Feeds:
投稿
コメント

Posts Tagged ‘ホットスポット’

さて、福島第一原発事故で全村避難した飯舘村は、「子育て世帯」限定の災害公営住宅「飯野団地」を福島市の南西部に位置する福島市飯野町に建設した。その竣工式が8月31日にあった。その景況を、まず、福島民報のネット配信記事でみてみよう。

飯舘村の災害公営住宅が完成 原発事故の避難者に初

 東京電力福島第一原発事故の影響で全村避難した飯舘村は31日、村営の災害公営住宅「飯野団地」の竣工(しゅんこう)式を福島市飯野町の現地で行った。原発事故の避難者を対象にした災害公営住宅が完成したのは初めて。1日から入居を開始する。
 村の担当職員と村民ら合わせて約40人が出席した。菅野典雄村長があいさつで「今後も前を向いて復興を進めたい」と意欲を語った。根本匠復興相(衆院本県2区)が「復興の加速化に努める」と祝辞を述べた。
 菅野村長と根本復興相らがテープカットした。菅野村長は家族4人と引っ越す佐藤隆一さん(39)に鍵を引き渡した。佐藤さんは村の仮設小中学校に通っている子ども3人を育てている。妻明美さん(38)と木造2階建ての新たな住宅を眺め、「借り上げ住宅より広そう。暮らすのが楽しみ」と期待していた。
 村は総事業費約9億3000万円を投じ、子育て世帯対象の災害公営住宅23戸を建築した。住民は収入に応じて1~8万円ほどの家賃を支払うが、東電が賠償する。7戸が空いており、村が入居希望者を募っている。

( 2014/09/01 09:11 カテゴリー:主要 )http://www.minpo.jp/news/detail/2014090117805

報道全体は、非常に「前を向いて復興を進めたい」という趣旨に見える。夫婦と子ども3人で入居する人などは「借り上げ住宅より広そう。暮らすのが楽しみ」といっている。家賃は「東電が賠償する」ことになっている。全額かどうかはわからないが、かなり有利な条件である。

それでも、23戸のうち、7戸が空いているのである。それは、なぜだろうか。福島民友は、6月14日に、次の記事をネット配信している。この記事の中で、飯舘村は、希望者が少ない原因を「引っ越しなどの環境変化による子どもたちのリスクや賠償問題、除染の先行きが不透明なことなどで悩んでいるのではないか」と述べている。

福島民友

入居希望は7割止まり 福島の飯舘村復興公営住宅

飯舘村が福島市飯野町に23戸を建設中の復興公営住宅に、入居を希望している村民は16世帯と約7割にとどまっていることが13日、分かった。復興公営住宅は8月に完成し、9月の入居開始を見込んでいる。

入居希望者の募集は5月末で締め切った。希望者が7割にとどまった理由について村は「引っ越しなどの環境変化による子どもたちのリスクや賠償問題、除染の先行きが不透明なことなどで悩んでいるのではないか」と分析している。

村は現在、仮設校舎を川俣町に小学校、福島市飯野町に中学校を設置。避難している子育て世代は、福島市の借り上げ住宅に住んでいる家族が多いことから、村は通学など利便の高い福島市飯野町に復興公営住宅の建設を計画した。

飯舘村が福島市飯野町に造る復興公営住宅は、原発避難住民が入居する最初のケースとなる見通し。県が建設する4890戸の復興公営住宅のうち、飯舘村民に限定した福島市の復興公営住宅でも募集定員を下回るケースが目立っている。

minyu_main

(2014年6月14日福島民友ニュース)
http://www.minyu-net.com/news/news/0614/news10.html
(福島民友が上記記事のネット配信をやめたため、http://blog.livedoor.jp/home_make-toaru/archives/7726902.htmlより転載。

さて、この中で「除染」をあげていることに注目しておきたい。飯舘村が仮役場や仮中学を置いている福島市飯野地区は、3.11直後では、福島市内でも高線量地域のホットスポットとして知られていたのである。福島民報が2011年6月25日にネット配信した記事をみてみよう。

福島民報

「ホットスポット」点在 福島市一斉線量測定 3マイクロシーベルト以上15地点 住民、除染求める

 福島県福島市は24日、全市1118地点の一斉放射線量測定結果を発表した。渡利地区の市営住宅1号棟・2号棟間公園で毎時3.83マイクロシーベルトだったのをはじめ飯野地区などの計15カ所で、政府が避難の目安とする年間積算線量20ミリシーベルトに達する恐れのある毎時3.0マイクロシーベルト以上となった。市は高い線量の地点を立ち入り禁止とした。局地的に放射線量が高い「ホットスポット」が明らかになり、付近の住民は1日も早い除染を求めた。
 市の調査は17、20日に町内会から要望があった場所で実施。地上1メートルの測定結果は毎時3.0マイクロシーベルト以上が15地点、2.0マイクロシーベルト以上3.0マイクロシーベルト未満が167地点、1.0マイクロシーベルト以上2.0マイクロシーベルト未満が629地点、1.0マイクロシーベルト未満は307地点だった。
 県が学校、公園の放射線量の再調査基準にしている毎時3.4マイクロシーベルト以上を計測した6地点には住宅地も含まれる。渡利地区は平ケ森の市営住宅間の公園が毎時3.83マイクロシーベルトとなったほか、大豆塚のゴミ集積所が毎時3.56マイクロシーベルト、三本木のゴミ集積所が毎時3.52マイクロシーベルトを記録した。
 市内飯野町の飯野地区体育館脇の側溝上では市内で最も高い毎時6.65マイクロシーベルトを記録した。飯野地区体育館は敷地内の別の測定地点が毎時1.2マイクロシーベルトだったことから、市は側溝上で測定したため数字が上がったとしている。市は24日までに側溝の周囲を立ち入り禁止としている。
 市は6地点について数日間調査を継続し、文部科学省の暫定基準値である毎時3.8マイクロシーベルト以上が続く場合は県に詳細なモニタリング調査を要請する。今回の結果を分かりやすく市民に広報するため線量マップの作成も急ぐ。
 毎時3.0マイクロシーベルト以上の地点は渡利地区が6地点(調査60地点)だった。大波地区は2地点(同22地点)、小倉寺地区は2地点(同6地点)、飯野地区は2地点(同127地点)、腰浜町が1地点(同7地点)、南向台が1地点(同5地点)、山口が1地点(同15地点)で上回った。飯野地区の2地点は同一の場所だった。
 市は測定結果に基づき対応を急ぐ。結果が報告された24日の市災害対策本部会議では、高い線量を計測した地域から通学路の放射線量を下げるため除染計画を策定することを決めた。今後、高圧洗浄機を利用した除染に向け準備を進める。
 鴫原和彦市環境課長は「今回の数値は簡易放射線測定器を使っているため、一割ほど高い数値が出る傾向にある」としている。
 市は地上1メートルの市内全ての測定結果を24日からホームページに掲載している。町内会の回覧板でも広報する。各地点の地上50センチ、1センチの結果については30日にホームページに掲載する方針。

■「やっぱり高かった」渡利地区住民
 「やっぱり高かったのか」。福島市渡利字平ケ森の市営住宅に住む主婦菅野博江さん(44)は、毎時3.83マイクロシーベルトの放射線量が測定された団地内の公園を不安そうに見つめた。
 菅野さんは近隣の渡利小に通う4人の子どもがいる。原発事故直後から子どもに外遊びを禁止してきたが、ストレスが心配で、今回の調査対象となった市営住宅の団地の公園で2カ月程度の間、遊ばせていたことがあったという。「もう絶対に公園内に子どもを入らせない。学校のように表土除去をしてほしい」と切実に訴えた。
 「家にいるとつまんない。でも外で遊ぶのも心配」。長女の夏純さん(10)は思わずうつむいた。
 24日夜になって市は公園に立ち入り禁止のバリケードを設置した。渡利平ケ森町内会長の小松富士夫さん(75)は「避難を求められたとしても、住み慣れた土地を今更離れられない」と表情を暗くした。

■腰浜緑地など3以上3.4マイクロシーベルト未満
 市の調査で毎時3.0マイクロシーベルト以上3.4マイクロシーベルト未満が測定された場所は次の通り。
 腰浜緑地(腰浜町)渡利山際集会所(渡利字平ケ森)公務員アパート1号棟・2号棟間公園(同)公務員アパート2号棟前(同)前野グラウンド(小倉寺字前野)3号公園(南向台三丁目)字五本松地内市道(山口字五本松)水雲神社境内(大波字上屋敷)
(2011/06/25 10:59カテゴリー:福島第一原発事故)http://www.minpo.jp/pub/topics/jishin2011/2011/06/post_1437.html

2011年の際、福島市渡利地区には毎時3.83μSvが記録される地点があり、その他にも年間積算線量で20mSvをこえる毎時3μSvをこえる地点が数か所所在し、全国的にも福島市におけるホットスポットとして知られるようになった。飯野地区では、渡利地区よりもはるかに高い毎時6.65μSvが記録され、その他にも毎時3μSvをこえる線量が記録されていたのである。あまり注目されてこなかったが、ここも福島市内におけるホットスポットであったといえるだろう。

2011年4月の航空機モニタリング測定による空間線量率マップでは、飯野地区を含む福島市南東部の放射線量は、ホットスポットは別にしても、毎時1−1.9μSvとされている。伊達市近傍やもちろん飯舘村本体ほどではないにせよ、線量は高かったのである。

80km圏内における線量測定マップ(2011年4月)

80km圏内における線量測定マップ(2011年4月)


クリックして1305820_20110506.pdfにアクセス

現在のところ、原子力規制委員会の放射線モニタリング情報によると、福島市飯野支所(飯舘村仮役場がある)で毎時0.162μSv(2014年9月2日)となっている。福島市立飯野中学校で毎時0.261μSvと多少高いが、その他の小中学校などの公共機関はおおむね飯野支所程度の線量である。しかし、これは集中的に除染した結果とみるべきだろう。2013年11月の空間線量率マップでは、この地域の線量はおおむね毎時0.5-1.0μSvとされている。やっと半減したにすぎない。やはり、年間1mSvはこえざるをえないのである。山林などを面的に除染することは困難であり、相対的にはやはり高線量地域ということになるだろう。

80km圏内における空間線量率マップ(2013年11月)

80km圏内における空間線量率マップ(2013年11月)


クリックして362_20140307.pdfにアクセス

こうやってみると、飯舘村の災害公営団地「飯野町団地」が、好条件にもかかわらず、空き家が出る理由がおぼろげながらもわかるだろう。3.11直後はホットスポットであり、確かに公共機関などの除染は進められたものの、面的には除染は難しく、まだ線量は半減という状態であり、そういうところで、わざわざ「子育て」を希望する人びとはそれほど多くなかったということである。

国・福島県・飯舘村は、年間20mSvという基準で、避難住民の「帰還」を促進しようとしている。この公営住宅の建設は、そのさきがけであろう。わざわざ、根本復興相が出席しているのは、その目的のためと見られる。公営住宅に住むということは、単に個人の生活というだけではなく、「公的な責務」となっている。そこに、善意がないとはいえない。「郷里のため」という善意は、軽くみることはできない。「飯舘村復興のため」ならば、「子育て」中の家族からもどってほしいと思うのも自然である。

しかし、考えてみよう。日本は「お国のため」といって戦争を遂行し、浜通りの各町は「町の発展のため」として原発を受け入れた。その結果は、かくの通りである。一人一人の「生」を安全で充実したものになることが「〇〇のため」になるのではないか。飯舘村が「村の復興」をスローガンにした。そこには「善意」ももちろんあるだろう。しかし、それが村民一人一人の「生」を安全で充実なものにさせるとは限らない。飯舘村公営住宅に「入居」しない人びとがいるということは、そういう思惟が存在するようになったことを示しているように思われるのである。

Read Full Post »

さて、また、首都圏のホットスポットとなった千葉県の状況を、柏市の動向を中心にみていくことにする。以前、本ブログで前述したが、学校施設の除染基準を年間20mSvから1mSvに事実上かえた文科省の措置、市民からの不安の声、東京大学内部での批判により、2011年5〜6月より、柏市、我孫子市、野田市、松戸市、鎌ヶ谷市、流山市の東葛6市は、独自に空間放射線量を測定するなど、独自の放射性物質対策を実施しはじめた。しかし、いまだ、「専門家」たちは、この地域の首長たちが開催した7月8日の「東葛地区放射線量対策協議会」で放射性物質対策は必要はない、測定もこまめに行う必要がないと主張し続けた。

しかし、首長たちは納得せず、同日、今後とも放射線量測定などの独自の対策を講じること、費用対効果を考慮しつつも、学校施設については、年間1mSv以下にすることをめざすことなどが決められたのである。

柏市で月2回発行されている柏市民新聞2011年7月22日号によると、柏市としては、次のような対策を講じることになっていた。

 

また、6市のうち松戸市と野田市と野田市を除く4市では、今後の対策として、積算可能な測定機を購入し、全小学校と保育園、幼稚園に各1機を配備する方針を決めた。8月中に揃え、9月から現場の線量を年間通じて測っていく予定。2市については検討中だという。
 また、柏市では、夏休み中に市内の各小学校で細かい測定を行う。学校ごとに線量を図面に落とし、高い数値の場所については、教職員らで清掃する。限られた時間で、きめ細かく清掃するため、保護者らの協力を仰ぎたいとしている。
 ごみ処理場の基準値を超える放射性セシウムについては、秋山浩保市長が15日、環境省に早期対応の緊急要望を提出したが、21日の時点で国の回答はなく、進展はみられていない。

つまり、学校・保育園・幼稚園ごとに測定機を備え付けるともに、小学校では夏休み中にきめ細かく線量を測定し、高い場所では教職員らで「清掃」ー除染することになっていたのである。そして、小学校の測定・除染については、保護者らの協力を仰ぎたいとしている。教職員・保護者らの、いわばボランティアによる線量測定、除染が提起されたといえる。

しかし、すでに、放射性物質の問題は、学校施設の問題に限定されるものではなくなっていた。先の記事の中にも述べられているが、柏市の二つある清掃工場の焼却灰などより、環境省の基準である1kgあたり8000bqをこえる放射線量が検出されたのである。基準をこえる焼却灰などは、最終処分場に埋め立てて一時保管することになっているが、その準備が整うまで工場に仮保管されることになっており、基準以下の場合は、通常通り最終処分場で埋め立てることになっていた。しかし、柏市民新聞が「いずれの措置にしても、工場付近の住民の理解は得難く」といっており、柏市長としては、環境省に早期対策を要望した。結局、第一清掃工場は操業停止となり、第二は稼働を継続したが、もし国・県の対策が遅れた場合、1〜2月程度で双方とも保管限度をこえて操業停止となるという状態だったのである。なお、この問題は、現在もこの地域に重くのしかかっているのである。

さらに、柏市は、7月28日から市内農産物の放射性物質調査を開始した。柏市民新聞2011年8月12日号には、その目的として、「柏市産の安全性を確認し、風評被害を防ぐこと」としている。農産物の放射性物質調査は千葉県が実施していたが、柏市の調査は簡易調査と位置づけられており、この市の検査で200bqをこえた場合、厚労省の登録検査機関に送って、暫定基準値を超えていた場合は、出荷停止となるというシステムになっている。柏市民新聞2011年8月12日号によると、ブルーベリーにおいて、セシウム134が40.9bq、セシウム137が44.6bq検出された事例があったが、いずれにしても暫定基準値をこえたものがないとしている。なお、千葉県も、柏市産を含めた千葉県産の早場米の検査を8月から開始している。

加えて、1kgあたり500bqという暫定基準値をこえた牛肉が発見されたことから、8月より学校給食の食材に対する放射線セシウムの検査を開始することを決めた。

このように、柏市では、2011年7〜8月から放射性物質対策がとられてようになってきたが、市民の目からみれば、まだまだ不十分なものであった。朝日新聞朝刊2011年8月11日号には、次のような記事が掲載されている。

千葉の幼稚園 独自に土除去
 福島第一原発から約200キロ離れている千葉県の柏市や松戸市などは市の発表で毎時0.3〜0.4マイクロシーベルト前後になる場所がある。福島県発表のいわき市(同0.2マイクロ程度)を上回る。千葉県が発表する市原市の同約0.04マイクロに比べ1桁高い。放射性物質が他よりも多く降り注いだ「ホットスポット」と呼ばれる場所だ。
 千葉県柏市の私立みくに幼稚園で8日、杉山智園長らが花壇の表土をはがして古い浄化槽の中に埋める作業をした。花壇は毎時約0.4マイクロシーベルトだった。
 園庭の放射線量は0.1マイクロシーベルト。これは5月の測定で0.4〜0.5マイクロシーベルトだったので表土の入れ替えをしたためだ。杉山園長は「子どものために実行可能なことはやらざるを得ない」という。
 柏市など6市は対策協議会を開き「低減策が国の財政支援の対象になる毎時1マイクロシーベルトを上回る地点は確認されなかった」などとの中間報告を7月にまとめた。柏市は小中学校などで線量を細かく測定し、線量の高い場所は清掃や草の除去をするというが、校庭の表土の入れ替えなど大規模な工事の計画はない。
 子どもの被曝を心配する親らが約1万人の署名を集め校庭や公園で土砂の入れ替えなどを求める要望書を6月に柏市に出した。その一人、主婦の大作ゆきさん(33)は「市の動き方は鈍い」と批判する。大作さん自身は10日、1歳と3歳の2人の子どもとともに大分県に一時避難した。(編集委員・浅井文和)

このように、市立の小中学校においても大規模な除染を行うことは想定されておらず、「市の動き方は鈍い」と批判される状況であったのである。そして、私立幼稚園としては、独自に除染作業を開始したのであった。

しかし、朝日新聞の報道後、柏市の放射性物質対策はやや進展をみせる。8月19日には、職員4人の「放射線対策室」が環境部内に設置された。柏市のサイトでは、このように設置目的が説明されている。

福島第一原子力発電所の事故に伴い、市民の皆さんから放射線に対する不安の声が多く寄せられていました。現在、空間放射線量の低減対策については、子どもを対象とした部署を中心に関係各課が行っているところです。今後は、今まで以上に子どもに関連する部署間の連携を強化するとともに、それ以外の部署(通学路や農作物、給食食材関連など)との連携も必要となってくることから、次のとおり環境部内に新たに「放射線対策室」を設置することとしました。
http://www.city.kashiwa.lg.jp/soshiki/080500/p009165.html

そして、8月には、多少とも、小中学校の除染活動も進んだようである。柏市民新聞2011年8月26日号では、次のような記事が掲載されている。

地域住民 学校で除染作業 放射線量低減に安堵の声

 市内の幼稚園と小中学校で放射線の除染作業がはじまった。夏休み期間を利用し、敷地内で1マイクロシーベルトを超える地点や側溝などの高い数値が予想されるポイントを対象としている。教職員のほか、保護者らも参加して実施。一部の校(園)庭では、表土を削るなどの低減策もとられている。その効果は、毎時0.3マイクロシーベルトを測定した校庭が同0.2未満になるほどで、参加者からは喜びと安堵の声が挙がっていた。
 20日には、富勢小学校と松葉第二小学校などで作業が行われた。松葉第二小では、教職員のほか、保護者や地域住民など126人が作業に参加。校庭の大半の表土を削った。大勢の参加者が集まったため、開始時刻を早めてスタート。それでも、前日から降った雨が地中にしみ込んだため、その重量に参加者は悪戦苦闘。用意した土嚢袋の半分程度の量で成人男性がやっと持ち上げるほどの重みに。当初の土嚢袋800袋では不足し、さらに、800袋を追加。表土をわずか2センチ程度削っただけにもかかわらず、校舎からもっとも離れた校庭隅に土嚢の山が築かれた。
 当日は午後4時前から開始。気温は真夏日を下回ったが、マスクと軍手、長袖長ズボンの参加者は汗でぐっしょり。それでも「子どもに安心して運動会をしてほしい」との思いから作業に集中。学校職員が配備された測定機で測り「0.3マイクロシーベルトだったところが、0.2を切りました」と報告すると、喜びの声が挙がった。職員によると、松葉第二小は、6月以降、毎時0.3マイクロシーベルトの地点が非常に多く、今回の除染結果には笑顔が溢れた。参加者からも「子どもたちが安心して校庭で遊べる日がくるなら、がんばろう」との声が挙がり、多くの参加者が希望を持った作業結果となった。
 現在、市内の学校施設(幼稚園など含む)の放射線量測定は、全校で終了。私立園とも連携を図っており、放射線対策室によると、今後各学校が地域と連携し、2回目を含めた除染作業を行っていくとしている。 

この記事は、非常に興味深い。まず、指摘すべきことは、すでに述べているように、柏市などは年間1mSv以下とするとしているにもかかわらず、結局毎時1μSv以上の地点しか除染作業の目標としていなかったことである。年間1mSv未満とするならば、現在の基準では毎時0.23μSv未満にすべきなのだが、そのような地点は本来は対象としていなかったのである。これは、実質的には「専門家」の意見に引きずられていたといえるのである。「市の動き方は鈍い」と批判されるのも無理はないだろう。

しかし、この基準は、市民の求める基準ではなかった。ここで扱っている松葉第二小学校では、毎時0.3μSvでは高すぎるという意識があり、校庭の大半の表土を削り取るという大規模な除染が行われた。そして、この作業が、「教職員のほか、保護者や地域住民など126人が作業に参加。」とあり、いわば地域のボランティアを動員して行われたとみられることに注目しておきたい。この校庭の表土を削り取るという作業が、どのような形で意志決定されたかは不明だが、市の方針としては一部の高線量地点のみ除染ということであったから、それをこえた除染作業の実施は教職員も含めて自発的な形で決められたのではないかと想定される。そして、その究極の目的は「子どもに安心して運動会をしてほしい」「子どもたちが安心して校庭で遊べる日がくるなら、がんばろう」ということであった。真夏日ではなかったようだが、それにしても、夏の日にこのような重労働を地域の人びとは自発的に行ったのである。こういう活動を通して、年間1mSvにするという柏市のかかげた目標は、柏市当局の意図を超えて、定着していったのである。これは、住民自治ともいえるであろう。

しかし、他方で、このような除染活動の実施は、そもそも、このような事態を引き起こした東電なり国なりが行うべきことであることも指摘しておかなくてはならない。そして、この除染活動によって、市民自身がいわば無用の被曝を強いられることにもなったといえる。このような矛盾は、福島県郡山市の除染活動で、より深刻な形で露呈されているのである。

そして、また、2011年9月以降、柏市の放射線物質汚染状況がより明らかになってくるにつれ、市行政自体がより責任をもった放射能対策の必要性が提起されるのである。

Read Full Post »

2013年1月19日、首都圏のホットスポットの一つとなってしまった柏市で、原発反対派の小出裕章氏と原発推進派(厳密にいえば放射線利用推進派となるが)の小林泰彦氏が対談するという、異色の講演会が開かれた。講演会の広告は、次のようなものである。

電気の消費地であり、被災地でもある東葛地域(千葉北西部)での真っ当な放射線対策とは?
私達が今後、どのように生きていくのか、共に考えましょう!
ついに実現します
 小林泰彦さん(独立法人日本原子力研究開発機構)
 小出裕章さん(京都大学原子炉実験所助教)
このおふたりを迎えての講演会です 

【 日 時 】 2013年1月19日(土)19:00~21:30(開場18:30)
【 開 場 】 柏市民文化会館 大ホール
【 入場料】 前売り 500円  当日800円
【 主 催 】 1・19 柏講演実行委員会        
◎18歳以下 入場無料! 中・高校生のみなさんも、親御さんとご一緒に
◎保育あり! 生後6か月以上 500円   1月9日まで
          保育申込み 08051920187 たねだ
◎手話通訳あり!
◎お帰りのバス  会場でバス券販売 先着120名 200円
http://www.facebook.com/events/142623802554726/?ref=22

この講演会は、前評判が高く、会場であった柏市民文化会館大ホール1600席のうち、前売り券1500席が売り切れ状況となったとのことである。柏市などのことをブログで取り上げていたので、私も行こうかと考えていた。しかし、前売り券売り切れの情報を聞いて、もしかすると満員で入れないかもしれないと思った。それでも、とりあえず会場の雰囲気だけでも知っておこうと思い、柏市文化会館まで行ってみた。早めにいって整理券をもらい、当日券価格で入場できた。

市民文化会館前は開場時間前から長蛇の列だった。これほどの人数が来るとは主催者側も予想していなかったらしく、入場方法などをめぐって参加者とトラブルになったところもあった。18時30分から入場が開始されたが、講演会開始の19時まで会場に入って来る人びとは絶えなかった。結局、1600席満席になったとのことである。

最初に主催者の挨拶があり、この講演会の趣旨が説明された。当日配布されたレジュメ(なお、実際の挨拶は、内容的には一致しているが、表現などは必ずしも同じかどうかいえない)によると、次のように趣旨説明されている。柏市のある東葛地域では福島第一原発事故によって放射線量の高い地域となり、さまざまな運動が展開されるとともに多くの講演会・学習会が開催された。しかし、そのうちに

体にあたえる影響については『大丈夫だ』と思う人は講師がそう言ってくれる講演会へ行き、『いや心配だ』と思う人はそう言ってくれるところへ行く、そんな風に分かれはじめ、その距離は離れ話題に上ることも少なくなり、その相手も選ぶようになってきました。これで本当に子どもは守れるのか?

という状態になったと挨拶では述べている。そして、次のように、この講演会のねらいについていっている。

「原発事故子ども・被災者支援法」が制定されましたが、適用地域は今まさに検討中です。この地域で子どもに対する責任が果せれば、被ばくを強いられ声を上げにくい福島でも子どもを保護することにつながる、とも思います。
 そして原発は危険だからと首都圏から遠く離して建てたのに(ひどい話ですが)、190kmも離れたこのあたりで被曝することになった。しかもここは福島原発で作った電気の消費地でもあった…。私たちだからこそできることがあるだろう。何をすれば?という思いもあります。
 昨年初夏、原発の危険性について訴えてこられた小出裕章さんに講演のお願いをしましたところ、「原子力を推進している人との対談がしたい」というご希望をおっしゃいました。いろんな方のご協力で、小林泰彦さんが、放射線を利用する立場の専門家として受けてくださったというのが経緯です。立場の違う専門の方の意見を正面からとらえて考えてみる…あってもいいはずなのになかなかない機会に立ち会うことになります。貴重な時間ですので冷静にお聞きくださるようお願いします。答えはそれぞれでお持ち帰りになることになると思います。
 今後もタブーを作ることなく話しあうそんな機会が未来を拓くでしょう。本日の講演会が有意義なものとなり、被害者をこれ以上出さないためのきっかけとなることができれば主催者としての本望です。

つまり、小出氏の希望もあり、立場の違う専門家の意見を正面からとらえて聞く機会にしたいということなのである。

そして、まず小林泰彦氏が「柏地域の子どもたちのための真っ当な放射線対策とはー被害を最小にするための基礎知識」というテーマのもとで講演を開始した。小林氏は、日本原子力研究開発機構量子ビーム応用研究部門(高崎市)に所属している。ちなみに、この高崎市の施設は、中曽根康弘が研究用原子炉のかわりに誘致したものである。当日配布したレジュメを中心にして小林氏の論旨を追っていこう。なお、後述するが、小林氏は、新しい知見を入れており、時間の関係もあって、レジュメの内容と実際の講演内容はやや違っている。

小林氏は、「放射能」は、「物理法則に貫かれた自然現象であり、宇宙の姿そのもの」であって、「得体の知れない不気味なものでは」なく、医療や産業にさまざまに活用」されていると述べ、放射線防護は放射線障害の発生を最小限としつつ社会の中で放射線を利用することであると主張する。とにかく、放射線利用のための放射線防護という発想なのである。その上で、放射線被曝における発がんリスク増加については、一度に100ー200mSv以上当れば、将来の発がんリスクが線量に応じて直線的に増加するとしながら、100mSv以下では他の発がんリスクにまぎれて、本当に影響があるかどうかは不明とした。しかし、100mSv以下でも直線的関係があると仮定し(これをLNTモデルという)、その仮定に基づいて放射線の発がんリスクを推定、他のリスクと比較しつつ、線量限度などが決められているとする。小林氏は、例えば、飲酒、喫煙、肥満、運動不足などの生活習慣よりも100mSv未満の被曝のほうが、発がんリスクの増大ははるかに少ないと主張した。その上で、「平常時」においては、放射線リスク削減の「代償」(たぶんコストの意味だろう)が無視できるので、一般公衆の場合、年間1mSv未満に被曝を抑えるべきだが、緊急時においては、避難、移住、家族離散、食品放棄、耕作放棄、除染などの放射線リスク削減の代償が明らかであり、これらの負担によるリスク増大とトレードオフした形で判断しなくてはならないと述べている。重要なことは、小林氏は、法律上の一般公衆の線量限度である年間1mSvは安全と危険の境界ではないとしていることである。1mSvとは自然放射線の変動レベル(なお、自然放射線は世界平均で年間2.4mSvという)であり、これは、健康リスクではなく「倫理的配慮」としているのである。

なお、小林氏は、主催者側と話し合って、配布されたレジュメにはない、より専門性の高い議論を、この講演では述べている。放射線被曝による発がんリスクの増大は、個々の細胞レベルにおける遺伝子損傷によるものとして、喫煙などの他のリスクも遺伝子損傷の原因となっていること、生体には細胞レベルでの遺伝子損傷のダメージを修復するシステムが備わっていることを主張した。また、放射線被曝における高線量と低線量の違いについて、高線量においては同時に多数の細胞が放射線に照射されることになるが、低線量では、少数の細胞が時間を置いて放射線に照射されることになると説明している。これは、小林氏自身の研究テーマの一つらしい。

小林氏の話は、かなり時間をオーバーし、最後はかなりはしょらざるをえなかった。ただ、レジュメでの結論部分は、このようになっている。

子どもたちと地域の未来のために
今なすべきこと
・被ばく線量の測定と公開
 局所的な線量率より個人個人の累積線量
・その線量による健康影響(リスク)評価
 専門家の一致した評価、科学的根拠
・評価に基づいた関係者の対話と合意形成
 リスクの定量と比較
  気にする自由 VS 気にしない自由
  「許せる」 VS 「許せない」
 リスクの総和を最小にするには?
科学的根拠+価値観+資源⇒現実的判断で意思決定
 互いに歩み寄り、自分たちで納得して決める

小林氏の話は、低線量の放射線被曝による発がんリスクの増大を極めて小さなものとし、避難、除染などそれをゼロにするコストと比較して「現実的判断」で意思決定すべきとしていると概括できるだろう。

続いて、小出裕章氏が「原子力利用と被曝」というテーマで講演を行なった。小出氏の場合も、時間の関係で後半はしょらざるをえず、レジュメと実際の講演内容は異なっているが、ここでもレジュメを中心にみておこう。

小出氏は、福島第一原発事故で放出されたセシウム137は、少なく見積もっても広島原爆の168発分であり、福島県の東半分を中心として、宮城県、茨城県の南部と北部、栃木県・群馬県北部、千葉県の北部、岩手県・新潟県・埼玉県・東京都の一部が放射線管理区域(1㎡あたり4万bq)に指定しなくてはならないほど汚染されたとしている。小出氏は、むしろ低線量のほうが危険度は大きいとしつつ、とりあえずICRP-2007年勧告などを引用して「約100ミリシーベルトを下回る低線量域でのがんまたは遺伝的影響の発生率は、関係する臓器および組織の被曝量に比例して増加すると仮定するのが科学的に妥当である」とした。そして、100mSv以下の被曝をしてはいけないという国家の法律があり、それを無害という学者は刑務所に入れるべきであるが、国家がその最低限の法律を守っていないとした。さらに、「福島原発事故を引き起こした最大の犯罪者は政府であり、その政府は事故が起きたら、それらをすべて反故にした」と主張した。

小出氏は、福島原発事故による、失われた土地、強いられる被曝、崩壊する1次産業、崩壊する生活などの多大な被害は、東電だけでなく日本国が倒産しても賄いきれないとした。そして、地域住民には「被曝による健康被害」か「避難による生活の崩壊」かという選択がつきつけられているとした。特に、柏市を中心とした千葉県北部、茨城県南部は日本の法令を適用すれば放射線管理区域に指定されるとし、自身の体験をもとに、放射線管理区域では何も飲食できないし、汚染されたまま外出することもできないし、汚染された物を持ち出すこともできないことになっているのだが、それと同等に汚染された地域でも、普通に生活することが強いられているとした。本来、このような地域からは避難したほうがよいのだが、避難による生活の崩壊をおそれてそれができないとしているのである。

小出氏は、このように汚染された世界の中で「この自体を許した大人として、私たちはどう生きるのか?」と問いかけ、氏自身としては「子どもを被曝から守りたい」と主張した。原子力を選んだ責任は、政府や東電が一番重いが、放射線に携わってきた自分などにも責任はあり、さらに、このような原子力を容認してきた人びとーこの会場の聴衆にも責任はあると語りかけた。しかし、子どもたちには責任はない。そして、責任のない子どもたちこそが放射線感受性が高いのだと小出氏は述べた。

時間がなく、後半はかなりはしょりながら、小出氏は結論として、次のように述べた。

一人ひとりが決めること

自分に加えられる危害を容認できるか、あるいは、罪のない人々に謂れのない危害を加えることを見過ごすかは、誰かに決めてもらうのではなく、一人ひとりが決めるべきこと

小出氏の講演は、低線量であっても放射線被曝は健康に悪影響があるとし、そのことを広範囲にまねき、さらに事態を放置している政府・東電・学者たちを批判するともに、小出氏自身を含めた多くの人びとが将来の世代に対する責任をおっているとしたものといえよう。

この後、休憩をおかず、討論になった。この討論部分については、http://kiikochan.blog136.fc2.com/blog-entry-2732.htmlが討論部分のおこしを行なっているので、これに依拠しながら、記憶により補いつつ、重要と思われる部分をみておこう。

まず主催者(実行委員長)の柳沢典子氏から、両者の報告を簡単に概括した後、次のような質問が行なわれ、小林氏は次のように答えている。

柳沢:
小林さんのお話しの中で、事前に私たちがお出ししました質問で、このあたりの放射線レベルについて、小林さんはこのあたりのレベルについてどうお考えか?という所がちょっとお話が無かったような気がするんですが、よろしいでしょうか?
小林:
じゃあその点は、えーっと、柏市の市のホームページに出ている数字などいろいろ見て考えたんですけれども、今私自身が、皆さんに「こうしたらいいですよ」っていうつもりで言ってもしょうがないわけで、自分だったらどうするか?という事で考えると、私だったら、もう全然気になりません。小さい子もそれでいいと思う。もし、自分の家族がいてもそれは気にならない。それは学問上の確信があります。

そして、そうですね、私が配ったスライドの最後のところ、被ばく線量の測定と公開という所、これは今非常に市もやられているし、詳しい情報が出ている。ただしこれから気を付けるべきことは、「どこが何ベクレル汚れている」っていうことよりも、そうではなくて、「今住んでいる人がどれ位のシーベルトで放射線を受けているのか」これを基準にし一人一人考えるのがいいと思いますね。

公共施設などは非常に低くなっていますから、全く問題ないと思います。それから、通学路などで、もしところどころマイクロスポットと呼ばれているような所があったとしても、そこをまたぎ越す時間、時間にすれば非常に短いので、それから受ける線量というのは微々たるもの。それよりも長い時間を過ごす子どもさんの寝室の窓のサンとか、屋根のトイであるとか、そういう所の掃除の徹底でもう少し下げる事が出来れば、多分そっちの方が有効なのかな?という気がしています。

後半の線量測定や除染についてのことについては問題はないのであるが、柏市の線量は問題がないとしている点について、その後もたびたび問題となり、小林氏は会場からかなり批判を浴びていた。

同じ質問に対して、小出氏は、次のように答えた。

小出:
私は先程聞いていただいたように、この柏を含めて広い地域が1平方mあたり4万ベクレルを超えて汚れています。そういう所に私は「普通の人々が住むという事自体に反対」です。

出来る事ならばみなさん逃げて欲しいと思いますし、本当であればその法律を作った日本国政府が責任を持って、皆さんをコミュニティーごと、どこかできちっと生活できるようにするというのが私は必要だと思っています。いま大地を汚している主犯人はセシウム134と137という放射性物質ですが、1平方mあたり4万ベクレルのところにいれば、1年間で1ミリシーベルトになると思います。避けることができません。それだけでももう、法律が決めている限度を超えて被ばくをしてしまうという事になる訳です。

そして今、小林さんが言って下さったように、そうではなくて局所的に汚染しているところもあちこちにあります。そういう所をきちっと調べて、子ども達が接するような場所からはそういう汚染を除くという作業を、これからもずっと続けなければいけませんけれども、環境中で放射性物質は移動していますので、ある場所を綺麗にしたと思ってもまたそこがしばらくしたら汚れてくるという可能性もありますので、これから長い期間にわたってそういう作業を続けていって、出来る限り子どもを被ばくから守るという事をしていっていただきたいと思っています。

その後、小出氏と小林氏の間で、自身の主張に対する科学的根拠について論争となった。その内容については割愛したいが、この論争の中で、小林氏は次のような言及を行なった。

小林:
普段の生活で感じて、生活の中ではリスクはあまり感じないわけですね。まぁ、そういう日常バイアスというものがある。たとえば今日ここに来られるのに歩いて来られた方、車で来られた方いらっしゃると思いますけれども、縁起悪い事言って申し訳ないけど、「帰りに交通事故に遭わないだろうか」とか、普通考えないですよね。しかしそれはゼロではない、リスクは必ずある。でも本当は皆さん日常生活の中でそういうリスクを何となく感じて保険に入ろうか、どれぐらいの保険に入っておこうかとか、あるいは飛行機で行った方がいいかな、列車の方がいいかな、という事を判断しています。ま、そういう日常的な感覚を、日常的な感覚の中に、同じように、

(会場:ザワザワ)

板倉:会場からの発言は後でお願いいたします。

小林:信用しないと、特別なリスクで考えてしまうとね、比較はしにくくなるんじゃないかなと思います。

つまり、日常生活におけるリスクは考えないのに、なぜ放射線のリスクだけ考えるのだということなのである。(会場:ザワザワ)とあるが、これらは、ほとんど、小林氏を批判する声であった。そして、この議論の別のところでも、同様の発言を行い、やはり、かなり会場から反発されたのである。

さらに、柳沢氏からは、「科学とは何か」という質問が出された。

柳沢:
次の質問ですが、科学というものについてちょっとお伺いしたいんですが、科学というのはなんだというふうに思われるでしょうか?
科学者としてどういうふうにあるべきだと思われるでしょうか?科学から誘導される利益と人の健康リスクをどのように思われるでしょうか?
それについて小林さんから

小林:
はい、科学には二つの役割があると思います。
一つは、人間の生活を安全に豊かに便利にする科学。物理的な心ですね。
もうひとつは訳の分からない不安、恐ろしい事、理解できない事を減らして、心の平穏と言いますか、あ、わかった、知らない所が分かった。「だんだん知っている世界が広がった」という、そういう喜びのもとにですね、そういう営みで。
で、世の中で、この複雑な世の中で、「物事をどっちにしたらいいだろう?」と決めて、いろいろと迷う時に、一番多くの人が納得できる物事の決め方が、科学の実験で明らかになって、「ああこういうだ」と思って決めていく。そういう事なんだろうと思います。

小出:
それは、その通りだと思います。
ただし、科学というのは要するに、自然、世界というものが、どういう姿なのかという事の真実を知りたくてやっているんですね。

で、長い間科学をみんな、沢山の人が関わってやってきた訳ですけれども、「知れば知るだけまた分からないものが広がってくる」という、
そういうのが科学という場所の世界でした。だから、科学というのは非常に大切なものです。わたしも科学に携わっている人間としてそう思います。人々を平和に、そして豊かにするというためにも大変力を持ったものだと思いますけれども、でも「科学は万能ではない」のです。必ずいつも「分からないものがある」というのが、むしろ科学の本質になっているわけで、「全てがもう分かってしまっている」というふうに、科学に携わる人が思ってしまって、「自分たちの判断が必ず正しい」と思いこむようなやり方は間違いだと、私は思います。

小林:もちろんそうですね、誰も反対しないと思います、科学者ならば。

この二人の意見の微妙な交錯は興味深い。小林氏は科学について①人間の生活を豊かに安全に便利にするもの、②不安、恐怖、無理解をへらして、納得できる意思決定をしていくものとししているのである。いわゆる、小林氏などの「リスク・コミュケーション」による「合意形成」というのは、後者に属するものであろう。

他方で、小出氏は、小林氏の「科学観」を否定はしないのであるが、「科学はやればやるほどわけのわからないものが出てくる」とし、科学は万能ではなく、「自分たちの判断が必ず正しい」と思い込むのは間違いだとしている。そして、そのこと自身は小林氏も反対しないのである。

そして、会場の聴衆からも、多くの質問が出された。専門的なものが多く、すべてを概括できない。私の覚えているものは、数字はわからないが、私たちは何のメリットもなく被曝によるリスクをおった、「人権を無視しても科学のメリットを生かされてもいいのか?科学のメリットのために人権は無視されてもいいのか?」というものであった。それに対して、両者は次のように答えた。

小林:
じゃあ、わたしから。
多分そういう質問にはお答えがずれていると思うんですけれども、さっき私が伝えたかった事はこの場でこの後どうしたらいいのか?ということで、汚されてしまってけしからんと、腹が立つというのは当たり前ですよね。完全に元通りにして欲しいと思う気持ちは当たり前です。自分だってそう思います。
でもそれが無理な場合に、じゃあどうするのか?っていう時に、一番自分と子どもにとってベストな方法をさがす。で、どれがベストなのか?
比べても分かりにくいところを図るための知恵が科学なんだろうと、そういう事になると思います、今の話しのなかにも。

柳沢:小出さんはいかがでしょうか?

小出:
私からは特にお答えするような事は無いと思いますが、科学は万能ではないし、科学が間違えることもあるし、原子力というものをやってきたことも、私は間違いだと思っています。それによって被ばくというリスクが新たに加えられてしまって、被ばくというのはメリットは何にも無くて、害悪だけがあるという、そういうものです。ですから今回の汚染というものは、全く正当化できないという、そういうものが生じている訳で、今後そういう正当化できない行為をどうすれば防ぐ事が出来るかという事を考えてほしいと。ま、科学も、そういうふうにきちっと考えて答えを出すべきだと思います。

小林氏にとっても、被曝に対する憤懣の念があることは認めているのである。しかし、完全な現状回復は無理であるから、ベストな方法をさがすのが科学という知恵だとしている。他方で、小出氏は、被曝という全く正当化できないものをつくり出した科学は万能ではなく、そういうことをどのようにしたら防ぐことができるかと答えている。

そして、ほぼ最後のほうで、柳沢氏は、次のような質問をしている。

柳沢:
一つわたくしからの質問をさせていただいてもよろしいでしょうか?
1ミリシーベルトというのが倫理的な基準であるというふうに、小林さんはおっしゃっているんですけれども、そうしますと、1ミリシーベルト以下を目指している柏市の除染というのはどういう事になるというふうにお考えになりますか?

小林:
倫理的なというのは、もう十分に低いから、適当に止めてもいいよという判断は正しくないだろう。だから放射線の変動レベル、事実上ゼロとみなしても、変動レベルという意味で、見なくてもいいという所まで、元通りに近いところまで除染していくっていうのは、倫理的に求められているという事です。そうしないと健康に影響が出る恐れが高いからという意味ではない。そういう意味で倫理的にということです。

柳沢:それに関しては小出さんは?

小出:
わたしですか?
私はもう繰り返して言っていますけれども、子どもたちに被ばくのしわ寄せをするという事は、私はやるべきではないと思っていますので、限りなくこれからも子どもたちの被ばくを減らすための作業というのを続けて欲しいと思っています。

そして、最後に主催者の柳沢氏より、小林氏が講演に応じた経緯が紹介され、2011年3月15日、前からもっていた線量計が警報をならしたこと、そして、その頃、子どもたちが公園で遊んでいる時、マスクを渡したがつけてくれなかったことなどをのべ、柏地域が「原発事故子ども・被災者支援法」の対象地域になるよう運動していくことなどを述べて、講演会は終了した。

この講演会は、原発推進派と反対派が同じ壇上にたって議論を行なったという意味で、異色であり、大きな価値があったと思う。特に、原発推進派の議論が、原発事故で被害を被った人たちの目からみて、どのような問題点がみえてくるのかということを如実に示しているといえる。小林氏と小出氏の見解の違いの一つは、「低線量被ばく」の影響をどうみるかという「科学的」なものである。そして、そのことは、聴衆であった一般市民の側にもおおむね了解されており、ここでは紹介できなかったが、かなり専門的な質問が飛んでいた。

他方で、この二人の違いは、科学というよりも、実践的姿勢の違いというところからも生じているように思われる。小林氏自身は、被曝の不当性は認めている。しかし、低線量被ばくの影響を少なく見積り、年間1mSvとする営為を「倫理的」でしかないとした上で、被曝からの現状回復を不可能なものとし、いわば状況を追認した形で「合意形成」をはかるということになるのである。その中で、科学ーというかむしろ小林氏自身の学説についてのようにみえるのだがーについては、物事を決める規範として認識されている。それを前提として、ある意味では「あきらめ」を説いているといえる。

小出氏の場合は、放射線被曝(彼は自然放射線も有害としている)全般を有害だとしながら、それを広範囲にひき起こし、この事態を放置している人びとの責任を、自分自身や聴衆も含めて問うているのである。そして、それは、自身が担ってきた科学への懐疑にもつながっている。このように、実践的な姿勢において、この両者は違っている。

ともあれ、このように比較して検討することを可能にした点で、この講演会の意義は大きいといえるのである。

他方で、このような講演会が行なわれた柏市を中心とした東葛地域の状況や、この講演会が東葛地域の今後にどのような意味をもってくるのか、そのことを考えて行きたい。

追記
この講演会についてはIWJがユーストリーム中継を行なっており、下記の動画で全体を視聴できる。前述したように、実際の講演内容とレジュメはやや違っているので、より詳細に内容を知りたい方はみてほしい。

http://www.ustream.tv/recorded/28626790

http://www.ustream.tv/recorded/28627168

また、前述したように、下記のブログが討論部分のおこしをおこなっている。

http://kiikochan.blog136.fc2.com/blog-entry-2732.html

Read Full Post »

これまで、柏市や松戸市などの高放射線量地区ーホットスポットになってしまった地域において、「専門家」のご託宣にもかかわらず、市民や東京大学内部の批判によって、各自治体が放射線対策に乗り出した契機をみてきた。2011年6月、千葉県西北部の野田市、我孫子市、柏市、松戸市、鎌ヶ谷市、流山市の六市は、市ごとに独自に放射線量の測定をはじめるとともに、2011年6月8日、これらの自治体で東葛地区放射線量対策協議会(会長柏市長秋山浩保、副会長流山市長井崎義治、事務局柏市)を設置し、この協議会全体でも放射線の測定を行なった。さらに、千葉県には、この協議会に参加することをよびかけ(千葉県も参加)、政府に対しても「福島県以外の学校・幼稚園・保育所等における放射線量の安全基準値を早急に策定し公表すること、安全基準値を超えた場合の対応策を示すとともに、その対策に要した費用については、国が全額負担すること。」(柏市のサイトより)という要望書を6月29日に提出した。

東葛地区放射線量対策協議会の行なった放射線量の測定結果(第1回、6月14〜16日実施)は、今からみれば、かなり深刻なものであった。流山市では0.38〜0.58μSv/h、我孫子市0.26〜0.60、鎌ヶ谷市0.12〜0.29、松戸市0.21〜0.39、柏市0.42〜0.47、野田市0.08〜0.27という値を示した。鎌ヶ谷市と野田市だけが比較的低いが、それでも0.23μSv/hを超えている地点が出ていたし、他の市では、ほとんどの地点が0.23μSv/hを超えていた。5月29日・6月1日に千葉県が行なった測定や、6月前半に柏市が独自に小中学校、高等学校や、幼稚園・保育園を対象とした測定でも同様の結果が出ている。6月27〜29日には第2回の測定が行なわれたが、その測定結果でも0.23μSv/hを超えている地点が続出した。

そして、柏市では、6月23日に、このような見解を出した。福島第一原発事故の影響で放射線量が上昇しており、その後も東葛地区放射線量対策協議会を中心に測定していくとしたのである。ここでは柏市だけをあげたが、他市も同様の対応をしたと思われる。

柏市を含めた関東一円の放射能被曝は、福島第一原発において3月13日から15日に発生した一連の水素爆発が原因で、風により放射性物質が広がり、3月21日から22日に降った雨により地表に付着したものと考えられます。
現在の放射線量は、その地表に付着した放射性物質の影響によるものであり、雨などで地表面が洗われることで、少しずつ減少しています。
このことは、市原市モニタリングポストと東京大学柏キャンパスから推測できます。(右図参照)
このことから、福島第一原発において、今後、水素爆発等の事故が発生しなければ、柏市においてはこれ以上の放射線量の上昇はないものと考えています。
ただし、東葛地区の空間放射線量が比較的高めであることから、その影響に関する不安の声や自治体での測定及び評価を実施するよう要望があがってきており、市としても現状を把握し対策を講じる必要があると考え、検討を重ねてきました。
しかし、放射線に対する基準等が明確でないことを受け、専門家の指導・助言を踏まえながら空間放射線対策を広域的に行う必要があると考え、東葛6市(松戸市、野田市、柏市、流山市、我孫子市、鎌ケ谷市)で結束して協議会を立ち上げました(6月8日に正式発足)。市としては、この東葛地区放射線量対策協議会を軸に対応していきますが、必要に応じて独自調査などを行う予定です。
同協議会では、6~8月にかけて専門機関に委託して放射線量の測定を行い、数値は随時ホームページなどで公表します。測定結果の評価についても、専門家の指導・助言を得て7月上旬ごろに公表する予定です。
市としても、これらに基づき、今後の対応を検討していきます。
http://www.city.kashiwa.lg.jp/soshiki/080500/p008644.html

しかし、もちろん、柏市を始めとした各自治体には、放射線量の専門家はいない。そこで、東北大学名誉教授中村尚司(前文部科学省放射線審議会会長)、東京大学准教授飯本武志(環境安全本部)、国立がんセンター東病院機能診断開発部長藤井博史(臨床開発センター)を専門家として参加させたのである。

そして、2011年7月8日、この3人の専門家と6市の市長たちにより、「第1回・第2回東葛地区放射線量測定結果等について」を議題として、第1回東葛地区放射線量対策協議会が我孫子市役所で開催された。まず、事務局より「測定結果は、毎時0.65~0.08マイクロシーベルトであった。文部科学省がICRPの参考レベルを基準化した毎時3.8マイクロシーベルト時、線量低減策の基準である毎時1.0マイクロシーベルトを下回っていた。」という見解が示された。まず、文部科学省が提示した3.8μSv/hという基準には達していないというのである。この時期、すでに文部科学省でも年間1mSv以下をめざすことを余儀なくされていたが、そうではなく、年間20mSvを基準とした3.8μSv/hもまだ基準となっていた。さらに、文部科学省が校庭などの除染費用を出すとしている1μSv/hも基準としている。この基準は年間で5mSvにあたる。いずれにせよ、東葛地区の測定値は基準を下回っているとしているのである。

そして、三人の専門家は、このように意見を提示した。

飯本准教授
今回の数値は絶対的なものではなく、様々な要因で変動する事実の理解も重要である。また、放射線計測上の15~20%程度の測定誤差は避けられず、例えば少数第2位の数値をもとに細かい議論をすることは得策でない。
2平方キロメートルメッシュの測定を優先し、線量分布の全体像を早期に整備することが必要。
市民向けの情報交換会を頻繁に開催し、市民の懸念に耳を傾け、リスクコミュニケーションを広げることが大切。多勢に向けたシンポジウムよりも小規模で双方向的な勉強会が望ましい。
藤井氏
東葛地区の空間線量では、外部被ばくによる発がんの有意な増加は考えられない。
東葛地区で体内に摂取される放射性核種の量は、既に体内に内在している放射性核種の量に比較して、有意に大量ではない。
東葛地区の放射線汚染の現状が住民の生命を直ちに脅かすものではないが、住民の被ばく線量を低減させるための努力を続けるべきである。
中村教授
通常のバックグラウンドに比べて高いが、数値は毎時1マイクロシーベルトより低く心配ない。2回の測定結果で数値がほとんど変化していないので今後は測定をもっと減らし、測定地点も少なくして構わない。
国内法令では、5ミリシーベルトは通常時でも、一般公衆に対する線量限度として、特別な場合は許容されている。また、日本人の内部被ばくを含めた年間の積算線量は約2.2ミリシーベルトあるといわれている。多大な人員と費用をかけて年1ミリシーベルト以下とすることは、ICRPが掲げているALARA(合理的に達成できる限り低くする)の精神に反する。
文部科学省が示した校庭の除染費用を出す目安である毎時1マイクロシーベルトは妥当な値である。屋外8時間、屋内16時間の計算式にあてはめると1年間の線量は約5ミリシーベルトになり、平常時の法令に照らしても問題ない。
http://www.city.kashiwa.lg.jp/soshiki/080500/p009027.html

飯本の議論も仔細によめば、自然の宇宙放射線や建材などに元々含まれている放射線物質の影響について言及しているのだが、とりあえず、線量分布の全体像を把握する必要性は指摘しているとはいえる。

他方で藤井は「東葛地区の空間線量では、外部被ばくによる発がんの有意な増加は考えられない」と述べている。藤井は国立がん研究センターの職員であり、この程度では、がんにならないというお墨付きを専門家が出しているといえるだろう。

中村にいたっては、「多大な人員と費用をかけて年1ミリシーベルト以下とすることは、ICRPが掲げているALARA(合理的に達成できる限り低くする)の精神に反する。文部科学省が示した校庭の除染費用を出す目安である毎時1マイクロシーベルトは妥当な値である。屋外8時間、屋内16時間の計算式にあてはめると1年間の線量は約5ミリシーベルトになり、平常時の法令に照らしても問題ない」とまで主張している。そして、測定もなるべくしないように述べている。中村は、文部科学省の放射線審議会の前会長であり、「専門家」中の「専門家」である。別に、自治体の首長たちのように、財政的な考慮を行なう必要はないはずである。

そして、このような議論は、質疑の中でも続くことになる。松戸市長本郷谷健次は、次のように質問し、藤井・中村は、次のように答えている。

本郷谷市長
放射線発がんの生涯リスクは被ばく時の年齢が影響するとされていたが、問題ないとされている年間5ミリシーベルトという値は、子ども・乳幼児にとっても問題ないと考えていいか。
中村教授
放射線に対する感受性は(子どもの方が)高いが、子どもががんになるのではない。
藤井氏
ICRPの出されている(確率的影響の発生頻度の)数値は年齢も考慮して算出されているが、年齢ごとの数値は出されていない。
広島・長崎の原爆の調査結果からは、10歳以下の子どもの場合、成人に比べてがんのリスクが2~3倍増える可能性はある。年間1ミリシーベルトでの発がん率は10万人あたり5人とされているが、この数字が2~3倍になったとしても(実際にはこの数が2~3倍になるわけではない)大きな数値にはならないといえる。
若いうちに被ばくしても、実際にがんが発生するのはある程度の年齢になってからであり、子どもの被ばくを大人と比べて神経質にとらえることはないと思う。
本郷谷市長
保護者はがん年齢になったときの影響を心配している。その点をどのように説明できるか。
中村教授
被ばくした線量による。この程度の線量で、発がん率が有意にあがるとは思えない。100ミリシーベルトを超える値であれば、大人と子供で明らかに差が出てくると思うが、今の状況で影響が出ることは考えられない。
飯本准教授
ある線量以下の数値はリスクマネジメントの領域になってくる。放射線のリスクをどの程度まで容認するかという点がひとによって感覚が異なり、論点になる。リスクマネジメントの考え方を上手に伝えて、数値のもつ意味を伝えることも重要である。
例えば1ベクレルのセシウムによる内部被ばくの影響は、年齢別の感受性の違いも考慮して、線量換算係数を用いてシーベルトに換算することができる。小さな子供の場合は、同じ量のセシウムを体内に入れても、大人の場合よりもシーベルトの数値が大きくなるような計算の仕組みができている。
今回は、地上1mと50cmの高さの放射線量を測定しており、外部被ばくについての子どもと大人の線量の差を明確化している。
このようにシーベルトの算出の過程に、感受性の高い子どもの数値が大人よりも高く評価されるような仕組みを持っており、リスクマネジメントのある段階までは計算でなされていることに留意すべき。
http://www.city.kashiwa.lg.jp/soshiki/080500/p009027.html

藤井は、広島・長崎の調査結果から、10歳以下の子どもが被曝した場合、がん発生リスクが2〜3倍になることは認めつつも、「若いうちに被ばくしても、実際にがんが発生するのはある程度の年齢になってから」としている。そして、本郷谷市長に「保護者はがん年齢になったときの影響を心配している。その点をどのように説明できるか。」と批判されている。さらに、中村にいたっては「この程度の線量で、発がん率が有意にあがるとは思えない」と発言している。

特に問題になったのは、年間1mSvという基準についてである。各市長たちは、住民の世論では年間1mSvが安全基準となっており、年間5mSvを基準にすることは納得されないと主張している。例えば、野田市長は、「市民の頭には、年間1ミリシーベルトという目標値がすでに入っている」と発言し、「少なくとも文部科学省は年間20ミリシーベルトから毎時3.8マイクロシーベルトを算出しており、その計算式を適用すれば、年間1ミリシーベルトは毎時0.19マイクロシーベルトになってしまう。これから時間をかけて説明する必要があると思うが、現時点でそのような説明をしても納得してもらえない」と述べている(なお、私も年間1mSvを前提として0.23μSv/hという基準を使っているが、それに対して疑義がないわけではない)。それに対して、主に中村が「現行の法律でも特別の場合は年間5ミリシーベルトという線量限度の数値は規定されている。今回の事故に関して、文部科学大臣は、回復時には年間1ミリシーベルトを目指すと発言しただけである」「現状では数値が先行していて、それを超えたら何かしなければならないとなっている。そのようなことをしていたら莫大な費用が掛かってしまう」と述べ、反論している。中村は、ここでも、「費用」というコストを最大の検討材料としているのである。

本郷谷市長
年間1ミリシーベルトという値が独り歩きしており、これが安全基準になっている。この値をどのように説明すればいいか。
中村教授
原発の施設設計・管理の基準であり、安全か危険かの基準ではない。
飯本准教授
平時や計画時のルールと事故時や復旧時のルールは考え方が異なる。事故時や復旧時に平時のルールは使えない。そのために1~20、20~100ミリシーベルトといった幅をもったバンドによる数値表現がICRPによって提唱されている。復旧時には相当するバンドの中で、ある目標値に向かって線量を合理的に下げる努力をしていくことになる。ICRPやIAEAは、事故直後の暫定的なルールを示しているが、その後の復旧時における新しいルールを作る場合には、検討の透明性を高めて、ルール決定に至るプロセスを記録に残しておくべきとしている。数値基準を定めるときを特にこの点に注意すべきである。
根本市長(崇 野田市長)
文部科学省が学校において年間1ミリシーベルトという目標値を示しているが、これと比べて中村先生がお示しした毎時1マイクロシーベルトで年間5ミリシーベルトまで問題ないとする見解はどのように解釈すればよいか。
中村教授
現行の法律でも特別の場合は年間5ミリシーベルトという線量限度の数値は規定されている。今回の事故に関して、文部科学大臣は、回復時には年間1ミリシーベルトを目指すと発言しただけである。
根本市長
市民の頭には、年間1ミリシーベルトという目標値がすでに入っている。年間5ミリシーベルトという数値を市民に説明する際に、どのようにすればいいのか。
飯本准教授
最終的には1ミリシーベルトを目指すとしているが、達成が不可能なケースも、もしかしたら出てくるかもしれない。
代表的な線量を見ながらどのような対策をすべきかという議論は必要だと思うが、今の段階でどれくらいの数値が出たらこの対策をしなければならないということを安易に決めるのは、プロセスとして間違っている。なんらかの数値基準を決めるならば、情報をきちんと整え、関係者で話し合う手続きを踏むことが大切だと考えている。その意味で、私が提言したように小さいお子さんをお持ちの方との情報交換の場を設定することは、プロセスとして重要であると考えている。
やれることをやれる範囲で低い線量を目指すという姿勢はきわめて重要。また一回線量低減対策を実行すればそれでいいというものでもない。常に、最適化をしていくということが大事。
まずは急いで、データをきちんとそろえることが重要である。
中村教授
ICRPでもALARA(合理的に達成できる限り低くする)ということをいっている。その対策をしてどれだけ意味があるのかを考えていかなければならない。
本郷谷市長
市民の立場からみれば移動の自由がある。ある地域は他と比べて数値が高いとなると市民は別の場所に引っ越しできるし、他から人が来ないということになる。この数値ならば問題ないということを市民が納得してくれればいいが、いろいろ議論がある中で説明に苦慮している。
飯本准教授
どの線量がいいかは、ひとそれぞれリスクに対する考え方の違いがあり決められない。いろいろな考え方がある中で、合議をしながら最終的な対応を決めていくという手続きを踏むことが重要である。
清水市長(聖士 鎌ヶ谷市長)
数値的な答えとしては中村先生がおっしゃっている毎時1マイクロシーベルトが妥当ということでよろしいか。
中村教授
私はそのように思うが、気になるようであれば特に高いところの線量低減をしてもいいのではないか。
清水市長
新聞などでは年間1ミリシーベルトであれば、毎時0.19マイクロシーベルトであると書いている。0.19を基準とされると東葛6市ではほとんど基準を超えてしまう。
飯本准教授
年間1ミリシーベルト=毎時0.19マイクロシーベルトの単純換算は誤り。1年間の基準では、一時的に少々高い値が示されたとしても許されるが、時間単位にするとそれが許されなくなる。現実からかけ離れた机上の計算を基準に議論するのは賛成できない。
根本市長
少なくとも文部科学省は年間20ミリシーベルトから毎時3.8マイクロシーベルトを算出しており、その計算式を適用すれば、年間1ミリシーベルトは毎時0.19マイクロシーベルトになってしまう。これから時間をかけて説明する必要があると思うが、現時点でそのような説明をしても納得してもらえない。
飯本准教授
年間20ミリシーベルト程度のところであれば、自然放射線を含めて考えてもいいが、年間1ミリシーベルト程度のところを議論するなら自然放射線を除外して考えなければいけない。誤解が多いため、ICRPも注意深く書いている部分。
中村教授:現状では数値が先行していて、それを超えたら何かしなければならないとなっている。そのようなことをしていたら莫大な費用が掛かってしまう。
飯本准教授
数値基準は安全と危険の境界線ではない。数値基準だけを前面に出すことは、リスクに関するメッセージ性を考えても間違っている。放射線は身のまわりに存在するさまざまなリスクの一部であり、ことさら放射線リスクだけに着目するのは、バランスとしてよくない。ICRPの提唱するALARA、最適化をまさに実践するとき。藤井先生ご指摘のように、もっと別のリスクにも、バランス良く目を向け、対応を判断する必要があるのではないか。
星野市長(順一郎 我孫子市長)
市民の方は、国の年間1ミリシーベルトという基準値から逆算した毎時0.19マイクロシーベルトという数値が頭に入っていて、国の基準値を超えていると考えている。実際はそうではないが、ある程度低い数値を基準値として示さない限り、納得してもらえない。
飯本准教授
市民の方は非常によく勉強されている。一方、情報が氾濫しており、その中でも興味や関心を強く引くような特定の情報に傾倒してしまうケースもあるよう。しかし、落ち着いて、真摯に情報交換をすれば冷静に耳を傾けてくださる方も多いと感じている。地に足をつけたしっかりしたリスクコミュニケーションを進めるのが重要。
早急に新たな線量基準だけを作るというのは、ICRPの提唱する手順からいっても間違っている。
星野市長
国に対して基準値と低減策を示すように要望しているが、国の対応はにぶいようである。市町村としては対応に苦慮している。
一つの方法として、野田市が行ったように学校・保育園等で職員に積算線量計を携帯させて積算線量を測定し、公表する。実際の積算線量がわかれば、安心感につながるのではないか。
http://www.city.kashiwa.lg.jp/soshiki/080500/p009027.html

重要なのは、松戸市長が「市民の立場からみれば移動の自由がある。ある地域は他と比べて数値が高いとなると市民は別の場所に引っ越しできるし、他から人が来ないということになる。この数値ならば問題ないということを市民が納得してくれればいいが、いろいろ議論がある中で説明に苦慮している。」と発言していることである。移動の自由がある限り、世論から離れた安全基準で対策を行なうと、住民が減ってしまうのである。これは、この地域で現実におきていることである。この地域は、首都圏のベットタウンであり、職場だけでいえば、他地域へ移動することは容易である。なお、さらに、職場すらもかえて、関東地方外に移動する人びとすらいるのである。ゆえに、この地域では、住民減少を少しでも食い止めるために、放射線量低減対策に自治体としても積極的に行なわざるをえないということになるといえる。

そして、このような「移動の自由」は、被災地の福島県では、実質的に保障されていないといえる。高線量地域をさけることは本来自由であり、その自由のため住民が減少するというならば、各自治体は放射線対策に本気で取り組まなくてはならないはずである。首都圏のホットスポットと比較すると、その点が福島県は違うといえるのである。

最終的に、柏市長より「6市の基本的認識と今後の方針については、「東葛6市の空間放射線量に関する中間報告及び今後の方針」のとおり決定させていただく。」という発言があり、この協議会は終了した。この「今後の方針」について、結論部分のみ引用しておこう。

第3章 基本的認識と今後の方針
以上の結果より、現状において東葛地域の空間放射線量は、直ちに対策が必要となる状況にはないと考えられた。しかしながら、同時に国際放射線防護委員会勧告においては、合理的に達成出来る限り放射線量を低減すべきとしている。また、地域住民から引き続き不安の声が寄せられていることを鑑み、安全よりむしろ安心に資する取り組みが必要であるとの認識に立ち、更なる措置として、今後は、以下のとおり、取り組みを行うこととした。

 引き続き空間放射線量調査は実施し、実態把握を進める。
 測定結果と生活実態調査の結果に基づき、個々の施設において年間の被ばく量を算定するなど、管理を徹底する。
 管理の基準は、国際放射線防護委員会勧告に示された目安を尊重し、学校保育園,幼稚園等の施設において年間1ミリシーベルト(自然界からを除く)を目標とする。
 相対的に空間放射線量の高い区画の把握及びその区画における空間線量低減方策を検討する。
 各自治体が各施設等の実情に応じ、優先順位を定め、費用対効果を勘案して具体的取り組みを順次進める。

1.放射線量の低減策について
具体的な放射線量の低減対策実施にあたっては、優先順位を決め、低減効果の実証実験等を行うなど、費用対効果を勘案し検討することとした。
2.今後の調査方針
各市域2kmメッシュ内の代表施設について、早期に測定値を把握することを優先する。また、きめ細かな測定を迅速に行うため、東葛6市で比較校正を済ませた簡易測定器を複数台入手する。

3.国や東京電力(株)に対する要望活動
(1)実態に即した被ばく線量の推計、評価方法の確立を国に求めて行く。
(2)放射線量低減を図るために行った費用負担を国及び東京電力(株)に求めていく。

クリックしてhousin.pdfにアクセス

ある意味では玉虫色の見解だが、重要なことは、年間1mSvをめざすということが、これらの6市の方針として明記されたことである。この方針策定については、事前に中村らの意見も聞いていたはずと思われるが、結局、中村のいう1μSv/h(年間5mSv)は採用されなかったのである。これは、世論の反映ということができる。首長たちは、住民の世論を、「専門家」の主張よりも重視せざるを得なかったのである。そのかわり、中村の持論と思われる「費用対効果」が明記されることになったと考えることができる。

そして、住民の世論を無視して主張する「専門家」のこのようなあり方こそ、福島第一原発事故で問われたものの一つということができよう。このような「専門家」の主張に抗しつつ、住民の世論が自治体の首長たちを動かすことによって、「年間1mSv」という基準は意味あるものとされていったということができよう。

Read Full Post »

さて、前回は、柏市などの首都圏のホットスポットになった地域で、2011年5月頃より地域住民のあげた声によって、柏市などの自治体が放射線測定など自主的な放射線対策を始めてきたことを概観した。

他方で、それまで、自治体が自主的な対応を取らない根拠としてきた、東京大学などによる「柏市の放射線量は健康に影響がない」という主張について、東京大学内部からもこの時期より批判されるようになった。

本ブログの「https://tokyopastpresent.wordpress.com/2012/10/06/柏市の放射線量は健康に影響がないと主張してい/ 」で一部とりあげたことであるが、ここでは、多少、その記事にさかのぼりながら、この問題をみていこう。柏市には国立がん研究センターや東京大学柏キャンパスという専門機関があり、放射線の測定を行なっていた。しかし、この両機関は、平常より高い放射線量が測定されたことを公表しながらも、「柏市の放射線量は健康に影響がない」と主張し続けた。例えば、国立がん研究センターは、このように主張している。

このように、今回の福島第一原発事故で、直近の地域以外で報告されている放射線量は、少なくとも俄に人体に悪影響を及ぼす値ではなく、また、いくつかの事実はこのような低い放射線量を持続的に被ばくしたとしても、悪影響を及ぼす可能性はとても低いことを示しています。
http://www.city.kashiwa.lg.jp/soshiki/080500/p008644_d/fil/rikai1.pdf

柏キャンパスを設置している東京大学も、「東京大学環境放射線情報」というサイトにある「環境放射線情報に関するQ&A」で次のように述べている。

Q:本郷や駒場と比較すると、柏の値が高いように見えますが、なぜですか?

A:測定点近傍にある天然石や地質などの影響で、平時でも放射線量率が若干高めになっているところがあります。現在、私たちが公表している柏のデータ(東大柏キャンパス内に設けられた測定点です)は、確かに、他に比べて少々高めの線量の傾向を示しています。これは平時の線量が若干高めであることと、加えて、福島の原子力発電所に関連した放射性物質が気流に乗って運ばれ、雨などで地面に沈着したこと、のふたつが主たる原因であると考えています。気流等で運ばれてきた物質がどの場所に多く存在するか、沈着したかは、気流や雨の状況、周辺の建物の状況や地形などで決まります。結論としては、少々高めの線量率であることは事実ですが、人体に影響を与えるレベルではなく、健康にはなんら問題はないと考えています。
(http://megalodon.jp/2011-0521-2238-09/www2.u-tokyo.ac.jp/erc/QA.htmlより一部転載。後日変更されたため)

専門機関である東京大学・国立がん研究センターが健康に影響がないと宣言しており、柏市としても当初は追随するしかなったのである。2011年5月18日の柏市のサイトには、次のような文章がアップされていた。

東京大学・国立がん研究センターにおいて、定期的、継続的調査が実施されており、この測定結果に対し「少々高めの線量率だが、人体に影響を与えるレベルではなく、健康に問題はありません」とのコメントが出されています。
(https://sites.google.com/site/utokyoradiation/home/municipalitiesより転載。柏市のサイトからは削除されているので、ここから転載した。)

しかし、この「東京大学環境放射線情報」が、東京大学の教官有志から問題にされたのである。彼らは、2011年6月13日、東京大学総長に対して、次のような要請を行なった。かなり、長文だが、重要なものなので、全文引用しておく。

[要請の概要]
1、放射線のリスク評価に関して、少なくとも、低線量でもそれに比例したリスクは存在するという標準的なICRPモデルに基づいた記述とし、「健康に影響はない」と言う断定は避けること。
2、柏の放射線量が高い理由について、原発由来の放射性物質が主因であると明記すること。
3、測定中断をしている本郷1と柏1の計測を(頻度を下げても良いので)再開継続すること。

なお、Webページの記述については、私どもによる説明案の例を添付致します。

[以下、本文]

3月11日の東日本大震災に引き続いて起こった福島第1原子力発電所の事故により、地域住民に多大な被害が及び、なお収束までかなりの時間がかかると懸念されていることはまことに残念なことです。放射能による健康被害が懸念され、福島県のみならず東北から関東、さらにはそれ以外の地域の住民にも不安が広がっています。

これに関わり、本学の標記Webページについて、まず有用なデータを測定し公表していただいていることについて、関係者各位のご尽力に感謝いたします。とりわけ本学の柏キャンパス地域では事故後放射線量の増加が多く、住民の懸念が高まっておりますので、参考になる資料のご提示は意義あることです。

しかしながら、観測された放射線量についての標記Webページでの記述については、いくつかの問題があるものと私たちは考えます。本学の社会に対する責任という観点からも、これらは見逃せないものです。実際に、本学のWebページでの記述がいくつかの自治体によって引用され、放射線対策を取らない理由として用いられてきました。

本学のWebページの記述は、社会・市民からの本学に対する信頼が揺らぐ理由にもなり得るものと私たちは懸念しています。以下で問題を具体的に議論しますが、一刻も早い内容の再検討と修正をお願いいたします。なお、ご参考までに、私どもによる説明の案を例として添付致します。

I. 放射線の健康への影響について

「環境放射線情報に関するQ&A」のページで、「少々高めの線量率であることは事実ですが、人体に影響を与えるレベルではなく、健康にはなんら問題はないと考えています。」との記述がありますが、その根拠はまったく示されていません。

実際、私達はこの記述は学問的に不適当なものと考えます。放射線の健康への影響についてはさまざまな説があり、完全なコンセンサスは専門家の間でも得られていないものと承知しています。しかし、世界的にも標準的な考え方は、放射線による発がんリスクには放射線量にしきい値はなく、放射線量に比例してリスクが増加する、と言うもの(LNT仮説: Linear Non-Threshold=しきい値なし直線仮説)です。

このLNT仮説にも(楽観的・悲観的両方の立場から)批判はありますが、たとえば全米アカデミー全米研究評議会National Research Council of the National Academies 、BEIRVII報告書 http://www.nap.edu/openbook.php?isbn=030909156X でも各種学説を検討した結果、LNT仮説を支持する結論となっています。放射線防護に関する国際機構ICRPの勧告も、LNT仮説をベースにしたものです。LNT仮説によれば「これ以下であれば無害」といえる線量は存在しないので、ICRPも被曝線量はALARA(As Low As Reasonably Achievable=合理的に達成可能な限り低く)原則に従ってなるべく下げるべきという立場を取っています。http://hps.org/publicinformation/ate/q435.html

日本政府の施策も(少なくとも今回の原発事故までは)このような立場に基づいたものでした。たとえば、平成18年4月21日 原子力安全・保安院資料「我が国の原子力発電所における従事者の被ばく低減について」 http://www.meti.go.jp/committee/materials/downloadfiles/g60501a05j.pdf では、原発従事者の年間被曝が平均1mSv程度に抑えられている(現在の柏で屋外で過ごすと仮定した場合の被曝線量よりも低い)こと、しかしALARA原則に従ってさらに低下を目指すべきことが示唆されています。

平成22年7月23日 経産省原子力安全技術課「集団線量の低減に関する今後の検討について(案)」 http://www.meti.go.jp/committee/materials2/downloadfiles/g100723e07j.pdf でも「法令上の要求は十分に満足していることを前提として、被ばく量を合理的に達成可能な限り低く保つという「ALARA の原則」を踏まえた取組を行うことが適当である」と同様の方針を述べています。

原発従事者でもそうなのですから、特に本学を含めた地域社会の学生・生徒、乳幼児、妊婦などについては更に被曝線量の低下に向けた努力が求められるのではないでしょうか。もちろん、「十分低い線量」であれば、「リスクは十分に低いので無視できる」という判断はあり得ます。しかし、この判断は最終的には主権者である国民一人一人が行うものであり、リスクの開示なく東京大学が「無視できる」と判断するべきものではありません。一つの目安として、ICRP勧告による平時の一般公衆被曝限度 1mSv/年未満であれば無視できるといっても差し支えないかもしれませんが、少なくとも柏キャンパスの放射線強度は(自然バックグラウンドを差し引いても)これを上回るものです。

さまざまな説がある場合、子どもをもつ親のように安全サイドに立たざるをえない人の立場を考えれば、悲観的なリスク評価を排除するのは適切ではありません。とくに、「健康にはなんら問題がない」のような強い断定を行おうとするのであれば、悲観的な学説をなぜ排除したかの説明が必要でしょう。上記のLNT仮説やICRP勧告でも楽観的すぎるとする説もいくつもあります。仮にそのような説は考慮しないにしても、最低限、標準的なリスク評価であるLNT仮説やICRP勧告に基づいた記述をしてほしいものです。そのような基準に照らしても、標記Webページの記述は不適切なものと考えます。

福島県の住民をはじめとして放射能の健康への影響については、広い範囲の国民が強い関心を抱いています。放射線量が高い地域の住民の中には、子どもたちの将来を思い、日々悩んでいる方々も少なくありません。国民の期待を担う学問の府として、正確な情報を提示すべく、記述の修正をお願いいたします。

II. 柏の放射線量が高い理由

「東京大学環境放射線情報」のトップページに「測定地点の近くに天然石材や敷石などがある場合には、0.3μSv/時に近い値を示す場合もあります。」とのコメントがあります。また「環境放射線情報に関するQ&A」のページの「Q1:本郷や駒場と比較すると、柏の値が高いように見えますが、なぜですか? 」に対し、まず、「測定点近傍にある天然石や地質などの影響で、平時でも放射線量率が若干高めになっている所があります」との記述があります。そして、柏の線量の高さの原因として、「平時の線量が若干高めであることと、加えて、福島の原子力発電所に関連した放射性物質が気流に乗って運ばれ、雨などで地面に沈着したこと、のふたつが主たる原因であると考えています。」と結論しています。

私達は、この記述にはいくつかの点で問題があるものと考えます。

まず、東大柏(1)の測定データでも、3/18〜3/20の計測データの平均は0.12μSv/時程度です。これにも原発事故の影響がないとは言い切れませんが、平時の値は高々この程度のはずです。関東地方の典型的な平時の値を0.05μSv/時とすると、差は0.07μSv/時に過ぎません。一方で、現時点で柏(1)の最終測定値となっている5/13の値は0.35〜0.37μSv/時(5/12はもっと高く、0.38〜0.39μSv/時)です。従って、原発事故の影響による増分は(控え目に見ても)0.23μSv/時、すなわち平時の差を 0.07μSv/時 としてその3倍以上です。

ある量が大きい原因の 1/4程度に過ぎないものを強調し、3/4を占める要因をおまけ程度に扱うというのは科学的に誠実な態度とは考えられません。この増加の健康への影響の議論は別にして、柏キャンパスの放射線量が高いのは、時間変化からも明らかに原発事故の影響が主因です。

また、柏(1)の測定点の近くに天然石があるとのことですが、その影響による放射線量の増加については定量的な根拠をもとに論じられているのでしょうか。柏市やその周辺地域で放射線量が高いのは本学の測定に限らず一般的な事実であり、天然石や地質の影響とは考えられません。まず、近隣の国立がん研究センター東病院の測定 http://www.ncc.go.jp/jp/information/sokutei_ncce.html でも病院敷地境界で6/2になっても0.35μSv/時 が観測されています。また、最近の千葉県による測定 http://www.pref.chiba.lg.jp/taiki/press/2011/230602-toukatsu.html でも柏市内および周辺地域で高い線量が観測されています。その他、市民有志による測定でも地点によって差はあるものの、柏市周辺では有意に高い放射線量が観測されています。これらがすべて「天然石」の影響であるとは考えられません。

また、私達のうちの一人は個人で所有している線量計で柏キャンパス内の放射線量を計測していますが、天然石の近くでなくても高い値を観測しています。(たとえば、5/21キャンパス中央付近コンクリートタイル上約1mで0.39μSv/時) なお、日本地質学会による「日本の自然放射線量」 http://www.geosociety.jp/hazard/content0058.html によると、柏市周辺で期待される自然放射線量は0.036μSv/時以下で日本の中でもむしろ低い部類に入るようです。したがって、本学の標記Webページでの記述は科学的に不適当であると言えます。

国民から高い科学的倫理が期待されている東京大学としては、事実をもとにして、柏で計測されている高い線量値の主因は原発事故であることを明らかにする記述をするべきものと考えます。

また、柏(1)の「平常時の値」が0.1〜0.2となっていますが、前述したように3/18〜3/20の3日間の計測データの平均が 0.12μSv/時であり最大でも 0.14μSv/時であったこと、またこの期間においても原発事故の影響があった可能性も考えると、平常値の値は0.12μSv/時またはそれ未満であると考えられます。「平常値の値」0.1〜0.2μSv/時とは、2011年3月11日以前の実測データに基づくものなのでしょうか。推定の根拠を明らかにするようにお願いいたします。震災以前の同地点での実測値が存在しないのであれば、高めに見積もっても 0.12〜0.14μSv/時とするべきではないでしょうか。

以上、柏キャンパスの放射線量をどう評価するかという問題について述べてきました。これは柏地域の住民にとって関心が高い事柄ですが、放射線量の上昇は東北、関東の諸地域で起こっていますので、東大キャンパス周辺の1地域の問題にとどまらぬ影響をもちうるものです。早急な再検討とWebページの記述内容の修正をお願いいたします。

また、本郷(1)、柏(1)の測定が中断されていますが、原発事故後の時間変化を追跡するという意味で、同一地点での計測の継続はたいへん貴重なデータとなります。以前より頻度を低下させても良いかもしれませんが、是非計測の継続とその結果の公表をお願いいたします。

平成23年6月13日
東京大学教員有志 
(氏名別添)
https://sites.google.com/site/utokyoradiation/home/request

ここで、重要な論点として、東京大学の有志教員たちは、放射線被曝による発がんリスクの上昇は、閾値などなく被曝線量に比例していること、そして、少なくとも柏市の状況は、ICRP勧告の一般公衆被曝限度の年間1mSvをこえていることを指摘していることをあげておきたい。さらに、柏市の放射線量の高さについて、「天然石」からの影響をあげていることにも疑義を示しているのである。そして、東京大学の主張が、各自治体の放射線対策を取らない理由となっていることも批判しているのである。

これに対して、結局、東京大学も、サイトについて変更することを余儀なくされた。朝日新聞2011年6月18日付夕刊は、次のように報道している。

「健康に問題なし」は問題 東大サイト 指摘うけ削除 放射線測定結果

 学内の放射線を計測して公式サイトで公表している東京大学が、測定結果に「健康にはなんら問題はない」と付記してきた一文を、全面的に削除して書き換えた。市民からの問い合わせが相次ぎ、「より厳密な記述に改めた」という。学内教員有志からも「安易に断定するべきではない」と批判が寄せられていた。測定値は東京・本郷と駒場、千葉県柏市の各キャンパスの、1時間ごとの値を掲載している。柏キャンパスは現在、毎時0.25マイクロシーベルト前後だが、平時は0.05〜0.10程度。サイトでは「(原発の)事故前より少々高めの線量率であることは事実ですが、人体に影響を与えるレベルではなく、健康にはなんら問題はないと考えています」とのコメントを載せていた。
 これに対し、学内の教員有志45人が今月13日、記載を改めるよう浜田純一総長に要請書を提出した。ごく微量でも放射線量に比例して発がんリスクがあるというのが世界的に標準的な考え方だと指摘。「(安全だと)強い断定をするなら、悲観的学説をなぜ排除したか説明が必要だ」と主張した。
 大学側は翌14日、当該コメント部分を削除し、100ミリシーベルト(1回または年あたり)以下の被曝による人体へのリスクは明確ではない、との研究成果を紹介。国際放射線防護委員会(ICRP)が「長期的には放射線レベルを年1ミリシーベルトに」「事故の収束後は年1〜20ミリシーベルトの範囲」と提言した事実などを列記した。
 東大広報課は、「当初は一般からの問い合わせに答えるため端的な記述が求められていると判断したが、双方向のやりとりがないウェブサイトでは、リスク情報を発信する難しさを感じた」と話している。
(吉田晋)

具体的には、このようにサイトは変わった。なお、東大教官有志は、これでは不十分として7月1日に第二回の要請を行なっている。

東大環境放射線情報ページの変化
私たちが2011年6月13日に要請文を提出後、6月14日付で東京大学「環境放射線情報に関するQ&A」の内容に重要な変更が行われました。
本サイトに掲載されている要請文は、変更前の内容に基づいて書かれていたものなので、変更前の上記ページの内容と、6月14日付の変更の内容について記しておきます。

上記ページは少しずつ改訂されていましたが、2011/5/21時点でのページが、こちらに保存されています。
(要請書提出の6/13時点では更なる改訂によって内容は変化していましたが、重要な点での見解は同じでした。)
私たちが主に問題にした箇所を以下に抜粋して引用しておきます。

Q:本郷や駒場と比較すると、柏の値が高いように見えますが、なぜですか?

A:測定点近傍にある天然石や地質などの影響で、平時でも放射線量率が若干高めになっているところがあります。現在、私たちが公表している柏のデータ(東大柏キャンパス内に設けられた測定点です)は、確かに、他に比べて少々高めの線量の傾向を示しています。これは平時の線量が若干高めであることと、加えて、福島の原子力発電所に関連した放射性物質が気流に乗って運ばれ、雨などで地面に沈着したこと、のふたつが主たる原因であると考えています。気流等で運ばれてきた物質がどの場所に多く存在するか、沈着したかは、気流や雨の状況、周辺の建物の状況や地形などで決まります。結論としては、少々高めの線量率であることは事実ですが、人体に影響を与えるレベルではなく、健康にはなんら問題はないと考えています。

2011/6/16時点でのページの記録は、こちらになります。この時点での、上記に対応する箇所を以下に引用します。
最も重要な変更として、「人体に影響を与えるレベルではなく、健康にはなんら問題はない」という記述が消滅しました。

Q2:本郷や駒場と比較すると、柏の値が高いように見えますが、なぜですか?

A2:現在、私たちが公表している柏のデータ(東大柏キャンパス内に設けられた測定点)は、確かに他に比べて高めの線量を示しています。測定点近傍にある天然石や地質などの影響で、平時でも空間線量率が若干高めになっている所があります。また、福島の原子力発電所に関連した放射性物質が気流に乗って運ばれ、雨などで地面に沈着したことが原因であると考えています。気流等で運ばれてきた物質がどの場所に多く存在するか、沈着したかは、気流や雨の状況、周辺の建物の状況や地形などで決まります。

Q3:キャンパス内で測定されている放射線量(空間線量率)は人体への影響はありますか?

A3:事故前より高い空間線量率が測定されています。従来の疫学的研究では、100mSv(1回または年あたり)以下の被ばく線量の場合、がん等の人体への確率的影響のリスクは明確ではありません(自然被ばく線量は世界平均で1年間に2.4 mSvです)。ICRP(国際放射線防護委員会)は、2007年勧告を踏まえ、本年3月21日に改めて、「長期間の後には放射線レベルを1mSv/年へ低減するとして、これまでの勧告から変更することなしに現時点での参考レベル1mSv/年~20mSv/年の範囲で設定すること」(日本学術会議訳)とする内容の声明を出しています。

※ICRP声明 3月21日 http://www.icrp.org/news.asp

Q9:柏キャンパスにおける空間線量率のバックグランド(表中では「平時の値」と記載)は、どのように評価されたものですか?

A9:柏(1)のバックグランドは、福島第1、第2原子力発電所の事故以前に、放射線管理の専門家によって、まさにその地点で実際に測定されていた値を基にしています。0.08~0.16μSv/時程度ですので、平時の値としては、まるめて0.1~0.2μSv/時としました。柏(2)は柏(1)のすぐ近傍(約10m離れた地点)にあります。原子力発電所からの事故による飛来物の量は柏(1)と柏(2)でほぼ同じと推定されますので、柏(2)の自動測定を開始したころの相互の測定値を比較して、柏(2)の平時の値を0.05~0.1μSv/hと評価しました。この値は、柏(2)における過去のバックグランド測定値(0.07~0.10μSv/時)とよく整合しています。

測定された値から、平時の値を差し引いた値が、主に原子力発電所の事故由来の放射性物質による影響と考えています。
https://sites.google.com/site/utokyoradiation/home/developments

このように、東大の「健康に影響がない」という主張は、東大内部の有志教官らの運動で、不十分ながらも改変されたのである。朝日新聞が伝えているように、この背後には、東大の主張に対する市民からの批判があったといえる。ただ、それでも、東大の教官有志という「科学者」の集団が、「科学」で武装した東大の「健康に影響がない」という主張を批判し、変えさせたということは大きいといえる。これは、権力に献身してきた「科学」を、その内部からも一部なりとも変えていく可能性を提示したといえる。

しかし、その後も、「専門家」たちは、あきれるくらい「健康に影響がない」と主張し続けた。これは柏市などの千葉県東葛地域だけはない。もっとも激しく主張しているのは、より放射能汚染が深刻な福島県である。次回以降、柏市などにしぼったかたちで、この「専門家」たちの言動をみておこう。

Read Full Post »

2012年10月10日、首都圏における放射性セシウムのホットスポットとなってしまった千葉県柏市をとりあげ、「世論におされて子どもの被ばく線量を年間20mSvから1mSvに変更した文部科学省ー公共の場における柏市放射線量問題の提起の前提として」という記事をここでアップした。

だいぶ、長らく、続きを書くことができなかったが、最近、やはりホットスポットになってしまった近隣の茨城県取手市を取り上げることになったので、ここで再開することにした。

3.11直後、柏市は、最高0.74μSv/h(2011年3月24日)を計測するなど、今の0.23μSv/hという基準からみれば、かなり高線量の放射線にさらされた地域であった。しかし、柏市に所在し、空間線量を計測していた国立がん研究センターと東京大学は、この程度の線量ならば健康に支障がないと言い張り、柏市役所も追随するしかなかったのである。その意味で、柏市の高線量は問題とされなかったのである。

先のブログでは、柏市の高線量が問題化されたのは、福島などの人びとの声を受け入れざるをえなくなって、文部科学省が2011年5月27日において学校における子どもの被曝量を年間20mSvから1mSvに事実上引き下げたことを契機としているとした。年間20mSvを基準とする場合、1時間あたりでは3.8μSvになるとされていた。その20分の1は、0.19μSvである。現在、一般的公衆の被曝限度は年間1mSv、0.23μSv/hが基準となっているが、その源流といってよいだろう。

大きくいえば、この文科省の年間1mSvへの基準強化が原因になっているとはいえる。しかし、それ以前からも、この地域の住民から、放射線を測定し、対策を求める声は存在していた。2011年6月17日付朝日新聞朝刊は、次のように報道している。

放射線 首都圏も敏感 変わる日常 「3.11」後を生きる 柏・松戸地域 母親ら「ホットスポットでは…」

 東京電力・福島第一原発の事故以来、首都圏でも、千葉県柏市や松戸市など、周辺と比べて高い放射線量が観測されている地域がある。放射性物質が局所的に集中する「ホットスポット」なのではないかと不安を抱いた市民らが自治体に独自の測定を要請。当初は慎重だった自治体も、住民の声に背中を押されている。

 一帯の放射線量が注目されるようになったきっかけは、東京大学柏キャンパスの測定値だった。事故直後の3月21日に毎時0.8マイクロシーベルトとなったのを最高に、6月17日になっても毎時約0.25マイクロシーベルト前後を記録。同大が一緒に公表している本郷(東京都文京区)、駒場(同目黒区)の値と比べ、一貫して高くなっている。
 さらに、柏市内の女性の母乳や、松戸市の県営浄水場から放射性ヨウ素が検出された。しかし、千葉県が放射線を測定しているのは、約40キロ離れた市原市の1カ所だけ。このため、一般の人が放射線量を測定する動きが出てきた。
 柏市の主婦、美土路優子さん(33)も5月の連休明けに線量計を購入し、自宅周辺の測定を始めた。
 3歳の長男は事故以来、島根県の夫の実家に預けたままだ。行政にもきちんと対応して欲しいとの思いが募り、「ママ友」と一緒に、市に対して独自測定を求めようと決心した。ネットで賛同を呼びかけたところ、2週間ほどで1万人以上の署名が集まった。
 今月初め、市役所に署名提出に行くと、70人以上が集まった。大半は子を持つ年代の女性だったが、ほとんどが初対面だったという。「ふつうの主婦で知識も行動力もないけど、一致団結できたら大きな力になる」。美土路さんは不安が解消されるまで、声をあげ続けるつもりだ。

このように、柏市では、2011年5月から、自ら自宅周辺の測定をするとともに、行政にもきちんと対応してほしいと声をあげる人たちが出現してきたのである。

この朝日新聞で氏名があげられている美土路優子は、ネットで検索してみると、「柏の子どもたちを放射能汚染から守る会」を結成し、6月2日に要望書と署名を柏市に提出している。その要望書の内容は、この会のサイトでみると、以下のようなものであった。

【要望書内容】
柏市長 秋山浩保 様
原発事故による放射能汚染のニュースが毎日ながれ、子どもたちの将来にとても不安を感じています。

インターネットで公開されている東大柏の葉キャンパスやがんセンター東病院の放射線量は千葉県環境研究センターの数値の約10倍で、いわき市や水戸市よりも高くなっています。

柏市が未来をになう子どもたちの命と健康を守るため、早急に以下のことに取り組んでくださるよう、強く要望いたします。

1、柏市が独自に、保育園・幼稚園・小中高等学校・公園など、子どもたちに関わるすべての施設の「屋内、屋外地上1m、地表」の放射線量を測定し、情報を公開すること
2、放射線を出すものを取り除くこと(グラウンドの土や、公園の砂などの入れ替え)
http://kashiwamoms.wordpress.com/

このサイトでは、この要望書と署名が渡された時の状況についても、以下のように述べられている。

「柏の子どもたちを放射能汚染から守る会」の署名ご協力ありがとうございました。 お陰様でオンラインと紙署名合わせて目標であった1万を超え 10,439名分の署名が集まりました。
6月2日、柏市役所にて皆様から頂いた署名を浅羽副市長にお渡ししました。小学校などの測定資料と市原との比較資料、柏の放射線が確実に高いのを踏まえ行政が先立って教育の現場に放射線の危険性を伝えて回避に努めて欲しいこと 、年間1ミリで除染をしてほしいことなど皆で伝えました。
これから市がどう対策を打つのか注視していきたいと思います。 署名提出は締め切ってはいませんので引き続き市の動きを見ながら集めて行きたいと思います。
代表 大作ゆき、美土路優子
http://kashiwamoms.wordpress.com/

口頭では、明確に年間1mSvを基準に除染してほしいと要望しているのである。

このように、地域住民が放射線への不安の中で、放射線量の測定と対策を求めている中で、東京大学の「専門家」たちは、いまだに「健康に影響はない」と繰り返していた。先に挙げた、2011年6月17日付朝日新聞朝刊の記事では、東京大学の中川恵一の「普通に生活していい」という談話を紹介している。

普通に生活していい

 中川恵一・東京大准教授(放射線医学)の話 東大柏キャンパスのように放射線量が高い地点が生じているのは、気流に乗って福島第一原発から運ばれてきた放射性物質が雨などで地面に落ち、地中に染みこんだことが理由と考えられる。ただ、同地点の放射線量は今、国際基準からみても健康に影響がないとされるレベルだ。大気中に放射性物質がまだ残っているわけでもなく、子どもたちが吸い込むことはほとんど考えにくいため、外で遊ばせないなど過剰に反応する必要はない。マスクをつけさせたり長袖を着させたりする必要もない。その半面、心配する親の気持ちもわかる。自治体が放射線量を測定することで親が安心するのならば、意味があると思う。

結局、板ばさみとなったのは、この地域ー柏市、松戸市、我孫子市、野田市、流山市、鎌ヶ谷市で東葛6市といわれるがーの首長たちだった。柏市のサイトによると、5月17日に、この東葛6市の市長たちは連名で千葉県に、大気中および土壌の放射線量などを測定・公表することを要望している。しかし、市民の要求は日増しに増えてきた。市側も紆余曲折しながら、独自測定をしなくてはならなくなった。2011年6月17日付朝日新聞朝刊の記事では、その過程が叙述されている。

 

独自測定へ市も動く

 柏市にはこれまで、放射線の影響について、電話やメールで6千件近い問い合わせが寄せられた。松戸市や流山市など、県北西部の自治体にも相次いでいる。
 ただ、庁内に放射線の専門家がいるわけでもない。柏市の担当者は「なぜ東大の数値は高いのか、という質問が多いが、市では答えられない」と打ち明ける。
 周辺6市で最初に独自測定に向けて動き出したのは松戸市だ。5月22日に公園や保育園で測定を始めた。
 だが、共同で測定する計画を立てていた残りの5市は「測定方法やデータの評価法を統一しなければ混乱を招く」と反発。松戸市内部でも「対応策が決まっていないのに、データだけ公表すれば不安をあおる」との意見が市教委から出て、小中学校と高校の測定開始は6月6日にずれこんだ。
 松戸市が先行するなか、他の市には「なぜ測定をしないのか」という意見が次々寄せられ、我孫子市は5月27日、柏・流山両市は6月6日に測定を開始。さらに野田市、鎌ヶ谷市を含む6市の要望を受けた千葉県は周辺地域の18カ所で測定を開始した。被曝量を年間換算したところ、文部科学省が暫定上限値としている20ミリシーベルトは下回ったが、15地点は目標の1ミリシーベルトを超えた。
 もっとも、年間1ミリシーベルト換算の放射線は、県内の他の場所でも観測されている。柏市周辺で局所的汚染が起きているかどうかは、はっきりしない。
 6市の対策協議会は13日から、県や各市の独自測定とは別に、精度が高い機器を使って学校や公園など36カ所で測定を開始した。1回目の結果は、17日午後に公表する予定だ。
 「ホットスポットの可能性」は他の地域でも指摘され、詳細に放射線量測定をする自治体は首都圏全体に広がり始めている。
(小松重則、園田二郎)

東大などの「専門家」が「健康に支障がない」という中で、住民の要求におされ、ようやく、この地域の首長たちも独自に放射線を測定することをはじめたといえる。「専門家」ではなく、住民の声が、それぞれの市で放射線対策を実施する原動力となったといえよう。そして、このように、放射線対策を行なっている中で、このホットスポットの汚染状況の深刻さがあきらかにされてくるのである。
 

Read Full Post »

このブログで前述したように、2012年12月25日、市民団体の調査によって、茨城県取手市の小学1年生、中学2年生の間で、心臓疾患のおそれがある児童・生徒が増加していることが発表された。

この茨城県取手市というところは、茨城県南部に所在し、福島第一原発からかなり離れたところにある。しかしながら、福島第一原発事故当時、多くの放射性物質が降下し、高い放射線量を示したところであった。

ここで、文部科学省が2011年8月31日に修正発表した、「文部科学省及び茨城県による 航空機モニタリングの測定結果」をみてみよう。まず、放射性セシウム(セシウム134、セシウム137の合計)沈着量をみておこう。

茨城県における放射性セシウム沈着量

茨城県における放射性セシウム沈着量


http://radioactivity.mext.go.jp/ja/contents/5000/4933/24/1940_0831.pdfより

みてわかるように、福島県境にある北茨城市、大子町に放射性セシウムが大量に沈着した地域があるが、県南部の、霞ヶ浦と利根川にはさまれたはるかに広大な地域において放射性セシウムが大量に沈着しているのである。その中心は阿見町、牛久市であり、その地域では、放射性セシウムの沈着量が10〜6万bq/㎡となっている。そして、そのまわりの、かすみがうら市、土浦市、つくば市、つくばみらい市、守谷市、龍ケ崎市、利根町、稲敷市、美浦村には、6〜3万bq/㎡の地帯が広がっている。

取手市は、この県南部の一角にある。ほぼ全域が、6〜3万bq/㎡の放射性セシウムが沈着している。しかも、取手市内部には放射性セシウム沈着量が10〜6万bq/㎡のところも存在しているのである。以前、ここで、千葉県柏市の放射線量を紹介したことがあったが、取手市の対岸にある、利根川南岸の千葉県我孫子市、柏市、流山市も同様の放射性セシウム沈着量を示している。取手市もまた、首都圏のホットスポットの一つなのである。

実は、放射性管理区域の基準は3万7000bq/㎡ということになっている。その基準でいくならば、ここであげた地域のかなりの部分は放射性管理区域になってしまうのである。

取手市を含む、茨城県南部の空間線量も同様に高い。下図をみてみよう。

茨城県の空間線量

茨城県の空間線量


http://radioactivity.mext.go.jp/ja/contents/5000/4933/24/1940_0831.pdfより

現在の基準である年間1mSv未満に被曝量を抑えるためには、空間線量は毎時0.23μSv以下でなくてはならないとされている。もちろん、両基準とも信用できるかどうかはわからないが、一応の目安にはなるだろう。その基準でみても、取手市内の多くの地域が毎時0.2μSv以上となっていて、多くの地点で基準以上の空間線量を示しているといえよう。

取手市のみの空間線量マップをみておこう。それもまた、同じ傾向を示しているのである。ざっとみて、市内の半分くらいが、毎時0.23μSvを超えた空間線量を示しているといえる。

取手市の空間線量

取手市の空間線量


http://www.city.toride.ibaraki.jp/index.cfm/8,15622,c,html/15622/20121206-162655.pdfより

取手市では、2011年5月13日から、小中学校、保育所、幼稚園の放射線量測定を始めたが、かなり高いところが続出した。毎時0.23μSvをこえるところはかなり多い。一番高いところは、0.449μSv(高さ1m)であった。2011年7月13日よりは市内の緑地・公園でも放射線量の測定を行なっているが、一番高いところでは毎時0.48μSv(高さ1m)であった(取手市のサイトより)。取手市の空間線量マップでも一番高いところが0.4μSvなので、大体一致している。

もちろん、現在(2012年12月)は、除染などの効果もあって、小中学校や保育所などの空間放射線量は毎時0.23μSv以下になっている。公園・緑地などでもおおむね毎時0.23μSv以下になっているが、いまだ0.39μSv(1m)などの高い線量を示すところも部分的にはあるようである(取手市のサイトより)。

このように、現在はかなり下がったようであるが、福島第一原発事故直後、隣接する茨城県南部や千葉県西北部と同様に、取手市でも放射性セシウムが多く降下し、この地域は首都圏におけるホットスポットの一つとなった。ゆえに、この地域の住民はかなり高い空間線量にさらされたのである。その意味でも、取手市の小中学生に健康被害が増加している可能性があるというニュースは懸念すべきものなのである。

Read Full Post »