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さて、尖閣諸島問題について、9月19日、訪中したアメリカのバネッタ国防長官に対し、中国で次期最高指導者と目される習近平国家副主席が尖閣諸島の領有の正当性を次のように語ったと朝日新聞は9月20日に報道した。

習近平氏「尖閣国有化は茶番」 日本政府を批判

 中国の習近平(シーチンピン)・国家副主席は19日、訪中した米国のパネッタ国防長官と会談し、「日本軍国主義は米国を含むアジア太平洋国家に大きな傷を与えた」としたうえで、日本政府の尖閣諸島国有化について「日本の一部政治勢力は(歴史を)反省せず、茶番を演出した」と批判した。次の最高指導者就任が確実視される習氏の尖閣国有化に対する発言が明らかになるのは初めて。新華社通信が伝えた。「米国が言動を慎み、釣魚島を巡る主権争いに介入しないことを望む」と牽制(けんせい)した。(北京)
http://www.asahi.com/international/update/0920/TKY201209190924.html

ここで、朝日新聞は新華社通信を典拠としている。それでは、新華社はどのように伝えているか。新華社通信のネットである新華網日本語版より、当該記事の部分を引用しておこう。

また、習副主席は釣魚島問題における中国の厳正な立場を次のように述べた。日本国内のある政治勢力は、隣国やアジア太平洋諸国に与えた戦争の苦しみを深く反省するどころか、さらに間違いを重ね、『島購入』という茶番劇をして、『カイロ宣言』と『ポツダム宣言』の国際法としての効力を公然と疑問視し、隣国との領土紛争を激化させた。日本は中国の主権と領土保全を損害するすべての言動をやめるべきだ。米国が、地域の平和と安定の大局に着目し、慎重な言動を取ると共に、釣魚島の主権紛争に関わらず、情勢を複雑化させるようないかなることも介入しないよう希望する。
http://jp.xinhuanet.com/2012-09/20/c_131861842.htm

両者を見比べてみよう。もちろん、表現には違いがある。また、朝日新聞が短縮して伝えている部分もある。ただ、大きな違いとしては、新華社報道において習近平が領有の根拠としたカイロ宣言とポツダム宣言に、朝日新聞はふれていないということである。なお、ここでは朝日新聞をあげているが、読売新聞・毎日新聞・産經新聞など、多くの日本の新聞もカイロ宣言とポツダム宣言にはふれていない。

まず、ここで、カイロ宣言について紹介しておこう。1943年11月22日、日本やナチスドイツなどの枢軸諸国に抗していた米英中三国の首脳であるルーズベルト・チャーチル・蒋介石がカイロにて会談し、これら連合国の対日方針などを決めた宣言を発した。それがカイロ宣言である。公文書は残されていないが、新聞発表などでは、次のようなものであった。

「ローズヴェルト」大統領、蒋介石大元帥及「チャーチル」総理大臣ハ、各自ノ軍事及外交顧問ト共ニ北「アフリカ」ニ於テ会議ヲ終了シ左ノ一般的声明ヲ発セラレタリ

各軍事使節ハ日本国ニ対スル将来ノ軍事行動ヲ協定セリ
三大同盟国ハ海路陸路及空路ニ依リ其ノ野蛮ナル敵国ニ対シ仮借ナキ弾圧ヲ加フルノ決意ヲ表明セリ右弾圧ハ既ニ増大シツツアリ
三大同盟国ハ日本国ノ侵略ヲ制止シ且之ヲ罰スル為今次ノ戦争ヲ為シツツアルモノナリ右同盟国ハ自国ノ為ニ何等ノ利得ヲモ欲求スルモノニ非ス又領土拡張ノ何等ノ念ヲモ有スルモノニ非ス
右同盟国ノ目的ハ日本国ヨリ千九百十四年ノ第一次世界戦争ノ開始以後ニ於テ日本国カ奪取シ又ハ占領シタル太平洋ニ於ケル一切ノ島嶼ヲ剥奪スルコト並ニ満洲、台湾及澎湖島ノ如キ日本国カ清国人ヨリ盗取シタル一切ノ地域ヲ中華民国ニ返還スルコトニ在リ
日本国ハ又暴力及貧慾ニ依リ日本国ノ略取シタル他ノ一切ノ地域ヨリ駆逐セラルヘシ

前記三大国ハ朝鮮ノ人民ノ奴隷状態ニ留意シ軈テ朝鮮ヲ自由且独立ノモノタラシムルノ決意ヲ有ス
右ノ目的ヲ以テ右三同盟国ハ同盟諸国中日本国ト交戦中ナル諸国ト協調シ日本国ノ無条件降伏ヲ齎スニ必要ナル重大且長期ノ行動ヲ続行スヘシ
http://www.ndl.go.jp/constitution/shiryo/01/002_46/002_46tx.html

これは、米英中三国が日本の無条件降伏を対日方針として決めたもので、この方針は、1945年のポツダム宣言に継承される。このカイロ宣言において、日本が旧ドイツ領で第一次世界大戦以後統治していた太平洋諸島を放棄させ、日本の植民地であった朝鮮を独立させることとならんで、「満洲、台湾及澎湖島ノ如キ日本国カ清国人ヨリ盗取シタル一切ノ地域」を中国に返還させることを定められた。ここで「満州、台湾及澎湖島の如き」といっていることに注目していきたい。以前、本ブログで、下関講和条約で明示的に割譲させられた台湾・澎湖諸島だけでなく、尖閣諸島も日清戦争で日本が獲得した領土として中国がみているということを指摘した。中国としては、このカイロ宣言の規定を、広い意味で日本に割譲させられた領土として位置づけているのだと思われる。

このカイロ宣言は、そもそも合意された文書自体が存在せず、署名もないので、公文書としての効力を疑う意見もある。ただ、前述したように、日本の無条件降伏を定めたポツダム宣言(1945年7月26日)にこの方針は継承された。ポツダム宣言には次の条項がある。

八、「カイロ」宣言ノ条項ハ履行セラルヘク又日本国ノ主権ハ本州、北海道、九州及四国並ニ吾等ノ決定スル諸小島ニ局限セラルヘシ
http://www.ndl.go.jp/constitution/etc/j06.html

いうなれば、ポツダム宣言はカイロ宣言を追認したものとみることができる。ここで、習近平が、アメリカのバネッタ国防長官にカイロ宣言・ポツダム宣言を典拠にして尖閣諸島の領有の根拠としているのは、第二次世界大戦における対ファシズム戦線としての連合国の一員としての記憶を呼び起こさせようとしているのだといえる。

ただ、結果的にいえば、1951年のサンフランシスコ講和条約では、次のように決まった。

第二条

 (a) 日本国は、朝鮮の独立を承認して、済州島、巨文島及び欝陵島を含む朝鮮に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄する。

 (b) 日本国は、台湾及び澎湖諸島に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄する。

 (c) 日本国は、千島列島並びに日本国が千九百五年九月五日のポーツマス条約の結果として主権を獲得した樺太の一部及びこれに近接する諸島に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄する。

 (d) 日本国は、国際連盟の委任統治制度に関連するすべての権利、権原及び請求権を放棄し、且つ、以前に日本国の委任統治の下にあつた太平洋の諸島に信託統治制度を及ぼす千九百四十七年四月二日の国際連合安全保障理事会の行動を受諾する。

 (e) 日本国は、日本国民の活動に由来するか又は他に由来するかを問わず、南極地域のいずれの部分に対する権利若しくは権原又はいずれの部分に関する利益についても、すべての請求権を放棄する。

 (f) 日本国は、新南群島及び西沙群島に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄する。

   第三条

 日本国は、北緯二十九度以南の南西諸島(琉球諸島及び大東諸島を含む。)孀婦岩の南の南方諸島(小笠原群島、西之島及び火山列島を含む。)並びに沖の鳥島及び南鳥島を合衆国を唯一の施政権者とする信託統治制度の下におくこととする国際連合に対する合衆国のいかなる提案にも同意する。このような提案が行われ且つ可決されるまで、合衆国は、領水を含むこれらの諸島の領域及び住民に対して、行政、立法及び司法上の権力の全部及び一部を行使する権利を有するものとする。
http://www.ioc.u-tokyo.ac.jp/~worldjpn/documents/texts/docs/19510908.T1J.html

基本的には、カイロ宣言にそった形で国境線が定められたといえる。ただ、この講和条約において、「台湾及び澎湖諸島」という限定された形で国境線がひかれ、沖縄については、小笠原諸島とともに、アメリカの信託統治のもとにおかれることになったことに注目しておきたい。沖縄には尖閣諸島も含められるとされ、1972年の沖縄復帰とともに日本政府が実効支配するもととなった。

この講和条約を交渉した講和会議には、当時の中華人民共和国も参加していない。また、台湾の中華民国も参加していない。講和条約について、日本国内では、米英などの資本主義諸国中心に講和条約を結ぶという単独講和論と、ソ連や中華人民共和国とも結ぶべきである全面講和論が対立していた。いわば、その当時の単独講和論の問題点が現在に引き継がれたかっこうになっている。当時、中華人民共和国も中華民国もどのような見解をもっていたかということを表明される機会もなく、いわば中国の合意ぬきで講和条約は結ばれ、国境線が確定されていったのである。そして、中華人民共和国によれば、沖縄の日本復帰が日米で合意された1971年に日本に対して尖閣諸島の帰属について異議申し立てをしたということになるといえる。そして、これは、アメリカ中心で再編成された東アジアの政治秩序への異議申し立てにもなっているといえる。

このように、習近平がバネッタ国防長官に「カイロ宣言」と「ポツダム宣言」を出して尖閣諸島の問題を語っていることを説明することができる。ここで表明されていることは、単に尖閣諸島の帰属の問題というだけでなく、日清戦争、アジア侵略、ファシズム陣営への参加、第二次世界大戦、無条件降伏、サンフランシスコ講和条約、沖縄復帰という、日本の近現代史総体を含めた「歴史問題」が、ここで問われているということなのである。

帰属の根拠については、私自身としては中心的に問題にはしないつもりである。中国はさまざまな国境紛争をかかえていることは事実である。日本もまた、竹島/独島や北方領土などの国境紛争を有している。そこには、さまざまな根拠がある。ただ、概していえば、前近代国家の領域概念と近代の国民国家の領域概念の違いがそれらの背景にあるといえる。そして、それらを解決するのはよくも悪くも「政治」ということになるだろう。

ただ、尖閣諸島ー竹島/独島にも共通していえるのだがー問題の背後にある「歴史問題」の深みということを理解しなければならないということである。その意味で、朝日新聞その他の日本の新聞が、習近平が「カイロ宣言」や「ポツダム宣言」を根拠にしていること自体を報道しなかったことは、問題性を少なからずはらんでいると思う。彼らからすれば、「カイロ宣言」や「ポツダム宣言」は、歴史の遠い物語かもしれない。しかし、現在の戦後世界は、多かれ少なかれ、「カイロ宣言」「ポツダム宣言」の枠組みで動いている。最早、そのことへの想像力が働かせることができず、現状の尖閣諸島が日本に領有するという「国益」にそぐわないと判断して報道をさけているといえる。

そのことがどのような結果をもたらすのか。例えば、韓国の朝鮮日報は、9月20日にこのように報道している。ほとんど、新華社通信のままだといえるだろう。

習副主席は「日本のこうした行動は、カイロ宣言やポツダム宣言の国際法的効力に公然と疑問を投げ掛けるもので、第2次世界大戦以降に樹立された戦後秩序に対する挑戦。国際社会は、反ファシズム戦争勝利の成果を否定しようとするこうした日本の企てを決して容認しないだろう」とし、さらに「日本は中国の領土主権を害する時代錯誤的言動を直ちに中断しなければならない」と強調した。
http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2012/09/20/2012092000611.html

そして、韓国は「歴史問題」での中国に接近ということになった。このことを産經新聞が9月25日に報道している。

中韓が対日圧力でタッグ 領土に歴史問題絡め協調 外相会談
2012.9.25 11:39 (1/2ページ)[韓国]
 【ニューヨーク=黒沢潤】国連総会に出席するため訪米中の中国の楊潔●(=簾の广を厂に、兼を虎に)外相と、韓国の金星煥外交通商相は24日、ニューヨークで会談した。韓国の聯合ニュースなどによると、金外交通商相は会談後、「国連の場で正しい歴史を広めていく必要性で一致した」と語り、歴史問題とからめて領土問題で日本に共同で圧力をかける意向を示した。

 中国はこれまで、沖縄県・尖閣諸島の領有権について、歴史的な正当性を国際社会に訴えていく姿勢を示していた。楊外相は同日の会談で、「関係国が正しい歴史認識を持っていなければ、北東アジアの秩序は挑戦を受ける」と述べるなど、名指しこそ避けながらも日本を批判したという。

 韓国も、日本と竹島の領有権、慰安婦問題をめぐって対立しており、国連の場で共闘することで、双方の立場を強固にしようという狙いがあるとみられる。

 野田佳彦首相が26日、国連総会の一般討論演説で領土問題に言及するのに続き、楊外相は27日に尖閣諸島問題、金外交通商相も28日に竹島、慰安婦問題に言及する見通しだ。中韓両国とも野田首相の演説次第では強硬な姿勢を打ち出し、日本との対立が一段と悪化する恐れもある。
http://sankei.jp.msn.com/world/news/120925/chn12092511390008-n1.htm

ある意味で、過度に歴史問題を意識しないということも必要ではある。しかし、現在の朝日新聞などの論調は、いわば「歴史問題」を欠落させた報道を行い、それを強く意識している人びとがアジアにはいるということを報じない。そのことは、日本の官民の対応を、よりアジアの人びとの神経を配慮しないものにおいやっているといえるのだと思う。それは、より事態を悪化させていくことになっていくのである。その意味で、今回の朝日新聞などの責任は大きいのである。

ただ、このような、アジア侵略などについての「歴史問題」の欠落は、朝日新聞などのマスコミだけには限られないことも忘れてはならない。

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