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Posts Tagged ‘バーバラ・ジャッジ’

汚染水問題などの福島第一原発事故における異常事態の発生とそれに対する東京電力の対応は、海外の「原子力ムラ」の代表者たちといえる人びとからの批判を招いた。東京電力は昨年から「原子力改革監視委員会」という組織を設置し、デール・クライン委員長(米原子力規制委員会元委員長)、バーバラ・ジャッジ副委員長(英原子力公社名誉会長)、櫻井正史(名古屋高裁元検事長・国会事故調元委員)、大前研一、下川邉和彦(東電会長)を委員とした。クラインとジャッジは、経歴からみるかぎり、いわゆる海外の「原子力ムラ」の代表といえる人物である。この委員会の第四回会合が7月26日にあり、その後、記者会見が開かれた。この記者会見の席上、クラインとジャッジは、汚染水問題に対する東電の対応を批判した。現在のところ、日本語メディアでは、この二人の批判はきわめて小さくしか報道されていない。ロイターもかなりくわしく二人の批判を伝えたが、その記事は後に書き換えられ、批判している部分は切り縮められてしまった。その中で、この二人の批判を日本語でもっとも詳細に伝えているのがAFP(フランス通信社)である。その報道をまずみておこう。

【7月29日 AFP】東京電力(TEPCO)が国内外の専門家で構成する第三者委員会「原子力改革監視委員会」の4回目会合が26日に開かれ、福島第1原子力発電所からの放射性汚染水の放出問題について出席者からは透明性の欠如を指摘する声や、「東電は自分たちのやっていることが分かっていないのではないか」など厳しい批判が相次いだ。

 かねて疑われていた福島第1原発から海への汚染水流出について、東電は前週になって初めて認めた。外国人2人、日本人4人の専門家からなる原子力改革監視委員会のデール・クライン(Dale Klein)委員長(米原子力規制委員会元委員長)は「安全側に立った意思決定の姿勢に欠けている。国民に十分な情報を提供していない」「東電は自分たちのやっていることが分かっていないのではないか。計画がなく、全力を尽くして環境と人々を守ろうとしていないと映る」などと批判した。

 東電ではこれまで、発がんリスクのある放射性物質の濃度が、採取した地下水中で上昇していると報告していたが、汚染水の流出は原発の敷地内にとどまっていると主張していた。しかし、その主張に規制当局が疑念を募らせる中、ここに来て検出結果の公表が遅れたことを認めた。同じ会見で東電の広瀬直己(Naomi Hirose)社長は、ここ数か月の間に汚染水流出の可能性を警告する機会が少なくとも4回はあったと述べ、「3.11の教訓を学んで対応できていない」として謝罪した。また自らが1か月間、10%の減給処分を受けることを発表した。

 クライン委員長は会見の冒頭、汚染水流出に関する東電の対応に「不満を表明したい。汚染水問題がこれまでの福島(第1原発)の事故処理と改革の進歩を後退させると危惧(きぐ)している」と述べた。また東電による情報隠しではないかとの報道陣の質問に対してはこれを否定し、処理計画は適切だが、それを公表するまでに時間がかかりすぎたとし、「問題が発覚した段階ですぐに分かっていること、分からないことを発表する必要がある」と忠告した。

 バーバラ・ジャッジ(Barbara Judge)副委員長(英原子力公社名誉会長)も、東電の情報公開性の欠如に「本当にがっかりした」と述べ、「(原発の)廃炉作業は複雑で難しいプロセスであるため、今後も問題が生じることは必至だろうが、次に問題が起きたときには今回の誤りから学んで人々にいち早く、状況とそれを改善する東電の計画を知らせてもらいたい」と語った。

 ジャッジ氏はまた、東電の企業風土に問題があるとし「多くの企業同様、閉鎖的で効率性を優先する文化があり…議論する準備ができたと思えるまでは、自分たちだけで問題解決を図ろうとする」と指摘し、「効率よりも安全を優先する文化」を歓迎すると述べた。(c)AFP/Harumi OZAWA
http://www.afpbb.com/article/disaster-accidents-crime/accidents/2958809/11090490

なお、クラインとジャッジが東電を批判した記者会見については、IWJがネットで動画を配信している。この動画自体も編集されており、また通訳で表現が変えられてしまっているところもあるかもしれないが、今のところ、この動画が、彼らの批判を肉声で伝えている。ここであげておこう。

とりあえず、クラインとジャッジの批判部分のみおこしてみた。すべてではなく、また通訳の問題もあって、正確とはいえないかもしれないが、ここであげておく。

クライン委員長:…この地下水の漏洩や汚染水の海洋への流出の対処がうまくできていかなかったこと、このタイミングがまさにこの委員会と重なったことについて、私たちは大変残念に思うと同時にいらだちを覚えます。多くの方が鋭意現場で努力をされているなかで、このような広報上の対応のまずさというものが努力をないがしろにしていると思います。特に、私どもが関心をもちましたのは、何を把握されたのか、また、いつそれを把握されたのか、また、この対応のためにどのような対策をとろうとされているのか、ということです(中略)
少し、改革委員会としては以下の提案をさせていただきます。福島第一の汚染水の漏洩問題に関する解決にあらゆる手段をつくすということを迅速に行うのが一点目です。
また、2番目としては、福島第一の汚染水の取扱について、包括的な計画をつくり、その場しのぎでなく、根本的な解決につなげるということです。
また、リスクコミュニケーションならびに情報の公表につきましても、まだ多くの作業を残していると思います。
と、同時に、また、緊急時対応の演習・訓練についても今後とも練習する必要があることはあきらかです。
(中略)
ジャッジ副委員長:昨日、日本に参りましたが、その際、私は大変落胆し意気消沈したということを、クロフツ室長をご紹介する前に申し上げます。原子力発電事業者として東電が再生の道をたどりつつあることを個人的にも私は日本の内外の方々にいろいろとこれまでもお話して参りました。また汚染水の流失につきましては、あまりにも手間取ったということ、遅きに失してしまったという広報の対応というものが、大きく事態の進捗でプラス面があるなかで、事態をないがしろにしかねないと考えています。
また、社長の話がありましたけれども、これからも汚染水の問題、ならびにネズミの侵入による電力の供給の停止がおこりましたけれども、今後、このようなことも引き続きおこると予想されます。これらの事態がさけられないのは廃炉が長い作業であるからです。事態を収拾し、また安定させるために、難しいことと承知していながら、邁進している現場の方々がおられます。しかし、東電としましても手抜かりなく広報にも今後努力をし、事象が起ったらすぐ伝達し知らしめるということが必要になってきます。今後、東電が先に進むにあたって必要な信頼を得るためにも、とりもどすためにも。このような即応体制を広報に対応してもらいたいと思います。

クラインとジャッジがともに指摘しているのは、まず、汚染水問題に対する東電の広報のまずさである。東電は汚染水の海洋への漏洩をなかなか認めず、参院選後の7月22日にようやく認めた。この汚染水問題の発表の遅れを明示的に批判し、現場での対応をないがしろにしかねないとしているのである。

クラインは「何を把握されたのか、また、いつそれを把握されたのか、また、この対応のためにどのような対策をとろうとされているのか」と問いかけた。前二者は主に広報にあたるといえるが、最後については、汚染水問題についての今後の対応計画はあるのかということである。ジャッジも、汚染水問題だけでなく、ネズミの侵入による停電も引き合いにだして、「今後、このようなことも引き続きおこると予想されます。これらの事態がさけられないのは廃炉が長い作業であるからです」といっている。これはもちろん広報の問題でもあるが、より根本的には「廃炉作業全体に対する計画はあるか」ということになる。通訳の問題もあり、実際にはより過激に言っているのかもしれないが、これを読む限り、東電の廃炉作業全体を婉曲的な形で批判したといえるのである。

そして、クラインは、「福島第一の汚染水の漏洩問題に関する解決にあらゆる手段をつくすということを迅速に行うのが一点目です。また、2番目としては、福島第一の汚染水の取扱について、包括的な計画をつくり、その場しのぎでなく、根本的な解決につなげるということです。また、リスクコミュニケーションならびに情報の公表につきましても、まだ多くの作業を残していると思います。と、同時に、また、緊急時対応の演習・訓練についても今後とも練習する必要があることはあきらかです」と提言している。このことを提言であげるということは、反面で、これらのことが不備だということになる。まず、汚染水問題について東電はあらゆる解決手段をつくしておらず、根本的な解決につなげる包括的計画もなく、その場しのぎの対応をしていることになる。そして、リスクコミュニケーションおよび情報公開については、明示的に問題があるということになる。そして、最後の項目は意味深長である。つまり、東電は緊急時の対応の準備ができていないということになるのである。逆にいえば、今回の汚染水問題は、緊急時対応すべき問題であったにもかかわらず、東電はしなかったということになる。それほど、問題は切迫していたということを、クラインは婉曲な形で示したといえよう。

そして、これらの提言は、東電に対する原子力改革監視委員会の答申の中にとりいれられた。東電のホームページに掲載された。福島第一原発事故問題以外にも言及しているが、ここで、全文をあげておこう。

取締役会長 下河邉 和彦 殿
原子力改革監視委員会

原子力安全改革プランの進捗に関する監視結果について
~原子力改革監視委員会から東京電力取締役会への答申~

 当委員会は、本日開催された第4回原子力改革監視委員会において、東京電力原子力改革特別タスクフォースから「福島原子力事故の総括および原子力安全改革プラン(以下「改革プラン」という。)」の進捗状況について報告を受け、以下のとおり改革プランの状況を確認した。

原子力安全に関する経営層向けの研修や原子力発電所幹部の安全意識を抜本的に向上させるための取組みなどを開始している。
全社員に福島第一事故の教訓および改革の必要性を徹底的に理解させ、改革を将来にわたり継続・深化させるため、まずは原子力部門の社員を対象とし、改革プランを題材としたグループ討議を開始している。
取締役会直轄の「原子力安全監視室」を5月に設置。ジョン・クロフツ氏(元イギリス原子力公社 安全・保証担当役員)が室長に着任し、室員のパフォーマンスを最大限に発揮させるためのチームビルディングを行うとともに、執行側の各種会議体に出席し、原子力安全を最優先とした議論がなされているかを監視するなどの活動を開始している。
安全文化の浸透状況等を客観的に把握するため、IAEA(国際原子力機関)、INPO(米国原子力発電運転協会)、WANO(世界原子力発電事業者協会)等の第三者機関による外部評価を計画している。
「ソーシャル・コミュニケーション室」を4月に設置し、社会の捉え方に沿った情報公開やリスクコミュニケーターによる対話活動に取り組んでいる。
柏崎刈羽原子力発電所(以下「柏崎刈羽」という。)においては、福島第一原子力発電所(以下「福島第一」という。)事故の教訓を踏まえた設備面の対策(津波対策、冷却・除熱機能の確保、フィルターベント設備の設置等)が着実に進められている。また、緊急時対応能力を抜本的に向上させるため、防災訓練を繰り返し行う中で、問題点を洗い出し、継続的な改善に取り組んでいる。

 福島第一で進められている廃炉作業は、過去に例を見ないものであり、事故・トラブルが発生するなど様々な困難に直面している。そうした中、東京電力は社長を本部長とする「福島第一信頼度向上緊急対策本部」を設置し、安定状態の維持・強化のための対策を迅速に実行するように努めている。

 しかし、最近の汚染水漏えい問題への対応、およびこの四半期に発生した事故・トラブルの反省を踏まえると、改革プランの実施を加速し、実効性を上げるための一層の努力を行う必要があると言わざるを得ない。こうした観点から、以下の取組みを行うことを提言する。

福島第一の汚染水漏えい問題の解決に必要な対策を迅速に行うこと。
福島第一の汚染水の取り扱いについて、その場しのぎではなく、根本的な解決につながる包括的な計画を立地地域や国と連係しつつ策定すること。
上記汚染水漏えい問題への対応を含む改革を加速し、実効性を上げるため、必要な組織の見直し、人的リソースの投入等を迅速かつ機動的に行うこと。
事故・トラブル発生時のリスクコミュニケーションについては、社内の情報流通・共有を根本的に改善させるとともに、リスクコニュニケーター、ソーシャル・コミュニケーション室を機能させ、迅速かつ適切な情報公開に努めること。一般の方々にリスクについて説明する際は、事例を示すなど、分かり易くすること。
リスク/ソーシャル・コミュニケーションについて、先進的な他社事例を参考にするとともに、社外専門家の知見を適宜活用すること。
福島第一の廃炉作業の円滑な推進にあたっては、技術力のたゆまぬ向上に努めるとともに、立地地域や国と連係・対話しつつ、全体的なリスクの最小化を図ること。
これまで柏崎刈羽において実施した防災訓練で明らかとなった問題点を踏まえ、今後は経営層の意思決定事項や対外対応時の本店の役割分担を明確化させた上で、外部(官邸・規制庁・自治体・警察・自衛隊等)との共同訓練の実施に向けた取組みを具体化すること。
東京電力は、引き続き改革の項目ごとに目標管理しつつ、進捗・実施状況を適宜、当委員会に報告すること。

 当委員会は、今後も東京電力の改革プランの取組状況を定期的にチェックし、その結果を公表することとしたい。

以 上
http://www.nrmc.jp/report/detail/1229306_4971.html

後半の提言部分が、クラインの発言と対応しているといえよう。しかし、この提言のほうが、より厳しく東電の問題点を指摘しているといえる。「福島第一の廃炉作業の円滑な推進にあたっては、技術力のたゆまぬ向上に努めるとともに、立地地域や国と連係・対話しつつ、全体的なリスクの最小化を図ること」とあるが、このことからいえば、東電は技術力のたゆまぬ向上に努めておらず、全体的なリスクの最小化もはかっていないことになる。また、「これまで柏崎刈羽において実施した防災訓練で明らかとなった問題点を踏まえ、今後は経営層の意思決定事項や対外対応時の本店の役割分担を明確化させた上で、外部(官邸・規制庁・自治体・警察・自衛隊等)との共同訓練の実施に向けた取組みを具体化すること」とあるが、逆にいえば、訓練ですら経営層の意思決定も外部との連携もできていないということになる。

総じて言えば、汚染水漏洩問題を中心にして、その公表の遅れについては明示的に批判しつつ、一部で包括的な計画がなくその場しのぎの対応をしていると言及し、「提言」という形で東電の対応全体を婉曲に批判しているといえよう。なお、AFPの記事とはニュアンスが違うように見受けられるところもあるが、この動画自体が編集されており、記者とのやり取りの部分などがないので、あるいはそこで、より明示的に姿勢が表明されたのかもしれない。

ジャッジは「原子力発電事業者として東電が再生の道をたどりつつあることを個人的にも私は日本の内外の方々にいろいろとこれまでもお話して参りました」と述べており、東電の原子力発電事業者との再生を望んでいることをあきらかにしている。そして、この記者会見では柏崎刈谷原発の再稼働についても言及されている。クラインもジャッジも海外の「原子力ムラ」の代表であって、原発推進を心から望んでいる。そのために、東電の原子力改革監視委員に就任したのだ。しかし、彼らからしても、福島第一原発に対する現在の東電の対応については批判すべきものであった。つまり、福島第一原発への東電の対応は、原子力推進の立場からみても、世界水準に達していないのである。このような状態で、よく原発プラントの海外輸出をはかれると思うのである。

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