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もう旧聞になるが、2015年8月11日、九州電力の川内原発が再稼働した。同日、菅義偉官房長官は次のようにコメントしている。

川内原発再稼働、菅官房長官「判断するのは事業者」
 
[東京 11日 ロイター] –
は11日の記者会見で、九州電力(9508.T)の川内原発1号機(鹿児島県薩摩川内市)について「再稼働を判断するのは事業者であり、政府は万が一事故が起きた場合に先頭に立って対応する責任がある」と述べた。川内1号は同日午前10時半に原子炉が再稼働した。

菅長官は、国際原子力機関(IAEA)の基本原則に「安全の一義的責任は許認可取得者にある」と明記されていると指摘。政府は、原子力規制委員会が新規制基準に適合すると認めた場合に、原発の再稼働を進めることを閣議決定していることから、災害の際には国が迅速に対応する責任があると語った。

その上で、「再稼働にあたっては地元の理解が得られるよう丁寧に取り組んでいくことが極めて重要」との見方を示した。http://jp.reuters.com/article/2015/08/11/suga-sendai-nuclear-idJPKCN0QG08U20150811

それ以来、伊方原発他、日本各地の原発再稼働への動きがさかんに報道されている。つい最近は、安倍改造内閣で新規に復興担当大臣となった福井県選出衆議院議員である高木毅が、10月7日の就任記者会見で東北の被災地にある女川原発と福島第二原発を再稼働させることもありうると話している。

「被災地原発 基準適合なら再稼働」 就任会見で高木復興相

2015年10月8日 朝刊(東京新聞)

 高木毅復興相(衆院福井2区)は七日夜の首相官邸での就任記者会見で、東日本大震災で被災した東北三県にある東京電力福島第二原発(福島県楢葉町、富岡町)と東北電力女川原発(宮城県女川町)を再稼働させる可能性について「原子力規制委員会が世界で最も厳しい水準の新規制基準に適合すると認めたもののみ、再稼働を進めるのが政府の一貫した方針で、私もそうした考えだ」と述べた。被災地以外の原発と同様に新規制基準を満たせば、再稼働することもあり得るとの考えを示した。
 安倍政権が進める原発再稼働路線を踏まえた発言。福島第一原発事故で大きな被害を出し、現在も多くの避難者がいる福島などの復興を担う閣僚の発言に対し被災地の住民や野党から批判が出る可能性がある。
 高木氏は原発が数多く立地する福井県選出。自民党では原発の早期再稼働を求める議連の事務局長も務めてきた。
 高木氏は会見で「私の地元は、原発とともに生きてきたといって過言ではない地域。非常に残念な福島の事故が起きてしまったことは、本当に重く受け止めなければならない」とも述べた。
 再稼働の手続きは、女川原発1~3号機のうち2号機のみ規制委の審査中。福島県議会は原発事故後の二〇一一年、福島第二原発の廃炉を求める請願を採択している。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201510/CK2015100802000127.html

これらの報道を見聞きするにつけ、政府側は原子力規制委員会の規制基準に適合するから再稼働を認めるというばかりで、なぜ再稼働が必要なのかということはほとんど言っていないという印象を受ける。菅官房長官にいたっては「再稼働を判断するのは事業者」と言い切っている。しかし、「政府は万が一事故が起きた場合に先頭に立って対応する責任がある」といっている。事故が起きたとき、責任をとるのは、事業者でなくて、政府なのだ。全く割に合わない。

野田政権が2012年に大飯原発の再稼働を決めたときは、電力不足により国民生活・国民経済に支障を来すためと、偽善的ではあったが、とにかく理由を述べて、人々の合意を得ようとしていた。安倍政権における再稼働については、原子力規制委員会により「安全」の保証が得られたというばかりで、人々の合意を得ようとは全くしていないのだ。今でも、半数程度が再稼働に反対という民意が各世論調査で示されているにもかかわらず、だ。

原発再稼働についての問題は重大事故時の安全性の確保だけではない。放射性廃棄物はどう処理するのか、老朽原発はどうするのか、平常の運転時でもまぬがれない労働者の被曝についてどのように対処するのか、いろいろな問題がある。そして、そもそも、汚染水、賠償、除染、避難、廃炉など、福島第一原発事故の処理はどうなっているのだろう。「政府は万が一事故が起きた場合に先頭に立って対応する責任がある」と口ではいうが、実際はこの通りだ。

そういうことすべてに、偽善的な言い訳すらしないのだ。安保法制制定過程でみられた、対話による合意獲得の努力を一切しない安倍政権の姿勢が、再稼働問題でも顕在化しているのである。

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2012年に成立した原子力規制委員会は、2013年に次のような「組織理念」を発表している。

原子力規制委員会の組織理念

平成25年1月9日
原子力規制委員会

原子力規制委員会は、 2011年3月11日に発生した東京電力福島原子力発電所事故の教訓に学び、二度とこのような事故を起こさないために、そして、我が国の原子力規制組織に対する国内外の信頼回復を図り、国民の安全を最優先に、原子力の安全管理を立て直し、真の安全文化を確立すべく、設置された。

原子力にかかわる者はすべからく高い倫理観を持ち、常に世界最高水準の安全を目指さなければならない。

我々は、これを自覚し、たゆまず努力することを誓う。

使命

原子力に対する確かな規制を通じて、人と環境を守ることが原子力規制委員会の使命である。
(後略)
http://www.nsr.go.jp/nra/idea.html

これによると、福島第一原発事故を教訓として、国民の安全を最優先にして、原子力の安全管理を立て直し、真の安全文化を確立することが原子力規制委員会の設置目的であり、常に世界最高水準の安全をめざし、努力しなくてはならないとしている。「原子力に対する確かな規制を通じて、人と環境を守ること」が使命であるとまでされているのである。

この原子力規制委員会が策定し、2013年7月から施行された「実用発電用原子炉に係る新規制基準」(新規制基準と略記)について、同委員会は次のようにサイトで説明している。

新規制基準について
原子力規制委員会は、原子炉等の設計を審査するための新しい基準を作成し、その運用を開始しています。

今回の新規制基準は、東京電力福島第一原子力発電所の事故の反省や国内外からの指摘を踏まえて策定されました。

以前の基準の主な問題点としては、
地震や津波等の大規模な自然災害の対策が不十分であり、また重大事故対策が規制の対象となっていなかったため、十分な対策がなされてこなかったこと
新しく基準を策定しても、既設の原子力施設にさかのぼって適用する法律上の仕組みがなく、最新の基準に適合することが要求されなかったこと
などが挙げられていましたが、今回の新規制基準は、これらの問題点を解消して策定されました。
この新規制基準は原子力施設の設置や運転等の可否を判断するためのものです。しかし、これを満たすことによって絶対的な安全性が確保できるわけではありません。原子力の安全には終わりはなく、常により高いレベルのものを目指し続けていく必要があります。
https://www.nsr.go.jp/activity/regulation/tekigousei/shin_kisei_kijyun.html

新規制基準についての詳細は省略するが、上記の原子力規制委員会の主張によれば、津波・地震の自然対策や重大事故対策がはかられていなかったこと、新しい基準を策定して既設の原発に規制を適用できなかったなどの問題点を解消したものとされている。しかし、これは、「原子力施設の設置や運転等の可否を判断するためのもの」で、「絶対的な安全性」を確保するものではないとしている。いわば、原子力規制委員会が新規制基準が「暫定的」なものでしかないとしているのである。

この「暫定的」な新規制基準で、原発再稼働の審査が現在行なわれている。原子力規制委員会の定義によれば、これは「安全審査」ではなく、「適合性審査」なのである。

この「適合性審査」に川内原発はクリアしたと2014年7月16日に原子力規制委員会は発表した。このことを定例記者会見で発表した原子力規制委員会委員長田中俊一は、記者の質問にこたえて、注目すべき発言をしている。

私は、今はそういう数値だけで議論する、もちろん数値目標は大事ですけれども、そのことで、では国民が納得しているかというと、必ずしもそれはそうではないので、そこのところは、安全目標というのは決して国民と我々が合意して作ってた値ではないということだけは御理解いただかないといけないと思うのです。ただ、我々としては、全ての技術者がそうですけれども、あるレベルの安全性を確保しながらいくという意味で安全目標というのを持ったということで、これは大体、国際的にもそういうふうに思われているところですので、その辺も踏まえて御理解いただければ幸いです。
(中略)
安全審査ではなくて、基準の適合性を審査したということです。ですから、これも再三お答えしていますけれども、基準の適合性は見ていますけれども、安全だということは私は申し上げませんということをいつも、国会でも何でも、何回も答えてきたところです。

http://www.nsr.go.jp/kaiken/data/h26fy/20140716sokkiroku.pdf

田中は、彼らの「安全目標」は国民との合意によって形成されたものではなく、「あるレベルの安全性を確保しながらいく」というものであり、基準の適合性は審査したが、それで安全とは言えないと述べているのである。さらに、別のところでは、次のように話している。

こういったリスクがありますということが分かれば、それに対する対応ができるのですが、一般論として、技術ですから、これで人事で全部尽くしていますと、対策も尽くしていますということは言い切れませんよということです。
ただ、現段階で、いろいろなことを今日も後で私の方からもレクチャーしたように、相当のことを考えてリスクの低減化には努めてきたと、そのつもりではいます。

ゆえに、原子力規制委員会としては、基準の適合性以外は、すべて他者まかせという姿勢をとっている。川内原発の再稼働については、「これも何回も国会でもお答えしているのですけれども、私どもは再稼働をするか、しないかという判断についてはコミットしませんということを申し上げています。稼働を許可するかどうかということについては、もちろん事業者と、それから、地域の住民の方、それから、政府の考えとか、いわゆる関係者の合意で行われるのであって、そのベースとして私どもの審査があるということかと思います」とし、事業者・地域住民・国の合意にすべてまかせている。避難計画についても、「避難計画と再稼働というのは、ある意味では密接に関係はしていますけれども、規制委員会、規制庁がそれの関係をきちっと評価するという立場にはない」と、自身の権限外であることをことさらに強調しているのである。

また、電力会社に安全意識を高めて行くことについては「能力を高めるとか、安全に対する考え方を高めるというのは、事業者は事業者の努力がやはり基本になるのだということだと思います。そういう意味でJANSI(原子力安全推進協会)という組織を作ったので、そういったところを大いに活用して発展してもらって、事業者自身がそういう努力をしていただく必要はあろうかと思います。」と、電力会社側の「自主努力」に委ねるという姿勢をとっているのである。

さらに、防災時に作業員が退避してしまう可能性があることを例にして、事業者=電力会社に規制を守らせる担保はどこにあるのかと記者に質問されて、このように田中は述べている。

○記者 東京新聞のシミズです。これまでも誰が安全の責任をとるのかということは、一義的に事業者だということは再三おっしゃられていて、今回、こういう規制を作って、この規制を事業者が守ればある程度の安全は確保されるだろうということなのですけれども、結局、この規制を最後まで事業者が守るかどうかというのは、どうやって担保されるのでしょうか。要するに、ソフト面で、これは以前も質問があったかも知れないのですけれども、例えば、事故時に最悪の場合、作業をされている方が退避してしまうという可能性がないことはないわけですよね。
○田中委員長 防災のときの事業者の責任については、もう少しこれから確かめていく必要があることは事実です。だけれども、基本的には安全の担保は事業者にあるということも事実です。
○記者 確かめていくというのが、ちょっとよく分からないのですが。
○田中委員長 事故時の被ばく線量とか、そういうことについて、ある程度そういう場合に、事業者に対しては、従業員に対してきちんとそういう約束をしていただくとか、そういうことがいずれ必要になると思っていますけれども、まだそこまで届いていないというところもあります。
○記者 その状態で仮に動かしても、それは今の基準では仕方がないという、そこまで求められないということでしょうか。
○田中委員長 そうですね。そういうふうには私はならないと思いますし、先程も申し上げたような手順を踏んでおいた方が間違いないだろうということはありますけれども、今、そういうことについて、事業者の方から、そういうことがあるとは聞いていませんし、何かそんなことが問題になりそうですか、市村(市村知也 安全規制管理官)さん。ならないよね。

まず、防災の時の安全性確保は事業者側の責任であることを強調し、その際の手順を定めていないことは認めつつも、事業者側からそういうことは聞いていないし、そういうことは問題にならないと言い放っているのである。

そして、政権側が規制委員会が責任をもって安全かいなかをチェックしているのであるから、規制委員会の判断に全てを委ねると発言していると記者から質問されると、田中は次のように答えている。

政治家は政治家の発言がありますので、私から何か申し上げることではないと思っています。私どもは、ゼロリスクということはいつも申し上げられないから、安全というとゼロリスクと誤解されるので、そういうことを申し上げていますけれども、政治的にはわかりやすい意味で安全だということをおっしゃったのかも知れませんし、これは政治家と私の発言とが同じであることは多分ないと思います。

原子力規制委員会の任務は新規制基準の「適合性審査」であって、「安全審査」ではないという田中俊一原子力規制委員長の姿勢は、2014年12月17日に行なわれた高浜原発の「適合性審査」の発表のときにも見られた。この際、次のようなやりとりがなされている。

○記者 ロイターのハマダです。簡潔な質問です。高浜3・4号機の審査書案で両号機は安全と確認されたのでしょうか、そうでないのでしょうか、どちらでしょうか。
○田中委員長 我々の新しい安全要求というか、規制基準に適合しているということを認めたということです。
○記者 それは安全なのでしょうか、安全ではないのでしょうか。
○田中委員長 そういう表現の仕方は私は基本的にとらないと言っています。
○記者 では、安全だということではないということでよろしいですか。
○田中委員長 安全ではないとも言っていません。安全だとも言っていません。
○記者 ○か×かであれば、どちらでしょうか。
○田中委員長 ○か×かという言い方はしません。
http://www.nsr.go.jp/kaiken/data/h26fy/20141217sokkiroku.pdf

そして、再び、このようなことを言っている。

○記者 すみません。朝日新聞のカワダと申します。先程高浜の関係で、安全とも安全ではないとも言わないという話だったのですけれども、先日、安倍首相が会見で、いわゆる規制委が再稼働に求められる安全性を確認した原発については再稼働を進めるという表現をされたのですが、再稼働に求められる安全性というのは確認できたという理解でしょうか。
○田中委員長 言葉遊びになってしまうからね。総理は政治家だから、いろいろなそういう言い方をされますよ。分かりやすくという意味で。でも、私の方は、安全とか安全でないとか、安全が確認されたとか安全でないことが確認されたとかそういう言い方ではなくて、稼働に際して必要な条件を満たしているかどうかということの審査をしたということです。そのことイコール、では事故ゼロかというと、そんなことはないだろうというのは、どんな科学技術でもそういう側面がありますので、そこのところも誤解がないようにということで申し上げているし、逆にそう言ってしまうと、我々自身のワークフィットが典型的ですけれども、そういったことができなくなってしまうということがありますので、そこはやはり少し曖昧かも知れないけれども、そこが非常に大事な考え方だとは思っています。

なんというか…。ここまで田中俊一原子力規制委員会委員長の発言をおってみると、「原子力に対する確かな規制を通じて、人と環境を守ること」を使命とするという組織の長としては、あまりに無責任だと思わざるをえない。田中は、7月16日の会見で新規制基準の安全性は世界において「ほぼ最高レベルに近い」と述べており(ただ、ここでも断言はしていない)、以前よりは基準は厳しく、相対的には安全性は高まったといえる。しかし、田中自身が認めているように、3.11以後、原発への不安が高まった国民との合意によって新規制基準ができたとはいえず、前述したように、これとても絶対的に安全とは田中自身が断言できないものなのである。

もちろん、どんな規制も、現在の知見に依拠した「暫定的」なものでしかないともいえる。その意味で、原子力規制委員会の組織理念のいうように「原子力にかかわる者はすべからく高い倫理観を持ち、常に世界最高水準の安全を目指さなければならない。我々は、これを自覚し、たゆまず努力することを誓う」ことは必要なことだろう。しかし、前述してきたように、その姿勢はみられない。避難計画も電力会社への規制も自身の権限外として放置し、暫定的なものでしかない「新規制基準」がいつのまにか「金科玉条」とされ、その「適合性」のみを審査し、結果としての安全性の確保は等閑視しているのである。

そもそも、「新規制基準」自体が原子力規制委員会が策定したものであり、彼ら自身が見直しできるはずである。しかし、現行の新規制基準を再検討する姿勢はみられない。将来の検討課題にもなっていない。現行の新規制基準以上に安全性を確保することは、事業者=電力会社、自治体、国に丸投げなのである。もちろん、これは、委員長田中俊一の個人だけの問題ではないだろう。新規制基準をより厳しくすれば、田中の立場が危うくなるだろうと考えられる。それでも、田中個人には「辞任」という選択肢はあるだろう。組織理念とは全く違った運営になっているのだから。しかし、田中は、自身の責任は全く等閑視しているのである。

他方で、国は、前述してきたように、安全性の確保は原子力規制委員会の責任としている。安全性確保を組織理念でうたっている原子力規制委員会が絶対的安全は保障できないとし、国は原子力規制委員会が安全性について責任をもつという。両者とも、「権限への逃避」を行なって結果責任を回避しようとしている。それでは、原発の安全性については、どこが責任をもつのだろうか。

まさに、この局面において、丸山真男のいうところの「日本ファシズム支配の厖大なる『無責任の体系』」(『増補版 現代政治の思想と行動』、未来社、1964年)の一端が再現されているといえる。田中俊一の記者会見の速記録を読んでいると、丸山などが記述している東京裁判の被告や証人たちの証言を彷彿させる。ただ、一つ言えるのは、3.11以前には、たぶん、こういう言説を原子力規制当局は発しなかっただろう。彼らは、たぶん、安全性が確保できないと内心思っていても「安全神話」をふりまいていただろう。そういう「安全神話」が消滅した3.11以後、国にしても原子力規制委員会にしても電力会社にしても「危機」に直面しており、その「危機」によって、潜在的には内在していた「無責任の体系」が再び現出しているといえるのではなかろうか。

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さて、先回は、御嶽山噴火によって再びクローズアップされた川内原発の噴火リスクを懸念する声に対し、原子力規制委員長田中俊一が、御嶽山の水蒸気噴火と川内原発で懸念されている周囲の巨大カルデラ火山噴火を同一視するのは「非科学的」であり、そういう場合は「予知」して、原子炉停止や核燃料搬出のような対策がとれるはずとし、さらに、一万年に一回というような巨大カルデラ噴火はここ30-40年間にはこないし、そのような天災を考慮して社会的活動を抑制することはできないと述べたことを紹介した。

より明確に、「安全対策をとっているから大規模噴火でも川内原発は安全である」と国会答弁で主張したのが安倍首相である。まず、次のテレビ朝日のネット配信記事(10月3日配信)をみてほしい。

安倍総理大臣は、鹿児島県の川内原発の再稼働について、桜島などが御嶽山よりはるかに大規模に噴火した場合でも、安全性は確保されていると強調しました。

 民主党・田城郁参院議員:「予知不能であったこの噴火は、自然からの警鐘として受け止めるべき。川内原発の再稼働を強引に推し進める安倍政権の姿勢を認めるわけにはいきません」
 安倍総理大臣:「桜島を含む周辺の火山で今般、御嶽山で発生したよりもはるかに大きい規模の噴火が起こることを前提に、原子炉の安全性が損なわれないことを確認するなど、再稼働に求められる安全性は確保されている」
 安倍総理は、「いかなる事情よりも安全性を最優先させ、世界で最も厳しいレベルの規制基準に適合した」と強調して、川内原発の再稼働に理解を求めました。
http://news.tv-asahi.co.jp/news_politics/articles/000035888.html

確かに、川内原発の安全審査は、従来の桜島噴火以上の規模の噴火を考慮にいれてなされている。しかし、巨大カルデラ火山噴火は、想像を絶する規模のものである。九州電力も、過去の巨大カルデラ噴火で川内原発所在地にまで火砕流が及んだことが三回あった可能性を認めている。この地域における人間社会の存続すら揺るがす規模の巨大カルデラ噴火に対して、原発が安全であるということはできない(もちろん、これは、原発だけの問題ではないが)。田中俊一は、さすがに巨大カルデラ噴火において原発が安全であるとはいっていない。予知できるから対策がとれる、頻度が小さい現象だから、すぐにおきることは想定できないといって言い抜けているのである。

安倍首相の発言は、田中俊一の発言と齟齬している。安倍首相の考える「大規模噴火」は、せいぜいが「桜島噴火」以上の規模のものでしかなく、問題になっている「巨大カルデラ火山噴火」について指していないのである。

これは、どういうことなのであろうか。結論的にいえば、川内原発で対策されている「大規模噴火」と、そもそも運転停止や核燃料搬出などの対策しかとれない「巨大カルデラ噴火」が、意図的にか非意図的にか不明だが、混同されているのである。

一般的には、このような混同は、「無知」であるためと認識され批判される原因となる。統治責任のある首相であればなおのことだ。しかし、レトリックでみると、いろいろ根拠をあげて「合理的」に装おうとしている田中の発話より、根拠をあげずにとにかく「安全」である言い切っている安倍首相の発話のほうが、よりインパクトがあるといえる。昨年のオリンピック誘致時に、あれほど問題が山積していた福島第一原発を、一言で「アンダーコントロール」と述べた時と同様である。安倍首相についていえば「無知は知にまさる」のである。

ただ、これは、安倍政権(安倍首相個人はどうだかわからないが)が何も考えていないということを意味しない。たぶん、宣伝戦略の「知」に基づいているのだろう。ある商品の宣伝にタレントを使う場合、その商品についてタレントが知っている必要はない。むしろ、欠陥も含めた商品の実態に「無知」であるほうが、シナリオに基づいて理想的に語ることができるだろう。そう考えると、いろいろ根拠をあげて「知的」に語ろうとする田中俊一の発話よりも、「安全だから再稼働」ということしかいわない安倍首相が、レトリックの上では「説得的」ともいえる。「無知は知にまさる」としたが、それは、このような宣伝戦略としての「知」に支えられているのである。

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9月27日、長野県・岐阜県の県境にある木曽御嶽山が水蒸気噴火し、登山客を中心にして47人以上(10月4日現在)の犠牲者が出て、戦後最悪の噴火災害となった。

この噴火直前の9月には、火山性地震の増加が観測されていた。今になってみれば、前兆といえるだろう。しかし、結局、噴火予知はなされず、事前の対策はとりえなかった。火山噴火予知の難しさが浮き彫りになったといえる。

そして、この御嶽山噴火によって、川内原発再稼働にも今まで以上に不安の声がなげかけられるようになった。川内原発が所在している南九州は、木曽御嶽山や富士山もおよびもつかない阿蘇カルデラ、加久藤・小林カルデラ(霧島山周辺)、姶良カルデラ(桜島周辺)、阿多カルデラ(開聞岳周辺)、鬼界カルデラ(薩摩硫黄島周辺)と巨大カルデラ火山が5個も存在している。この川内原発周辺の火山噴火のリスクについて、時事新報は2014年7月16日のネット配信記事で次のように伝えている。

巨大噴火「予知困難」=火山学者、審査疑問視-160キロ圏カルデラ五つ・川内原発
※記事などの内容は2014年7月16日掲載時のものです
 原子力規制委員会が審査書案をまとめた九州電力川内原発(鹿児島県)が立地する南九州には、過去に巨大噴火を起こした火山が複数ある。規制委や九電は噴火の兆候を監視すれば対応できるとの立場だが、火山学者からは「予知は困難」と疑問の声が上がっている。
 噴火によって火砕流が原発に到達すれば、設備の損壊や作業員の死傷につながりかねない。降灰でも機器が故障したり、交通網がまひしたりする恐れがある。
 原発の規制基準は半径160キロ圏内の火山を検討対象としている。川内原発では巨大噴火があったことを示すカルデラ(大きなくぼ地)が主なものだけで五つある。九電はうち三つについて、火砕流が川内原発がある場所に達した可能性を認めている。
 規制委はカルデラでマグマの量が増えれば地表付近に変化があるとの前提に立ち、九電に観測場所を増やすよう求めた。
 だが、日本大の高橋正樹教授は「噴火の時期や規模の予測は不可能」と苦言を呈する。
 日本では、巨大噴火は1万年に1回程度の割合で発生している。高橋教授は、前回の巨大噴火は約7300年前で、近い将来再び噴火する可能性も否定できないと話す。  また、東京大地震研究所の中田節也教授は「地震対策で活断層を13万年前までさかのぼって調べるなら、1万年に1回という頻度の巨大噴火対策はより厳しくないといけない」と指摘する。
 規制委の審査では、火山の専門家が九電の対策に直接意見を述べる機会がなかった。首都大学東京の町田洋名誉教授は巨大噴火の発生頻度が低いことを認めつつ、「自然は人の思うようには動かない」と強調。鹿児島大の井村隆介准教授も「近くのカルデラで、既にマグマが多量にたまっている可能性も否定できない」と懸念している。
http://www.jiji.com/jc/graphics?p=ve_soc_energy-genpatsu-sendai20140716j-02-w330

1万年に一回の頻度で起きている九州の巨大カルデラ火山噴火の規模はすさまじい。火砕流は川内原発を含む南九州一帯に及び、火山灰は日本全国に達する。7300年前におきたとされている鬼界カルデラ火山噴火は、南九州の縄文社会を一時途絶させたとされている。おきてしまえばどうしようもないのだが、原子力規制委員会や九州電力は、「予知」した対策を講じることができるとして川内原発再稼働をすすめている。しかし、火山の専門家たちは「予知」は困難であるという懸念を示している。

そんな時におきたのが、御嶽山噴火であった。原子力規制委員長田中俊一は、次のように述べている

原子力規制委員長:「御嶽山と一緒に議論は非科学的」
毎日新聞 2014年10月01日 20時44分(最終更新 10月01日 20時56分)

 御嶽山が大きな予兆なく水蒸気噴火し、原発の噴火リスクが改めて注目されている。再稼働に向けた手続きが進む九州電力川内(せんだい)原発1、2号機(鹿児島県)の噴火対策について、原子力規制委員会の田中俊一委員長は1日の記者会見で「(御嶽山の)水蒸気噴火と、(川内原発で想定される)巨大噴火では起こる現象が違う。一緒に議論するのは非科学的だ」と述べ、審査の妥当性を強調した。

 火山噴火予知連絡会によると、御嶽山の総噴出物は100万トン程度で、小規模噴火と分類した。一方、規制委が考慮する巨大噴火の規模はケタ違いで、噴出物は今回の100万倍に相当し、火砕流は100キロを超える地点まで到達する。もし、運転中の原発を襲えば、対処不能に陥る。

 このため、規制委は、火山の監視を強化し、巨大噴火の兆候が観測されれば原子炉を停止したり、核燃料を搬出したりするなどの対策を取ることにしている。

 九電は、川内原発から半径160キロ以内の14火山を「将来活動性がある」「活動性を否定できない」と評価。たとえ噴火しても「敷地への影響はない」とし、火山灰の影響は、桜島の噴火で敷地内に15センチ積もる場合を想定して対策を講じた。規制委はこれらの結果を妥当と結論づけた。田中委員長は「御嶽山より大きい噴火が起きても影響はないと評価した」と話した。

 しかし、巨大噴火は1万年に1回程度しか起こらず、研究は進んでいない。規制委は火山学者を集めた検討会を作り、観測態勢やどのような現象を噴火の兆候と考えるかの指針作りに着手。検討会で火山学者から「現在の火山学では巨大噴火の予測は困難」「巨大噴火の兆候とする判断基準がない」など疑問の声が相次ぎ、判断基準は今後の検討課題となっている。

 田中委員長は「巨大噴火はここ30年、40年の間に起こるものではない。天災がいつ起きるか分からないので社会的活動をやめてください、という考え方では仕事はできない」と述べた。http://mainichi.jp/select/news/20141002k0000m040102000c.html

田中は、御嶽山の水蒸気噴火と巨大カルデラ火山噴火は現象が違うので、予知できるとしている。しかし、そもそも、一万年に一回程度しかおこらない九州のカルデラ火山噴火については研究が進んでいない。どういう前兆があり、どういうメカニズムで起こるということについて、経験した知見がないのである。御嶽山でも異常現象はあったが、噴火の前兆としては認識されなかった。巨大噴火の際、前兆現象があるかどうかすらわからないが、あったとしても、それが噴火の前兆として認識されるかどうかも不明なのである。

そして、「予知」がなされたとしても、有効な対策をとる時間があるのだろうか。ロイターは、次のような記事をネット配信している。

アングル:予知困難な火山噴火、川内原発再稼動で住民心理に影響も
2014年 09月 29日 19:02

 9月29日、御嶽山が27日に噴火し、多数の犠牲者が出たことで、噴火予知の技術的な能力や態勢面などで困難な要因が山積していることを印象づけた。

 東大地震研究所の中田節也教授は、8月25日に規制委が開いた「原子力施設における火山活動のモニタリングに関する検討チーム」の会合で、「巨大噴火の時期や規模を予測することは、現在の火山学では極めて困難」と指摘した。

中田教授はカルデラ噴火の前兆を捉えることができるとする点については否定しない。同教授は5月下旬、ロイターの取材に対し「数カ月前、数週間前なら確実に異常は捉えられると思う。大きな噴火なら、もうすこし長めに(前兆が)起こると思う」と述べる一方で、「それ(前兆)が数年前に起こるとか、数年前に理解できるものではない」とも語った。

原発施設に高温の火砕流が飛んでくるようなカルデラ噴火が発生するならば、核燃料を原子炉から取り出して火砕流が届かない安全な場所に搬出する必要があるが、数カ月間では終わらない作業だ。

規制委の田中俊一委員長は、核燃料を原子炉から取り出して輸送キャスクに入れて外部に搬出できるまでの期間について「通常の輸送は、5年程度は(川内原発など加圧水型では格納容器横の燃料ピットで)冷やしてから」(9月10日の会見)と述べている。
http://mainichi.jp/select/news/20141002k0000m040102000c.html

東大地震研究所の中田節也は、数ヶ月もしくは数週間前に異常は把握できるだろう、巨大噴火ならばもう少し前からおきるだろうと述べつつも、その前兆そのものを数年前から理解できるというものではないとしている。しかし、核燃料搬出は5年程度冷却しなくてはできないと田中俊一自身が認めている。噴火予知は5年前にしないと間に合わないのだ。

なんらかの前兆があって、5年後に噴火するかもしれないという報告があったとして、その報告がまともにとりあげるのだろうか。福島第一原発の場合でも建設時に想定されているよりも大きな津波が来るという報告があっても、対策はされなかったのである。

九州の巨大カルデラ火山噴火は、人類が九州に居住している限り、深刻なカタストロフィーになるだろう。しかし、川内原発がそれにまきこまれることは、放射性物質汚染をプラスすることになるのだ。その点は、東日本大震災と福島第一原発と同様である。

原子力規制委員長田中俊一は「御嶽山と一緒に議論は非科学的」といった。しかし、そもそも巨大カルデラ火山噴火自体が科学的に研究されていない。現状では、「数年前に予知」するということのほうが非科学的であろう。彼は、「巨大噴火はここ30年、40年の間に起こるものではない。天災がいつ起きるか分からないので社会的活動をやめてください、という考え方では仕事はできない」といった。この言葉が示すように、サイエンスではなくビジネスが問題なのである。

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