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Posts Tagged ‘放射能汚染’

    前回のブログでは、レイチェル・カーソンの『沈黙の春』の全体テーマについて紹介した。ここでは、『沈黙の春』を読んでみて気づいたことを述べていこう。

    あまり言及されていないが、『沈黙の春』における農薬などの化学薬品についての印象は、核戦争における放射性物質についてのそれを下敷きにしているところがある。例えば、レイチェルは

    汚染といえば放射能を考えるが、化学薬品は、放射能にまさるとも劣らぬ禍いをもたらし、万象そのものー生命の核そのものを変えようとしている。核実験で空中にまいあがったストロンチウム90は、やがて雨やほこりにまじって降下し、土壌に入りこみ、草や穀物に付着し、そのうち人体の骨に入りこんで、その人間が死ぬまでついてまわる。だが、化学薬品もそれに劣らぬ禍いをもたらすのだ。畑、森林、庭園にまきちらされた化学薬品は、放射能と同じようにいつまでも消え去らず、やがて生物の体内に入って、中毒と死の連鎖をひき起していく。(本書pp22-23)

    核戦争が起れば、人類は破滅の憂目にあうだろう。だが、いますでに私たちのまわりは、信じられないくらいおそろしい物質で汚染している。化学薬品スプレーもまた、核兵器とならぶ現代の重大な問題と言わなくてはならない。植物、動物の組織のなかに、有害な物質が蓄積されていき、やがては生殖細胞をつきやぶって、まさに遺伝をつかさどる部分を破壊し、変化させる。未来の世界の姿はひとえにこの部分にかかっているというのに。(本書p25)

    と、言っている。レイチェルにとっては、放射性物質も化学薬品も、自然を破壊する、人間の手に入れた「新しい力」なのである。彼女は、化学薬品による白血病の発症について広島の原爆の被爆者の問題から説き起こし、急性症状による死亡者についても第五福竜丸事件で死亡した久保山愛吉を想起している。

    彼女によれば、合成化学薬品工業の勃興は、核兵器と同様に、第二次世界大戦のおとし子だと言っている。次の文章を紹介しておきたい。

     

    なぜまた、こんなことになったのか。合成化学薬品工業が急速に発達してきたためである。それは、第二次世界大戦のおとし子だった。化学戦の研究を進めているうちに、殺虫力のあるさまざまな化学薬品が発明された。でも、偶然わかったわけではなかった。もともと人間を殺そうと、いろいろな昆虫がひろく実験台に使われたためだった。
     こうして生まれたのが、合成殺虫剤で、戦争は終ったが、跡をたつことなく、新しい薬品がつくり出されてきた。(本書pp33-34)

    このような、農薬などの化学薬品による「殲滅戦」について、「私たち現代の世界観では、スプレー・ガンを手にした人間は絶対なのだ。邪魔することは許されない。昆虫駆除大運動のまきぞえをくうものは、コマドリ、キジ、アライグマ、猫、家畜でも差別なく、雨あられと殺虫剤の毒はふりそそぐ。だれも反対することはまかりならぬ」(本書p106)と彼女は述べている。そして、「私たち人間に不都合なもの、うるさいものがあると、すぐ《みな殺し》という手段に訴えるーこういう風潮がふえるにつれ、鳥たちはただまきぞえを食うだけでなく、しだいに毒の攻撃の矢面に立ちだした。」(本書p108)と指摘し、「空を飛ぶ鳥の姿が消えてしまってもよい、たとえ不毛の世界となっても、虫のいない世界こそいちばんいいと、みんなに相談もなく殺虫剤スプレーをきめた者はだれか、そうきめる権利はだれにあるのか。いま一時的にみんなの権利を代行している官庁の決定なのだ。」(本書p149)と、彼女は嘆いている。

    この「みな殺し」=ジェノサイドこそ、農薬大規模散布の根幹をなす思想ということができよう。「不都合とされた」害虫・雑草(ある場合は害鳥)は根絶しなくてはならず、そのためには、無関係なものをまきぞえにしてもかまわないーこれは、合成化学薬品工業の源流にある「化学戦」においても、無差別空襲においても、ユダヤ人絶滅計画においても、核戦争においても、それらの底流に流れている発想である。これらのジェノサイドは、科学・技術・産業の発展によって可能になったのである。まさに、二度の世界大戦を経験した20世紀だからこそ生まれた思想である。そのように、大規模農薬散布による生態系の破壊と、核兵器は、科学・技術・産業の発展を前提としたジェノサイドの思想を内包しているという点で共通性があるといえよう。レイチェル・カーソンが、農薬などの化学薬品の比較基準として「核兵器」を想定したことは、そのような意味を持っているのである。

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2015年5月15日、台湾は、日本産食品の規制を強化した。まず、そのことを伝える朝日新聞のネット配信記事をみておこう。

台湾、日本食品の規制強化開始 日本政府は提訴も検討
台北=鵜飼啓2015年5月15日17時47分

 台湾は15日、日本産食品の輸入に都道府県別の産地証明を義務づけるなどの規制強化を始めた。日本政府は撤回を求めている。ただ、台湾はこれまでも必要だった輸出関連書類の記載を「証明」として扱うことを決めたため、影響は限定的になりそうだ。

 規制強化は福島第一原子力発電所の事故に関連したもので、東京産の水産物など一部地域の特定品目については放射性物質の検査証明を添付するよう義務づけた。15日以降に日本から出荷されるものが対象で、台湾に空輸される生鮮食品などにまず適用される。

 台湾は原発事故後、福島など5県で生産・製造された食品の輸入を全面的に禁止してきた。だが、3月にこの5県の産品が、産地が明示されずに台湾に入っていたことが発覚し、規制強化を決めた。

 これに対し、日本側は「表示問題と規制強化は別。科学的根拠がない」と猛反発。台湾は日本政府や地方自治体の公的な産地証明を求めたが、日本側は証明書の様式などの話し合いに応じていなかった。

 このため、台湾は14日、一次産品については日本からの輸出にもともと必要な検疫証明にある都道府県記載を「証明」として受け入れると発表。加工食品については、商工会議所の証明書に都道府県を注記すれば良いとした。日系食品メーカーによるとすでにこうした対応は始まっており、規制強化後も大きな混乱はなさそうだという。

 放射性物質の検査については既定方針通りに行われる。保存の難しい生鮮水産物などは対象地域からの輸出は難しくなりそうだ。(台北=鵜飼啓)

■農水相「WTO提訴も含め検討」

 台湾が日本産食品の輸入規制強化に踏み切ったことについて、林芳正農林水産相は15日、閣議後会見で「科学的根拠に基づいて輸入規制の撤廃緩和を強く求めていく」と述べ、引き続き撤回を求めていく方針を強調した。その上で、進展がみられない場合には「WTOの提訴も含めて検討していきたい」と語った。

 林氏は台湾の規制強化を「科学的根拠に基づかない一方的な措置」と批判。「具体的な事実関係の説明がない中で行われたということで極めて遺憾」と不満をあらわにした。

 一部の産地と品目が放射性物質の検査対象とされたことについては、「証明書を作成、発行するには時間と経費がかかる」と懸念を表明。「どういう影響があるのか注視していきたい」と述べた。

 農林水産省によると、台湾は香港、米国に次ぐ日本産の農林水産物・食品の輸出先で、2014年の輸出額は約837億円。
http://www.asahi.com/articles/ASH5G7RDTH5GUHBI039.html

3.11以後、台湾は、顕著な放射能汚染がみられた福島・茨城・栃木・群馬・千葉県で生産・製造された食品を輸入禁止にしていたが、3月にこれらの県で製造された食品が産地を偽って輸入されていたとして、都道府県別の産地証明書をつける、一部品目の放射能検査を義務づけるなどの規制強化に乗り出したのである。一方、日本政府は「表示問題と規制強化は別。科学的根拠がない」として反発し、WTOへの提訴も含めて撤回を求めていく方針をあきらかにしたのである。

それでは、もともとの「産地偽装」とは、どのようなものだったのだろうか。3月25日に配信した朝日新聞のネット配信記事をみておこう。

台湾で日本食品回収騒ぎ 輸入業者が産地偽装か
台北=鵜飼啓2015年3月25日18時34分

 台湾で、東京電力福島第一原子力発電所事故後に輸入が禁止された日本産食品が輸入されていたとして回収騒ぎになっている。台湾は今も福島など5県でつくられた食品の輸入を全面的に禁じているが、業者が産地表示を変えて持ち込んだ疑いがあるという。

 食品薬物管理署が24日、発表した。問題になっているのはカップ麺や飲料など283品。製品に記載された記号から生産工場を調べたところ、輸入を禁じている福島、茨城、栃木、群馬、千葉の5県で生産されたことが分かったという。輸出用の中国語ラベルには、東京や大阪など食品メーカーの本社所在地とみられる場所が記載されていた。

 台湾では日本産食品が人気で、メーカーと無関係の業者が独自に輸入しているケースも多い。日本の窓口機関、交流協会はこれまでも、「日本は厳しいモニタリング制度があり、国内で流通している食品は安全」として、台湾側に輸入解禁を働きかけている。(台北=鵜飼啓)
http://www.asahi.com/articles/ASH3T56JSH3TUHBI01X.html

283品目にも及ぶ加工食品が「産地偽装」とされたのである。基本的には、この5県に所在する工場で製造された食品が、本社所在地などで生産されたように中国語ラベルに記載されていたというのである。朝日新聞のこの報道では、日本の食品メーカーではなく、台湾側の輸入業者側に責任があるようなことを示唆している(本当かどうかはわからないが)。

それにしても、どのような食品が「産地偽装」されたのであろうか。台湾側がリストを出しているので、次に掲載しておこう。

産地偽装が指摘された日本産食品リスト1

産地偽装が指摘された日本産食品リスト1

産地偽装が指摘された日本産食品リスト2

産地偽装が指摘された日本産食品リスト2

産地偽装が指摘された日本産食品リスト3

産地偽装が指摘された日本産食品リスト3

産地偽装が指摘された日本産食品リスト4

産地偽装が指摘された日本産食品リスト4

産地偽装が指摘された日本産食品リスト5

産地偽装が指摘された日本産食品リスト5

(http://www.mohw.gov.tw/MOHW_Upload/doc/%E9%99%84%E4%BB%B6%E4%B8%80_0048810002.pdfより)

本ブログの写真は少し読みにくいので、可能なら上記のサイトでみてほしい。最初が明星海鮮ラーメン、次が日清天ぷら粉、その次が日清お好み焼き粉、その次がヱスビーのカレー……、最後がエバラの焼き肉のたれで終っている。ほとんどが日本を代表する食品メーカーの一般的な製品で、日本社会ならば、一日どれかを摂取しているだろう。あまり考えてこなかったが、日本社会では、3.11直後放射線量が高かった福島・茨城・栃木・群馬・千葉県で生産・製造された食品をあたりまえのように飲食していたのである。しかし、このような地域で製造・生産された食品は、台湾では輸入禁止になっているのだ。日本の「あたりまえ」は、世界では「あたりまえ」でないのだ。このことについて……怒るべきか、笑うべきか、微妙な気持ちになってしまう。そもそも、日本政府は、日本列島に住む人々(国籍の有無にかかわらず)の健康保全を第一に考えているのだろうか。

確かに、日本の「あたりまえ」からいえば、自然の中で生産される農水産物と、ある程度環境を操作できる工場内の加工食品はわけて考えるべきかもしれない。しかし、それだからといって「産地偽装」が許されるわけではない。これは、「科学的根拠」以前の法や倫理の問題である。この「産地偽装」に日本側が直接関与しなかったとしても、やはり遺憾なことであり、台湾側の対策に積極的に協力しなくてはならないだろう。そもそも、商品表示が信用できないならば、商取引における等価性は担保されないのである。規制緩和以前の問題である。そのことを放置したまま、日本政府がWTO提訴などいろいろ手を尽くして、台湾に規制緩和措置を強制させることに成功したとしても、逆にそのことによって、日本産食品にとどまらない日本製品全体の不買につながってしまうかもしれないのである。

日本政府は、日本列島に住む人々に対して日本産の食品はすべて安全であり、放射能汚染への恐怖から買い控えることは「風評被害」になるのだと宣伝してきた。このようなことが台湾のような外国で通用するわけはないのである。そして、台湾の今回の反応は、日本社会の危機を客観的に見直す視座を提起しているのだと思う。

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よく、3.11後の福島の地域社会において「分断」があるとされている。この「分断」とは、どのようなものだろうか。基本的に考えれば、①東日本大震災の復興方針をめぐる対立、②福島第一原発事故における責任の所在、③放射能汚染の影響、この三つの要因によって「分断」が生じていると考えられる。

①の東日本大震災の復興方針をめぐる対立ということは、福島県だけでみられる問題ではない。深刻な地震・津波などの自然災害に見舞われた、岩手・宮城・福島3県を中心とする被災地全体でみられることである。大きくいえば、国・県・大企業などが企図している国家的・資本主義的な「復興」と、被災地住民の自生的・共同的な「復興」が相克しているとみることができるが、そればかりではなく、住民同士でも階級・地域・職種・ジェンダー・年齢によって「分断」されていると考えられよう。そして、例えば、宮城県女川町の漁港一本化問題や同県気仙沼市の巨大防潮堤建設問題のように、「分断」が顕在化してくるといえる。

このような「分断」も、また深刻な問題を惹起している。ただ、これらの問題は、多くは自然災害への人間社会の対応に端を発していることに注目しなくてはならない。東日本大震災における地震・津波などの自然災害は、人間社会の開発によって惹起された面を否定すべきではないが、基本的に、自然現象そのものである。通常の意味で、法的・社会的に責任を追及されるべき主体は存在していない。とりあえずは、自然災害に「人間」の側が対処しなくてはならないという論理は、「分断」されているといわれている国・県・大企業と住民、もしくは住民同士の中でも共有しているといえる。よく、「東日本大震災からの復興」が叫ばれているが、それは、おおむね、自然災害への人間社会の対応という論理で語られている。これは、大は安倍政権などの政府の「復興」方針から、歴史学界で広く取り組まれている「被災歴史資料レスキュー」などまで共通している。そして、そのような論理によって、福島県も含めて「復興」のスキームが形成され、資金・資材・人員が投入されている。そこにあるのは、「自然」と対峙した「人間」という認識枠組みなのだ。

もちろん、福島県でも、深刻な地震・津波被害からの「復興」をめぐる方針の対立をめぐって「分断」されている面はあるだろう。しかし、福島において特徴的なことは、②福島第一原発事故における責任の所在、③放射能汚染の影響、という後二者の要因があるということである。②の問題からみていこう。福島第一原発事故は、東日本大震災の地震・津波によって惹起されたものではあるけれど、そもそもこのような巨大な被害を与える原子力発電所をなぜ建設したか、そしてなぜ福島の地に集中立地したのか、津波災害などへの防護は万全であったのか、事故自体への対応や住民対策は適切であったのかなど、「人間社会」が責任を問われる問題である。天災ではなく人災なのだ。

そして、「人間社会」において、この人災において最も責任を負うべき主体は、国策として原発推進をすすめた国と、実際にその建設や運営に携わった東京電力である。これは、単に、国や東電のそれぞれの担当者の個人だけが担うべきではなく、国や東電というシステム全体が担うべき責任である。地震・津波などの自然災害において、全体としては責任をおうべき主体は存在しないといえる。しかし、福島第一原発事故では、責任をおうべき主体がいるのである。その点が、福島第一原発事故の特徴的な点の一つである。

ゆえに、福島県の場合、被災者の意味が違ってくる。福島第一原発事故の被災者の人的・物的被害は、国と東電の業務によってもたらされた損害である。その被害への損害賠償がなされなくてはならない。例えば、強制的に避難させられた被災者たちに国有化された東電が支払っている資金は、国と東電の業務によって生じた損害に対する賠償金であって、救援金や復興資金ではない。

それでありながらも、国や東電についての刑事責任の追及がなされず、福島第一原発事故の原因解明も十分はたされていない。また、国や東電の損害賠償も限定的であり、福島第一原発事故によって生じた多くの人びとの損害を十分補償しえるものになっていない。さらに、東日本大震災からの復興というスローガンのもとに、人災である福島第一原発事故が天災である東日本大震災全体への対応と混同され、責任主体がいるということすらあいまいにされている。

強制的に避難させられた人びとだけでなく、福島県(放射能汚染の及んだ他県も含めて)の人びとは、多大な損害をこうむった。例えば、強制的に避難させられた人びとだけではなく、福島県内にいて福島第一原発事故により被曝したり、被曝の影響をおそれて家族が離散したり、勤務先がなくなって失業したりするなどということも起こっている。このようなことの第一義的責任は国と東電にある。しかし、そのような損害については、ある程度補償されたとしても限定的でしかないのである。

このような中で、強制的に避難させられるがゆえに、ある程度の補償(これも十分とは思えないが)を得ている人びとと、被害をこうむったにもかかわらず、十分な補償を得ていないというと感じている人びととの間に「分断」が生じてくる。しかし、この「分断」は、国や東電が福島第一原発事故に対する責任をあいまいにしていることから発生しているといえるのである。

さて、次に、③の放射能汚染への影響ということについて考えてみよう。これもまた、福島に特徴的に示されている問題である。居住にせよ、農業・水産業の再開にせよ、全ての問題において、福島では放射能汚染の問題を考慮せざるをえない。この問題についていかに行動するかということに対しては、二つの方向性がある。一つの方向性は、放射能汚染を考慮し、放射線被曝を少しでも避けようとすることである。究極的には、高線量地域から移住するということになるが、高線量地域で生産された食品をなるべく食べない(これは、福島だけには限らないが)、高線量地域にはなるべく立ち入らないというような行動が具体的には考えられる。

他方で、放射能汚染の影響を「相対化」して、多少の高線量地域でも「帰還」してコミュニティを再建し、農業・水産業を再開させ、それらの地域で作られた食品も口にし、さらには観光客をよびこもうという方向性も存在する。というか、この方向性にしたがって、国・東電・福島県が福島第一原発事故対策をすすめているのである。もちろん、線量の高低で区域をわけ、さらには除染をし、食品の放射能検査を実施するなど、放射能汚染に対してなにも対応していないとはいえない。といっても、福島の広大な土地をすべて除染することなどできず、かなりの範囲が今なお除染基準(1時間あたり0.23μSv、年間1mSv)以上の空間線量のままだ。にもかかわらず、国の方針としては、除染基準の20倍の年間20mSvの線量地域まで帰還をすすめようというのである。

この二つの方向性も、「分断」の原因になっているといえよう。被災地に住民を帰還させ、コミュニティを再建させ、生業を復活させるというのは、自然災害ならば当然の対応である。この過程を「復興」といってよいだろう。しかし、自然の産物ではない放射能で汚染された地において、このような「復興」は自明なことではないのだ。

一つ、農地の復活という点で考えてみよう。東日本大震災における津波被害で、宮城県・岩手県の農地は海水につかり、塩害をうけた。この塩害を受けた農地に対し、土の入れ替えや淡水を流し込むことなどにより復活をはかることは、どれほどのコストがかかるかは別にして、方向性としては問題にはならない。塩は自然のものであり、海などに流しても問題ではないのだ。他方、放射性物質で汚染された農地の場合は、そもそも農地の除染だけで放射能を除去できるかということ、さらに除染により放射性廃棄物と化した土壌をどうするのかという問題が生じてくる。さらに、そのような土地で生産された農産物を商品として売ることがどこまで可能かということもある。このように、多くの面で問題をはらんでいるのである。

放射能汚染、これも人のもたらしたものであり、当然ながら「人災」である。そして、これは自然の循環にまかせてはならない。それは、すでに水俣病が示していたことであった。にもかかわらず、福島第一原発事故からの「復興」は自然災害のように扱われ、放射能汚染の面が軽視される。それがゆえに、放射能汚染を重大に考えている人びととの間に分断をうんでいるのである。

そして、ここにもまた、「人間の責任」ということが背景にあるといえる。放射能は人間が生み出したものであり、それに対処することも人間の責任である。その責任に目を背けたまま進もうとすること、それが分断の原因になっているといえる。

②と③の要因は、いずれにせよ、福島第一原発事故の「人災」としての性格から生じている。どちらも、本来、「人間社会」内部で担うべき責任があいまいにされ、それゆえに、福島県民内部に深刻な「分断」がもたらされるようになったといえるだろう。この「分断」を克服するのは容易なことではない。ただ、その第一歩は、福島第一原発事故は「天災」ではなく「人災」であり、「人間社会」内部において責任追及されるべき問題であることを認めることであると考えられるのである。

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さて、本日(2014年12月2日)、衆議院選挙が告示され、選挙戦が始まった。自由民主党総裁である安倍晋三首相が、衆院選第一声を発する地として選んだのは、自民党衆院選候補者亀岡偉民の選挙区である福島県相馬市の漁港であった。

この相馬市は福島第一区である。この区には、福島市、相馬市、南相馬市、伊達市、伊達郡桑折町、伊達郡国見町、伊達郡川俣町、相馬郡新地町、相馬郡飯舘村(http://senkyo.yahoo.co.jp/kouho/s/?b=07より)が属している。重要なことは、この区には、今でも帰宅困難区域や居住制限区域をかかえている飯館村、南相馬市、川俣町を包含しているということだ。飯舘村は基本的にはまだ全村避難のままである。また、福島市や伊達市も決して放射線量が低かったわけではなかった。

そのような状況を踏まえつつ、「THE PAGE」というサイトで全文起されている安倍首相の第一声をみていくことにしたい。安倍首相の第一声は、このように始められている。

安倍:皆さま、おはようございます。安倍晋三でございます。今日は寒い中、風の強い中、亀岡偉民頑張れというお気持ちでこの相馬港にお集まりをいただいたこと、厚く御礼を申し上げます。いよいよ選挙戦がスタートしました。一昨年の総選挙、やはり選挙戦の第一声、福島市から、福島県からスタートしました。そして、今年はこの相馬市からスタートさせていただきます。昨年10月、この港にやってきて、おいしいシラスや、毛ガニや水たこやイカをごちそうになりました。本当においしい、このおいしい水産物をもっともっと多くの皆さんに食べてもらいたいな、風評被害を払拭しなきゃいけない。頑張ってまいりました。今、ごあいさつをさせていただいた亀岡偉民さん、本当に頑張ってきてくれたと思います。ちょうどあの大震災が発災したとき、彼らは政権を失っていた。あの大災害、なんでこうなるんだ、皆さんも天を仰いだことだと思います。亀岡さんにとっても、なんで自分が議席を持っていないときに、こんな思いだったと思います。
http://thepage.jp/detail/20141202-00000013-wordleaf?page=1

最初から、脱力してしまいそうな話し振りである。確かに、相馬漁港は福島県の代表的な漁港の一つで、いわゆる「風評被害」が深刻であることは事実であろう。しかし、「昨年10月、この港にやってきて、おいしいシラスや、毛ガニや水たこやイカをごちそうになりました。本当においしい、このおいしい水産物をもっともっと多くの皆さんに食べてもらいたいな、風評被害を払拭しなきゃいけない」ということで済むようなことなのだろうか。

その後、亀岡偉民が津波被災者の捜索活動を3.11直後行い、政権復帰以後は復興庁の政務官としてがんばって、相馬港の施設も沖の防波堤以外完成したと述べている。そして、復興庁も組織改革して、復興総局を福島に設置して窓口を一本化し東京に行かなくても交渉できるようにしたとし、さらに復興予算も19兆円から25兆円に増やしたと主張した。加えて、現状の低米価にも対策をとると述べた。

特に強調しているのが、雇用創出・中小企業保護と復興公営住宅建設である。次のように安倍首相は演説している。

また、われわれはやっぱり仕事を創らなければいけない。この考え方の下に、約400の工場の新増設を、財政支援を行って行いました。そして、5,000名の新たな雇用を生み出すことが福島県でできたのです。そして、グループ補助金を使って、3,000の中小・小規模事業者の皆さんを応援をしてきました。やっとこのように、この地域にも仕事ができてきました。また住まいについても400戸の災害公営住宅、今年度中に全て完成することになります。私たちが政権を取った段階では、復興公営住宅、計画すら実はまったくなかったわけであります。また、この相馬市以外ではありますが、原発被災者の方々、大変つらい思いをされています。ご選考については、用地についてはすでに空きをちゃんと付けて、選定が終わりました。ちょっと時間がかかるんですが、28年度中に全戸入居できるようにしていくことをお約束を申し上げる次第であります。

ここで、ようやく「原発被災者」について言及されている。しかし、安倍首相は、わざわざ「相馬市以外」としている。そもそも、彼が語る「復興」の中心に原発被災者はいないのである。そして、原発被災者対策については「住宅建設」だけなのである。彼の念頭には、福島第一原発廃炉処理も、除染事業も、避難ー帰還問題も、補償問題もないのである。そして、非常に象徴的なことだが、かなり長い安倍首相のこの演説の中で、「原発」と言っている個所は、ここしかないのである。

さらに、安倍首相は、このように話を続ける。

住まいにおいても、仕事なりわいにおいても、間違いなく進んでいます。ただ、まだまだ12万人の方々がこの福島県では不便な生活をしておられる。道半ばではありますが、私たちはしっかりと、しっかりと復興を加速化させていくことをお誓い申し上げる次第であります。復興を加速化させていくために、例えば常磐道、私たちは来年のゴールデンウイーク、この常磐道を使ってたくさんの観光客がこの地にやってくるように、ゴールデンウイークまでに全線を開通する、そうお約束をしました。さらに私はハッパを掛けました。そして、2カ月間、思い切ってさらに前倒しをします。3月の1日に常磐道全線が皆さん、開通するんです。これを皆さん、これを皆さん、しっかりとこの東北の復興の起爆剤に活用させようではありませんか。常磐道を通って、日本中からこの地にやってきて、この漁港であのおいしいシラスやなんかを食べていただけるんではないかなと思います。試験操業についても魚種、そしてエリアを今、着実に拡大をしているところであります。

安倍首相によると、常磐道が開通すれば、日本中の人が相馬漁港のおいしい魚を食べにくるというのである。

この後、安倍首相は、「アベノミクス」や「消費増税」についての自分の政策の正当性を主張している。その部分については割愛することにする。しかし、再度、安倍は、福島について、次のように言及した。

そして、私たちは地方の良さを生かして、地方創生を進めていきたいと思います。地方創生、地方の良さ、この漁港で採れる、素晴らしい、おいしい水産物もありますし、福島県にはいろんな農産物もありますね。漢方未来米。体にもいいし、健康にもいいという付加価値の付いたお米があります。そして、またおいしい牛もあります。「あかつき」っていう桃もありますね。まだ亀岡さんからもらったことありませんが。

 今度は当選したらもらえるんではないのかな。このふうに思います。この輸出、なかなかまったく言われなき輸出規制が海外にあった。私は世界中回って、必ず首脳に直接おかしいと、私、毎日食べてんですよと言って、この輸出規制に対して撤廃、緩和をするように呼びかけてきました。シンガポールをはじめ多くの国々でやっと、撤廃緩和がスタートしまいした。今、このチャンスを生かして、福島の素晴らしい農産物を日本中に、水産物を世界中に、どんどん送り出していこうではありませんか。

福島の、おいしく、物によっては「体にもいいし、健康にもいい」農水産物を、日本中に、世界中に送り出していくべきだと、安倍首相は主張するのである。

要するに、安倍首相は、復興予算によって港を復興し、公営住宅を建設し、常磐道などのインフラ整備をし、雇用を確保し、中小企業対策をして、福島の「おいしく」「体にもよい」農水産物を日本中に世界中に売り出し、観光開発を行うことによって「復興を進めていく」と言いたいのであろう。

確かに、3.11以前ならば、こういうことが「地方振興」のメニューたりえたであろう。それが、真に「地方振興」たりえるかは別として。しかし、福島第一原発事故によって多くの人びとが避難を余儀なくされ、福島第一原発の廃炉処理も除染も進んでいない現状に対し、こういう「地方振興」はどういう意味があるのだろうか。住むこともできず、もし住んだとしても健康上の懸念をもたざるをえない「地方」の振興はどうすればよいのだろうか。そのような地で生産される農水産物を売り広めるということはどういう意味をもつのか。その地を「観光開発」するとはどういうことになるのだろうか。

原発事故をなかったことにはできないし、それを見据えなくては、本当の意味で復興などできはしない。しかしながら、日本社会の多くの人びとは、福島第一原発事故から目を背け、従来の認識枠組で今後もやっていけると思い込もうとしているようにみえる。そして、安倍晋三首相は、よくも悪くも、そういう人びとの代表なのである。

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汚染水問題などの福島第一原発事故における異常事態の発生とそれに対する東京電力の対応は、海外の「原子力ムラ」の代表者たちといえる人びとからの批判を招いた。東京電力は昨年から「原子力改革監視委員会」という組織を設置し、デール・クライン委員長(米原子力規制委員会元委員長)、バーバラ・ジャッジ副委員長(英原子力公社名誉会長)、櫻井正史(名古屋高裁元検事長・国会事故調元委員)、大前研一、下川邉和彦(東電会長)を委員とした。クラインとジャッジは、経歴からみるかぎり、いわゆる海外の「原子力ムラ」の代表といえる人物である。この委員会の第四回会合が7月26日にあり、その後、記者会見が開かれた。この記者会見の席上、クラインとジャッジは、汚染水問題に対する東電の対応を批判した。現在のところ、日本語メディアでは、この二人の批判はきわめて小さくしか報道されていない。ロイターもかなりくわしく二人の批判を伝えたが、その記事は後に書き換えられ、批判している部分は切り縮められてしまった。その中で、この二人の批判を日本語でもっとも詳細に伝えているのがAFP(フランス通信社)である。その報道をまずみておこう。

【7月29日 AFP】東京電力(TEPCO)が国内外の専門家で構成する第三者委員会「原子力改革監視委員会」の4回目会合が26日に開かれ、福島第1原子力発電所からの放射性汚染水の放出問題について出席者からは透明性の欠如を指摘する声や、「東電は自分たちのやっていることが分かっていないのではないか」など厳しい批判が相次いだ。

 かねて疑われていた福島第1原発から海への汚染水流出について、東電は前週になって初めて認めた。外国人2人、日本人4人の専門家からなる原子力改革監視委員会のデール・クライン(Dale Klein)委員長(米原子力規制委員会元委員長)は「安全側に立った意思決定の姿勢に欠けている。国民に十分な情報を提供していない」「東電は自分たちのやっていることが分かっていないのではないか。計画がなく、全力を尽くして環境と人々を守ろうとしていないと映る」などと批判した。

 東電ではこれまで、発がんリスクのある放射性物質の濃度が、採取した地下水中で上昇していると報告していたが、汚染水の流出は原発の敷地内にとどまっていると主張していた。しかし、その主張に規制当局が疑念を募らせる中、ここに来て検出結果の公表が遅れたことを認めた。同じ会見で東電の広瀬直己(Naomi Hirose)社長は、ここ数か月の間に汚染水流出の可能性を警告する機会が少なくとも4回はあったと述べ、「3.11の教訓を学んで対応できていない」として謝罪した。また自らが1か月間、10%の減給処分を受けることを発表した。

 クライン委員長は会見の冒頭、汚染水流出に関する東電の対応に「不満を表明したい。汚染水問題がこれまでの福島(第1原発)の事故処理と改革の進歩を後退させると危惧(きぐ)している」と述べた。また東電による情報隠しではないかとの報道陣の質問に対してはこれを否定し、処理計画は適切だが、それを公表するまでに時間がかかりすぎたとし、「問題が発覚した段階ですぐに分かっていること、分からないことを発表する必要がある」と忠告した。

 バーバラ・ジャッジ(Barbara Judge)副委員長(英原子力公社名誉会長)も、東電の情報公開性の欠如に「本当にがっかりした」と述べ、「(原発の)廃炉作業は複雑で難しいプロセスであるため、今後も問題が生じることは必至だろうが、次に問題が起きたときには今回の誤りから学んで人々にいち早く、状況とそれを改善する東電の計画を知らせてもらいたい」と語った。

 ジャッジ氏はまた、東電の企業風土に問題があるとし「多くの企業同様、閉鎖的で効率性を優先する文化があり…議論する準備ができたと思えるまでは、自分たちだけで問題解決を図ろうとする」と指摘し、「効率よりも安全を優先する文化」を歓迎すると述べた。(c)AFP/Harumi OZAWA
http://www.afpbb.com/article/disaster-accidents-crime/accidents/2958809/11090490

なお、クラインとジャッジが東電を批判した記者会見については、IWJがネットで動画を配信している。この動画自体も編集されており、また通訳で表現が変えられてしまっているところもあるかもしれないが、今のところ、この動画が、彼らの批判を肉声で伝えている。ここであげておこう。

とりあえず、クラインとジャッジの批判部分のみおこしてみた。すべてではなく、また通訳の問題もあって、正確とはいえないかもしれないが、ここであげておく。

クライン委員長:…この地下水の漏洩や汚染水の海洋への流出の対処がうまくできていかなかったこと、このタイミングがまさにこの委員会と重なったことについて、私たちは大変残念に思うと同時にいらだちを覚えます。多くの方が鋭意現場で努力をされているなかで、このような広報上の対応のまずさというものが努力をないがしろにしていると思います。特に、私どもが関心をもちましたのは、何を把握されたのか、また、いつそれを把握されたのか、また、この対応のためにどのような対策をとろうとされているのか、ということです(中略)
少し、改革委員会としては以下の提案をさせていただきます。福島第一の汚染水の漏洩問題に関する解決にあらゆる手段をつくすということを迅速に行うのが一点目です。
また、2番目としては、福島第一の汚染水の取扱について、包括的な計画をつくり、その場しのぎでなく、根本的な解決につなげるということです。
また、リスクコミュニケーションならびに情報の公表につきましても、まだ多くの作業を残していると思います。
と、同時に、また、緊急時対応の演習・訓練についても今後とも練習する必要があることはあきらかです。
(中略)
ジャッジ副委員長:昨日、日本に参りましたが、その際、私は大変落胆し意気消沈したということを、クロフツ室長をご紹介する前に申し上げます。原子力発電事業者として東電が再生の道をたどりつつあることを個人的にも私は日本の内外の方々にいろいろとこれまでもお話して参りました。また汚染水の流失につきましては、あまりにも手間取ったということ、遅きに失してしまったという広報の対応というものが、大きく事態の進捗でプラス面があるなかで、事態をないがしろにしかねないと考えています。
また、社長の話がありましたけれども、これからも汚染水の問題、ならびにネズミの侵入による電力の供給の停止がおこりましたけれども、今後、このようなことも引き続きおこると予想されます。これらの事態がさけられないのは廃炉が長い作業であるからです。事態を収拾し、また安定させるために、難しいことと承知していながら、邁進している現場の方々がおられます。しかし、東電としましても手抜かりなく広報にも今後努力をし、事象が起ったらすぐ伝達し知らしめるということが必要になってきます。今後、東電が先に進むにあたって必要な信頼を得るためにも、とりもどすためにも。このような即応体制を広報に対応してもらいたいと思います。

クラインとジャッジがともに指摘しているのは、まず、汚染水問題に対する東電の広報のまずさである。東電は汚染水の海洋への漏洩をなかなか認めず、参院選後の7月22日にようやく認めた。この汚染水問題の発表の遅れを明示的に批判し、現場での対応をないがしろにしかねないとしているのである。

クラインは「何を把握されたのか、また、いつそれを把握されたのか、また、この対応のためにどのような対策をとろうとされているのか」と問いかけた。前二者は主に広報にあたるといえるが、最後については、汚染水問題についての今後の対応計画はあるのかということである。ジャッジも、汚染水問題だけでなく、ネズミの侵入による停電も引き合いにだして、「今後、このようなことも引き続きおこると予想されます。これらの事態がさけられないのは廃炉が長い作業であるからです」といっている。これはもちろん広報の問題でもあるが、より根本的には「廃炉作業全体に対する計画はあるか」ということになる。通訳の問題もあり、実際にはより過激に言っているのかもしれないが、これを読む限り、東電の廃炉作業全体を婉曲的な形で批判したといえるのである。

そして、クラインは、「福島第一の汚染水の漏洩問題に関する解決にあらゆる手段をつくすということを迅速に行うのが一点目です。また、2番目としては、福島第一の汚染水の取扱について、包括的な計画をつくり、その場しのぎでなく、根本的な解決につなげるということです。また、リスクコミュニケーションならびに情報の公表につきましても、まだ多くの作業を残していると思います。と、同時に、また、緊急時対応の演習・訓練についても今後とも練習する必要があることはあきらかです」と提言している。このことを提言であげるということは、反面で、これらのことが不備だということになる。まず、汚染水問題について東電はあらゆる解決手段をつくしておらず、根本的な解決につなげる包括的計画もなく、その場しのぎの対応をしていることになる。そして、リスクコミュニケーションおよび情報公開については、明示的に問題があるということになる。そして、最後の項目は意味深長である。つまり、東電は緊急時の対応の準備ができていないということになるのである。逆にいえば、今回の汚染水問題は、緊急時対応すべき問題であったにもかかわらず、東電はしなかったということになる。それほど、問題は切迫していたということを、クラインは婉曲な形で示したといえよう。

そして、これらの提言は、東電に対する原子力改革監視委員会の答申の中にとりいれられた。東電のホームページに掲載された。福島第一原発事故問題以外にも言及しているが、ここで、全文をあげておこう。

取締役会長 下河邉 和彦 殿
原子力改革監視委員会

原子力安全改革プランの進捗に関する監視結果について
~原子力改革監視委員会から東京電力取締役会への答申~

 当委員会は、本日開催された第4回原子力改革監視委員会において、東京電力原子力改革特別タスクフォースから「福島原子力事故の総括および原子力安全改革プラン(以下「改革プラン」という。)」の進捗状況について報告を受け、以下のとおり改革プランの状況を確認した。

原子力安全に関する経営層向けの研修や原子力発電所幹部の安全意識を抜本的に向上させるための取組みなどを開始している。
全社員に福島第一事故の教訓および改革の必要性を徹底的に理解させ、改革を将来にわたり継続・深化させるため、まずは原子力部門の社員を対象とし、改革プランを題材としたグループ討議を開始している。
取締役会直轄の「原子力安全監視室」を5月に設置。ジョン・クロフツ氏(元イギリス原子力公社 安全・保証担当役員)が室長に着任し、室員のパフォーマンスを最大限に発揮させるためのチームビルディングを行うとともに、執行側の各種会議体に出席し、原子力安全を最優先とした議論がなされているかを監視するなどの活動を開始している。
安全文化の浸透状況等を客観的に把握するため、IAEA(国際原子力機関)、INPO(米国原子力発電運転協会)、WANO(世界原子力発電事業者協会)等の第三者機関による外部評価を計画している。
「ソーシャル・コミュニケーション室」を4月に設置し、社会の捉え方に沿った情報公開やリスクコミュニケーターによる対話活動に取り組んでいる。
柏崎刈羽原子力発電所(以下「柏崎刈羽」という。)においては、福島第一原子力発電所(以下「福島第一」という。)事故の教訓を踏まえた設備面の対策(津波対策、冷却・除熱機能の確保、フィルターベント設備の設置等)が着実に進められている。また、緊急時対応能力を抜本的に向上させるため、防災訓練を繰り返し行う中で、問題点を洗い出し、継続的な改善に取り組んでいる。

 福島第一で進められている廃炉作業は、過去に例を見ないものであり、事故・トラブルが発生するなど様々な困難に直面している。そうした中、東京電力は社長を本部長とする「福島第一信頼度向上緊急対策本部」を設置し、安定状態の維持・強化のための対策を迅速に実行するように努めている。

 しかし、最近の汚染水漏えい問題への対応、およびこの四半期に発生した事故・トラブルの反省を踏まえると、改革プランの実施を加速し、実効性を上げるための一層の努力を行う必要があると言わざるを得ない。こうした観点から、以下の取組みを行うことを提言する。

福島第一の汚染水漏えい問題の解決に必要な対策を迅速に行うこと。
福島第一の汚染水の取り扱いについて、その場しのぎではなく、根本的な解決につながる包括的な計画を立地地域や国と連係しつつ策定すること。
上記汚染水漏えい問題への対応を含む改革を加速し、実効性を上げるため、必要な組織の見直し、人的リソースの投入等を迅速かつ機動的に行うこと。
事故・トラブル発生時のリスクコミュニケーションについては、社内の情報流通・共有を根本的に改善させるとともに、リスクコニュニケーター、ソーシャル・コミュニケーション室を機能させ、迅速かつ適切な情報公開に努めること。一般の方々にリスクについて説明する際は、事例を示すなど、分かり易くすること。
リスク/ソーシャル・コミュニケーションについて、先進的な他社事例を参考にするとともに、社外専門家の知見を適宜活用すること。
福島第一の廃炉作業の円滑な推進にあたっては、技術力のたゆまぬ向上に努めるとともに、立地地域や国と連係・対話しつつ、全体的なリスクの最小化を図ること。
これまで柏崎刈羽において実施した防災訓練で明らかとなった問題点を踏まえ、今後は経営層の意思決定事項や対外対応時の本店の役割分担を明確化させた上で、外部(官邸・規制庁・自治体・警察・自衛隊等)との共同訓練の実施に向けた取組みを具体化すること。
東京電力は、引き続き改革の項目ごとに目標管理しつつ、進捗・実施状況を適宜、当委員会に報告すること。

 当委員会は、今後も東京電力の改革プランの取組状況を定期的にチェックし、その結果を公表することとしたい。

以 上
http://www.nrmc.jp/report/detail/1229306_4971.html

後半の提言部分が、クラインの発言と対応しているといえよう。しかし、この提言のほうが、より厳しく東電の問題点を指摘しているといえる。「福島第一の廃炉作業の円滑な推進にあたっては、技術力のたゆまぬ向上に努めるとともに、立地地域や国と連係・対話しつつ、全体的なリスクの最小化を図ること」とあるが、このことからいえば、東電は技術力のたゆまぬ向上に努めておらず、全体的なリスクの最小化もはかっていないことになる。また、「これまで柏崎刈羽において実施した防災訓練で明らかとなった問題点を踏まえ、今後は経営層の意思決定事項や対外対応時の本店の役割分担を明確化させた上で、外部(官邸・規制庁・自治体・警察・自衛隊等)との共同訓練の実施に向けた取組みを具体化すること」とあるが、逆にいえば、訓練ですら経営層の意思決定も外部との連携もできていないということになる。

総じて言えば、汚染水漏洩問題を中心にして、その公表の遅れについては明示的に批判しつつ、一部で包括的な計画がなくその場しのぎの対応をしていると言及し、「提言」という形で東電の対応全体を婉曲に批判しているといえよう。なお、AFPの記事とはニュアンスが違うように見受けられるところもあるが、この動画自体が編集されており、記者とのやり取りの部分などがないので、あるいはそこで、より明示的に姿勢が表明されたのかもしれない。

ジャッジは「原子力発電事業者として東電が再生の道をたどりつつあることを個人的にも私は日本の内外の方々にいろいろとこれまでもお話して参りました」と述べており、東電の原子力発電事業者との再生を望んでいることをあきらかにしている。そして、この記者会見では柏崎刈谷原発の再稼働についても言及されている。クラインもジャッジも海外の「原子力ムラ」の代表であって、原発推進を心から望んでいる。そのために、東電の原子力改革監視委員に就任したのだ。しかし、彼らからしても、福島第一原発に対する現在の東電の対応については批判すべきものであった。つまり、福島第一原発への東電の対応は、原子力推進の立場からみても、世界水準に達していないのである。このような状態で、よく原発プラントの海外輸出をはかれると思うのである。

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さて、最近、異常事態が頻発している福島第一原発につき、東電の管理責任を問う声は少ない。それぞれの事態についての報道はあるものの、それらをトータルに把握して、東電の責任を問う報道はあまりない。そして、東電が実質的に国有化されており、東電の営為は、福島第一原発事故対策だけでなく、除染費用支払いや補償金支払いに至るまで国の責任でもあることを指摘した報道はほとんど見受けられない。

原子力規制委員会は、福島第一原発について、東電に問題点を指摘し、その結果、あきらかになったこともある。それなりに仕事はしている。しかし、7月24日、時事通信は、原子力規制委員長の最終的には基準レベルでの汚染水の海洋放出は避けられないとする発言について、次のように報道している。

低濃度水「捨てられるように」=福島第1の汚染水増加で-規制委員長
 東京電力福島第1原発で放射能汚染水が増え続けている問題に関し、原子力規制委員会の田中俊一委員長は24日の定例会見で、「(放射性物質の)濃度が十分低いものは捨てられるようにしないと、にっちもさっちも行かなくなる」と述べ、海洋放出も視野に入れる必要があるとの認識を示した。
 田中委員長は第1原発の敷地内を「水だらけ」と表現。「きちっと処理して、排水レベル(基準値)以下になったものは排出することは避けられないというのが、私の率直な気持ち」と述べた。(2013/07/24-16:23)
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201307/2013072400669

この発言は、結局のところ、現状の東電の措置を「追認」してしまっていることになろう。東電の管理能力では、そもそも基準値レベルまで放射能汚染を安定的に下げること自体に疑問符がつく。ろくに除染もせず、大量の水で稀釈するだけなのではなかろうか。

そして、東電は、現在、原子炉内に流入してくる前の、汚染されていない地下水(東電はそう称している)を、原子炉の上手でくみあげて、海洋に放出する計画を策定し、周辺漁協の合意を求めているところである。このような発言は、東電の交渉にも影響があるだろう。

つまり、原子力規制委員会も、東電程度の対策しか考えていないことになるといえる。流入・流出する地下水をおさえ、再び、原子炉の気密性を確保する、いずれにせよ、これが、せめてもの第一歩であろう。その方策を本格的に検討しないまま、場当たりなその場しのぎをして、最終的に放射能汚染を拡大することしかないというのが現状といえよう。

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福島第一原発の状況が日々悪化している。ネットや新聞などを注視していると、連日、さまざまな方面から異常事態の報告がなされている。このブログでそれらを書いても、すぐに改訂版を出さなくてならないほどだ。しかし、これらの異常事態は大々的にはあまり報道されず、さまざまな異常事態を関連づけて考察するような報道は見られない。東電が出してくる情報をただ流している(それも十分ではなく)という状況なのだ。

前回のブログで、7月18日に3号機から「湯気」が発生しているということを書いた。そのことを東電から報道機関に伝えたメールでは、ホウ酸水注入の用意ができていることも述べられている。ホウ酸水注入は原子炉の臨界を防ぐための手段である。この時点で、東電は「再臨界」も覚悟していたといえる。

報道関係各位一斉メール 2013年

福島第一原子力発電所3号機原子炉建屋5階中央部近傍(機器貯蔵プール側)で湯気らしきものの確認について(続報2)
平成25年7月18日
東京電力株式会社

 本日(7月18日)、3号機原子炉建屋5階中央部近傍(機器貯蔵プール側)より、湯気らしきものが漂っていることを確認したことについての続報です。

 現在(午後1時時点)も湯気らしきものが漂っている状況は継続しております。午後1時のプラント状況について以下のとおり確認するとともに、午後1時15分に未臨界維持を確認しております。
 
 ・原子炉注水、使用済燃料プール冷却   :安定的に継続
 ・モニタリングポスト、連続ダストモニタ :有意な変化なし
 ・圧力容器、格納容器温度        :有意な変化なし
 ・希ガスモニタ             :有意な変化なし
 ・格納容器窒素封入           :有意な変化なし

 また、3号機原子炉建屋使用済燃料プール養生上部の雰囲気線量の測定結果については、毎日作業前に実施している線量測定値と比較して大きな変動はありませんでした。

 なお、未臨界維持を確認しておりますが、念のために、ほう酸水注入については、いつでも開始できる体制を整えております。

 引き続き、状況を注視してまいります。
http://www.tepco.co.jp/cc/press/2013/1229044_5117.html

そして、7月27日の東京新聞朝刊は、3号機の湯気が、単に雨水が加熱されて蒸発されただけではなく、原子炉格納容器内部に注入された窒素がもれ、それとともに外に出た水蒸気に起因する可能性があることを報道した。次に掲げておく。

湯気 格納容器から漏出 福島第一3号機 上部損傷?注入窒素も外へ

2013年7月27日 朝刊

 東京電力福島第一原発3号機の原子炉建屋五階から発生する湯気は、雨水の蒸発だけではなく、格納容器内の水蒸気が外部に漏れたものである可能性が高いことが分かった。
 格納容器には、爆発の危険がある水素を内部から追い出すため、窒素が継続的に注入されている。東電が窒素の注入量と回収量を調べたところ、回収量の方が一時間当たり三立方メートル少ないことが分かった。
 事故発生当初、格納容器内は長時間、高温高圧にさらされ、容器上部のふた周辺部が損傷している可能性がある。
 窒素注入による勢いに押され、格納容器内にこもる水蒸気が容器外に漏れている可能性が高いという。
 格納容器内はおびただしい放射線量とみられるが、容器内から回収した気体に含まれていた水の放射性セシウム濃度は一ミリリットル当たり九〇ベクレルと意外なほど低い値だった。
 東電は当初、建屋五階からしたたり落ちた雨水が、四〇度前後の熱がある格納容器のふたに触れて、水蒸気になり、冷たい空気によって湯気が発生したと説明していた。
 格納容器内からの漏出について、東電の今泉典之原子力・立地本部長代理は「福島第一からの放射性物質の放出量を継続的に見直しているが、その量に影響していない」と、放出量は少ないとの見方を示している。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2013072702000118.html

この報道は著しくわかりにくい。雨水の蒸発による水蒸気と格納容器内部の水蒸気と、原因が両論併記されている。ただ、格納容器内部に注入された窒素が外部に漏れていることは確実である。つまり、格納容器はもはやその内部の物質を封じ込めることができなくなっているのである。そして、もし雨水もまた湯気発生の原因であるならば、格納容器自体も熱を帯びるようになっているのである。

さらに、2011年4月当時に2号機から漏れ出した1リットル当たり23億bqの汚染水が地下の配管用トンネルであるトレンチにたまっていることが27日に東電より公表された。

福島第1原発:汚染水流出 トレンチで23億ベクレル 震災直後と同水準、「漏えい源」強まる
毎日新聞 2013年07月27日 東京夕刊

 福島第1原発の敷地内から海へ放射性物質を含む地下水が流出している問題で、東京電力は27日、汚染水の漏えい源とみられる敷地海側のトレンチ(地下の配管用トンネル)にたまっている水から、1リットル当たり23億5000万ベクレルの高濃度で放射性セシウムを検出したと発表した。

 放射性セシウムの内訳は、放射性物質の量が半分になる「半減期」が約2年のセシウム134が1リットル当たり7億5000万ベクレル、約30年のセシウム137が同16億ベクレルだった。またストロンチウムなどが出す放射線の一種のベータ線測定から算出した放射性物質は、同7億5000万ベクレルだった。

 同原発2号機で原発事故直後の2011年4月に、取水口付近などで高濃度汚染水が漏れ、その際1リットル当たり36億ベクレルの放射性セシウムが検出されている。トレンチには、その際の汚染水が滞留し、海への漏えい源の疑いがあるため、東電が調査した。東電はトレンチ内の汚染水について、9月から浄化作業を始める予定としている。【野田武】
http://mainichi.jp/feature/20110311/news/20130727dde001040029000c.html

これは、最近判明した、2号機周辺の地下水が汚染され、海洋に流出しているということと関連しているかどうかはっきりしない。いずれにしても、最早2年も経過しているのに、調査すらしていなかったことになる。そして、東電は9月から浄化作業にかかるといっている。準備に時間がかかることは理解できるし、あまりに不備な状態で作業にかかると無用の被曝を招くだけだが、悠長なことである。

そして、ややさかのぼるが、7月25日には、6号機の原子炉冷却が一時停止されたことが報じられた。朝日新聞のネット配信記事をみておこう。

2013年7月25日13時13分

福島第一6号機、原子炉冷却が一時停止 電気系統が故障

 東京電力は25日、福島第一原発6号機で原子炉の冷却が電気系統のトラブルで一時停止したと発表した。約2時間後に復旧し、周辺の放射線測定値などに異常はないという。

 東電によると、25日午前10時20分ごろ、6号機の非常用ディーゼル発電機の起動試験をしていたところ、原子炉の冷却システムが停止した。復旧し冷却を再開したのは午後0時6分。原因を調べている。

 6号機の原子炉内には764体の燃料集合体が入っている。冷却の一時停止で原子炉の水温は0・5度上昇し、27・6度だった。

 使用済み核燃料プールの冷却は別システムで稼働は継続していた。

 原子力規制委員会は「冷温停止状態は維持されているので安全上問題となるものではない」としている。
http://www.asahi.com/national/update/0725/TKY201307250095.html

2号機周辺の地下水汚染とそれによる海洋汚染、3号機の「湯気発生」、2号機周辺のトレンチにおける高濃度汚染水滞留の発覚、6号機の原子炉冷却の一時停止と、さまざまな異常事態が現在の福島第一原発ではおきている。参院選を考慮して公表を遅らしたものもあることを考えても、ひどい状況である。それぞれに、東電は「影響は小さい」などととコメントしている。そのこと自体疑わざるをえない。他方で、もし、そうだとしても、これほど立て続けに異常事態が頻発していて、福島第一原発全体の管理は大丈夫かとも思う。そして、単に事故が起きないように管理しているだけではすまないはずである。廃炉作業を進めていかなくてはならないのである。東京電力の当事者能力の有無を疑わざるをえない。さらに、東電は、2012年7月31日に原子力損害賠償支援機構が50%余の株式を取得し、そのことによって実質的に国有化された。その意味で、東電の失敗は、国の責任でもある。

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