発の放射性汚染水問題をめぐり、対策費用の一部を国費で補助する検討に入った。経済産業省が2014年度予算の概算要求に盛り込む方針だ。これまでも廃炉や事故収束に関係する研究開発費用は国が支援していたが、汚染水対策への補助が決まれば、国による初めての直接支援となる。国がより踏み込んだ対策を取る方針を明確に示して、処理対策を確実に進める構えだ。【大久保渉】

 ◇遮水壁設置で

 経産省は5月、原子炉建屋への地下水流入を防ぐため、周囲の土を凍らせる遮水壁の設置を東電に指示。設置には数百億円の費用が見込まれるが、経営再建中の東電には資金的な余裕が乏しいのが現状だ。

 菅義偉官房長官は7日午前の記者会見で「これだけの大規模な遮水壁は世界でも例がなく、設置に当たっては国として一歩前に出て支援する。予算は、経産省において現在検討中と聞いている」と説明。7日午後の原子力災害対策本部会議で、安倍晋三首相が茂木敏充経産相に対し、早急に対策を行うように指示する予定であることを明らかにした。

 汚染水対策を含めた廃炉の費用について政府は「東電による負担が原則」としてきたため、国費の投入には「東電救済とみられないか」との慎重論があった。しかし、福島第1原発の汚染水を巡っては、7月に海洋流出が明らかになるなど、東電任せによる対策には限界が指摘されている。

凍土による遮水壁は、長期にわたって使用された例がなく、東電は技術的な検討を進めた上で今年度中に実現可能かどうか判断するとしていた。
http://mainichi.jp/feature/20110311/news/20130807k0000e010192000c2.html

結局、費用においても、すでに東電では調達できない。その意味で、原子力規制委員会の「陣頭指揮」にせよ、汚染対策への国費投入にせよ、遅ればせながら、公的機関がイニシアチブをとらなければ福島原発の廃炉作業が不可能なことを明示しているといえよう。

しかしながら、これらは、そもそも東電の計画だったことにも注目しておかねばならない。そもそも、場当たりの対応しかできなかった東電が構想した計画であり、その前倒しやバックアップにすぎない。汚染地下水の汲み上げにせよ、凍土による地下水遮水壁の設置にせよ、応急措置にすぎない。資源エネルギー庁で議論されていたようだが、ロボット装置などによる原子炉建屋の点検・修理が、廃炉作業を進める上でも不可欠のはずだが、そのようなことは具体化されていないのである。

しかも、汲み上げた汚染地下水もどんどんたまっていくだろう。凍土による地下水遮水壁設置については、そもそも効果自体に疑問があるのだが、それ以上に、2014年度概算要求の対象であり、つまりは、翌年からしか建設されないのである。現状の汚染水危機には即応するものではないのである。

すでに、東電も原子力規制委員会も、汚染水の海洋廃棄を検討していることは述べた。もはや、政府も、当面の措置として汚染水の海洋廃棄の検討を開始している。8月8日、読売新聞は、次のような記事をネット配信している。

福島第一の基準値以下の地下水、海洋放出検討へ

特集 福島原発
 茂木経済産業相は8日の記者会見で、東京電力福島第一原子力発電所でたまった基準値以下の放射性物質を含む地下水について、「海への放出の可能性も含め、早急に検討して対策を具体化していきたい」と述べ、海洋放出を視野に入れた水の処理を検討することを明らかにした。

 同日午後に開かれる有識者らによる汚染水処理対策委員会で話し合う。この水は、原子炉建屋に流れ込む前の地下水をくみ上げたもの。この水の海洋放出を巡っては、安全性などについて地元の漁業関係者の理解は得られておらず、具体的なめどは立っていない。

 7日に開かれた原子力災害対策本部の会議を受け、茂木経産相は、基準値以上の汚染水についても「国が主導して、絶対に漏らさない状況を作るということを進めたい」と話し、東電任せにせずに対策を進めることを強調した。そのうえで、海側の地中に薬剤を注入して地盤を固める工事や、1~4号機の地中を凍土の壁で囲うなどの対策を行う。

 経産省が7日に公表した、1日当たりの汚染水の流出量(300トン)について、茂木経産相は「汚染の度合いは違うにしても、汚染されている可能性は否定できない」と説明した。

(2013年8月8日14時13分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20130808-OYT1T00613.htm?fb_action_ids=511507698928519%2C511427535603202&fb_action_types=og.recommends&fb_source=other_multiline&action_object_map=%7B%22511507698928519%22%3A152528584952987%2C%22511427535603202%22%3A622735257759194%7D&action_type_map=%7B%22511507698928519%22%3A%22og.recommends%22%2C%22511427535603202%22%3A%22og.recommends%22%7D&action_ref_map=%5B%5D

つまり、最早、福島第一原発の汚染水(もちろん、ある程度の処理をしてことだろうが)の海洋廃棄がさけられないとされてきているのである。

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