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Posts Tagged ‘国連人権理事会’

このブログにおいて、4月29日に安倍首相が欧州外遊に出発した際、「日本と価値観を共有する欧州との関係を強化し、日本の発信力を強化していきたい」と語ったことを紹介した。そして、そもそも、安倍政権は欧州と価値観を共有しているのかと疑念を呈しておいた。

さて、実際、安倍首相は、欧州で、「基本的な価値を共有する国々と、公正なルールの下で競争が確保される大きな経済圏」をつくり上げることを強調した。次に、6日午前(日本時間同日午後)、パリで開かれた経済協力開発機構(OECD)閣僚理事会における安倍首相の基調講演の要旨を伝える時事通信のネット配信記事をかかげておく。

【パリ時事】安倍晋三首相が経済協力開発機構(OECD)閣僚理事会で行った基調講演要旨は次の通り。
 日本は今まさにデフレから脱却しようとしている。大胆な改革を断行する「条件」は整ったとの判断の下、先月消費税率を引き上げた。経済再生、財政再建、社会保障改革の三つを同時に達成する。私は改革を恐れない。
 日本の電力市場を、2020年を目途に完全に競争的な市場へと改革する。再生医療では民間活力を生かす規制改革を実施した。政府主導で大胆な規制改革を先んじて行う国家戦略特区制度も動きだす。さらなる法人税改革を進めていく。
 私の改革リストのトップは、世界のパートナーとの経済連携協定(EPA)交渉加速だ。オーストラリアとはEPAで大筋合意した。環太平洋連携協定(TPP)も最終局面にあり、早期妥結に向けて交渉をさらに加速する。通商の自由、法の支配といった価値の下、活発な経済が復活できる。知的資本がフリーライド(ただ乗り)されてはならない。過酷な労働を強い、環境への負荷を垂れ流すことによって価格競争で優位に立つことがあってはならない。
 基本的な価値を共有する国々と、公正なルールの下で競争が確保される大きな経済圏をつくり上げていく。参加を望む国々を歓迎するが、そのためには新たな経済秩序に賛同してもらう。日・欧州連合(EU)EPAこそ一日も早く成立させるべきだ。
 ロボットによる「新たな産業革命」を起こすマスタープランを早急に作り、成長戦略に盛り込む。イノベーションを起こし続けることが経済成長をけん引する鍵だ。横並び、単線型の教育では斬新な発想は生まれない。労働制度の見直しも進め、女性が輝く社会を創り上げる。能力あふれる外国人に日本でもっと活躍してもらう。誰にでも、何度でもチャンスがある、ベンチャー精神あふれる国へと日本を変えていく。(2014/05/06-18:05)
http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2014050600298

これは、基本的に「アベノミクス」を自画自賛したものである。このなかで、安倍首相は「基本的な価値を共有する国々と、公正なルールの下で競争が確保される大きな経済圏をつくり上げていく。参加を望む国々を歓迎するが、そのためには新たな経済秩序に賛同してもらう。日・欧州連合(EU)EPAこそ一日も早く成立させるべきだ」と主張した。EPAとは経済提携協定のことである。安倍における改革のトップ項目は、世界各国で経済提携協定を結ぶことであり、環太平洋提携協定(TPP)とともに、EUとのEPAを早期に成立させ、「基本的な価値を共有する国々と、公正なルールの下で競争が確保される大きな経済圏」をつくり上げることを強調したのである。

しかし、EUは、日本と「基本的な価値を共有している」と考えているだろうか。他ならぬEPA締結交渉において、EU側は、日本で人権侵害や民主主義に反する事態が起きた場合、EPAを停止するという「人権条項」を要求し、日本側が猛反発していることがつたえられている。次の時事通信のネット配信記事をみてほしい。

EU、日本に「人権条項」要求=侵害なら経済連携協定停止

 【ブリュッセル時事】欧州連合(EU)と日本が、貿易自由化に向けた経済連携協定(EPA)と同時並行で締結交渉を行っている戦略的パートナーシップ協定(SPA)に、日本で人権侵害や民主主義に反する事態が起きた場合、EPAを停止できるとの「人権条項」を設けるようEUが主張していることが5日、分かった。日本は猛反発しており、EPAをめぐる一連の交渉で今後の大きな懸案になりそうだ。
 EU当局者によると、EUはSPAに民主主義の原則や人権、法の支配の尊重を明記し、日本が違反した場合、EUがEPAを停止できる仕組みを盛り込む方針を内部決定した。日本に対しては、EUで人権侵害が起きれば日本もEPAを停止できると説明、理解を求めている。
 経済的利益と引き換えに民主化を迫るのは、開発途上国や新興国に対するEUの基本戦略。人権条項は第三国との協定で「不可欠の要素」とされ、対日SPAも、こうしたEU外交の延長線上にある。ただ、EUは米国との自由貿易協定(FTA)交渉では、SPAのような政治協定の締結を求めていない。
 EU当局者は、日本に対して人権条項が発動される事態は考えにくいと強調するが、EUは日本で死刑が執行されるたびに「死刑は残酷で非人道的だ」と批判する声明を発表している。死刑廃止を目指すEUが日本に働き掛けを強める上で、人権条項が無言の圧力になる可能性はある。
 日本に人権条項をのませておけば、EUが将来中国とFTA交渉を行う場合、人権条項の要求を通しやすくなるとの思惑もあるようだ。 
 日本は、もともと途上国向けの政策を先進7カ国(G7)メンバーの日本に適用しようとするEUの姿勢に憤慨しており、SPAがEPAを拘束する仕組みについても、法的に疑問が残ると主張。日本は外国との貿易自由化でSPAのような協定を結んだ例が過去になく、交渉段階でEUの主張を受け入れても、内閣法制局の審査で問題になる可能性があるとの懸念もEU側に伝えている。(2014/05/05-20:18)
http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2014050500353

時事通信の解説では「経済的利益と引き換えに民主化を迫るのは、開発途上国や新興国に対するEUの基本戦略。人権条項は第三国との協定で「不可欠の要素」とされ、対日SPAも、こうしたEU外交の延長線上にある」とされている。そして、そもそも、アメリカのFTA交渉で人権条項設定をEUは求めていないのである。時事通信は、日本における死刑制度の存在を理由としてあげているが、アメリカもまた、全土ではないにせよ死刑が存続している国である。確かに、死刑制度も「人権条項」設置要求の理由の一つであろうが、それだけではない。そもそも、「人権」という「基本的価値」において、EUはアメリカとは「共有」しているが、日本とは「共有」しているとは考えていないのである。

例えば、国連人権理事会は日本についてさまざまな勧告を行っているが、近年の日本政府は無視する傾向にあることが指摘されている。IWJ Independent Web Journalの次のネット配信記事をみてほしい。

2014/04/22 国連自由権規約の日本審査を前にNGOが共同会見 「日本政府は開き直っている」

 今年7月に行われる国連の自由権規約委員会の日本審査を前に、4月22日(火)、日本の人権問題に取り組むNGOが共同で、事前の記者向けブリーフィングを行った。

 国際人権NGO「ヒューマンライツ・ナウ」事務局長の伊藤和子氏は、ここ何年かの日本政府の特徴について、「開き直って、国連の勧告を実施しなくても良いという態度を鮮明にしている」と指摘。「昨年の拷問禁止委員会では、2008年に出された自由権規約と同じようなものなのに、この勧告には拘束力がないなどと、従う義務は無いという閣議決定をしている。国連の特別報告者が来日しても、個人の見解であり従わないと明確に言っている」と話し、日本政府が人権問題についてお粗末な態度を取り続けていることを紹介した。

 自由人権協会の升味佐江子氏は、昨年12月の臨時国会で可決・成立した特定秘密保護法について、様々な問題点があると指摘する。公安情報の共有という理由で米国に情報が提供できるという条項があったり、戦前戦中の軍機保護法や治安維持法を想起させるような条項も含まれている。また、人権規約19条委員会意見「アクセス権は、市民の権利」に照らしても、特定秘密保護法は問題であると語った。

 政府の持つ情報へのアクセス権の制約についても、「必要最低限でなければいけない。その制限についても法律で決めなければいけない。政府の自由裁量に任せてはいけない」と話し、特定秘密保護法は人権規約19条違反であることを強調した。

 昨年5月21、22日に開かれた国連拷問禁止委員会の場では、日本政府を代表して出席した外務省の上田秀明人権人道大使(当時)が、「シャラップ!(だまれ!)」などと発言したことが波紋を呼んだ。今年7月に開かれる予定の自由権規約委員会は、日本政府が2008年10月以来の報告書審査を受けることになっており、特定秘密保護法やヘイトスピーチ、慰安婦問題、日本の刑事司法問題などに対する政府の見解が注目される。(IWJ・石川優)
http://iwj.co.jp/wj/open/archives/135956

これは、安倍政権が登場する以前から存在する日本政府の傾向を指摘したものだ。そして、安倍政権は、このブログで指摘したように、政権獲得以前の2012年4月に出した自由民主党の「日本国憲法改正案Q&A」増補版において、明確に「西欧の天賦人権説」を否定した。憲法における基本的人権という最も根幹に存在する「価値観」において、自民党は「欧州」とはあえて異なった見解をもっており、その自民党が組織したのが安倍政権なのである。

安倍政権としては、冷戦期、いやもっと古くの明治期における「脱亜入欧」路線にさかのぼって、「欧米」諸国と価値観を共有して一体化していることを強調し、国際的地位を確立させようしているといえる。しかし、実際には、人権において価値観を欧米諸国と共有していないのだ。それは、近年の日本政府全体の動向や、安倍政権の性格からも裏書きされている。結局のところ、EUは、経済連携協定において「人権条項」設置を要求し、日本側は「先進国」に適用するのかと憤慨しているが、これを招いたのは、日本政府総体や安倍政権の「人権」観といえよう。その意味で、安倍首相の「価値共有する経済圏」構想をはばんでいる大きな要因は、欧米の価値と共有しない人権意識をもっている日本政府・安倍政権自体の特質にあるといえよう。そして、このことは、安倍政権のもつ根源的な矛盾の現れなのである。

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12月6日、多くの反対や懸念を押し切って成立した特定秘密保護法案については、国連の人権担当者たちも、大きな懸念を抱いていた。11月22日、国連人権理事会から共に任命された、表現・言論の自由保護の特別報告者フランク・ラ・ルー(グアテマラ出身)と、健康の権利の特別報告者であるアナンド・グローバーは、ジュネーブで特定秘密保護法案について懸念を表明した。国連のサイトに掲載された彼らの意見表明をみておこう。

ジュネーブ(2013年11月22日) – 2名の国連の独立人権専門家は11月22日、国が保有する情報の機密指定に関する根拠と手続きを定める日本の特定秘密保護法案につき、深刻な懸念を表明しました。

表現の自由と健康の権利をそれぞれ担当する国連特別報告者たちは、法案に関する詳しい情報の提供を日本の当局に要請するとともに、その人権基準への適合について懸念があることを明らかにしました。

「透明性は民主的なガバナンスの核心をなす要件のひとつです」。表現の自由を担当するフランク・ラ・ルー特別報告者はこのように述べています。「この法案は、秘密保護について極めて広範かつ曖昧な根拠を定めるだけでなく、内部告発者、さらには機密に関して報道するジャーナリストにとっても深刻な脅威を含んでいると見られます」

ラ・ルー氏は、公務に関する秘密保護が認められるのは、重大な被害が及ぶ危険が実証でき、かつ、その被害が、機密とされた情報の閲覧がもたらす全体的な公益よりも大きい場合だけだという点を強調し、次のように述べました。

「当局が秘密保護の必要性を確認できる例外的な場合でも、当局の決定を独立機関が審査することは不可欠です」

ラ・ルー特別報告者は、情報の漏えいについて法案が定める罰則について、特別の注意を喚起し、「誠意により、公的機関による法律違反や不法行為に関する機密情報を漏らした公務員は、法的制裁から守られるべき」であることを強調しました。

「その他、ジャーナリストや市民社会の代表を含め、それが公益にかなうという信念から、機密情報を受け取ったり、拡散したりした個人も、それによって深刻な被害という差し迫った状況に個人が陥ることがない限り、制裁を受けるべきではありません」。ラ・ルー特別報告者はこのように語りました。

一方、昨年訪日し、福島第一原発事故への対応について調査したアナンド・グローバー 健康への権利に関する特別報告者は、災害時に全面的な透明性を常に確保する必要性を強調し、次のように述べました。「特に大災害の場合には、人々が自分の健康について情報に基づく決定を下せるよう、一貫性があり、かつタイムリーな情報提供をすることが不可欠です」

「日本を含め、ほとんどの民主主義国は、国民の知る権利をはっきりと認識しています。例外的な状況では、国家安全保障の保護に機密性が必要になりうるとしても、人権基準は、最大限の開示という原則を常に公務員の行動指針としなければならないことを定めています」。両特別報告者はこのように発言を締めくくりました。

以上
http://www.unic.or.jp/news_press/info/5737/

ラ・ルーはジャーナリズム擁護の観点から、グローバーは、災害時の情報の透明性を確保しようとする観点から、日本の特定秘密保護法案の問題点を指摘し、両者共に「日本を含め、ほとんどの民主主義国は、国民の知る権利をはっきりと認識しています。例外的な状況では、国家安全保障の保護に機密性が必要になりうるとしても、人権基準は、最大限の開示という原則を常に公務員の行動指針としなければならないことを定めています」としているのである。

民主主義国家においては国民の知る権利を尊重しており、情報の最大限の開示が公務員の行動指針であって、国家安全保障の保護に機密性が必要である場合も、それは例外措置であるということは、安倍政権他、この特定秘密保護法制定を推進した人びとには全く欠けた視点である。そして、見ている範囲では、国連の特別報告者たちの懸念について、安倍政権は全く考慮した形跡はないのである。結局、11月26日には、特定秘密保護法案は、衆議院を通過した。

そして、このような状況は、国連の「懸念」をより深めたと思われる。12月2日には、国連人権保護機関のトップであるピレイ人権高等弁務官が、国内外で懸念がある状況下で成立を急ぐべきではないと記者会見で述べた。朝日新聞が12月3日付で配信した記事をここであげておく。

国連人権高等弁務官「急ぐべきでない」 秘密保護法案
2013年12月3日01時37分

 【ジュネーブ=野島淳】国連の人権保護機関のトップ、ピレイ人権高等弁務官が2日、ジュネーブで記者会見し、安倍政権が進める特定秘密保護法案について「何が秘密を構成するのかなど、いくつかの懸念が十分明確になっていない」と指摘。「国内外で懸念があるなかで、成立を急ぐべきではない」と政府や国会に慎重な審議を促した。

 ピレイ氏は同法案が「政府が不都合な情報を秘密として認定するものだ」としたうえで「日本国憲法や国際人権法で保障されている表現の自由や情報アクセス権への適切な保護措置」が必要だとの認識を示した。

 同法案を巡っては、国連人権理事会が任命する人権に関する専門家も「秘密を特定する根拠が極めて広範囲であいまいだ」として深刻な懸念を示している。

http://www.asahi.com/articles/TKY201312020479.html

さて、さすがに、特定秘密保護法案制定を推進する人びとでも、国連の人権高等弁務官の発言には無関心ではいられなかった。毎日新聞2013年12月06日付東京朝刊に掲載した、自民党内の発言を伝える記事をあげておこう。

◇自民・城内氏「国連人権弁務官に謝罪させよ」

 国会の内外で高まる特定秘密保護法案への反対論に対する自民党内のいら立ちが5日朝、党本部で開かれた外交・国防合同部会で噴き出した。矛先が向けられたのは「『秘密』の定義が十分明確ではない」と特定秘密保護法案に懸念を表明した国連の人権部門のトップ、ピレイ国連人権高等弁務官。

 「なぜこのような事実誤認の発言をしたのか、調べて回答させるべきだ。場合によっては謝罪や罷免(要求)、分担金の凍結ぐらいやってもいい」。安倍晋三首相に近い城内実外交部会長は怒りをぶちまけた。ピレイ氏は2日の記者会見で「表現の自由に対する適切な保護措置を設けず、法整備を急ぐべきではない」とも語っており、議員からは「そもそも内政干渉」「弁務官という立場は失格だ」などと強硬意見が相次いだ。

 5日の合同部会は、中国の防空識別圏を中心に議論する予定だったが、党側の意向で急きょ議題に加わった。国連では従軍慰安婦問題で日本批判がたびたび持ち上がり、自民党を刺激してきた経緯もある。中堅議員は「従軍慰安婦問題でも『日本はけしからん』と検証せず発言することが少なくない」と日ごろの鬱憤を晴らした。

 国連総会が指名する弁務官への罷免要求は現実的ではない。発言を理由に分担金をカットするのも先進国の対応としてはありえない。議論は終始、脱線気味だった。
http://mainichi.jp/shimen/news/20131206ddm005010074000c.html

この中で、自民党の外交部会長をしている衆議院議員城内実は人権高等弁務官の発言を「事実誤認」としている。そればかりか、謝罪や罷免を国連に要求し、さらには国連分担金の凍結まで主張しているのである。その他の議員たちも、「内政干渉だ」とか「弁務官という立場では失格だ」とか、同様の発言をしているようである。この記事でも書かれているように、国連総会で指名した高等弁務官に罷免要求することは現実的ではないし、このような発言を理由に分担金をカットするのも先進国の対応ではありえないのだが…。これが、特定秘密保護法案を推進する人びとの感覚なのである。

そして、これは、単に安倍政権だからということではない。刑事訴訟・ヘイトスピーチ禁止・福島の健康被害など、たびたび日本政府は国連より人権上の問題点を指摘されているが、その多くにまとも答えようとはしていないのである。そして、5月22日には、日本の「人権大使」が国連の拷問禁止委員会の対日審査の席上で「笑うな、黙れ」と発言する事態が起きている。産經新聞のネット配信記事から、この状況をみてみよう。

国連で「シャラップ」日本の人権大使、場内の嘲笑に叫ぶ
2013.6.14 08:14 [外交]
 国連の人権条約に基づく拷問禁止委員会の対日審査が行われた5月22日、日本の上田秀明・人権人道担当大使が英語で「黙れ」を意味する「シャラップ」と大声で発言していたことが13日までに分かった。「シャラップ」は、公の場では非礼に当たる表現。

 日本の非政府組織(NGO)によると、対日審査では拷問禁止委の委員から「日本の刑事司法制度は自白に頼りすぎており、中世のようだ」との指摘が出た。上田大使は「日本の人権状況は先進的だ。中世のようではない」と反論したところ、場内から笑いが起き、上田大使は「何がおかしい。黙れ」と大声を張り上げたという。

 委員会は、警察や国家権力による拷問や非人道的な扱いを禁止する拷問禁止条約に基づき1988年に設置された。国連加盟国の審査を担当し、対日審査は2007年に続き2回目。前回審査でも日本政府側から「(委員は)日本の敵だ」との発言が出たという。(共同)
http://sankei.jp.msn.com/world/news/130614/erp13061408180002-n1.htm

国内の選挙民たちを相手にする国会議員だけでなく、ある意味では国外のいろんな発言に冷静に対応しなくてはならない外交官ですら、この始末である。このような、ゆがんだ「先進国」意識を外して考えると、結局のところ、日本は「人権小国」でしかない。そして、そのことを指摘されると、国連であろうとなんだろうと激昂するというのが、現在この国を「統治」している人たちのレベルなのである。

それにしても、前のブログでアメリカ国務省のハーフ副報道官が、特定秘密保護法成立を「歓迎」するとともに、その内容については「懸念」を示していることを紹介した。この人たちは、アメリカ国務省には「抗議」をするのだろうか。知りたいものである。

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前回のブログで、国連人権理事会で福島住民の健康問題が人権問題として提起され、特別助言者アナンド・グローバー氏が調査し、11月26日に記者会見して、そのことについて、朝日新聞は27日付朝刊で「福島の健康調査「不十分」 国連人権理事会の助言者が指摘」という見出しで報じたことを伝えた。

ある方の紹介で、グローバー氏の記者会見の「プレス・ステートメント」が国際連合広報センターに掲載されていることを知った。http://unic.or.jp/unic/press_release/2869/がそれである。

また、自分自身でもサイトを検索して、日本記者クラブで26日付で行ったグローバー氏の記者会見の動画を発見した。参考のために、動画をこのブログでもここでアップしておく。1時間以上もある長い動画だが、最後の記者との質疑以外は、ほとんど「プレス・ステートメント」と同じである。ここで、特に断らない限り、引用は「プレス・ステートメント」から行う。

内容についていえば、「福島の健康調査「不十分」」というようなレベルではない。鄭重な言い回しのため、誤解される場合もあるかもしれないが、現時点で日本政府が福島で行っている住民対策の包括的かつ全面的批判なのである。

まず、グローバー氏は、調査に協力した日本政府・東電・住民などに感謝するとしながら、彼の目的を「達成可能な最高水準の心身の健康を享受する権利(「健康を享受する権利」)に関する国連人権理事会特別報告者としてのミッション」であり、「対話と協力の精神を胸に、日本がいかに健康を享受する権利を実行しようと努めているか把握し、それを首尾よく実現させるための方策並びに立ちはだかる障害について理解することです」と説明している。福島第一原発事故後、「健康を享受する権利」について日本がどのようなことを行っており、どのような障害をもっているかを理解することなのだとしている。つまり、声高に批判することはグローバー氏の目的ではないことを強調しているといえよう。

しかし、その内容は、日本政府が福島の住民に行っている対策総体を批判するものなのだ。朝日新聞には全く報道されていないが、グローバー氏は、福島第一原発事故以前の状態から言及している。

原子力発電所で事故が発生した場合の災害管理計画について近隣住民が把握していなかったのは残念なことです。実際、福島県双葉町の住民の方々は、1991 年に締結された安全協定により、東京電力の原子力発電所は安全であり、原発事故が発生するはずなどないと信じてきたのです。

独立した立場からの原子力発電所の調査、モニタリングの実施を目指し、原子力規制委員会を設立した日本政府は賞賛に値します。これにより、従来の規制枠組みに見られた「断層」、すなわち、原子力発電所の独立性と効果的なモニタリング体制の欠如ならびに、規制当局の透明性と説明責任の欠如への対応を図ることが可能になります。こうしたプロセスは強く望まれるものであり、国会の東京電力福島原子力発電所事故調査委員会の報告でも提言されています。従って、原子力規制委員会の委員長や委員は、独立性を保つだけでなく、独立性を保っていると見られることも重要です。この点については、現委員の利害の対立を開示するという方策が定着しています。日本政府に対して、こうした手順を出来るだけ早急に導入することを要請いたします。それにより、精査プロセスの独立性に関する信頼性を構築しやすくなるでしょう。

つまり、そもそも、原発事故などないと住民に信じ込ませてきたことが間違いなのだといっている。後半では原子力規制委員会設置を評価しているのだが、「従来の規制枠組みに見られた「断層」、すなわち、原子力発電所の独立性と効果的なモニタリング体制の欠如ならびに、規制当局の透明性と説明責任の欠如への対応を図ることが可能になります。」という、従来の対応を批判した上での評価であるといえる。しかも「従って、原子力規制委員会の委員長や委員は、独立性を保つだけでなく、独立性を保っていると見られることも重要です。この点については、現委員の利害の対立を開示するという方策が定着しています。日本政府に対して、こうした手順を出来るだけ早急に導入することを要請いたします。」といっている。つまり、現状の原子力規制委員会の議事公開が十分ではないので、その是正をはかることを婉曲な形で要請しているといえるのだ。

そして、原発事故においてヨウ素剤を配布しなかったこと、SPEEDIなどの情報が公開されなかったことに言及する。これは、さんざん日本国内でも言われてきたことであるが、国際的な観点でも批判されるべきことであることが確認できたといえよう。

原発事故の直後には、放射性ヨウ素の取り込みを防止して甲状腺ガンのリスクを低減するために、被ばくした近隣住民の方々に安定ヨウ素剤を配布するというのが常套手段です。私は、日本政府が被害にあわれた住民の方々に安定ヨウ素剤に関する指示を出さず、配布もしなかったことを残念に思います。にもかかわらず、一部の市町村は独自にケースバイケースで安定ヨウ素剤を配布しました。

災害、なかでも原発事故のような人災が発生した場合、政府の信頼性が問われます。従って、政府が正確な情報を提供して、住民を汚染地域から避難させることが極めて重要です。しかし、残念ながらSPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)による放射線量の情報および放射性プルームの動きが直ちに公表されることはありませんでした。さらに避難対象区域は、実際の放射線量ではなく、災害現場からの距離および放射性プルームの到達範囲に基づいて設定されました。従って、当初の避難区域はホットスポットを無視したものでした。

さらに、避難区域の基準が年間20mSvとされたことを強く批判している。

これに加えて、日本政府は、避難区域の指定に年間20 mSv という基準値を使用しました。これは、年間20 mSv までの実効線量は安全であるという形で伝えられました。また、学校で配布された副読本などの様々な政府刊行物において、年間100 mSv 以下の放射線被ばくが、がんに直接的につながるリスクであることを示す明確な証拠はない、と発表することで状況はさらに悪化したのです。

年間20 mSv という基準値は、1972 年に定められた原子力業界安全規制の数字と大きな差があります。原子力発電所の作業従事者の被ばく限度(管理区域内)は年間20 mSv(年間50 mSv/年を超えてはならない)、5 年間で累計100mSv、と法律に定められています。3 ヶ月間で放射線量が1.3 mSv に達する管理区域への一般市民の立ち入りは禁じられており、作業員は当該地域での飲食、睡眠も禁止されています。また、被ばく線量が年間2mSv を超える管理区域への妊婦の立ち入りも禁じられています。

ここで思い出していただきたいのは、チェルノブイリ事故の際、強制移住の基準値は、土壌汚染レベルとは別に、年間5 mSv 以上であったという点です。また、多くの疫学研究において、年間100 mSv を下回る低線量放射線でもガンその他の疾患が発生する可能性がある、という指摘がなされています。研究によれば、疾患の発症に下限となる放射線基準値はないのです。

残念ながら、政府が定めた現行の限界値と、国内の業界安全規制で定められた限界値、チェルノブイリ事故時に用いられた放射線量の限界値、そして、疫学研究の知見との間には一貫性がありません。これが多くの地元住民の間に混乱を招き、政府発表のデータや方針に対する疑念が高まることにつながっているのです。

もう一度、確認しておこう。年間20mSvという基準は、そこに就労することで賃金を得られる原発労働者の基準であり、何の利益もない一般住民の基準ではない。3ヶ月で1.3mSv放射線を被曝する場所に一般市民の立入りは禁じられている。妊婦の場合は、年間2mSvをこえる場所には立ち入れない。年間20mSvというのは、一般市民の基準ではないのである。そして、グローバー氏は、チェルノブイリの避難基準でも年間5mSvであったことを指摘している。

その上で、グローバー氏は、年間100mSv以下では衛生上問題ないとする政府の宣伝を「多くの疫学研究において、年間100 mSv を下回る低線量放射線でもガンその他の疾患が発生する可能性がある、という指摘がなされています。研究によれば、疾患の発症に下限となる放射線基準値はないのです。」として批判している。

これらの点も、すでに国内で強く主張されてきたことであった。グローバー氏の指摘は、それらの主張を追認するものである。

加えて、グローバー氏は、福島県内の放射線調査、健康調査が不十分であること指摘する。

これに輪をかけて、放射線モニタリングステーションが、監視区域に近接する区域の様々な放射線量レベルを反映していないという事実が挙げられます。その結果、地元住民の方々は、近隣地域の放射線量のモニタリングを自ら行なっているのです。訪問中、私はそうした差異を示す多くのデータを見せてもらいました。こうした状況において、私は日本政府に対して、住民が測定したものも含め、全ての有効な独立データを取り入れ、公にすることを要請いたします。

健康を享受する権利に照らして、日本政府は、全体的かつ包括的なスクリーニングを通じて、放射線汚染区域における、放射線による健康への影響をモニタリングし、適切な処置をとるべきです。この点に関しては、日本政府はすでに健康管理調査を実施しています。これはよいのですが、同調査の対象は、福島県民および災害発生時に福島県を訪れていた人々に限られています。そこで私は、日本政府に対して、健康調査を放射線汚染区域全体において実施することを要請いたします。これに関連して、福島県の健康管理調査の質問回答率は、わずか23%あまりと、大変低い数値でした。また、健康管理調査は、子どもを対象とした甲状腺検査、全体的な健康診査、メンタル面や生活習慣に関する調査、妊産婦に関する調査に限られています。残念ながら、調査範囲が狭いのです。これは、チェルノブイリ事故から限られた教訓しか活用しておらず、また、低線量放射線地域、例えば、年間100 mSv を下回る地域でさえも、ガンその他の疾患の可能性があることを指摘する疫学研究を無視しているためです。健康を享受する権利の枠組みに従い、日本政府に対して、慎重に慎重を重ねた対応をとること、また、包括的な調査を実施し、長時間かけて内部被ばくの調査とモニタリングを行うよう推奨いたします。

放射線モニタリングステーションの数値がいかに実態とかけ離れているか、そして、住民自身が放射線測定に乗り出さなくてはならないことか、このこともさんざん国内で伝えられてきている。

そして、健康調査が、ほぼ福島県民に限られ、質問会回答率も23%と低く、質問項目も限定されていることを批判している。結局、それは、チェルノブイリ事故の教訓を取り入れず、低線量被ばくによる健康障害の可能性を考慮しないためだとしているのである。

特に、グローバー氏は、次の点を強調している。

自分の子どもが甲状腺検査を受け、基準値を下回る程度の大きさの嚢胞(のうほう)や結節の疑いがある、という診断を受けた住民からの報告に、私は懸念を抱いています。検査後、ご両親は二次検査を受けることもできず、要求しても診断書も受け取れませんでした。事実上、自分たちの医療記録にアクセスする権利を否定されたのです。残念なことに、これらの文書を入手するために煩雑な情報開示請求の手続きが必要なのです。

これは、すでに福島県の児童を対象とした甲状腺検査において40%以上の甲状腺異常の児童が発見されたことを前提にしていると考えられる。基準以下の甲状腺異常の児童においては、二次検査も受けられず、診断書でさえ情報公開請求しなければ受取れないのである。グローバー氏は「事実上、自分たちの医療記録にアクセスする権利を否定されたのです」と指摘しているのである。

グローバー氏は、原発労働者の多くが下請けで短期雇用のため、健康調査を受けられないことを指摘している。これも、すでに、日本国内で指摘されていることだ。

政府は、原子力発電所作業員の放射線による影響のモニタリングについても、特に注意を払う必要があります。一部の作業員は、極めて高濃度の放射線に被ばくしました。何重もの下請け会社を介在して、大量の派遣作業員を雇用しているということを知り、心が痛みました。その多くが短期雇用で、雇用契約終了後に長期的な健康モニタリングが行われることはありません。日本政府に対して、この点に目を背けることなく、放射線に被ばくした作業員全員に対してモニタリングや治療を施すよう要請いたします。

グローバー氏の批判は、狭義の放射線対策だけにとどまらない。避難所の不十分さについても、このように指摘している。

日本政府は、避難者の方々に対して、一時避難施設あるいは補助金支給住宅施設を用意しています。これはよいのですが、 住民の方々によれば、緊急避難センターは、障がい者向けにバリアフリー環境が整っておらず、また、女性や小さな子どもが利用することに配慮したものでもありませんでした。悲しいことに、原発事故発生後に住民の方々が避難した際、家族が別々にならなければならず、夫と母子、およびお年寄りが離れ離れになってしまう事態につながりました。これが、互いの不調和、不和を招き、離婚に至るケースすらありました。苦しみや、精神面での不安につながったのです。日本政府は、これらの重要な課題を早急に解決しなければなりません。

さらに、食品の安全規制や除染のあり方についても、グローバー氏はこのように指摘している。

食品の放射線汚染は、長期的な問題です。日本政府が食品安全基準値を1kgあたり500 Bq から100 Bq に引き下げたことは称賛に値します。しかし、各5県ではこれよりも低い水準値を設定しています。さらに、住民はこの基準の導入について不安を募らせています。日本政府は、早急に食品安全の施行を強化すべきです。

また、日本政府は、土壌汚染への対応を進めています。長期的目標として汚染レベルが年間20 mSv 未満の地域の放射線レベルは1mSv まで引き下げる、また、年間20~50 mSv の地域については、2013 年末までに年間20 mSv 未満に引き下げる、という具体的政策目標を掲げています。ただ、ここでも残念なのは、現在の放射線レベルが年間20 mSv 未満の地域で年間1mSv まで引き下げるという目標について、具体的なスケジュールが決まっていないという点です。更に、他の地域については、汚染除去レベル目標は、年間1 mSv を大きく上回る数値に設定されています。住民は、安全で健康的な環境で暮らす権利があります。従って、日本政府に対して、他の地域について放射線レベルを年間1mSv に引き下げる、明確なスケジュール、指標、ベンチマークを定めた汚染除去活動計画を導入することを要請いたします。汚染除去の実施に際しては、専用の作業員を雇用し、作業員の手で実施される予定であることを知り、結構なことであると思いました。しかし、一部の汚染除去作業が、住人自身の手で、しかも適切な設備や放射線被ばくに伴う悪影響に関する情報も無く行われているのは残念なことです。

除染については、20mSv以上の放射線量レベルの土地は20mSv未満に下げるとしか決まっておらず、現状年間20mSv未満の土地では年間1mSvに下げるスケジュールが決まっていないと指摘し、特に、十分な準備もなく一部の住民が除染作業をしていることについて警告を発している。

その上で、グローバー氏は、経済的支援を前提にした上で、避難か帰宅か、避難者が自分の意志で判断すべきとした。

また、日本政府は、全ての避難者に対して、経済的支援や補助金を継続または復活させ、避難するのか、それとも自宅に戻るのか、どちらを希望するか、避難者が自分の意志で判断できるようにするべきです。これは、日本政府の計画に対する避難者の信頼構築にもつながります。

グローバー氏は、東電の賠償において国税が使われる可能性があるのに、東電は説明責任をはたしていないことも述べている。

訪問中、多くの人々が、東京電力は、原発事故の責任に対する説明義務を果たしていないことへの懸念を示しました。日本政府が東京電力株式の大多数を所有していること、これは突き詰めれば、納税者がつけを払わされる可能性があるということでもあります。健康を享受する権利の枠組みにおいては、訴訟にもつながる誤った行為に関わる責任者の説明責任を定めています。従って、日本政府は、東京電力も説明責任があることを明確にし、納税者が最終的な責任を負わされることのないようにしなければなりません。

そして、最後に、福島第一原発事故の被災者、特にその中の社会的弱者自身を、健康調査・避難所設計・除染実施などを中心にした意思決定・実行・モニタリング・説明責任プロセスに参加させることを求めている。これは、日本国内で明示的にはあまり主張されてこなかったことといえる。現実には、ここでも述べられているように、住民自らの手で放射線測定などがなされている。しかし、一度、行政側が「住民参加」というと、町内会を通じての除染活動のように、一方的に負担が押しつけられることになりやすい。そういうことではなく、グローバー氏は、被災者住民自身がそういったことの意志決定プロセスに参加する必要性を強調している。

訪問中、被害にあわれた住民の方々、特に、障がい者、若い母親、妊婦、子ども、お年寄りなどの方々から、自分たちに影響がおよぶ決定に対して発言権がない、という言葉を耳にしました。健康を享受する権利の枠組みにおいては、地域に影響がおよぶ決定に際して、そうした影響がおよぶすべての地域が決定プロセスに参加するよう、国に求めています。つまり、今回被害にあわれた人々は、意思決定プロセス、さらには実行、モニタリング、説明責任プロセスにも参加する必要があるということです。こうした参加を通じて、決定事項が全体に伝わるだけではなく、被害にあった地域の政府に対する信頼強化にもつながるのです。これは、効率的に災害からの復興を成し遂げるためにも必要であると思われます。

日本政府に対して、被害に合われた人々、特に社会的弱者を、すべての意思決定プロセスに十分に参加してもらうよう要請いたします。こうしたプロセスには、健康管理調査の策定、避難所の設計、汚染除去の実施等に関する参加などが挙げられるでしょう。

この点について、「東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律」が2012 年6 月に制定されたことを歓迎します。この法律は、原子力事故により影響を受けた人々の支援およびケアに関する枠組みを定めたものです。同法はまだ施行されておらず、私は日本政府に対して、同法を早急に施行する方策を講じることを要請いたします。これは日本政府にとって、社会低弱者を含む、被害を受けた地域が十分に参加する形で基本方針や関連規制の枠組みを定める、よい機会になるでしょう。

そして、記者会見における質疑の中で、グローバー氏は、「専門家の人たちだけなく地域社会の人がかかわってすべてのことをしなくては駄目だ。他の国でもよくあることで、意図してのことではないが、政府は専門家だけで決めようとしがちである。しかし、それでは十分ではない。専門家というのは一部のある事象しかわかっているにすぎず、コミュニティ全体がかかわっていくことでよりよい結果が得られる」と述べ、このことを日本政府側に伝えたとした(なお、この質疑内容は記者会見の動画からおこしたものであり、原文そのままではない)。そして、低線量被ばくの影響については否定する見方と肯定する見方があるが、政府はどちらが正しいとすべきではなく、用心深い立場で何事も排他せず包括的に物事を進めるべきとした。最後に、チェルノブイリ事故では3年間情報が秘匿されておりよい例ではないとしながら「民主的な国である日本で起ったからこそ、すべての調査、すべてのプロセスに地域社会をかみあわせていかねばならない。それがあってこそ、徹底的で、オープンで、包括的で、科学的な調査が行われるべきものであろう」と述べた。

非常に鄭重で、日本政府の立場を傷つけないようにとする配慮に満ち満ちていたが、グローバー氏の主張は、福島第一原発事故における住民対策総体を、事故以前にまでさかのぼって包括的に批判しているものといえよう。グローバー氏の批判点は、日本国内でも批判されているものが多いが、それら日本国内での批判が、国際的な立場からも正当化されるものであることを示した点は重要であるといえる。特に、グローバー氏が強調していることは、福島原発事故後の健康対策が、100mSv未満は健康に影響がないとする一部の専門家に依拠して行われ、住民の主体性を排除していることである。その上で、グローバー氏は、経済的援助を前提に避難か帰宅かを選択する権利が住民に認められるべきであるとし、さらに、健康調査・避難所設計・除染などのすべての意思決定プロセスに、社会的弱者を含んだ被災者住民が参加することを主張したのである。このことは、今すぐ取り入れなくてはならない「提案」といえるのである。

グローバー氏の記者会見の最後で、「民主的な国である日本で起ったからこそ、すべての調査、すべてのプロセスに地域社会をかみあわせていかねばならない。それがあってこそ、徹底的で、オープンで、包括的で、科学的な調査が行われるべきものであろう」と「希望」したくだりを聞いた時、恥ずかしくてたまらなかった。彼は、国連側の人間であり、日本政府を批判するためにきたわけではないので、当然そのような言い回しをするだろう。しかし、本当に可能なのか。今、暗澹として、日本の現状をかえりみざるをえない。しかし、逆にいえば、グローバー氏のいうような調査・医療が被災地で行われることこそ、日本が真に民主主義の下にある証になるだろうといえる。

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