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2015年6月13日現在、日本社会の一大関心事(なお、NHKその他のテレビは別だが)となっているのは、安倍政権の安全保障関係法制立法の動きである。しかし、その一方で、それこそ目立たない形で、福島第一原発事故被災者の切り捨てが進行している。

まず、自民党は、5月21日に震災からの復興に向けた第五次提言をとりまとめ、「避難指示解除準備区域」と「居住制限区域」の避難指示を2017年3月までに解除し、両区域住民への慰謝料支払を2018年3月に終了する方針を打ち出した。それを伝える東京新聞のネット配信記事をみてほしい。

自民復興5次提言 原発慰謝料18年3月終了 避難指示は17年に解除

2015年5月22日 朝刊

 自民党の東日本大震災復興加速化本部(額賀福志郎本部長)は二十一日、総会を開き、震災からの復興に向けた第五次提言を取りまとめた。東京電力福島第一原発事故による福島県の「避難指示解除準備区域」と「居住制限区域」の避難指示を二〇一七年三月までに解除するよう正式に明記し、復興の加速化を政府に求めた。 
 賠償では、東電が避難指示解除準備区域と居住制限区域の住民に月十万円支払う精神的損害賠償(慰謝料)を一八年三月に一律終了し、避難指示の解除時期で受取額に差が生じないようにする。既に避難指示が解除された地域にも適用するとした。
 提言は自民党の総務会で正式決定後、今月中に安倍晋三首相に提出する。額賀本部長は「古里に戻りたいと考える住民が一日も早く戻れるよう、生活環境の整備を加速化しなければならない」と述べ、避難指示解除の目標時期を設定した意義を強調した。
 だが、福島県の避難者からは「二年後の避難指示解除は実態にそぐわない」と不安の声も上がっており、実際に帰還が進むかどうかは不透明だ。
 避難指示区域は三区域あり、居住制限区域と避難指示解除準備区域の人口は計約五万四千八百人で、避難指示区域全体の約七割を占める。最も放射線量が高い「帰還困難区域」については避難指示の解除時期を明示せず、復興拠点となる地域の整備に合わせ、区域を見直すなどする。
 集中復興期間終了後の一六~二〇年度の復興事業は原則、国の全額負担としながらも、自治体の財政能力に応じ、例外的に一部負担を求める。
 また一六年度までの二年間、住民の自立支援を集中的に行うとし、商工業の事業再開や農業再生を支援する組織を立ち上げる。その間、営業損害と風評被害の賠償を継続するよう、東電への指導を求めるとした。
 提言には、第一原発の廃炉、汚染水処理をめぐり地元と信頼関係を再構築することや風評被害対策を強化することも盛り込まれた。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2015052202000117.html

そして、6月7日、東京電力は避難指示区域内の商工業者に払っている営業補償を2016年度分までで打ち切る方針を提起した。東京新聞の次のネット配信記事をみてほしい。

福島第一事故 営業賠償 16年度まで 東電方針

2015年6月8日 朝刊

 東京電力は七日、福島第一原発事故の避難指示区域内の商工業者に支払っている営業損害賠償を二〇一六年度分までとし、その後は打ち切る方針を明らかにした。同日、福島市内で開かれた、福島県や県内の商工団体などでつくる県原子力損害対策協議会(会長・内堀雅雄知事)の会合で示した。
 方針は与党の東日本大震災復興加速化プロジェクトチームが五月にまとめた第五次提言を踏まえた措置。事故による移転や転業などで失われる、一六年度までの収益を一括して支払う。事業資産の廃棄に必要な費用なども「必要かつ合理的な範囲」で賠償するとしている。
 東電の広瀬直己社長は「個別の事情を踏まえて丁寧に対応していく」と述べた。
 営業損害の賠償をめぐっては、東電が一時、来年二月で打ち切る案を提示していたが、地元から強い反発を受けて撤回した。一方、与党は第五次提言で、国が東電に対し、一六年度まで適切に対応しその後は個別の事情を踏まえて対応するよう指導することを明記した。
 商工業者の支援に関し、安倍晋三首相は先月三十一日、官民合同チームを立ち上げ県内の八千事業者を個別に訪問し、再建を後押しする方針を示している。
 会合に参加した団体からは、国や東電に「風評被害は依然残っており、賠償は続けるべきだ」「被害者に寄り添った賠償をお願いしたい」など、継続的な賠償を求める意見が相次いだ。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/news/CK2015060802000120.html

他方、福島県は、自主避難者に対して行っている無償での住宅提供を2017年3月までで打ち切ることを5月頃より検討している。これは、たぶん、自民党の第五次提言と連動しているのだろう。そのことを報じる朝日新聞のネット配信記事をみてほしい。

自主避難者への住宅提供、2年後に終了へ 福島県が方針
2015年5月17日13時02分

 東京電力福島第一原発事故後に政府からの避難指示を受けずに避難した「自主避難者」について、福島県は避難先の住宅の無償提供を2016年度で終える方針を固め、関係市町村と調整に入った。反応を見極めた上で、5月末にも表明する。故郷への帰還を促したい考えだ。だが、自主避難者からの反発が予想される。

 原発事故などで県内外に避難している人は現在約11万5千人いる。このうち政府の避難指示の対象外は約3万6千人。津波や地震の被災者を除き、大半は自主避難者とみられる。

 県は災害救助法に基づき、国の避難指示を受けたか否かにかかわらず、避難者に一律でプレハブの仮設住宅や、県内外の民間アパートなどを無償で提供している。期間は原則2年だが、これまで1年ごとの延長を3回し、現在は16年3月までとなっている。

 今回、県はこの期限をさらに1年延ばして17年3月までとし、自主避難者についてはその後は延長しない考え。その際、終了の影響を緩和する支援策も合わせて示したいとしている。国の避難指示を受けて避難した人には引き続き無償提供を検討する。
http://www.asahi.com/articles/ASH5J5H83H5JUTIL00M.html

さらに、6月12日、ほぼ自民党の第五次提言を踏襲して、安倍政権は福島の復興指針を改定し、閣議決定した。「居住制限区域」と「避難指示解除準備区域」の避難指示を2016年度末(2017年3月)までに解除し、慰謝料支払も2017年度までで打ち切るというもので、ほぼ自民党の第五次提言にあったものだ。2016年度までで営業補償を打ち切ることも盛り込まれた。ただ、2016年度までに被災者の「事業再建」を「集中支援」するというのである。東京新聞のネット配信記事をみてほしい。

避難解除 17年春までに 生活・健康…不安消えぬまま

2015年6月12日 夕刊

 政府は十二日、東京電力福島第一原発事故で多大な被害を受けた福島の復興指針を改定し、閣議決定した。「居住制限区域」と「避難指示解除準備区域」の避難指示を、事故から六年後の二〇一六年度末までに解除するほか、事業再建に向けて一六年度までの二年間に集中支援する方針を盛り込み、被災者の自立を強く促す姿勢を打ち出した。 
 避難住民の帰還促進や、賠償から事業再建支援への転換が柱。地元では帰還への環境は整っていないと不満の声もあり、被害の実態に応じた丁寧な対応が求められる。
 安倍晋三首相は官邸で開かれた原子力災害対策本部会議で「避難指示解除が実現できるよう環境整備を加速し、地域の将来像を速やかに具体化する」と述べた。
 居住制限区域など両区域の人口は計約五万四千八百人で避難指示区域全体の約七割を占めるが、生活基盤や放射線による健康被害への不安は根強く、避難指示が解除されても帰還が進むかは不透明。東電による「居住制限区域」と「避難指示解除準備区域」の住民への月十万円の精神的損害賠償(慰謝料)支払いは一七年度末で一律終了する。一六年度末より前に避難指示が解除された場合も一七年度末まで支払い、解除時期で受取額に差が生じないようにする。既に避難指示が解除された地域にも適用する。
 一方、第一原発に近く依然、放射線量が高い「帰還困難区域」の解除時期は明示しなかった。
 被災地域の事業者に対しては事業再建に向けた取り組みを一六年度までの二年間に集中的に実施。商工業者の自立を支援するための官民合同の新組織を立ち上げ、戸別訪問や相談事業を行うほか、営業損害や風評被害の賠償は一六年度分まで継続する。
 東電は既に今月七日、福島県に対し、避難指示区域内の商工業者に支払っている営業損害賠償は一六年度分までとし、その後は打ち切る方針を示している。
◆きめ細かな対応必要
 <解説> 福島復興指針の改定で政府は、福島県の居住制限区域と避難指示解除準備区域の避難指示の解除目標時期と賠償の終了時期を明示し、住民の自立を促す方針を打ち出した。政府はこれまでの「賠償」という形から「生活再建支援」に移行したい考え。しかし住民の置かれた状況はまちまちで、福島では「賠償の打ち切りだ」との反発も多い。
 除染やインフラ整備が完了しても、商圏自体を失った企業の再建や、避難に伴い住民がばらばらになったコミュニティーの再生は容易でない。既に避難指示が解除された地域でも帰還が進んでいないのが実情だ。政府や東電は、無責任な賠償打ち切りにならないよう、分かりやすい説明と、個々の被災者の状況に応じたきめ細かな対応に努める必要がある。
 震災復興、原発事故対応には多額の国費が投入されている。被災地への関心の低下が指摘される中、国民への丁寧な説明も引き続き求められる。 (共同・小野田真実)
■改定指針のポイント■
▼福島県の居住制限区域と避難指示解除準備区域の避難指示を2016年度末までに解除。
▼両区域の住民への精神的損害賠償(慰謝料)の支払いを17年度末で一律終了。早期解除した場合も同等に支払う。
▼16年度までの2年間を集中的に事業者の自立支援を図る期間として取り組みを充実。事業者の自立を支援する官民合同の組織を創設し、戸別訪問や相談事業を実施。
▼原発事故の営業損害と風評被害の賠償は16年度分まで対応。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2015061202000266.html

これらの措置が、福島県の被災者の生活を大きく揺るがすことは間違いない。特に重要なことは、「居住制限区域」も2017年3月までに避難指示を解除するとしたことである。「避難指示解除準備区域」は放射線量年間20mSv以下で、それでも福島県外の基準である1mSvの20倍で、かなり高い。「居住制限区域」は20−50mSvであり、もちろん、より高い。そこも含めて、避難指示を解除しようというのである。いかにも、安倍政権らしい、無茶苦茶で乱暴な措置だ。

ある程度は、除染その他で「居住制限区域」でも線量は下がっているとは思われる。しかし、それならそれで、空間線量を計測して、20mSv以下の線量になったことを確認して、「避難指示解除準備区域」に編入するという手続きが必要だろう。そういうことはまったくお構いなしなのだ。このような状態だと、福島県民の放射線量基準は、福島県外の50倍ということになりかねないのである。

そして、避難指示解除と連動して、慰謝料や営業補償などの支払いを打ち切るという。つまりは、もとの場所に戻って、東電の支払いに頼らず、3.11以前と同じ生活を開始しろということなのである。そのための支援は講じるということなのであろう。しかし、逆にいえば、自主避難者などの支援は打ち切らなくてはならないということなのであろう。避難指示に従った人びとへの慰謝料・営業補償などは打ち切っていくのに、自主避難者への支援を続けていくわけにはいかないというのが、国や福島県などの考えであると思われる。もちろん、放射線量についてはいろんな意識があり、自民党などがいうように、線量にかまわず「古里に戻りたい」という考えている人はいるだろう。とはいえ、福島県外と比べて制限線量が50倍というのは、やはり差別である。法の下の平等に背いている。それゆえに、自主避難している人たちもいるだろう。そういうことは考慮しないというのが「復興新指針」なのである。何も自主避難している人びとだけではなく、線量が下がらないまま、自らの「希望」にしたがった形で、「帰還」を余儀なくされる人びとも「棄民」されることになるだろう。

良くも悪くも、安全保障関係法制立法の問題のほうに、日本社会の目は向けられている。その陰で、このような福島県民の「棄民」が進行しているのである。

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福島第一原発周辺においては、2つの基準が存在している。まず、居住制限区域と避難指示解除準備区域は年間20mSvが境界となっており、線量20mSv以下で、インフラの整備が完了すれば、帰還を認めることになっている。

しかし、除染の基準は年間1mSv以上であり、それ以下をめざして除染を行うことになっている。だが、除染事業の現状は、年間1mSv未満に線量を下げることは困難であることが判明している。

そこで、次のようなことが行われた。しんぶん赤旗が2013年11月13日に配信した次の記事をみてほしい。

帰還後「個人線量が基本」

規制委方針 「空間線量」から変更

 原子力規制委員会は20日の定例会合で、東京電力福島第1原発事故で避難している住民の帰還に向けた防護措置のあり方などについて、「基本的考え方」をほぼ了承しました。これまで専門家による検討会合が4回開かれ、11日に案がまとめられていたもの。

 「考え方」は、帰還後の被ばく線量管理について、個人線量計による測定を基本とすることなどが明記されました。個人線量計などを用いた個人線量は、ヘリコプターなどによる空間線量率から推定される被ばく線量と比べて低くなる傾向が指摘されています。
(後略)
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2013-11-21/2013112115_01_1.html

つまり、今までの空間線量から推定される被ばく線量より低く測定される傾向がある個人線量計に切り替えることにしたのである。朝日新聞が2013年11月21日にネット配信した記事によると、次のように、約半分程度になるということである。

福島県伊達市は21日、全住民を対象に1年間実施した個人線量計(ガラスバッジ)による放射線被曝(ひばく)量の測定結果を発表した。国の推計方式で年1ミリシーベルトの被曝量があるとされた二つの地域で、住民の被曝量の平均が、いずれも0・5ミリ台だったという。
http://www.asahi.com/articles/TKY201311210369.html

しかし、年間線量1mSvという除染基準は、低線量被ばくの影響について確定したことがいえない中、20mSvなどなるべく高い線量を基準にしたいとする当時の政権と、少しでもゼロをめざして低くしたいという民意との間の中で決まった「社会的基準」というべきものである。空間放射線量は変わらないまま、約半分の測定値となる個人線量計の測定値に切り替えるということは、実質的には、今までの倍に基準を緩和するということにほかならない。

しかし、個人線量計に切り替えて測定していても、年間1mSvにならないところが出現していた。そのことについて、毎日新聞が2013年3月25日に次のようにネット記事を配信している。

<福島原発事故>被ばく線量を公表せず 想定外の高い数値で
毎日新聞 3月25日(火)7時0分配信
 ◇内閣府のチーム、福島の3カ所

 東京電力福島第1原発事故に伴う避難指示の解除予定地域で昨年実施された個人線量計による被ばく線量調査について、内閣府原子力被災者生活支援チームが当初予定していた結果の公表を見送っていたことが24日、分かった。関係者によると、当初の想定より高い数値が出たため、住民の帰還を妨げかねないとの意見が強まったという。調査結果は、住民が通常屋外にいる時間を短く見積もることなどで線量を低く推計し直され、近く福島県の関係自治体に示す見込み。調査結果を隠したうえ、操作した疑いがあり、住民帰還を強引に促す手法が批判を集めそうだ。

 毎日新聞は支援チームが昨年11月に作成した公表用資料(現在も未公表)などを入手した。これらによると、新型の個人線量計による測定調査は、支援チームの要請を受けた日本原子力研究開発機構(原子力機構)と放射線医学総合研究所(放医研)が昨年9月、田村市都路(みやこじ)地区▽川内村▽飯舘村の3カ所(いずれも福島県内)で実施した。

 それぞれ数日間にわたって、学校や民家など建物の内外のほか、農地や山林などでアクリル板の箱に個人線量計を設置するなどして線量を測定。データは昨年10月半ば、支援チームに提出された。一般的に被ばく線量は航空機モニタリングで測定する空間線量からの推計値が使われており、支援チームはこれと比較するため、生活パターンを屋外8時間・屋内16時間とするなどの条件を合わせ、農業や林業など職業別に年間被ばく線量を推計した。

 関係者によると、支援チームは当初、福島県内の自治体が住民に配布した従来型の個人線量計の数値が、航空機モニタリングに比べて大幅に低かったことに着目。

 関係省庁の担当者のほか、有識者や福島の地元関係者らが参加する原子力規制委員会の「帰還に向けた安全・安心対策に関する検討チーム」が昨年9~11月に開いた会合で調査結果を公表し、被ばく線量の低さを強調する方針だった。

 しかし、特に大半が1ミリシーベルト台になると想定していた川内村の推計値が2.6~6.6ミリシーベルトと高かったため、関係者間で「インパクトが大きい」「自治体への十分な説明が必要」などの意見が交わされ、検討チームでの公表を見送ったという。

 その後、原子力機構と放医研は支援チームの再要請を受けて、屋外8時間・屋内16時間の条件を変え、NHKの「2010年国民生活時間調査」に基づいて屋外時間を農業や林業なら1日約6時間に短縮するなどして推計をやり直し、被ばく推計値を低く抑えた最終報告書を作成、支援チームに今月提出した。支援チームは近く3市村に示す予定だという。

 支援チームの田村厚雄・担当参事官は、検討チームで公表するための文書を作成したことや、推計をやり直したことを認めた上で、「推計値が高かったから公表しなかったのではなく、生活パターンの条件が実態に合っているか精査が必要だったからだ」と調査結果隠しを否定している。

 これに対し、独協医科大の木村真三准教授(放射線衛生学)は「屋外8時間・屋内16時間の条件は一般的なもので、それを変えること自体がおかしい。自分たちの都合に合わせた数字いじりとしか思えない」と指摘する。

 田村市都路地区や川内村東部は避難指示解除準備区域で、政府は4月1日に田村市都路地区の避難指示を解除する。また川内村東部も来年度中の解除が見込まれている。【日野行介】
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140325-00000008-mai-soci

つまり、避難指示解除準備区域で、避難指示解除が予定されている地域で予備的に個人線量計で内閣府の支援チームが測定したのだが、そのうち、大半が1mSv以下になると推定していた川内村の推計線量が、個人線量計でも2.6〜6.6mSvになってしまった。内閣府の支援チームは、この結果を公表せずに隠蔽した。そして、現在、農業・林業従事者の生活時間パターンを「屋外8時間、屋内16時間」から「屋内6時間、屋外18時間」などにかえ、より推計値が低くなるように計算しなおしているというのである。つまりは、測定値が高いから、より推計値が低くなるように数字を操作しているということになるのである。

測定方法を空間線量から個人線量計に変更するだけでも、約2倍に基準線量を緩和していることになる。それでも高いとなれば、推計の計算式をかえて、まだ下げようとしている。空間線量は全く変わらず、いわゆる「線量推計値」だけが下げられたのである。

福島第一原発事故後、東北・関東の諸地域は広範に放射性物質によって汚染された。そこで、空間線量からの推計で年間1mSvを基準として除染された。もちろん、現実には、除染作業を行っても1mSv以下にならなかった地域も多い。それでも、とりあえず、除染作業は実施されたのである。

ところが、避難指示解除準備区域においては、測定方法が空間線量から個人線量に切り替えられ、さらには推定値の計算式が変更されることになっている。そのために、従来の空間線量では1mSv以上と認定されて除染の対象になった線量のある地域が、除染の対象にならなくなるケースが出現することが想定されるのである。

現時点の除染基準1mSvとは「社会的」基準である。そして、この基準は、すでに他地域では適用されている。このように「科学」の名をかりて、実質的に緩和された基準を福島第一原発周辺地域に押しつけるという不公平なことが、平然となされているのである。

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最近、福島第一原発の状況について、あまり注目されることがなくなっている。しかし、福島第一原発は、人びとが意識していようがいまいが、厳然と存在している。確かに、1号機・2号機・3号機は水で冷却され、直近に爆発する可能性は少なくなっている。4号機の燃料プールからの燃料棒の取り出しも始まった。しかし、福島第一原発からの汚染水の流出は止まっていない。また、原子炉を冷却した後の汚染水も鉄製貯蔵タンクにためこまれている。

さらに、この鉄製貯蔵タンク自体が問題となっている。1月9日付の次の読売新聞の報道をみてほしい。

汚染水タンクからX線、対策怠り基準の8倍超

 福島第一原子力発電所で、汚染水タンクから発生するエックス線の影響を東京電力が軽視し、対策を講じないままタンクを増設し続けていることが9日わかった。

 国が昨年8月に認可した廃炉の実施計画では、原発敷地境界の線量を「年1ミリ・シーベルト未満にする」と定めているが、12月には一部で年8ミリ・シーベルトの水準を超えた。

 現在、周辺に人は住んでいないが、作業員の被曝ひばく量を増やす要因になっている可能性がある。原子力規制委員会は10日に東電を呼び、対策の検討に入る。

 タンク内の汚染水から出る放射線は主にベータ線で、物を通り抜ける力が弱い。しかし、ベータ線がタンクの鉄に当たると、通り抜ける力の強いエックス線が発生し、遠方まで達する。

 東電によると、様々な種類の放射線を合わせた敷地境界での線量は、昨年3月には最大で年0・94ミリ・シーベルトだったが、5月には同7・8ミリ・シーベルトに急上昇した。汚染水問題の深刻化でタンクが足りなくなり、敷地の端までタンクを増設したため、エックス線が増えたらしい。

(2014年1月9日18時20分 読売新聞)

つまり、汚染水タンク自体が鉄製のため、汚染水が発するベータ線があたると、より透過力の強いX線が発生し、そのため、福島第一原発敷地内の放射線量が急上昇しているというのである。

ベータ線が鉄などにあたるとX線が発生するということは、一般的に知られていたことのようである。例えばWikipediaの「ベータ粒子」(ベータ線)の遮蔽に関する記述をみてみよう。

遮蔽

ヘリウム4の原子核であるアルファ粒子は一枚の紙で遮蔽できる。ベータ線の実体である電子では 1 cm のプラスチック板で十分遮蔽できる。電磁波であるガンマ線では 10 cm の鉛板が必要となる。
透過力は弱く、通常は数 mm のアルミ板や 1 cm 程度のプラスチック板で十分遮蔽できる。ただし、ベータ粒子が遮蔽物によって減速する際には制動放射によりX線が発生するため、その発生したX線についての遮蔽も必要となる。
遮蔽物に使われる物質の原子番号が大きくなるほど制動放射が強くなることから、ベータ線の遮蔽にはプラスティックなどの低原子番号の物質を使い、そこで発生したX線を鉛などの高原子番号の物質で遮蔽する、という二段構えの遮蔽を行う。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%99%E3%83%BC%E3%82%BF%E7%B2%92%E5%AD%90

汚染水タンクについては、鋼材をボルトでつないだだけのボルト締め型では水漏れのおそれがあるといわれていた。このようにみてみると、溶接型も含め、そもそも汚染水と鉄を直に接触させているタンク自体が欠陥品であったことになる。鉄製タンクの場合は、内部をプラスチックなどで遮蔽すべきだったのである。

この記事でも出ているように、この鉄製汚染水タンクの使用は、無用に放射線を増大させている。これが、福島第一原発の労働者に意味もない被ばくを強いていることはあきらかである。1月10日時点では、原子力規制委員会もこの問題について東電を呼び出して、協議するとしていた。

しかし、14日には、原子力規制委員会の事務局である原子力規制庁は、次のような態度表明を行った。

ALPS性能不良、稼働のメド立たず…福島第一

 東京電力が福島第一原子力発電所で試験運転中の新型浄化装置「ALPS(アルプス)」について、原子力規制庁は14日の記者会見で、目標通りの性能が出ておらず、いつ本格稼働できるか分からないことを明らかにした。

 汚染水に含まれる63種類の放射性物質のうち、62種類をほぼ完全に除去できるはずだったが、ヨウ素など一部の物質の除去性能が目標を下回り、改良を加えているという。

 同庁はまた、汚染水タンクから出るエックス線によって、敷地境界の放射線量が基準を大幅に超えている問題について、当面はタンクの設計変更などを求めずに増設を認める姿勢を示した。同庁の担当者は、設計変更の具体案がまだないとして、「(アルプスで汚染水中の)ストロンチウムなどを除去するのが一番」と説明した。

(2014年1月14日21時08分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20140114-OYT1T01083.htm

まず、前段は、放射性物質浄化装置(「ALPS(アルプス)」)が性能不良で、本格稼働のめどがたたないということを告白している。ALPSは、トリチウム以外の放射性核種の多くを除去できるといわれているもので、稼働すれば、汚染水におけるベータ線の主な発生源であるストロンチウム90なども除去できることになる。しかし、ALPSについてのニュースは、いつも故障その他で本格稼働できないというものばかりであった。2014年1月時点でも、やはり、本格稼働できないのである。

しかし、後段は、ALPSの本格稼働のめどがたたないにもかかわらず、その稼働を期待するとして、X線の発生源になっている鉄製タンクの設計変更を求めないと主張している。確かに、本格稼働すれば、ストロンチウム90を除去することによって、ベータ線の発生をおさえ、鉄製タンクでもX線は生じないことになるだろう。しかし、そもそも、ALPS自体の本格稼働のめどが立たないのであり、ゆえに、鉄製タンクにストロンチウム90を含んだ汚染水を貯蔵しつづけるしかない。現状において、X線の発生を防ぐ措置は全く講じられないのである。福島第一原発自体の廃炉処理のように、手段自体が現時点の科学技術で考えられないわけではない。タンク自体の設計を変更すればいいのである。そのような指示をすることすら、原子力規制庁は放棄したのである。

そして、東電は、そもそも水漏れの恐れボルト締め型タンクの「延命」すらはかるようになった。東京新聞の次の報道をみてほしい。

欠陥タンク 延命図る 福島第一 漏水不安のボルト締め型

2014年1月22日 朝刊

 東京電力は、水漏れの不安を抱える福島第一原発のボルト締め型タンクに、漏水防止の延命策を施し、数年の間は使い続ける方針を決めた。漏水しにくく耐久性が高い溶接型タンクに早急に置き換えるとしていたが、増設が急速には進まず当初の方針から後退した。置き換えは来春以降にずれ込む見通しで、当面は弱点の底板の接ぎ目を止水材で補強し、だましだまし使い続ける。 (清水祐樹)
 タンク内の水は、溶け落ちた原子炉内の核燃料を冷やした後の水。放射性セシウムはおおむね除去されているが、高濃度の放射性ストロンチウムなどが残る。昨年八月には、一基から三百トンの水漏れが発覚し、周辺の土壌や地下水、さらには排水溝を伝って外洋も汚染した。
 東電が調べたところ、五枚の鋼板をボルトでつなぎ合わせた底板の止水材がはがれたことが水漏れの原因と判明。東電は、国からの指示もあり、全てのボルト締め型を溶接型に置き換えることを決めた。
 ただ、溶接型の増設には一基当たり二カ月前後かかる上、増設用地も不足しているため、東電は場所をとる割に容量の少ない小型タンクを撤去し、そこに溶接型を増設していく方針。ボルト締め型タンクを置き換えるだけの容量の余力ができるのは、早くても来年四月半ばになる見込みだ。
 このため東電は、ボルト締め型タンクの弱点である底板を二つの手法を併用して補修し、延命させてしのぐことにした。一つはタンク天板に穴を開け、そこから止水材を塗った鋼材を入れ、底板の接ぎ目にかぶせる方法。もう一つは、底板の接ぎ目とコンクリート基礎のすき間に止水材を注入する方法だ。いずれもタンクに汚染水が入ったままでも作業できるというが、ボルト締め型の根本的な弱点がなくなったわけではない。鋼材をかぶせる手法では、事前に作業員が水中ポンプを使って接ぎ目周辺の沈殿物を掃除する必要がある。高濃度汚染水のすぐ近くでの作業だけに、細心の注意が必要になる。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2014012202000128.html

汚染水タンクを「溶接型」にするということ自体、「反故」にされていく勢いである。ボルト締め型についても「延命」措置をして、「数年」は使うとのこと。これでは、「緊急措置」とすらいえない。ボルト締め型のタンクの場合、「漏水」と「放射線発生」という二重の欠陥をもっている。しかし、そのことは、当面、放置されるのである。本格稼働のめどがたたないALPSの稼働をあてにして…。

このようなことは、他でも見られる。多少、人びとの目が向かなくなったことを好機として、東電・原子力規制委員会・原子力規制委員会は、好き放題なことをしているのである。

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