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2015年5月15日、台湾は、日本産食品の規制を強化した。まず、そのことを伝える朝日新聞のネット配信記事をみておこう。

台湾、日本食品の規制強化開始 日本政府は提訴も検討
台北=鵜飼啓2015年5月15日17時47分

 台湾は15日、日本産食品の輸入に都道府県別の産地証明を義務づけるなどの規制強化を始めた。日本政府は撤回を求めている。ただ、台湾はこれまでも必要だった輸出関連書類の記載を「証明」として扱うことを決めたため、影響は限定的になりそうだ。

 規制強化は福島第一原子力発電所の事故に関連したもので、東京産の水産物など一部地域の特定品目については放射性物質の検査証明を添付するよう義務づけた。15日以降に日本から出荷されるものが対象で、台湾に空輸される生鮮食品などにまず適用される。

 台湾は原発事故後、福島など5県で生産・製造された食品の輸入を全面的に禁止してきた。だが、3月にこの5県の産品が、産地が明示されずに台湾に入っていたことが発覚し、規制強化を決めた。

 これに対し、日本側は「表示問題と規制強化は別。科学的根拠がない」と猛反発。台湾は日本政府や地方自治体の公的な産地証明を求めたが、日本側は証明書の様式などの話し合いに応じていなかった。

 このため、台湾は14日、一次産品については日本からの輸出にもともと必要な検疫証明にある都道府県記載を「証明」として受け入れると発表。加工食品については、商工会議所の証明書に都道府県を注記すれば良いとした。日系食品メーカーによるとすでにこうした対応は始まっており、規制強化後も大きな混乱はなさそうだという。

 放射性物質の検査については既定方針通りに行われる。保存の難しい生鮮水産物などは対象地域からの輸出は難しくなりそうだ。(台北=鵜飼啓)

■農水相「WTO提訴も含め検討」

 台湾が日本産食品の輸入規制強化に踏み切ったことについて、林芳正農林水産相は15日、閣議後会見で「科学的根拠に基づいて輸入規制の撤廃緩和を強く求めていく」と述べ、引き続き撤回を求めていく方針を強調した。その上で、進展がみられない場合には「WTOの提訴も含めて検討していきたい」と語った。

 林氏は台湾の規制強化を「科学的根拠に基づかない一方的な措置」と批判。「具体的な事実関係の説明がない中で行われたということで極めて遺憾」と不満をあらわにした。

 一部の産地と品目が放射性物質の検査対象とされたことについては、「証明書を作成、発行するには時間と経費がかかる」と懸念を表明。「どういう影響があるのか注視していきたい」と述べた。

 農林水産省によると、台湾は香港、米国に次ぐ日本産の農林水産物・食品の輸出先で、2014年の輸出額は約837億円。
http://www.asahi.com/articles/ASH5G7RDTH5GUHBI039.html

3.11以後、台湾は、顕著な放射能汚染がみられた福島・茨城・栃木・群馬・千葉県で生産・製造された食品を輸入禁止にしていたが、3月にこれらの県で製造された食品が産地を偽って輸入されていたとして、都道府県別の産地証明書をつける、一部品目の放射能検査を義務づけるなどの規制強化に乗り出したのである。一方、日本政府は「表示問題と規制強化は別。科学的根拠がない」として反発し、WTOへの提訴も含めて撤回を求めていく方針をあきらかにしたのである。

それでは、もともとの「産地偽装」とは、どのようなものだったのだろうか。3月25日に配信した朝日新聞のネット配信記事をみておこう。

台湾で日本食品回収騒ぎ 輸入業者が産地偽装か
台北=鵜飼啓2015年3月25日18時34分

 台湾で、東京電力福島第一原子力発電所事故後に輸入が禁止された日本産食品が輸入されていたとして回収騒ぎになっている。台湾は今も福島など5県でつくられた食品の輸入を全面的に禁じているが、業者が産地表示を変えて持ち込んだ疑いがあるという。

 食品薬物管理署が24日、発表した。問題になっているのはカップ麺や飲料など283品。製品に記載された記号から生産工場を調べたところ、輸入を禁じている福島、茨城、栃木、群馬、千葉の5県で生産されたことが分かったという。輸出用の中国語ラベルには、東京や大阪など食品メーカーの本社所在地とみられる場所が記載されていた。

 台湾では日本産食品が人気で、メーカーと無関係の業者が独自に輸入しているケースも多い。日本の窓口機関、交流協会はこれまでも、「日本は厳しいモニタリング制度があり、国内で流通している食品は安全」として、台湾側に輸入解禁を働きかけている。(台北=鵜飼啓)
http://www.asahi.com/articles/ASH3T56JSH3TUHBI01X.html

283品目にも及ぶ加工食品が「産地偽装」とされたのである。基本的には、この5県に所在する工場で製造された食品が、本社所在地などで生産されたように中国語ラベルに記載されていたというのである。朝日新聞のこの報道では、日本の食品メーカーではなく、台湾側の輸入業者側に責任があるようなことを示唆している(本当かどうかはわからないが)。

それにしても、どのような食品が「産地偽装」されたのであろうか。台湾側がリストを出しているので、次に掲載しておこう。

産地偽装が指摘された日本産食品リスト1

産地偽装が指摘された日本産食品リスト1

産地偽装が指摘された日本産食品リスト2

産地偽装が指摘された日本産食品リスト2

産地偽装が指摘された日本産食品リスト3

産地偽装が指摘された日本産食品リスト3

産地偽装が指摘された日本産食品リスト4

産地偽装が指摘された日本産食品リスト4

産地偽装が指摘された日本産食品リスト5

産地偽装が指摘された日本産食品リスト5

(http://www.mohw.gov.tw/MOHW_Upload/doc/%E9%99%84%E4%BB%B6%E4%B8%80_0048810002.pdfより)

本ブログの写真は少し読みにくいので、可能なら上記のサイトでみてほしい。最初が明星海鮮ラーメン、次が日清天ぷら粉、その次が日清お好み焼き粉、その次がヱスビーのカレー……、最後がエバラの焼き肉のたれで終っている。ほとんどが日本を代表する食品メーカーの一般的な製品で、日本社会ならば、一日どれかを摂取しているだろう。あまり考えてこなかったが、日本社会では、3.11直後放射線量が高かった福島・茨城・栃木・群馬・千葉県で生産・製造された食品をあたりまえのように飲食していたのである。しかし、このような地域で製造・生産された食品は、台湾では輸入禁止になっているのだ。日本の「あたりまえ」は、世界では「あたりまえ」でないのだ。このことについて……怒るべきか、笑うべきか、微妙な気持ちになってしまう。そもそも、日本政府は、日本列島に住む人々(国籍の有無にかかわらず)の健康保全を第一に考えているのだろうか。

確かに、日本の「あたりまえ」からいえば、自然の中で生産される農水産物と、ある程度環境を操作できる工場内の加工食品はわけて考えるべきかもしれない。しかし、それだからといって「産地偽装」が許されるわけではない。これは、「科学的根拠」以前の法や倫理の問題である。この「産地偽装」に日本側が直接関与しなかったとしても、やはり遺憾なことであり、台湾側の対策に積極的に協力しなくてはならないだろう。そもそも、商品表示が信用できないならば、商取引における等価性は担保されないのである。規制緩和以前の問題である。そのことを放置したまま、日本政府がWTO提訴などいろいろ手を尽くして、台湾に規制緩和措置を強制させることに成功したとしても、逆にそのことによって、日本産食品にとどまらない日本製品全体の不買につながってしまうかもしれないのである。

日本政府は、日本列島に住む人々に対して日本産の食品はすべて安全であり、放射能汚染への恐怖から買い控えることは「風評被害」になるのだと宣伝してきた。このようなことが台湾のような外国で通用するわけはないのである。そして、台湾の今回の反応は、日本社会の危機を客観的に見直す視座を提起しているのだと思う。

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さて、ここでは、千葉県北西部や茨城県南部という首都圏におけるホットスポットに位置した常総生活協同組合により、3.11直後の3月20日というかなり早い段階で、脱原発の主張が行われたことをみていくことにする。この常総生協のサイトによると、同生協は、1975年に取手市井野団地自治会での「朝市」をもとに「取手生協」として設立され、翌1976年に守谷市に移転し、「常総生協」となった。2009年には千葉県東葛地区が活動エリアに加わった。2012年3月現在で、従業員数44名、組合員数6790名、出資金3億2650万1千円、供給高11億4568万円となっている。配達エリアは次のようなものである。

常総生協の配達エリア

常総生協の配達エリア


http://www.coop-joso.jp/area/area.html

このように、配達エリアの多くの地域が、首都圏におけるホットスポットとされた地域と重なっているのである。

この常総生協は、3月11日の「東日本大震災」発生をうけて同日、対策本部(本部長:専務理事 丸山)を設置し、3月14日には、組合員向けの機関紙『COOP JOSO NEWS LETTER』の号外【東日本大震災 緊急速報】を出し、組合員や組合の安否、商品配送状況などを伝えるとともに、当時知り得た限りの福島第一原発事故の状況を報道している。3月16日には、再び『COOP JOSO NEWS LETTER』号外を出し、「震災にともなう原発事故への対処について」として、雨に注意する、極力外に出ない、吸入・経口摂取での体内被曝を避ける、ヨウ素を含む食品を摂取するなど、組合員に対し放射能被曝をさける対策を伝えている。

そして、早くも3月20日、常総生協震災対策本部は、「原子力発電所・福島原発の現状の認識と対応について」という文書を出し、その中ですべての原発をやめることを提唱している。

原子力発電所・福島原発の現状の認識と対応について
1.かねてより多くの市民が心配し指摘してきた、地震国日本での原子力発電の脆さと危機が現実のものになってしまった以上、エネルギー政策を転換し、電力消費についても率直に国民、企業に語り、次の震災が来る前に一刻
も早くすべての原子力発電をやめる手続き・手順に入るべきです。東海地震に備えて浜岡原発は直ちに停止すべきです。
2.福島原発事故はまだ事態の終息に至っていません。したがって「今後何が起きるか」は予断を許せませんが、「何が起きたか」「何が起きているか」は冷静に判断しておく必要があります。
※現場を知る技術者を結集させ、適確な措置を行うべきです。必要な整理された正確な情報を公開し、「危険は危険」として、危機の冷静な判断ができるようにすべきです。パニック回避のバイアスのあまり、「直ちに健康に影響を及ぼすものでない」とか、「まだ余裕がある」とか、学者や政治家や評論家が軽々に言うべきではないと思われます。
①まず、地震発生直後に制御棒が挿入されて炉心自体の核分裂反応はひとまず緊急停止している。
②現在の問題は、津波による冷却用の非常用電源の喪失による冷却水循環の機能喪失であり、早急に電源を回復して冷却機能を回復させることが急務である。海水注入や放水は緊急措置であって焼け石に水である。
③現時点では原子炉の「格納容器」ならびに炉心の「圧力容器」の爆発に至っていない。また冷却機能の喪失による大規模な炉心溶融ならびに核燃料の「再臨界」は起きていない。
④圧力容器内の炉心の冷却水の低下と燃料棒露出は事実のようだが、圧力容器ならびにそれを包む格納容器の圧力を抜いて爆発は回避している。そのかわり、炉心内部の放射性物質もガス状のものは外部に放出されたと考えられる。
⑤建屋内の使用済み核燃料プールの水位低下・燃料棒露出による表面被膜の溶融、核燃料の露出に伴う水素発生によって、建屋内の酸素との反応で「水素爆発」を引き起こし、建屋の破壊で、ガス状の放射性物質は環境中に放出されたと考えられる。
⑥早急に冷却用電源を回復させ、循環冷却のポンプやパイプを修復させる必要がある。
3.人体、生命への危険の回避と汚染の除去
【原子炉施設からの直接の放射線照射】
圧力容器の圧力抜きに伴い格納容器ならびに建屋へ漏出した放射性物質、ならびに建屋内の露出した使用済み核燃料棒からの強い放射線が放出していると考えられる。
建屋の爆発に伴う遮蔽がないことから、施設周辺には高濃度の「放射線」が放出されていて放射線被曝により近づくことが困難な状態であることは変わりがない。現場の作業員の被曝と健康の限度を超える前に、早期に冷却を回復させて最悪の事態を回避し、コントロール下に置くことです。
【放射能汚染・・・ガス状となって放出された放射性物質の落下】
圧力逃し弁の開放や、使用済み燃料プールの水位低下により、放射性希ガス(セシウム・クリプトン)、放射性ヨウ素が気体の状態のとして漏出し、建屋も水素爆発で崩壊している状態ではそのまま上空に放散された。
放射性雲となって同心円状に拡散しつつ揺らぎながら風向きによって方向付けられて東北・関東、そして太平洋沖へと漂った。
東北・関東内陸部及び太平洋沖を覆い地球上に拡散した放射性雲は小雨や霜といっしょに地上部や海洋に落下し、放射性物質は建物や人体ならびに野菜や土壌、そして海洋ならびに他国を汚染し放射線を放出している。
現時点では吸入や食物による経口摂取による体内被曝を注意深く回避すること。衣類や建物そして土壌と作物の有効な「除染」を急ぐ必要があります。
4.震災を受けた東北の人々の復興支援が最優先課題の中で、このような原発事故による二重苦と広範な地球規模の汚染と被害をもたらした政府・電力会社の責任を明確にし、これからの生産や消費のあり方を抜本的に見直す国民的作業をすすめることを提案します。
http://www.coop-joso.jp/newsletter/pdf/2011041-2.pdf

常総原発による脱原発の主張は、3月11日より10日もたっていない時になされており、かなり早期のものといえるだろう。特に浜岡原発については、直ちに停止すべきとしている。また、「必要な整理された正確な情報を公開し、「危険は危険」として、危機の冷静な判断ができるようにすべきです。パニック回避のバイアスのあまり、「直ちに健康に影響を及ぼすものでない」とか、「まだ余裕がある」とか、学者や政治家や評論家が軽々に言うべきではないと思われます。」と、情報隠蔽や事故の過少評価を戒めていることにも注目される。

そして、この文書の後半では、その当時知り得た福島第一原発事故の状況がまとめられている。その上にたって、二つのことが提言されている。一つは、「現時点では吸入や食物による経口摂取による体内被曝を注意深く回避すること。衣類や建物そして土壌と作物の有効な「除染」を急ぐ必要があります」ということである。もう一つは、「震災を受けた東北の人々の復興支援が最優先課題の中で、このような原発事故による二重苦と広範な地球規模の汚染と被害をもたらした政府・電力会社の責任を明確にし、これからの生産や消費のあり方を抜本的に見直す国民的作業をすすめることを提案します」ということである。

この文章を今、読みながら、東日本大震災・福島第一原発直後の情報混乱状況の中で、よくこれほど的を得た主張ができたものだと感嘆するしかなかった。当時の政府、東電、推進派学者、マスコミは、場当たり的な発言を繰り返していた。そして、私なども、これらの場当たり的な発言に不信感をもちながらも、何が一番問題なのかということを十分把握できなかった。3.11以後、最初に開かれた大規模な脱原発デモは高円寺のデモであるといえるが、それも4月10日である。3.11から10日もたたない時に、常総生協は、福島第一原発事故の問題点を把握して、脱原発を主張し、東電、政府、マスコミ、推進派学者を批判していたのである。

次回以後、常総生協の取り組みについてみていきたい。

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さて、今回は、2011年9〜10月にかけて、首都圏のホットスポットになってしまった柏市などの千葉県北西部地域における放射性物質による汚染の深刻さが露呈されていく過程をみていこう。このブログでもみたように、すでに、2011年5月頃までに柏市などの汚染状況については認識され、市民の声につきあげられながら、柏市・松戸市・野田市・流山市・我孫子市・鎌ヶ谷市の東葛六市は、千葉県と連携しつつ、独自の放射線量測定や、除染作業を行うようになっていた。

しかし、2011年9〜10月においては、柏市などの放射性物質による汚染の深刻さは、よりあきらかになった。文科省は、9月29日に、埼玉県・千葉県を対象にして9月8〜12日に実施された航空機(ヘリコプター)モニタリングの測定結果を公表した。ここで、千葉県の分を紹介しておこう。

まず、放射線量からみてみたい。千葉県の放射線量は、次のようなものである。

千葉県の放射線量

千葉県の放射線量

千葉県の多くの領域の放射線量は毎時0.2μSv以下で、年間1mSvに達するところは少ない。しかし、千葉県の北西部である、野田市・鎌ヶ谷市・松戸市・柏市・我孫子市・流山市の東葛六市は、野田市と鎌ヶ谷市を除くと、ほぼ全域が、毎時0.2〜0.5μSvの線量を示している。毎時0.23μSv未満でないと年間1mSvはクリアできない。これらの地域の多くが、年間1mSvをこえていると推定できる。福島県でいえば、だいたいいわき市と同程度の線量といえる。なお、浪江町や飯館村はもちろん、福島市・伊達市・二本松市・郡山市などでも、これより放射線量が高い地域が多い。

次に、放射性セシウム(セシウム134・セシウム137)の沈着量をみておこう。

千葉県における放射性セシウムの沈着量

千葉県における放射性セシウムの沈着量

これも、千葉県全体でいえば、放射性セシウムの沈着量はそれほど多くはない。しかし、千葉県北西部の東葛六市では、野田市を除けば、ほぼ全域が3万bq/㎡をこえている。特に、柏市・我孫子市・流山市の沈着量は高く、6万〜10万bq/㎡になっているのである。

チェルノブイリ事故の対応などを勘案して、この線量についてみておこう。柏市などの場合、航空機モニタリングの結果では、チェルノブイリ事故の際の強制避難や希望移住の対象になるほどの汚染ではないといえる。しかし、ほとんどが3万bq/㎡以上である。3万7千Bq/㎡以上であると、通常ならば放射線管理区域とされ、必要のない人の立ち入りは許されず、飲食も許されない。柏市などは、多くの地域が放射線管理区域並みの汚染になってしまったのである。

参考:チェルノブイリの区分

148万Bq/㎡~     (第1) 強制避難区域   直ちに強制避難、立ち入り禁止
55万Bq/㎡~     (第2) 一時移住区域   義務的移住区域
18万5千Bq/㎡~   (第3) 希望移住区域   移住の権利が認められる
3万7千Bq/㎡~    (第4) 放射線管理区域  不必要な被ばくを防止するために設けられる区域

このように、9月に公表された文科省の航空機モニタリングによる測定結果の公表は、柏市などの地域における深刻な汚染状況をあきらかにしたのである。

さらに、10月になると、福島県の警戒区域・計画的避難区域に匹敵するような高線量の汚染度を示す地域が柏市で発見された。朝日新聞朝刊2011年10月22日号の次の記事をみておこう。

柏の空き地、57.5マイクロシーベルト
 
 千葉県柏市は21日、同市根戸の空き地で、地面を30〜40センチ掘った地中で毎時57.5マイクロシーベルトの放射線量が測定されたと発表した。市は線量の高い範囲が局所的なことから、「福島第一原発事故の影響とは考えられない」としている。
 空き地は工業団地と住宅街に挟まれた市有地。半径1メートルの範囲で高い線量が測定された。10メートル離れた場所では、毎時0.3マイクロシーベルト以下だった。千葉県環境財団が採取した土などを分析して原因を調べる。
 線量が高いらしいとの話が住民の間で広まり、自治会の情報を受けて市が調査を始めた。
 市は現場を川砂などで覆い、半径3メートル以内を立ち入り禁止とした。

毎時57.5μSvとは、かなり高い線量である。これほどの高い線量は、福島県でもさほどなく、福島第一原発が所在している大熊町などで同程度の空間線量が記録されている。

そして、これが、市民が独自に測定した情報に基づいていることにも注目しておきたい。柏市の行政サイドが発見したわけではないのである。その上、最初、柏市は福島第一原発の影響であることを否定したことも忘れてはならない。

しかし、とにかく、柏市の行政サイドが調査、対策に乗り出した。また、文科省も専門家を派遣することになった。朝日新聞朝刊2011年10月23日号は、次のように伝えている

土から高濃度セシウム 柏の高線量地点 原発由来? 特徴類似

 千葉県柏市の市有地で毎時57.5マイクロシーベルトの高い空間放射線量が測定された問題で、市は22日、現場の地下30センチの土壌から27万6千ベクレルの放射性セシウムを検出したと発表した。濃度の高さを重くみた文部科学省は、23日に現地に専門家らを派遣し、土壌の状態や周囲の状況、他にも高い線量の場所があるかどうかなどを調べる。
 文科省によると、今回採取された土壌中のセシウム134と137の比率は東京電力福島第一原発事故で汚染された土壌と似ているという。ただ、原発から大気中に放出されたセシウムが自然に降り積もったと考えるには濃度が高すぎることなどから、汚染土壌が外部から持ち込まれた可能性もあるとみている。
 市は21日、高い放射線量が確認された半径1メートル付近の地表部分と地表から30センチ下の2ヵ所の計3ヵ所から土を採取。30センチ下の土から27万6千ベクレルと19万2千ベクレル、地表の土から15万5300ベクレルを検出したという。
 市によると、現場は空き地で、十数年前まで市営住宅が立っていた。現在は、ときおり町内会がゲートボールなどのレクリエーションで利用しているという。
 柏市を含む千葉県北西部では放射線量が局所的に高いホットスポットが見つかっている。文科省の航空機調査では、柏市にはセシウム134と137の合計で1平方メートルあたり6万〜10万ベクレルの高い蓄積量の地域があることがわかっているが、今回検出された土壌は単純計算で、これより100倍以上高いという。
 市は現場を約50センチの厚さの土で覆い、防水シートをかぶせている。10メートル離れたところでは周辺地域とほぼ同じ毎時0.3マイクロシーベルトまで空間放射線量は下がっているという。

放射性セシウムが土壌1kgあたり27万6千bqあったというが、これは、非常に高い数値である。ほぼ、福島県では、大熊町や飯館村の土壌に匹敵する数値である。この量に65をかけると1㎡あたりの量がでるが、そうすると1794万bqとなる。航空機モニタリング調査では高くても10万bq以下とされているので、100倍どころの話ではないのである。チェルノブイリ事故の強制避難区域は148万bq以上とされているが、その数値すらも10倍以上こえているのである。

しかも、そういうところで、居住していたわけでないにせよ、町内会のゲートボールなども行われていた。今、この記事を読んでみるとかなり衝撃を受ける。ほとんど福島の警戒区域や計画的避難区域に匹敵するような高線量の場所が首都圏にも存在し、しかも、何の警告も受けないまま、人びとは生活していたのである

そして、文科省は、23日に調査し、「近くの破損した側溝から雨水が地中に浸透しているとみられる」「東京電力福島第一原発事故によって汚染された可能性が高い」(朝日新聞朝刊2011年10月24日号)と発表した。文科省によると、側溝がこわれ、そこから雨水が漏れ出し、半年以上かけて土壌中にセシウムが蓄積されたとしているのである。

たぶん、この説明は正しいのであろう。しかし、このような形で雨水が漏れ出し、放射性セシウムが蓄積しやすいところは、他にもあるかもしれないのである。

この、高濃度地点の発見は、行政サイドではなく、市民側の自主的な測定による通報の結果であった。私たちは、行政に依拠せず、自らを守らなくてはならないのである。もちろん、正確な測定や大規模な除染は、行政でなくてはできない。しかし、行政に対して、自己主張しなければ、行政自体は動かない。この、高濃度地点の発見は、その一例であるといえる。次回以降、機会をみて、自主的に放射能対策を実施した、この地域の常総生活協同組合の営為をみていきたいと思う。

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今回は、柏市行政において、年間被曝線量を1mSvにする除染基準が確立した経過について、まとめておこう。柏市民の、放射線量低減を求める声に後押しされた形で、2011年8月頃より柏市行政の放射線対策は本格化していく。8月19日に、柏市は放射線対策室を設置し、その頃より、各学校での除染作業も開始された。

しかし、柏市行政の方針は、当初不十分なものであった。柏市などの東葛六市は、2011年7月8日の第1回東葛地区放射線量対策協議会において被曝線量限度を年間1mSvとすることをめざすとした。しかし、柏市の場合、実際の学校などの除染対象の基準は、文科省が補助するとした毎時1μSvとなっていた。だが、すでに始まった学校の除染作業において、実際に作業を担当した教職員や住民は、毎時0.3μSvでも高すぎると考え、市の基準よりも低い放射線量の場所も除染作業対象としていた。自発的に、年間1mSv未満をめざす動きが地域社会に定着していったといえよう。

そして、同時期には、年間1mSv未満に被曝線量をおさえることをめざした除染作業を行う自治体もあらわれてきた。朝日新聞夕刊2011年9月3日号では、東京都足立区で小学校・幼稚園・砂場などにおいて被曝線量毎時0.25μSv以上の場所を対象とする除染作業が8月10日より開始され、葛飾区でも同じ基準で除染することにしていると報道されている。そして、同記事には、千葉県北西部に隣接し、放射線量も比較的高い、茨城県守谷市で、次のような動きがあったことを伝えている。

 

茨城県守谷市は8月22日から、市内の公立小学校や保育所11カ所でグラウンドの土を入れ替えた。文部科学省が主に福島県内の学校向けに示した除染基準の毎時1マイクロシーベルトを超える地点はなく、当初、本格的な除染はしてこなかった。
 しかし6月、市民ら1千人余から文科省基準より低い放射線量でも対応できるよう、「子供の被曝を年間1ミリシーベルトに近づける」ことを求める請願が出され、市議会が採択した。
 橋本孝夫副市長は「少しでも放射線量を下げてほしいと思う親たちが安心してくれるのであればと考え、方針転換した」。土の入れ替えの費用は私立幼稚園などへの補助も含め約6千万円かかったという。

このように、住民たちの請願という形で示された要望に依拠して、守谷市は、年間1mSvを被曝線量限度にすることをめざした除染作業を自治体独自で行うことになったのである。

他方、政府においても、8月には除染推進方針が定められた。8月26日に開催された政府の原子力災害対策本部は、「除染推進に向けた基本的考え方」を決定した。その中では、次のように規定されている。

東京電力株式会社福島第一原子力発電所の事故から 5 ヶ月が経過しましたが、発電所の事故を原因として発生した放射性物質による汚染によって、今なお、多くの方々は、不便な避難生活、不安な日常生活を強いられています。
この放射能による不安を一日でも早く解消するため、国際放射線防護委員会(ICRP)の考え方にのっとり、国は、県、市町村、地域住民と連携し、以下の方針に基づいて、迅速かつ着実な除染の推進に責任を持って取り組み、住民の被ばく線量の低減を実現することを基本とします。

① 推定年間被ばく線量が20ミリシーベルトを超えている地域を中心に、国が直接的に除染を推進することで、推定年間被ばく線量が20ミリシーベルトを下回ることを目指します。
② 推定年間被ばく線量が20ミリシーベルトを下回っている地域においても、市町村、住民の協力を得つつ、効果的な除染を実施し、推定年間被ばく線量が1ミリシーベルトに近づくことを目指します。
③ とりわけ、子どもの生活圏(学校、公園等)の徹底的な除染を優先し、子どもの推定年間被ばく線量が一日も早く1ミリシーベルトに近づき、さらにそれを下回ることを目指します。

上記の方針を基本としつつ、この度決定する「除染に関する緊急実施基本方針」は、今後2年間に目指すべき当面の目標、作業方針について取りまとめるものです。
今後、国は、当面の対応として、「緊急実施基本方針」にのっとり、県、市町村、住民と連携しつつ、迅速かつ効果的な除染を推進してまいります。http://www.kantei.go.jp/jp/singi/genshiryoku/dai19/19_03_gensai.pdf

この日は、菅直人首相の辞意表明報道と重なり、あまり、この内容は報道されていないが、少なくとも除染基準線量を定めた点で画期的なものであった。特に②が重要である。ここで、年間20mSv未満の被曝線量地域でも、年間1mSvをめざして除染を推進することが決められたのである。すでにみてきたように、いわゆる「専門家」の多くは、年間1mSv未満を被曝線量限度とした除染作業の必要性を認めようとはしなかった。しかし、柏市などの地域住民は、せめて年間1mSvにすることを要望していた。この中で、地域住民サイドにそって、除染の基準(実際の除染作業は、当初住民のボランティアにたよるなど不十分なものであったが)が定められたのである。

そして、9月1日には、それまで毎時1μSvを除染作業の基準としていたが、ここで、年間1mSvを除染作業の基準とする方針を柏市行政は決めた。現在の基準であると毎時0.23μSvになる。そのことは、前述した朝日新聞夕刊2011年9月3日号の記事の中で、次のように報道されている。

 

政府の原子力災害対策本部は8月26日、除染の方針を示した。福島の避難対象地区以外でも「推定年間被曝線量が1ミリシーベルトに近づくことをめざす」とした。市町村の除染は国が支援するとしているが、福島県外のどこが対象になるのかは、はっきりしていない。
 局所的に放射線量が高くなる「ホットスポット」現象が起きた千葉県北西部。柏市はこれまで、近隣の5市と歩調を合わせ、文科省基準の毎時1マイクロシーベルトで側溝や雨どいなどの局所的な除染を進めてきた。
 だが、原子力災害対策本部の方針を受け、9月1日に年1ミリシーベルトに基準を引き下げて、表土を削るなど本格的な除染を進めることに決めた。
 同市放射線対策室の松澤元・担当リーダーは「安全の基準を探すのに注力してきたが、100%の安全は証明できず、多くの市民が不安に思っている」。今後、国の補助が受けられるかどうかを確認し、学校や公園など市全域を対象にした除染計画を作るとしている。

このように、2011年8〜9月、柏市行政において被曝線量年間1mSvという除染基準が確立されていったのである。しかし、対照的に、2011年9〜10月、柏市内において高い放射線量を示す地域が発見され、柏市行政は対応におわれていくのである。

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さて、また、首都圏のホットスポットとなった千葉県の状況を、柏市の動向を中心にみていくことにする。以前、本ブログで前述したが、学校施設の除染基準を年間20mSvから1mSvに事実上かえた文科省の措置、市民からの不安の声、東京大学内部での批判により、2011年5〜6月より、柏市、我孫子市、野田市、松戸市、鎌ヶ谷市、流山市の東葛6市は、独自に空間放射線量を測定するなど、独自の放射性物質対策を実施しはじめた。しかし、いまだ、「専門家」たちは、この地域の首長たちが開催した7月8日の「東葛地区放射線量対策協議会」で放射性物質対策は必要はない、測定もこまめに行う必要がないと主張し続けた。

しかし、首長たちは納得せず、同日、今後とも放射線量測定などの独自の対策を講じること、費用対効果を考慮しつつも、学校施設については、年間1mSv以下にすることをめざすことなどが決められたのである。

柏市で月2回発行されている柏市民新聞2011年7月22日号によると、柏市としては、次のような対策を講じることになっていた。

 

また、6市のうち松戸市と野田市と野田市を除く4市では、今後の対策として、積算可能な測定機を購入し、全小学校と保育園、幼稚園に各1機を配備する方針を決めた。8月中に揃え、9月から現場の線量を年間通じて測っていく予定。2市については検討中だという。
 また、柏市では、夏休み中に市内の各小学校で細かい測定を行う。学校ごとに線量を図面に落とし、高い数値の場所については、教職員らで清掃する。限られた時間で、きめ細かく清掃するため、保護者らの協力を仰ぎたいとしている。
 ごみ処理場の基準値を超える放射性セシウムについては、秋山浩保市長が15日、環境省に早期対応の緊急要望を提出したが、21日の時点で国の回答はなく、進展はみられていない。

つまり、学校・保育園・幼稚園ごとに測定機を備え付けるともに、小学校では夏休み中にきめ細かく線量を測定し、高い場所では教職員らで「清掃」ー除染することになっていたのである。そして、小学校の測定・除染については、保護者らの協力を仰ぎたいとしている。教職員・保護者らの、いわばボランティアによる線量測定、除染が提起されたといえる。

しかし、すでに、放射性物質の問題は、学校施設の問題に限定されるものではなくなっていた。先の記事の中にも述べられているが、柏市の二つある清掃工場の焼却灰などより、環境省の基準である1kgあたり8000bqをこえる放射線量が検出されたのである。基準をこえる焼却灰などは、最終処分場に埋め立てて一時保管することになっているが、その準備が整うまで工場に仮保管されることになっており、基準以下の場合は、通常通り最終処分場で埋め立てることになっていた。しかし、柏市民新聞が「いずれの措置にしても、工場付近の住民の理解は得難く」といっており、柏市長としては、環境省に早期対策を要望した。結局、第一清掃工場は操業停止となり、第二は稼働を継続したが、もし国・県の対策が遅れた場合、1〜2月程度で双方とも保管限度をこえて操業停止となるという状態だったのである。なお、この問題は、現在もこの地域に重くのしかかっているのである。

さらに、柏市は、7月28日から市内農産物の放射性物質調査を開始した。柏市民新聞2011年8月12日号には、その目的として、「柏市産の安全性を確認し、風評被害を防ぐこと」としている。農産物の放射性物質調査は千葉県が実施していたが、柏市の調査は簡易調査と位置づけられており、この市の検査で200bqをこえた場合、厚労省の登録検査機関に送って、暫定基準値を超えていた場合は、出荷停止となるというシステムになっている。柏市民新聞2011年8月12日号によると、ブルーベリーにおいて、セシウム134が40.9bq、セシウム137が44.6bq検出された事例があったが、いずれにしても暫定基準値をこえたものがないとしている。なお、千葉県も、柏市産を含めた千葉県産の早場米の検査を8月から開始している。

加えて、1kgあたり500bqという暫定基準値をこえた牛肉が発見されたことから、8月より学校給食の食材に対する放射線セシウムの検査を開始することを決めた。

このように、柏市では、2011年7〜8月から放射性物質対策がとられてようになってきたが、市民の目からみれば、まだまだ不十分なものであった。朝日新聞朝刊2011年8月11日号には、次のような記事が掲載されている。

千葉の幼稚園 独自に土除去
 福島第一原発から約200キロ離れている千葉県の柏市や松戸市などは市の発表で毎時0.3〜0.4マイクロシーベルト前後になる場所がある。福島県発表のいわき市(同0.2マイクロ程度)を上回る。千葉県が発表する市原市の同約0.04マイクロに比べ1桁高い。放射性物質が他よりも多く降り注いだ「ホットスポット」と呼ばれる場所だ。
 千葉県柏市の私立みくに幼稚園で8日、杉山智園長らが花壇の表土をはがして古い浄化槽の中に埋める作業をした。花壇は毎時約0.4マイクロシーベルトだった。
 園庭の放射線量は0.1マイクロシーベルト。これは5月の測定で0.4〜0.5マイクロシーベルトだったので表土の入れ替えをしたためだ。杉山園長は「子どものために実行可能なことはやらざるを得ない」という。
 柏市など6市は対策協議会を開き「低減策が国の財政支援の対象になる毎時1マイクロシーベルトを上回る地点は確認されなかった」などとの中間報告を7月にまとめた。柏市は小中学校などで線量を細かく測定し、線量の高い場所は清掃や草の除去をするというが、校庭の表土の入れ替えなど大規模な工事の計画はない。
 子どもの被曝を心配する親らが約1万人の署名を集め校庭や公園で土砂の入れ替えなどを求める要望書を6月に柏市に出した。その一人、主婦の大作ゆきさん(33)は「市の動き方は鈍い」と批判する。大作さん自身は10日、1歳と3歳の2人の子どもとともに大分県に一時避難した。(編集委員・浅井文和)

このように、市立の小中学校においても大規模な除染を行うことは想定されておらず、「市の動き方は鈍い」と批判される状況であったのである。そして、私立幼稚園としては、独自に除染作業を開始したのであった。

しかし、朝日新聞の報道後、柏市の放射性物質対策はやや進展をみせる。8月19日には、職員4人の「放射線対策室」が環境部内に設置された。柏市のサイトでは、このように設置目的が説明されている。

福島第一原子力発電所の事故に伴い、市民の皆さんから放射線に対する不安の声が多く寄せられていました。現在、空間放射線量の低減対策については、子どもを対象とした部署を中心に関係各課が行っているところです。今後は、今まで以上に子どもに関連する部署間の連携を強化するとともに、それ以外の部署(通学路や農作物、給食食材関連など)との連携も必要となってくることから、次のとおり環境部内に新たに「放射線対策室」を設置することとしました。
http://www.city.kashiwa.lg.jp/soshiki/080500/p009165.html

そして、8月には、多少とも、小中学校の除染活動も進んだようである。柏市民新聞2011年8月26日号では、次のような記事が掲載されている。

地域住民 学校で除染作業 放射線量低減に安堵の声

 市内の幼稚園と小中学校で放射線の除染作業がはじまった。夏休み期間を利用し、敷地内で1マイクロシーベルトを超える地点や側溝などの高い数値が予想されるポイントを対象としている。教職員のほか、保護者らも参加して実施。一部の校(園)庭では、表土を削るなどの低減策もとられている。その効果は、毎時0.3マイクロシーベルトを測定した校庭が同0.2未満になるほどで、参加者からは喜びと安堵の声が挙がっていた。
 20日には、富勢小学校と松葉第二小学校などで作業が行われた。松葉第二小では、教職員のほか、保護者や地域住民など126人が作業に参加。校庭の大半の表土を削った。大勢の参加者が集まったため、開始時刻を早めてスタート。それでも、前日から降った雨が地中にしみ込んだため、その重量に参加者は悪戦苦闘。用意した土嚢袋の半分程度の量で成人男性がやっと持ち上げるほどの重みに。当初の土嚢袋800袋では不足し、さらに、800袋を追加。表土をわずか2センチ程度削っただけにもかかわらず、校舎からもっとも離れた校庭隅に土嚢の山が築かれた。
 当日は午後4時前から開始。気温は真夏日を下回ったが、マスクと軍手、長袖長ズボンの参加者は汗でぐっしょり。それでも「子どもに安心して運動会をしてほしい」との思いから作業に集中。学校職員が配備された測定機で測り「0.3マイクロシーベルトだったところが、0.2を切りました」と報告すると、喜びの声が挙がった。職員によると、松葉第二小は、6月以降、毎時0.3マイクロシーベルトの地点が非常に多く、今回の除染結果には笑顔が溢れた。参加者からも「子どもたちが安心して校庭で遊べる日がくるなら、がんばろう」との声が挙がり、多くの参加者が希望を持った作業結果となった。
 現在、市内の学校施設(幼稚園など含む)の放射線量測定は、全校で終了。私立園とも連携を図っており、放射線対策室によると、今後各学校が地域と連携し、2回目を含めた除染作業を行っていくとしている。 

この記事は、非常に興味深い。まず、指摘すべきことは、すでに述べているように、柏市などは年間1mSv以下とするとしているにもかかわらず、結局毎時1μSv以上の地点しか除染作業の目標としていなかったことである。年間1mSv未満とするならば、現在の基準では毎時0.23μSv未満にすべきなのだが、そのような地点は本来は対象としていなかったのである。これは、実質的には「専門家」の意見に引きずられていたといえるのである。「市の動き方は鈍い」と批判されるのも無理はないだろう。

しかし、この基準は、市民の求める基準ではなかった。ここで扱っている松葉第二小学校では、毎時0.3μSvでは高すぎるという意識があり、校庭の大半の表土を削り取るという大規模な除染が行われた。そして、この作業が、「教職員のほか、保護者や地域住民など126人が作業に参加。」とあり、いわば地域のボランティアを動員して行われたとみられることに注目しておきたい。この校庭の表土を削り取るという作業が、どのような形で意志決定されたかは不明だが、市の方針としては一部の高線量地点のみ除染ということであったから、それをこえた除染作業の実施は教職員も含めて自発的な形で決められたのではないかと想定される。そして、その究極の目的は「子どもに安心して運動会をしてほしい」「子どもたちが安心して校庭で遊べる日がくるなら、がんばろう」ということであった。真夏日ではなかったようだが、それにしても、夏の日にこのような重労働を地域の人びとは自発的に行ったのである。こういう活動を通して、年間1mSvにするという柏市のかかげた目標は、柏市当局の意図を超えて、定着していったのである。これは、住民自治ともいえるであろう。

しかし、他方で、このような除染活動の実施は、そもそも、このような事態を引き起こした東電なり国なりが行うべきことであることも指摘しておかなくてはならない。そして、この除染活動によって、市民自身がいわば無用の被曝を強いられることにもなったといえる。このような矛盾は、福島県郡山市の除染活動で、より深刻な形で露呈されているのである。

そして、また、2011年9月以降、柏市の放射線物質汚染状況がより明らかになってくるにつれ、市行政自体がより責任をもった放射能対策の必要性が提起されるのである。

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2013年1月19日、首都圏のホットスポットの一つとなってしまった柏市で、原発反対派の小出裕章氏と原発推進派(厳密にいえば放射線利用推進派となるが)の小林泰彦氏が対談するという、異色の講演会が開かれた。講演会の広告は、次のようなものである。

電気の消費地であり、被災地でもある東葛地域(千葉北西部)での真っ当な放射線対策とは?
私達が今後、どのように生きていくのか、共に考えましょう!
ついに実現します
 小林泰彦さん(独立法人日本原子力研究開発機構)
 小出裕章さん(京都大学原子炉実験所助教)
このおふたりを迎えての講演会です 

【 日 時 】 2013年1月19日(土)19:00~21:30(開場18:30)
【 開 場 】 柏市民文化会館 大ホール
【 入場料】 前売り 500円  当日800円
【 主 催 】 1・19 柏講演実行委員会        
◎18歳以下 入場無料! 中・高校生のみなさんも、親御さんとご一緒に
◎保育あり! 生後6か月以上 500円   1月9日まで
          保育申込み 08051920187 たねだ
◎手話通訳あり!
◎お帰りのバス  会場でバス券販売 先着120名 200円
http://www.facebook.com/events/142623802554726/?ref=22

この講演会は、前評判が高く、会場であった柏市民文化会館大ホール1600席のうち、前売り券1500席が売り切れ状況となったとのことである。柏市などのことをブログで取り上げていたので、私も行こうかと考えていた。しかし、前売り券売り切れの情報を聞いて、もしかすると満員で入れないかもしれないと思った。それでも、とりあえず会場の雰囲気だけでも知っておこうと思い、柏市文化会館まで行ってみた。早めにいって整理券をもらい、当日券価格で入場できた。

市民文化会館前は開場時間前から長蛇の列だった。これほどの人数が来るとは主催者側も予想していなかったらしく、入場方法などをめぐって参加者とトラブルになったところもあった。18時30分から入場が開始されたが、講演会開始の19時まで会場に入って来る人びとは絶えなかった。結局、1600席満席になったとのことである。

最初に主催者の挨拶があり、この講演会の趣旨が説明された。当日配布されたレジュメ(なお、実際の挨拶は、内容的には一致しているが、表現などは必ずしも同じかどうかいえない)によると、次のように趣旨説明されている。柏市のある東葛地域では福島第一原発事故によって放射線量の高い地域となり、さまざまな運動が展開されるとともに多くの講演会・学習会が開催された。しかし、そのうちに

体にあたえる影響については『大丈夫だ』と思う人は講師がそう言ってくれる講演会へ行き、『いや心配だ』と思う人はそう言ってくれるところへ行く、そんな風に分かれはじめ、その距離は離れ話題に上ることも少なくなり、その相手も選ぶようになってきました。これで本当に子どもは守れるのか?

という状態になったと挨拶では述べている。そして、次のように、この講演会のねらいについていっている。

「原発事故子ども・被災者支援法」が制定されましたが、適用地域は今まさに検討中です。この地域で子どもに対する責任が果せれば、被ばくを強いられ声を上げにくい福島でも子どもを保護することにつながる、とも思います。
 そして原発は危険だからと首都圏から遠く離して建てたのに(ひどい話ですが)、190kmも離れたこのあたりで被曝することになった。しかもここは福島原発で作った電気の消費地でもあった…。私たちだからこそできることがあるだろう。何をすれば?という思いもあります。
 昨年初夏、原発の危険性について訴えてこられた小出裕章さんに講演のお願いをしましたところ、「原子力を推進している人との対談がしたい」というご希望をおっしゃいました。いろんな方のご協力で、小林泰彦さんが、放射線を利用する立場の専門家として受けてくださったというのが経緯です。立場の違う専門の方の意見を正面からとらえて考えてみる…あってもいいはずなのになかなかない機会に立ち会うことになります。貴重な時間ですので冷静にお聞きくださるようお願いします。答えはそれぞれでお持ち帰りになることになると思います。
 今後もタブーを作ることなく話しあうそんな機会が未来を拓くでしょう。本日の講演会が有意義なものとなり、被害者をこれ以上出さないためのきっかけとなることができれば主催者としての本望です。

つまり、小出氏の希望もあり、立場の違う専門家の意見を正面からとらえて聞く機会にしたいということなのである。

そして、まず小林泰彦氏が「柏地域の子どもたちのための真っ当な放射線対策とはー被害を最小にするための基礎知識」というテーマのもとで講演を開始した。小林氏は、日本原子力研究開発機構量子ビーム応用研究部門(高崎市)に所属している。ちなみに、この高崎市の施設は、中曽根康弘が研究用原子炉のかわりに誘致したものである。当日配布したレジュメを中心にして小林氏の論旨を追っていこう。なお、後述するが、小林氏は、新しい知見を入れており、時間の関係もあって、レジュメの内容と実際の講演内容はやや違っている。

小林氏は、「放射能」は、「物理法則に貫かれた自然現象であり、宇宙の姿そのもの」であって、「得体の知れない不気味なものでは」なく、医療や産業にさまざまに活用」されていると述べ、放射線防護は放射線障害の発生を最小限としつつ社会の中で放射線を利用することであると主張する。とにかく、放射線利用のための放射線防護という発想なのである。その上で、放射線被曝における発がんリスク増加については、一度に100ー200mSv以上当れば、将来の発がんリスクが線量に応じて直線的に増加するとしながら、100mSv以下では他の発がんリスクにまぎれて、本当に影響があるかどうかは不明とした。しかし、100mSv以下でも直線的関係があると仮定し(これをLNTモデルという)、その仮定に基づいて放射線の発がんリスクを推定、他のリスクと比較しつつ、線量限度などが決められているとする。小林氏は、例えば、飲酒、喫煙、肥満、運動不足などの生活習慣よりも100mSv未満の被曝のほうが、発がんリスクの増大ははるかに少ないと主張した。その上で、「平常時」においては、放射線リスク削減の「代償」(たぶんコストの意味だろう)が無視できるので、一般公衆の場合、年間1mSv未満に被曝を抑えるべきだが、緊急時においては、避難、移住、家族離散、食品放棄、耕作放棄、除染などの放射線リスク削減の代償が明らかであり、これらの負担によるリスク増大とトレードオフした形で判断しなくてはならないと述べている。重要なことは、小林氏は、法律上の一般公衆の線量限度である年間1mSvは安全と危険の境界ではないとしていることである。1mSvとは自然放射線の変動レベル(なお、自然放射線は世界平均で年間2.4mSvという)であり、これは、健康リスクではなく「倫理的配慮」としているのである。

なお、小林氏は、主催者側と話し合って、配布されたレジュメにはない、より専門性の高い議論を、この講演では述べている。放射線被曝による発がんリスクの増大は、個々の細胞レベルにおける遺伝子損傷によるものとして、喫煙などの他のリスクも遺伝子損傷の原因となっていること、生体には細胞レベルでの遺伝子損傷のダメージを修復するシステムが備わっていることを主張した。また、放射線被曝における高線量と低線量の違いについて、高線量においては同時に多数の細胞が放射線に照射されることになるが、低線量では、少数の細胞が時間を置いて放射線に照射されることになると説明している。これは、小林氏自身の研究テーマの一つらしい。

小林氏の話は、かなり時間をオーバーし、最後はかなりはしょらざるをえなかった。ただ、レジュメでの結論部分は、このようになっている。

子どもたちと地域の未来のために
今なすべきこと
・被ばく線量の測定と公開
 局所的な線量率より個人個人の累積線量
・その線量による健康影響(リスク)評価
 専門家の一致した評価、科学的根拠
・評価に基づいた関係者の対話と合意形成
 リスクの定量と比較
  気にする自由 VS 気にしない自由
  「許せる」 VS 「許せない」
 リスクの総和を最小にするには?
科学的根拠+価値観+資源⇒現実的判断で意思決定
 互いに歩み寄り、自分たちで納得して決める

小林氏の話は、低線量の放射線被曝による発がんリスクの増大を極めて小さなものとし、避難、除染などそれをゼロにするコストと比較して「現実的判断」で意思決定すべきとしていると概括できるだろう。

続いて、小出裕章氏が「原子力利用と被曝」というテーマで講演を行なった。小出氏の場合も、時間の関係で後半はしょらざるをえず、レジュメと実際の講演内容は異なっているが、ここでもレジュメを中心にみておこう。

小出氏は、福島第一原発事故で放出されたセシウム137は、少なく見積もっても広島原爆の168発分であり、福島県の東半分を中心として、宮城県、茨城県の南部と北部、栃木県・群馬県北部、千葉県の北部、岩手県・新潟県・埼玉県・東京都の一部が放射線管理区域(1㎡あたり4万bq)に指定しなくてはならないほど汚染されたとしている。小出氏は、むしろ低線量のほうが危険度は大きいとしつつ、とりあえずICRP-2007年勧告などを引用して「約100ミリシーベルトを下回る低線量域でのがんまたは遺伝的影響の発生率は、関係する臓器および組織の被曝量に比例して増加すると仮定するのが科学的に妥当である」とした。そして、100mSv以下の被曝をしてはいけないという国家の法律があり、それを無害という学者は刑務所に入れるべきであるが、国家がその最低限の法律を守っていないとした。さらに、「福島原発事故を引き起こした最大の犯罪者は政府であり、その政府は事故が起きたら、それらをすべて反故にした」と主張した。

小出氏は、福島原発事故による、失われた土地、強いられる被曝、崩壊する1次産業、崩壊する生活などの多大な被害は、東電だけでなく日本国が倒産しても賄いきれないとした。そして、地域住民には「被曝による健康被害」か「避難による生活の崩壊」かという選択がつきつけられているとした。特に、柏市を中心とした千葉県北部、茨城県南部は日本の法令を適用すれば放射線管理区域に指定されるとし、自身の体験をもとに、放射線管理区域では何も飲食できないし、汚染されたまま外出することもできないし、汚染された物を持ち出すこともできないことになっているのだが、それと同等に汚染された地域でも、普通に生活することが強いられているとした。本来、このような地域からは避難したほうがよいのだが、避難による生活の崩壊をおそれてそれができないとしているのである。

小出氏は、このように汚染された世界の中で「この自体を許した大人として、私たちはどう生きるのか?」と問いかけ、氏自身としては「子どもを被曝から守りたい」と主張した。原子力を選んだ責任は、政府や東電が一番重いが、放射線に携わってきた自分などにも責任はあり、さらに、このような原子力を容認してきた人びとーこの会場の聴衆にも責任はあると語りかけた。しかし、子どもたちには責任はない。そして、責任のない子どもたちこそが放射線感受性が高いのだと小出氏は述べた。

時間がなく、後半はかなりはしょりながら、小出氏は結論として、次のように述べた。

一人ひとりが決めること

自分に加えられる危害を容認できるか、あるいは、罪のない人々に謂れのない危害を加えることを見過ごすかは、誰かに決めてもらうのではなく、一人ひとりが決めるべきこと

小出氏の講演は、低線量であっても放射線被曝は健康に悪影響があるとし、そのことを広範囲にまねき、さらに事態を放置している政府・東電・学者たちを批判するともに、小出氏自身を含めた多くの人びとが将来の世代に対する責任をおっているとしたものといえよう。

この後、休憩をおかず、討論になった。この討論部分については、http://kiikochan.blog136.fc2.com/blog-entry-2732.htmlが討論部分のおこしを行なっているので、これに依拠しながら、記憶により補いつつ、重要と思われる部分をみておこう。

まず主催者(実行委員長)の柳沢典子氏から、両者の報告を簡単に概括した後、次のような質問が行なわれ、小林氏は次のように答えている。

柳沢:
小林さんのお話しの中で、事前に私たちがお出ししました質問で、このあたりの放射線レベルについて、小林さんはこのあたりのレベルについてどうお考えか?という所がちょっとお話が無かったような気がするんですが、よろしいでしょうか?
小林:
じゃあその点は、えーっと、柏市の市のホームページに出ている数字などいろいろ見て考えたんですけれども、今私自身が、皆さんに「こうしたらいいですよ」っていうつもりで言ってもしょうがないわけで、自分だったらどうするか?という事で考えると、私だったら、もう全然気になりません。小さい子もそれでいいと思う。もし、自分の家族がいてもそれは気にならない。それは学問上の確信があります。

そして、そうですね、私が配ったスライドの最後のところ、被ばく線量の測定と公開という所、これは今非常に市もやられているし、詳しい情報が出ている。ただしこれから気を付けるべきことは、「どこが何ベクレル汚れている」っていうことよりも、そうではなくて、「今住んでいる人がどれ位のシーベルトで放射線を受けているのか」これを基準にし一人一人考えるのがいいと思いますね。

公共施設などは非常に低くなっていますから、全く問題ないと思います。それから、通学路などで、もしところどころマイクロスポットと呼ばれているような所があったとしても、そこをまたぎ越す時間、時間にすれば非常に短いので、それから受ける線量というのは微々たるもの。それよりも長い時間を過ごす子どもさんの寝室の窓のサンとか、屋根のトイであるとか、そういう所の掃除の徹底でもう少し下げる事が出来れば、多分そっちの方が有効なのかな?という気がしています。

後半の線量測定や除染についてのことについては問題はないのであるが、柏市の線量は問題がないとしている点について、その後もたびたび問題となり、小林氏は会場からかなり批判を浴びていた。

同じ質問に対して、小出氏は、次のように答えた。

小出:
私は先程聞いていただいたように、この柏を含めて広い地域が1平方mあたり4万ベクレルを超えて汚れています。そういう所に私は「普通の人々が住むという事自体に反対」です。

出来る事ならばみなさん逃げて欲しいと思いますし、本当であればその法律を作った日本国政府が責任を持って、皆さんをコミュニティーごと、どこかできちっと生活できるようにするというのが私は必要だと思っています。いま大地を汚している主犯人はセシウム134と137という放射性物質ですが、1平方mあたり4万ベクレルのところにいれば、1年間で1ミリシーベルトになると思います。避けることができません。それだけでももう、法律が決めている限度を超えて被ばくをしてしまうという事になる訳です。

そして今、小林さんが言って下さったように、そうではなくて局所的に汚染しているところもあちこちにあります。そういう所をきちっと調べて、子ども達が接するような場所からはそういう汚染を除くという作業を、これからもずっと続けなければいけませんけれども、環境中で放射性物質は移動していますので、ある場所を綺麗にしたと思ってもまたそこがしばらくしたら汚れてくるという可能性もありますので、これから長い期間にわたってそういう作業を続けていって、出来る限り子どもを被ばくから守るという事をしていっていただきたいと思っています。

その後、小出氏と小林氏の間で、自身の主張に対する科学的根拠について論争となった。その内容については割愛したいが、この論争の中で、小林氏は次のような言及を行なった。

小林:
普段の生活で感じて、生活の中ではリスクはあまり感じないわけですね。まぁ、そういう日常バイアスというものがある。たとえば今日ここに来られるのに歩いて来られた方、車で来られた方いらっしゃると思いますけれども、縁起悪い事言って申し訳ないけど、「帰りに交通事故に遭わないだろうか」とか、普通考えないですよね。しかしそれはゼロではない、リスクは必ずある。でも本当は皆さん日常生活の中でそういうリスクを何となく感じて保険に入ろうか、どれぐらいの保険に入っておこうかとか、あるいは飛行機で行った方がいいかな、列車の方がいいかな、という事を判断しています。ま、そういう日常的な感覚を、日常的な感覚の中に、同じように、

(会場:ザワザワ)

板倉:会場からの発言は後でお願いいたします。

小林:信用しないと、特別なリスクで考えてしまうとね、比較はしにくくなるんじゃないかなと思います。

つまり、日常生活におけるリスクは考えないのに、なぜ放射線のリスクだけ考えるのだということなのである。(会場:ザワザワ)とあるが、これらは、ほとんど、小林氏を批判する声であった。そして、この議論の別のところでも、同様の発言を行い、やはり、かなり会場から反発されたのである。

さらに、柳沢氏からは、「科学とは何か」という質問が出された。

柳沢:
次の質問ですが、科学というものについてちょっとお伺いしたいんですが、科学というのはなんだというふうに思われるでしょうか?
科学者としてどういうふうにあるべきだと思われるでしょうか?科学から誘導される利益と人の健康リスクをどのように思われるでしょうか?
それについて小林さんから

小林:
はい、科学には二つの役割があると思います。
一つは、人間の生活を安全に豊かに便利にする科学。物理的な心ですね。
もうひとつは訳の分からない不安、恐ろしい事、理解できない事を減らして、心の平穏と言いますか、あ、わかった、知らない所が分かった。「だんだん知っている世界が広がった」という、そういう喜びのもとにですね、そういう営みで。
で、世の中で、この複雑な世の中で、「物事をどっちにしたらいいだろう?」と決めて、いろいろと迷う時に、一番多くの人が納得できる物事の決め方が、科学の実験で明らかになって、「ああこういうだ」と思って決めていく。そういう事なんだろうと思います。

小出:
それは、その通りだと思います。
ただし、科学というのは要するに、自然、世界というものが、どういう姿なのかという事の真実を知りたくてやっているんですね。

で、長い間科学をみんな、沢山の人が関わってやってきた訳ですけれども、「知れば知るだけまた分からないものが広がってくる」という、
そういうのが科学という場所の世界でした。だから、科学というのは非常に大切なものです。わたしも科学に携わっている人間としてそう思います。人々を平和に、そして豊かにするというためにも大変力を持ったものだと思いますけれども、でも「科学は万能ではない」のです。必ずいつも「分からないものがある」というのが、むしろ科学の本質になっているわけで、「全てがもう分かってしまっている」というふうに、科学に携わる人が思ってしまって、「自分たちの判断が必ず正しい」と思いこむようなやり方は間違いだと、私は思います。

小林:もちろんそうですね、誰も反対しないと思います、科学者ならば。

この二人の意見の微妙な交錯は興味深い。小林氏は科学について①人間の生活を豊かに安全に便利にするもの、②不安、恐怖、無理解をへらして、納得できる意思決定をしていくものとししているのである。いわゆる、小林氏などの「リスク・コミュケーション」による「合意形成」というのは、後者に属するものであろう。

他方で、小出氏は、小林氏の「科学観」を否定はしないのであるが、「科学はやればやるほどわけのわからないものが出てくる」とし、科学は万能ではなく、「自分たちの判断が必ず正しい」と思い込むのは間違いだとしている。そして、そのこと自身は小林氏も反対しないのである。

そして、会場の聴衆からも、多くの質問が出された。専門的なものが多く、すべてを概括できない。私の覚えているものは、数字はわからないが、私たちは何のメリットもなく被曝によるリスクをおった、「人権を無視しても科学のメリットを生かされてもいいのか?科学のメリットのために人権は無視されてもいいのか?」というものであった。それに対して、両者は次のように答えた。

小林:
じゃあ、わたしから。
多分そういう質問にはお答えがずれていると思うんですけれども、さっき私が伝えたかった事はこの場でこの後どうしたらいいのか?ということで、汚されてしまってけしからんと、腹が立つというのは当たり前ですよね。完全に元通りにして欲しいと思う気持ちは当たり前です。自分だってそう思います。
でもそれが無理な場合に、じゃあどうするのか?っていう時に、一番自分と子どもにとってベストな方法をさがす。で、どれがベストなのか?
比べても分かりにくいところを図るための知恵が科学なんだろうと、そういう事になると思います、今の話しのなかにも。

柳沢:小出さんはいかがでしょうか?

小出:
私からは特にお答えするような事は無いと思いますが、科学は万能ではないし、科学が間違えることもあるし、原子力というものをやってきたことも、私は間違いだと思っています。それによって被ばくというリスクが新たに加えられてしまって、被ばくというのはメリットは何にも無くて、害悪だけがあるという、そういうものです。ですから今回の汚染というものは、全く正当化できないという、そういうものが生じている訳で、今後そういう正当化できない行為をどうすれば防ぐ事が出来るかという事を考えてほしいと。ま、科学も、そういうふうにきちっと考えて答えを出すべきだと思います。

小林氏にとっても、被曝に対する憤懣の念があることは認めているのである。しかし、完全な現状回復は無理であるから、ベストな方法をさがすのが科学という知恵だとしている。他方で、小出氏は、被曝という全く正当化できないものをつくり出した科学は万能ではなく、そういうことをどのようにしたら防ぐことができるかと答えている。

そして、ほぼ最後のほうで、柳沢氏は、次のような質問をしている。

柳沢:
一つわたくしからの質問をさせていただいてもよろしいでしょうか?
1ミリシーベルトというのが倫理的な基準であるというふうに、小林さんはおっしゃっているんですけれども、そうしますと、1ミリシーベルト以下を目指している柏市の除染というのはどういう事になるというふうにお考えになりますか?

小林:
倫理的なというのは、もう十分に低いから、適当に止めてもいいよという判断は正しくないだろう。だから放射線の変動レベル、事実上ゼロとみなしても、変動レベルという意味で、見なくてもいいという所まで、元通りに近いところまで除染していくっていうのは、倫理的に求められているという事です。そうしないと健康に影響が出る恐れが高いからという意味ではない。そういう意味で倫理的にということです。

柳沢:それに関しては小出さんは?

小出:
わたしですか?
私はもう繰り返して言っていますけれども、子どもたちに被ばくのしわ寄せをするという事は、私はやるべきではないと思っていますので、限りなくこれからも子どもたちの被ばくを減らすための作業というのを続けて欲しいと思っています。

そして、最後に主催者の柳沢氏より、小林氏が講演に応じた経緯が紹介され、2011年3月15日、前からもっていた線量計が警報をならしたこと、そして、その頃、子どもたちが公園で遊んでいる時、マスクを渡したがつけてくれなかったことなどをのべ、柏地域が「原発事故子ども・被災者支援法」の対象地域になるよう運動していくことなどを述べて、講演会は終了した。

この講演会は、原発推進派と反対派が同じ壇上にたって議論を行なったという意味で、異色であり、大きな価値があったと思う。特に、原発推進派の議論が、原発事故で被害を被った人たちの目からみて、どのような問題点がみえてくるのかということを如実に示しているといえる。小林氏と小出氏の見解の違いの一つは、「低線量被ばく」の影響をどうみるかという「科学的」なものである。そして、そのことは、聴衆であった一般市民の側にもおおむね了解されており、ここでは紹介できなかったが、かなり専門的な質問が飛んでいた。

他方で、この二人の違いは、科学というよりも、実践的姿勢の違いというところからも生じているように思われる。小林氏自身は、被曝の不当性は認めている。しかし、低線量被ばくの影響を少なく見積り、年間1mSvとする営為を「倫理的」でしかないとした上で、被曝からの現状回復を不可能なものとし、いわば状況を追認した形で「合意形成」をはかるということになるのである。その中で、科学ーというかむしろ小林氏自身の学説についてのようにみえるのだがーについては、物事を決める規範として認識されている。それを前提として、ある意味では「あきらめ」を説いているといえる。

小出氏の場合は、放射線被曝(彼は自然放射線も有害としている)全般を有害だとしながら、それを広範囲にひき起こし、この事態を放置している人びとの責任を、自分自身や聴衆も含めて問うているのである。そして、それは、自身が担ってきた科学への懐疑にもつながっている。このように、実践的な姿勢において、この両者は違っている。

ともあれ、このように比較して検討することを可能にした点で、この講演会の意義は大きいといえるのである。

他方で、このような講演会が行なわれた柏市を中心とした東葛地域の状況や、この講演会が東葛地域の今後にどのような意味をもってくるのか、そのことを考えて行きたい。

追記
この講演会についてはIWJがユーストリーム中継を行なっており、下記の動画で全体を視聴できる。前述したように、実際の講演内容とレジュメはやや違っているので、より詳細に内容を知りたい方はみてほしい。

http://www.ustream.tv/recorded/28626790

http://www.ustream.tv/recorded/28627168

また、前述したように、下記のブログが討論部分のおこしをおこなっている。

http://kiikochan.blog136.fc2.com/blog-entry-2732.html

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これまで、柏市や松戸市などの高放射線量地区ーホットスポットになってしまった地域において、「専門家」のご託宣にもかかわらず、市民や東京大学内部の批判によって、各自治体が放射線対策に乗り出した契機をみてきた。2011年6月、千葉県西北部の野田市、我孫子市、柏市、松戸市、鎌ヶ谷市、流山市の六市は、市ごとに独自に放射線量の測定をはじめるとともに、2011年6月8日、これらの自治体で東葛地区放射線量対策協議会(会長柏市長秋山浩保、副会長流山市長井崎義治、事務局柏市)を設置し、この協議会全体でも放射線の測定を行なった。さらに、千葉県には、この協議会に参加することをよびかけ(千葉県も参加)、政府に対しても「福島県以外の学校・幼稚園・保育所等における放射線量の安全基準値を早急に策定し公表すること、安全基準値を超えた場合の対応策を示すとともに、その対策に要した費用については、国が全額負担すること。」(柏市のサイトより)という要望書を6月29日に提出した。

東葛地区放射線量対策協議会の行なった放射線量の測定結果(第1回、6月14〜16日実施)は、今からみれば、かなり深刻なものであった。流山市では0.38〜0.58μSv/h、我孫子市0.26〜0.60、鎌ヶ谷市0.12〜0.29、松戸市0.21〜0.39、柏市0.42〜0.47、野田市0.08〜0.27という値を示した。鎌ヶ谷市と野田市だけが比較的低いが、それでも0.23μSv/hを超えている地点が出ていたし、他の市では、ほとんどの地点が0.23μSv/hを超えていた。5月29日・6月1日に千葉県が行なった測定や、6月前半に柏市が独自に小中学校、高等学校や、幼稚園・保育園を対象とした測定でも同様の結果が出ている。6月27〜29日には第2回の測定が行なわれたが、その測定結果でも0.23μSv/hを超えている地点が続出した。

そして、柏市では、6月23日に、このような見解を出した。福島第一原発事故の影響で放射線量が上昇しており、その後も東葛地区放射線量対策協議会を中心に測定していくとしたのである。ここでは柏市だけをあげたが、他市も同様の対応をしたと思われる。

柏市を含めた関東一円の放射能被曝は、福島第一原発において3月13日から15日に発生した一連の水素爆発が原因で、風により放射性物質が広がり、3月21日から22日に降った雨により地表に付着したものと考えられます。
現在の放射線量は、その地表に付着した放射性物質の影響によるものであり、雨などで地表面が洗われることで、少しずつ減少しています。
このことは、市原市モニタリングポストと東京大学柏キャンパスから推測できます。(右図参照)
このことから、福島第一原発において、今後、水素爆発等の事故が発生しなければ、柏市においてはこれ以上の放射線量の上昇はないものと考えています。
ただし、東葛地区の空間放射線量が比較的高めであることから、その影響に関する不安の声や自治体での測定及び評価を実施するよう要望があがってきており、市としても現状を把握し対策を講じる必要があると考え、検討を重ねてきました。
しかし、放射線に対する基準等が明確でないことを受け、専門家の指導・助言を踏まえながら空間放射線対策を広域的に行う必要があると考え、東葛6市(松戸市、野田市、柏市、流山市、我孫子市、鎌ケ谷市)で結束して協議会を立ち上げました(6月8日に正式発足)。市としては、この東葛地区放射線量対策協議会を軸に対応していきますが、必要に応じて独自調査などを行う予定です。
同協議会では、6~8月にかけて専門機関に委託して放射線量の測定を行い、数値は随時ホームページなどで公表します。測定結果の評価についても、専門家の指導・助言を得て7月上旬ごろに公表する予定です。
市としても、これらに基づき、今後の対応を検討していきます。
http://www.city.kashiwa.lg.jp/soshiki/080500/p008644.html

しかし、もちろん、柏市を始めとした各自治体には、放射線量の専門家はいない。そこで、東北大学名誉教授中村尚司(前文部科学省放射線審議会会長)、東京大学准教授飯本武志(環境安全本部)、国立がんセンター東病院機能診断開発部長藤井博史(臨床開発センター)を専門家として参加させたのである。

そして、2011年7月8日、この3人の専門家と6市の市長たちにより、「第1回・第2回東葛地区放射線量測定結果等について」を議題として、第1回東葛地区放射線量対策協議会が我孫子市役所で開催された。まず、事務局より「測定結果は、毎時0.65~0.08マイクロシーベルトであった。文部科学省がICRPの参考レベルを基準化した毎時3.8マイクロシーベルト時、線量低減策の基準である毎時1.0マイクロシーベルトを下回っていた。」という見解が示された。まず、文部科学省が提示した3.8μSv/hという基準には達していないというのである。この時期、すでに文部科学省でも年間1mSv以下をめざすことを余儀なくされていたが、そうではなく、年間20mSvを基準とした3.8μSv/hもまだ基準となっていた。さらに、文部科学省が校庭などの除染費用を出すとしている1μSv/hも基準としている。この基準は年間で5mSvにあたる。いずれにせよ、東葛地区の測定値は基準を下回っているとしているのである。

そして、三人の専門家は、このように意見を提示した。

飯本准教授
今回の数値は絶対的なものではなく、様々な要因で変動する事実の理解も重要である。また、放射線計測上の15~20%程度の測定誤差は避けられず、例えば少数第2位の数値をもとに細かい議論をすることは得策でない。
2平方キロメートルメッシュの測定を優先し、線量分布の全体像を早期に整備することが必要。
市民向けの情報交換会を頻繁に開催し、市民の懸念に耳を傾け、リスクコミュニケーションを広げることが大切。多勢に向けたシンポジウムよりも小規模で双方向的な勉強会が望ましい。
藤井氏
東葛地区の空間線量では、外部被ばくによる発がんの有意な増加は考えられない。
東葛地区で体内に摂取される放射性核種の量は、既に体内に内在している放射性核種の量に比較して、有意に大量ではない。
東葛地区の放射線汚染の現状が住民の生命を直ちに脅かすものではないが、住民の被ばく線量を低減させるための努力を続けるべきである。
中村教授
通常のバックグラウンドに比べて高いが、数値は毎時1マイクロシーベルトより低く心配ない。2回の測定結果で数値がほとんど変化していないので今後は測定をもっと減らし、測定地点も少なくして構わない。
国内法令では、5ミリシーベルトは通常時でも、一般公衆に対する線量限度として、特別な場合は許容されている。また、日本人の内部被ばくを含めた年間の積算線量は約2.2ミリシーベルトあるといわれている。多大な人員と費用をかけて年1ミリシーベルト以下とすることは、ICRPが掲げているALARA(合理的に達成できる限り低くする)の精神に反する。
文部科学省が示した校庭の除染費用を出す目安である毎時1マイクロシーベルトは妥当な値である。屋外8時間、屋内16時間の計算式にあてはめると1年間の線量は約5ミリシーベルトになり、平常時の法令に照らしても問題ない。
http://www.city.kashiwa.lg.jp/soshiki/080500/p009027.html

飯本の議論も仔細によめば、自然の宇宙放射線や建材などに元々含まれている放射線物質の影響について言及しているのだが、とりあえず、線量分布の全体像を把握する必要性は指摘しているとはいえる。

他方で藤井は「東葛地区の空間線量では、外部被ばくによる発がんの有意な増加は考えられない」と述べている。藤井は国立がん研究センターの職員であり、この程度では、がんにならないというお墨付きを専門家が出しているといえるだろう。

中村にいたっては、「多大な人員と費用をかけて年1ミリシーベルト以下とすることは、ICRPが掲げているALARA(合理的に達成できる限り低くする)の精神に反する。文部科学省が示した校庭の除染費用を出す目安である毎時1マイクロシーベルトは妥当な値である。屋外8時間、屋内16時間の計算式にあてはめると1年間の線量は約5ミリシーベルトになり、平常時の法令に照らしても問題ない」とまで主張している。そして、測定もなるべくしないように述べている。中村は、文部科学省の放射線審議会の前会長であり、「専門家」中の「専門家」である。別に、自治体の首長たちのように、財政的な考慮を行なう必要はないはずである。

そして、このような議論は、質疑の中でも続くことになる。松戸市長本郷谷健次は、次のように質問し、藤井・中村は、次のように答えている。

本郷谷市長
放射線発がんの生涯リスクは被ばく時の年齢が影響するとされていたが、問題ないとされている年間5ミリシーベルトという値は、子ども・乳幼児にとっても問題ないと考えていいか。
中村教授
放射線に対する感受性は(子どもの方が)高いが、子どもががんになるのではない。
藤井氏
ICRPの出されている(確率的影響の発生頻度の)数値は年齢も考慮して算出されているが、年齢ごとの数値は出されていない。
広島・長崎の原爆の調査結果からは、10歳以下の子どもの場合、成人に比べてがんのリスクが2~3倍増える可能性はある。年間1ミリシーベルトでの発がん率は10万人あたり5人とされているが、この数字が2~3倍になったとしても(実際にはこの数が2~3倍になるわけではない)大きな数値にはならないといえる。
若いうちに被ばくしても、実際にがんが発生するのはある程度の年齢になってからであり、子どもの被ばくを大人と比べて神経質にとらえることはないと思う。
本郷谷市長
保護者はがん年齢になったときの影響を心配している。その点をどのように説明できるか。
中村教授
被ばくした線量による。この程度の線量で、発がん率が有意にあがるとは思えない。100ミリシーベルトを超える値であれば、大人と子供で明らかに差が出てくると思うが、今の状況で影響が出ることは考えられない。
飯本准教授
ある線量以下の数値はリスクマネジメントの領域になってくる。放射線のリスクをどの程度まで容認するかという点がひとによって感覚が異なり、論点になる。リスクマネジメントの考え方を上手に伝えて、数値のもつ意味を伝えることも重要である。
例えば1ベクレルのセシウムによる内部被ばくの影響は、年齢別の感受性の違いも考慮して、線量換算係数を用いてシーベルトに換算することができる。小さな子供の場合は、同じ量のセシウムを体内に入れても、大人の場合よりもシーベルトの数値が大きくなるような計算の仕組みができている。
今回は、地上1mと50cmの高さの放射線量を測定しており、外部被ばくについての子どもと大人の線量の差を明確化している。
このようにシーベルトの算出の過程に、感受性の高い子どもの数値が大人よりも高く評価されるような仕組みを持っており、リスクマネジメントのある段階までは計算でなされていることに留意すべき。
http://www.city.kashiwa.lg.jp/soshiki/080500/p009027.html

藤井は、広島・長崎の調査結果から、10歳以下の子どもが被曝した場合、がん発生リスクが2〜3倍になることは認めつつも、「若いうちに被ばくしても、実際にがんが発生するのはある程度の年齢になってから」としている。そして、本郷谷市長に「保護者はがん年齢になったときの影響を心配している。その点をどのように説明できるか。」と批判されている。さらに、中村にいたっては「この程度の線量で、発がん率が有意にあがるとは思えない」と発言している。

特に問題になったのは、年間1mSvという基準についてである。各市長たちは、住民の世論では年間1mSvが安全基準となっており、年間5mSvを基準にすることは納得されないと主張している。例えば、野田市長は、「市民の頭には、年間1ミリシーベルトという目標値がすでに入っている」と発言し、「少なくとも文部科学省は年間20ミリシーベルトから毎時3.8マイクロシーベルトを算出しており、その計算式を適用すれば、年間1ミリシーベルトは毎時0.19マイクロシーベルトになってしまう。これから時間をかけて説明する必要があると思うが、現時点でそのような説明をしても納得してもらえない」と述べている(なお、私も年間1mSvを前提として0.23μSv/hという基準を使っているが、それに対して疑義がないわけではない)。それに対して、主に中村が「現行の法律でも特別の場合は年間5ミリシーベルトという線量限度の数値は規定されている。今回の事故に関して、文部科学大臣は、回復時には年間1ミリシーベルトを目指すと発言しただけである」「現状では数値が先行していて、それを超えたら何かしなければならないとなっている。そのようなことをしていたら莫大な費用が掛かってしまう」と述べ、反論している。中村は、ここでも、「費用」というコストを最大の検討材料としているのである。

本郷谷市長
年間1ミリシーベルトという値が独り歩きしており、これが安全基準になっている。この値をどのように説明すればいいか。
中村教授
原発の施設設計・管理の基準であり、安全か危険かの基準ではない。
飯本准教授
平時や計画時のルールと事故時や復旧時のルールは考え方が異なる。事故時や復旧時に平時のルールは使えない。そのために1~20、20~100ミリシーベルトといった幅をもったバンドによる数値表現がICRPによって提唱されている。復旧時には相当するバンドの中で、ある目標値に向かって線量を合理的に下げる努力をしていくことになる。ICRPやIAEAは、事故直後の暫定的なルールを示しているが、その後の復旧時における新しいルールを作る場合には、検討の透明性を高めて、ルール決定に至るプロセスを記録に残しておくべきとしている。数値基準を定めるときを特にこの点に注意すべきである。
根本市長(崇 野田市長)
文部科学省が学校において年間1ミリシーベルトという目標値を示しているが、これと比べて中村先生がお示しした毎時1マイクロシーベルトで年間5ミリシーベルトまで問題ないとする見解はどのように解釈すればよいか。
中村教授
現行の法律でも特別の場合は年間5ミリシーベルトという線量限度の数値は規定されている。今回の事故に関して、文部科学大臣は、回復時には年間1ミリシーベルトを目指すと発言しただけである。
根本市長
市民の頭には、年間1ミリシーベルトという目標値がすでに入っている。年間5ミリシーベルトという数値を市民に説明する際に、どのようにすればいいのか。
飯本准教授
最終的には1ミリシーベルトを目指すとしているが、達成が不可能なケースも、もしかしたら出てくるかもしれない。
代表的な線量を見ながらどのような対策をすべきかという議論は必要だと思うが、今の段階でどれくらいの数値が出たらこの対策をしなければならないということを安易に決めるのは、プロセスとして間違っている。なんらかの数値基準を決めるならば、情報をきちんと整え、関係者で話し合う手続きを踏むことが大切だと考えている。その意味で、私が提言したように小さいお子さんをお持ちの方との情報交換の場を設定することは、プロセスとして重要であると考えている。
やれることをやれる範囲で低い線量を目指すという姿勢はきわめて重要。また一回線量低減対策を実行すればそれでいいというものでもない。常に、最適化をしていくということが大事。
まずは急いで、データをきちんとそろえることが重要である。
中村教授
ICRPでもALARA(合理的に達成できる限り低くする)ということをいっている。その対策をしてどれだけ意味があるのかを考えていかなければならない。
本郷谷市長
市民の立場からみれば移動の自由がある。ある地域は他と比べて数値が高いとなると市民は別の場所に引っ越しできるし、他から人が来ないということになる。この数値ならば問題ないということを市民が納得してくれればいいが、いろいろ議論がある中で説明に苦慮している。
飯本准教授
どの線量がいいかは、ひとそれぞれリスクに対する考え方の違いがあり決められない。いろいろな考え方がある中で、合議をしながら最終的な対応を決めていくという手続きを踏むことが重要である。
清水市長(聖士 鎌ヶ谷市長)
数値的な答えとしては中村先生がおっしゃっている毎時1マイクロシーベルトが妥当ということでよろしいか。
中村教授
私はそのように思うが、気になるようであれば特に高いところの線量低減をしてもいいのではないか。
清水市長
新聞などでは年間1ミリシーベルトであれば、毎時0.19マイクロシーベルトであると書いている。0.19を基準とされると東葛6市ではほとんど基準を超えてしまう。
飯本准教授
年間1ミリシーベルト=毎時0.19マイクロシーベルトの単純換算は誤り。1年間の基準では、一時的に少々高い値が示されたとしても許されるが、時間単位にするとそれが許されなくなる。現実からかけ離れた机上の計算を基準に議論するのは賛成できない。
根本市長
少なくとも文部科学省は年間20ミリシーベルトから毎時3.8マイクロシーベルトを算出しており、その計算式を適用すれば、年間1ミリシーベルトは毎時0.19マイクロシーベルトになってしまう。これから時間をかけて説明する必要があると思うが、現時点でそのような説明をしても納得してもらえない。
飯本准教授
年間20ミリシーベルト程度のところであれば、自然放射線を含めて考えてもいいが、年間1ミリシーベルト程度のところを議論するなら自然放射線を除外して考えなければいけない。誤解が多いため、ICRPも注意深く書いている部分。
中村教授:現状では数値が先行していて、それを超えたら何かしなければならないとなっている。そのようなことをしていたら莫大な費用が掛かってしまう。
飯本准教授
数値基準は安全と危険の境界線ではない。数値基準だけを前面に出すことは、リスクに関するメッセージ性を考えても間違っている。放射線は身のまわりに存在するさまざまなリスクの一部であり、ことさら放射線リスクだけに着目するのは、バランスとしてよくない。ICRPの提唱するALARA、最適化をまさに実践するとき。藤井先生ご指摘のように、もっと別のリスクにも、バランス良く目を向け、対応を判断する必要があるのではないか。
星野市長(順一郎 我孫子市長)
市民の方は、国の年間1ミリシーベルトという基準値から逆算した毎時0.19マイクロシーベルトという数値が頭に入っていて、国の基準値を超えていると考えている。実際はそうではないが、ある程度低い数値を基準値として示さない限り、納得してもらえない。
飯本准教授
市民の方は非常によく勉強されている。一方、情報が氾濫しており、その中でも興味や関心を強く引くような特定の情報に傾倒してしまうケースもあるよう。しかし、落ち着いて、真摯に情報交換をすれば冷静に耳を傾けてくださる方も多いと感じている。地に足をつけたしっかりしたリスクコミュニケーションを進めるのが重要。
早急に新たな線量基準だけを作るというのは、ICRPの提唱する手順からいっても間違っている。
星野市長
国に対して基準値と低減策を示すように要望しているが、国の対応はにぶいようである。市町村としては対応に苦慮している。
一つの方法として、野田市が行ったように学校・保育園等で職員に積算線量計を携帯させて積算線量を測定し、公表する。実際の積算線量がわかれば、安心感につながるのではないか。
http://www.city.kashiwa.lg.jp/soshiki/080500/p009027.html

重要なのは、松戸市長が「市民の立場からみれば移動の自由がある。ある地域は他と比べて数値が高いとなると市民は別の場所に引っ越しできるし、他から人が来ないということになる。この数値ならば問題ないということを市民が納得してくれればいいが、いろいろ議論がある中で説明に苦慮している。」と発言していることである。移動の自由がある限り、世論から離れた安全基準で対策を行なうと、住民が減ってしまうのである。これは、この地域で現実におきていることである。この地域は、首都圏のベットタウンであり、職場だけでいえば、他地域へ移動することは容易である。なお、さらに、職場すらもかえて、関東地方外に移動する人びとすらいるのである。ゆえに、この地域では、住民減少を少しでも食い止めるために、放射線量低減対策に自治体としても積極的に行なわざるをえないということになるといえる。

そして、このような「移動の自由」は、被災地の福島県では、実質的に保障されていないといえる。高線量地域をさけることは本来自由であり、その自由のため住民が減少するというならば、各自治体は放射線対策に本気で取り組まなくてはならないはずである。首都圏のホットスポットと比較すると、その点が福島県は違うといえるのである。

最終的に、柏市長より「6市の基本的認識と今後の方針については、「東葛6市の空間放射線量に関する中間報告及び今後の方針」のとおり決定させていただく。」という発言があり、この協議会は終了した。この「今後の方針」について、結論部分のみ引用しておこう。

第3章 基本的認識と今後の方針
以上の結果より、現状において東葛地域の空間放射線量は、直ちに対策が必要となる状況にはないと考えられた。しかしながら、同時に国際放射線防護委員会勧告においては、合理的に達成出来る限り放射線量を低減すべきとしている。また、地域住民から引き続き不安の声が寄せられていることを鑑み、安全よりむしろ安心に資する取り組みが必要であるとの認識に立ち、更なる措置として、今後は、以下のとおり、取り組みを行うこととした。

 引き続き空間放射線量調査は実施し、実態把握を進める。
 測定結果と生活実態調査の結果に基づき、個々の施設において年間の被ばく量を算定するなど、管理を徹底する。
 管理の基準は、国際放射線防護委員会勧告に示された目安を尊重し、学校保育園,幼稚園等の施設において年間1ミリシーベルト(自然界からを除く)を目標とする。
 相対的に空間放射線量の高い区画の把握及びその区画における空間線量低減方策を検討する。
 各自治体が各施設等の実情に応じ、優先順位を定め、費用対効果を勘案して具体的取り組みを順次進める。

1.放射線量の低減策について
具体的な放射線量の低減対策実施にあたっては、優先順位を決め、低減効果の実証実験等を行うなど、費用対効果を勘案し検討することとした。
2.今後の調査方針
各市域2kmメッシュ内の代表施設について、早期に測定値を把握することを優先する。また、きめ細かな測定を迅速に行うため、東葛6市で比較校正を済ませた簡易測定器を複数台入手する。

3.国や東京電力(株)に対する要望活動
(1)実態に即した被ばく線量の推計、評価方法の確立を国に求めて行く。
(2)放射線量低減を図るために行った費用負担を国及び東京電力(株)に求めていく。
http://www.city.kashiwa.lg.jp/soshiki/080500/p008816_d/fil/housin.pdf

ある意味では玉虫色の見解だが、重要なことは、年間1mSvをめざすということが、これらの6市の方針として明記されたことである。この方針策定については、事前に中村らの意見も聞いていたはずと思われるが、結局、中村のいう1μSv/h(年間5mSv)は採用されなかったのである。これは、世論の反映ということができる。首長たちは、住民の世論を、「専門家」の主張よりも重視せざるを得なかったのである。そのかわり、中村の持論と思われる「費用対効果」が明記されることになったと考えることができる。

そして、住民の世論を無視して主張する「専門家」のこのようなあり方こそ、福島第一原発事故で問われたものの一つということができよう。このような「専門家」の主張に抗しつつ、住民の世論が自治体の首長たちを動かすことによって、「年間1mSv」という基準は意味あるものとされていったということができよう。

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